魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

7 / 118
「ついに出航したアースラ。そして、その中で集まった力達は自らの力を確かめる為に剣を重ねあう。そこには憎しみも悲しみも。信念のぶつかり合いもない。ただ強くなろうとする思いがこめられて。魔法少女リリカルなのはStS,EX、始まります」


第七話「二回目の始まり」(前編)

 

 独立次元航行艦『アースラ』

 かつての次元航行艦アースラの名を継いだ艦。

 その特務性の為か、移動性(次元航行速度の事)に特化した性能を持つ。

 従来の管理局主流の次元航行艦より、およそ25%以上の移動性を持つが、代わりに武装の殆どを積み込んでおらず。防御性能もかなり低い。

 武装はアルカンシェルのみ。防御もSランク以上の砲撃には障壁が持たない。その性能を移動性と積載性に費やしているから当たり前だが。

 なお、独立次元航行部隊の名前通り。この艦は、許可つきで全管理内・外問わず。世界全てに介入可能。

 さらに個人と本局間での転移も認められている。

 なお、艦船には高性能AIが搭載されており。インテリジェントデバイスのそれに匹敵する。

 八神はやて一佐の許可付きでユニゾンデバイスでもある。リインフォースⅡ空曹長とのリンクによるワンマンオペレーティングが可能。

 だが武装はワンマンオペレーティング状態では使用不可。実質、時空管理局最速の艦である。

 

 『アースラ』に於ける主要スタッフ。

 ロングアーチ1。

 八神はやて一佐/部隊長/艦長。

 ロングアーチ2。

 グリフィス・ロウラン事務官/副長/副艦長。

 ロングアーチ3。

 シャリオ・フィニーノ執務官補佐/管制。

 ロングアーチ4。

 アルト・クラエッタ一等陸士/管制、及びヘリパイロット2。

 ロングアーチ5。

 ルキノ・リリエ事務官補/操舵手。

 他管制及び、設備士官。

 

 前線メンバー。

 スターズ少隊。

 スターズ1。

 高町なのは一等空尉/少隊長/教導官。

 スターズ2。

 ヴィータ二等空尉/副少隊長/教導官。

 スターズ3。

 スバル・ナカジマ一等陸士。

 スターズ4。

 ティアナ・ランスター執務官補佐。

 

 ライトニング少隊。

 ライトニング1。

 フェイト・T・ハラオウン執務官/少隊長。

 ライトニング2。

 シグナム一等空尉/副少隊長。

 ライトニング3。

 エリオ・モンデアル二等陸士。

 ライトニング4。

 キャロ・ル・ルシエ二等陸士。

 

 N2R少隊。

 N2R1。

 ギンガ・ナカジマ陸曹/少隊長。

 N2R2。

 チンク・ナカジマ三等陸士/副少隊長。

 N2R3。

 ノーヴェ・ナカジマ三等陸士。

 N2R4。

 ディエチ・ナカジマ三等陸士。

 N2R5。

 ウェンディ・ナカジマ三等陸士。

 

 セイヴァー。

 神庭シオン嘱託魔導師。

 備考:神庭シオンは正式な局員ではないため、少隊に編入させるのではなく、状況、及び作戦等でそれぞれ各少隊の前衛人員として入ってもらう。

 アーチャー。

 ヴァイス・グランセニック陸曹長/ヘリパイロット1/武装隊後衛狙撃手。

 備考:元来はヘリパイロットだが、状況、及び作戦等で各少隊後衛人員として入ってもらう。

 

 ブルー

 リインフォースⅡ(ツヴァイ)空曹長/前衛管制。

 備考:状況と作戦等で前衛管制とユニゾンデバイスとしてヴィータ二等空尉、並びに八神はやて一佐とのユニゾンを行ってもらう。

 

 レッド。

 アギト三等空士。

 備考:状況、作戦等でシグナム一等空尉とユニゾンしてもらう。

 

 『アースラ』

 備考:1、独立次元航行部隊の権限で各駐留魔導師や結界魔導師に協力を要請できる。

 

 2、独立次元航行部隊の権限で艦長の責任で、独自の判断で行動が許される。なお、独立次元航行部隊に命令する事が出来るのは秘匿コードAAA以上での命令のみである。

 

 3、独立次元航行部隊と、任務の特性状。保有魔力制限に左右されない戦力の保有を認める。

 

 任務内容:広域次元災害『アポカリプス』に於けるアポカリプス因子の感染阻止並びに当該因子の調査。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「さて、前線メンバーはこれで全員かな?」

 

 初出航を果たしたアースラ。

 そのアースラの中には広大な訓練施設がある。アースラは現場での魔導師を投入しての戦闘を前提として設立された部隊だ。それ故に、訓練施設はかなり広大なものを用意されているのである。

 そこに各少隊に別れて、前線メンバーが集結していた。

 

「それじゃあ、各員、自己紹介してもらおうかな?」

 

 なのはの言葉に従い。各自、前に出てコールサインと戦闘スタイル。保有スキルを発表する。

 シオンも自分の自己紹介を終え、フゥと息を吐いた。

 N2Rの面々は全員ナカジマ性を名乗っていたので気になっていたのだが――全員養子らしく、そこで得心がいった。

 

「全員、終わったかな? コールサインは必ず覚えてね。さて、それじゃあ……シャーリー?」

 

 なのはの呼びかけに応じて「は〜〜い」と眼鏡をかけた少女が出て来た。

 確か管制担当の少女だったっけ? と、シオンはロングアーチ組のメンバーを思い浮かべる。

「彼女はデバイスマイスターでもあるの。それでね、皆のデバイスの調整もしてくれるの」

「はい。度々訓練にお邪魔すると思いますけど、どうかよろしくお願いしまーす!」

 

 シャーリーが元気よく片手を上げて挨拶する。少隊メンバーはそれを苦笑まじりで眺めた。

 

「さて、じゃあこれから訓練に入りたいって思うけど。戦闘スタイルや保有スキルなんて、聞いただけじゃあ解らないよね?」

 

 その言葉にシオンは頷く。なにしろ、まともに戦闘を見た事があるのは、なのはとスバル。シグナムだけであるからだ。

 

「でね? 親交を深める意味も兼ねて、各少隊での模擬戦をしたいと思います」

 

 ……親交を深めるのに何故に模擬戦?

 一同、冷や汗まじりに思う。確かに必要な事ではある。だが、親交を深めるのに模擬戦はなかろうと思うのだが――。

 一部、うんうんと頷く、某烈火の将は置いておく。

 

「あ、あれ? どうしたのかな? 何かおかしいかな?」

 

 いや、まぁ。だが、それを言うのは憚られるし、さらに言うと必要な事ではある。

 アポカリプス因子感染体。通称『感染者』はいつ現れるか解らないのだから。各自、スキルの把握等は出来るだけ早いほうがいい。

 疑問符を浮かべるなのはに皆で揃って「いやいや大丈夫です。おかしくないですよ〜」と誤魔化しに入った。

 高町なのは。何がとは言わないが、基本的にそういった部分は昔から変わらないものである。

 

「そっか。うん♪ それじゃあ早速始めようか? シャーリー?」

 

 なのはの言葉に再度「はーい」と、片手をあげて返事をすると、近くの空間に投影したコンソールを操作する。

 すると、訓練室そのものが拡大し――そして辺りにビルが立ち並んだ。これは……?

 

「これ、六課の時の……」

 

 旧六課メンバーが呟く。それに、シャーリーが胸を張って頷いた。

 

「そうでーす。六課にあった、なのはさん完全監修の訓練施設。それをアースラに積めこんだんですよ♪」

 

 空間に結界を張り、任意の広さにまで広げるシステムすら追加されている。心底贅沢な訓練施設であった。

 

「あ、そうだ。シオン君は今日はN2Rに入ってね?」

 

 続くなのはの言葉にシオンは頷く。こちらの面々とは認識がないから少し戸惑ったが。

 

「さて、それじゃあ各員質問は? なかったらこのまま模擬戦に入るよ?」

 

 問い掛けた後、皆をしばし眺める。誰も質問しなかった。なのはは、満足気に頷く。

 

「ないみたいだね。それじゃあ模擬戦、始めよっか!」

『『はい!!』』

 

 なのはの言葉に一同、一斉に頷き、各チームにそれぞれ別れて簡易なブリーフィングを開始した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……で、チーム戦と言う訳なんだけど」

 

 N2R少隊の隊長、ギンガ・ナカジマが少隊の皆を集め、作戦会議を行う。

 N2Rの面々は家族だ。故にスキル等の問題はない。

 N2R。かつてJS事件でその力を奮った、ジェイル・スカリエッテイの作品群、戦闘機人。ナンバーズ。

 彼女達は事件終了後、ミッド地上の保護施設で更正プログラムを受けていた。

 そして、プログラム終了後、チンク、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディの四人はナカジマ家に引き取られたのだ。

 その直後に管理局入局。元来ならば、士官学校や各訓練校に通い、その後で、任務につくはずだったのだが。

 今回の事件を鑑みて、部隊長の八神はやてがスカウトした――と言う訳だ。

 閑話休題。

 そう、家族達に問題はない。今問題なのは外の要因――つまり。

 

「俺、チーム戦初めてなんだけど」

 

 セイヴァー、神庭シオン。彼にはチーム戦の経験が――少なくとも、ここでは無かった。

 元々は一人で戦い続けた為、集団戦闘という概念そのものが欠如しているのである。

 頭を抱えるギンガに、ノーヴェがハンっ! と息を吐いて、シオンを睨みつける。

 

「ギンガ姉ぇ。こんな使えねぇ奴。ハナッから数に入れなきゃいいじゃんか?」

 

 人の性格は変わらないもの。相変わらずのノーヴェの台詞にギンガは苦笑した。

 

「そう言う訳にはいかないわよ」

「でもウチ達の連携の邪魔になったんじゃあ話しになんないっスよ?」

 

 ウェンディもノーヴェに続く。ギンガは次にチンクに目を向けると彼女もヤレヤレと苦笑いを浮かべていた。

 

「でも、確かにノーヴェの言う事も確かなんだよな」

「……そう言われてもね」

 

 N2Rの面々がうーんと頭を悩ます――と、肝心の人物であるシオンが手を挙げた。

 

「提案があるんだけど」

 

 その台詞に、なになに? と集まって、ほしょほしょと話す。

 そして、シオンの提案を聞いた皆は一同揃って呆れた顔をする事になったのであった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「それじゃあ模擬戦を始めたいと思います。第一戦はスターズ対N2R。……準備はいい?」

『『はい!』』

 

 皆から返事が返る。それを聞いて、なのはは頷き、片手を挙げた。

 

「それじゃあ――レディ……」

 

 なのはの言葉に一同、構えを取った。そして――。

 

「ゴー!」

 

 スタートの合図が鳴った。

 

「よし。じゃあまず……っ!?」

 

 ティアナがスバルにポジションの確認を取ろうとした、その瞬間に彼女は絶句させられた。何故なら開始早々、神庭シオンが突っ込んで来たからだ。

 

「シオン!」

 

    −撃!−

 

 突貫して来たシオンにスバルが迎撃に向かうなり、即座にリボルバーナックルに包まれた拳を繰り出した。

 放たれる拳を斬り流して斬撃を放つシオン。しかし、プロテクションで弾かれる。

 直後に、ティアナから放たれたマルチショットがスバルを援護する。だが、シオンはその場から動かない。

 

「何考えて――っ!?」

 

    −爆!−

 

 直後、ティアナの放ったマルチショットが爆裂する。

 チンクの放った、スティンガーによって全て迎撃されたからだ。

 さらにチンクの横からギンガとノーヴェが現れる――だが。

 

「シュート!」

 

    −閃−

 

 上空に居たなのはから放たれたアクセルシューターが、二人へ一斉に襲いかかって来た。

 向かい来る無数の光弾に、ギンガとノーヴェは乱数回避を行いながら何とか躱し続け、なのはに接近しようとする――が、あまりに攻撃濃度が高すぎた。たまらず一度下に下りる。近付け無い。

 とどめとばかりに、ヴィータが追撃をかけてくる。

 

「っ!?」

 

    −煌!−

 

 だが唐突に前方から砲撃が飛来し、回避する為にブレーキを掛け一時停止させられた。ディエチの砲だ。

 

 ――やるじゃんか。

 

 ヴィータは表情には出さずに、称賛した。なかなかのチームワークである。流石、元ナンバーズ、うまく連携が取れている。

 神庭シオンがいる事で連携の邪魔になる可能性もあったのだが――。

 こちらの追撃が止まった事を確認して、チンクがスティンガーを放った。

 

    −爆!−

 

 ランブルデトネイターによる爆発が引き起こり、煙幕がぶぁっと広がる。

 直後、ギンガがヴィータに突っ込み、拳を叩き込こんだ。

 それをヴィータはシールドで弾く――が、ギンガはそこで止まらない。拳を叩き込んだまま、シールド破壊を試みようとする。しかし、直後にティアナからの援護射撃で飛んで来て、ギンガはシールド破壊を諦めた。

 一時後退。ギンガは再び煙幕の中に戻る。それと入れ代わるようにノーヴェとシオンが突っ込んで来た。

 

「させない!」

 

 しかし、スターズの連携もさるもの。ヴィータの横からスバルも駆け付ける。スバルにはノーヴェが、ヴィータにはシオンがそれぞれ向かう。

 

「壱ノ太刀、絶影!」

 

    −閃−

 

    −撃!−

 

 シオンの斬撃をヴィータはシールドで防ぎ、そのまま後退。

 その直後に、なのはが放っていたシューターがシオン達を襲う――だが。

 

「私を忘れちゃあ困るっスよ!」

 

    −破!−

 

 ウェンディが放ったマルチショットが、アクセルシューターを迎撃する。まるで弾と弾の追いかけっこのように、弾が交わり合う。

 その上、なのはには長距離からの砲撃が襲いかかった。

 当然回避されるが、これはなのはの集中を遮る為だ。

 シューターへの集中が切れれば、なのはへ接近できる。

 シオンは、後退したヴィータの追撃に向かう――と見せかけて、ティアナへと駆けた。

 シオンはその戦闘スタイルから、遠間からチクチクやられるのは嫌いな為に、ティアナをまず迎撃しようと考えた訳だ。

 

「甘い!」

 

 だが、そんなシオンに、ティアナは迷わず迎撃開始。多数のスフィアを作りだし一斉に放つ!

 

「クロスファイアー……シュート!」

 

    −閃!−

 

 総計二十発の光弾がシオンとノーヴェを襲いかかった。

 ノーヴェは回避を諦め後退。だが、シオンは止まらない。

 その場で真横にジャンプすると、まるで壁があるように三角跳び。そこから直角に急激な方向転換を交えてティアナに突っ込む。

 カラバ式の特性である空間への足場の設置。それを利用した直角の乱数回避だ。

 

 ――もらうっ!

 

    −閃!−

 

 棒立ちするティアナに迷わず、斬撃を放つ――! が、斬撃はティアナを突き抜けて空を斬った。そのままティアナの姿が消える。

 

「げ! 幻!?」

「でぇぇい!」

 

    −撃!−

 

 隙が生じたシオンを見逃す筈も無く、今度はヴィータが突っ込んで来た。ブースターから激しく火を吹き出させて、轟速のラケーテン・ハンマーを叩き込む!

 シオンは慌てて、シールドで防いだ。が、ハンマーの突起がシールドを貫いていく――持たない!

 

「ブチ抜けぇ!」

「っ――! 四ノ太刀!」

 

 ついにシールドが貫かれる。その瞬間、シオンもまたシールドへイクスを叩きつけた。防御が持たないのならば、残された手段は一つしかない。

 

「裂波!」

 

    −破−

 

 シールドを内から叩き壊し、空間に振動波が放たれる。それはヴィータを捕まえた。彼女の動きが一瞬だけ止まる。

 その隙に、シオンは後退開始。させじと追撃を掛けようとするスバル、ティアナだが。直後にチンクが放ったスティンガーによるランブルデトネイターが発生し、追撃を阻止されてしまった。

 N2Rは後退を完了し、そして仕切り直しとなった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「うまく行くものね……」

 

 一時後退したシオン達と合流したギンガは一人ごちる。何故に連携戦闘の”れ”の字も知らないシオンがこれ程うまく連携を組めたのか?

 何の事はない。シオンは一切連携戦闘をすると言う事を考えていない。それだけであった。つまりは。

 

 ――始めっから連携なんて俺、考えずにいくから。援護等は勝手にやってくれ。

 

 これがシオンが出した提案である。当然、ギンガ達は呆れた。だが、まぁ無理に援護をやらせて自分達に攻撃がくるのもいただけない。

 なら、自分達がシオンに合わせてやればいいのかと作戦は決まり――ノーヴェは文句を言っていたが――結果、予想外に上手くいったと言う訳だ。

 

「なんだお前、そこそこやるじゃんか!」

 

 ノーヴェが横のシオンの肩をばっしばっしと叩きながら満面の笑みで褒める。シオンは痛いわ! と怒鳴りながら、一緒に駆け抜けた。

 

「さて、次はどうする?」

「向こうに攻めさせるのはよくねぇな」

 

 チンクの問いにシオンは答える。何しろ本当はチーム戦はこちら――と、いうか自分――は、ずぶの素人なのだ。

 攻めさせたら間違いなく瓦解し、確固撃破がオチである。

 

「なるたけ先手を打ち続けようぜ。向こうに攻めさせたらチーム戦じゃ、まず勝てねぇだろ」

「君以外なら大丈夫なんスけどねぇ♪」

 

 ウェンディが持ち前のIS:エリアルレイブでシールドの上に座って駆けながら、意地悪そうな目で言う。それには、流石にシオンも肩を竦めた。

 

「まぁ仕方ないよな――と言うかウェンディ。それ楽そうだな。私も乗せろ」

「嫌っス♪」

 

 横でイチャついてんだか喧嘩してんだか解らない姉妹に苦笑いしながらシオンもまた走る。そこでディエチから念話が入った。

 

《向こうはポジション相変わらずのまま。どうする?》

 

 それを聞き、ふむと皆で頭を悩ませる。安定した戦い方であるポジションを常に選択しているとなると、こちらではまともな方法では崩せまい――なら、”まともでない方法なら?”

 

「皆、耳貸せ」

 

 シオンがニヤリと、それはもう人が悪そうな笑いを浮かべる。そんなシオンの顔を見て、N2Rの面々は、ああこいつ絶対にSだと確信に至ったのであった――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 変わって、こちらスターズ少隊は、変わらず適正なポジションを維持していた。

 スバルがフロントアタッカー。

 ヴィータがガードウィング。

 ティアナがセンターガード。

 そして、なのはがフルバック。

 元々はFA、CGが二人いる訳だが、そこはヴィータとなのはが上手くカバーしていた。

 

《さて、なのは。次あいつ達、どんな手で来ると思う?》

《そうだね。普通なら人数で勝る分。さっきみたく手堅く真っ正面からだけど……》

 

 だが向こうは問題を抱えている。先程の戦闘、上手く連携できていたように見えていたが、実際はシオンに合わせていただけである。

 次に同じ手で来たとしても、なのはとヴィータは落とせる自信があった。そして、それは向こうも理解しているはずである。

 

 ――さて、どんな手でくるか……?

 

 そう思って進んで行くと、開けた道路に肝心の少年をスターズ一同は見つけた。距離を数十メートル離れた所にシオンが一人立っていたのである。ここで現れる意味と言えば。

 

《陽動ですか?》

《かも。でもあんまりにもわかりやす過ぎなような……!?》

 

    −轟!−

 

 直後、スターズ全員を狙って砲撃が叩き込まれた。ディエチの砲撃だ。

 それと同じくして、ノーヴェ、ウェンディが突っ込んで来る――。

 

 ――? 陽動でもない?

 

 砲撃を回避しながら、それぞれポジションを取るも、なのはは怪訝そうに眉を潜めた。だが、迎撃しない訳にもいかない。

 リーダーであるなのはは、皆より後ろ寄りに位置取りし――その時、シオンが笑った。ニタリと。

 まるで、悪ガキが渾身の悪戯に成功したがごときの笑み。

 だが、シオンが企んでいたのはそんな”可愛いらしい”ものではなかった。

 そして、その直後、なのはの真横にあるビルが震えた――彼女は絶句する羽目となった。

 

    −破−

 

 ……えっ!?

 

 ビルが崩れて来たのだ。自分に向かって!

 さらに、ディエチからの砲撃がビルの側面に直撃し、角度が修正される。

 それは、なのはと他のスターズメンバーの間に落ちる角度であった。そう、まるで自分達を分断するように――!

 

「っ――!」

 

 そこで、ようやくなのははシオンの狙いに気付いた。仮想シミュレーターのビルは、例え倒れてその真下にいたとしても肉体的にダメージにはならない。精々が痛みと動きが疎外される程度だ。

 

 だが、”障害物”にはなるのである。

 

 崩れたビルは道を塞ぎ、チームと自分を分断するだろう。合流は難しくないだろうが、そのタイムロスが痛かった。何せ、向こうはこちらより人数が多いのだから!

 なのはは全力で、自分の少隊の元に飛翔する。既に他のメンバーはノーヴェ、ウェンディ、そして後から合流したギンガと交戦中であった。

 

 ――まだ間に合う!

 

 確信しながら、なのはは崩れ落ちるビルをくぐり抜けようとする。

 だが、この仕掛け人はそれを許すほど甘くなかった。

 

「残念でした!」

「っきゃ!?」

 

    −撃!−

 

 真っ正面に突如としてシオンが現れた。

 ビルが崩れ出した、その瞬間からなのはに突っ込んでいたのか。

 そして、シオンは渾身の斬撃をぶち込む。

 不意を打たれたなのはは、真っ正面から振り下ろされたその一撃を回避出来ず、シールドでガードした。

 掲げた掌に展開したシールドは斬撃を見事に防いで見せる。だが、仲間の元に行く動きは止められてしまった。

 さらに、シオンは瞬動の勢いも合わせて身体ごとなのはにぶつかり、そのままの勢いで崩れるビルの向こう側へと飛んでいく。そのまま顔も向けずに後ろへ叫んだ。

 

「後任せた!」

「任されました!」

 

 シオンの言葉にギンガが返す。そして、シオンはそのままなのはとビルを挟んだ向こう側に消えたのであった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「さってと」

 

 崩れ落ちたビルを背中に、シオンはなのはから数メートル離れた所でイクスを構える。なのはも、レイジングハートを構えた。

 

「最初からこれが狙い?」

 

 なのはが肩を竦めるようにして笑う。流石に呆れたと言うべきか。何とも無茶をしたものである。

 

「流石に実戦でこんな真似はしませんよ」

 

 シオンも苦笑する。自分がどれだけ無茶をしたのか。そして、今からするのかを解っているからだ。

 

「狙いは時間稼ぎだね?」

「御明答です」

 

 あっさり答える。隠してもしょうがないと解っているからだ。

 

「俺じゃあ連携の邪魔にはなっても助けにはなりませんからね。なら、最大戦力を足止めして、向こうの戦力を削るのが最善です」

 

 これがシオンの立てた作戦であった。つまりはこう言う事である。

 

 

 

 

 

 

「まず俺が出て、目を俺に向けさせる。その後でチンク、あんたにはあるビルに仕掛けをして欲しい」

 

 先程の話しだ。N2Rと共に走りながら、シオンは作戦を伝える。

 

「俺が教えるタイミングで、ビルの柱に仕掛けたスティンガーをタイミングよく爆破」

《んでディエチ、あんたはこのビルの倒れる位置の細かい修正を》

 

 遠くに居るディエチには念話で話す。了解っと言葉少な気に返事が来た。

 

「そして、残りもの――ノーヴェうるせぇ! で、だ。この直前まで向こうの三人を足止めしてもらう。任すぜ?」

 

 それぞれ頷いたのをシオンは確認し、最後にこう締め括った。

 

「最後は俺だ。向こうのエースを足止めする。まず勝てないから俺の事は初っから捨て駒にするつもりでいけ。俺に連携戦闘は無理があるからな。ちょうどいい役回りだろ」

 

 そこまで言い切り、シオンはそれぞれの顔を見てニヤリと笑った。

 

「マジ頼むぜ? 一人でも多く数減らしてくれ。後が楽になる。そんじゃあリーダー? 後はよろしく!」

 

 

 

 

 

 

「成る程ね……作戦立案能力もあるんだ」

「んなご立派なもんじゃないですよ」

 

 なのはの褒め言葉に、シオンは謙遜して照れ臭そうに笑った。そして、でもと続ける。

 

「これで少ない人数がさらに少なくなって、尚且つ向こうはN2Rの面々が勢揃いですからね。……一人か二人を撃破できりゃあもうこっちの勝ちだ」

「それはどうかな?」

 

 なのはが珍しく不敵な笑みを浮かべる。彼女をよく知る人物がいたら、さぞや驚く事だろう。それは、闘志に満ちた表情であった。

 

「皆を甘く見すぎだよ? スバルもティアナも、ヴィータ副隊長もそんなに弱くないよ?」

 

 なのはが抱くその信頼にシオンも確かにと返す。その上で続けた。

 

「だからこそ、ここで時間を稼がせて貰います」

「どうかな? 私も急ぐからね。全力全開。フルパワーでいくよ?」

 

 なのはの言葉に、シオンはぞくりと震える――と同時に、強く思う。ここに来てよかったと。

 

 ――シグナム、そしてなのはさん。他にも強い人がいる。ここなら俺はもっと強くなれる!

 

 イクスを握る手に、力を入れる――風が吹いた。

 

「行くよ?」

「はい!」

 

 そして二人は同時に動き、周辺に衝撃波をぶち撒けながら魔力を叩きつけあったのであった。

 

 

(後半に続く)

 




はい、テスタメントです♪
そんな訳で前編終了です♪
本日より移転し始めたんですが、結構お気に入りして貰ってるようで、感謝、感謝ですよー♪
評価、感想もばしばし歓迎しております♪
是非、よろしくお願いします♪

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。