魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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はい、第三十五話中編1であります。しかし、よく考えると事件はあれど戦争起こさせなかったあたり、管理局は法治組織としてかなり有能なんではなかろーかと思ってみたり。
ちなみに、テスタメントは管理局を国連みたいなもんと定義しています。
なので、基本政治には一切関わらないスタンスだと。
まぁ、クロスリレーの設定だとそこらを逆手に取ってみたりしましたが。
そんな訳で、第三十五話中編1、お楽しみあれ。


第三十五話「時空管理局本局決戦」(中編1)

 

 アースラブリッジ。そこで、八神はやてはモニターに映る存在を見ていた。

 次元航行艦隊。JS事件時とほぼ同数の数が、モニターに展開している。

 

「八神艦長。艦隊との合流、完了しました」

 

 管制のシャーリーからの報告にはやては静かに頷く。その胸中にあるのは、これから起きる戦いについてだ。

 

 ――戦争。言葉に出さなくても、そう思わざるを得ない。皆も分かっている。これから起きるのは、”人同士”の殺し合いである戦争だと。

 それである艦隊戦には直接参加しないとは言え、はやてからしてみても他の皆からしてみても拒否反応が出る。

 当たり前と言えば、当たり前だ。多数の事件を解決した事はあれど、彼女達は直接人を殺すような真似はしたことは無いのだから。――だが。

 

「……戦争、か」

「艦長?」

「いや、なんでもあらへんよ。……シャーリー、旗艦に通信、繋げてくれるか?」

「はい、了解です」

 

 シャーリーの指がコンソールの上を躍る。数秒の間を持って、ウィンドウがブリッジに展開。映るのは、壮年の男だった。

 

《艦隊司令のカール・グラマンだ。アースラが合流したか。……久しいな、八神》

「はい。アースラ艦長の八神はやてです。お久しぶりです、カール提督」

 

 はやては微笑しながらカールに頷く。

 ――カール・グラマン。時空管理局の古株であり、リンディよりも年上の提督である。はやても懇意にしてもらっている提督であった。

 

《君達のような若い娘達までこのような戦いに駆り出さねばならないとはな。嫌な世の中になったものだ》

「……カール提督」

 

 苦い声で吐き捨てるように呟くカールに、はやては苦笑する。それにカールは嘆息した。

 

《いや、すまん。忘れてくれ。アースラは艦隊の後方に配置。君達の出番は後だ。艦隊戦はこちらの仕事だ》

「……はい」

 

 はやてはカールの指示に頷くと、彼はそのままはやてを見据えた。

 

《怖いか?》

「いえ……」

《自分を取り繕う必要は無い。正直に言え。可愛いげの無い》

 

 カールの言い回しに、はやては苦笑する。ぶっきらぼうだが、暖かみのある言葉である。苦笑を微笑に変えた。

 

「恐怖は感じて無いですよ。……でも」

《躊躇いはあるか》

 

 頷く。そう、何せ本当の意味での殺し合いが始まろうとしているのだから。しかも、元は同じ時空管理局の人間だ。躊躇わない筈も無い。

 

《そうだな。しかし八神。今はそれを忘れろ》

「やけど――」

《そうでなければ死ぬぞ。お前も、その仲間も》

 

 きっぱりと告げられる言葉にはやては顔を歪める。

 ――そんな事は分かっている。しかし、だからと言って割り切れるものでも無い。

 

《迷いは即、死に繋がる。しかも、お前のじゃ無い。お前の部下のだ。それは忘れるな》

 

 その言葉に、はやては暫く沈黙し、ややあってコクリと頷いた。

 

「……はい」

《よし。ではまた後ほど通信を送る。作戦開始は一二○○時だ。今から艦隊は進行する。いいな?》

「了解です」

《うむ。ではな》

 

 それだけ言い終わると、通信が切れる。はやてはフゥと息を吐きながら再度モニターを見る。今、まさに本局、次元封鎖領域に進まんとする航行艦隊を。

 

「……」

 

 ……はやては、ただ見詰め続けた。

 これより、時空管理局史上初の艦隊戦が始まる――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 アースラが後方に配置され、そのまま艦隊は次元航行を開始する。だが、本局には直接転移しない。次元封鎖されている為だ。故に、まず次元封鎖領域外に艦隊は転移する。

 一二○○時――艦隊は予定通りに、次元封鎖領域直前へと次元転移でその姿を現した。

 ストラが用意した次元航行艦隊の目前にである。直後、艦隊司令であるカールの声がストラ側の艦隊に響き渡る。

 

《ツァラ・トゥ・ストラの面々に告げる! 君達を大規模次元争乱罪で逮捕する。君達には――》

 

 ストラ側の艦隊はこの言葉に声”以外”の返答を返した。

 

    −煌−

 

 艦砲の一斉射、と言う返答を。それは管理局側の次元航行艦に真っ直ぐに突っ込み。しかし。

 

    −軋−

 

 その全ての艦砲は、全て各艦の防御障壁にて凌がれた。

 

《それが答えか……! 既に宣告はした。攻撃を開始する!》

 

    −撃−

 

 宣戦の言葉と共に、管理局側の艦隊から艦砲が一斉に放たれる。ストラ側も負けじと次々と艦砲を撃ち放つ。

 ――ここに、時空管理局初の艦隊戦が勃発した。

 

 艦隊戦が始まってすぐに、ストラ側の艦隊は鶴翼陣形となり、管理局側の艦隊を包囲せんとしようとする。

 それに対し、管理局側の艦隊は鋒矢陣形となった。

 矢印のような管理局側の艦隊に対し、ストラ側の艦隊がそれを包囲するような陣形である。

 管理局側の陣形は突破、突撃を目的とした陣形であり、ストラ側の陣形は包囲、殲滅を目的とした陣形だ。

 これだと管理局側は横からの攻撃に弱い為、ストラ側に包囲されてしまう。

 しかし、管理局側の艦隊の目的は最初っから”道”を作る事にある。

 故に、管理局側の艦隊は鋒矢陣形を維持。真っ直ぐにストラ側の艦隊に突っ込んだ。当然、ストラ側はそれに包囲を開始。横に回り込む。

 だが、包囲する為に鶴翼に陣形を展開すると言う事はつまる所、艦隊の層が全体的に薄くなる事に他ならない。

 だからこそ管理局側は不利となる鋒矢陣形を選んだのだから。たった一艦の道を作る為に。

 

 光爆が宙域に灯る。また、一つの次元航行艦が墜ちたのだ。光爆は絶え間無く起きる。その度に、数十、数百といった人は死んでいく。

 放たれる艦砲を管理局側は一艦に集中。確実にストラ側の艦を墜とす。ストラ側は鶴翼陣形と言う事もあり、それぞれ別々の艦に狙いを定めた。

 ストラ側の鶴翼陣形の真ん中に管理局側の艦隊はあくまでも攻撃を集中させる。放たれる光砲に互いに切り札たるアルカンシェルは無い。使え無いのだ。

 理由は互いの艦隊が近すぎる為だ。

 アルカンシェルとは、着弾と同時に空間を歪曲させ。空間ごと、反応、消滅させる砲である。しかし、その攻撃範囲は百Kmでは利かない。何せ、惑星上での使用を躊躇う程なのだ。

 だが今、互いの艦隊は数十Kmと離れていない。これは、管理局側が次元封鎖領域ギリギリに位置するストラ側の艦隊に最接近する形で次元転移した為である。

 これにより、互いにアルカンシェルは使用不能。それ以外の武装で戦わざるを得なくなったのである。当然、管理局側はそれを狙っていた訳だが。

 

 そして、ついに開いた、鶴翼陣形のド真ん中が。即座に、艦隊司令のカールが声をあげる。

 

「よし! 作戦はフェイズ2へ移行! アースラへ打診しろ!」

「既に動きだしています! 速い……!?」

 

 鋒矢陣形の最後尾にいたアースラが、一直線に艦隊を駆け抜ける。その速度は流石、管理局内最速の艦と言う事か。

 

「突入タイミングを見極めていたか。流石だな、八神」

 

 ふっとカールは笑い。そのまま前方を睨み据える。

 

「アースラが敵陣形を抜けたら、そのまま各艦は敵陣を突破! その位置から車輪陣を構成する……! 何があってもアースラを追わせるな!」

 

 了解! と、管制が応じ、各艦が動き出した。

 それを確認しながら、カールが見るのは既に管理局側の艦隊を抜け、一直線にストラ側の艦隊を抜けようとするアースラであった。

 

「ここから先はお前の仕事だ。八神、任せるぞ」

 

 直後、アースラはストラの艦隊を突破、その速度を一切緩めずに本局へとひた走った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ストラ艦隊、抜けました!」

「第一段階は何とかなったな」

 

 シャーリーの声に、はやては頷く。そして操舵手のルキノへと通信を繋いだ。

 

「アースラは現状の速度を維持、一気に本局まで行く。頼めるか?」

《はい! お任せ下さい!》

 

 ルキノは即座に頷く。続いて、はやては格納庫に居る、アースラ、グノーシスメンバーに通信を繋げた。

 

「後、十分程でアースラは本局前に着く。皆、準備はええか?」

《うん。皆、大丈夫だよ》

 

 返って来たなのはの言葉にはやては笑顔を返す。

 

「ん。よろしくな、なのはちゃん。それじゃあ、皆――」

 

 そこではやては一度言葉を切り、ぐっと前を見る。そのまま叫んだ。

 

「一丁、行ってみよか!」

『『了解!』』

 

 はやての叫びに、皆応えるかのように一斉に吠え、頷いた。

 

 ――アースラ格納庫。そこに集うアースラ前線メンバー各少隊とグノーシスメンバー達。彼等、彼女達を見ながら、なのはは傍らの二人に目を向ける。

 その視線の先にはヴォルケンリッターにして、スターズ、ライトニング各少隊の副隊長である二人が居た。シグナムとヴィータである。彼女達はなのはの視線に気付き、苦笑する。

 

「なんだよ、なのは。そんな顔して」

「そうだぞ? 隊長たるもの、もっとしっかりとだな」

「そんな顔がどんなのかは置いておくけど、二人に言われたくは無いかな?」

 

 ジト目で睨むなのはに二人は若干頬を引き攣らせる。なのはの横ではフェイトもまた頷いていた。

 

「二人共、ケガ治りきってないのに」

 

 嘆息混じりの言葉に、シグナムとヴィータがうっと呻いた。そう、この二人はクラナガンの戦闘で大ケガを負っていた。なのに、ここに居るのだ。

 

「はやても散々止めたのに」

「いや、だがなテスタロッサ」

「だが、じゃありません」

「でもな?」

「でも、でもないよ、ヴィータちゃん」

 

 取り付く島も無い。フェイトとなのはがお説教モードに入りかけ、シグナムとヴィータが慌てる。

 

「……もう来ちゃってるからこれ以上言わないけど。二人共、無茶しちゃ駄目だよ? ケガ治り切って無いんだから」

「ああ。てか、なのはの方こそ無茶はすんなよ? ブラスターは絶対ダメだかんな?」

 

 あくまで、自分を気遣うヴィータになのはは微笑む。手を伸ばし、その頭を撫でた。

 

「大丈夫だよ。皆も居るし、よっぽどの事が無いと無茶なんかしないよ」

「……よっぽどの事があったら無茶すんじゃねーか」

 

 撫でられながらもブスっと頬を膨らませてヴィータがなのはを睨む。それにはなのはも苦笑しか返さなかったが。

 

「なのはの言葉じゃないですけど。シグナムもあまり無茶しないようにお願いします」

「分かっている。心配性め」

 

 ジトっと睨むフェイトにシグナムは肩を竦めて答える。そしてフェイトに笑って見せた。

 

「無理と無茶の判別くらいはやる。……簡単に命を投げ出すような真似はせんから安心しろ」

「……信じてますよ?」

 

 再度の問いに、シグナムは首肯だけで答えた。

 

《本局直前領域まで、後3分! 各前線メンバーは出撃体制に入って下さい! 繰り返します――》

 

 そんなやり取りの最中に、シャーリーから艦内放送が告げられる。なのは達は顔を見合わせた。

 いよいよフェイズ2、作戦開始であった。

 

「それじゃあ皆、集合〜〜」

 

 なのはの言葉に、格納庫でバラけていた各メンバーが集合する。それ等を確認した後、なのはは頷いた。

 

「それじゃあ、今から本局奪還作戦フェイズ2の作戦内容を確認するね? まずは、グノーシス・メンバーの人達?」

「ああ」

 

 代表として、コルトが頷く。そのまま、自分達の配置を告げた。

 

「俺達は最前線、当然だな」

「……出向で来た貴方達に、一番危ない配置は心苦しいのですけど……」

「俺達が望んだ事だ。気にするな。大体、俺達の殆どは近接型ばっかりだしな。後方に配置されると、何も出来やしねぇよ」

 

 まぁ、任せろ。と、答えるコルトに、なのは達は逡巡しながらも頷く。

 その言葉通り、彼等の能力は酷く攻撃性能に傾倒しており、下手に後方に配置出来ないのだ。故に、彼等は自ら最前線に立つ事を志願したのである。ある意味に於いて、凄まじく潔い。

 

「それじゃあ次、スターズ、ライトニングの隊長、副隊長だけど。私達は――」

「グノーシス・メンバーのすぐ後方だな。前線にも後方にもすぐに援護に行ける距離だ」

 

 なのはの言葉をシグナムが継ぐ。なのは達の配置はグノーシス・メンバーのすぐ後ろである。これにより、前線の真後ろにて隊長陣達による防衛線が張られる予定であった。

 

「グノーシス・メンバーから抜けた各敵機動戦力をここで更に迎撃します」

「……ま、討ち漏らしは任せるぜ。こっちは高確率でアルセイオ達との戦いになる可能性が高い。そうなると、こっちはガジェットとか言うあのロボットやら、因子兵には対応出来ねぇしな」

 

 コルトがなのはの言葉に頷く。実際、アルセイオ達が出て来た場合、彼等はそちらに掛かり切りになるので、まずガジェットや因子兵には対応出来ない筈である。それ程、アルセイオ隊が驚異と言う事でもあるのだが。コルトの言葉に、隊長陣達もまた頷く。

 

「次、スターズ、ライトニング、FW陣とN2R少隊。配置は私達の更に後ろだよ」

 

 なのはの言葉に、スバル達もまた頷く。本来FWよりである彼女達が後方に下げられた理由は勿論ある。

 単に機動性の問題であった。

 いくら足裏に重力を発生させつつ、その足元に足場が常時展開した状態と言えど、全天戦闘に於ける機動性としては相当に低い。

 あまり気にせずに戦えるのは、スバル、ギンガ、そしてノーヴェくらいのものである。それでも機動性の自由度と言う面では不安が残るのだが。

 

「これは最終防衛線になるから。皆、宜しくね」

『『はい!』』

 

 なのはの言葉に、一斉に頷く。それに頷き返しながら、なのはは今まで一言も話さなかった存在、クロノを見る。彼はその視線に片手のみを上げた。

 

「僕はグノーシス・メンバーと同じ最前線に――」

「そう言うと思ったよ。でも、クロノ君は駄〜〜目」

 

 なのはの言葉にクロノはピクリと片眉を上げる。しかし、なのはは構わない。続ける。

 

「クロノ君はスバル達と同じ配置に居てもらいます」

「待て、なのは」

「待ちません。……デュランダル。まだ、いろいろと分かってない部分があるんだよね?」

 

 なのはの言葉に、クロノは無表情のままで、何も応え無い。返って来たクロノのデュランダルは、グノーシス側で何やら色々改造されたらしく、その姿形は別として、殆ど別物と化していたのだ。

 ロストウェポン、真・デュランダルとして。

 そして、その全容をクロノは把握仕切れてはいないのだ。

 

「……だがな」

「……それに、リンディさんが心配なのは分かるけど。クロノ君、ちょっとピリピリしてるよ? 気付いてた?」

 

 反論しようとしていたクロノであるが、なのはの言葉にぐっと踏み止まる。実際、クロノの心中は普段通りでは無かった。外面は取り繕っていても、完全な意味で冷静では無かったのだ。

 それは、母を思うが故に。クロノは自分でも気付かぬ程に焦っていた。

 クロノはなのはの視線に肩を竦めて嘆息する。

 

 ……情けないな。

 

 そう思い、苦笑した。

 

「……そうだな。分かった。なのはの言う通りにしよう」

「うん……ゴメンね? クロノ君」

「気にするな。恐らく僕がなのはでも、同じ判断をするさ」

 

 クロノはそう言うと、笑ってみせた。それに、なのはも笑顔を返す。

 流石に十一年前と違い、それに顔を朱くする事は無かったが。

 

「最後にザフィーラさんなんだけど」

「心得ている」

 

 人型となったザフィーラがなのはの言葉に頷く。同時、格納庫の扉が開き、一人の女性が現れた。

 八神はやて。アースラの艦長である彼女が。

 

「遅れてゴメンな。皆、ブリーフィングの最中やった?」

「大丈夫。ちょうど、はやてちゃんの所だから」

 

 なのはが、はやての言葉に笑みを返す。それに短く頷き、はやてもなのはの隣に並んだ。

 

「八神艦長はアースラの前へ出て貰い、超長距離砲撃を敢行して、各部隊の援護をして貰います。ザフィーラさんは、はやてちゃんの護衛をお願いします」

「了解や」

 

 はやてが朗らかに頷き、その傍らではやての融合騎であるリインが【頑張ります!】と、ガッツポーズを取る。それに、シグナムの傍らに居るアギトが腕組みをしながら冷やかし、二人は即座に口喧嘩状態になった。

 

「ほらほら、リイン。作戦前なんやから大人しゅうな?」

「アギト。あまり暴れ過ぎるな」

【うぅ……はいです】

【けっ、分かったよ】

 

 それぞれの主(ロード)に嗜められ、リインは若干悔し気に、アギトは相変わらずの腕組みの状態で互いにフンっ! と同時にそっぽを向く。

 本人達は気付いていないが、ト○とジ○リーの関係にそっくりで、そのやり取りで周りが和んでいるのだが。

 ――ちなみに余談だが約一名、「やっぱ! やっぱ融合騎は可愛ええなっ!」と、悶えてる関西人が居たのには、皆、気付かないフリを通す事にした。

 

「うん。ならブリーフィングは終了しよ。フェイトちゃん、はやてちゃんは何か言う事あるかな?」

「私からは無いかな」

「私もや。言いたい事は出航前に言うたしな」

 

 なのはの言葉に、それぞれ頷く。それを確認して、なのはも頷いた。

 

《本局直前領域に到達! 各前線メンバーは出撃して下さい!》

「……時間もちょうどいいね。なら皆! 頑張って行こう!」

 

 なのはが片手をグーにして頭上に上げる。それぞれ各員、己の示し方でそれに応えた。

 時空管理局本局。その奪還作戦の第二段階が始まる――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ストラ側の次元航行艦隊を抜けたアースラ。その前方、二十Km地点にそれはある。

 法を守る舟であり、アースラが所属する場所。帰るべき場所がそこにはあった――時空管理局本局の姿が。

 アースラから出撃し、本局前で浮遊するなのは達はそれを感慨深そうに見る。ここを出航して一週間も経ってはいないのに、妙に懐かしい感覚を覚えたからだ。しかし、それに首を振り思考を入れ替える。

 

《スバル、ティアナ。どう? ちゃんと、”立ててる?”》

 

 真空間――ようは宇宙空間のようなこの場所に空気は無い。

 自分達はバリアジャケットのスキン・フィールドにより、循環器。つまり、呼吸のリサイクルが常時行われている。その為、真空状態でも呼吸が出来るのだが、だからと言って会話は普通には出来なかった。

 なので念話通信で会話するしか無い訳だが。それは、余談である。

 なのはの通信に、スバルとティアナは少し戸惑いの声をあげる。

 

《その、何と言うか……》

《ちょっと、心元無いって言うか。そんな感じです》

《うん。……だよね》

 

 二人の返答に、なのはは頷く。見えない足場に立っている事を想像すると分かりやすい。足元には真っ暗な、果ての無い暗闇が広がっているのだ。落ち着かなくなるのも無理は無い。しかも、スバルはウィングロードによる空戦の経験はあれど、ティアナにはそれが無い。

 全方向を常に意識せねばならない空間戦闘は初めてなのだ。緊張しないほうがおかしい。

 

《フェイトちゃん。エリオとキャロはどうかな?》

《エリオはともかく、キャロが戸惑っているみたい》

 

 フェイトから若干弱々しい解答が返って来る。二人が心配なのだろう。当然とも言えるが。

 キャロが戸惑っているのに対して、エリオが平気なのは一つの理由がある。トウヤ直伝の空間への足場の設置だ。それによるクラナガンでの戦闘の経験もあり、彼は案外落ち着いていた――と、言っても経験不足は否めないが。

 

《N2Rのメンバーも、結構手間取ってるね。……やっぱり、少しでも空間戦闘の教導しておきたかったな》

 

 なのはが若干悔しそうに、通信する。実際、ストラの宣戦から三日での戦いである。空間戦闘の教導を行っている時間は無かったのだ。悔やむなのはに、はやてから念話が掛かる。

 

《まぁ、今回はしゃあ無い。次にいかそ。さて各員、配置に着こうや!》

《了解!》

 

 はやての号令に頷き、それぞれの配置に着く。そして。

 

《本局から動体反応多数……! 敵、人型ガジェット群、及びDA装着型の因子兵!》

《来たね……!》

 

 シャーリーの通信に皆、息を飲む。そして本局に目を向けると、そこからわらわらとガジェットと因子兵が出て来た。

 

 わらわらと――。

 わらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわと!

 

 ――続々と出て来た、皆の視界いっぱいに。

 それに、なのはは冷や汗が一つ頬を伝うのを認識した。

 

《シャーリー。……今、一体何体くらい出たかな?》

《……軽く、五十万を超えてます》

 

 その言葉に思わず、くらりと目眩を起こしそうになる。果たしてどれだけの数がいると言うのか。

 

《やる事は変わらねぇだろ。全部潰せば済む》

《……まぁ、結論から言えばそうなんやけど……》

 

 身も蓋も無いコルトの言葉にはやては思わず呻く。ややあって、嘆息しながら自らのデバイス、シュベルトクロイツを振るい、手に持つ夜天の書を展開した。

 

《取り敢えず、向こうと距離がある内にバンバン撃って、なるべく数を減らすわ》

《お、そりゃあいい。楽が出来る。なら、俺達と奴等が接敵するまで頼むぜ》

 

 あくまで気楽なコルトの通信に、はやては再度の嘆息を吐き、しかしキッと前を向く。

 

《行くよ! リイン!》

【はいです!】

 

 直後、はやての足元にベルカ式の魔法陣が展開する。夜天の書のページがペラペラ一人でめくれた。

 夜天の書からの魔法の読み込み開始。読み込み魔法は、超長距離着弾炸裂型砲撃。

 

【敵座標確認! 距離算出、オッケーです!】

《了解! ありがとうな、リイン!》

【はいです!】

 

 シュベルトクロイツを前方に突き出す。同時、杖を中心として、ベルカ式の魔法陣が更に展開。それぞれの頂点に描かれし、円の部分、そして魔法陣の中央に光球が灯る。

 はやては、息を一つ吸い――そのまま、一気に吠える!

 

《超長距離砲撃! 行くよ――!》

《了解!》

 

 一斉に皆が叫ぶ。それに呼応するかのように、魔法陣に灯る光球はその輝きを増して。

 その輝きが限界まで到達。チャージが完了したのを見計らって、はやては叫んだ。己が魔法の名を――宣戦を告げる一撃の名を!

 

《【フレ――――ス! ヴェルグッ!】》

 

    −輝!−

 

    −輝!−

 

    −輝!−

 

 それぞれの頂点から激烈な光砲が放たれ、そして最後にその中央から――。

 

    −撃!−

 

 ――特大の光砲が、ぶっ放された。

 それ等は、真っすぐにガジェット、因子兵群に突き進み。そして。

 

    −轟!−

 

 光砲がそれぞれ炸裂!

 ガジェットと因子兵群の一部を丸ごと消滅させた。

 それを契機に、ガジェット、因子兵群はこちらに突撃を開始。呼応するかのように、グノーシス・メンバーが動き出し、アースラ・メンバーがそれに続く。

 戦いの火蓋はこうして切って落とされたのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……アースラに行けない、てどう言う事だよ?」

【そのままの意味だ。転移出来ん】

 

 時空管理局地上本部。その中の転送ポート前にに彼等の姿はあった。神庭シオンと、その相棒たるユニゾンアームド・デバイス、イクスの姿が。

 既に真夜中である。周りは真っ暗であり、辺りはやたらと静かだ。

 その一角。転送ポートの脇で、シオンとイクスはひそひそ話しを続けていた。

 

【次元封鎖領域に入ったのだろうな。この転送ポートでも、お前の次元転移でもアースラには行けん】

 

 きっぱりと言うイクス。その前には転送ポートの操作コンソールがある。しかし、そこに表示された文字はエラー。転送出来ませんと言う表示だった。

 その文字に、シオンは頭を抱える。絶対に告げねならない事があるのに、ここに来て足止めである。何か呪われてるんじゃないだろうかと真剣に思えた。

 

【……そもそもお前、自分の状況が分かっているのか? 下手に魔法を使えばお前のリンカーコアは今度こそ完全に破壊される。魔法が使え無くなるんだぞ?】

「そんな事は分かってる。……でも」

 

 シオンはイクスに真っ直ぐ目を合わせる。そして、きっぱりと言い切った。

 

「ここで行かないと、絶対に後悔する。そんな気がするんだ」

【……この大馬鹿弟子が】

 

 イクスはそんなシオンの答えに、思いっ切り嘆息。額を押さえる。

 この弟子は何を言ってもきかない。それが分かってしまったからだ。

 

【次元封鎖されていると言う事は、念話、通信も届かんか】

「そっちはもう試した」

 

 その返答に、イクスは再び嘆息する。念話通信は通じず、転送、転移も不可能。ここまでくれば最早、運命かと諦める――それで諦め無いのが、この弟子であった。

 

「何か無いか……! 知らせるだけでも言いんだ。グノーシスの人間ならアレを知ってる……!」

【確かにな。しかし……】

 

 その知らせる手段が事ごとく潰されたのだ。こんな遅くに来た、タカトを恨むより他無い。

 

「くそ……! 次元封鎖領域なんて面倒臭いもの形成しやがって!」

【それは当然の戦略だ】

 

 理不尽な事を吐くシオンに、イクスが半眼で呟く。そのまま二人して嘆息して――。

 

「【――次元封鎖領域……?】」

 

 二人の声が重なり、互いの顔を見る。そして、全く同時に互いを指差した。

 

「【それだ!】」

 

 異口同音に二人は叫ぶと、コンソールに飛び付いた。

 

「イクス! 次元封鎖領域”ギリギリ外”の次元座標覚えてるか!?」

【ああ。確か、ストラとか言った連中の艦隊が集まっている所だな】

 

 シオンに答えながらイクスはコンソールを操作、次元座標を打ち込む。転送ポートが起動した――エラー表示は出ない。

 

「よし……! それじゃあ――」

【待て、シオン! 最後の確認だ。絶対に行くんだな?】

 

 早速と、転送ポートに入ろうとするシオンにイクスが再度の問い掛けを放つ。それにシオンは振り向き様に吠えた。明確な苛立ちと共に。

 

「うるっせぇ! 時間が無いんだよ!? 何度も聞き返すな!」

【……いいんだな?】

「もう、決めたんだよ! 分かったか!?」

 

 早く早くとせっつくシオンとその答えにイクスはまたも嘆息し、ふっと笑った。

 

【いいだろう。フォローは任せろ】

「い、い、か、ら、早っく!」

 

 師匠の心、弟子知らずか――とイクスはシオンに笑う。そして、シオンの手に握られた。

 

【セット・レディ?】

 

 瞬間、シオンの身体が光に包まれ、バリアジャケットを纏った。

 

「よし。行くぜ!」

【ああ】

 

 シオンはそのまま転送ポートに飛び込む。直後に、転送ポートは起動。一気に次元封鎖領域ギリギリ外へと転移した――。

 

 ――そして。

 

「て、何だこりゃあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 転移したシオンが見たのは、光砲飛び交う次元空間であった。

 分かりやすく言うと、激戦区たる管理局、ストラ、両者の艦隊戦のド真ん中に転移したのである。シオンの脇を光砲が通り過ぎる。それに、冷や汗を浮かべながら、シオンは慌てて飛行魔法を使用、取り敢えず、動く事にした。

 

【艦隊戦のド真ん中に転移したか。つくづくツイて無いな】

「うるさいよ!? っ――!」

 

 イクスに吠えた、次の瞬間、シオンは胸の奥深くに痛みを覚えた。

 

 ……今のは――。

 

【シオン?】

「何でも無ぇ……アースラに追い付くぞ!」

 

 それだけをシオンは言い放つと、急加速を開始。本局に向かい、一気に飛び出した。

 ……リンカーコアからの痛みによる訴えを、聞きながら。

 

(中編2に続く)

 




はい、第三十五話中編1でした。
ようやく、本局決戦開始となります。準備やら艦隊戦だけでえらい長いな(笑)
艦隊戦については、かなり短くした経緯があったり。……これだけで一話を使う訳には、流石に(笑)
では、第三十五話中編2をお楽しみー。

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