魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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「かつて、俺は刀を握っていた――正直、今も思い出したくない記憶だが。あの頃の俺は、それは生意気だったと思う。刀さえあれば、自分は何でも出来る。そう思ってた。その結果、俺は取り返しのつかない事をしたんだ――魔法少女リリカルなのはStS,EX、始まります」


第四十話「過去からの刃」(前編)

 

《ぐっ……! っあ!》

【シオン!】

 

 イクスの叫び。そして、視界に広がる虚空を見てシオンは舌打ちを放つ。

 危うく、慣性に任せて艦から離れてしまいそうになりながら、飛行魔法を発動。艦壁へと着地し、現状を確認する。

 強襲戦、最終段階。艦内への侵入に成功し、後はブリッジを占拠するだけだったシオンだが、突如として現れたDAを着込んだ魔導師達の一団により艦内から弾き出され、宇宙空間に投げ出されてしまったのだ。

 艦壁に着地したのは、フィールドの外に出ない為である。下手に離れると、フィールドを破る所からやり直さなければならない。そんな魔力も、余裕もシオンには無かった。何故なら――。

 

 −弾・弾・弾・弾・弾−

 

 現状を確認していたシオンに飛来する光弾。スフィアによる誘導弾射撃魔法だ。シオンはそれをイクスを振るい、切り払う。

 ……敵がDAを着込んだ魔導師ならば、本命は。

 

《っ!》

 

    −撃−

 

 光弾に混じって、別種の光弾が放たれたのをシオンは視認する。それは”通常弾”。魔法弾では無い、質量兵器による光弾であった。

 シオンは慌てず横にステップ。物質弾を回避する。だが。

 

    −轟!−

 

 直後、回避中のシオンに向かって放たれる光砲!

 シオンの行動を先読みしたが如くの精度で光砲は向かって来る。それに対し、シオンは足場を展開。着地しながらイクスを横薙ぎに振るう!

 

《弐ノ太刀、剣牙!》

 

    −戟!−

 

 放たれるは、魔力斬撃! シオンの斬撃を延長し、魔力が飛ぶ。

 砲撃と斬撃がシオンの眼前で衝突した。二つの一撃は一瞬だけ、互いに食い合い。すぐに霧散、相殺する。その砲撃の延長線上にシオンは目標を見付けた。

 それは機械のヒトガタを着込んだ存在。先程シオンを巻き込んで、一緒に艦から弾き出た魔導師であった。左手を翳し、砲撃を放った体勢で硬直している。その隙をシオンは逃さない。

 

《壱ノ太刀――》

 

 展開した足場に足裏を叩き付け、横薙ぎへと振ったイクスを振り上げると、瞬動を発動。即座に敵魔導師の懐に飛び込み――。

 

《絶――っ!?》

 

 硬直したままの敵に放たれんとするイクス。しかし、シオンは斬撃の途中でいきなり顔を強張らせる。無理矢理斬撃を止めて、後退した。

 

《……ちっ》

【動体反応多数……シオン】

 

 分かってる、とシオンは心の中だけでイクスに返す。あのまま突っ込めば、恐らく……。

 シオンの心中を察したが如く、新型DAを着込んだ魔導師を中心に、三体の同型のDAを着込んだ魔導師が艦壁をブチ貫いて現れた。ブレイク・チャージとか言ったか。蒼の魔力をフィールドのように纏いながら、三体は現れたのだ。

 あのまま突っ込めば、確実にシオンは再びあの突進を食らっていた事だろう。しかも、今度は無防備な状態で。四体に増えた敵魔導師をシオンは睨み据える。

 

《……アンタ達、この艦の魔導師か?》

《元第77武装隊魔導師だ。小僧、貴様のような子供が侵入者とはな》

 

 恐らくは隊長なのだろう。シオンと先に戦っていた魔導師が念話を返して来る。シオンはスッとイクスを正眼に構えた。

 

 ……敵は四体。

 

 彼我戦力を確認し、シオンはイクスを握る手に力を込める。DAを着込んだ魔導師と言うのは、それだけで厄介な存在であった。

 オプションとして、質量兵器を装備し、DA自体がデバイスとしての働きもするので本来のデバイスを持つ必要も無い。加えて、あれはパワードスーツの役割も果たす。……A相当の魔導士があれを着込んだとすると。

 

【一体辺りAAA+相当の戦力か】

《聞きたくない冷静な敵戦力を教えてくれてありがとさん》

 

 ぽそりと呟くイクスに、シオンは嘆息混じりに皮肉を飛ばす。AAA+相当の魔導師が四体。アースラやらグノーシスで慣れ切っていたが、そう考えるとかなりの戦力だ。

 

 ……通常状態じゃあ一人で戦っても勝ち目は薄いか。

 

 冷静にシオンは判断する。ここで必要なのは、客観的判断であった。四体もの高レベルと化した魔導師を相手に、一人で戦えると思う程、シオンは自惚れてはいない。一番いい方法はスバル、ノーヴェと合流する事だが……。

 

《シオン!》

《スバルか》

 

 シオンも向こうも双方互いの出方を窺っていると、当のスバルから念話が来た。随分慌てたような声に、シオンは訝しむ。

 

《ひょっとしてと思うけどよ。こっちの状況、掴んでるか?》

《うん。イクスが教えてくれて……》

 

 その一言で、何でスバルから念話が来たのかをシオンは悟った。余計な事しやがってと、自分の相棒を睨む。

 

《で、シオン。大丈夫なのかよ?》

《……ノーヴェにも報せてやがったのか》

【当たり前だ】

 

 今度はノーヴェからの声にシオンは呻く。イクスはさも当然と返して来るが、今回ばかりは余計だった。

 二人の事だから、この分だと――。

 

《すぐそっち行くから! 無理しないで待ってて!》

《私達が行くまで耐えてろよ!》

《……やっぱりそうなんのな。二人共、こっちはいいから来んな》

《《はぁ!?》》

 

 重なる大音声の念話に、ここらへんは姉妹だなぁと、シオンは苦笑。視線は変わらず敵を見据えながら、シオンは続ける。

 

《折角、敵艦に侵入出来たのに自分から出て来る馬鹿がどこにいるよ? フィールドをまた破るのも面倒だしよ》

《でも……》

《大丈夫だって。だから、お前達は自分ん所に集中してろ》

 

 スバルの迷うような声に、シオンは重ねて言う。それにスバル達は迷いからか、暫く沈黙。やがて念話が返って来た。

 

《分かったよ! こっち済ませたらすぐ行くから!》

《ソッコーで終わらせるから待ってろよ!》

《あいよ。……無理すんなよ》

 

 二人の返答に、シオンは苦笑する。言葉は違えど、助けに来ると言って来る二人に。シオンの返答を最後に念話は切れた。

 

《さってと――》

 

 念話が切れ、シオンは再び前方、四体の敵魔導師へと集中する。彼達はシオンが念話が切れるのを待っていたかのように一斉に前へ出た。

 シオンはそれに対し、一つの反応を示す。獣じみたニヤリと言う笑みを。

 

《始めようか》

 

    −撃!−

 

 その念話がまるで聞こえたが如く、四人が手に持つアサルトライフルを一斉にシオンへと撃ち放ち、シオンは矢の如く走り出した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 −弾・弾・弾・弾・弾−

 

 虚空に灯るマズルフラッシュ。それは取りも直さず物質弾が放たれた証である。

 シオンは向かい来る弾丸を体を横に向けて躱すと同時に測転。さらに放たれるアサルトライフルの弾丸を避けた。

 

《イクス、セレクト・ブレイズ!》

【トランスファー】

 

 横に回転しながら戦技変換。シオンの動きが一気に加速し、空中に足場を展開と同時に瞬動を発動する。

 それまでのシオンの体速度を遥かに上回る速度でだ。必然、敵魔導師達はその速度に反応出来ない。ノーマルのシオンとブレイズのシオンでは、そもそもの速度が違う。DAを着込んでいるとはいえ、反応速度までは変わらない。加速した速度に付いて来られる筈も無かった。

 アサルトライフルを連射する魔導師の懐にシオンは飛び込み、両のイクス・ブレイズを振るう!

 

    −撃!−

 

 魔導師が気付いたのは、イクスの刃が通り過ぎた後だった。DAの装甲をイクスの刃が”削った”後。シオンはその結果に舌打ちする。

 ブレイズは速度特化型の戦技変換状態である。つまり、攻撃力はノーマルに比べるとかなり弱くなるのだ。DAの装甲が、その一撃に耐えた。それだけの事である。

 突如目の前に現れ、一撃を叩き込んだシオンに、攻撃を受けた魔導師とシオンの後ろに居た魔導師が漸く動き出す。

 左手に――これもオプション装備であろう――コンバットナイフを握ると、シオンへと突き出して来た。

 ――だが、シオンの動きはそれより疾かった。

 

《遅ぇ!》

 

    −閃−

 

    −戟!−

 

 突き出された二条の銀光に両のイクス・ブレイズが閃く! ナイフは、イクス・ブレイズに止められ、あろう事か”絡み取られた”。更にシオンは両手を跳ね上げる。

 ナイフは、それによりあっさりと虚空に舞った。自分の武器を失い、硬直する魔導師二人を前にシオンの身体がぐるりと踊る。横にスピンしながらシオンはイクス・ブレイズを振るい、放った。

 

《絶影・連牙!》

 

    −戟!−

 

    −裂!−

 

 前後の魔導師二人に同時に放たれるイクス・ブレイズ。その軌跡は孤を描き、首へとひた走って。

 

    −撃−

 

 その装甲を叩き、二体を吹き飛ばすだけで終わった。

 

 こいつ達……!

 

 シオンは再びの舌打ちと共にスピンを停止。新型DAの装甲に舌を巻く。想像通りではあるが、やはりこの装甲は厄介であった。

 少なくともブレイズ・フォームではまともなダメージを期待出来ない。

 

 ……ノーマルかウィズダム、あるいはカリバーなら……!

 

 そう思い、戦技変換しようとして。

 

    −撃!−

 

 間を置かず放たれた銃弾に気付いた。先に吹き飛ばした以外の者達。つまり、残された2人の魔導師が放ったアサルトライフルの弾丸である。シオンは戦技変換を諦め、横にステップ。銃弾はシオンの身体を掠めて通り過ぎた――が、当然一撃で終わる筈も無くアサルトライフルは更に銃弾を吐き出す。

 シオンは二、三と続く銃弾を両のイクスで迎撃、弾き飛ばし、瞬動を発動しようとして。

 いきなり突っ込んで来た騎体に目を剥いた。残った二人の魔導師は、一人が援護射撃を放ち、シオンをその場に釘付け、もう一人は突っ込んで来たのだ。

 シオンに迷い無く向かい来る騎体が纏うは蒼の魔力!

 

《ブレイク・チャージ!》

 

    −轟−

 

 撃発音声が念話によって放たれ、DAの尖った肩の部分が前へと倒れる。その部分が展開すると同時に、纏う魔力が濃密さを増す。直後、一気に加速。シオンへと突き進む。

 対し、シオンは横に半歩進んだ。同時に銃弾が途切れる。敵騎体を壁にして銃弾から身を隠したのだ。しかし、それは突っ込んで来る騎体の真っ正面に立つ事を意味する。

 すでに回避出来るタイミングでも無い。無防備なシオンへと、魔導師の騎体は迫り。

 

《セレクト・ウィズダム》

【トランスファー】

 

 突っ込まれる直前で、戦技変換。ウィズダムフォームへと変換する。

 同時にシオンはその身を前方へと投げ出した。まるで、迫り来る騎体に自ら挽かれるような動き。

 防御もせずに、シオンは身体を倒し。

 

《神覇、伍ノ太刀――》

 

 その一言が念話となって辺りに響いた。艦壁へとイクス・ウィズダムの石突きが飛び、叩き込まれる! その動作により、倒れ込むシオンは反発力を利用して一気に前へと出た。その穂先を展開、内部エネルギーを吐き出しながら。

 

《剣魔・裂!》

 

    −轟!−

 

 それは四神奥義を別とするならばシオンが放てる最強の一撃の名である。

 威力にしてSS相当の一撃を、シオンは穂先を中心に魔力を纏い、迫り来る騎体に突き放つ!

 

    −戟!−

 

    −軋!−

 

 二つの貫通突撃は真っ正面からぶつかり合った。

 周りを軋ませながら、ぶつかり合う一撃はしかし、より威力が高く、密度が高い方に押し負ける。

 つまり、シオンの剣魔・裂が敵騎体のブレイク・チャージを破り始めていたのだ。徐々に貫き、穂先が敵騎体へとじりじり突き進む。

 

 これで一騎――。

 

 シオンはその様子に撃破を予測して。

 

《《ブレイク・チャージ!》》

 

 左右からの念話による叫びに、ゾクリと悪寒を覚えた。

 

    −轟!−

 

 そんなシオンに左右から真っ直ぐ突っ込む二つの騎体! それはシオンが絶影・連牙を持って弾き飛ばした二騎であった。

 前方の騎体に剣魔・裂を放っているシオンには、それを回避する術は無い。回避する為には剣魔・裂を解除する他無いが、それは今、鍔ぜり合っている敵騎の突撃を受ける事に外ならない。

 

《まず――!》

【シオン!】

 

    −戟!−

 

 シオンとイクスの叫びを掻き消して二騎が左右からブレイク・チャージをシオンに叩き込む!

 シオンはそれに更なる魔力を放出し、剣魔・裂の勢いを上げて防いだ。

 左右前の三方向からのブレイク・チャージと、剣魔・裂が拮抗し、シオンと敵魔導師は硬直状態へとなる。それに、シオンは舌打ちして。

 

《ブレイク・チャージ!》

 

 響いた撃発音声に愕然とした。先程援護射撃を放っていた騎体が真上に回り込み、突撃を敢行したのだ。拮抗している今の状態で、これが躱せる筈も無い!

 

 こいつ達――。

 

 真上から降り落ちる敵騎を仰ぎ見て、シオンはぐっと息を飲む。

 

 ――共闘(たたかい)慣れてる……!?

 

    −撃!−

 

 シオンへと真上から叩き込まれたブレイク・チャージ。それは拮抗状態を十分打破しうる一撃であった。四方向からのブレイク・チャージは剣魔・裂の勢いに勝り、一気に押し流す!

 

    −戟!−

 

 直後、剣魔・裂はあっさりと破れ、四方向からのブレイク・チャージはその威力を存分に発揮。挟み込まれ、威力が逃せ無いシオンは爆裂したが如く弾け飛び、艦壁へと盛大に突っ込んだ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「「シオン!?/シオン君!?」」

 

 アースラブリッジ。そこで、二つの叫びが木霊する。

 艦長席に座る八神はやてと、バルディッシュの破損により出撃出来ないフェイト・T・ハラオウンの声だ。二人が注視するのは、展開したウィンドゥである。

 そこに今映ったのは、新型DAを着込んだ四人の敵魔導師の突撃により、艦壁に叩き込まれ、未だに穴から出て来ないシオンだった。

 映像を見て、はやてがくっと顔を歪める。

 

「シャーリー。シオン君のバイタルは……?」

「はい! 少し待って下さい……!」

 

 はやてに聞かれる前から既に調べていたのだろう。シャーリーの指がコンソールを叩く。短く、しかしはやて達には長く感じられる時間が過ぎ、やがてシャーリーが頷いた。そして、艦壁に開いた穴も少し動く。

 

「バイタル良好! 大丈夫です!」

 

 その声と共に、穴からシオンがはい出て来る。シャーリーの報告と、映像に映るシオンに一同ホッとするが、そうも言ってられ無い事にすぐに気付いた。

 敵魔導師である。四騎の敵騎は迷い無くシオンへと襲い掛かる。それに対し、シオンは戦技変換。カリバーへと変化し四騎を向かい討つ。だが、先の一撃のダメージのせいかシオンの動きが鈍い。

 ニアSランクの攻撃を四騎から同時に叩き込まれたのだ。寧ろ、今戦えている事の方が不思議であった。

 銃弾、突撃が再びシオンを襲い。シオンは間断無い連携に反撃もままならず、防戦一方となっていた。

 

「シオンが……! はやて!」

「分かってる! 何とかせな……!」

 

 フェイトの声に、はやては頷く。それに、シャーリーが顔を歪めながら訝しんだ。

 

「でも、何でシオン君、精霊融合や精霊装填を使わないんでしょうか?」

「いえ、違います。使え無いんです」

 

 シャーリーの疑問に隣の席から答えが来た。グノーシスから来た管制官、シオンの幼なじみ、御剣カスミである。彼女もまた、防戦一方のシオンに顔を歪めていた。

 

「精霊融合は反動の冬眠がありますし、精霊装填は……」

「魔力消費が半端や無い、やろ?」

 

 カスミの言葉を、はやてが引き継ぐ。その目はモニターを見たままに続ける。

 

「シオン君はさっきSSSランクの精霊装填技を使ってる。アレで魔力を四割は使ってる筈や。精霊装填は使えて後、一、二発が限界やろ」

「あ……!」

 

 その言葉に、シャーリーはシオンが出現させた黄金の巨龍を思い出した。次元航行艦レベルの防御障壁を、三枚纏めて軽々と破ったあの技である。

 四神合神剣技・黄龍煌麟。

 シオンが放てる最大威力の技――それはつまり、魔力を最大消費する技と言う事に他ならない。

 

「それで決められるなら問題無いよ。でも、ブリッジの占拠が元々の目的だから。ここで魔力を全部使っちゃう訳には行かないんだよ……」

 

 フェイトが最後に締め括る。その目は苦戦を強いられるシオンを見続けていた。映像に映るシオンは良く戦っていると言える。

 精霊融合、装填抜きでAAA+、あるいはSに匹敵する敵魔導師四騎を相手取って、未だ落ちていないのだ。だが、それも時間の問題である。このままでは、シオンは――。

 やがて、フェイトがくっと歯を食いしばった。そのままシャーリーへと視線を移す。

 

「やっぱり、私が出るよ! シャーリー、バルディッシュは……!」

「だ、ダメですダメです! バルディッシュは本体が破損してるんですよ!? 戦闘行動なんて出来ません!」

「っ! でも……!」

 

 シャーリーが必死に首を振り、それにフェイトが悔し気に顔を歪める。

 何も出来ない自分をフェイトは責めた。やっと立ち直り、この場に居ると言うのに、教え子を助けられない自分を。

 それは、はやても同様であった。未だ、リインはアギトと共に眠りについており、シュベルト・クロイツも破損している。

 この場に居る者で、シオンの援護に行ける者は誰も居なかった。

 ブリッジに暗い空気が流れて――。

 

《――はやてちゃん!》

 

 突如、通信がブリッジに響いた。モニターの脇にウィンドゥが展開する。そこに映るのは、アースラの主任医療官、シャマルであった。

 いきなりの通信に、はやてが目を丸くする。

 

「シャマル? どないかしたん?」

《はやてちゃん! 皆が! シグナムとヴィータも――!》

 

 次の瞬間。

 

 

    −撃!−

 

 震えた。アースラが、僅かに。直後、ブリッジにアラームが鳴り響く。

 

「っ! シャーリー!?」

「は、はい!格納庫の隔壁で爆発! 敵の攻撃では無い見たいで……て、ええ!?」

「……シャーリー?」

 

 報告の最中に、素っ頓狂な声が出て、フェイトが訝しむ。それにすら、反応出来ずシャーリーは硬直。しばらくして、ゆっくりはやてとフェイトに振り返る。

 その顔は見て分かる程引き攣っていた。

 

「え、えーと。その、さっきの爆発、敵からの攻撃じゃない見たいです」

「……どう言う意味なん?」

「その……」

 

 しばらくシャーリーは迷い、ややあって報告を告げた。その報告を聞いて、はやて、フェイトは数十秒近く沈黙。やがてそれぞれ頭を抱えた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

《ぐっ……!》

【マズイぞ、シオン!】

 

 分かってると心の中で叫びながらシオンは両のイクスを振るう。それは飛来する銃弾を防ぎ、弾く。同時にシオンは虚空に足場を展開し、突っ込んでくる二騎の敵魔導師を向かい討った。二騎が持つは、オプションのコンバット・ナイフ。

 

《っら!》

 

    −撃!−

 

    −戟!−

 

 両のイクスが、突き込まれるナイフの刃を弾き、受け止める。接近戦の技術は、シオンの方が遥かに上である。二騎同時であろうと遅れは取らない。だが、敵は二騎だけでは無い!

 

 −撃・撃・撃・撃・撃−

 

 隙間を縫うようにして、放たれるアサルトライフルの銃撃! シオンは顔を歪め、両のイクスを跳ね上げて二つのナイフを弾きながら動く。

 銃弾を何とか回避。そのまま一番近い敵騎に蹴りを叩き込み、距離を取る。

 

 止まるな――!

 

 シオンは胸中、叫ぶ。その目は見失なった最後の一騎を捜し、さ迷う。動きは一切止めないままにだ。何故なら。

 

 止まれば、やられる――!

 

 それは確信であった。さっきの突撃のぶつかり合いで悟った事。この四騎相手に動きを止めるのは自殺行為と同義であった。

 放たれる火線がシオンを掠める、それは上からだった。シオンが真上へと顔を上げる。

 そこに映るのは、今まさにブレイク・チャージを発動せんとする敵騎の姿であった。

 

《ブレイク――》

《ちぃ……!》

 

 舌打ちを放ち、シオンは右のイクス、短槍となったイクスを振り上げる。即座に槍が展開。エネルギーを開放した。

 

《弐ノ太刀! 剣牙・裂!》

 

    −撃!−

 

 シオンの念話による叫びに応え、展開したイクスから穂先が一気に伸びる!

 それは真っ直ぐに飛翔し、ブレイク・チャージを発動しかけた敵騎を捉えた。その一撃をまともに受ける愚は避けたか、ブレイク・チャージを停止。左手を翳し、シールドを展開した。

 

 

    −軋っ−

 

 穂先の中心は、迷い無くその中央に突き立つ。出足をくじかれた敵騎はたたらを踏み、突撃を止めた。

 

 ――それが狙いだった。

 

《神覇、伍ノ太刀!》

 

 イクスの穂先により、動きを縫われた敵騎は硬直している。そんな敵騎にシオンは魔力を身体に纏い、一気に駆け出す!

 左手の長剣を前へと差し向けたままに、シオンは敵騎に突っ込み。そして。

 

《ブレイク・チャージ!》

 

 再びのブレイク・チャージが突き進むシオンの横へと叩き込まれた。その突撃で技の発動を邪魔されたシオンはぐっと唸り、再び、ブレイク・チャージにより吹き飛ぶ。

 だが、今度は艦壁まで吹き飛ばされる事は無く、形成した足場へと着地する事で何とか堪えた。同時に穂先を戻す。

 

《くっそ……!》

 

 シオンは止まらずこちらへと襲い来る四騎の魔導師に歯噛みする。

 一騎、一騎は正直大した事は無い。DAを装備しているとは言え、一騎打ちならすぐに撃破出来る程度の相手だ。

 だが、彼達は当然1騎では無い。四騎の彼達は、ガジェットや因子兵に出来ない――言ってしまえば”人間くさい”連携を組んでいたのだ。

 一騎ずつなら大した事が無くとも、四騎を総体として、有り得ないレベルの戦闘力へと跳ね上げている。

 これはアースラのFWチームと同じ事が言える。一人の戦闘力は普通より多少優秀な程度でも、それを重ね合わせる事により数倍になりかね無いレベルに押し上げているのだ。今の、”普通”のシオンでは、この連携は捌ききれない。

 

 ……使うか?

 

 シオンは自問する。己の切り札たる精霊融合・装填を使うかを。だが、シオンの直感はそれを拒み続けていた。

 こいつ達で”終わりでは無い”と、そう訴え続けていたのだ。

 だが、このままではじり貧で終わる。詰め将棋と同じである。捌ききれない以上、いつかやられる。

 後の事を考え余力を残して置いて、今やられる。それほど馬鹿らしい事も無い。

 シオンは迫り来る四騎にぎりっと歯を食いしばり。

 

《ちっくしょうが……!》

 

 悔し気な声を漏らしながら、指を噛む。血は玉となってぷっくりと出た。それを人差し指で擦り合わせ、潰し、魔力を纏わした上で血文字を虚空に描く。何せ、無重力空間だ。そうしなければ、血文字も描け無い。描く文字は――。

 

    −撃!−

 

 直後、シオンは背中に衝撃を受けた。

 

《か……!?》

【シオン!?】

 

 誘導魔力弾。それによる攻撃である。対魔力があるからこそ、衝撃を受けるだけで済んだが……。

 

 いつ、そんなもの――!

 

 前から迫る四騎は、そんなモノを放っていない。それはシオンも確認済みだ。ならば、誰が?

 答えはシオンの真後ろにあった。そこには、”前から接近して来る四騎の魔導師と同じ新型DAを装備した者達”が居た。

 その数、八騎。それは、一つの事実を意味している。

 

《増、援……!?》

 

 愕然とするシオンは、馬鹿なと呟く。だが、それは紛れも無い事実であった。八の騎影が一気にシオンへと殺到する。前の四騎と合わせて十二騎。新型DAを纏う彼達がシオンを囲む。

 

【シオン】

《分かってる……! 使うぞ!》

 

 シオンにもう迷いは無い。後の事を気にしている状況では無くなったのだ。今必要なのは、敵騎を纏めて倒す手段! それは一つしか無かった。手に赤く染める血を振るい、シオンは文字を描く。その文字は『雷』。

 

《来い! ヴォル――!》

 

 念話による叫びが響く。精霊召喚。シオンは切り札を発動する為に、友にして隣人たる精霊を召喚する。それを阻止せんと、アサルトライフルが火を吹き、誘導弾が放たれる。しかし、シオンは一切構わず。最後まで名を呼ぼうとして。

 

《切り札使うんは、まだ早いやろ。アホシオン》

 

 念話がシオンに響いた。

 

 この声は……!

 

    −射!−

 

 瞬間、”剣が矢となり”飛来。誘導弾の事如くを撃ち貫く――それで終わりでは無かった。

 

《先輩は弱いんだからよ。無理すんなって言っただろ?》

 

    −撃!−

 

 聞き覚えのある先輩を先輩と思わない念話と共に放たれるのは魔力斬撃! それは、アサルト・ライフルから放たれた銃弾を一部消し飛ばし。

 

《シオンだしね〜〜。……この借りで後で何して貰おっかな♪》

 

    −破!−

 

 脳天気なくせに、やたらとSな念話と共に砲撃が放たれる。光砲は更に銃弾を消し飛ばした。これで敵騎が放った攻撃は全て消えた。

 敵騎もシオンを見ていない。顔まで隠れているDAのせいで判別出来ないが、その動きは動揺が混ざっているようにシオンは思った。

 

《ヘタ君には後で一発芸でもやってもらおか♪ 勿論、爆笑取れるまで終わせんで?》

 

    −轟−

 

 相も変わらずお笑いの事を言ってくる関西弁の念話が響くと共に放たれるは渦を巻く衝撃波。それは、今も敵艦のブリッジを目指す少女の一撃である。

 ここに居ない彼女の一撃を再現したのだ。衝撃波は、四騎のDAを纏めて束縛する。

 

《全くよ。この借りはでかいと思えよ? ヘタレオン!》

 

    −裂!−

 

 その四騎に、ぶっきらぼうな念話と共に放たれるは、真空間に発生した竜巻。それが容赦無く四騎を吹き飛ばす。

 それを見た残る八の敵騎は即座に散解しようとして。

 

《貴方は毎回懲りないですね本当に――まぁ、そんな無茶するあたりが、シオンらしいですけど》

 

    −閃!−

 

 続く烈風の一閃が、やたらと慇懃な敬語と共に放たれ、残る敵騎を纏めて撃つ。その一撃で倒れ無いまでも、相当な衝撃を叩き込まれたか、敵騎はその場で硬直する。

 

《あのブラウニーの真似事なんかするから、こう言う目にあうのよ。少しは反省しなさい》

 

    −砲!−

 

 明るい、しかし姐御的な言い回しと共に光砲が撃ち込まれ、硬直する二騎に直撃。盛大に吹き飛ばし。

 

《まぁ、今回は俺達が寝てたせいがでかいからよ。今度、飯奢る程度で許してやるよ。……あ、肉な肉。やっぱ怪我したら肉だよなー』

 

    −斬!−

 

 やたらと脳天気かつ、鷹揚な念話と共にシオンを”摺り抜け”て、斬撃が飛ぶ。それは、残る六騎”のみ”を纏めて打撃し、軽快に吹き飛ばした。

 

《いろいろあるがよ。ま、俺達が寝てる間に迷惑掛けちまったな。……それは置いといてヤニねぇかヤニ。吸えねぇだろうがくわえときてぇ》

 

    −弾!−

 

 −弾・弾・弾・弾・弾−

 

 労いの言葉なのに、最後はやっぱり煙草を求める念話と共に、六の銃撃が容赦無く敵騎に叩き込まれる。弾かれたように、更に吹き飛ばされ。

 

《――済まんな、シオン。迷惑を掛けた》

《それと、後でなのはの事聞かせろよ》

 

    −烈!−

 

    −戟!−

 

 連結刃の一撃が、三騎を追撃。横薙ぎに、打撃し、同時に三つの鉄球が残る三騎に撃ち込まれる。

 そして、シオンの周りにはあれほど居た敵騎は纏めて吹き飛ばされ。代わりに、見慣れた顔が出揃っていた。

 アースラで寝ている筈のグノーシス・メンバー。そして、ライトニング2、シグナムとスターズ2、ヴィータ。

 総計十一人の顔ぶれが。

 皆、本来はまだ寝てなくては駄目なのだろう。そこらに包帯は巻いてあるし、片腕や片足をギブスで固めている者も居る。

 当然、まともに戦えるような状態では無い。

 だが、それでも無理矢理に駆け付けたのだ。戦う為に。

 シオンを助ける為にとは誰も言わない。真実、誰もそうは思っていないだろう。だが、それでも彼達は――。

 しばし呆然としていたシオンだが、やがてへっと笑う。そして駆け付けた彼達に皮肉気に口端を吊り上げた。

 

《怪我人は大人しく寝てりゃあいいのに。皆揃って目立ちたがり屋だなぁ……》

《言ってろ。大ピンチだったじゃねぇか》

《これから大逆転の予定だったんだよ。――ま、でも折角来たんだし、一つ楽しんでいけよ》

 

 そう念話を飛ばしながら、シオンはぐるりと首を巡らせる。そこには、いくら本調子では無かったとは言え、グノーシス・メンバーと、シグナム、ヴィータの一撃を受けて尚も倒れない十二の騎影があった。

 また随分、頑丈である。だが。

 

《んじゃ、反撃開始と行こうか!》

《お前が仕切るな アホ》

 

 シオンの念話にコルトのツッコミが入り、直後、一気にシオン達は敵騎に踊り掛かる。

 ここに反撃開始の幕が開いた。

 

 

(中編1に続く)

 




はい、第四十話前編でした。ちなみに今回出て来た魔導師が着ていたDAのイメージは某ガーリオンさんですな(笑)
AAA+ランク相当まで戦闘力を底上げしてくれる逸品です。
では、次回もお楽しみにー。

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