魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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はい、第三十九話中編1です。反逆編もいよいよクライマックスとなります。タカトとなのはの逃避行、そしてシオン達アースラの逃避行の終わりと共に第四章「逆襲編」へと参りますので、お楽しみー。では、どぞー。


第三十九話「幸せにしてあげる」(中編1)

 

    −撃!−

 

 撃ち込んだ肘。しかし、その感覚にタカトは眉を潜める。メッテでの戦いで、タカトは襲い掛かって来た巨漢に肘を叩き込んだ。肘は、巨漢――ゲイルと言ったか、にめり込んでいる”筈”である。だが、いつものような打撃を”徹した”感覚が無い。これは――?

 

「ハァ――!」

「……ちっ」

 

 叫び、共に振るわれた両手に短く舌打ちし、撃ち込んだ肘を支点に押し返すようにしてぐるりと重心を変化。腕を摺り抜けると同時にタカトの足が空を滑る。

 展開した足場を利用した歩法。一切のロスを生じさせぬ、すり足の極致であった。それを持って、ゲイルの後背に回り込む――ゲイルからすれば、それは消失にも等しかった。視界からタカトが完全に消えたのだから。

 

    −破!−

 

「ぎっ!?」

 

 直後、ゲイルが吹き飛ぶ。空中から叩き落とされ地面へと突っ込んだ。タカトはフムと突き出した掌を見る。――誰が知るだろう、その突き出した掌がゲイルを吹き飛ばしたのだと。

 

 ……また、”徹った”感触が無い。

 

 タカトはそう、思う。彼の打撃は基本として内部に衝撃を撃ち込む。俗に裏打ち、浸透勁、そう呼ばれる技法を持って放たれる。

 この技法はバリアジャケット等のフィールド系魔法を無力化する。

 フィールドを逆に利用し、腕の延長のように扱って、衝撃を内部に撃ち込むのだ。

 だが、いつものように打撃を撃ち抜いた感触が無い。打撃の瞬間、まるで分厚い真綿のような感触が返って来たのである。全ての衝撃を分散させられたような、そんな感触が。

 

「へへへ……」

「……」

 

 案の定、あっさりとゲイルは起き上がる。タカトは無言で再び地上に降り立ち、ゲイルを見据えた。

 

「……容赦がねぇな。ISが無けりゃあ、今ので肉塊になってる所だぜ」

「IS……?」

 

 ゲイルの台詞――正確にはその単語に眉を潜める。それは、一体何だと言うのか。

 タカトはそれを知らない。だが、目の前の男がかつて対峙し、一時は共に戦ったN2Rと同じ存在だと分かっていれば、単語は知らずとも納得していただろう。

 魔力を使用しない、先天性固有技能。戦闘機人特有の能力、それが彼等の力の名であった。

 

「IS、ポイントアクション」

「ポイント……? 地点、いや座標か――」

 

    −撃!−

 

 突如、タカトが後ろのめりに吹き飛んだ。

 

 ――!?

 

 いきなり顔面に受けた衝撃に、タカトが目を見開く。何らかの一撃、打撃にも似た”何”かを受けたのである。それは、間違い無い。だが、それは一体何だと言うのか。

 ”男は、何の挙動も両手の重機関散弾銃も使っていないのに――!”

 

「――ちっ」

 

 再びの舌打ちを放ち、タカトは後方宙返り。体勢を立て直す。見る先にはゲイルが居る。

 ニタニタとタカトを嘲笑うが如く、嫌な笑いを顔に貼付けていた。それは余裕という笑み。

 

「りぃいぃぃいぃ……ひゅううぅうぅ……」

 

 呼吸法にのっとり、気息を整える。そして、一気にゲイルへと駆け出そうとして――。

 

「な、に……?」

 

 身体が、動かなかった――否、正確には腕を初めとして、胴、足が何かに捕まえられているような感覚があった。バインドにも似て、しかしそれは絶対に違う。

 何せ、タカトの目にはバインドのようなものは、何も映っていないのだから。

 

 まるで透明な、巨大な手に握られているような――?

 

 そこまで考えて、タカトは”それ”に漸く気付く。それは”歪み”であった。

 

 そうか。ポイント・アクションとは――。

 

「今度こそ、散りくたばれ」

 

    −轟!−

 

 直後、男より放たれた見えない”何か”がタカトに襲い掛かる。ポイント・アクションに捕らえられたタカトは何も出来ずに全身に受け、盛大に吹き飛ばされた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 第78管理外世界、宇宙空間。次元航行艦『シュバイン』のブリッジは、混乱の極みの中に居た。

 建前上はアースラ追撃の為、本音は地球、グノーシス侵略の為に集めた次元航行艦隊だが、突如の強襲により、三隻共、主兵装を破壊、沈黙させられたのだ。

 しかも、建前として追っていたアースラ、そのメンバーの一人によって。これで混乱せぬ筈も無い。

 

「こ、こんな筈じゃ……!」

「提督!」

 

 艦の現状に、顔を真っ青にしたビスマルクに管制官から叫びが飛ぶ。ウィンドウには、更に加速しながら艦隊に突っ込む岩塊が――否、既に岩塊は別の姿へと変わっている。黒髪の青年と、赤髪の少年へと。

 クロノ・ハラオウン、そしてエリオ・モンディアルの両名が艦隊へと真っ直ぐに突っ込んで来ていた。

 

「敵、魔導師二名、接近中! 距離100を切りました!」

「迎撃部隊を出さないと……!」

 

 口々にビスマルクに放たれる報告。そして、指示を仰ぐ声に、しかしビスマルクは首を振るだけだった。

 

 ……何だ、この状況は……。

 

 ビスマルクは、現状が信じられなかった。彼の予定では地球に進攻後、アルカンシェルで即座に地球を蹂躙し尽くし、そして本局に凱旋している未来があった筈なのだ。

 それが今、地球にすら進攻出来ず、しかも建前として追っていた半壊の部隊により、艦隊は兵装を沈黙させられたのだ。悪夢としか言いようがなかった。

 

「提督!」

「……こんな、こんな、私の輝かしい未来が……」

 

 ブツブツと頭を抱えて呟き続けるビスマルクに、管制官も顔を青くする。

 指揮官は錯乱し、現場は混乱の渦。こんな状況では、迫り来る敵機動戦力に対して、こちらの機動戦力――ガジェットやDA装備の因子兵だ――を、出撃させる事も出来ない。

 上が混乱するとは、つまりこう言った事であった。

 頭(指揮官)が指令を出さねば、手足(部下)は動けない。

 このまま行けば、機動戦にもならずにクロノ、エリオだけでも艦内を制圧出来ただろう。

 アースラの予定とは違うが、あるいはその方が良かったかも知れない。だが――。

 

「どうしました?」

 

 凜、とした声がブリッジに響く。その声に管制官だけでは無く錯乱していたビスマルクすらも身体を震わせた。

 それは、少年の声だった。十代前半の、声変わりすらしていない声。だが、その声はあまりにも冷たい。

 

「――ああ、強襲ですか。これは、失態ですね」

「いや、あの……」

「何をボケっとしているんです?」

 

 少年は笑顔だった。笑顔のままに、ビスマルクに疑問を投げ掛ける。敵が迫っているのに、何故機動戦力を配置もしていないのか、と。

 にっこりと冷たい笑顔のままに、そう、問うたのであった。

 

「……困りますね。役立たずは、とても困ります」

「あ、あ……」

「”処理”されたいのですか?」

 

 処理。その単語を聞いた瞬間、ビスマルクを初めとしてブリッジ一同の顔が青から白へと変わる。恐怖によって血の気が更に引いたのだ。

 即座にブンブンと、首を横に振る。少年がその反応に再びくすりと笑い、踵を返す。あっさりと扉から出た。

 

「――止まっていて、いいのですか?」

 

 そんな、台詞を残して。

 残された声に押されるように、ビスマルクが指示を出し、ブリッジが正常に動き出す。

 少年は、それらを背に受けながら廊下を歩く。その顔は変わらぬ笑顔のままであった。

 

「アースラかぁ。こんなに早く遭遇するなんてね。”彼”にも会えるかな?」

 

 そう一人ごちながら歩く。そして右の手に握った鞘に、納められた刀の柄を愛おし気に撫でた。

 

「なんで、彼はこんな素敵なモノを捨てたのかなぁ? これだけの”力”があれば彼に敵なんて居なくなるのにね」

 

 柄を撫でながら少年は歩く。その歩みの向かう先は、格納庫であった。

 通路を歩いて行くと、その途中に鏡のようなモノがあった。恐らくは純正の鏡ではあるまい。その鏡に映る自分を見て、クスリと微笑した。

 

「――僕を見たら、彼はどんな表情(かお)をするんだろうね?」

 

 そう笑う少年は――”銀の髪”の少年は、ただ笑い続けた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

《敵、次元航行艦隊まで距離70(700m)です》

《ああ、目と鼻の先まで来れたか》

 

 宇宙空間を駆ける二人、エリオとクロノはアースラ管制官、シャーリーの通信に頷く。向かう先は次元航行艦隊であった。何故か、未だに機動戦力も配置していない。

 これにクロノは訝しんでいたが、しばらくして艦隊からバラバラとまるで蜂の巣から出てくる働き蜂のように、現れたモノがあった。ガジェットと因子兵である。

 

《敵、機動部隊出撃。数――250!》

《本局決戦よりは少ないですけど》

《ああ、油断出来ない数だな》

 

 シャーリーの通信を聞いたエリオの念話にクロノも頷く。

 本局決戦時と比べる事自体間違っているが、戦力差を考えるとあながち間違ってもいない。

 何せ作戦上、あの数を自分達二人――ディエチを入れても三人で相手取らなければならないのだから。

 普通に考えれば、無謀である。だが。

 

《敵、機動部隊。それぞれ50ずつ。三隊に分かれました》

《前衛、後衛、そして艦の直援か。無難な配置だな》

 

 無難ではある、が。それ故に、この配置は正しい。数で勝る以上、向こうが余裕を持った配置をする事は予想内であった。

 

《どうしますか? クロノさん》

《フェイズ2の目的は機動部隊と艦隊の”引きはがし”だ。……その為にも、直援には前に来て貰う必要がある》

 

 言うなり、クロノはその場に急停止。エリオもそれに続く。視線は自分達に向かい来るガジェット、因子兵群に向けられていた。

 

《まず、向こうの数の優勢から来る余裕を崩して、あの陣形を崩さなければね》

《え? どうするんですか?》

《決まってる》

 

 すっと右手に持つ真・デュランダルを掲げる。そのコアが青白い光を放っていた。

 

 ――真・デュランダル。

 グノーシスにより改造され、ロスト・ウェポンと化したクロノのデバイスだ。クロノは本局決戦後、怪我で痛む身体に鞭を打って、このロスト・ウェポンを分析した。

 そして分かったのは、これが出鱈目な代物であると言う事だった。

 構造としては簡単極まり無く、デュランダル本体に、あるモノを組み込んだだけである。しかし、このあるモノが大問題であった。

 取り敢えずクロノは、これを前に三時間は頭を抱えた。

 それは、莫大なエネルギー体であった。

 ――断言出来る。管理局に持って行けば、ロストロギア指定間違い無しのものだと。

 曰く、ロストロギア、デュランダル。

 奇しくもクロノのデバイスと同じ名前の霊具であった。このロストロギア、元は剣だったらしいのだが、物質であるかどうかはかなり疑問であった。と、言うのもシャーリーと調べた結果。この剣、最初から”エネルギー剣”であった可能性が高い。

 つまり純粋かつ莫大極まりないエネルギー塊だったと思われるのだ。

 このデュランダルと言う剣は、フランスの英雄ローランが所持していた聖剣として名高い。伝承によれば、この英雄の最後のエピソードに岩に叩きつけても折れなかったというものがある。純粋なエネルギー剣ならば”折れる”という概念すらなかっただろう。

 おそらくは莫大なエネルギー量により、半物質化していたと思われるのだが――話しを戻そう。

 そんなロストロギアを、デバイスの方のデュランダル本体に直結する形で組み込んであるのだ。故に登録魔法の殆どが、そのエネルギーを汲み出し、利用する形として組まれている。莫大なエネルギーをクロノの魔法に変換する様式とされているのだ。

 これで、クロノは漸く合点がいった。このデュランダルLは元々凍結と何の関係も無い物である。言わば、無色のエネルギーだからだ。

 しかし、そこにデュランダルDの特性。つまりは凍結が加わり、あのような殲滅型凍結魔法が登録魔法の殆どと化したのだった。

 ……製作者が、本当に使用する者の事を考えていないと言うのはよく分かった。シャーリーも苦笑していた程である。

 結果として、クロノは出力に掛かる魔力リソースを抑える形で、魔力消費を三分の一に留めるように、術式を組み直した。当然、攻撃範囲、威力等は下がる。しかし、クロノに言わせれば、それでも過分に過ぎる程であった。

 そう、威力も範囲も大き過ぎるのだ。何せ、これを完全にエネルギーとして開放した場合、試算した結果、大規模次元震確定とされた程なのだから。

 だから、それを攻撃として使うならば、それは――。

 

《――悠久なる凍土。永久なる氷河。遍く魔を封じせし、最終地獄(ジュデッカ)。全ての命は等しく凍り、全ての魂は等しく安らぎを得ん。我、ここに神意を代行せん!》

 

 例えば、永久なる棺(エターナル・コフィン)と言う凍結封印魔法が元々デュランダルにはあった。広範囲に渡り、対象を凍結せしめる魔法であり、その効果、範囲、威力は絶大である。

 それを、”真・デュランダル”の出力で放ったならば? クロノはそれを考えた時、身震いすらした。

 だが、もしそれを完全に制御出来たのならば、かねがね出力に悩まされて来たクロノにとって、最大級の武器となる――!

 永唱完了。同時にクロノは前を見据えた。自分達に突っ込んでくる前衛のガジェット、因子兵群を。

 真・デュランダルから溢れるエネルギーを魔力によって方向性を決めてやる。それだけでいいのだ。元よりこのロスト・ウェポンは、それを目指して創られたモノなのだから!

 

《凍てつけ!》

【永久氷結地獄(コキュートス)】

 

    −凍!−

 

 瞬間、確かに空間が軋んだ。それは、タカトやトウヤのように存在からなる軋轢によって生まれる軋みでは無い。

 ”凍りつかされ、空間そのものが縮んだ”事による軋みだった。

 

《……これ程、とはね……》

《…………》

 

 ぜぃぜぃと息を荒げながら自身が成した結果にクロノは苦笑する。エリオはそれをどこか遠くで聞いた感覚で聞いていた。

 エリオとクロノが見る先、敵前衛が居た空間”そのものが”凍りついていた。

 場所では無い、”空間”がである。

 威力にしてみれば、どのくらいのレベルと化すと言うのか。

 前衛のガジェット、因子兵群は纏めて凍りついていた。

 直後、びきびき、と凍りついた空間に皹(ひび)が入る。世界は、常に在るべき姿に戻ろうとする特性がある。凍結された空間は、その対象となっているのだ。結果は――。

 

    −砕−

 

 砕けた。砕けた、砕けた、砕けた砕けた砕けた砕けた砕けた!

 凍結された空間が容赦なく砕ける。その中に居たモノ達と共に。

 それは完全に砕け散り、消失した。

 まるで、最初から何も無かったが如くに。

 クロノはそれを見て、ヒト相手にこれは絶対に使うまいと心に誓った。容赦無く、殺してしまいかねない。

 こうして、敵前衛は完全に消滅し、ストラ側の次元航行艦隊は後衛のガジェット、因子兵群、そして直援部隊も前に出して来た。今の一撃を見て、クロノを真っ先に潰すべきだと判断したのだろう。

 

 ……上手く、いったな。

 

 荒い息をどにか収める。そして、横で硬直するエリオの肩を叩いてやった。

 

《エリオ、僕達の役目はここからだ。……固まってる暇なんてないぞ》

《は、はい!》

 

 びっくぅ、とエリオが飛び上がり、クロノに慌てて頷く。先の一撃の直後だ。その反応は無理も無い。苦笑し、向かい来る敵機動部隊に視線を移した。

 

《後はシオン達次第だ。僕達の役目は――》

《敵を引き付ける事。陽動です》

 

 はっきりと答えるエリオに、クロノは再び頷く。そして。

 

《エリオ、君が前衛で僕が後衛だ。ディエチは――》

《援護、だね。分かってる》

 

 返ってくる念話にクロノは微笑する。そして、真・デュランダルを握りしめた。

 

《いくぞ》

《はい!》

《了解》

 

 短い返答と共に、エリオが前に。クロノが後ろからそれを追い掛ける。

 

 フェイズ2、継続中。フェイズ3、艦内突入まであと僅か――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

    −轟!−

 

 全身に見えない何かを叩きつけられ、吹き飛んだタカトが舗装された地面へとめり込む。呻きと共に、ケホと一つ咳をして、タカトが顔をしかめた。

 

「ぐ……っう……」

「HAHAHaHaHa! どうしたよベイビー? 『貴様には無理だ』じゃあなかったかぁ!?」

 

 そんなタカトを見て、ゲイルがカカと豪笑する。笑う目には明らかな嘲りが含まれていた。タカトはそれに、悔し気に舌打ちする。

 

「ポイント・アクション。……そういった能力とはな」

「おお? もう気付いたのかよ。まぁ、気付いたとしてもこの能力の前には無意味だがなぁ!」

 

 タカトの台詞に、更に笑う。それを見て、タカトは顔を歪めた。

 

 ――ISポイント・アクション。空間操作能力、それがこの能力の全容であった。そもそも、おかしくはあったのだ。タカトの認識範囲は2Kmまで広げてあった。言わばこの範囲だけ、全てタカトの触覚が広げられているようなモノである。例え、光速でこの中に侵入しようと、入った瞬間にタカトは気付く。それが、全く気付かずに侵入されたのだ。

 恐らくゲイルは空間操作能力で、空間転移か接続かで直接その場に現れたのだろう。

 先の真綿のような感触もそうである。あれは空間を任意に遮断し、防御障壁へと変えたのだ。いかなAA+相当の打撃であろうと、空間を遮断されてしまえば衝撃が徹る筈が無い。

 例の見えない砲撃や束縛も、空間操作能力より派生した攻撃である。見えない砲撃は、空間を圧縮する事により生じた余剰エネルギーを衝撃へと変換し、空間衝撃砲を形成したのだろう。見えない束縛も、空間を固定化する事により強制的にタカトの動きを止めたのだ。

 ポイント・アクション。厄介に、厄介な能力であった。

 

「……空間操作能力か。先程言った第二世代とやらは、こう言った意味か?」

「いーや、違うね。これはあくまで俺の能力だ。第二世代って意味は別にある……戦闘機人って知ってるか?」

「いや、先も言った通りだ。露程も知らん」

 

 あっさりとタカトは否定する。本当に知らないのだろう。ゲイルがフンと鼻を鳴らす。

 

「ケッ……田舎モンがよ」

「そう言うな。貴様の空間操作能力の前では俺は手も足も出ん。冥土の土産程度には教えて欲しいものだ」

 

 タカトの降参宣言とも取れる言葉に、ゲイルがふふんと調子ずく。余程自慢したいのだろう。得意気に語り出した。

 

「そもそも戦闘機人ってのは先天的に遺伝子やらに手を加えて機械をインプラントしたサイボーグ兵のこった」

「先天的に? ――そうか。拒否反応か」

 

 ゲイルの台詞に、タカトはフムと頷く。同時、思い当たる者達が居た。アースラに居るN2Rの面々である。彼女達の骨格フレームを、タカトは水迅で切り断った事があった。

 確かに、彼女達は魔力を使用せずに魔法じみた戦闘を行っていたが。

 

「……なる程な」

 

 合点がいき、タカトはフムフムと頷く。しかし、第一世代と第二世代の違いがよく分からない。ISとやらと言い、性別の違い以外では大した違いは見受けられないのだが。

 

「……で? 第二世代の意味は?」

「あン? てかお前、さっきからなんか、根掘り葉掘り――」

「くっ……! ここまで俺を追い詰めた第二世代戦闘機人の事を死ぬ前に一度聞きたいモノだが……!」

「し、仕方ねぇなぁ……」

 

 タカトの台詞にゲイルはまんざらでも無い笑いを浮かべる。……普通ならばここでタカトの様子がおかしいと気付くのであるが。悲しいかな、ゲイルは超が付く程のお調子者であった。

 

「戦闘機人ってのはさっきも言った通り、先天的に遺伝子を弄られて作られる――だが、これだとどうしても一体一体作るのに時間が掛かる。大量量産にそもそも向いてねぇんだ。……だが」

「……だが?」

 

 ゲイルの台詞に、タカトが首を傾げながら言葉を重ねる。ゲイルは、ニタッと笑い続けた。

 

「ストラの指導者、ベナレス・龍は”後天的”に遺伝子配列を弄り、戦闘機人を生み出すシステムを確立させたんだよ。これなら生まれてすぐなんかじゃなく、処置をうけりゃあ誰でも戦闘機人になれる。つまり大量生産可能って訳だ」

「後天的に? ――いや、そうか」

 

 いかにして、後天的に遺伝子を操作する術があるか、タカトはそれに即座に思いついた。

 それは、グノーシスで封印指定に処された二つの技術内の一つであった。

 分子レベルでの遺伝子操作を可能とする技術。極端に倫理感を問われる技術の為に、封印された技術であった。その名を――。

 

「ナノ・テクノロジー……」

「お? 何でお前がそれ知ってんだ?」

 

 ゲイルが不思議そうにタカトに尋ねるが、それに、彼は肩を竦めた。

 めり込まされた地面から身体を引き抜き、立ち上がる。

 

「成る程な。いや、期せずして面白い話しを聞けた。感謝しよう、ゲイル・ザ・ファントム」

「お、おう」

「礼として、だが――」

 

 そこでタカトはにっこりと笑った。ゲイルは何故かその笑いに、不気味な予感を覚える。

 まるで、巨大な台風に一人立たされているような、そんな予感を。

 

「お前の能力の弱点、及び破り方について教示してやろう。ついでに精一杯”手加減”してやる」

「は……?」

 

 一瞬、何を言われているか分からずにゲイルの目が点になる。しかし、その言葉の意味を理解しだすと、血管が破れんばかりに顔を怒りに染めた。

 

「てめぇ……!」

「行くぞ? 構えろ」

 

 優しく言うなり、タカトは再びゲイルの懐に、刹那で飛び込んだ。持ち上げ、振り上げるのは右の拳。

 

 ――馬鹿が!

 

 内心タカトを悪し様に罵倒し、ポイント・アクションを発動。自分と周囲の空間を遮断する。これで、自分はもはや鉄壁となった。どんな攻撃も通じない――。

 

「天破疾風」

 

    −撃!−

 

 直後、遮断された空間がパリンと言う”可愛い音をたてて割れた”。暴風を詰め込んだ拳はそのまま、ゲイルの鳩尾に突き刺さる!

 

「が、ぎ、ぐ、げ……」

「ご?」

 

 鳩尾にまともに刺さった拳にゲイルが奇妙な悲鳴を上げる。タカトはそれを楽しそうに続けた。

 

「――空間に対するエネルギー理論、と言うモノがあるのを知ってるか?」

「が、があ!」

 

    −轟!−

 

 空間衝撃砲を即座に発動。何やら言ってくるタカトに対して撃ち放つ。だが、タカトはひょいとそれをあっさり躱した。

 

「難しい理論になるが――そうだな、簡単に言うと、空間や次元と言った概念は、その許容量を越えたエネルギーを注ぎ込むと簡単に砕けると言う理屈だ。空間のスペースやら、次元の高低差によって必要とされるエネルギー量が決まるから一概にどれ程のエネルギーがいるかは決められんのだが――」

 

    −撃−

 

    −撃−

 

    −撃−

 

    −撃!−

 

 放つ、放つ、放ち続ける! ゲイルは空間衝撃砲を撃ち続ける。

 しかし、タカトは軽いステップを踏むだけ。それだけで全ての衝撃砲を躱してのけた。

 狂ったように放たれる衝撃砲をタカトはひょいひょいと躱し続ける。

 

「――とまぁ、簡単に纏めるとそんな理屈だな。ぶっちゃけると極大エネルギーを瞬時に開放すると、任意の空間を打ち破れる訳だ。さて、理解出来――」

「があぁああああぁぁぁぁぁ――――!」

「――る状況じゃ無いか」

 

 苦笑する。どうにも自分は、理論とかそう言ったのを説明し出すと止まらなくなるらしい。シオン辺りが何度も呆れていた事を思い出す。更に放たれた衝撃砲をあっさりと躱し。

 

「があっ!」

 

 咆哮一声。ゲイルが右の掌を突き出す。同時に、タカトの動きがピタリと止まった。

 

「……空間束縛か」

「へぇっへへへへ……。捕まえたぜ。うろちょろ逃げ回りやがって。これでもう――」

「む、ん!」

 

    −轟!−

 

 魔力放出。魔法を介さず魔力を噴射するスキルである。タカトはそれを無造作に放ち、直後。

 

    −破−

 

 空間束縛が、あっさりと弾け飛んだ。固定化した空間が許容量を越えるエネルギーつまり、魔力を注ぎ込まれる事により、あっさりと砕け散ったのだった。

 平然とそれを行ったタカトを見て、ゲイルは呆然とする。

 

 ……俺が戦っているのは本当に人間――いや、生物なのか?

 

 そんな、そんな思考に捕われたからだ。空間遮断をあっさりとブチ抜き、空間束縛を弾き飛ばす。そんな真似をやらかしたタカトに、心底恐怖を覚えた。

 

「さて、と」

「ひっ!」

 

 やたらと緊張感の無い声を出しながらタカトはゲイルを見据える。ゆっくりと歩き出した。

 

「あ、あ、あ……」

「ジっとしてろよ? 何、すぐ済む。手加減はきっちりするしな……針億本は俺も怖いし」

 

 意味不明な事を呟きながら歩いて来る。そんなタカトが、ゲイルは怖くて怖くて、仕方が無かった。

 本当に、自分と同じ人間なのか分からなくて。

 本当に、自分と同じ生物なのか分からなくて――だから。

 

「あぁあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」

 

 近寄るタカトに、錯乱したゲイルは再び衝撃砲を撃ち込む。ただ怖くて、ただただ怖くて!

 幾度と無く撃ち込まれた衝撃砲。その中でも一際巨大で、威力のある一撃である。人間がまともに受ければ、挽き肉確定の一撃。そんな一撃を前に、タカトは、ひゅっと息を吸い込んだ。

 

「喝ァッ!」

 

 轟咆一閃! タカトは迫り来る衝撃砲に咆哮した――それだけ。それだけで、衝撃砲は跡形も無く吹き飛んだ。

 

「あ……」

 

 自分の渾身の一撃。その結末に、ゲイルはただただ呆然となるしか無かった。そうでなければ、笑い出していたか。

 どうやれば兵器である衝撃砲を、咆哮だけで消し去れると言うのか。

 

「さて……手品はこれで終わりか?」

 

 何も無かったかのようにタカトは笑う。自分のISを手品扱い。しかし、ゲイルはそれを怒る気にもなれなかった。

 ……手品扱いにもしよう。この男と自分はあまりにも次元が違い過ぎた。ただ、それだけの事。

 呆然とするゲイルに、タカトはフムと頷く。そして、右手を伸ばした。

 

「終わりのようだな。では、暫く寝てろ」

 

 直後、頭に衝撃が走った感覚を残して、ゲイルの意識は闇に飲まれた。

 

 

(中編2に続く)

 

 




はい、相変わらずタカトは出鱈目なのであった――まぁ、そんな話しです(笑)
一応解説しますと、第二世代型戦闘機人は、ナノマシンによる遺伝子改造を施し、スバル達のように機械を受け入れる身体にして、戦闘機人化する言わば量産型戦闘機人となります。スカさんは量産なんぞを考えてなかったと思いますが、使えるもんは使われるのが世の定め。諦めて貰いましょう(笑)
これには二つのタイプがありまして、一つはゲイルのように専用ISを持つ者。もう一つは、旧世代型戦闘機人(つまりナンバーズ)のISを任意に第二世代型戦闘機人に埋め込むといったものです。ここらは後々をお楽しみにー。
そして、もう一つの解説はタカトがゲイルのISを打ち破った謎理論、通称「そんなの嫌だー!」(某○ウさん)理論です(笑)
正式な名称は「空間、次元、時間軸に対するエネルギーポテンシャル理論」と言う長ったらしい名前なんですが、ようはそれぞれの座標軸上において、許容量以上のエネルギーを瞬間的にぶち込めば座標軸上に特異点を作りだし、それぞれの座標をぶち抜いてしまう、と言う理論です。
しょっちゅうタカトが空間を軋ませてしまうのはこれが原因となります。
さて、長い解説はここまでで、次回中編2をお楽しみにー。ではでは。

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