魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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はい、第四十話中編1です。タイトルの意味はもーちょいで明らかに。反逆編も後もう少し、駆け抜けて参りましょう。では、どぞー。


第四十話「過去からの刃」(中編1)

 

    −撃!−

 

 −撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃−

 

    −撃!−

 

 宇宙に灯る、銃撃のマズルフラッシュ。それと共に吐き出された数千の弾丸が、真っ直ぐに翔けて来るシオン達アースラチームに放たれる。

 その先陣を切るシオンは、向かい来る弾丸にシールドを最大数である三枚展開。その真横で、シオンの元後輩でもある真藤リクも同じくシールドを三枚展開する。そこに容赦無く叩き込まれる弾丸群。が、最大数を展開したシールドは容易には抜けない。弾丸群を弾き飛ばす。

 シオン一人だけならば、ここでブレイク・チャージによる突撃を敢行されていた事だろう。だが、今のシオンは一人では無い!

 

《フェイル、行くで》

【はい】

 

    −射!−

 

 弾丸群を撃ち込まれるシオン達の真後ろで、彼の幼なじみにしてイクスと同じU・Aデバイスである、フェイル・ノートを構えた本田ウィルの念話が響く。

 直後、剣矢が連なり飛翔。ちょうど並びながらアサルトライフルを連射する敵陣の真ん中へと撃ち込まれた。

 中央の敵騎達が撃ち落とさんと、剣矢にアサルトライフルの照準を向ける。放たれた剣矢は四発。敵騎達は、迷い無く発砲。

 

 −撃・撃・撃・撃−

 

 アサルトライフルから放たれた弾丸は、剣矢に着弾し――赤い火花のみを発して、あっさりと弾かれた。

 敵騎達は慌ててアサルトライフルを連射するも、結果は先程と同じ。威力の桁が違い過ぎるのだ。

 中央の敵騎は迎撃を諦め、上へと逃げる。四発の剣矢は、真っ直ぐに飛び、敵騎を通り過ぎて虚空に消えた――それが狙いだった。

 

《簡単に頭を出してくれちゃって♪ ガングニール!》

【ぶっ飛ばせ〜〜♪】

 

 直後に叫びが響く!

 射撃、砲撃を得意とするのは、ウィル一人では無い。

 凪千尋。

 白き槍、ロスト・ウェポン、ガングニールを携える彼女が居た。

 上へと逃げた四騎にほくそ笑むと、ガングニールの穂先を迷い無く向ける。

 ガングニールの姿は既に2ndフォルム、砲撃形態!

 

《その威名を存分に叫びなさい!》

【真空間だから念話でね〜〜♪】

 

 −バースト・ベヴァイゼン!−

 

 同時、世界に鍵となる声が響き、それを契機にガングニールの砲口に光が収束する。上へと逃げた敵騎達は漸く千尋に気付いたのか、慌てて離脱、散開しようとするが、砲撃上等な彼女がそんなものを許す筈も無い。

 

《大・神・宣・名!》

【オーディン! カノーネン!】

 

    −煌!−

 

 叫びと共にガングニールの砲口から激烈な光が放射された。放たれた光砲は一気に敵騎へと飛び、上に逃げた四騎の内、二騎に直撃。何とかシールドを張り、一撃KOこそ避けたが、あまりの威力にその場に留まる事も出来ず光砲に押し流される。

 仲間が押し流されるのを脇目に見ていた残りの二騎は、一瞬だけ棒立ちになるも、しかしすぐに我に返った。下降し、仲間へと合流しようとして――その一瞬が、命取りだった。

 千尋の叫びが更に響く!

 

《連……! 射ぁああああぁ――――――――――――――――!!》

【大、サービス〜〜♪】

 

    −轟!−

 

 叫びの念話が響き渡ると同時に、”二射目”の砲撃が放たれる!

 その光砲にぎょっ! とする残りの二騎は、千尋の笑顔と、問答無用とばかりに煌めく光砲を目に焼き付けた。

 

    −撃!−

 

 放たれた光砲は、防御すら忘れた敵騎に叩き込まれる。光砲は、その威力を一騎目に全て注ぎ込んだ。それは、爆砕と言う形をもって顕現する。

 

    −爆!−

 

 閃光爆裂! 光砲が着弾した敵騎を中心に爆発し、残った一騎を押し退けながら広がる。その光はまるで、太陽を思わせた。

 光は直ぐに収束し、収まる。後に残ったのはDAを完全に破壊され、気絶した魔導師だけだった。

 

《まずは一騎!》

 

 千尋は顔を綻ばせながら、高々に戦果を告げる。そして。

 

《んで、もう一騎追加やな》

 

    −射!−

 

    −撃!−

 

 上に残った最後の一騎。千尋の砲撃に驚愕し、硬直していた敵騎の四肢に剣矢が八連で貫通していく。いつ放たれたのか、敵騎が射られた事にすら気付かぬ早業であった。

 四肢を穿たれ、苦しみ悶える魔導師が見たのは、最後の剣矢をフェイルに番えるウィルの姿。その目はどこまでも、ひたむきであった。口端がにぃ、と歪む。

 

《往生ォ、しぃやあ……》

【サンダーブレード、セット】

 

 直後――。

 

    −閃−

 

 静謐に、あまりに静かに剣弓が敵騎に突き立つ。この剣矢は、先の剣矢と違い貫通する事は無かった。肩の部分へと突き立った剣矢は、しかしその効果を発揮する。

 

    −雷!−

 

 一瞬、敵騎に容赦無く走る雷光! いかな威力があったのか、敵騎はびくっと痙攣し。雷光が収まった後は黒煙を辺りに吐き出した。

 

《二騎撃破、や》

 

 煙を上げ続ける敵騎にウィルはフッと笑い、隣の千尋と頷き合う。

 そして、次なる標的と援護が必要な仲間を求めて視線を巡らせ始めた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 千尋とウィルがそれぞれ撃破を告げる。それを後ろで聞きながら、シオンは前方、未だ艦壁に張り付き、アサルトライフルを連射する敵騎達を見た。

 四騎の魔導師は後方に吹き飛ばされ、二騎は撃破。残った六騎の魔導師達は目に見えて分かる程にうろたえている。

 ……当然とも言える。何せ、ウィル達が駆け付けてからまだ一分も経ってはいない。その間に、二騎も墜されたのだ。うろたえもしよう。

 だが、戦場においてその動揺は、付け入られる隙でしか無い。

 

《シ〜〜オン♪ 宜しく♪》

《リク、頼むで♪》

 

 弾幕が緩んだ瞬間を見計らって後方から飛ぶ念話。シオンとリクはそれに迷い無く頷き、ノーマルに戻したイクスと、バスターフォームへと戦技変換させたブリューナクを構える。刃を横にして、まるで野球のバッテングのようにして二人は己のデバイスを振るった。その前に、念話を掛けた二人――聖徳アスカと、獅童楓が、ひょいと現れる。女子二人はくるりと身体を回転。シオン達に対して、足裏を向ける。そこを目掛けて、シオンとリクが、刃を横にした大剣を振り放つ。

 

    −轟−

 

 二つの大剣を足場にし、さらにシオン達が振るった大剣の勢いを利用して二人は一気にすっ飛んだ。向かう先は、アサルトライフルを連射する敵騎陣。

 弾かれ、飛び出した二人は真っ直ぐに敵陣へと突き進み。その最中に、ぐっと拳を握る。拳は、何故か血に塗れていた。

 

《《術式解凍!》》

 

 −アクセル・ブレイク−

 

 −サーキット・ロード−

 

 二人の念話による叫びと共に鍵となる言葉が空間に響く。同時、二人は血に塗れた右手と左手を振るった。

 

《来てね♪ ジン!》

《来ぃや。セルシウス!》

 

 二人が叫ぶと共に、背後に二つの影が顕現する。

 アスカの背には風纏う太っちょの男性が。

 楓の背には、その肌すらも透き通り霜を纏う薄衣の女性が現れた。

 風の精霊:ジン。

 氷の精霊:セルシウス。

 二人は、己の契約精霊を呼び出したのだ。そう、アスカも楓も使うのはカラバ式。その二人が精霊と契約していない筈も無い。

 永唱は、ここに来る最中に済ませて置いたのだろう。先の術式解凍は、これを意味していたのだ。

 

《さっき行っくよ〜〜♪ 白煌(びゃくこう)、精霊装填》

【了解。全兵装、全開放。超過駆動、開始!】

 

 アスカの叫びと共に、腕に装着した手甲。白煌へとジンがその像をブラしながら吸い込まれる。完全にジンが白煌へと装填されると、アスカはにぱっと笑った。

 

【精霊・装填!】

《よーし。”単一固有技能”、発っ動♪》

【了解】

 

 アスカの陽気な念話に白煌の淡々とした声が答える。直後、アスカの姿が”ブレた”その姿は、多重に”残像”となって世界に投影される。

 

【聖鳳流拳技、単一固有技能(オンリーワン・アビリティー・スキル)『聖爛武闘(せいらんぶとう)』発動】

 

 白煌がその残像現象の名を淡々と呼ぶ。同時、アスカは足場を空中に展開。そこに足を乗せ、アスカ達へとアサルトライフルを連射する敵陣を見る。

 にぱっと、再び笑った。

 

《行っくよ〜〜〜〜!》

 

 笑いと共に間延びした叫びが響く。瞬動発動。一気にアスカは残像を残しながら敵陣へと駆ける!

 慌てたのは敵騎である。何せ、残像を伴いながら疾走してくる少女など初めて見た事だろう。慌てて全騎、アスカへとアサルトライフルの照準を向け、フルオートで連射開始。

 

 −撃・撃・撃・撃・撃−

 

 放たれる幾百もの弾丸群。それは隙間無くアスカへと殺到し、その華奢な身体へと襲い掛かる。だが、そんなものに意味は無かった。アスカに殺到する弾丸は、全てその身を通り過ぎる。

 そう、弾丸が撃ち抜いたのはただの残像に過ぎない。本物のアスカはそんなもの、とうに抜けていた。

 普通の瞬動を遥かに超える速度である。アスカは真ん中でアサルトライフルを連射する敵騎の真ん前に移動すると、その眼前でにぱっと笑ってみせた。

 その行為を挑発と受け取ったか、至近距離でアサルトライフルを魔導師は連射する。弾丸は未だに笑うアスカへと吸い込まれ。当然の如く、通り過ぎた。残像だ。

 

《聖凰流拳技、風神奥義〜〜》

【フル・ドライブ!】

 

 二つの声は、魔導師の真後ろから響いた。それはアスカを至近距離で撃った魔導師は疎か、その仲間達である敵騎すらも気付かせぬ内に背後に回り込んだアスカとそのデバイス、白煌の念話である。

 アスカは右の拳を引き、展開した足場に乗っていた。それは空手の中段正拳突きの構えを思わせる。そして、その拳が纏うは風! 魔導師が背後のアスカに振り返ろうとして。

 

《風塵流星煌〜〜!》

 

    −撃!−

 

 その背中に、風巻く拳が叩き付けられた。拳は捩りと共に放たれ、同時、風が螺旋を描きまるで流星の如く拳から放たれる!

 風で形成された流星は容赦無く、背中を削った。しかも、それは一発では済まない。

 残像がアスカの姿勢に追い付くと、その拳から螺旋を描く流星が捩り込まれる!

 

 −撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃− 

    −撃!−

 

 続け様に叩き込まれた風の流星が、DAの装甲を問答無用に完全破壊。尚も止まらず、その背中に流星は撃ち込まれ、魔導師は完全に意識をぶち切られ、気絶した。

 これこそが聖爛武闘の真なる効果。風で形成された残像による追加攻撃であった。

 例えばSランクの攻撃を絢爛武闘で放った場合、残像による追加攻撃が放たれた攻撃と”同じ威力”で発生するのである。

 続け様に数十発もの攻撃が、である。その威力たるや押して知るべしであった。

 風塵流星煌を放ち、残心するアスカ。しかし、その笑顔が若干歪み、脇腹を手で押さえる。

 

《あたた〜〜……》

【……肋骨が骨折しているのですから当たり前です】

 

 目立った怪我が無いように見えたアスカであったが、やはり相応に怪我をしていたらしい。ん〜〜と、唸りながらその場に膝を着く。

 そんなアスカに我に返った敵騎達がすぐさまアサルトライフルを彼女に向ける。だが、それを見てもアスカは笑顔のままだった。

 

《えへへ〜〜。ちょっと痛いから休憩するね? 楓ちゃん。後、宜しく〜〜》

《お任せや♪》

【全兵装、全開放。超過駆動開始!】

 

 アスカの念話に、楓とシャドウの念話が応える。見ると、敵陣から少し離れた所にアスカは陣取っていた。構えるシャドウは1stモード。レイピアの状態である。そのシャドウに、セルシウスがその身を沈ませる。

 

【精霊装填!】

《……パクる相手もおらんし、時間も無いから久々に行くで? 楓お姉さんのオリジナル魔法!》

 

 精霊装填が完了したシャドウがその刀身を鮮やかな蒼に染める。楓は迷い無く、シャドウをあちこちに振るった。

 その動作に呼応するように、その眼前に氷の鏡が生まれる。それも一枚では無い。多数にだ。氷鏡は楓の姿をそのまま映す。

 その鏡を見て楓は笑みを浮かべ、視線を前へと戻す。アスカを撃たんとする敵陣達に。その時、うずくまるアスカへと、今まさに弾丸を叩きこまんとする魔導師達であったが、直前に信じられない事が起きた。

 アスカの前にいきなり氷の鏡が発生したのだ。一切、何の前触れも無く。

 それも、アスカを囲むように氷鏡は現れる。氷鏡は、DAを着込んだ魔導師達を言葉通り鏡映しとする。

 それを何かの防御と思ったか、魔導師達は即座にアサルトライフルを氷鏡に向け、破壊せんと即座に発砲し――。

 

 −撃・撃・撃・撃・撃−

 

 ――全て、その弾丸を”己達”が喰らった。氷鏡に弾丸が接触した瞬間にだ。

 跳弾でも、ましてや弾丸を返された訳でも無い。”氷鏡に映る”自分を撃ったと同時に、撃った箇所と”同じ”所に弾丸による衝撃を受けたのである。何が起きたか分からずに混乱する敵騎達を見て、楓がくすりと笑う。

 

《ミラー・ファントム。上手くハマってくれたなぁ》

 

 レイピアを弄びながら、そんな念話を飛ばす。

 ミラー・ファントム、それがその魔法の名前なのか。未だに混乱する敵騎達に楓ニンマリと笑い、眼前の氷鏡へとレイピアを構え。

 

《よっと》

 

 迷い無く突き入れた、瞬間。

 

    −閃!−

 

 レイピアが氷鏡に”沈む”。それと同時に、敵騎の眼前にある氷鏡からレイピアの剣先が一斉に”生えた”。

 それは混乱する敵騎達に突き穿たれる。DA自体は相当な頑健さを誇る為、その一撃は装甲を僅かに傷付けるのみであった。だが当然、いきなり生まれたレイピアに更に敵騎達は混乱する。

 ――異変はそこで終わらなかった。レイピアが触れた箇所から、いきなり凍り始めたのだ。

 これは、精霊装填された武装による追加効果であるが、それは取りも直さず一つの事実を肯定する。氷鏡から生まれたレイピアは、全て”本物”のシャドウであると言う事だ。

 ミラー・ファントム。氷鏡による多重転移魔法。

 それが、この魔法の正体であった。弾丸を返したのも、これによる現象である。氷鏡に映った敵騎達に弾丸を転移して返したのだ。シャドウが多重に現れたのも同様である。鏡越しに剣先を転移させて、ついでとばかりに変形。1stモードのシャドウは形質変化能力を有する。クラナガンでの戦いでハリセンに変形したのがこれだ。

 つまり、これを氷鏡の転移空間内で行ったのだ。剣先を多数生み出し、全ての氷鏡から出現させたのである。結果、何が起こったのか分からない敵騎達は混乱したのだ。

 装甲が精霊装填されたシャドウの追加効果で凍り始めた事に、魔導師達は慌てる。氷鏡の前に居る事は危険と判断したか、慌てて上へと逃げ出した。

 楓とアスカが同時にクスリと笑う。

 

《《リク!/リク君♪》》

 

 二人が同時に、同じ名を呼ぶ。と、同時に二人の背後から艦壁を蹴り虚空へと駆ける一人の少年が居た。真藤リクである。

 その手は、二人と同様”血に塗れている”。リクもまた、カラバ式の使い手である。ならば、精霊と契約していない筈も無い!

 

《術式解凍!》

 

 −スマッシュ・インセプト−

 

《来い……! ノーム!》

 

 虚空をひた走るリクの叫びに、どこからとも無く岩塊が複数現れる。それはリクの背後で衝突。直後、髭を生やした、やけに背丈の小さな初老の男性が現れた。

 地の精霊:ノーム。

 それが、この初老の正体である。

 リクは背後に現れたその存在に振り向きもせずに己のデバイス、ブリューナクを大上段に振りかぶる。そこにノームが像をブラして、吸い込まれた。

 

《精霊装填!》

【全兵装、全開放、超過駆動開始!】

 

 やがて、ブリューナクに完全にノームは融合した。リクはそのまま虚空を駆け、一気に下降を開始する。

 そこには、今まさに楓の攻撃から逃げ出した敵騎が二騎居た。そして。

 

 −足を地に、我は恐れず前へと歩く−

 

 空間に、リクだけの呪文が響く。そう、リクは第四位でありながら唯一、オリジナルスペルに開眼しているのであった。それが意味するのはただ一つ。

 今から放つのは、”リクが放てる最大威力の技”だと言う事。

 その呪文に応えるかのように、ブリューナクの色が変質する。朱だった色は、漆黒へと変わった。光が歪められているのだ。ブリューナクの”超重量”に。

 それをリクは逃げ出す二騎に突き進みながら一気に振り放つ!

 

《超重! 魔神撃!》

 

    −轟!−

 

 剣先は、二騎に当たら無かった――いや、当て無かったのだ。直撃させれば、確実に即死させてしまう。

 剣先は、二騎の隙間を通り過ぎる。それだけ、それだけで。

 二騎はDAを砕かれた。

 超重量により、発生した超重力衝撃波でDAのみを問答無用に破壊されたのだ。DAを砕かれた魔導師達も当然、ただでは済まない。

 そのまま直重量の剣に引きずられ、リクと共に艦壁に叩き付けられる。その衝撃で、彼達はあっさりと昏倒した。艦壁にめり込んだリクは、ふぅと息を吐き、ブリューナクを肩に担ぐ。そしてアスカ、楓に振り向きながら、ニッと笑い。

 

《これで、五騎!》

 

 撃破数を高々に告げた。

 

 残り敵魔導師、七騎――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 これで後、残りは七騎……!

 

 シオンは戦果を告げるリクの念話に頷きながら現状を確認する。楓の攻撃から逃げ出した五騎はそのまま後退し続け、千尋に吹き飛ばされた二騎も漸く砲撃から逃れたのか戻り始めていた。

 二つに分かれていた敵騎はそのまま合流するつもりなのだろう。互いに合流する軌道で飛んで行く。

 だが、そんなもの許してやる義理も無い。

 シオンは”目標”――自分を最初に艦内から叩き出した魔導師を見つける。

 あの新型DAを装備した第77武装隊の隊長である。あれには最初にブレイク・チャージをかまされて以降、煮え湯を飲まされっぱなしであった。いい加減、ここらで借りを纏めて返しておきたい。

 神庭シオン。タカトの事は何も言えない程、負けず嫌いであった。

 

《刃、あいつ達。分断出来るか?》

《あ? 誰に聞いてるつもりだお前》

 

 シオンの念話に、刃がニヤリと笑う。そして、愛刀である銀龍を振るった。

 

《朝飯前だ、そんなの。……てか。そんな事する必要あるか? 纏めてぶっ潰せば――》

《お前。その足で、あれ達と戦うつもりかよ?》

《…………》

 

 刃の念話に、シオンがジト目で睨む。刃の足は、両足とも見事にギプスで固められていた。骨が折れているのは間違い無い。少なくとも、歩法が重要な刀術で戦える状況ではあるまい。

 無言で固まる刃に、シオンが苦笑して肩を竦めた。

 

《ま、無理せんとここで援護してろよ怪我人》

《……治ったら覚えとけよ、ヘタレ》

 

 その念話に聞こえませーんと、耳を塞ぐシオンに、刃はこめかみをピクピクさせつつ、銀龍を振るう。

 

《――目覚めろ、銀龍》

 

    −哮−

 

 瞬間、刃の持つ銀龍から確かに咆哮が響いた。無音の咆哮である。

 刃はそれに微笑し、ゆっくりと刀を振り上げた。

 

《分断するだけでいいぜ、刃》

《アホか。んなセコい戦果で納得出来るかよ。一騎墜としてやる……!》

《聞こえたで――――! 刃――――――!》

 

 遠くから、精霊装填したのに一騎も墜として無い楓からの怒声が響く。

 実際、敵騎を分断させたあげく、混乱にまで落とし入れたのだから、その戦果は撃破より高いと言えるのだが――。

 シオンと刃は揃って聞こえ無いフリを決め込んだ。

 

《こら! 無視すな! お笑いには無視が1番キツイんやで!?》

《……だ、そうだぞ? ウィル》

《……ワイに振らんといてくれるか》

 

 楓と同じ関西人(しかし、中身はクォーター)のウィルが諦めたような顔で首を振る。

 それにも反応し、ぎゃあぎゃあと騒ぎ出した楓に、シオンと刃は標的が変わった事に安堵。再び敵騎に視線を向ける。

 同時、刃の足元に二重螺旋を織り込んだ魔法陣が展開した。更に刀身を炎が伝う。そして。

 

《――そこだ》

 

 ぽつりと告げる念話と共に、激烈な踏み込みを艦壁に叩き付ける!

 直後に、円を描いて炎を巻く銀龍が振り下ろされた。

 

《燃え盛れ、銀龍。焔龍・煉獄陣》

 

    −業!−

 

 振り下ろされた銀龍の軌跡を延長して、焔が疾る! その軌跡は炎線となり、真っ直ぐに敵騎へと向かった。敵騎も流石にこれには気付き、プロテクションを発動。その真下を炎線は通り過ぎ――。

 

    −爆!−

 

    −裂!−

 

    −閃!−

 

 炎線を中心に、炎の壁が立ち上がる! プロテクションはあっさりと砕け散った。ついでとばかりにDAも焼き尽くし、”中身”を景気良く吹っ飛ばす。炎壁は、そのまま百m近くも築きあげられ、敵陣を容赦無く分断。合流を阻止してのけた。

 

《おお……。流っ石♪》

 

 それを見て、シオンが喝采を上げる。労おうと刃に振り向き。

 

《ぐ、くくぅ……!》

 

 跪きながら足を押さえて悶える刃を見た。一同、そんな刃に暫く沈黙する。

 

《何してんのお前?》

 

 一応、シオンが代表して聞く事にする。苦悶の声を上げる刃が、顔を上げた。

 

《お、思いっきり踏み込み過ぎた……》

《…………》

 

 刃の、あまりにアホなその念話に再び一同、沈黙。やがてそれぞれ、うんと頷き合い。刃へと視線を向け、皆一斉に念話を飛ばす。

 

《《アホ》》

《喧しい! とっと行けヘタレ!》

 

 がーと、吠える刃に苦笑し、シオン達はそれぞれ動き出す。

 視線を再度敵騎達に向けると、炎壁の上から抜けて合流しようとでもしたのだろう、炎壁を伝い、上昇しようとした所でウィル、千尋の二人から射砲撃が飛び、頭を押さえつけ、合流出来ないようにしていた。

 どうやら一連の騒ぎの最中もずっと頭を押さえていたらしい。二人共、ある意味器用であった。そんな二人にシオンは微笑し、ちょうど三騎ずつ残った敵陣に目を向ける。

 未だ合流せんとする敵騎達は、ウィルと千尋の射砲撃に動きを縫われ、まともに退避も出来ないようであった。

 ――つまり、殲滅するチャンスである。

 ちょうど三騎ずつに分かれた敵陣達に、残るシオン達も三人ずつに分かれた。

 シオンは、コルトとハヤトと共に。

 シグナムとヴィータは悠一と共に。

 ごくごく自然に、彼等はそのように分かれた。

 シオンは、自分の背後に立つ二人に視線を巡らせ、再び敵騎へと視線を戻す。念話を二人に飛ばした。

 

《俺は、あの隊長騎をやります》

 

 シオンの念話に、背後のコルトは少しだけ考える。そして、すぐに頷いた。

 

《ま、いいだろ。だが、俺は左腕を骨折。出雲の野郎は――》

《右腕をやっちまってる》

 

 即座にハヤトはギプスで固められた右腕を振って見せる。コルトはそれに嘆息し、自分の左腕――こちらもギプスで固められている――をシオンに見せた。

 

《そう言うこった。つまり、援護を期待すんな。助けてなんぞやらん。……きっちり勝って見せろ》

 

 コルトの、ある意味で乱暴とも言える台詞に、しかしシオンは、素直にはい。と、返事を返す。

 それがコルトなりの、こう言うと本人は否定するだろうが、激励だと分かったからだ。

 見れば、シグナム達も短いながら念話で話していた。

 頷き合う。何らかの作戦でも決まったのかと、シオンは思い。そのまま、再び敵陣へと視線を戻した。今は、まず自分の敵の事。それだけに集中せねばならない。

 二組に分かれた六人は、それぞれの敵騎を見据えると、コルトが念話で話しかけて来た。

 

《いいか、野郎ども。俺ぁ、いい加減疲れた。ヤニも吸いてぇしな。……だから、ここらでさっさと終わらせんぞ》

《……私とヴィータは一応、女だが?》

《気にすんな》

 

 野郎どもの部分に、シグナムからツッコミが入るが、コルトはあっさりと流す。苦笑しながら、続きを話した。

 

《いいか? 容赦すんな。俺はニコチンが切れてイライラしてんだ。ぼさぼさしてっと、容赦無く尻に鉛弾撃ち込んでやっからその積もりでいろ》

《目茶苦茶ですねーー》

《喧しい。行くぞ、野郎ども!》

 

 どっちが悪役だか、全然分からない台詞をコルトが景気良く叫ぶ!

 同時にシオンは瞬動発動。真っ直ぐに目当ての敵騎へと駆け出した。

 残り敵六騎。半分にまで減った敵、武装隊達に、シオン達は一斉に襲い掛かったのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

   −ぴちょん−

 

 次元航行艦『シュバイン』ブリッジ。そこに滴が落ちる音が鳴り響く。その音を背に、中年の男は震え上がっていた。ツァラ・トゥ・ストラの提督、ビスマルクである。

 彼は、ガタガタと震えながら眼前の少年を見る。

 銀の髪の少年だ。歳は十二、三歳程か。一見すると女の子に間違いそうな顔立ちである。ビスマルクは、この少年に震えていたのであった。

 何故なら今、このブリッジではその少年とビスマルク以外、動く者は誰一人として居なかったからである。

 ブリッジ要員達は、既に動かない。

 そのことごとくは、”文字通り”八つ裂きにされていたからだ。

 先の滴は、壁に張り付き奇怪なヒトのオブジェと化した管制官から流れ出た血であった。

 

「な、何故……!?」

 

 ビスマルクはいっそ哀れな程に震え、少年に問い掛ける。何故、皆を斬ったのかと。

 そう、この惨劇を起こしたのは他でも無い、この少年の仕業であった。

 左手に持つ”刀”がその証のように血で赤く濡れていた。ビスマルクの問いに少年はくすりと笑う。

 

「何故って? そうだなぁ。試し切り、かな」

 

 あっけからんと答える。

 そんな少年の様子と台詞にビスマルクは愕然となる。ただそれだけで、この少年はこれだけ人を惨殺したと言うのか。少年は笑顔で続ける。

 

「ほら、やっぱり実際使ってみないと分からない事、あるじゃないか? いきなり実戦で使うなんて愚の骨頂だしね」

 

 肩を竦める。その動作も愛らしい。

 だが、人を斬っておいて、そんな動作が出来るこの少年はひどく恐ろしい。

 暫く開いた口が塞がらなかったビスマルクだが、やがて怒りをあらわにする。少年を睨み付けた。

 

「き、貴様……! 私をこんな目に合わせてただで済むと……!」

「思ってるよ」

 

 ビスマルクの台詞に少年はあっさりと答える。一枚の紙を投げて渡して来る。それは、ある命令書であった。

 ビスマルクは受け取り、その命令書を読んで――顔から血の気が引いた。

 そして、何度も、何度も何度も、読み返す。

 だが、そんな事でその内容が変わる筈も無かった。命令書には、ただ一つの言葉が書いてある。

 

 ビスマルクを始めとした命令違反者を処理せよ。

 

 そう、書かれてあった。

 

「やり過ぎたね。地球への進攻、グノーシスの攻略はベナレスに取ってすれば綿密に作戦を立てて行う予定だったんだ。それを君は全部ぶち壊したんだから、この結果は当たり前だよね? ついでに新型DAの無断使用も効いたね」

「…………」

 

 その言葉に、ビスマルクは何の返事も出来ない。ただ、震えるだけである。そんなビスマルクに、少年は再度笑う。

 

 ――刀を掲げた。

 

「”神覇ノ太刀”。単一固有技能『神空零無(しんくうれいな)』発動」

「ま、待ってくれ……! 頼む! 見逃してくれ……っ!」

 

 漸く、ビスマルクは声を絞り出す。その場で土下座し、血で汚れた床に額を擦り付けた。プライドなぞ、もうどうでもよかった。

 

 死にたく無い!

 

 それが、ビスマルクの心からの願い。少年はそんなビスマルクを見て。

 

「もう、そんな段階は過ぎてるんだ」

 

 あっさりと死刑宣告を下した。刀がゆっくりと持ち上げられる。

 ビスマルクは、その刀に映る銀光を目に焼き付け――。

 

「じゃあね」

 

    −斬−

 

 それがビスマルクが人生の最後に見た光景となった。

 刀は容赦無く、ビスマルクを頭頂から真っ二つにしてのける。ただ真上から降ったような刃が、である。

 それは、あまりにも現実味の無い光景であった。少年はその結果に満足すると、刀身にこびりついた血を紙で拭き取る。そして、未だ艦の外を映すモニターを見て薄く笑った。

 

「こちらの仕事も終わったし、そろそろ本命の仕事に移ろうかな。”あの人”たっての願いだしね」

 

 少年の紅い瞳。それは、モニターに映るある少年の姿を捉えていた。少年と酷く”酷似”した少年。おそらく五年程経てば、二人は全く見分けがつかなかっただろう。

 少年はクスクスと笑い、モニターを見続ける。その瞳は、どこまでもひたむきに真摯にモニター内の少年を見続けていた。

 

「やっと会えるね。”オリジナルシオン”。君に会える事を楽しみにしてたんだ」

 

 一人、少年は呟く。

 歌うように、唄うように、謡うように、詩うように、続ける――。

 

「どっちが、”あの人”の願いを叶えられる存在か、ずっと確かめたかったんだよ――そう」

 

 そこで一度言葉を切る。

 そして、凄惨なブリッジの様子を仰ぎ見て、少年は微笑んだ。楽しそうに、告げる。

 

「僕が、”刀刃の後継”、紫苑(しおん)だ」

 

 ――サクセサー・オブ・ブレイド・エッジ。

 

 かって、神庭シオンに与えられし、二つ名を少年は……紫苑は呟き、ブリッジを出る。

 会う為に。

 もう一人の自分と”殺し合う”為に、紫苑は歩き出した――。

 

 

(中編2に続く)

 

 

 




はい、第四十話中編1でした。しかし、集団戦闘は難しいなと。
タイマンバトルは結構描写しやすいんですが、集団戦闘だと描写が急に難しくなりますな……ん? お前、結構やってる?
そこはテスタメントですんで、ええ仕方ない(笑)
次回、中編2もお楽しみにー。

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