魔法少女 リリカルなのはStS,EX 作:ラナ・テスタメント
では、第三十五話中編2どぞー。
−撃−
−撃−
−撃!−
時空管理局、本局。その直前で、激烈な光が弾ける。
アースラ艦長である、八神はやてが放つフレスヴェルグだ。光は視界いっぱいに広がる存在の中央で弾け、その破壊力をぶち撒ける。破壊の光は容赦無く、敵――人型ガジェットと、DA装備の因子兵を喰らい尽くした。だが。
く……っ!
はやては、息を荒げながら眼前に広がる敵を見る。……一向に減らない。
いや、はやての魔法は一撃で五百から千ものガジェットと因子兵を消滅させているのだ。だが、向こうは数が違い過ぎた。
総数五十万強。いつ、こんなにガジェットやら因子兵を用意したのか。とんでも無い兵力差であった。
対するこちらは、グノーシス、アースラ含めて二十人弱。文字通り、桁が違う兵力である。いくら一騎当千の部隊とは言え、限度と言う物があった。
《主!》
っ――!?
−爆!−
声がした、と思った瞬間に、はやての間近で爆発が巻き起こる。しかし、それは白のシールドにより防がれた。
トライシールド。はやてが誇る盾の守護獣、ザフィーラがそれを掲げてはやての前に立ち塞がったのだ。
《ご無事で? 主》
《ん。ありがとう、ザフィーラ》
念話でザフィーラに礼を言いながら、はやては視線を巡らせる。すぐに爆発の原因は分かった。
人型のガジェットが2機、はやての下方に居た。頭上から、すれ違いざまにはやてにミサイルを叩き込んだのだろう。それを、はやての護衛にあたっていたザフィーラが防いだのだ。
《主は、支援砲撃を。周りは俺が》
《うん。ザフィーラ、頼りにしとるよ》
コクリと頷き、再び魔力を集中。フレスヴェルグを放とうと、チャージを開始しようとした、直後にタイミングを見計らったように下方に居たガジェットがはやてに突っ込む。
その手に握られるのはナイフ。確実に、はやてを仕留めんと、真っ直ぐに突き進み。
《ぬあぁあぁぁぁっ!》
突如として、ガジェットの前にザフィーラが現れる。既に右の拳を構えた姿で!
−撃−
咆哮と共に放たれた拳が、ガジェットの顔面に突き刺さる。ザフィーラは止まらない。拳を顔面から抜くと同時に、蹴りを脇腹部分に続けて叩き込み、その細い身体を真っ二つにする。
−爆−
そのまま、真っ二つになったガジェットは爆発し、次元空間の藻屑となる。それを見て、人工知能がザフィーラをはやてよりも優先順位を繰り上げて、ザフィーラに右の銃を差し向ける。
ガジェットⅡ型と同じエネルギー式の銃なのか、銃口にエネルギーが集中して。
《縛れ! 鋼の軛ぃ! つあああぉぉぉ!》
−撃・撃・撃!−
それよりも早く、ザフィーラより放たれた鋼の軛――魔力で編まれた杭に、顔面、胴体、背中をブチ貫かれる!
杭が抜かれると同時に爆発し、前のガジェットと同じ末路を辿った。
それを視界の端に収めながらはやてはフレスヴェルグを続いて放つ。くっと奥歯を噛み締めた顔で。
――ガジェットが自分に攻撃を仕掛けて来た。それはつまり、各防衛線を抜けられた、と言う事である。
”こんなにも早く”。
まだ戦いが始まって、十数分も経っていないにも関わらずに、既にガジェットがここまで突破出来たと言う事実に、はやては悔し気に顔を歪めたのであった。
……皆。
前線で戦う仲間達や家族を思う。しかし今、自分が成さねばならない事は支援砲撃だ。数を減らせば減らす程、前線は楽になるのだから。
故に、はやては叫ぶ。散発的に、襲い来るガジェットや因子兵をザフィーラに任せ、己が成さねばならない事を。
《次、行くよ! リインっ!》
【はいです! はやてちゃん!】
自身と共にあるリィンの声に頷きながら、はやては次弾のフレスヴェルグを撃ち放った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
《ガバメント、ジャッジメント装填。滅罪LEVEL3、リミテッド三十%で固定》
【ラジャー】
真空間故に、煙草も吸えないコルトが若干イライラしながらも、念話で自らのデバイス、ガバメントに命じる。視線は動かさない。前を向いたままだ――否、動かせないが正しいか。
コルトの視線の先には、ガジェットと因子兵が三百六十度、”万遍なく存在”したのだから。
……よく、こんなに作ったモンだ。
流石に、コルトは呆れたようにそう思う。何せ、推定五十万強である。この数を作りあげる設備もそうだが、待機させて置くスペースも馬鹿にならない。
《ゼロ》
【インパクト・ファング】
ガバメントの機械音声を耳に残しながら、コルトは目の前のガジェットにするり、と踏み込んだ。一切の挙動を見せぬままに、だ。左のガバメントをガジェットの腹に叩き込み、直後。
−撃!−
”腹部が消え失せた”。打撃と共に叩き込まれた弾丸がそれを成したのだ。上下が分かたれたガジェットを眼前に残したまま、コルトはスっと腰を落とす。両手のガバメントを同時にカートリッジロード。
【ライオット・ファング】
《トバすぜ》
−轟!−
そして、ソレは生まれた。
――壁。”銃弾”で作られた壁である。数万と言う弾丸で弾幕を作り上げたのだ。破壊の壁は、容赦無くガジェットと因子兵群を喰らい、蹴散らし、屠る。
弾丸が通り過ぎた後には何も残らなかった。全て、薄く弾丸で削り取られて消え去ってしまったのだ。
コルトは前にガバメントを突き出した格好で残心。煙草を吹かそうとして、口元に何もくわえていない事に気付いた。
《ちっ……》
−撃−
舌打ちしながら、コルトは真横にガバメントを向け、一発撃ち放つ。それは、今まさにコルトに襲い掛からんとした因子兵であった。弾丸を顔面に叩き込まれた因子兵は上半身がすっぽりと消える。だが次の瞬間、因子が沸き立ち始めた。再生しようとしているのだ。
コルトはそれに再度の舌打ちを放ち、止めを差さんとして。
−裂!−
直後に走る”炎線”に気付き、後退した。炎線は一瞬で再生しようとしていた因子兵を灰に変え、そのまま止まらない。
真っ直ぐにその後ろにまだ控えるガジェット、因子兵群に突っ走り、そして。
−爆!ー
−轟!ー
莫大な熱量へと変換。1Km四方に、炎線が拡大し、その破壊力をブチ撒けた。
それを見て、コルトは三度目の舌打ちを放つ。後方に振り返り、炎線の一撃を叩き込んだ仲間を見た。
《オイ》
《…………》
念話の問い掛けに、しかし刃は何も答え無い。視線すら合わさずに、コルトを追い越す。
《馬鹿が。オイ、今あいつ。何発言霊式撃った?》
《今ので四発目です。おかげで多少楽にはなってますが》
肩を竦めるような仕草でコルト達より、若干離れた位置にいる悠一が答える。その返答に、コルトは深くため息を吐いた。
《”本命”とやり合う前に潰れる気か、あの馬鹿タレは。……一条、出雲、奴のフォローに行ってやれ》
《はい、了解です》
《手が掛かりやがるな、全くよ》
悠一とハヤトがコルトの命令に頷き、刃を追う。それを確認した後、コルトは再び前を向いた。
……刃が滅ぼし、一時的に出来ていた敵陣の穴が既に埋まっている。
それはそうだろう。何せ、向こうは数が有り余っているのだから。
……こいつはぁ、キッツイかもな。
倒せど倒せど現れる敵陣にコルトは嘆息する。残り魔力七割半。
未だ余裕はあれど、決して楽観視出来ない。
まぁ、やるしかないか。
《ガバメント。滅罪LEVEL、リミテッド現状維持》
【イエス、サー!】
苦笑と共に、コルトは再びガバメントを構える。直後、コルトの前を行く三人に。そして、コルト自身に視界いっぱいに広がるガジェット、因子兵が雪崩掛かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
雪崩をうち、迫り来るガジェットと、因子兵。それを目前にして、悠一は己がデバイス。月詠をくるりと回す。同時、カートリッジロード。朗々と、己がチカラを唄う。
《――この世界に満ちる、”四百万”の音素達! 次元空間故に空気は有らず、しかし起き行く雄叫びと戦場の重唱達よ! 届いていますか? 僕の声が!》
【レディ?】
届けと叫ぶ声。それに一瞬だけ――しかし、確かに、戦場にポォンと言う応える声を悠一に返す。悠一はそれに笑みと頷きを持って応えた。
《聞こえているのならば、僕と共に一つの演奏を鳴り響きかせなさい! 曲名は――!》
−轟!−
直後、”ソレ”は生まれた。炎の身体を持ち、雄々しく羽ばたく翼が。魔力と音素で編まれたその姿が戦場に吠える。
《――皇帝》
【カイザーフェニックス】
重低なる演奏と共に生まれた不死鳥は、燃える翼をはためかせる。それだけで、ガジェットが煙りを上げ、因子兵の身体が燃え出す。先の刃の一撃もそうだが、何故真空間に炎が生まれるのかには無論、理由がある。
魔法とは、意思によって世界の法則を組み替える事を指す。故に、ある程度の術者は酸素が無くてもモノを燃やせるのだ。
そして、悠一は真空間内で空気を介さずに音を打った。空気では無く、空間を振動させて音を生んだのだ。一般の物理現象に縛られぬ者達。故にこそ、彼等は位階の上位に在る。
煌めき、輝く不死鳥による熱波にガジェットも因子兵も近付け無い。頃合いを見計らって悠一はスッと月詠を前に差し向ける。それに応えて、不死鳥が翼を一打ち――前進する。
《皇帝とは》
【常に前を見据える覇者の名なり】
次の瞬間、不死鳥は敵陣の真ん中に真っ直ぐ突っ込み、その莫大な熱量を全て開放した。
−煌−
−輝−
一瞬だけ、視界全てを白が覆い、そして。
−爆!−
−裂!−
−轟!−
激烈な爆発となって、巨大な炎球を顕現。生み出された炎球は、即座に周囲に在るガジェットを、因子兵を喰らい、消えた。
それを確認して、悠一は溜息を吐く。四百万もの音素を使うフォニム式は相応の負担を悠一に与えたのだ。そして。
《後は宜しく、出雲先輩》
《オウ!》
悠一の眼前に、ハヤトがその巨体を現す。手に握る大剣、フツノが上下にスライドし、激烈な勢いと共に重なり合った。
《行くぜ、フツノ》
【承知】
フツノの短い返答に、ハヤトは笑い、一気にフツノを振りかぶる。同時、足場を形成。すり足で一歩を踏み込む!
《星断ちの一撃を受けるかよ!》
【断星剣】
−斬!−
叫びと共に横薙ぎへと、フツノを一閃、振り抜く。直後、その直線上にあった、ガジェット、因子兵群が全て、一刀両断にされた。
これこそが、ロストウェポン、フツノの力であった。選択斬撃。己が斬る、と決めたモノのみを、”必ず断ち斬る”力である。勿論、ハヤトの魔力次第なので断ち斬れるモノと断ち斬れないモノが在るが。今、ハヤトが斬ったのはハヤトが視認した空間そのものであった。
《相変わらず、出鱈目で》
《……あんまり、お前等には言われたく無ぇな》
後ろでパムパムと拍手する悠一にハヤトは苦笑。手に持つフツノを肩に担ぐ。
《それより、さっさとあの馬鹿追うぞ》
《ですね》
頷き、二人はさらに前進する刃を見る。刃は、周りが見えていないとばかりにただ前進を続けていた。それを二人は溜息を吐きがてら追う。
ガジェットと因子兵群が襲い来る最前線に、二人は刃を追って飛翔した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【クロスファイア】
レイジングハートの静かな声と共に、既にエクシードとなったなのはが、腰溜にレイジングハートを突き出す。直後。
−煌−
先端から光砲と、それに付き従うように光射が総計三条放たれた。
中央の砲撃がまず、真ん中のガジェット群に叩き込まれ、容赦無く吹き飛ばし、それを躱した二体の因子兵に直撃する。因子兵は、腹に直撃した光射に、しかし構わない。そのまま、なのはに突っ込もうと前進した。
だが、なのはは動かない。それを好機と見たか、因子兵が更に速度を上げ。
《バルディッシュ。ランサー、セット》
【プラズマランサー、ゲットセット】
直後に、頭上に広がる雷光! なのはの頭上に、フェイトが周囲に雷の槍を形成して立っていた。
スッとバルディッシュを掲げると同時、カートリッジロード。一気に振り下ろす!
《ファイア!》
−閃・閃・閃・閃−
フェイトの叫びと共に、雷槍が降り落ちる。なのはへと急接近しようとしていた因子兵は、速度を殺そうとして。だが、一旦速度に乗ってしまった慣性は簡単に止まる事を許さない。結果、因子兵は降り落ちる雷槍を何の抵抗も無く、受ける羽目となった。直撃し、そのまま走る雷撃が因子兵の全身を強く打つ。しかし、そこは因子兵。その一撃を受けながらも倒れない――次の砲撃さえ無ければ。
【エクセリオンバスター、スタンバイ、レディ?】
響く機械音声。同時、なのはが因子兵にレイジングハートの先端を差し向ける。
因子兵は、それに必死に動かんとするが、雷撃を受けている身体は動かない。そして。
《バスタァァ――――っ!》
−煌−
光の奔流がレイジングハートの先端より生み出された。その奔流は因子兵二体を飲み込み、止まらない。
−轟!−
光砲が真っ直ぐに伸び行く。それは、因子兵の直線上に居た更なる因子兵群を飲み込むと、その群を抹消した。
《ふぅ……》
《なのは、大丈夫?》
一つ息を吐くなのはに、フェイトが心配そうな顔となる。
この防衛線では砲撃、射撃に特化したなのはに最も負担が掛かっていた。
魔法を絶え間無く放ち続けているのだ。魔力消費も馬鹿にならない。
しかし、なのははそんなフェイトに笑顔で応えた。
《うん、大丈夫。ありがとう、フェイトちゃん》
その返答に、フェイトはそっかと応える。なのはの頑固さは、フェイトも骨身に染みている。ここで辛そうな顔をする筈が無かった。
《……でも、なのは》
あんまり無理しないように、と告げようとして、しかし再び最前線を抜けた因子兵とガジェットが現れる。
それに二人は各々のデバイスを構えようとして。
《アイゼン!》
《レヴァンティン!》
名を告げる叫びを聞いた。直後に、なのは達の頭上から赤とピンクの二人が舞い降りた。
ヴィータとシグナムだ。二人は同時にカートリッジロード。まず、ヴィータが前に出た。
《轟天爆砕!》
【ギガント・フォルム!】
ヴィータの叫びに応え、愛機グラーフアイゼンが変形を開始する。ハンマーヘッドが巨大化。それをヴィータが振りかぶると同時に再び巨大化する。ヴィータ本人の大きさを遥かに超え、さらに巨大化。十mを超える巨大鉄鎚となった。
それをヴィータは真っ直ぐ上段に振りかぶり、間を置かずに振り下ろす!
《ギガント・シュラァァァ――――クッ!》
−轟!−
激烈極まる鎚撃が、先頭の因子兵に激突。その破壊力を遺憾無く発揮し、身体を粉々にして――止まらない。
巨鎚は停滞せずに振り抜かれる。途上の全てを言葉通りに爆砕しながら。
巨鎚が、最前線を抜けて来た敵陣の一部をこそぎとるようにして殴殺し、その敵陣には、更なる一撃が下される。
【猛れ! 炎熱! 烈火刃!】
【シュランゲ・フォルム!】
二つの声を聞きながらヴィータの後方に居たシグナムが前に出た。連結刃となったレヴァンティンに一気に炎が走り、それをシグナムは伸ばす。
シュランゲ・バイゼン。延びたレヴァンティンが、ガジェットを縦に叩き割り、その首を擡げると敵陣を縦横無尽に駆け抜ける。それは次々と敵を叩き墜とし――そこでシグナムは止まらない。レヴァンティンを引き戻しがてら、左手をすっと差し出す。そこに、静かに炎が灯った。
《剣閃!》
【烈火!】
放たれる声に従うように、炎が剣身を走っていく。炎は切っ先まで、走り、レヴァンティンは真っ直ぐに伸び切った。それはあたかも、巨大な一本の剣を思わせる。
そしてシグナムは、一気に横薙ぎへと炎剣を振り放つ!
《【火竜! 一閃!】》
−閃!−
炎刃一閃! 巨大化した炎剣は、一気に、敵陣を駆け抜ける。一時の間が空き、直後。
−煌!−
小規模の爆発が重なり合うようにして起き、炎斬撃の軌道上の全ての敵陣を殲滅した。
ヴィータとシグナムはそれ等を見届けて、フゥと息を吐くと、それぞれのデバイスを基本形態に戻した。
《なのは、無事かー?》
《油断だな、テスタロッサ》
振り向き、ニッと笑うヴィータと微笑するシグナムに、なのはとフェイトも微笑む。
《うん。ありがとう、ヴィータちゃん》
《助かりました、シグナム》
その返答に、二人はそれぞれ頷く。そして、再び本局側へと視線を巡らせた。
《……最前線、結構抜けて来たね》
《数が数だしな。しゃーねーよ》
《だが、そうも言ってられん。私達を遠回りに避して後方に結構回った奴等もいる》
《FWの皆、大丈夫かな……はやても……》
フェイトの言葉に、三人は苦い表情となる。後方のFW部隊は空間戦闘に慣れておらず、はやては近距離に弱い。あまり敵に防衛線を抜けさせたくは無いのだが、敵群はそれを読んだが如く、後方へとひた走る。はっきり言ってタチが悪かった。
しかも、問題はそれだけでは無い。四人は視線の先を見て、そう思う。
その視線は未だ減ったように見え無い敵に向けられていた。
例の魔導師部隊。アルセイオ隊が出ていないにも係わらず、この事態だ。
既に魔力も7割を切った。これ以上消耗して、例の部隊に出られると致命的な事に成り兼ねない。
《……とにかく、今はそれぞれの防衛範囲を広げよ?》
《そーだな。二手に分かれようぜ。消耗が増えるけど、その方が防衛範囲が広げられるしな》
《うん。なら、それぞれ少隊で分かれよう。なのははヴィータと、私はシグナムと行くから》
《ああ、では行くか》
四人はコクリと頷き合うと、一気に駆け出した。
しかし、未だに敵はその総数を十分に保ち。そして、なのは達を疲労が襲い始めていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
−撃・撃・撃・撃!−
因子兵がくるりと回転しながらDAの腕に装備されたエネルギー弾を撃ち放つ。それをスバルは、ウィングロードを展開し、駆け抜けながら躱す――直後。
《クロス! ファイア――――! シュ――ト!》
−射!−
二十の光弾が、スバルの前から突っ込んで来た。
それは、スバルの脇をすれ違う軌道で駆け抜け、スバルを追っていた因子兵へと殺到する。
−撃、撃、撃、撃、撃−
因子兵はそれを回避する術を持たず、全身に光弾を叩き込まれる。ぐらり、とダメージで崩れる身体が、再び因子により再生しようとして。
−煌−
突如として撃ち放たれた光の奔流に全身を飲み込まれ、消え去った。見れば、スバルの前方にクロスミラージュと、イノーメスキャノンを構えるティアナと、ディエチが居る。
《スバル! 一旦こっちまで戻って!》
《うん!》
合流を呼び掛けるティアナにスバルは応じ、そのまま二人に合流しようとして。
迫るガジェットと因子兵に気付いた。ィアナ達はそれに気付かない――否、”気付けない”。
《ティア! ディエチ! ”下”!》
《え……? っ!?》
《しまった……!?》
スバルの念話に、二人は下を見て、顔を強張らせる。
そう、敵群は”真下”から二人に迫っていたのだ。因子兵が腕を差し向け、ガジェットがミサイルハッチを開放すると二人に撃ち放とうとして。
《させるかよ!》
《二人とも! そのまま!》
更なる念話が一同に叩きつけられた。ノーヴェとギンガである。二人は、エアライナーとウィングロードを展開しながら一気に駆け、ティアナ達のちょうど真下を通り過ぎる軌道で走り抜ける。
ギンガのリボルバーナックルが、ノーヴェのジェットエッジが激烈な回転を刻み、それを二人は駆け抜けざまに、先頭の敵へと叩き付ける!
《リボルバ――! スパイク!》
《リボルバ――! バンカー!》
−撃!−
蹴りと、拳がそれぞれガジェットと因子兵に直撃。ガジェットは顔に、因子兵は腹に叩き込まれ、二人はそのままフライバイしながら敵陣を抜ける。
先頭が一撃を受けた事により、敵陣はティアナ達へと向かう動きを止められ、奇襲が失敗に終わったと見るや、そのまま回頭しようとして――背中に、短剣がそれぞれ突き立った。
チンクだ。彼女はウェンディのライデングボードに相乗りして、共に敵陣を抜ける。次の瞬間、チンクが指を弾いた。
《IS、ランブルデトネイター》
−爆!−
轟爆! 因子兵やガジェットが一斉に爆発し、因子兵は再生する事さえ出来ずに塵に消える。
危機から脱っした事に、ティアナとディエチがホっと息を吐いた。同時に、スバルが一同に合流した。
《ティア、ディエチ、大丈夫?》
《何とかね。……助かったわ》
《ありがとう》
スバルの言葉に、二人共頷く。それにギンガ、ノーヴェ、チンク、ウェンディも笑いながら頷いた。
《でも、やっぱり上も下も無いって言うのは、あまり落ち着かないわね》
《確かにな》
ティアナの言葉に、チンク、ディエチが頷く。それに、スバル達は苦笑した。
いくら無重力空間で動けるようになったとはいえ、機動力で分が悪すぎるのだ。因子兵やガジェットに追い回されるような状態である。
まともに戦えているのは、スバル、ノーヴェ、ギンガ、ウェンディくらいであり、チンクにいたってはウェンディのライデングボードに相乗りしている状態である。あまりにも戦場の分が悪すぎた。
《そう言えば、ハラオウン提督とエリオとキャロは?》
《ああ、あの三人ならあっちにいるぜ》
そうノーヴェが答え、右に指を差し向けた、直後。
−凍!−
その指が指し示す方角、数百mの空間が凍り付いた。
《……は……?》
いきなりの事態に、一同が目を丸くする。何の脈絡も無く、何百mも凍り付いたのだ。驚きもする。
すると、そちらの方向から白銀の竜が翼を羽ばたかせて、こちらに向かって来た。
キャロの相棒である、フリードだ。背中には、キャロとエリオ、そして、何やら息を荒げているクロノの姿があった。
《皆さん〜〜》
《キャロ! エリオも、大丈夫?》
《はい。クロノ提督のおかげで……》
一同に合流した、三人をスバル達が出迎える。しかし、ティアナがフリードを見て疑問符を浮かべた。
《……? あれ? て言うかチビ竜、何で真空間なのに、大丈夫なの?》
《えっと……フリードが”竜”だから、らしいんですけど》
キャロの返答に、更に一同は疑問符を浮かべた。それに、エリオとキャロは苦笑する。実際、二人も詳しく分かっている事柄では無いからだ。
二人は一度、トウヤに竜の事について、いろいろ聞かされた事がある。それは次のような事だった。
竜とは、半精神存在であり、従来の生命体では無い。龍がほぼ完全な精神存在なのに対して、竜は肉体を持つ。しかし、その在り方は精神存在寄りなのだ。故に竜種は、根本的に呼吸を必要としない。空気が無いのに、真空間を飛ぶのも同じ理由である。竜は翼に風を受けて空を飛んでいる訳では無い。そもそも、フリードのような巨大な竜の飛び方は、物理法則に従うのならばハングライダーのような滑空の飛び方が正しい。分かりやすいのが、プテラノドン辺りの恐竜である。つまり、翼を羽ばたかせて飛ぶ事は、このサイズの生物では不可能なのだ。
しかし、フリードを始めとした竜種はこれが出来る。理由については様々だが、竜種は重力や慣性を制御していると考えられるのだ。
このような竜のレクチャーと、竜の可能性について、トウヤが入院している時に二人は二時間に渡り聞かされたのである。
当然、このような長い話しを完全に覚えられる筈も無い。結局二人はフリードはいろいろ凄い、と言う事くらいしか分からなかったのだ。
《ええっと、詳しいお話しは後でトウヤさんとじっくりとして頂ければ……》
《うーん、そうね。今は戦ってる真っ最中だし、そうするわ》
キャロの言葉に、一同は頷く。そのまま視線をまだ息を荒げているクロノへと向けた。
《えっと……ハラオウン提督、大丈夫ですか?》
《ああ、問題は――っ!》
荒い息で頷こうとするクロノだが、突如、真上を仰ぐ。
そこには、一気に自分達へと向かい来る敵群が居た。
《また……!》
《く……!》
クロノに釣られて上をみた一同も顔を強めながら己の愛機を構える。だが、それよりも早くクロノが手に持つ真・デュランダルを敵へと差し向けた。
《今度は、”やり過ぎる”なよ! デュランダル!》
【OK、Boss】
クロノの声にデュランダルは確かに応え、直後、自身に登録されていた魔法を引きずり出した。
【エクスキューショナース、ソード。スタンバイ】
《て、ちょっと待て!?》
告げられる魔法名にクロノは慌てて、魔法を中断しようとする――間に合わなかった。真・デュランダルの先端から”冷気”で形成された刃が生まれた。
”氷”では無く、”冷気”である。しかも目に見える程のだ。それは、周囲と遥かに隔絶した冷気が刃となっている証拠であった。その刃が、真っ直ぐに伸びる! 敵群の先頭を走るガジェットを貫き、瞬間。
−凍!−
”冷気の刃が爆裂した”。
熱の急上昇では無く、急下降による爆裂である。
そのガジェットを中心として、一気に周囲が凍り付き、それは敵群をまとめて凍り付かせてなお続いた。
《…………》
《ぐ……っ》
エリオとキャロを除く一同が、あまりの事態にポカンとなる中、クロノが苦しげに喘ぐ。そして、ギロリと手に持つ真・デュランダルを睨んだ。
《くそ。”近接型の魔法”で、これか……!?》
睨みながらクロノはぐっと奥歯を噛み締める。
そう、ロストウェポンとなったデュランダルの最大の問題点がそこにあった。登録魔法の殆どが、殲滅型の魔法なのである。先のエクスキューショナースソードも、”近接殲滅型魔法”であった。当然、魔力消費が馬鹿にならない。今、クロノの魔力量は五割を切ろうとしていた。
真・デュランダルは、術者の魔力消費を”一切”考え無いと言う、ある意味で致命的な欠点を抱えていたのだ。
作成者が、魔力消費を気にしない人間故に起きてしまったミスとも言える。
《誰だ、こんな使いづらいにも程がある改造をした奴は……!》
毒づきながらクロノは嘆息。一同に向き合う。
《すまない。さっきからこんな調子でな》
《あ、いえ……》
《ええと、大丈夫ですか?》
それぞれから掛けられる念話に、クロノは首肯する。そして、周りを見渡して一同に向き直った。
《今、現状で僕はこんな状態だ。でも、さっきからなのは達の防衛線を抜ける敵も増えてる》
《はい》
一同がクロノの念話に頷く。先程からこちらへと向かい来るガジェットや因子兵が増え始めているのだ。こちらの防衛線を突破する敵も増えている。
《そこで、僕達もそれぞれ分かれて防衛線を張ろう。チーム分けは――》
《少隊で分かれてはどうだろうか? 基本はN2R(ウチ)が前で、その後方にスターズとライトニングを配置すれば》
チンクがクロノに提案する。元々、N2Rがこの防衛線では主力となっているのだ。彼女達を中心に据えるのは当然とも言える。
クロノがチンクの提案に少し思案。数秒後にフムと頷いた。
《よし。ならそれで行こう。僕も君達と一緒に中央に陣取る。今の僕は大きい魔法”しか”撃てないが、中央ならまだ多少は効果的だろうしな》
一同を見遣りながらクロノは話す。続いて、スバル達に視線を向けた。
《僕達が撃ち漏らした敵は君達に任せる。頼めるか?》
《はい!》
スバル達はクロノの言葉に一斉に頷く。それに、クロノもよしと再度頷いた。
《それじゃあさっそく、配置につこう。行くぞ!》
その言葉に、一同は皆頷くと、それぞれ動き出した。
(中編2に続く)
はい、第三十五話中編2でした。量VS質の戦いです。
どっちが優れてるかは、置いておくとして、尋常じゃない量で攻められるとヤバいですな。文字数的にも(笑)
次回、第三十五話後編もお楽しみにです。