魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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はい、さぁ来ましたStS,EX最大の迷シーン(笑)
つくづく、タカトってアレだよね。と言うお話しです。うん、知ってた(笑)
では、第三十八話後編どぞー。


第三十八話「彼の信頼」(後編)

 

 首都メッテ。

 ユグノーの誇るこの街は、惑星の中で一番広大な運河であるナウル川が街の真ん中を横断する形で流れている。その河幅は20Km。河の長さは6000kmにも達する。

 河の長さに比べて、河幅が異常に狭くはある(例として出すが、アマゾン川が河の長さがおよそ7000Km。1番狭い上流でも河幅が中洲を入れると100Km程もある)が、その広大さを含めてメッテの重要な観光資源であり、特に環境整備が行われてからは水害に悩まされる事も無くなった為。まさに、メッテの中心とも言える存在だった。

 そんなナウル川を仰ぐ街外れのビル。そこに伊織タカトと、先の騒動を起こした四人……否、”三人”が居た。

 二人はまだ意識があり、一人は気絶している。しかし、もう一人はどこにもいない。どこに行ったと言うのか。

 

「さて、質問を続けよう。答えなければ、続けて”先程の奴”と同じ目に合わせる。知らない、分からないは、聞く積もりは一切無いからその積もりでな」

 

 ひっ、ひっ、と泣きながら声にならない声で泣く二人の男に、タカトは”全く笑っていない目”で笑う。その上で、男達に質問を続けた。

 

「さっきも聞いたが、お前達は本来”管理局員では無い”訳だな? 元はこの世界のゴロツキだったと?」

「そうだよぉ……! 俺達はただストラとか言う連中にこの服を来て手伝わされただけなんだ! だから……!」

「言い訳はいい。それに手伝わされた訳で無く自分から志願したんだろう?」

 

 タカトは男の弁解を一切聞かない。容赦無く切り捨てる。男達は一斉に顔を引き攣らせた。

 

「い、いや。でも……!」

「好き放題して生きて来たんだろうな。そんな顔だ。もうこの世に未練もあるまい? さぞ安らかな死に顔を見せるだろうな」

 

 淡々とした口調で言うタカトに、男達の顔は真っ青になる。タカトは構わない。むしろ微笑んだ。

 

「次に行こうか。ストラ側は何故、志願兵を募ってまで自分の戦力を使わない?」

「そ、そんなの……!」

「知る訳が無い――か? それは聞かんと言った筈だがな」

 

 男達の答えにタカトは頷くと、気絶している男に近寄る。そして、縄で縛り始めた。

 

「そ〜〜○を、自由に♪ 飛〜〜びたい”か”〜〜♪」

 

 何故か一字だけが違う有名過ぎるアニメの歌を唄う。やがて縛り終えると、男の両足をよいしょと抱えた。

 

「さて、素直になれない”お前達のせい”で、友人が一人、また空を飛ぶ事になった。さぞや怨まれる事だろうな」

「あ、ああ……!」

 

 男達は泣きながら首を横に振る。タカトは微笑するとそれ等を一切無視。足を掴んだままジャイアントスイングの要領で回転を開始する。

 その速度はまさに豪烈。足元の床を盛大に削りながら高速回転する。そして――。

 

「そうら、飛んで行け! ”ヒトコプタ――――――――!”」

 

    −轟!−

 

 回転が最高速度となると同時に、タカトは掴んでいた手を離し、男を窓から放り投げた。

 男は投げられると同時に音速超過。空気をぶち貫く音が盛大に響く。男はまるでロケットのように、ナウル川の上を飛んで行った。しかし高度を欲張り過ぎたか、川の中程で徐々に失速。相当の速度を保ったまま、堤防沿いに水面へと頭から落ちて行き。

 

    −破!−

 

 まるで、砲弾を水に叩き付けたかのような音と共に水面が爆発した。男がどうなったのかは、不明である。普通に考えれば、水面に音速超過で叩き込まれた時点で肉片と化しているが。

 それ等を全て見届けたタカトはチッと舌打ちした。

 

「……今度も届かなかったか。川を横断するのが目標なんだが」

 

 ぽそりと呟くタカトだが、川幅は先にも言ったが20Kmはある。それを魔力行使抜きで届かせようとしているのだ。人間には無理なように思えるが、実際、もう少しで届きそうではある。

 

「さて、と。続けようか?」

「助けて、助けて……!」

「ああ、そう言いたくなる気持ちは分からないでも無いが、俺には通じん。せいぜい後悔しておけ」

 

 にっこりと笑うタカトはにべも無い。巻き込まれたか何かは知らないが、ストラに加担していた時点でタカトは彼等へと死刑判決の判を押していた。

 

「さて……ん?」

「へ、へへへ……」

 

 よく見ると男の一人が笑っていた。視線が定まらないままに笑い続ける。

 どうも、あまりの恐怖で精神に異常をきたしたらしい。タカトはそれに嘆息。役に立たないと判断して、男を縄で縛り上げ始めた。

 

「そ〜〜ら○自由に♪ 飛〜〜びたいか〜〜♪」

「ねぇ? ドラ○もん? ヒトコプターで何処まで行けるの――?」

「遠い所さ……専門用語で、地獄」

 

 一文字しか違わない筈なのに、あまりにバイオレンスな歌詞と化した歌を唄いながら疑問にタカトはそら恐ろしい事を言う。

 そしてタカトは再び、高速回転開始。再び、空気がぶち貫かれる音が鳴り響き、男はヒトコプターで空を飛んだ。

 今度は高度、飛距離、共に申し分無かったか、綺麗な放物線を描き、川を横断してのけた。

 当然、行く先には堤防がある。男は土で出来た堤防に、容赦無く突き刺さり、堤防がこちらも砲弾を叩き込まれたが如く、爆裂した。

 男の末路については聞いてはいけない。……ご飯が、まずくなるから。

 

「残るはお前一人か」

「は、あぁ……!」

 

 ”壊れ無かった”彼は、いっそ不幸と言えた。何故ならタカトの尋問と対象は彼に絞られるから。

 

「知っている事、全て話して貰おうか?」

「……あ、あ……」

 

 鬼のようなタカトの言動に、放心状態となった男は呆然と呟く。それにタカトはフムと頷くと、縄で縛り上げ始めた。

 

「そ〜〜らを○由に〜〜♪」

「待ってくれェェェェェェェェェェ……! 話す! 何でも話すから! ヒトコプターは止めてくれェェェェ――――!」

 

 遂には号泣し、悲鳴を上げる男に、タカトは漸く微笑した。

 

「そうそう、最初から素直になればいいんだ。……ヒトコプターは勘弁してやろう。さて、聞かせて貰おうか?」

 

 男の反応に、タカトはニッコリと微笑む。そして、聞きたい事全てを聞き出した。

 警備状況。ストラ側が何故自前の戦力を使わないかの理由。警備シフト。次元航行艦の待機位置。ストラメンバーの人数etc……。

 男が本当に分からない事もあったが、タカトはおおよその事は聞き出した。仕入れた情報は、街で聞き込みするよりも遥かに多い情報量である。タカトの狙いは、まさにそこにあった。

 長々と情報収集するのでは無く、鮮度と正確さ、量に長けた情報を仕入れるのはこれが一番であった――リスクを考えないのであれば、だが。

 だがタカトは、なのはに降り懸かるリスクを考えればいいだけである。それ以外を考えなくてもいい。

 そう考えれば、下手に日数を掛けるよりも、こちらの方が手早いと言えた。

 

「ふむ。協力を感謝しよう。お陰である程度方針が決まった」

「じゃ、じゃあ……!」

 

 助かるのか? と、一縷の希望を見出だし、綻ぶ男に、タカトは”ニッコリ”と笑い――。

 

   −ゴギリ−

 

 ――鈍い音が室内に鳴り響いた。

 

「へ……? へぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……!!!!!!」

 

 一瞬、何が起きたか分からなかった男だが、音が鳴った方を見てけたたましい悲鳴を上げる。左足の膝が、本来有り得ない方向に曲がっていた。関節を外されたのだ、タカトによって。

 タカトは笑ったまま、男の身体を掴んで、全身の関節をバキバキと外し、”コンパクトに折り畳んで行く”。その際に断裂される筋肉や筋、神経等には一切目を向けずに。

 絶え間無い悲鳴が響く中、タカトは容赦無く男を折り畳み切った。その結果、男はボール大の大きさへと変貌された。

 頭を中心に全身を丸めて畳んだのである。グロテスクなボールと化した男に満足そうにタカトは頷くと、そのボールを片手にビルのダストシュートへと歩いた。

 

「先にも言った通り、ヒトコプター”は”。勘弁してやろう。と、言う訳で秘○道具式処刑第二段!」

「ムグムグムグムグ……!」

 

 何かを言おうとしても、肝心の声が出せない。口元にすらも身体の一部分が覆われているからだ。

 そして、タカトはダストシュートを開き、グロテスクボールを振りかぶった。

 

「四次元ダストシュ――――――ト!」

 

    −轟!−

 

 叫びと共に一気に叩き込まれたグロテスクボールは、やはり音速超過。ダストシュートの入口を破壊し、引っ掛かりながらも、そこに肉の一部を削られつつ中を突き進む。

 やがて、グシャリと”何かが”潰れた音が響いた。下層に無事(?)、達したらしい。

 タカトは満足気にウンウンと頷くと、踵を返しビルの一室から出た。

 

「仕置き終了。……なのはと合流するか」

 

 これからの事をいろいろ話さねばならない。場合によっては、次元航行艦への侵入も早める必要がある。

 そんな事を思いながらタカトはビルを出たのだった――。

 

 なお、これは余談だが、男達は全員生きていた。

 これは、タカトが”最低限”のフィールド系の魔法を仕置き直前に張った為である。しかし、文字通り”生きているだけ”の状態であり、ダストシュートより見つけられた男なぞ、これからの余生を考えると寧ろ生きている方が不幸だと言う話しであったが――それ等を行った犯人は、動機を含めて詳細は不明との事だった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 所変わってアースラ。ブリーフィング・ルームに、各前線メンバーが集まっていた。勿論、現在意識不明の者達を除いてだが。

 部屋から出たフェイトの姿もそこには在り、はやては若干頬を綻ばせていた。……シオン達も居るが、何故かシオンは頬に赤い紅葉を作っており、ついでに頭を痛そうに押さえていた。

 その横で、スバルとティアナが憮然としている所を見ると、また何かやらかしたらしい。

 それに、はやては苦笑。今の状況で不謹慎ながら、シオン達を見て、少しホッとしたのである。

 そして皆が集まった事を確認し、気持ちを切り替えると真顔となった。話しを始める――。

 

「みんな集まったな? 話し、始めようか。呼び出した理由は、先のアラートについてのお話しや。シャーリー?」

「はい」

 

 はやての呼び掛けに、管制のシャーリーは一つ頷く。コンソールを操作し、ウィンドウを呼び出した。細長いテーブルの中央と、各メンバーの前にも画像が表示される。

 そこには、三隻の次元航行艦が映っていた。

 

「これは先程、私達が居る第78管理外世界にさっき転移して来た次元航行艦や。……ストラの艦やと思われるんやけど、偶然にもこっちのレーダーが捉えてな。向こうはこっちを捉えて無いようやけど――」

 

 ウィンドウの横にはアースラと三隻の艦との距離が示されていた。

 その距離、約50000(500Km)。相当の距離はあるが、アルカンシェルの射程内には十分に入っている。しかし向こうはこちらに何もせず、ただ悠々と航行するだけであった。だが。

 

「この艦隊が転移すると同時に、この世界は次元封鎖されたんや。つまり、私達はもうこの世界から転移出来ん」

『『……っ!』』

 

 一同、その言葉に顔を強める。いくら捕捉されていないと言えど、次元封鎖された状況では見付かるのも時間の問題だろう。状況は、かなりマズイ状態になっていると言う事であった。

 

「その上でや。アースラの誇る盗聴魔――」

「八神艦長!?」

「――もとい、優秀な管制官であるシャーリーが、向こうの念話通信を傍受出来たんや。……それが、この内容や」

 

 はやての言葉に慌てるシャーリーに、一同白い目を向ける。……なお、シャーリーは六課時代にも盗聴事件をやらかしているのだが――それは余談だった。

 そして、ブリーフィング・ルームに傍受した、通信が響いた。

 

《こちらはツァラ・トゥ・ストラ。艦隊指揮ビスマルク提督である。地球、グノーシスに告げる。貴君は我等が追う、次元航行艦アースラを匿っていると言う情報を得ている。単刀直入に言おう、アースラを乗員を含めて引き渡して貰おう。もし、この要求を無視すれば、我等艦隊は地球に進攻。全兵力を持って、殲滅戦を開始する。繰り返す――》

 

 そこまでで、シャーリーは傍受した通信を切る。通信内容に、ある者は呆れ、ある者は怒りの表情を浮かべていた。つまり、彼等は。

 

「言い掛かり。しかもアースラをダシにして、地球に攻め込む算段ですか」

「そうなるなー」

 

 呆れていた一人、シオンが嘆息混じりに苦笑する。はやても釣られて苦笑し、すぐに真顔に戻った。

 

「完璧、言い掛かりで向こうは適当な事を言うとるだけなんは確かなんやけど。実際、私達は潜伏中やしな。……姿が見えんのや、グノーシスには何とでも言える」

「最っ低……!」

 

 こちらは怒っていた一人、ティアナが吐き捨てるようにして呟く。しかも提督と名乗っていると言う事は、元は管理局の人間か。恥が無いのかと、前線メンバー一同は、呆れと怒りを浮かべたのである。

 基本的にストラに寝返った管理局の人間は、現行の管理局の在り方では無く全次元世界の支配を目論んでいる連中である。恥も外聞も無くて、当たり前とは言えた。

 

「その上で、私達の対応なんやけど。……選択肢は二つあるんや」

 

 言葉と同時に、ウィンドウが切り替わる。

 そこには『A案』と『B案』と大きく文字が表示されてあった。

 

「まずは、A案。……こっちは『見逃し案』や」

「見逃し案って、まさか……!」

 

 スバルが目を見開き、はやてを見る。それに、はやては頷いた。

 

「そう、そのままの意味や。向こうはその内、地球に向かうんは分かってる。……こっちはそれを待つって案や」

「そんな……!」

 

 あんまりな内容に、スバルだけでは無くノーヴェや、ディエチ、エリオも目を見開く。しかし、それに溜息を吐く者達が居た。ティアナを始めとして、クロノやフェイト、デバイスの故障で出撃出来ないギンガ、固有武装の破壊で出られないウェンディ、そして足の怪我があるチンク。最後にシオンである。

 シオンが一同を代表して、はやてに答えた。

 

「今のアースラだから、ですか?」

「そう言う事や」

『『……ッ!』』

 

 その言葉に、驚いていた一同は冷水を浴びせられたような感覚を得た。今のアースラは損壊が激しく、とてもでは無いが戦闘が出来る状態では無い。しかも、前線メンバーで出られる人員も限られている。

 先程、怪我がある程度治ったと判断されたザフィーラを含めても八人。戦力がこれだけでは、戦いに向かうだけ自殺行為と言えた。

 故に、このA案は至極真っ当な案と言える。一同が黙ったのをはやては見て、次にB案を表示した。

 

「次行こうか。B案は、『強襲案』や」

『『え……?』』

 

 次に表示された内容に、それぞれ目を白黒させる。はやては構わず説明を続けた。

 

「この強襲案は、向こうがこっちが同じ世界に居るって知らん事を利用した案や。内容は機動部隊での至近からの敵艦への強襲戦や」

「て、待って下さい。真っ向からそんな事をしたら……!」

「”真っ向”からならね」

 

 エリオの叫びを、横合いからフェイトが遮る。そして、はやてへと視線を向けた。

 

「はやて、この案は普通に考えたら無謀だ。でも、何か考えているんだよね?」

「流石やね、フェイトちゃん。復活してすぐに気付くなんて。……その通りや」

 

 フェイトの言葉に、はやては微笑し、コンソールを指で叩く。直後、ウィンドウが切り替わった。

 

「……幸いにも向こうはこっちに気付いてないんや。やったら、魔力反応にさえ気をつければ、接近の方法はある。ティアナが鍵やね」

「私、ですか……?」

 

 思わぬご指名に、ティアナが驚き、はやてに目を向ける。彼女は微笑しながら頷いた。

 

「そうや。ティアナの幻術とタイミング。それで全て決まる筈や。詳しくは採択を取ってから教えるけどな……さて」

 

 そこまで言い切り、はやてが一同に目を向ける。そして、再びA案とB案をウィンドウに表示した。

 

「本来なら私が決めるべきなんかも知れんけど。……A案もB案も問題はある。そこで採択を取ろうと思うんや。皆の前のウィンドウにも表示されとるやろうけど。これでどちらの案を取るか決めようや。……ちなみに、これはブリーフィング・ルームにもおらん全乗組員にも表示してる。ええか? よく考えて決めてや?」

 

 そこまで言い、はやてはブリーフィング・ルームに居る一同を見渡す。全員、その言葉にしっかりと頷いた。それを確認して、はやてもまた頷く。

 

「よし。ならそれぞれ、どっちかの表示を押してや。……ほなら、行くよ」

 

 はやての言葉に従い、皆が。アースラに乗っている意識不明の者達を除く、全員が表示を押した。

 そして、出た結果は、満場一致の『B案』であった。誰一人として、A案を押していない。その結果に、はやては微笑む。

 

「……決まりやね。まさか満場一致とは思わんかったわ」

「はやてもB案を押してるくせに」

 

 フェイトが、はやてに微笑する。そう言う彼女も、きっちりB案を押していた。それに、はやても苦笑を返すと、立ち上がった。

 

「逃げてばっかりなんももう飽きた。……いい加減、ここらで反撃と行こうや! 皆!」

『『了解!』』

 

 はやての言葉に、皆一様に頷く。ここに、アースラの強襲作戦が決定されたのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「と、言う訳だ」

「そうなんだ……」

 

 メッテのホテルを夕日が照らす。そこに戻って来たタカトの話しを、なのはは聞いていた。

 ……仕置きの部分は伏せたままに、タカトは聞き出した情報を並べる。そんなタカトを、なのははじぃっと半眼で見た。

 

「……本当に、お話ししただけ? 他に何もしてないの?」

「当然だ」

「……それだけで、こんなに教えてくれたの?」

「人間、”お話し”すれば分かりあえるモノだな。スラスラ教えてくれた」

 

 俺流の”お話し”だがな、とタカトは心中で呟く。実際の所は、通常の拷問が生温いと言わんばかりのマネをやらかしているのだが、そこまでは流石になのはも分からない。

 暫くじぃ……と見ていたが、ポーカーフェイスを崩さないタカトに嘆息。追求を諦めた。

 

「……激しく納得出来ないけど、納得した事にするよ」

「そうか。それは何よりだ……でだ」

 

 なのはの言葉に、タカトはウンウンと頷く。そして、聞き出した情報から、今夜の警備交代時間、警備状況、次元航行艦の待機位置をウィンドウに表示した。

 

「これが、今夜の警備状況だそうだ。しかし、実際にはもう少し増えると思った方がいい」

「……何で?」

「そんな気がすると言うだけだ」

 

 実は四名も警備していた者がいなくなり、かつ昼間の騒動の件もある為、必ず警備人員の他に捜索人員を増やすとタカトは踏んだのだが……それを話した場合、先の『惨劇のドラ○もん』(命名タカト)事件を話さねばならない。

 またもやじぃっと睨むなのはに、タカトは苦笑。話しを変える。

 

「だが、逆に言えば艦内の人員が少なくなると言う事に他ならない。そこでだ」

 

 ウィンドウに表示した地図でタカトは街の中心を指差す。そこにタの一文字が描かれた。

 

「俺が街の中心で一騒動を起こす。その隙に、なのは。お前は艦の待機位置近くに移動してくれ」

「……一緒に居ちゃダメなの?」

 

 何となく、タカトの策を予想していたのだろう。なのはは慌てず、タカトに問う。それにタカトは微笑する。

 

「……お前の事だ。どうせ、俺を一人に出来ないなどと思ってるんだろうが――」

「う……」

 

 図星だったのか、なのはがギクリとなる。タカトは肩を竦め、苦笑した。

 

「――お前に心配される程、柔じゃ無い。俺一人ならばどうとでも突破出来る。むしろ心配なのはお前だ」

「私?」

 

 タカトの言葉に、疑問符を浮かべる。そんななのはにタカトは頷いた。

 

「昼間の件もある。向こうはその騒動の中心であった”俺”を捜そうとする筈だ。こうなっては長々と隠れている事は寧ろ危険なんでな。決行は今夜にする」

「今夜!?」

 

 流石に予想外だったのか、なのはがその言葉に目を見開く。タカトは再度頷きながら、続けた。

 

「ああ。故に、まだ怪我が治りきっていないお前の方が危険だと俺は思う。……まぁ、敵は俺が引き付けるし、普通に潜入するよりはいくらか危険は少ないだろうがな」

「……そっか」

 

 その台詞に、なのはは治療符を貼られた肩口に指を這わす。最初はこの怪我が治るまで待つと言う話しであったのだが……。

 この怪我が原因で、タカトを一人っきりにするのか。そう思うと、やはり悔しかった。

 そんななのはの表情にタカトは目を背けた。

 

「……なのは。分かってるとは思うが、お前は戦闘を極力避けろ。そして、”俺と合流”するまで艦の近くで待機だ」

「え……?」

 

 タカトの台詞に、なのはは再び目を見開いた。今、彼は何と言ったか? 俺と合流と言わなかったか?

 

「……何を驚いているんだお前は? 俺もこの世界を脱出するんだ。当然、お前と一緒に侵入する」

「そっか、そっかぁ……」

 

 タカトの台詞に、なのははホッとする。先程のタカトの台詞だと、ここでタカト一人を置き去りにさせて、自分だけを転送させる積もりだと思っていたからだ。

 

 ……まだ、一緒に居られるんだ。

 

 何よりその事に、なのははホッとする。タカトは、逸らしていた視線をなのはに戻した。

 

「大体こんな所だな。作戦は分かったか?」

「うん……あ、でも行き先とか決めなくても――」

「それは、もう決まっている」

 

 ――いいの? と、問う前にタカトは言葉を重ねた。そして、なのはの目を見ながら行き先を告げる。その、場所は。

 

「地球。あそこなら、”確実に”安全な筈だ。お前の艦とも連絡が取れるだろう」

「確実に……?」

 

 タカトがあまりに断言するのに、なのはは疑問符を浮かべる。何故にここまで断言出来るのか。キョトンとするなのはに、タカトは嘆息する。

 

「地球には兄者が居る。この時点であそこは完全な安全地帯のようなモノだ」

「……そうなんだ」

 

 きっぱりと言い切るタカトに、なのは寧ろ微笑んだ。敵対していようとも、タカトが兄であるトウヤを信じている事に。それが、何故かなのはにとっても嬉しい事だと思えたから。タカトは自身の台詞に憮然となる。

 そんな反応も、何故か可愛いく思えた。

 

「……信用、してるんだね?」

「信用、ね」

 

 苦笑する。思い出すのは四年前。

 自分達を襲った、”アルハザード”と言う存在が生み出した最悪の罪。『天使事件』の際に、トウヤが自分達に言ってくれた、大切な一言であった。それは――。

 

「信用じゃ無い」

「?」

 

 タカトの言葉に、なのはが疑問符を浮かべる。それに、タカトは微笑する……大切な一言が自然に滑り出た。

 

「”信頼”だよ。なのは」

 

 奇しくもこの時、遥か、遠方の世界でシオンが全く同じ事をフェイト達に話していた。

 二人の兄弟は。

 同じ時で。

 同じ意味の。

 同じ言葉を紡いだ。

 ……たった一人の長兄への信頼と、尊敬と共に。

 第78管理外世界。

 第51管理内世界『ナルガ』代表惑星ユグノー首都、メッテ。

 二つの世界で、ストラに対し、二極の強襲戦が始まる――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「く、く、くぬ……!」

「どうしたの? トウヤ?」

 

 第97管理外世界。叶トウヤは唸りながら顔をしかめた。それを呆れながら見るのは、トウヤの秘書であり恋人、ユウオ・A・アタナシアである。

 トウヤは、ユウオの問いに苦笑。鼻を押さえながら執務席に座る。

 

「くしゃみをしたくなったのだが……何故だか、ここでくしゃみをすると何か負けるような、そんな気分になってね」

「……そうなんだ」

 

 内心、くしゃみで負けたような気分になると言うのはどんな気分だろう? と、思いユウオも苦笑する。そして淹れたての紅茶をトウヤの前に差し出した。

 

「どうぞ、熱いから気をつけてね?」

「うむ。しかし、これもまたオツだね。この光景を見ながら、お茶とは……」

 

 そう呟き、トウヤが見るのは窓の外である。しかし、そこに映るものを見たならば、大概の人は仰天したかもしれない。そこに映るのは宇宙に浮かぶ、大きな大きな”地球”であったからだ。ユウオはトウヤの台詞に苦笑する。

 

「……”月”に居住可能な人工基地を作ってるって知ったら、皆どう思うだろうね」

「少なくとも各国のトップは知っている筈だよ? その程度の根回しは終えているさ」

 

 ユウオの台詞にも、トウヤは気軽に答える。……言っている内容は決して気軽に話せる内容では無いのだが。

 グノーシス”月”本部『月夜(モーント・ナハト)』それが、トウヤが四年余りの月日を持って漸く作り上げた魔導基地の名前であった。

 元々、地球の人達で魔法の存在を知る者はごく僅かである。その為に、地球上で魔法関連の施設はおいそれと作れなかったのだ。それ故に、トウヤは月に魔導施設を作り上げたのであった。

 ……使われた費用が天文学的な金額となったのは言うまでも無い。それ等の事情を知るユウオはトウヤに苦笑する。そんなユウオにトウヤは微笑した。

 

「皇帝城(カイザー・ブルグ)の試験運用は上手くいったようだね?」

「うん。流石にレヴァイアタン級の”次元戦闘艦”は大き過ぎるけど。概ね順調だよ。……でも」

 

 そこでユウオは一度言葉を切る。遠くを見詰めるように、窓の向こうに目を向けた。

 

「……あのバハムート級次元戦闘艦は、どうするの?」

「どうするも何も、持ち主不在ではね……タカトに文句を言ってくれたまえ」

 

 肩を竦めながら、トウヤは笑う。異母弟であるタカト専用艦として作られた艦なのだが、そのタカトがいない状態では何の意味も無かった。

 

「他の者に譲ろうにも、あの艦のシステムは特殊だからね。IFMS(イメージ・フィードバック・マギリング・システム)は高位の魔導師にしか使えない。まさしく宝の持ち腐れだね」

「……だよね」

 

 トウヤは専用艦の皇帝城を持っているし、他の者では若干の力不足と言える。使いこなせれば、ほぼ最強に近い艦なのだが。

 

「……何処かに、”長距離射撃魔法が得意で、支援魔法も十分。歩く魔法図書”的なチートキャラは居ないモノかね」

「そんな都合の良い人が居たら何処も苦労しないよ!」

 

 ユウオが最もな事を言う。しかし現在、地球近郊の世界でまさしくそんな艦長が居たりするのだが……神ならぬ、ユウオにそんな事が分かる筈も無かった。

 

「まぁ、それは置いておくとして、だ」

「……え?」

 

 そんな事を、トウヤは言い放つと執務席から立ち上がる。ユウオの正面に向き合うと、いきなりその身体を抱き竦めた。

 

「ちょっ……! また仕事中にセクハラを……!」

「心配は要らない。仕事は三十秒前に終わったよ」

「え……?」

 

 時計を見ると、既にトウヤの勤務時間は終わっていた。ユウオの勤務時間も一緒にだが。

 

「ここからは、恋人達の時間さ」

「て、ちょっ! 待って! そう言うのはお部屋で――!」

「残念、私は待てない」

「ちょ――! ふむっ!」

 

 ユウオの抵抗は、トウヤの唇に塞がれた。そのまま、深い意味でのキスを交わし、トウヤはユウオを押し倒す。

 同時、執務机の上にある紙が舞い、床に散らばった。そこにはこう、書いてあった。

 『アースラメンバー、各デバイス、ロストウェポン化による強化計画及び、ロストウェポン製作設計図。並びに第二世代DA、第三世代ロストウェポンDA開発設計図。By伊織タカト』

 

 そう、書かれていた――。

 

 

(第三十九話に続く)

 




次回予告
「ついに反撃の狼煙を上げるアースラは、ストラの次元航行艦に対し、強襲戦を仕掛ける」
「その大胆な作戦とは――?」
「一方、タカトはナルガ市街地でストラの魔導師を圧倒的な力で叩きのめしていく」
「しかし、そこに現れた謎の男に意外な攻撃を仕掛けられた」
「二つの戦いの行方、現れるもう一人のEX、二人が自らの名を呼ぶ時、なのはは、EXの真実を知る――哀しい、真実を」
「次回、第三十九話『幸せにしてあげる』」
「だって好きだから。それが、ただ一つの想い」

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