魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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「約束がありました。それは、祈りにも似て。必ず、果たすと決めた事。だから、私は絶対に諦めない。そう、誓った――魔法少女リリカルなのはStS,EX、始まります」


第三十六話「星の祈り、応えたる天」(前編)

 

 時空管理局本局前、次元空間。そこに光が瞬く。爆発と、魔法による光だ。

 

    −爆−

 

 再び巻き起こる爆発。同時に爆煙がブァっと広がり、白が飛び出した。ただ一人、本局前に残り戦う高町なのはである。煙を突っ切りながらカートリッジロード。レイジングハートを正面に構える。

 

【アクセル・シューター】

《シュ――――ト!》

 

    −閃!−

 

 レイジングハートより放たれた数十の光が、次元空間を切り裂いて走る。

 それは、なのはへと突っ込んで来るガジェット、因子兵群に叩き込まれ貫く。一瞬の間を持って、ガジェットは爆発した。しかし、因子兵群は止まらない。すぐさま再生し、なのはへと走る。だが、それを見ても慌てない。ただ見据えるけだ――直後。

 

    −煌!−

 

 因子兵群を”真横”から閃光が薙いだ。それは、幾重も放たれ、因子兵を纏めて消滅させる。

 なのはは、それを視界の端に納めながらも止まらない。次元空間を翔る。

 すると追従する六つの影があった。それは、レイジングハートの先端にも似た形のモノであり、それぞれ後端のスラスターで自律的に飛んでいる。

 これこそが、なのはがブラスターシステムを発動した時に発生する機動攻撃システムであった。

 ブラスター・ビット。計六つのそれは、なのはの意のままに動く。

 次元空間を翔るなのは、その前には大量の――それこそ三百六十度、全天にガジェットと因子兵が居た。直後、二つの敵群がそれぞれエネルギー型の機銃を放つ。それはまるで驟雨(しゅうう)の如くなのはへとひた走り、しかし。

 

【プロテクション】

 

    −壁−

 

 即座に、なのはが展開した全天を覆うプロテクションに防がれた。

 ガジェットと因子兵群は障壁を張るなのはに、止まらず光弾を叩き込む。放たれ続ける光弾は弾幕となった。しかし、それはなのはの障壁を抜く事が出来ない。そして、その光弾を躱しながらガジェット、因子兵群に到来するモノがあった。

 ブラスター・ビットだ。ビットは、光弾を潜り抜けると光砲を連射。

 敵群を確実に減らす――そして、弾幕に切れ目が出来た。

 なのはは、それを見逃さない。即座にプロテクションを解除し、弾幕の切れ目に踊り出た。

 さらにカートリッジロードも四連。ブラスター・ビットも周囲に戻し、レイジングハートを、ビットを襲い来る敵群に差し向けた。

 

《エクセリオン・バスター、フルバースト!》

【オーライ!】

 

 なのはの思念による叫びにレイジングハートが高々と応える。させじと、ガジェットと因子兵が反転し、迎撃を開始するが既に遅い。

 なのはは、既に攻撃準備を整えている――!

 

《ブレイク……! シュ――――――ト!》

 

    −煌!−

 

 光が生まれ――。

 

    −輝!−

 

 光が放たれ。

 

    −裂!−

 

 光が爆進する!

 

 レイジングハートから放たれモノを含めて、計七ツの極大光砲は、容赦無くガジェット、因子兵群を飲み込み、全てを光の彼方へと放逐した。

 未だ、遠目には大量の敵群がいる。しかし、眼前の敵群を倒せた事に少し安堵した。次の瞬間。

 

《見事》

 

 っ……!

 

 そんな念話が真後ろより放たれ、慌ててなのはは振り返る。まるで合わせるかのように、十m超の巨拳が降り落ちた。

 

    −撃!−

 

 頭上から放たれた拳に、なのはは防御を行わず、フラッシュムーブで後退する。所詮は質量が違い過ぎるのだ。防御するのは下策と言えた。

 十mを一気に後退し、なのはは眼前の存在を見ながら、くっと呻いた。

 ――ギガンティス。60m超の機械で出来た巨人が、そこに居た。

 

 いつの間に――!?

 

 内心驚愕しながら、なのははギガンティスにレイジングハートを向ける――直後、ギガンティスの姿が消失した。

 

《っ!?》

【マスター! 後ろです!】

 

 レイジングハートから飛ぶ警告に、なのはは後ろを振り向かずにバレルロール。刹那に巨拳が後ろか飛んで来た。すれ違う軌道を描き、なのはと巨拳が交差する。それを視界の端に納めながら、なのはは再び巨拳を放った存在を見る。そこには当然とばかりにギガンティスが居た。

 どうやって、後ろへと回ったのか――? そう思いながらも、なのはは止まらない。レイジングハートとブラスター・ビットを全て眼前のギガンティスに差し向ける。

 

《シュ――――ト!》

 

    −輝!−

 

 七方向からの一斉砲撃! 光砲は迷い無く突き進む――突如、空間が歪んだ。

 

《……!?》

《無駄だ》

 

 放たれた光砲は、全て空間の歪みにより、受け止められ、減衰させられた。

 ベナレスの念話の声を聞きながら、なのはは再度後退。やはり、十m程の距離を取ると、再びギガンティスに対峙する。

 

《上手く逃げるものだな。捉えられん。いかに対界神器と言えど、対人に向かんか》

《…………》

 

 ベナレスの嘆息する念話を聞きながら、なのはは呻く。先程からベナレスはギガンティスによる格闘のみでこちらへと攻撃している。故に、まだ回避出来ているに過ぎないのだ。

 サイズが違い過ぎるのである。人と虫くらいのサイズ差だと考えると分かりやすい。飛ぶ虫を、人は中々捉えられられないようなモノだ。

 

《やはり、ここはコイツ達を上手く使わせてもらうか》

 

 ベナレスがそう念話を飛ばすと同時、周囲に再び因子兵とガジェットが集まった。それに、なのはは息を飲む。包囲された所でギガンティスの一撃を受ければそこで終わりだ。

 たった一人に対して、ベナレスは一切の油断が無い。また、容赦も無かった。

 

《では、いい加減終わらせるとしよう》

 

 直後、その念話に応えるかのように、大量の敵群がなのはに向かい、雪崩となって攻め込んで来た。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 全天から襲い来る、敵群。それ等をなのはは視界に納めながら、アクセルシューターと、ブラスター・ビットからの光砲を連射。こちらに近付かせまいと、叩き落としていく。しかし、敵群は損害に一切構わずに直進して来る。

 先の戦いと合わせても、まだ三十万以上もの数が居るのだ。少しの損害は全く気にしない。

 そして、ガジェット、因子兵群からミサイルが放たれた。総数にして、数百。真っ直ぐに、なのはへとひた走る。なのはは、それに対してシューターで迎撃。次々と叩き落とす――が。

 全てを落とす事は出来ずに、何発かはシューターを免れて、なのはに突っ込んで来た。

 

【プロテクション】

 

    −壁!−

 

 レイジングハートはそれを確認。迎撃が何発かは不可能だと判断すると、プロテクションを展開する。なのはのプロテクションは、AA+相当の防御力があり、ブラスター2を発動している今ならば、S相当の防御力を発揮する。対して、迎撃を抜けたミサイルは二十を下らない。今のなのはの障壁を抜けられる筈は無かった。

 ――”ミサイルに何も仕込まれていなければ”。

 

    −爆!−

 

 ミサイルが障壁にぶつかる直前、いきなり”弾けた”。

 ミサイルが途中で、内部から爆ぜたのだ。その内部から飛び出る幾千もの鉄杭!

 

【マスター! 弾頭警告!】

《対障壁用弾頭!?》

 

 レイジングハートからの警告に、なのはは目を見開く。しかし、既に遅い!

 二十のミサイルはその全てが対障壁弾頭であった。全て内部から爆ぜ、幾万もの鉄杭となると、全方位から障壁に叩き込まれた。

 

    −撃!−

 

 −撃、撃、撃、撃、撃、撃、撃、撃、撃、撃、撃、撃、撃、撃、撃、撃、撃、撃、撃、撃、撃−

 

    −撃!−

 

 数万もの鉄杭により、なのはのプロテクションが次第に削られる。いくら強固な障壁でも、何度も何度も攻撃を受け続ければ持たない。それをこの弾頭は、数万の鉄杭を瞬時に叩き込む事により実現させたのだ。

 

 フィールドブレイカー。

 そう呼ばれる弾頭は、なのはの障壁を削っていく。そして。

 

《第二陣、第三陣。仕掛けろ。フォーメーション、竜薙》

 

 ベナレスの声に、ガジェット、因子兵が囲むような機動を行い、エネルギー機銃を全方位から浴びせる!

 それは、障壁を張り続けていたなのはを襲い、障壁を解除出来ないように、また同時になのはをその場に釘付けにした。

 ビットが光砲を放ち、敵を迎撃するも、追い付かない。

 

 ――駄目!

 

 そう思うなのはの思考を読んでいたが如く、ベナレスが更なる指令を出す。

 

《フォーメーション。竜篭……蹴散らせ》

 

    −射!−

 

 直後、一斉になのはを包囲する敵群からミサイルが放たれた。その数、数百。

 ミサイルの後端から尾を引く煙が、まるで篭のようになのはを囲み。

 

    −爆!−

 

    −煌!−

 

    −裂!−

 

 全弾直撃! 激烈な爆発となって、なのはを飲み込んだ。

 

《少し、やり過ぎたか。塵になっては――》

 

 周囲に因子兵とガジェットを油断無く従えるベナレスが、ギガンティス内でぽそりと呟く。

 障壁を削った上での一斉攻撃だ。並の――いや例えエース級だろうと耐えられはしまい。未だ煙は消えず、なのはがどうなったのか分からない。ガジェット、因子兵に確認させようとして。

 

《ブラスタ――――! 3――!》

 

 そんな、念話による叫びが響いた。

 

    −煌!−

 

 激烈極まり無い光が魔力放射となって煙を晴らす!

 そこに居たのは、ズタボロとなったバリアジャケットで、身体中の至る所から血を玉となって流す、なのはの姿であった。

 全てのビットと共に、レイジングハートをギガンティスに差し向けている。

 ボロボロになった状態でなお、こちらにレイジングハートを向けるなのはに一瞬だけベナレスは硬直。しかし、直ぐさま我を取り戻すと、ガジェット、因子兵群をなのはに差し向ける――もう遅い!

 八連カートリッジロード。マガジン内全てをフルロードし、そのままマガジンを取り替える。

 足元にはミッド式の魔法陣が展開し、レイジングハートの側面からは、光の翼が展開。その先端部分から、また各ビットからの先端にも光球が灯り、それら全てがギガンティスへと向けられた。

 

《ディバイン……!》

 

 轟、と魔力が更に噴射。光球がその輝きと、大きさを更に増す。ガジェットと因子兵がミサイルを放つが、それすらも関係無い。

 ――吠える!

 かつて、聖王のゆりかご内部すらも撃ち抜いた一撃を!

 

《バスタァァァァァァァァァァァ――――――――――!》

 

    −煌−

 

 次の瞬間、莫大にして極大。激烈極まる光がレイジングハートから、全ブラスター・ビットから容赦無く放たれた。それは、一直線に進路上の全てを徹貫。ミサイルも、因子兵も、ガジェットも、纏めて消し飛ばし、迷い無く、ギガンティスへと叩き込まれた。

 ギガンティスはそれに対して、先と同じく空間を歪める防御障壁を展開する。

 ディメィション・フィールド。一種の次空間歪曲障壁である。

 次空間を歪曲させる事による絶大な防御障壁であり、ありとあらゆる攻撃を防ぎ切る強固極まり無い障壁であった。しかし、それはイコール絶対と言う事では無い。

 何事にも例外はある。例えば、”次空間すらも撃ち抜く攻撃”ならば、当然ディメィション・フィールドは撃ち抜かれる。

 ――そう、撃ち抜く事は可能なのだ。

 

《ぬぅ……!》

《ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!》

 

 そして貫く事が可能ならば、それを”彼女”が出来ない筈が無い!

 

    −軋!−

 

 ディメィション・フィールドが確かに軋む音をたて――直後。

 

    −貫!−

 

    −撃!−

 

 歪曲された次空間を易々と撃ち抜き、ギガンティスを極大の光砲が徹貫した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

《ハァ……! ハァ……!》

 

 息も荒く、なのはが顔をしかめる。身体中に負った怪我による痛み。そして、ブラスター3の反動による激痛だ。無重力故に、血が球状となって辺りに散る。

 出血により頭がくらりとした。それをどうにか立て直して、なのはは前を見る――そして、顔を歪めた。

 

《……まさかこれ程たぁな、恐っろしい嬢ちゃんだ》

 

 そう、なのはに笑いかけるのは全身赤の男であった。

 髪も、髭も、バリアジャケットすらも赤の男。なのはは知っている。その男を。

 一度戦い、しかし圧倒的な攻撃を見せつけた男だ。その名を。

 

《アルセイオ・ハーデン……!》

《おう。名を覚えられるたぁ光栄だな》

 

 なのはへと念話を飛ばしニッとアルセイオは笑う。そして己の傍らに視線を送った。

 

《大丈夫かよ、ベナレス》

《……うむ。すまんな、アル。助かった》

 

 ”右腕を肩から失ったギガンティス”から礼の念話が発っせらる。

 ベナレスである。それに、なのはは顔を歪めたのであった。

 

 あの瞬間――次空間歪曲障壁を撃ち抜き、ギガンティスすらも貫かんと進む光砲。それがギガンティスを徹貫せんとした瞬間、突如ギガンティスが横にすっ飛んだのだ。

 横から叩き込まれた、五十mを超す極剣によって。

 結果、なのはの一撃はギガンティスの右腕を消滅させるに留まったのであった。

 

《さて、ベナレス。お前は下がっとけや。……この嬢ちゃんの相手は――》

 

 アルセイオの周囲に、ミッド式の魔法陣が展開する。同時、一人、二人と人が魔法陣より現れた。

 一騎当千たる、元グノーシス・メンバー。クラナガン戦に於いて、アースラ・メンバーを追い込み、現グノーシス・メンバーと互角に戦ってみせた者達。

 アルセイオ隊。彼等が、全員揃った状態で、なのはの眼前に現れたのだった。

 

《俺達がやるぜ》

《くっ……!》

 

 ――まずい。ただでさえ、今のギガンティスとの戦いで魔力を大分使ってしまった。しかも、彼等は一人一人が、エース級の実力の持ち主だ。アルセイオに至っては一騎打ちだろうと勝てる自信が無い。

 

《逃げようってのはやめとけよ? 後ろを見せたらぷっすりだぜ?》

 

 アルセイオの言葉に、なのはは顔をしかめる。選択の一つとして、撤退があったのだが、今ので潰えてしまった。

 彼等はなのはに、次元転移を許さないだろう。もし、その隙があれば容赦無く止めを刺しに来る。

 ならば、選べる選択肢は一つしか無い。つまり、戦うしか無い。

 なのはは、こんな所で死ぬ積もりは無い。最後まで戦う必要は無いのだ。全員の隙を作り、撤退する。

 勝てないのは分かっているのだ。それしか無い。

 

《それじゃあ》

《っ……!》

 

 アルセイオの念話に、なのははレイジングハートを強く握り締める。

 

《おっぱじめようか!》

 

 直後、アルセイオ隊が、一斉になのはへと襲い掛かった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

《レイジングハート!》

【オーライ!】

 

 向かい来るアルセイオ隊。それに対し、なのははレイジングハートを差し向け、ブラスター・ビットを放つ。最初になのはに突っ込んだのは飛・王だった。メンバー最速の男が真っ直ぐになのはへと駆ける!

 

《恨みは無いで御座るが――》

 

 ブラスター・ビットからの光砲と、なのはからのシューターを次々と躱しながら、飛が足場を展開。それを足掛かりに、瞬動でなのはの背後に回り込む!

 

《主君の命で御座る! その首頂くで御座るよ!》

《く……!》

 

    −撃!−

 

 回り込まれた為に飛を見失ったなのはは、ほとんど勘任せに背後へと右手を振るう! 同時、シールドが形成、真ん中に衝撃が走った。飛の蹴りがそこに突き刺さっている。なのはが動く前に飛は更なる追撃。魔力を拳に纏わせ、シールドに連撃を開始する。

 

《閃華裂光連撃!》

 

    −撃!−

 

 右の拳がシールドに叩き込まれ、間を置かずに左拳が放たれる。両の拳が放つ連撃がスタッカートを刻む。一撃一撃が尋常では無い重さだ。それに、なのはは顔をしかめながらも動く。ブラスター・ビットがなのはの後方から迫るアルセイオ隊の各メンバーに光砲を放ち、足を止めた。

 今なら一対一、この好機を逃さない!

 

【バリア・バースト】

 

    −爆−

 

 突如、なのはの右手から形成されついたシールドが爆裂した。なのはのバリアバーストだ。衝撃が走り、両者共に吹き飛ばされる。

 

《ぬ……!》

【アクセル・シューター】

 

 吹き飛ばされた事により呻きをあげる飛に、レイジングハートからの機械音声が響く。それに飛はさせじと踏み込もうとして――”それ”を見た。

 なのはの周りを囲む、数千の光球を。あまりの量に、飛が一瞬呆然とし、しかし即座に後退する。

 なのはは構わない。レイジングハートを飛へと差し向けた。

 

《シュ――――ト!》

 

    −輝!−

 

 数千の光球が一斉に、飛に放たれる。飛は足場を展開しながら瞬動をもって回避をするも、千もの数のシューターを回避出来る筈も無い。途中でプロテクションを張って耐える事にする。だが、それこそがなのはの狙いであった。

 

《マニュバーS−S−Aッ!》

【ACS、スタンバイレディ。ストライクフレーム、オープン。イグニッション!】

 

 直後、レイジングハートの先端から光の刃が形成。さらに、六枚の光翼が側面から伸び、一気になのはが飛び出した。

 狙いはプロテクションを張り、シューターを防御し続ける飛! なのはは爆発したように、飛へと駆ける!

 

《な!? それは流石に――》

 

 反則で御座ろう!? とは叫べ無かった。その前に、なのはが飛に到達したからだ。光刃はプロテクションをあっさりと貫き、飛は無防備な姿をなのはに晒す。間を置かずに、零距離からの光射が放たれる――!

 

《ストライク・スターズッ! ファイア――――――ッ!》

 

    −撃!−

 

    −裂!−

 

    −煌!−

 

 直後、光砲と光射。更に、シューターの残りを余す事無く飛は叩き込まれた。

 爆光が次元空間を照らし、飛が人形のようにすっ飛んで行く。

 

《飛!?》

《……嘘!》

 

 なのはの後方に居た一同が驚きの声をあげる。いくら何でも、今の一撃は無茶苦茶過ぎた。

 ソラの呼び掛けに飛は応じられない。今の一撃で意識を容赦無く刈り取られたからだ。そんな一同に、更なる驚愕が走る。

 それは、己の一撃で作り上げた爆煙を切り裂いて、皆の上に現れたなのはと、そのレイジングハートの先端に灯る光球を見たからだ。

 ――巨きい。

 あまりに巨大な光球をなのはは作り上げていた。

 それだけでは無い。一同に、ブラスター・ビットが光の帯を引いて駆け抜ける。それは一同を瞬く間に拘束した。

 

《これは――》

《バインド!?》

 

 まさかビットからバインドが放たれるとは予想していなかった一同は、あっさりと拘束された。そんな一同になのはの念話が響く!

 

《星よ――ッ!》

 

 そして一同がなのはへと振り向き、見たのはレイジングハート。そして、各ビットに生まれ出た巨大極まる光球達であった。

 ブラスター3からなる三方向からのスターライトブレイカー。なのはの切り札であり、絶対なる一撃必倒と言える一撃だ。

 それを見て、アルセイオ隊一同の顔から血の気が引く。まさか、ここに来てこんな一撃を放とうとするとは。

 今までの戦いの消耗度からしても普通は考えられない。しかし、それこそがなのはの狙いであった。

 魔力も既に尽きつつあるのだ。下手に出し惜しみしても、消耗戦では必ず負ける。ならば、短時間決戦に全てを賭ける。

 時間は既に十分稼いだ。後は、追撃出来ないようにして自分が撤退するだけである。故に、ここで余力など残さない。

 スターライトブレイカーで全員を一時行動不能にして逃げる。まだ、ストラにはギガンティスも、ガジェットも因子兵もあるのだ。

 長居は無用。故にこその選択であった。

 光球が更なる輝きを増し巨大化する。チャージを終え、後は解き放つだけ――。

 バインドから逃れようともがくアルセイオ隊に一気にそれを撃ち放たんと、レイジングハートを振り上げる! ――そして。

 

 

《……悪ぃな、嬢ちゃん》

 

    −斬−

 

 レイジングハートが振り下ろされる直前に、なのはの左肩から腰にかけて”赤”が走った……。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 次元空間をアースラが進む。その姿は、ギガンティスのアーマーゲドンにより、損傷がいたる所で発生していた。

 装甲がめくれ、中から火花が散る。しかし、アースラは止まらない。止まる事は出来なかった。

 そのアースラ内の一室に、神庭シオンは居た。

 自室である。シオンは自室の明かりを消して、窓際に立ち、ゆっくりと過ぎて行く次元空間をただ見ていた。その顔に、感情はどこにも無い。

 ただただ、虚ろに過ぎ行く風景を見据え続ける。暫くして、部屋の扉が開いた。

 

「……シオン」

「スバルか」

 

 自分を呼ぶ声に、シオンは淡々と返事をする。部屋の扉を開いたのは、スバルだった。

 

「何してるの?」

「外見てる」

 

 問い掛けにも感情を交えずに返事をする。スバルは中に入り、ゆっくりとシオンに向かって歩いて来た。

 

「エリオ、疲れて寝ちゃった」

「泣ける元気があるなら訓練室で走って来いとは言ったけどな。眠る程に走ったのか」

 

 先程、エリオが一人泣いているのを見て、シオンが訓練室に叩き込んだのである。 荒療治に近かったが、泣かせ続けるよりいくらかマシと言えた。結果はどうやら上手くいったみたいだが。

 シオンの声を聞きながら、スバルは歩く。

 

「負けちゃったね」

「向こうにあんなモンがあったんだ。対抗策も無かったし、仕方無ぇよ」

 

 アースラが敗走すると同時に、次元封鎖領域直前で戦っていた艦隊も撤退した。

 ――当然と言える。何せ現状、ギガンティスの対抗策が無いのだから。損害が多くなる前に撤退は正しいと言えた。

 スバルは歩く。しかし、シオンは振り返らない。

 

「……皆、怪我しちゃったね」

「誰も死んで無い。問題無ぇよ」

 

 アースラ・メンバーも、グノーシス・メンバーも、皆少なからず怪我をしていた。ほとんどがまだ意識不明の状態である。だが、どうやら峠は越えたらしく、容態は安定していた。

 ……戦う事は、当分出来ないだろうが。

 スバルは歩き続け、ついにシオンの真後ろに立った。シオンは振り返らない。ただ、外を見続ける。そして――。

 

「……なのはさん、帰って来なかったね」

 

 声と共に、スバルはシオンの背中に額を押し付けた。シオンは背中に湿り気を感じる。

 涙だ。スバルは、シオンの背中に顔を押し付け、泣いていた。……シオンは振り返らない。窓の外を感情の無い瞳で見続ける。暫くして、口を開いた。

 

「お前が」

 

 響く言葉に、スバルが少し震える。だが、シオンは構わない。続ける。

 

「そんな顔をしてると、皆不安がるだろ? 外では笑ってろ」

「……シオンはいいんだ?」

 

 そんな顔を見ても? そう、泣き声が混ざった声でスバルは問う。シオンはそれに、一つの反応を示す。ゆっくりと、頷いたのだ。

 

「俺は構わねぇよ……ここで、泣いてけ」

「……うん」

 

 その言葉に、スバルは泣きながら少しだけ微笑み。シオンの正面に腕を回して抱き着くと、声を出さないようにして、泣いた。

 

 暫くして、キリキリと音が鳴る。ポタリ、ポタリ、と地面に何かが落ちた。

 血だ。シオンの両拳が硬く握り締められて震えている。そこから、血が落ちていた。きつく握り締められたが為に、爪が皮膚を貫いてそこから血が流れているのだ。

 シオンはあくまで無表情のまま。しかし、その瞳には確かに、抑え切れ無い激情が渦巻いていた。

 

「……このままじゃあ済まさねぇ」」

 

 どこまでも静かな――確かな激情を湛えた声が、部屋の中に響いた。

 こうして、シオンの短い人生の中で史上最悪の誕生日は過ぎ去っていった。

 ……痛みと喪失の記憶を残したままに。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ……あ。

 

 次元空間を、なのはの身体が泳ぐ。冗談のように自分から吹き出した血を、まるで他人事のように見ていた。

 左肩から右の腰にかけて一直線に斬痕が走っている。それを成したのは吹き出した血よりも赤い剣であった。

 魔剣、ダインスレイフ。

 いつの間にバインドを抜け出したのか、アルセイオがダインスレイフを、袈裟になのはへと斬り付けたのだった。

 例えようも無い寒気がなのはを襲う。何かを言おうとして、口から血が溢れた。

 

《……本当に大した嬢ちゃんだよ、お前は》

 

 アルセイオからなのはに念話で語り掛けられる。それを聞きながらも、なのはは返答出来ない。血が口内に溢れていた。

 

 ……また、傷増えちゃった。お嫁にいけなくなっちゃうなぁ……。

 

 場違いにも、そう思う。目が霞みだした。

 

《……楽にしてやるよ》

 

 ぽつりと呟かれ、アルセイオがダインスレイフを振り上げる。そして、振り下ろされんとして。

 

《待て、アル》

 

 突如として、アルセイオに念話が届いた。ベナレスからの念話だ。それに、アルセイオは振り向く。

 

《どうしたよ? ベナレス》

 

 返答するアルセイオの目に映るのはギガンティスだ。修復能力でもあったのか、既に右腕が復活している。

 

《彼女の戦い、見事だった。敬意を示したい。最上の一撃を彼女に送り、それを弔いにしよう》

 

 ベナレスがそう言うなり、ギガンティスの両腕が持ち上げられた。アルセイオはそれに無表情のまま視線を送り、ややあって、その場から離れた。

 

《……じゃあな、嬢ちゃん》

 

 たった一言のみを、なのはに送って。

 直後、ギガンティスの両腕から膨大なエネルギーが胸の中心に集中する。

 それを霞む目で見ていた、なのははしかし、左手に握るレイジングハートを持ち上げた。

 

《……ほう》

 

 ベナレスから感心したかのような念話が来る。なのはは、それに構わない。既に感覚が無くなった身体を動かしていた。

 

 ……死ねない。

 

 そう、思う。

 約束がある。ヴィヴィオや、スバル、ティアナ、シオンとの約束が。

 

 ……死にたくない。

 

 口から溢れる血を吐き出しながら、なのはは無理矢理起き上がる。レイジングハートが、僅かな魔力を宿した。

 こんな所で死ぬ訳にはいかなかった。……死にたく、無かった。約束があり、帰る場所がある。そこに帰ると、そう誓ったから、だから!

 

《まだ戦おうとする、その意気は良し。だが、貴様はここで終わっていけ。……さらばだ》

 

 ギガンティスの胸がバクンと開き、両腕から集められたエネルギーと融合した。直後。

 

《デモリッション》

 

    −轟−

 

 極大の砲撃が二重螺旋を描き、なのはへと放たれた。それは、迷い無くなのはを滅さんと突き進む。

 眼前に迫り来る光砲。それを、なのはは見据え、レイジングハートを構える。だが、そこに灯る魔力はあまりに小さい。

 

 死にたくない!

 

 そう心中で叫ぶ、なのはをまるで嘲笑うかのように光砲が眼前まで迫った――そして。

 

《絶・天衝》

 

    −斬−

 

 黒が、ただただ純粋な漆黒が光砲を斬り裂いた。

 

《……なに?》

 

 いきなり斬り裂かれた光砲にベナレスが驚きの声をあげ。

 

《おいおい……!》

 

 光砲をなのはの眼前で斬り裂いた存在に、アルセイオが目を見開く。

 なのはもまた見ていた。自分を助けてくれた、その人を。その、背中を。

 彼は敵。自分を嫌いだと初めて真っ正面から言った人。黒のバリア・ジャケットを纏う青年。

 

《……いつも、こういう時には、必ず、来てくれるんだね……》

 

 クラナガンで感染者が現れた時も、シオンが暴走した時も、ヴィヴィオとユーノが危険だった時も。

 この青年は、いつも駆け付けてくれた。

 ……敵、なのに。

 

《偶然だ。ただのな。それから黙っていろ。傷に触る》

 

 相変わらずぶっきらぼうに愛想が無い。その言葉に、寧ろなのはは微笑む。

 それは、どこまでもこの青年らしい言葉だったから。

 伊織タカトらしい、言葉だったから。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 タカトは、なのはに振り返ると、即座に傷を見る。こちらに念話を飛ばそうとするなのはの唇に指を当てて、無理矢理黙らせた。

 

 ……深い。

 

 チッと舌打ちする。斬痕は想像以上に深かった。それに、外以上に中も酷い。軽く探査したが、少なくとも全身の至る所の骨に、微細なひびが入っていた。どのような無茶をしたと言うのか。

 

《……タカト、君》

《黙っていろと言ったぞ》

 

 呼び掛ける声にも、タカトはにべも無い。懐に手を突っ込むと、何やら札らしきモノを数枚取り出した。それは宙に放られると同時、なのはの身体に張り付く。

 

《っ! ……?》

 

 傷に直接張り付いた札に、思わずなのはは眉を潜める。見れば斬痕の上に、まるで包帯のように札が張り付いていた。

 

《治療札だ。この程度では止血程度にしかならんが、現状それで充分だろう》

 

 タカトはそうなのはに語り掛けると同時、指を組み合わせ、印を切った。

 すると、なのはの足元に八角の魔法陣が展開。周囲が半透明の壁で包まれる。

 

《仙術、絶界陣。これで”余波”程度は防げるだろう。……そこで大人しくしてろ》

 

 タカトはそこまで念話で言うと、背を向けた。そのまま、進む。警戒し、備えるストラの軍勢に。

 

《タカト、君……》

《……勘違いするな。お前の代わりをするだけだ》

 

 あくまでタカトは振り返らず、進む。それになのはは苦笑した。

 相変わらず素直じゃないなぁと、そう思う。そして。

 

《寝ていろ。その間に全てを終らせよう》

 

 その念話に、なのははうんと頷き、ゆっくりと目を閉じた。

 安堵の為か、意識はすぐに遠のき、途絶えた。

 

 ……寝たか。

 

 なのはが眠った事を気配で感じながらタカトは進む。暫くして、止まった。

 そこは、ストラ軍勢全てを見据えられる位置であった。

 

《まさか貴様が来るとはな、伊織タカト》

《……ベナレスか》

 

 正面。数百m先に居るギガンティスを見て、タカトは答える。その顔はただただ無表情であった。

 

《まあいいだろう。貴様も打倒せねばならない事に変わりは無い。……ここで――》

《黙れ》

 

 告げられる念話をタカトはスッパリと切る。右手を、持ち上げた。

 

《ベナレス・龍。ツァラ・トゥ・ストラ。貴様達は――》

 

 瞬間、光が集る。闇が集う。持ち上げられた右手に。それを見て、ギガンティスが僅かな震えを放った。

 

 ……確か、あれは――!

 

 光が集う、光が集う、光が集う!

 暗い、暗い、光が集う!

 闇が集う、闇が集う、闇が集う!

 輝く、輝く、闇が集う!

 タカトが持ち上げた右手、その拘束具に――!

 

《いかん! 誰か奴を……!》

 

 ベナレスが叫ぶ。だが、もう遅い! 既に”開放”は始まっている――。

 

《やり過ぎた》

 

 直後、タカトが右腕を下に振るう。それに合わせるように、拘束具がタカトの右手から滑り落ちた。

 

《真名、開放》

 

 我が、真名は――!

 

 直後。本局前の次元空間が確かに、震えた。

 世界が歓喜する。

 世界が悲鳴を上げる。

 顕れたその存在に、”次元震”と言う名の叫び声を上げた――。

 

 

(後編に続く)

 




はい、第三十六話前編でした。なのはかっけぇ(笑)
ちなみに、StS,EXの彼女は、StSでの影響がしっかり残ってる設定だったりします。元はどうなってたんだと。
さて、次回後編で、ついにタカト本領発揮です。
散々待たせた真名解放のお時間ですとも。お待たせしました(笑)
チートも大概にしろと怒られそうですが、そんな感じで一つ、お楽しみに。
では、後編にてお会いしましょう。ではではー。

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