魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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はい、第四十話中編2をお送り致します。反逆編も、これを含めて五話! ……こう書くと長いですが、お付き合い下さい。では、どぞー。


第四十話「過去からの刃」(中編2)

 

 ストラ次元航行艦『シュバイン』外壁部。そこには今、盛大に炎の壁が立ち上がっていた。

 かなりの大きさであり、相応の熱量を有している。本来真空間である宇宙でこんな炎が発生する訳が無いのだが、この炎壁は容赦無く燃え続けていた。

 魔法の炎である。魔法とは、意思を具現化し、世界の法則を書き換える方法に他ならない。つまり、真空間だろうと術者が『燃えろ』と念じれば、燃え続けるのだ。

 当然、相当の力量が無ければ出来ない芸当ではあるが。

 そんな事はさておき、第77武装隊・隊長である彼にとって、今も燃え盛る炎壁は厄介な存在であった。炎壁の向こう側の部隊と寸断されてしまったのである。当然、炎壁の上から合流しようとは試みたものの、下手に頭を出せば(不用意に、上空にあがる事をこの場合は指す)、容赦無く砲撃と射撃が降り注ぐのである。

 そう、今は戦闘の真っ最中であった。

 管理局次元航行艦『アースラ』の部隊との。最初は嘱託魔導師である少年ただ一人と戦っていた。

 恐ろしく腕が立つ少年ではあったが、所詮は多勢に無勢。徐々に追い詰め、後一歩の所で撃破出来た筈であった。しかし、それは叶わなかった。少年側に、援軍が現れたのだ――怪我人だらけの。

 最初の方こそ、余裕を持って片付けられるとタカを括っていたのだが、向こうの援軍が到着して一分足らずで、その展望はあっさり砕けた。

 鮮やかな連携で二騎を撃破されたのである。さらに、続いて三騎を墜とされ、止めとばかりに炎壁を形成されると同時に一騎墜とされた。

 彼にとって悪夢に等しい現象が目の前で成されたのである。もはや疑うまでも無い、彼達は明らかにSランクオーバーの者達であった。

 個別に戦っては結果も見え見えである。せめて合流し、どうにかこの場を突破して離脱しようとしたのだが、合流の段階で阻止されてしまった。

 悪夢に続く悪夢としか言いようが無い。

 そして今、進退窮まった彼達に襲い掛かる者達が居た。先程の少年と、援軍に来た男達である。少年以外怪我をしているが、騙されてはならない。

 先程、その怪我人に戦闘開始から三分程度でこちらの戦力が半数も墜とされたのだ。本当に怪我人かどうかも疑わしい。

 

《た、隊長!》

《っ……!》

 

 念話で叫んで来る部下に、彼は漸く我を取り戻す。今は、どうにかこの三人を退けなければならない。

 そして、離脱しなければ。彼は勝ち目の無い勝負はしない主義である。逃げたモン勝ちであった。

 故に部下にまず特攻させ、時間を稼がせようとして。

 

《吠えろ……! フツノォォ……!》

【承知】

 

 声が聞こえた。念話による声である。見れば最後尾の青年、随分体格の良い青年が左手一本で身の丈程もある巨大な剣を振りかぶっていた。

 同時、剣の合わせ目がスライド。激しくぶつかり合う!

 

【エクスプロージョン。3rd、フォーム】

 

 −マキシマム・インパクト−

 

 −天に輝くは二つの凶星−

 

《片手しか使えねぇんだ……! 手加減してやれねぇから、せいぜい生き残れ!》

 

 恐ろしく目茶苦茶な事を青年は叫ぶ。同時、その手に握る大剣に異変が起きた。

 消えたのである。刃先が、刀身ごと。青年が握るのは、ただ柄と鍔のみとなった。

 ……否、異変はそこで終わらなかった。刃先が消えた場所から少し離れた所、その部分が変化していたのだ。

 空間がそこだけ裂けていた。まるで剣が貫かれたように。空間の裂け目は、宇宙の闇を無視するかのように、青白い闇が居座っていた。

 

 ……あれは、何だ?

 

 そう、77部隊の者が思う前に答えは来た。青年、出雲ハヤトの叫びを持って、吠える! その剣の名を!

 

《布都御魂……! 覚えておけ! 其は魂を斬る剣、”万物をぶった斬る剣”の名だ!》

【我が名にかけ、主の望む全てを断ち斬らん】

 

 フツノの真なる名を叫び、ハヤトが真っ向からフツノを振り下ろす! 同時に、裂け目が縦に広がる。つまりは、敵対者たる自分達の所へ!

 

《次元一刀……!》

《ひっ!?》

 

 部下の悲鳴が聞こえたが、隊長である彼は構わなかった。振り落ちる裂け目から必死にDAを操作し、身を逸らす。部下二人は、迫り来る一撃に臆しでもしたか固まっていた。そんな二人に断斬が迫り――。

 

《真っ向! 唐竹割いィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ――――――――っ!》

 

    −断!−

 

    −撃!−

 

    −閃!−

 

 にやりと笑い、ハヤトは叫びながら断斬を完全に落とした。空間、いや”次元断斬”は、その進行方向にある全てを裂け目として斬り裂く。結果、”敵騎から上手く逸らした”断斬は逃げた隊長である彼と、その部下を完全に分かった。

 

 何故――!?

 

 そう思うが、それより早く、彼に飛来する影があった。先程戦った銀の髪の少年、神庭シオンである。

 次元断斬を回避する際に同じ方向を選んだのだろう。こちらへと突っ込みながら、真っ直ぐに手にする大剣、イクスを容赦無く振り落とす!

 

    −撃!−

 

 勢いを乗せた斬撃。隊長は、その一撃を辛くもアサルトライフルを横にして受けた。当然、あっさりと曲がる。

 斬られ無かっただけマシだろうが、どちらにせよ、もうこれは使い物にならない。

 

《ハヤト先輩、ナイスアシスト!》

《二度はやんねぇからな》

 

 アサルトライフルを半ばまで断ちながら、鍔ぜり合うシオンは、振り向かないままに褒め、ハヤトは面倒臭そうに欠伸をかく。

 そのやり取りに、隊長は確信した。同時に慄然とする。

 

 ……こいつ達……! 最初からこの状況狙ってやがったのか……!

 

《手前ぇには、散々突進やら何やら喰されまくったからなァ……借りは万倍にして返すぜ!》

《ぐ、ぬ……!》

 

 不敵に笑うシオンに、隊長は呻き、部下に援護しろと呼びかけんとして。

 ……部下が、そんな真似を出来る状況じゃ無いと気付いた。

 

  −弾!・弾!−

 

 ハヤトの一撃に萎縮してしまった二騎に放たれる弾丸。一発ずつ撃ち込まれたそれは、アサルトライフルに叩き込まれ、その威力を発揮する!

 結果、あっさりとアサルトライフルは鉄屑へと姿を変えた。弾丸が叩き込まれると同時に、まるで抉り取るようにアサルトライフルをひしゃげさせてしまったのだ。

 これに、二騎は目を丸くする。手持ち火器をいきなり破壊されたのだ。誰でも驚くだろう。

 それを成し遂げた男は、ハヤトの横で右手に持つ大型の銃――正確にはデバイスであるガバメントを差し向けていた。

 小此木コルト。大のヘビー・スモーカーであり、異端の射撃格闘者が。冷たい眼差しで二騎を見据えて。

 

《……Jack、Spot》

 

    −弾!−

 

 ぽつり、と告げられた念話と共にガバメントとから二発銃弾が吐き出される。それは、未だにうろたえる敵騎に真っ直ぐに飛翔。その顔面に叩き込まれた。

 敵魔導師が着ているDAは、全身甲冑(フルプレート)タイプの物である。故に、顔面部もマスクがある訳だが、その部分をコルトは狙い撃ったのだ。マスク部分はひび割れている。あれでは、ろくに目も見えまい。

 

《さーて。後は、潰すだけだ》

《……外道だなぁ》

 

    −弾!−

 

 ぽそりとつぶやくハヤトの足元に問答無用とばかりにコルトは銃弾をぶっ放す。慌てたのは、ハヤトであった。下手をすれば足を撃ち抜かれている。

 

《何すんだアンタ!》

《やっかましい! こちとら身体中骨折と皹(ひび)だらけの上、内臓まで痛めてんだ! まともに戦ってられるか!》

 

 ちなみにこれはコルトだけで無く、グノーシス・メンバー全員とシグナム、ヴィータ、共に共通する状態だったりする。ぶっちゃけ、立っていられるだけで相当なものなのであった。

 

《あー、いらいらする。ヤニ吸いてぇ……》

《アンタも大概な……》

 

 苛立ちを隠そうとしないコルトに、ハヤトは口を引き攣らせる。コルトはそれすら構わずに、ガバメントを構える。ハヤトもフツノを担いだ。

 

《俺ぁ、右だ》

《なら俺は左な》

 

 頷き合う。そして間髪入れずに視界を奪われ、あたふたとする敵騎に踊り掛かった。互いの得物を携えて、一気に突っ込む。

 

《ガバメント、断罪LEVEL2で固定》

【ラジャー】

《フツノ、2nd。行けるな》

【承知】

 

 互いに相棒に指示を下し、それぞれの相手を間合いに入れる!

 無論、視界に頼らない状況にそもそも置かれた事が無い敵騎にこれがどうにか出来る筈も無い。

 手持ち火器も失い、目も見えない彼達にコルトとハヤトは容赦無く、己のデバイスを振りかざした。

 

《インパクト・ファング》

《断、星、剣!》

 

    −撃!−

 

    −裂!−

 

 零距離からの銃打撃が、暴れる敵騎の土手っ腹に叩き込まれ、その威力を余す事無く発揮。敵騎を一撃の元に昏倒させ。

 選択斬撃がDAのみを断ち斬り、返す刀でぶん殴り、気絶させた。

 そして、二人はあっさりと勝利した事に大した感慨も見せずにシオンに向き直る。

 シオンは、鍔ぜり合っていたアサルトライフルを両断し、一目散に逃げた隊長騎を追い回している真っ最中であった。

 

《何やってんだ、アイツ……》

《知るか、クソッ。かったりぃ。ヤニ吸いてぇ――》

《本当、そればっかなアンタ》

 

 敵騎をあっさりと片付けたグノーシス第三位の男二人は、虚空に浮かびながら、シオンと隣にある炎壁の向こう側の決着をのんびりと待つ事にした。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 コルト達が、ほぼワン・アプローチで敵騎を叩き落とし、傍観モードに入ってる頃。隣の炎壁の向こう側では、残りの三騎の敵騎と、シグナム、ヴィータ、そして一条悠一が交戦していた。

 DAを着込んだ敵騎が虚空を踊るように動き回りながらアサルトライフルをフルオートで連射する。

 それをシグナム、ヴィータがかい潜りながら接近を試みるが、弾幕がそれを中々許さなかった。

 傍目には一進一退の状況が繰り広げられている事になる――そう、”傍目”には。

 

 ……さて、そろそろですか。

 

 そうズレた眼鏡を直しながら黒髪の少年、一条悠一は思う。悠一は、シグナム、ヴィータの遥か後方で待機していた。

 元々、悠一は近接型だった事もあり近接戦闘は苦手では無い。だが今、それは出来なかった。

 理由は左手である。左手の指が三本、ギプスで固定されていた。骨折して、使い物にならないのだ。

 そして大型の斬撃武器である鎌型のデバイス、月詠を操る悠一にとって、この怪我で月詠を振るう事は明らかに致命的であった。

 故に、シグナムとヴィータに任せたのだ。前線に出て貰う事を。

 悠一はひたすらに待つ、敵騎が射撃で仕留められ無い事に焦れ、”例の”魔法を使う事を。

 悠一が見てる先では、アサルトライフルから吐き出される弾丸群を、シグナムとヴィータの二人が回避し、あるいは己のデバイスで弾き返している所だった。

 先の相談で、二人にこの役に徹するように話しをしたのである。”確実に”敵騎を撃破する為に必要だからと。二人は案外あっさりと承諾してくれた。

 元よりこちらは怪我人である。一撃必殺(ワンアプローチ)が出来ないのであれば、即座に地金を晒し、敗退してしまうのは明々白々であった。

 ならば、一撃必殺を可能な状況に持っていく。その状況作りが肝要であった。

 グノーシス・メンバーの殆どは、そんな複雑な事を考えてるとは悠一も思わないが。

 そして、銃弾を躱し続ける二人に業を煮やしたか、三騎はアサルトライフルを連射しながら前に出る。肩の突起部分が前へと倒れ、蒼のフィールドを三騎共纏い始める。

 ブレイク・チャージ。推定威力、AAA+相当の突撃魔法である。その特性は、シオンが使う剣魔とよく似ており、攻防一体を可能とする魔法であった。

 それを持って、シグナムとヴィータに一気に駆け出す。

 弾丸を回避し続けていた二人は、向かい来る三騎を真っ向から見据えた。このままでは、ブレイク・チャージの一撃を正面から叩き込まれる事になるだろう。そう、このままならば。

 

 かかりましたね!

 

《この世界に満ちる、”三百万”の音素達! 次元空間故に空気は有らず、しかし起き行く雄叫びと戦場の重唱達よ! 届いていますか? 僕の声が!》

【レデイ?】

 

 今まで沈黙を守り続けていた悠一が、月詠を右手一本で振り上げ朗々と謡い上げる。それは、ここら一帯の空間に響き渡った。

 

《聞こえているのならば、僕と共に一つの演奏を鳴り響きかせなさい! 曲名は、鎮魂歌!》

【クラスタ(房・塊・群)の光に呑まれ、災いとなる力を鎮めよ】

 

 悠一の叫びと共に、今度は月詠が謡い始めた。それは、空間が謡う音と混ざり合い、複雑な音を作り上げる。重厚な、そして哀し気な音を。

 悠一と月詠が謡う二種の音素が平行して謡を鳴り響かせる。それは、悠一が編み出したフォニム式魔法の第二段階であった。

 平行して謡う二種の音素を組み合わせ、重厚な謡とする事で莫大な威力を叩き出す魔法。それは、通常の音素式魔法の二乗、三乗の効果を叩き出す!

 その技法を悠一はこう、名付けている。

 併唱演奏(オブリガーズ)、と。

 消耗が激し過ぎる為に、滅多には使わないのだが、今回はただ一発のみ使えればよいだけである。消耗の事は、この際忘れる事にした。

 そして、曲が完成する。その曲の名は。

 

《煌きの鎮魂歌》

【シャインズ・レクイエム】

 

 悠一と月詠が同時に、その謡の名を呟く。直後、光が悠一を中心にして広がった。

 まるで波のように広がるそれは、一瞬にしてまず近いシグナムとヴィータを飲み込む。当然、それでは終わらず、光の波は二人に突撃していた三騎にまで到達した。

 慌てたのは敵騎である。どう考えても広範囲に効果が及ぶ魔法だ。まさか仲間を巻き込むとも思わなかったが、それを平然とやってのけられたのである。

 どのような攻撃かは不明だが、喰らえばタダでは済むまい。いっそブレイク・チャージの防御力に賭けて突っ込むかを迷ってる内に、光の波は三騎を飲み込む――と、”あっさりと通り過ぎた”。

 

 …………?

 

 来たるべき衝撃も、何も来ない事に三騎は訝しむ。威力が無いとかそう言った問題では無い。そもそも当たった感覚すら無かったのだから。

 

 もしや不発?

 

 そう、思った直後。

 

【【エクスプロージョン!】】

 

 重なる機械的な声を聞いた。見ると前方、シグナムとヴィータがカートリッジロードを行い、己のデバイスを変形させている所だった。

 レヴァンティンはシュランゲフォルム、連結刃形態に変化させ、その刃には紫の魔力が走る。

 グラーフアイゼンはギガントフォルム、巨大なハンマー形態へと変化し、その前には巨大な鉄球が浮かんでいた。

 

《飛竜……》

【コメット・フリーゲン!】

 

 シグナムはぽそりと呟きながら、レヴァンティンの柄を振るい、同時に連結刃が踊る。ヴィータは巨鎚を振るい、巨球に目掛けて身体ごと振り放つ。

 その目は二人共、敵騎を真っ直ぐに見据えていた。

 

《一、閃!》

《でぇい!》

 

    −轟!−

 

    −破!−

 

 二人が同時に叫ぶと共に、連結刃が真っ直ぐに疾り、巨球が打ち出され飛翔する! それを見た三騎達は放たれた瞬間こそ驚いたが、すぐに持ち直した。

 彼達はブレイク・チャージを発動している。あの程度の攻撃ならば、耐えられる――そう、”ブレイク・チャージが発動している状態ならば”。

 

    −撃!−

 

 飛来する刃と、巨球が、それらを弾けるとタカを括っていた左右端の”無防備な”敵騎にそれぞれ叩き込まれる。

 左右の二騎は何が起こったのかも分からずに、一撃でDAを破壊され、あまつさえ吹き飛ばされた。それにただ一人残された敵騎が呆然と立ち竦む。

 DAがある為、表情こそ分からないが、何故? と混乱しているのが傍目からも分かった。

 それを遠目に悠一がくすりと笑う。上手く行った、と。

 煌きの鎮魂歌。音素式魔法の”魔法無効化、あるいは減少魔法”の名前である。

 これは、空間に音を響かせる――即ち振動させる魔法特性を利用した魔法であり、特定魔法の魔素結合を緩ませ、あるいは解除する魔法である。AMFの拡大版と言えば分かりやすいだろう。

 本来なら、一度発生した魔法現象の完全解除は難しい。その為に使ったのが併唱演奏であった。

 シグナムとヴィータは先んじてこの魔法の仕様を聞いていた為、逃げるそぶりも見せずに煌きの鎮魂歌を受けたのである。

 後は、煌きの鎮魂歌の効果が消えると同時に無防備な敵騎を墜とすだけであった。

 

 さて……。

 

 未だ混乱する敵騎を見て悠一は微笑する。恐らく魔法が何故消えたのか分からない為であろう。煌きの鎮魂歌は、あの一瞬だけの効果だと言うのも、当然分かる筈も無い。そして、混乱して未だに無防備な敵騎をシグナムとヴィータが見逃す訳も無い。

 二人はそれぞれのデバイスを基本形態に戻し、一気に最後の敵騎に迫る。

 敵騎はそれに慌てふためいて魔法では無い質量兵器であるアサルトライフルを連射する。だが、たった一人で放たれたそれは、二人に掠りすらせず接近を許す。その時点で悠一は背中を向けた。結果などもう見えている。ならば最後まで見る必要も無い。

 

《紫電一閃っ!》

《ラケーテン・ハンマ――――!》

 

    −閃!−

 

    −撃!−

 

 二つの轟撃が敵騎へと放たれ、それにより激烈な音が鳴り響いたのを、空気を介してでは無く音素を介して悠一は聞きながら、艦壁に残った黒鋼刃に合流すべく飛んで行った。

 

 残りは後一騎。

 シオンが相手をする隊長騎だけであった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 シオンは隊長騎を追い回しながら、ちらりと背後を振り返る。そこには、かなり苛々してるのが分かるコルトがハヤトと共に居た。

 

 ……ヤバイ。アレは相当に”キテる”……!

 

 冗談抜きで下手したら後ろから撃たれかね無い事に背筋を震わせ、シオンは鬼ごっこを終わらせる為に瞬動を発動。隊長騎の前に出た。

 いきなり眼前に現れたシオンに、隊長騎がたたらを踏み、留まる。即座に方向転換しようとするが、シオンはそれを許さない。イクスを真っ向から振り下ろす!

 

    −撃!−

 

 隊長騎は、それを何とかDAに包まれた腕で受け止めた。シオンは不敵な笑いを浮かべ、隊長騎に念話を飛ばす。

 

《いい加減鬼ごっこは終わりにしようぜ。……俺も怖い教官がいるんでね。あんま時間掛けたく無いんだわ。……それに分かってんだろ? 逃げ場が無い事くらいよ》

《ぬ、うう……!》

 

 隊長騎の呻き声が念話を通じてシオンに伝わる。と、いきなり隊長騎のDAの肩部分が前方に倒れ、突き出た。

 

 これは……!

 

《ブレイク、チャ――――ジ!》

《と!》

 

    −轟!−

 

 イクスと鍔ぜり合った状態でいきなり放たれた突撃に、シオンは足場を形成して上へと逃げる。隊長騎はシオンが居た位置をブレイク・チャージで突き抜けた。

 そのまま逃げるつもりかと思ったが、何と隊長騎はそのまま反転。シオンに再度突っ込んで来た。

 方針転換か、それとも自棄にでもなったか。何れにせよ、シオンにとっては都合の良い話しであった。

 

《神覇弐ノ太刀、剣牙!》

 

    −閃−

 

 向かい来る隊長騎にシオンは試しに魔力斬撃を放ってみる。隊長騎は飛んで来る剣牙にそのまま飛び込み、あっさり蹴散らしてシオンに突っ込んだ。

 

《っとぉ!》

 

 マタドールになった気分でシオンは突撃を寸前で躱す。隊長騎はまたもや突っ切り、その場から遠ざかった。また反転して襲い掛かるのは明らかである。

 シオンはイクスへと目を落とした。

 

《……で、どうよ? お前に言われた通り剣牙かましてみたけど、あっさり弾かれたぞ?》

【ああ、これで大体あの魔法の正体が分かった】

 

 シオンの念話にイクスから答えが返る。先の剣牙は、イクスに頼まれたものであったのだ。

 シオンとしても剣魔と似た特性の魔法だった事に興味があったので、イクスの頼まれ事をあっさり飲んだのだが。

 

【攻性斥力場フィールドの応用による圧力場だな。あれを展開している間は向こうも内側から攻撃は出来んみたいだが、ぶつけられればこちらが一方的に衝撃を被る。……やはり剣魔と似た仕様の魔法だな】

《んで、対抗策は?》

 

 イクスの説明を聞きながら、シオンは隊長騎を見る。ちょうど反転している所である。イクスを正眼に構えた。

 

【一つは何もせん事だ。あんな魔法、長時間持たせられる筈が無い】

《却下。俺はコルト教官に殺されたくない》

 

 シオンは即座に却下する。ただでさえ、コルトの機嫌がどんどん悪くなっているのが分かるのだ。この上時間稼ぎなぞすれば、何をされるか分かったものでは無い。

 

【ならば、破る方針で行くか。……剣魔が適切だな】

《やっぱそうなるか》

 

 イクスの返答に、シオンは苦い顔となる。突撃と突撃がぶつかり合った場合、より威力が高い方が勝つのが常識だ。

 ブレイク・チャージの推定威力はAAA+、と言った所か。ノーマルフォームの剣魔はS相当の威力がある。どちらが勝つか、自明の理であった――だが。

 

 ……面白く無い。

 

 シオンの感想は、その一点だった。散々煮え湯を飲まされた相手と言うのもあるが、通じる攻撃手段が剣魔しか無いと言うのが、非常に気に喰わない。

 

 あれ、正面から斬れないか?

 

 シオンはそう思い、向かって来る隊長騎を見る。時間は無い。剣魔を使うべき状況なのは分かっている。だが……。

 

《悪い、イクス》

【は? て、お前何を……!】

 

 イクスが最後まで言う前に、シオンは動く。突撃して来る隊長騎に真っ直ぐ突っ込み、イクスを”振りかぶった”。剣魔の構えでは無い。

 

【待てシオン! 何をする気だ!?】

 

 イクスが念話で叫ぶが、シオンには聞こえてはいない。シオンはただ隊長騎を見据え、駆ける!

 

 ……真芯だ――そこに、斬筋を通す!

 

 まるで世界が止まっているかのような感覚をシオンは覚えながら思う。イクスを握る手に力を込めた。

 

 ――インパクトの最大作用点を見極めろ。

 

 忘我の境で、シオンはヒュッと鋭い呼気を吐く。ブレイク・チャージで迫る隊長騎はもはや眼前、回避も防御も、もう間に合わない。その中でシオンは足場を展開し、深く踏み込む!

 

《神覇、壱ノ太刀――》

 

 引き出すは、己が最も信用する技。眼前に迫り来る隊長騎に吠え、シオンは一気にイクスを振り下ろす!

 

《絶、影!》

 

 叫びと共に放たれたイクスが真っ正面。蒼の攻性斥力場フィールドたるブレイク・チャージとぶつかる――。

 

 叩き斬る!

 

 無言の叫びをシオンは放ち、そして。

 

    −斬!−

 

    −裂!−

 

 シオンと隊長騎はすれ違い、停止した。シオンはイクスを振り下ろした格好で。隊長騎は、前へと突き進みながら。

 まるで交差した事すら、無かったかのようにシオンと隊長騎は固まる。

 否、一つだけ違う点があった。隊長騎のフィールドが消えていたのだ。

 シオンは残心した状態からスクッと足場に立つ。イクスを肩に担いだ。呟く、己の。

 

《とった》

 

 勝利を。

 次の瞬間、隊長騎のDAが縦に割れ、そこからひび割れが全身に広がる。やがて、DAは木っ端微塵に砕けた。

 後に残ったのは気絶した第77武装隊、隊長だけであった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

《ふぅい〜〜》

 

 気絶した隊長騎に、シオンは安堵の吐息を漏らす。ぶっつけで絶影で勝負してみたが、案外上手く行った。

 やれば出来るモンだなぁと、シオンは一人ごち。

 

【お、まえはいつもいつもいつもいつも……!】

 

 ……何やら怒っていらっしゃる己のデバイス兼師匠の声を聞いた。聞こえ無いフリをしようとも思ったが、そうも行かずにイクスに視線を落とす。

 

《えーと、イクス怒ってたり?》

【当たり前だアホ弟子! 黄龍煌麟の時もそうだったが、貴様はぶっつけ本番しか出来んのか!?】

 

 恐々と尋ねるシオンに盛大に雷が落ちた。うぉっとのけ反るシオンに、イクスは間髪入れずに説教モードに突入する。まぁ、確かになのはが居れば”お話”されたような事をやらかした訳だから、イクスの説教なだけマシである。

 ……砲撃も飛んで来ない事だし、拘束魔法で逆さにされる事も無いし。

 そう思い、つくづくなのはのお話は異常だったんだなぁと、シオンは思いを馳せた。

 

【聞いているのか、シオン!?】

《っと、聞いてる聞いてる……けど、今は作戦中だし、な? コルト教官とハヤト先輩に合流しなきゃだし、説教はまた後でって事で……》

【ぬ、う……!】

 

 シオンの念話に、イクスが悔し気な声を漏らす。よし、これで上手く話しを反らせたと。シオンはホッと安堵。そして、コルト、ハヤトに合流しようとして。

 

《いやぁ、それは無理じゃないかな?》

 

 ――声が、聞こえた。

 どこかで聞いた事のあるような声が。

 

 敵が残ってやがったか……!?

 

 シオンは、全く気配を感じさせずに後ろに立たれた事に怖気を感じながら、背後に振り向く。イクスを放とうとして――そのまま、固まった。

 声を失い、目を見開いて絶句する。

 そこには、一人の少年が居た。十二歳くらいの少年であろうか、細身と言うよりは華奢な体格の少年である。

 その身体を黒のボディスーツのような物で包んでいた。シオンはそれに見覚えがある。グノーシスの戦闘用バリア・ジャケットの一形態である。動き易さに定評のある一品であった――だが、そんなモノはどうでもいい。

 シオンを驚かせたのは、少年の顔であった。

 少年の顔は、中性的を超え傍目からは少女のようにしか見えない顔立ちをしていた。顔立ちに負けず劣らず存在を主張する銀の髪がたなびく。そして、紅い目がシオンを微笑しながら見詰めていた。

 シオンと同じ、紅い瞳が。

 そう、目の前に居る少年は――。

 

《ば、かな……》

《驚いてくれたようだね、嬉しいよ。オリジナル・シオン》

 

 茫然と呟くシオンに、少年はクスリと笑う。いつの間にか、その左手にはあるモノが握られていた。

 シオンが5年前に捨て去ったモノ。

 ずっと、ずっとそばに居た、己の半身だったモノ。

 大切、だったモノ――日本刀が、握られていた。

 鮮やかに反り、美しい銀の光を反射してシオンを照らす。そして。

 

《”刀刃の後継(サクセサー・オブ・ブレイド・エッジ)”……神庭シオン》

 

 刀は迷い無く、美しい孤を描いてシオンへと振り落とされた。

 シオンは、その美しさに魅入られるように茫然とし続け――。

 赤が、虚空に舞った。

 血の、赤が鮮やかに。

 

 そう、シオンの目の前に居る少年は、シオンの幼い頃にうり二つの姿をしていた。

 

 

(後編に続く)

 

 




はい、第四十話中編2でした。前話から意味ありげに出てたシオンぽいもの。その正体は、後々をお楽しみにです。
では、後編にてお会いしましょう。

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