魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

59 / 118
「次元世界に浮かびし巨大なる船――時空管理局本局。そこは、今奪われて。大切な人達、大切な場所。それを取り戻そうと、私達は誓った。そう、誓ったんだ――魔法少女リリカルなのはStS,EX、始まります」


第三十五話「時空管理局本局決戦」(前編)

 

 ――時間はクラナガンでの反乱まで遡る。

 時空管理局本局。そこで、十数隻からなる次元航行艦隊が出撃しようとしていた。

 向かう先はミッドチルダ。反乱者たるグリム・アーチルを捕らえる為に、本局の次元航行艦隊が出撃したのである。

 ミッドチルダ地上本部と何かと摩擦が多い、本局側からの次元航行艦隊の派遣は、それこそ両者の溝を深める事にも成り兼ね無いのだが、今回はそうも言ってはいられなかった。何故ならば、グリム・アーチルは本局の人間であり、そして。次元航行艦、レスタナーシアの提督なのだから。

 本局から出航し、ミッドチルダへ向かう艦隊を見ながら、リンディ・ハラオウン総務統括官は深くため息を吐いた。

 

「どうしたの? 貴女がため息なんて」

 

 背後から声がリンディへと掛かる。細い眼鏡を掛けた女性だ。レティ・ロウラン。アースラ副艦長である、グリフィス・ロウランの実母である。

 リンディは、背後のレティに微苦笑すると、またモニターに目を向ける。

 

「……今回のミッドでの反乱。既にアースラ・メンバーは戦ってるんですってね」

「ええ。それに、さっきの宣戦を告げた人が、ね」

 

 レティに頷きながらリンディは目を伏せる。

 

 ――グリム・アーチル。その名はリンディにとって特別な意味を持つ名であった。

 

「……グリム・アーチル。クライド君の元部下だった人よね?」

「レティ、知っていたの……!?」

 

 驚きに目を見張るリンディに、レティが苦笑する。彼女がそれを知っているとは、リンディも知らなかったのだ。

 

「当たり前でしょう? 彼の事は私も覚えてるわ。……クライド君の後ろにいつも着いて来てた子だもの」

「そう、よね……」

 

 そう、グリムはよくクライドに懐いていた。心酔していたと言っても過言では無い。……だが。

 

「彼が今回の反乱の一翼を担ってるだなんて、ね」

「ええ……。あの事件から姿をあまり見なくはなっていたのだけれど」

 

 あの事件――つまり、闇の書と共に、クライドが逝ってしまった事件の事だ。

 あの後、本局の考え方に絶望した彼は本局を離れ、ミッドチルダ地上勤務になり、五年程前に、本局に再び戻って来たのだが。

 

「……少し、彼の経歴ついて調べたのだけど」

「? レティ……?」

 

 レティの表情が陰ったのを見て、リンディが疑問符を浮かべる。

 その彼女に、レティはポンっと軽く、何かを放って来た。それは、情報端末であった。

 

「これは?」

「いいから、見てみなさい」

 

 怪訝な顔になるリンディに、レティは情報端末を見るように促す。それに、訝しみながらもリンディは情報端末を開けて、表示される情報を読み――その顔から一気に血の気が引いた。

 

「これは、本当なの……?」

「ええ、本当よ」

 

 頷くレティに、リンディは顔を歪める。情報端末には、グリムの経歴の一つが記されていた。

 ミッドチルダ地上航空部隊、分隊長。”ティーダ・ランスターの直接の上司”。そう、書かれていた。

 

「……彼の宣言。管理局の人間や、ミッドチルダの住人全てを憎むような発言は」

「多分ね」

 

 頷くレティに、リンディは目を細める。

 ――繋がった。

 他の人間はともかく、グリムの反乱の動機が見えてしまった。つまりは――。

 

 

 

    −煌!−

 

 

 

 次の瞬間、外を映していたモニターが激しく輝いた。

 

「え……!?」

「なに!?」

 

 モニターから目を離していた二人も、突如として起きた事態にモニターへと目を向ける。

 

    −爆!−

 

 その直後、二人がモニターで見た先が”爆砕”した。

 激しい輝きと共に、空間が巨大な爆発に包まれる。それは一つの結果を齎した。

 即ち、出航した次元航行艦隊の消滅である。中に居た搭乗員と共に、全ての次元航行艦は消滅していた。

 

「うそ……!?」

「っ――! 管制室! 状況は!?」

 

 いきなりの事態に、本局に居る人間全てがざわつく中で、リンディは即座に管制へと通信を繋げる。状況把握の為にだ。返答はすぐに返って来た。

 

《は、はい……! 出航した次元航行艦隊は完全に消滅! 原因は不明です!》

「なんてこと……! 生存者は!?」

《絶望的、です……》

 

 くっ……! と、リンディは呻く。いきなりの次元航行艦隊の消滅。しかも、何が起きたのか原因は不明と来ている。ここまで馬鹿な話しも無い。

 

「取り敢えず、私とレティは管制室に――」

《は、はい……? え? て、転移反応!? 本局の目の前に何かが……!》

 

 続けられる言葉に、リンディは何も言わずに駆け出す。レティもだ。

 分かっていた事だ。次元航行艦隊が消滅したのは事故なんかでは無い。明らかに、何処からかの攻撃である。

 ミッドチルダへと向かう艦隊への不意打ちだ。いくら絶大な戦闘能力を持つ次元航行艦隊であろうと、咄嗟の不意打ちには対応仕切れない。それを狙った誰かが居る。

 

 ――そして、声が響いた。

 

《時空管理局本局の人員に告げる。我はツァラ・トゥ・ストラが指導者。ベナレス・龍なり》

「「っ――!?」」

 

 響く声に、リンディとレティは同時に絶句する。声は当然、そんな二人に構わない。話しを続ける。

 

《現時点を持って、汝等の次元航行艦隊は消滅した。我が消滅させた》

「何ですって……!?」

 

 次元航行艦隊を消滅。そんな事が個人に出来る筈が無い。しかし、個人ならずとしても、それが出来るのならばそれ程の驚異も無い。

 

《その上で、本局の者に告げる。……投降せよ。我等に従わぬ場合は、”本局そのものが、次元航行艦隊と同様の結末”を辿る事となる》

「何を馬鹿な……!」

「いえ、レティ。多分、彼等は本気よ……!」

 

 叫ぶレティに、リンディは首を横に振る。

 恐らく――いや、間違い無く彼等は本気だ。でなければ、本局へ攻撃なぞ仕掛けては来まい。

 

《なお、本局を中心として次元封鎖を行わせて貰った。次元転移で逃げようなどとは思わない事だ。残り、五分以内に我等は本局内に突入、占拠を開始する。それまでに結論を纏める事だ》

「五分……!?」

「交渉も何も受け付けないって事……!?」

 

 逃げ場も封じられ、対抗すべき戦力である次元航行艦隊は消滅。本局の魔導師も、そのほとんどが次元航行艦隊と運命を共にした。

 つまり今、本局に彼等と対抗する力はどこにも無い、と言う事である。

 

「リンディ、どうするの……?」

「……」

 

 その言葉に、リンディは何も答えられ無い。答えられる筈も無い。そして、約束の五分は過ぎ――。

 

 ――時空管理局本局は、ツァラ・トゥ・ストラへと降伏。占拠される事となった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ――二日後。

 ミッドチルダ上空に待機するアースラ。その、ブリーフィングルームに、アースラ・メンバーとグノーシス・メンバーは集まっていた。

 

「……皆、集まったな」

「うん」

「大丈夫だよ、はやて」

 

 はやての言葉に、なのは、フェイトが頷く。しかし、その中にはたった一人だけ人員が欠けていた。

 シオンである。しかし、それには誰も、何も言わずに、話しは続けられた。

 

「先のツァラ・トゥ・ストラの宣言。本局の占拠はほぼ、確実になってもうた」

「……何故、それが分かる?」

 

 即座に問うのは、グノーシス・メンバーの指揮官であるコルトだ。珍しく煙草を控えている。そんなコルトにはやては頷く。

 

「……この間の放送ジャック後、本局に次元航行艦が三隻程向かったんよ。……で、その時の映像が”残されて”こちらに届けられたんや。シャーリー?」

「はい」

 

 はやてに促され、シャーリーが手元のコンソールを操作する。暫くして、ウィンドウが各人に展開する。そして、映像が流れ始めた。

 

「これ……! 人型のガジェット……!?」

「それだけじゃないわ、例の因子兵も居る……!」

 

 映像は、航行艦がガジェットと因子兵に襲われる所から始まっていた。人型のガジェットは、クラナガンでの戦いの時の物より、より人型に近い形の物や、頭に巨大な砲塔をくっつけた物等、様々なバリエーションがあった。

 それより一同を驚かせたのは因子兵である。因子兵は全て、何かしらの鎧のような物を身に纏っていた。

 

「これ、何か見覚えが――」

「デヴァイス・アーマーか。第二世代型を惜しみ無くとはな」

 

 ――へ……?

 

 と、アースラ・メンバーが疑問符を浮かべるが、グノーシス・メンバーは全員揃ってフムフムと頷いていた。誰も説明しようとしない。

 

「えーとやな。ゴメンやけど、そのデヴァイス・アーマーって何やろか?」

「ん? ああ悪い。そうか、こっちには馴染みは無いな。簡単に説明すると、鎧型のデバイスだ」

 

 ……ホントに凄まじく、簡潔にコルトが説明する。

 それに、シャーリーと共に座っていたカスミがため息を吐き、コンソールを操作。情報を新たにウィンドウ上に展開した。

 

「おう、これだこれ」

「アンタ。どんだけ適当なん……?」

 

 はやてが思わず額に手を当てる。二日程しか一緒にいないが、はやては一つ、コルトの性格を掴んでいた。とんでも無く面倒臭がりなのである。

 

「まぁ、固い事言うなよ。……で、これがデヴァイス・アーマー。通称、DAな訳だが」

 

 DA、正式名称『デヴァイス・アーマー』。

 これは、宇宙空間等の、無重力、真空間での活動を想定されてグノーシスで作られたマルチ・フォーム・スーツである。ぶっちゃけると、飛行型のパワードスーツであった。

 デバイスの情報処理能力を併せ持った鎧と考えると解りやすい。これの特性は、重力、慣性の操作を可能とし、バリアジャケットの特性を利用した、皮膜魔導装甲(スキン・バリア・ジャケット)を装備。更に、真空間での活動を想定している事もあり、各種循環系――特に、呼吸等の配慮も成されている事にある。これらの機能は、全て無重力間での活動の為にあった。つまり、第三段階に至った感染者に対する為の装備なのである。何故ならば、第三段階の感染者は空間にすら、感染する為だ。故に、感染元の星で殲滅など望めず、その外。つまり、宇宙空間での戦いを想定した装備がグノーシスで開発された訳だ。第二段階ですら、空戦が最前提となる為、グノーシスの人間で空を飛べない者は必然、これを着ける事になる。

 

「まぁ、バリアジャケットの応用だから、俺等にはあまり関係ないんだけどな。俺等、全員空飛べるし」

「なら、皆はこれ……」

「ウチ等は持ってないんよ。ジャケットの設定やらを弄くったら済む話しやねん」

 

 あっさりとコルト、楓がそう告げる。だが、そうも行かないのが、アースラ・メンバーだ。なのはを始めとした隊長陣。そしてヴォルケン・リッターの面々はまだどうにかなる。

 彼等のバリアジャケットの設定を応用して、循環器系の設定をしっかりとすれば済む話しだ。

 しかし、そうも行かないのが、FW陣と、N2Rの面々である。彼女達は須らく、空戦が出来ないのだから。

 

「うーん、どうしたもんか」

「それについては問題ねぇよ。カスミ」

「はい」

 

 コルトに促され、カスミが頷くと、データチップをシャーリーに渡す。

 

「それは……?」

「ウチのボスからの『お土産』だと。陸戦用に、足裏に重力を発生させる概念魔法と、常時足裏に、足場を形成出来るバリアジャケット設定を組んで来たそうだ」

 

 コルトが事も無げに言う。だが、はやてはそれに黙り込んだ。非常に用意が良い――否、良過ぎる。これでは、まるで。

 

「ウチのボスだが。ほぼ間違い無く、今回の事を予見していた」

「……やっぱりか?」

 

 はやての言葉にあっさりとコルトは頷く。そうで無ければ、これだけの用意はしないだろう。

 つまり、グノーシス第一位、叶トウヤは、最初っからこの事態を想定していた事になる。

 

「……まぁ、そこを今、追求しても仕方ないな。全員戦闘可能って事で話しをするで?」

 

 はやてが一同を見回して告げる。それに皆、頷いたのを確認して、はやては隣の席に座る男に目を向けた。クロノ・ハラオウンに。

 

「クロノ君、説明宜しく頼めるか?」

「ああ」

 

 端的に答えて、クロノが席を立つ。同時にウィンドウに新たな画像が表示された。

 

「今回の件にあたり、各管理内世界に駐留していた次元航行艦が集結する運びとなった。その上でアースラもこの艦隊に組み込まれる。ここまではいいか?」

「これ、管理局の次元航行艦全てなの……?」

 

 なのはから質問が告げられる。それに、クロノは首を横に振る。

 

「答えは否だ。現在、本局を中心に次元封鎖が行われていて、”それより向こう側”の座標にある各次元世界には、連絡も取れないんだ」

「どうりでウチにも連絡が取れ無くなったと思ったら……」

 

 コルトがそれを聞き嘆息する。それに、クロノも頷く。

 

「そう言う訳で、現状、かき集められる戦力はこれだけしか無い。増援等は一切望め無いから、その積もりで居てくれ」

 

 クロノの言葉に、各人頷く。それを見遣り、クロノは更にコンソールを操作する。

 

「今回の作戦、フェイズ1は、向こうが次元封鎖領域ギリギリに展開した次元航行艦隊と、こちらの次元航行艦隊の艦隊戦だ。ただ、アースラはこれに参加しない」

「どう言う事なの?」

 

 クロノの言葉に、フェイトが怪訝な表情で尋ねる。他の者も疑問符を浮かべていた。それにクロノは苦笑する。

 

「アースラは、アルカンシェル以外の武装は積んでおらず、装甲も薄い。艦隊戦にそもそも向いていないんだ。その点も踏まえて、アースラには別命がある」

「別命……?」

 

 スバルの訝し気な声に、クロノは再度頷く。

 

「ああ、フェイズ2だな。アースラは艦隊戦が始まった直後、その側面から速度を活かし、その向こう、本局に突入する」

「て、おいおい。簡単に言ってけどよ。これは――」

「無謀もいい所、ですね」

 

 クロノの言葉に、ハヤトと悠一が苦笑交じりに告げる。ようは、特攻しろと言っているようなものであった。

 

「アースラの最大速度と、機動戦力。つまりは、君達の力を買っての作戦だな。確かに無謀だが、こちらの方が僕達に向いているだろう?」

「……まぁ、否定は出来んなぁ」

 

 はやてが苦笑する。JS事件を始めとして、アースラ・メンバーはそんな傾向にあるのは否めなかった。グノーシス・メンバーについては言わずもながだ。

 

「幸い、ストラは本局前には艦隊を配備していない。全て、次元封鎖領域前に展開している。これは次元転移による奇襲が無いと言う判断だろう。……その隙を突く」

「成る程、何も考えて無いって訳じゃあ無いか」

 

 コルトが苦笑し、頷く。それに、クロノもまた頷いた。

 

「そして、フェイズ3。アースラは、本局到達後、敵機動部隊を撃破。その後、本局内に突入。ストラ・メンバー全員を拘束せよとの事だ。……なおこれについて、”生死は問わない”そうだ」

『『……っ!』』

 

 アースラ・メンバーがクロノの最後の言葉に息を飲む。生死問わず、その言葉に。

 グノーシス・メンバーはと言うと、当たり前と言う顔をしていた。

 

「それを聞いて安心したぜ……」

「黒鋼」

 

 突如として、刃が立ち上がる。それに、コルトが諌めの言葉を吐くが、コルトは構わない。

 

「……どうしても殺したい奴がいるんでな。提督さん。その言葉、信じるぜ」

「……ああ」

 

 刃の言葉に、クロノは無表情に頷く。それを確認すると、刃は踵を返して歩き出した。

 

「何処行くつもりや、刃」

「……これ以上、聞く事も無い。部屋で休ませて貰う」

 

 そう告げて、刃はブリーフィングルームを出る。コルトがため息を吐いた。

 

「悪いな、奴も普段はああじゃないんだが」

「いや、構わない。……彼については君達に任せるよ」

 

 コルトの言葉に、クロノが頷き、そして一同を見渡す。

 

「これで、作戦内容は終わりだ。何か質問は?」

 

 クロノの言葉に、各人挙手し、それぞれ質問を投げかける。

 真空間戦闘におけるフォメーションや、各自の配置。突入タイミング等の細々とした質問に、クロノは全て答える。やがて質問が尽きた後、頷いた。

 

「もう、質問は無いな。では、これで解散とする」

「あの……! もう一つ、いいですか……?」

 

 クロノの言葉に、スバルが挙手して立ち上がる。クロノも視線を彼女に向け、頷いた。

 

「ああ、構わない。何かあるか?」

「その、シオンは今回、連れて行くんですか……?」

「それか。……はやて」

「うん」

 

 スバルの質問に、クロノがはやての名を呼ぶ。それに、はやては嘆息しながら、スバルを見た。

 

「……シオン君は、今回連れていかん。クラナガンに残す。いくら回復してる言うても、魔法が使えん、足も動かんあの子を連れてはいけん」

 

 断言する。それがシオンがここにいない理由。シオンは未だに、完全には回復していなかった。簡単な魔法ならいざ知らず、戦闘用の魔法なぞ使える筈も無く。そして、半身不随も回復しているとは言え、足はろくに動かない状況だった。そんな者を戦闘領域に連れていく方がどうかしている。

 

「これは、決定や。シオン君にも伝えてある」

「そう、ですか」

 

 はやての答えに、スバルを始めとした一同は、複雑な面持ちとなる。はやての言葉に安心して、しかし同時に、シオンが居ない状況で戦う、と言う事態に少なからず不安を覚えたからだ。

 なんだかんだ言って、アースラの面々にとって、シオンは精神的な支えともなっていたのである。

 

「さて。質問はもう無いな? じゃあ解散や。アースラ発進は4時間後、それまで半舷休息にするな」

 

 一同の顔を見ながら、はやては告げる。そして、それぞれブリーフィングルームを出て、解散となった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ああ、さっき聞いた」

 

 開口一番。見舞いに来たスバル達に、シオンは嘆息しながら、そう言い放った。

 ミッドチルダ、地上本部。その医療部に、シオンは移されていた。

 

「……シオン」

「分かってたさ。今の俺がアースラに居ても、何の役にも立たないって事くらい。寧ろ足出纏いだしな。……でも」

 

 シーツを掴む、シオンの指が震える。悔しさと、自身への怒りがないまぜとなって。

 

「なんで、俺はこんな大事な時に……」

「そうね。私達、大迷惑よ」

「ティア……!?」

 

 呟くシオンに、ティアナから容赦無い一言が飛ぶ。それに、スバルが批難の声をあげる。しかし、ティアナは構わなかった。続ける。

 

「今回は諦めなさい。散々言ったけど、自業自得よ」

「……ああ」

 

 ティアナの言葉にシオンが力無く頷く。それをティアナは半眼で見遣り、言葉を紡ぐ。

 

「だから、今回はここに居なさい。……必ず、帰って来るから」

「……ティアナ」

「絶対に、皆で帰って来る。だからアンタはここで待ってなさい。いい?」

 

 ティアナの言葉。それをシオンは反芻し、微苦笑する。不器用な、その言葉に。

 

「ん……悪い。ありがとうな……」

「……っ! れ、礼を言われるような事なんてしてないわよ!」

 

 笑いながら礼を言うシオンに、ティアナは若干焦りながら答える。それに、シオンは再度笑う。

 

「はは。うん。今回はティアナの言う通り、ここで待つ。……俺の分まで頼むな」

「うん……頑張るよ」

「任せときなさい。明日には帰って来るわよ」

「そか。なら誕生日にはいい報告聞けるかな」

 

 シオンの言葉に一同、疑問符を浮かべる。それに、一緒に来ていたウィルや、カスミ、みもりが苦笑する。

 

「……そやったな。お前、明日が誕生日やったな」

「ああ。だから、誕生日に嫌な報告聞かせてなんかくれるなよ、ウィル」

 

 ウィルの言葉に、シオンが答えると、それに一同も頷いた。

 

「任せて! 必ず、シオンの誕生日に帰って来るなら!」

「……おう、期待して待ってる」

 

 スバルの言葉に、シオンが頷き、来ていた皆の顔を眺める。

 

「今回は俺、何も出来ないけどよ。皆、頑張って、必ず帰って来いよな」

「うん!」

「アンタに言われるまでも無いわ」

「シオン兄さんの分まで頑張ります!」

「シオンお兄さん、大人しくしてて下さいね」

「ま。お前に言われんでも帰ってくるわい」

「シン君。必ず、帰って来ますから……」

「ゆっくりしてなさい」

 

 一同がシオンの言葉に、頷く。それに、シオンは顔を綻ばせ。

 

「ああ、約束だぜ?」

 

 満面の笑顔を浮かべ、皆を送り出した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 アースラ、ブリッジ。そこでは、各ブリッジ要員の声が飛び交う。出航間近の為だ。

 魔導炉のチェックに始まり、気密のチェック等々の各チェックに、それぞれ追われる。

 

「アースラ、最終チェック完了。全乗組員の乗船確認完了です。艦長」

「ん。ありがとうな、グリフィス君」

「いえ……」

 

 はやての言葉に、グリフィスは頷き。後ろに下がる。その表情は若干陰っていた。当然とも言える。

 彼の母親であるレティは、本局に居る筈なのだから。その安否が気にならない筈は無い。

 

「クロノ君、こっちは準備完了や」

「ああ、了解だ」

 

 はやての言葉に、ブリッジに詰めていたクロノも簡潔に答える。

 彼もまた顔には一切出さないが、リンディの事を心配している筈であった。

 それに、リンディだけでは無い。本局には、クロノの乗艦、クラウディアの乗組員も居る筈であった。心配にならない筈も無い。

 だが、彼はそれを一切表情に出さない。出しても意味が無い事を承知しているのだ。

 

「……強情っ張りやなぁ」

「何か言ったか?」

 

 呟くはやての声が聞こえたのか、クロノが不思議そうな顔で問う。それに、はやては「何もあらへんよ」とだけ答えた。

 下手に何かを言うのも野暮である。そうはやては思い、一人頷く。

 

「よし。シャーリー? 艦隊の集結地点の確認は大丈夫やな?」

「はい。集結時間の確認もオッケーです」

「ん。ルキノ。アースラ、いつでも行けるな?」

「はい! 大丈夫です!」

 

 管制担当のシャーリー、操舵担当のルキノからの返答に、はやては頷く。

 そして、副官のグリフィスとクロノを見遣り、二人が頷いたのを確認する。

 

「よし……。準備はオッケーやな。シャーリー。艦内放送をこっちに」

「はい」

 

 頷き、コンソールを操作、はやてへと回線を回す。それをはやては確認して、マイクをOnにした。

 

《八神はやてからアースラ搭乗員の皆さんへ、放送です。……今からアースラは発進。そのまま集結艦隊に合流して、本局に向かいます》

 

 予定を告げるはやて。それを、皆黙って聞く。

 

《恐らくは時空管理局創設以来、初めての艦隊戦であり、そして戦いとなります。……かつてない厳しい戦いになる。それは、間違いありません。でも》

 

 一旦、そこで言葉を切る。ぐっと息を飲み、続きの言葉を告げる。

 

《でも。皆、必ずこの戦いも乗り切れられる。そう、私は確信してます。……皆、強いんや。自信を持っていこうや》

 

 はやては微笑む。JS事件も、感染者を始めとした事件も乗り切る事が出来たのだ。今回も乗り切れない筈が無い。

 

《皆を私は信じてます。やから、皆も私を信じて下さい。……そして、必ず本局を、大事な人達を取り戻そう。以上!》

 

 そこまで言ってはやてはマイクを切る。そして、ブリッジの各員に向かい声を放った。

 

「アースラ、発進!」

『『了解!』』

 

 一同、一斉に頷く。

 かくして、アースラは集結艦隊へと合流を果たすべく、ミッドチルダから飛び立った。大切なモノを取り戻す為に。

 

 ――だが、彼等は知らない。本局に何が待ち受けているかを、この時点で知る筈も無かった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 時空管理局地上本部、医療部。その一室で横になるシオンは暗闇の中で窓の外を見ていた。

 既にアースラは発進し、集結艦隊へと合流している筈である。

 そして、数時間後には戦いが繰り広げられる筈だ。それを想像し、シオンは顔を歪める。

 その戦いで、皆がどうかなってしまったら、どうしよう。そう、思う。

 そして、そんな時にやはり動けない自分がどうしようも無く、腹立たしい。

 自分が居れば、どうにかなる場面があるのでは無いか?

 アースラ・メンバーや、グノーシス・メンバーの実力を疑ってはいない。しかし、それでも――。

 

「――嫌な予感がするか?」

「っ……!?」

 

 いきなり掛けられた声に、シオンの身体が跳ね起きる。腰までは感覚が復活している為、上半身が起こせたのだ。しかし、この声は……!

 

「何でアンタがココに居るっ! タカ兄ぃ……!」

「昼間に来る訳にはいかんだろう? 流石にな」

 

 声の主はシオンの異母兄。そして、敵でもある存在、伊織タカトだった。

 彼は、シオンの元に近づき、隠されていない左目でじろりと見据える。

 

「ド阿呆が。過ぎた力を使おうとするからそんな目に合う」

「ぐ……っ!」

 

 きっぱりと断言するタカトに厭味か! と言い返そうとして――煌めく右手の666の魔法陣に気付いた。

 

「て、何す……!?」

「黙っていろ。阿呆」

 

    −煌−

 

 次の瞬間、シオンに虹色の光が放たれ、その胸に吸い込まれた。

 

「っ――!」

 

 シオンは思わず、目を閉じ。しかし、何も起きない事に目を見開いた。

 

「これで良し。足を動かしてみろ」

「へ……? て、アレ!? 動く!」

 

 言われた通りに足に力を込めると、あっさりと動いた。感覚も元に戻っている。

 

「な、何で……?」

「お前の足の麻痺を”略奪”した。……そこまでだがな」

 

 事も無気にタカトは呟く。それに、シオンは呆然とし、しかし胸に手を当てた。

 

「じゃあ、リンカーコアは……?」

「そっちは俺の力ではどうにもならん。魔法は使えるだろうが、使うのならば、相応に覚悟しろ。……最悪、アサギさんと同じ事になる」

 

 リンカーコアは治っていない。それに、シオンはくっと顔を歪める。思い出すのは、母アサギだ。

 彼女は、リンカーコアを破損し、魔法が使え無くなってしまっていた。

 

「それでも行くか?」

「俺は……」

 

 迷う。皆を追って、行くべきか、否か。しかし、数秒の迷いを持って、シオンは決めた。タカトに頷く。

 

「……行くよ。皆を守りたいから」

「そうか。なら、急ぐ事だ。最悪、”間に合わなくなる”」

 

 タカトの言い回しに、シオンは疑問符を浮かべる。何が、間に合わなくなると言うのか。

 

「今回の戦い。確実に、管理局側が負ける」

「なに……?」

 

 一瞬、タカトの言葉が理解出来ずに、シオンは言葉に詰まる。それに、タカトは構わない。続ける。

 

「ストラとか言ったか? 奴等は、少々厄介なモノを手にしている」

「……何をだよ」

 

 シオンはタカトを睨みながら問う。それに、タカトは無表情のままに告げた。

 

「”巨神”だ」

「巨……? っ――!」

 

 一瞬、放たれた単語を理解出来ずに、シオンは疑問符を浮かべ。しかし、瞬時にその単語の意味する所を察知し、凍りついた。

 ――巨神。それをタカトが意味する所は一つしか無い。それは……!

 

「”対界神器!?”」

「そう言う事だ。ではな」

「っ……! 待てよ!」

 

 あっさりと帰ろうとするタカトをシオンは留める。どうしても問わねばならない事が一つだけあるのだ。

 

「何で、アンタが俺を――アースラを助けるようなマネをする……!」

 

 それを問うて置きたかった。タカトはあくまで敵の筈だ。今回、シオンやアースラを助ける意味は無い。なのに、シオンの足を治した。それは、あまりに不可解な事だった。

 タカトはシオンの問いに少しだけ視線を巡らせ、そして。

 

「借りがある」

 

 それだけを言い放った。

 

「借り……?」

「なのはとフェイト・T・ハラオウンにな」

「は……?」

 

 またもや、シオンの頭の上で疑問符が踊る。あの二人に一体何の借りがあると言うのか。――それに。

 

「……なのは先生、呼び捨て?」

「気にするな。いつか、呼び捨てでは無くなる予定だ」

「は?」

 

 タカトが何を言ってるか全く理解出来ずにシオンは目を丸くする。だか、やはりどこまでもタカトは構わなかった。

 

「ではな」

「て、ちょっ! 待っ――!」

 

 ――待たなかった。タカトの姿が一瞬で消える。縮地を使い、消えたのだ。

 

「訳分からん。けど……!」

 

 シオンはぐっと眉根を寄せる。タカトが寄越した情報はあまりに大きい。今すぐにでもアースラに伝えねばならない。とりあえずは。

 

「イクス、何処行ってんだ、アイツ……!」

 

 昼間は居たくせに、今はいない相棒を探すべく、シオンは病室を出たのだった。

 

 

(中編1に続く)

 




はい、ついに本局決戦の始まりとなります。なろう当時、なのは世界って大規模な戦争状態にならないよなーと言う事で思いっきりやって見た今話。
見所、目白押しです。大分はっちゃけてますので(笑)
では、次回は中編”1”。……ええ、1です1(笑)
もはや何も言うまい……!
次回もお楽しみにー。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。