魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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「再会、それは俺にとって懐かしい気持ちにさせてくれて。でも、苦い記憶も一緒に思い出して。そんな複雑な想いをなんて呼ぶか、俺は分からなくて――。魔法少女、リリカルなのはStS,EX、始まります」


第三十四話「新たなる仲間」(前編)

 

 ――赤。

 赤がただ、広がる。

 世界に赤が。

 それを、まだ十二歳の神庭シオンは呆然と見ていた。

 赤を垂れ流すのは見知らぬ男達。

 辺りにいろんな部品をばら撒いて”小さく”なった男達だ。

 

 ……なんで?

 

 男達が倒れ伏す向こうに少女がうずくまって泣いている。

 身体中を赤で汚して。そして、自分を見る瞳に恐怖を宿して。

 

 なんで?

 

 呆然としていたシオンはふと気付く。

 ああ、なんだ。自分も汚れているじゃないか。

 

 赤に――。

 赤に、赤に、赤に、赤に、赤に赤に赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤に。

 

 赤に!

 

 ああ、そうだ。これは赤なんかじゃない。血だ。

 手に持つ”刀”が血で汚れ、服も何もかもが血で汚れて。シオン自身をも血でずぶ濡れになって。

 

「……バカが」

「あ……」

 

 響く声に、震える。声の主は異母兄だった。

 伊織タカト。彼は、左腕を右手で押さえて、自分を顔を歪めながら見ていた。

 

「あ……」

 

 気付く。タカトの足元に落ちているモノに。それは、”肘から先が落ちた左腕”だった。そう、それは――。

 

「俺、が……?」

 

 自分がやった。

 幼なじみを襲った悪漢達を、手に持つ刀のデバイスで事如く斬り捨てたのだ。幼なじみ、みもりを襲おうとした悪漢達。

 その光景を見た時、シオンの中で”何かが”吹き飛んだ。そして、生み出されたのは赤の光景。

 追い付き、自分を止めようとしたタカトをも斬ってしまった。

 

「み、もり……?」

「っ――!」

 

 呼び掛けに、みもりの身体はビクンと跳ね、ガタガタと震え始めた。その瞳に映るのは、血で赤く染まった自分。

 

「あ……」

 

 そんなみもりに、シオンは声を掛けられなくて。そして、自分が左手に握る刀を見る。

 血で染まった刀。自分が十年以上振るい続けた刀が、酷く、酷く――汚れて見えた。

 

「あ、あ、ああああああああああああああっ!」

 

 叫ぶ。刀が嫌なモノに見えて。自分が、酷く醜く見えて。

 シオンはただ叫んだ。

 その日を境に、シオンは刀を握る事を辞めた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ああああああああああああああぁぁぁぁ! ……あ?」

 

 暗い室内で、シオンは叫びながら目を見開いた。息は荒く、汗をびっしょりかいて。暫く呆然とする。

 

 俺は――?

 

 真っ青な顔で辺りを見渡し、そして息を吐いた。

 どうやら、夢だったらしい。しかし、何と言う夢を見るのか。あんな日の夢を見るなんて。

 苦笑する。既に忘れたと思った過去、刀を捨てたあの日。そんな日の事を夢で見るとは。

 

 ……久しぶりに見たな。

 

 そうシオンは思う。随分、久しぶりに見た。五年前は、毎日のように夢に出ていたのだが。

 

「何でまた、こんな夢を見るかなぁ」

 

 一人呟く。理由は分かっている。みもりとの再会だ。幼なじみ、姫野みもり。二年ぶりの再会で、少し思い出してしまったのだろう。

 

「それに俺、足がな――?」

 

 呟き、気付く。何故か隣、左手側の布団が膨らんでいる。ちょうど人が、潜り込んでいるように――と、言うか左腕に柔らかな感触があった。

 

「…………」

 

 無言ではらり、と布団を剥ぐ。そこに見えるのは、茶が混じった髪。そして、自分の左腕に抱き着いて眠る少女であった。みもりだ。

 

「…………なんでやねん」

 

 思わず関西弁でツッコミを入れつつ俺はウィルかと唸る。そこでいくつかの事に気付けた。ここは自室じゃない、アースラの医療部だ。

 

「……ああー。そういやあの後、医療部に突っ込まれたんだっけ」

 

 クラナガンで起きた、ツァラ・トゥ・ストラとの戦いでいろいろあり、シオンは急な検査を受けた。しかし、検査は途中までしか受けた記憶が無い。

 

 途中で寝ちまったか……。

 

 苦笑する。その前にあんだけ寝ておいて、さらに寝ていたらしい。しかし、何故にみもりと自分が一緒に寝てるのかが、分からない。

 

「ん……シン君……」

「シン君じゃねぇだろ」

 

 頭を右手でかきながら、シオンはため息を吐く。

 

 子供じゃねぇってのに……。

 

 自分達は、幼なじみだ。子供の時に一緒に寝た事くらいはある。しかし、それを十八にもなろうと言う男女でやってはならんだろう。

 とりあえず、みもりを起こそうとして。

 

「っ……!?」

 

 ぞくり、と言う感覚が背中を襲う。

 悪寒だ。直感が、危機の到来を告げている――と、言うか最近味わったような悪寒なのだが。

 プシュっと言う音と共に、扉が自動で開く音がする。そして、人が入って来る気配がした。

 

「シオン、もう起きたかな〜〜」

「さぁね。でも、アイツ寝過ぎじゃない……?」

「げ……!」

 

 響く声に思わず唸る。よりにもよってこの二人とは。それは、スバル・ナカジマとティアナ・ランスターの声であった。

 ヤバイ……! こんな状態を見られたら――。

 思い出すのは、みもりと再会した時の二人の姿。軽く斬界刀よりも遥かに怖かった、二人の視線である。今はカーテンに仕切られて、こちらの姿は見えない筈だが――と。

 

「ん? シオンの声が……?」

 

 うげ……!?

 

 スバルの声に、シオンはまた呻き声を上げそうになる。どうやらさっきの「げ……!」が聞こえたらしい。大した聴力である。

 今の状況ではあまりに嫌過ぎる聴力であったが。

 

「本当? シオン起きてんの?」

 

 問われる声に、シオンはハッと我に戻る。みもりを起こさなければ――とりあえず、時間を稼ぐ事にする。

 起き抜けのフリ、寝ぼけのフリ、二日酔いのフリ(?)……!

 問われている。己の演技力を今、問われている……!

 全く何の関係も無い事象が入っているあたりシオン自身混乱しているが、今は構わない。

 さぁ、ここが俺の腕の見せ所……!

 

「あ、ああ。悪い、今はちょっと――」

 

 そう、声を掛けようとして。

 

「シン君、そんな所触っちゃダメですよー」

 

 ――全てを、台なしにする声が響いた。

 

「「「…………」」」

 

 痛すぎる沈黙が医療部を支配する。無言でカーテンが引かれた。

 当然、そこに在るのは、諸事情で身体を起こせないシオンと、横で眠るみもりの姿。

 

「「……何してんの?」」

「いや、その、あの……!」

 

 この間の再現が、今まさに現出しようとしていた。スバルとティアナの視線が凄まじく冷たい。

 シオンの直感は、ガンガンと警報を打ち鳴らしていた。つまりは、それ程の危機と言う事である。

 

「お、落ち着いて聞いてくれ。俺も起きたらこんな状況でだな……」

 

 必死に弁解しようとするが、効果は見られないような気がする。二人は無言でシオンを睨み据えるのみ。

 夢でかいた時以上の汗をシオンはかいて。

 

「シン君、そんなコトしちゃ、ダメですよー」

「「…………」」

 

 みもりのそんな声に、二人は無言で己のデバイスを起動した。

 

「「遺言は?」」

「……もうちょっと、長く生きたかったな……」

 

 ふっ、とシオンは遠くを見詰める。

 ああ、俺の人生、まともなコト無かったな……。

 走馬灯に、思いを馳せるシオンはとりあえず、横のみもりを巻き込まぬ為にベットから落とそうと抱かれている腕を抜こうとして。

 

「ん……! あ……!」

 

 それに、何やら反応したみもりの声が響いて。

 

「「シオンのぉぉ……!」」

「……うん。今のは、しゃあ無いよな。うん」

 

 全てを諦めたシオンは既に涙さえも流しながら肯定する。

 さぁ、終わりにしよう。グッバイ……俺の人生!

 とりあえず、みもりを押しやり、ベットの下に落とす事に成功したのまでは確認して。

 

「「バカァァァァァァァァァァァ――――――――――――――!」」

 

    −煌!−

 

 蒼と、茜色の光砲を叩き込まれると、医療部の壁ごとブチ貫かれ、シオンは景気良く意識を手放した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……で、こんな事になったんだね?」

「「「はい……」」」

 

 一時間後。医療部になのは、フェイト、はやての三人がスバル、ティアナ、みもりの三人に向き合っていた。

 その後ろでシオンが「う〜〜ん、う〜〜ん」と、呻きながらベットに寝かされ、シャマルの手当を受けている。

 先程の砲撃の直後、いきなりの砲撃に慌てて医療部に駆けたなのは達が見たのは、砲撃にすっ飛ばされて意識を失ったシオンを罵倒するスバル、ティアナであり、そして寝ぼけ眼のみもりであった。

 とりあえずシオンをベットに戻して、三人に事情を聞いたのだが。

 

「そっか〜〜。なら、仕方ないね。シオン君が悪い!」

「なんでじゃァァァァ――――!?」

 

 頷くなのはに、シオンが全力で叫ぶ。見ればフェイトや、はやても頷いていた。

 

「だってシオン。起きたの、二人に見つかる前だったんだよね? ならすぐに起こせばよかったんだよ」

「そ、それはそうなんですけど……」

「てか、いろいろ楽しんどったんやろ? 感触とか、感触とか。やっぱシオン君も男の子やな〜〜? 分かるで? 女の子の胸には夢が詰まっとるとか言うもんな♪ ……このスケベ♪」

「冤罪だ……!」

 

 ああ、女性陣の目が痛い。

 特に、スバル、ティアナの目が痛い。何故に、この場に男がいないのか。

 味方が誰もいない、この状況に、シオンは思わずハラハラと泣く。

 て言うか、俺がいったい何をした……?

 何も悪い事をしていないのに、責められていると言う理不尽にこそシオンは泣きそうだった。

 

「そ、その話しは置いといて、俺の足の状況について聞きたいんですけど……」

「逃げたね?/逃げた?/逃げたな〜〜?」

 

 うっさいですと、心の中だけで三人に言いつつ、シオンは言葉の続きを待つ。

 はやてがそれに嘆息しながら苦笑した。

 

「ま、ええやろ。後で四人でゆっくりと話せばええんやし、シオン君のリクエストに応えようか〜〜」

「……前半無視して聞きます。で、俺の足どうなったんですか?」

 

 思わず半眼となるシオンではあったが、はやてはそれを無視して続ける。

 

「ん。単刀直入に行こか。今、シオン君の身体は、半身不随状態や」

「……足の感覚が無いからそうかなとは思ってましたけどね」

 

 はやての言葉に嘆息する。半ば、覚悟していたとは言え、これは中々堪える。

 半身が動かないと言うのはいろんな意味で辛かった。

 

「でや。シオン君の半身不随やけど。原因は、はっきりしとるんや。……シオン君も分かっとるかもやけど」

「リンカー・コアの影響でしょう?」

 

 シオンは即座に答える。はやては、それに少し複雑そうな顔で頷いた。

 つまり、シオンの半身不随状態は小学生時代、『闇の書事件』の、はやての状況と酷似しているのだ。

 はやては当時、闇の書の影響により、リンカー・コアを介して足が麻痺していた。それと同じ状態がシオンにも起きているのだ。

 則ち、これが大罪スキルの反動と言う事だ。

 

「……シオン君のリンカー・コアは急激な圧縮により損壊状態になってるらしいんよ。……それの心当たりはあるか?」

「まぁ。多分ですけど。大罪スキル、アヴェンジャーになったせいですよね」

 

 大した置き土産を置いていってくれるものである。

 自身の中に潜むカインを想像の中でボッコボッコにしつつ、シオンは頷いた。

 そんなシオンに、はやては一つ頷く。

 

「うん。技術部でも同じ結論を出しとる。ただ、安心し。リンカー・コアの修復は始まっとるそうやから、じきに半身不随も治るそうや。で、それも踏まえて、シオン君に一つ言っとかなアカン」

「? 何です?」

 

 半身不随がじきに治ると言う言葉に内心喜びつつ、しかし神妙な面持ちで告げるはやてにシオンは疑問符を抱く。

 一体、何を言おうとしているのか。はやてはシオンの目を真っ直ぐに見たままで告げる。

 

「……今後、アヴェンジャーの使用は絶対に禁止。これは決定や」

「それは――」

「何言ってもこればっかはダメや。理由は言わんでも分かるな?」

 

 はやての言葉にシオンは顔を歪めた。

 ……アヴェンジャーはリスクが高過ぎる。暴走の危険は言うまでも無く、シオン自身の身体にまで問題が出て来た。これで使用を認める方がおかしいだろう。

 シオンは暫く沈黙し、そしてゆっくりと頷いた。

 

「……分かりました」

「ん。なら私の話しはここまでや。さて、ならブリッジに戻るな」

「はい。そう言えばウィルは……?」

「あ、ウィル君達だね? 今、アースラに乗ってるよ?」

 

 シオンの問いに、なのはが頷く。しかし、シオンはその言葉に、再度の疑問符を浮かべた。

 

「……達?」

「うん。そう言えばシオン君、知らなかったんだっけ? 今、アースラにはグノーシスメンバーがいっぱい居るんだよ」

「いっぱい……?」

 

 シオンが更なる疑問符を上げると同時、プシッと、再度医療部の扉が開いた。ぞろぞろと人が入って来る。それは、あまりにも懐かしい人達だった。

 

「お、何だ神庭。起きてるじゃねぇか。折角マジック用意したのに無駄になっちまったな」

 

「ヘタ君、おはようさんやな〜〜」

 

「先輩、弱いんだから無茶すんなよな」

 

「ヘタレオンだから、仕方ないだろ。ヘタレオンだから」

 

「……シオン。貴方はただでさえ無茶をしょっちゅう、やるんですから、たまには控えて下さい」

 

「みんな、酷いよ〜〜。シオンもこれでも頑張ったかもじゃん。弱いなりに。ヘタレなりに」

 

「まぁ、いいんじゃねぇの? こいつらの家系で無茶すんな、てのが無理だろ」

 

「そうかもね。全く、あのバカブリトニーと言い、このヘタレと言い、無茶ばっかりだしね」

 

「お、スバルちゃんに、ティアナちゃんやん〜〜。ワイとお茶でも、ふぐっ!?」

 

「……ウィル。アンタは黙ってなさい」

 

「ええっと……」

 

 ワイワイガヤガヤと入って来た見覚えのある大人数に、シオンは思わず頭を抱えつつ、とりあえずはある一点を指差して、言葉を告げる事にする。

 

「……皆、多分だけど、すっごい邪魔だぜ?」

『『は……?』』

 

 シオンが指差す先には、ブリッジに戻ろうとしたのに進めなくなって困り果てている、はやてが居た。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……で? 何事ですか、このグノーシス上位メンバー大集合状態は?」

 

 先の状態からなのは、フェイト、はやてが医療部を退室し。代わりに、グノーシス・メンバーがシオンの周りをぐるりと囲んでいた。シオンの言葉にコルトが煙草をぷかーと吹かす。

 

「コルト教官。ここ、普通に禁煙なんでけど?」

「あん? 知るか。俺が居る場所は自動的に喫煙部屋になるんだ。問題は無ぇ」

「どんだけフリーダム!? 変わってねー」

 

 コルトのあんまりな返答に、シオンは頭を抱える。相変わらず、禁煙と言うのが頭に無い男であった。

 

「もう、いいです。教官に禁煙を促そうとした俺が馬鹿でした」

「分かりゃあいいんだ、分かりゃあ。なら神庭。お前、ひとっ走りしてタバコ買ってこいや。銘柄は覚えてんな? 3分以内だ」

「足が動かないのに、走れるか――!? てか、アースラでそもそも煙草売って無いし!」

「あん? なら次元転移で地球まで買ってこいや。制限時間5分にまけてやんよ」

「もっと、無理だろ!? 大概にしろよアンタ!」

 

 ――あ、頭が痛い。

 久しぶりの、コルトとの会話にシオンは頭を抱える。

 小此木コルト。グノーシス第三位、二十三歳の青年である。

 近代ベルカ式の使い手であり、唯一。ロスト・ウェポンを所持しない第三位であった。

 所持するデバイスはガバメント。銃型のデバイスである。ベルカ式で銃式のデバイスと言うのは珍しいを通り越して、コルトしか使い手がいないのだが、その戦闘法もまた射撃タイプの常識を外れまくっていた。

 ゼロ・アーツ。言ってしまえば、ゼロ距離による、射撃格闘術である。ただ、それを弾丸形成までも含めて行う彼は異常としか言えないが。

 希少技能はリミッテッド・リリース。これは肉体強化のスキルだ。ただ、従来の肉体強化よりも遥かに強力なものである。思考速度や、反射、筋力、骨強度の強化。それをただの肉体強化よりも遥かに強力なレベルで強化するのである。ありふれているように見えて、しかしコルト固有のスキルと化しているのだ。反動の問題もまたあるが。

 そして、本人の嗜好は見ての通り。

 

「ヤニが無ぇと、イライラすんだよな……」

「……この際、禁煙に挑戦とかしません?」

「殺すぞ?」

「何で!?」

 

 この通り、大のヘビースモーカーであった。いついかなる場合においても煙草を手放さないのは、ある意味見事とも言える。

 

「まぁまぁ、ヘタ君。このニコチン狂いに何言っても無駄やって。……ところでニコチン、てちょっと卑猥な響きやね。ボケに使えんかな?」

「……アンタも変わんないですね。てか、下ネタに走らないで下さい。そしてヘタ君言うな」

 

 ニッコリ笑いながらとんでも無い事を言う女性に、シオンは嘆息する。

 獅童楓。グノーシス第四位の女性である。十九歳の女性で、もはや言うまでも無い。

 1に、お笑いが好き。

 2に、可愛いくて小さいものが好き。

 3、4が無くて。5に、お好み焼きとたこ焼きが好きと言う。テンプレもいい所な関西人であった。ここまで来ると、寧ろ珍しい。

 ただ、彼女の能力もまた、特異としか言いようの無い能力であった。

 ――コピー能力。時間をかければ、一部限定的なものを除いて、殆どの魔法をコピーする能力を彼女は有していた。

 術式に関係あらずである。これほど、出鱈目な能力も無い。

 しかも彼女のデバイス、シャドウは戦技変換を行う事により、ロスト・ウェポンを除く、ほぼ全てのデバイスへと変型出来る。

 術者といいデバイスといい、極めて強力な使い手である。ただ――。

 

「ふふふ。しかし、ウチはごっつええ相方を見付けたんや♪ な〜〜。スバルちゃん♪ いや、師匠ちゃん♪」

「ええ! わたし!? てか、師匠!?」

「ふ……あのツッコミ。そして、普段はボケ。ウチの相方に相応しいで……」

「あー。無理ですよ。スバルは横のティアナと十年来の相方だそうですし」

「そんなに長くないわよ!? せいぜい5年よ!」

 

 相方は否定しないんだ? と思ったもののあえて放置する。横で「そんな、ティア〜〜」とスバルが抱き着き、「あ〜〜もう、抱き着くな〜〜!」と、怒鳴るティアナ。まさに伝統芸を見せる二人に楓はくっと呻く。

 

「あかん! 完璧や……! あの二人、ウチが入り込む隙間が無いで! くぅ――! このままやとM○グランプリが……!」

「いや、てかマジに変わりませんねアンタ」

 

 悔し気に唸る楓に、シオンは嘆息する。どこまでもお笑いを求める魔導師。それが楓と言う女性であった。

 

「……で? 先輩、足はどうなんだよ。これ以上弱くなられると困るんだよな、実際」

「そうだな、リク。そしてお前はいい加減、敬語使えるようになろうな――」

「無理」

「断言した!? いやいや、人間努力が肝要であって――」

「無理」

「最後まで言わせろよ!」

 

 真藤リク。グノーシス第四位、十六歳の少年である。

 戦い方としてはカラバ式の使い手で、極めてオーソドックス。こと、剣技に置いてシオンを凌駕する天才少年である。ロスト・ウェポン。ブリューナクを持つ少年でもあるのだが。

 見て分かる通り、恐ろしく無愛想な少年であった。何より、彼は。

 

「てか、教官も獅童さんも煩い。ここ、病室なんだし。大人だろ? 少しは落ち着けよアンタら」

「ほっほう」

「リク君。アンタ、ええ度胸やね……」

 

 とんでもなく生意気であるのだ。1番分かりやすいのが、どんなに立場が上の人間だろうが一切の敬語を使わない事か。ここまで来ると、いっそ清々しい。たまに皆、殺意を覚えるが。

 容赦無くズルズルと二人に連行されるリクにシオンは思わず合掌した。

 

「で、実際どうなんだ? ヘタレオン」

「うん、刃。それが久しぶりに会ったダチへの言葉かそれ?」

「前からこんなんだ。気にすんな。お前は前からヘタレオンだ」

「ちっげぇよ!? シオンって呼んでたじゃん!」

「……で、ヘタレオン。どうなんだ?」

「スルーした上に、直ってねぇし!? いいよもうお前!」

 

 黒鋼刃。グノーシス第四位の少年である。風貌から二十代に間違えられること、しばしばだが、立派なシオンと同い年の十八歳であった。

 彼の使用する魔法は特別を通り越して、もはや異常である。古代魔法、言霊式。刃以外に使う者がいない。刃専用の術式とも言える。その特性は世界への語りかけ、だ。文字通り、世界へ言霊を用いて語りかけ。その力を行使するのが、特徴であった。それ以外にも謎が多い術式だが、今は割愛する。

 そして、彼が持つ刀はロストロギア――ロスト・ウェポンでは無い。真正のロストロギアである。その名は『銀龍』。

 

 そう、龍である。龍と言うのは、精霊存在とも言える存在で、既に生物としての概念から外れてしまった存在である。竜は、半精霊存在ではあるが、物質としての理に縛られている。だが、龍はそれに当て嵌まらない。物質としての束縛を受けないと言う精神存在であり、自然霊としての側面も持つ。場合によっては神扱いされる事も珍しくない存在であった。

 さて、何故『銀龍』がロスト・ロギアなのか? 答えは単純、”龍がその刀に宿っているのだ”。世界意志端末たる精霊並の力を持つ固体意志が。

 これが解き放たれた場合は、それこそ一つの世界が滅んでもおかしくない。

 さて、そんな謎術式と、危険極まり無い刀を持つ彼の性格はと言うと。

 

「む……? シーツが歪んでる! ヘタレオン。ちゃんと、ピシッとしないか!?」

「……相変わらずな。お前」

「お、そうだ。お前、クッキーいるか? わざわざ作って来たんだ」

「……つくづく変わらねぇよな。お前」

 

 彼、黒鋼刃は大の家事好きであり、世話好きであった。某異母兄とは家事においてライバル関係であり、常に雌雄を競い合った仲だったのだ。殆どの場合は、兄が勝っていたのだが。

 

「まぁ頂くよ。美味いしな」

「美味そうですね。僕も貰っていいでしょうか?」

「私も〜〜」

「んじゃ、俺も」

「私も食べよっと」

「ワイにも食べさせてや〜〜」

「私も頂いていいかしら……?」

 

 ボリボリとクッキーを貪るシオンの周りに、他のグノーシス・メンバーもまた群がる。

 そして、クッキーをぱくぱくと食べるグノーシス・メンバーを見遣りながらシオンはふむと頷いた。

 

「キャラ紹介! 後編に続く!」

『『マジ!?』』

 

 そう言う事になった。

 

 

(後編に続く)

 

 




はい、第三十四話前編でした。シオンが最後ぶっちゃけたように、この話は投稿オリキャラ達のキャラ紹介話となっております(笑)
なので、見る人によってはあれですが、お付き合い頂けるとありがたいです。
では、後編でお会いしましょう。ではでは。

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