魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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はい、連続投稿です。ミッド争乱終了までは、毎日投稿と行きます(笑)
いや、勢いって大切(笑)
そんな訳で第三十二話(後編)どぞー。


第三十二話「背を預けし、悪友(とも)よ」(後編)

 

「ほらほら〜〜。どないしたんや? 二人揃ってこの程度かいな?」

「むぅ〜〜」

「……ムカ」

 

 クラナガンの空を交差する三条の光。スバルはその光を街中から見上げていた。

 朱は獅童リズ。

 蒼は獅童リゼ。

 そして、二人に対峙するは銀。

 なのはと同じ、栗色の髪をセミロングにした少女が、レイピア片手に獅童姉妹を手玉に取っていた。

 

「まったく……。リズもリゼも戦い方全然変わってへんやん? 天丼が許されるんわ、二回までやで?」

 

 やれやれと少女が肩を竦める。ちなみに天丼とはお笑い用語で同じネタを二回繰り返す事を言う。

 

「……楓(かえで)お姉ちゃんみたいにお笑いばっかりよりマシだよ〜〜」

「……同意」

 

 二人はそんな少女、楓の言葉に半眼になりながら反論する。確かにさっきからお笑いのネタがやけに多いような気は、スバルもしていた。そんな二人に楓は嘆息。再度、肩を竦めた。

 

「ふ……。誰がお笑いばっかりや。どこかのアホヘタレあ〜んど色ボケと一緒にするんやない。……お姉ちゃんは他にも考えてる事はちゃんとあるんや……!」

「「……っ!」」

 

 まさかの返答に姉妹は息を飲む。それってまさか自分達を心配して……?

 二人はそんな風に思った。

 ちなみに余談だが、アホヘタレあ〜んど色ボケとは、現在無尽刀と掛け合いを行いながら戦う二人組の事である。本気で余談だが。

 楓がぐっと拳を握りしめた。

 姉妹が。スバルまでもが、その答えに息を飲む。

 そして、楓が口を開く――!

 

「日々! 新作のお好み焼きと。……そしてタコ焼きの事も考えとるんやで!?」

『『知るか――――――――!!!』』

 

 あまりにアホな回答にそれぞれ敵味方の枠を越え、口調すらも関係無く、スバルすらも含んで、ツッコミが楓に入った。

 まさかの三方向からのツッコミに楓が思わず「ぬぉっ」と、呻くがそんな事は本気でどうでもいい。

 

「期待させといて〜〜」

「……激しく失望」

「それは無いですよ〜〜!」

 

 姉妹はともかく普段はボケ(?)のスバルからのツッコミも珍しい。

 あまりの三人の反応に、思わず楓はいたたまれずに頬を一つかく。

 

「……もしかしてウチ、スベった?」

 

 三人共即座に首肯。スバルなぞ、二回も頷いていた。それにマジか……! と楓は戦く。そして重い、重い溜息を吐いた。

 

「……ウチの芸人としてのプライドが」

 

 いや、あんた魔導師でしょ? と言うツッコミは三人が三人共避けた。なんか、怖い答えが返って来そうだったのが、その理由である。

 楓はハァっ……と、再度の嘆息。そのままの姿勢で、右手をちゃきりと立てる。つまりはデバイスたるレイピアを。

 

「まぁ、ええか。十分経ったし」

「「……あ!」」

 

 楓の台詞に姉妹な声をあげる。そんな二人に楓はニンマリと笑った。

 

「二人共、油断し過ぎや♪」

「ひ、卑怯! 卑怯だよ〜〜!」

「……同意!」

 

 楓のニンマリ笑顔にリズも、珍しくリゼも声をあげる。しかし楓は得意気な顔のままだ。

 

 一体、あの二人は何をあんなに動揺してるんだろう?

 

 スバルはそう思うと、直後に答えは示された。

 

「な〜〜にが、卑怯や。二人共騙されるんが悪いんや」

「う〜〜! させない!」

 

    −轟!−

 

 次の瞬間、リズが朱嬢の翼を広げ、一気に飛び出す! 瞬間で楓の元まで駆け、右の巨拳を構える。そんなリズに楓はただ笑う。

 

「無駄やって。……シャドウ? 2nd、いって見よっか!」

【トランスファー!】

 

    −戟!−

 

 ――音が鳴る。拳が叩き付け”合う”音が。そしてスバルは”それ”を見た。リズと楓を、二人が放つ。

 

 ――全く同じ形の”巨拳”を!

 

 巨拳と巨拳は互いに、その拳を打ち付け合った体勢で停止。その結果にリズは呻き、楓はウィンクを投げる。

 

「アームドデバイス、ヘカトンケイル。70%までパクリ完了、や」

「う〜〜!」

 

 リズが悔し気に楓を睨む。だが、楓はそれに構わない、ぐっと巨拳に力を込めた。

 

    −撃!−

 

「わぁ〜〜!」

「ととっ! 危ないな〜〜」

 

 楓のその動作で、二人共同時に吹き飛ぶ。数mの距離を持って、互いに停止。だが、楓の相対者はリズだけでは無い。

 

「……ホーリズ」

 

 リゼの声が高らかに響く。その身に纏うかのように二十の光球が現れた。

 しかし、楓はそれに初めて苦笑を見せる。

 

「やから無駄やって」

【トランスファー!】

 

 シャドウの声が再び響く。同時にその姿が変わった――リゼの持つ”カドケィスと全く同じ姿に!” 更にその足元に展開するのは。

 

「嘘……」

 

 スバルも思わず呻いてしまった。それはそうだろう。何せ今、楓が展開しているのは”ミッドチルダ式”の魔法陣である。

 ”先程までは、確かにカラバ式の魔法だったのに!”

 よくよく考えてみれば先程のリズの一撃。あれはベルカ式では無かったか?

 それと全く同じ一撃と言う事は、取りも直さず楓もベルカ式を使ったと言う事である。カラバ式、ミッド式、ベルカ式。楓はその三種を駆使してのけていた。

 

「ホーリーズ」

「……っ! レイ!」

 

 楓が呟くその一言に、リゼはくっと奥歯を噛み締め、先んじて光球を撃ち放つ。楓に向かい来る光球。しかし、彼女はそれに、寧ろ笑顔を浮かべながらカドケィスとなったシャドウを差し向ける。

 

「レイ、と」

 

 −弾、弾、弾、弾、弾−

 

    −弾!−

 

 光の花が咲く、楓の近くで。それは二十の光球が、同じ二十の光球とぶつかる事によって作られた花であった。

 その結果に、リゼも姉と同じく歯を噛み締める。

 光の花が消えた後には、楓が悠然と立っていた。

 

「――ん♪ 二人のパクリすんのも久しぶりやけど、上々やな」

 

 ニパッと笑う楓に二人共、歯を噛み締める。そんな二人に楓はさぁと告げる。シャドウを更に変化させた。

 ”スバルのリボルバーナックルに”。

 

「へ!?」

 

 いきなり楓の右手に顕れたリボルバーナックルに、スバルはつい自分のナックルを確認。そこにある母の形見の感触に思わずホッと息を吐く。

 

「いや〜〜。これ使い易そうやから、ついパクらせて貰ったわ。まぁ、パクリはお笑いの基本やし、許してな♪」

「え? あ、はい」

 

 スバルの様子に苦笑して告げる楓の一言に、告げられるままにガクガク頷く。楓はそんなスバルにクスリと笑い、ついっと視線を正した。リズとリゼに。

 二人は、楓の視線に少し身じろぐ。彼女の視線にはそれほどの力があった。

 

「……リズ、リゼ。そろそろ、おイタの時間は終わりや。きっつい説教、行くで?」

「「……楓お姉ちゃん」」

 

 二人は楓の言葉に声を出し。しかし、ぐっと構えた、己がデバイスを。二人のそんな姿に楓は寧ろ、微笑んだ。

 もう、言葉は無い。楓は動き。リズ、リゼも同じく動く。そして。

 

    −撃!−

 

 スバルが見る先で、互いに衝撃波を撒き散らし、衝突した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ――声が出ない。

 

 ティアナは初めて、そんな感情を得た。震えている事を、自覚する。身体が。そして、心が。目の前の、光景に!

 

「ひゅ……っ!」

 

 動く。動く、動く。残像を伴いながら、男が。その男に上から襲い来る十の因子兵。

 指槍を伸ばし、男にそれを叩き込まんとする。それに対し、男は寧ろ前に踏み込んだ――瞬間、両の腕が霞んだ。

 

 −弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾・弾−

 

    −弾!−

 

 カランと、一つの薬莢がまず落ちた。カートリッジの薬莢だ。直後、それを契機にして降り落ちた、薬莢の雨が。

 ガランと。ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ、ガランと。大量の薬莢が、まるで雨のように降る。

 その雨の中を悠然と立つ男は相変わらず、紫煙を燻らせる。薬莢の雨の中に因子兵の姿は影も形も、文字通りに無い。大量の銃弾でもって、全て身体を削られ、消滅させられたのだ。

 男はティアナの驚愕に構わない。スパー、と煙を吐き出した。

 

「断罪LEVEL1で、リミテッド・リリース。二十パー程度だぜ? おい。こいつ等、脆過ぎやしねぇか?」

「……貴方が出鱈目過ぎるだけですよ。小此木コルト様」

 

 ティアナと相対していた老人、ベルマルクが苦笑いと共に肩を竦める。

 小此木コルト。それが男の名前だと言うのか。そうティアナは思う。

 そんなティアナを余所にベルマルクはヤレヤレと、首を振った。

 

「まさか、貴方が来るとは思いませんでした。もし、来るのならば我々の仲間になるとばりに思っていましたからな。アルセイオ様や、ソラ様がいらっしゃる。我々の元に――」

「俺の動揺を誘いたいんなら止めとけ、ジジイ。時間の無駄だ」

 

 ベルマルクの言葉をコルトは煙草をスパスパ吹かしながらぶった切る。そしてゴツイ銃――正確には銃型のデバイスを、ベルマルクに向けた。

 

「俺が求めるのはゴメンなさいと土下座して降伏を告げる言葉か、殺して下さいとフライッツェを構えるお前の姿だ。どっちでもいいからさっさと選べ」

「……嫌な二者択一ですな」

「”それ以外に無い”のはお前もよく知ってる筈だぜ? まぁ、無抵抗のままに死にたい、つうなら。止めやしねーよ」

 

 面倒臭いしな。と、コルトの表情は語る。それにこそティアナは総毛立った。コルトは降伏なぞベルマルクに求めていない。彼はこう言っているのだ。

 殺してやるからさっさと構えろ、と。

 ベルマルクもコルトの意図を明確に理解する。その上で、笑った。

 

「……我がフライッツェのリミット・ブレイクならば、貴方に敵わずとも逃げる事は可能ですが?」

「やってみろよ。さっきも言った筈だぜ? 止めやしねーとな」

 

 コルトはまったくベルマルクに取り合わない。その姿勢に、初めてベルマルクの顔から笑顔が消えた。直後にフライッツェを構え――。

 

「リミテッド・リリース四十%、開放」

 

 その言葉を、ベルマルクは”背後から聞いた”。

 

「……じゃあな」

 

    −弾!−

 

 銃声が響く。直後、ベルマルクの身体が吹っ飛んだ。まるでダンプに轢かれたかのように、撥ね跳ぶ。くるりくるりと、ベルマルクの身体は空中で回転し、短い滞空時間を経て地面に落ちた。

 

「か、あ……!」

「お。ドテっ腹をぶち抜かれたのに、まだ大丈夫か。頑丈に出来てんな」

 

 感心したような声がコルトから漏れる。あまりの光景にティアナはヘタっと膝をついた。

 

 ……”撃った”。

 

 非殺傷設定でも、魔力弾ですらも無い。魔力で形成したとは言え、物理弾で。

 ”殺す積もりで”コルトはベルマルクを撃った。その事実にティアナの思考は真っ白になる。

 

「なん、で……?」

「あん?」

 

 いきなりのティアナからの言葉にコルトが疑問符を浮かべる。ティアナは構わない。コルトをキッと睨む。

 

「こ、ここまでする事ないじゃない! 殺すなんて……!」

「……何を言ってんだ、お前? 敵だぞ? そいつは」

「で、でも……!」

 

 あくまで抗論しようとするティアナに、呆れたようにコルトは溜息を吐く。煙草をフィルターまで吸い切り、肺から煙を吐き出す。

 

「神庭と同じタイプだな、お前」

「……え?」

「ツメを誤って早死にするタイプだってんだよ」

 

    −弾!−

 

 再び銃声が響いた。同時、”何かが”背後で動いた音がした。

 

 ……え?

 

「ちっ! 意外に早ぇな」

「……まさか、あっさり気付かれるとは思いませんでしたよ」

 

 ベルマルクの声がする――”ティアナの後ろから”。そろりそろりと背後に目を向けると、そこにベルマルクは居た。

 ”身体を撃ち抜かれたのに、血の一滴も流さずに”。

 

「……ベルマルク・”ナイン”。確か”九番目”だったか?」

「ええ。その通りです」

 

 ベルマルクは微笑する、”機械じみた動作で”。

 それにティアナは卒然と理解した。”目の前の存在は人間では無い”、と

 

「自動人形(オート・マタ)。噂だけは聞いてたが、まさか実在するたぁな」

「よく言われます。さて」

 

 ベルマルクがフライッツェを構える。コルトもまた、己のデバイス、ガバメントを構えた。

 

「こちらも全ての機能を全開とさせて頂きます。……お覚悟を」

「構わねぇさ。人間の死体が、人形に変わるだけだ」

「っ! 待っ……!」

 

 瞬間、ティアナの脳裏に浮かんだのは親友の笑顔。ベルマルクが彼女と同じ存在だとするならば……!

 

    −轟!−

 

 そんなティアナの想いを全く無視して、二つの銃が互いに交差。銃弾を吐き出した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

    −閃−

 

 一閃が疾る。それをエリオは見ていた。速く、鋭く。そして、なにより。

 

    −斬−

 

 ――美しく。

 孤を描き振るわれる刀、それが襲い来る粛正士を纏めて弾き返し、止まらない。

 

   −しゃらん−

 

 ――それは酷く、遠回りな斬撃だった。シオンが振るう剣や自分が放つ槍、最短となす斬撃とは全く別物。強いて言うならば自分達の斬撃は”線”である。だが、その刀が描く軌跡は”円”であった。

 当然、遠回りの斬撃たる円の斬撃の方が遅い。その筈なのに。

 黒の男が放つ円の斬線は最短より、速い。全てを遠回りに、斬撃を放っている筈なのにだ。

 

 ……こんな技も、あるんだ。

 

 エリオは素直にそう思う。気の遠くなる程に、全ての動作を最速で遠回りにする事によって、初めてその斬撃は成り立っていた。

 

「どうした。この程度か?」

「ほ!」

「ざ!」

「け!」

 

 雅たる一刀を、次々と放つ黒の男に粛正士は声を荒げる。直後。

 

「「「散!」」」

 

 その姿が消えた。エリオとの戦いにも使用していた高速移動だ。黒の男を囲むかのように、分かれ、短剣を構えると、一気に踊り掛かった。だが。

 

「……甘いんだよ」

 

    −閃!−

 

 銀の剣が閃く。真ん中の粛正士に踏み込みながら斬撃を放ったのだ。刀は迫り来る粛正士に叩きこまれ、粛正士は短剣でそれを受けるも、その威力に耐えられず、吹き飛ばされた。

 だが、これでは左右から迫る粛正士に対して無防備になる。

 迫り来る粛正士。それを前にして、黒の男は驚くべき行動に出た。

 踏み込んだのだ。”弾き飛ばした相手を追って”!

 

「「……っ!」」

 

 踏み込みの速度は迅雷。二人の粛正士は男の姿を見失い。弾き飛ばされた粛正士は驚愕に目を見張る。

 目の前に黒の男が突如として現れたのだ。驚くのも当然と言えた。

 

    −閃−

 

 三度、刀が閃く。

 

「が……!」

 

 響く悲鳴に、漸く残りの二人も背後を振り向く。その視界に映るのは、同じ振り向きの動作の黒の男だ。

 ――否、一つ違う。黒の男は振り向きの動作を持って、刀を振り上げていた。

 

「「っ――!」」

「遅ぇ」

 

    −斬!−

 

「がっ!」

「ぐっ!」

 

 悲鳴が再び響く。同時に粛正士も血を吹き上げながら吹き飛んだ。

 振り抜いた刀に血が踊る。ぴぴっと地面に紅い染みとなってそれは落ちた。

 それらを酷く詰まらなそうに見遣り、男が刀を肩に担ぐ。

 

「……暗殺者。背後から脾臓を一突きするくらいしか能が無いお前等が、真っ正面から俺とやり合って勝てるつもりだったのか?」

「ぐっぬ……!」

「貴様……!」

「我等を侮辱するか……!」

 

 男の言葉に怒りの声を三人共あげる。無理矢理に立ち上がる、その身体からは血が流れ出していた。

 男は構わない。冷たい視線で三人を見下す。

 

「侮辱? 当たり前だ。ガキ相手に毒なんぞ使う輩が尊ばれるとでも思ったかよ」

「それが」

「我等の」

「戦術ならば」

 

 即答する粛正士に男はくっと、顔を歪める。ああ、そうかいと笑いに。

 

「なら、俺は己が名。黒鋼刃の名を持ってこう言うぜ? 寝言を昼間から言ってんじゃねえよ」

 

 それでも、と彼は告げる。直後、男。黒鋼刃(くろがね やいば)の身体から溢れ出すものがあった。

 魔力だ。同時、その足元に二重螺旋の、まるで互いを喰らい合うかのような形の魔法陣が展開した。

 その螺旋の中央に五芒星が描かれている。

 

 ……どこの魔法なんだ?

 

 見た事も無い魔法陣だ。

 そんなエリオの疑問と視線に刃は構わない。ちきりと刀を振り上げた。

 

「寝言を言いたいなら眠らせてやる。永遠にな」

「「「っ――!」」」

 

 突然吹き上げた魔力と、展開する魔法陣に唖然としていた粛正士が、刃の言葉に漸く正気を取り戻す。

 直ぐさま三人は背を向けた。視線を合わせる事すらもしない。

 

「「「疾っ!」」」

 

 再び、その姿が消える。瞬間移動じみた高速移動だ。それを持って、三人は即座に撤退を選択したのだった。

 その、選択自体は正しい。ただ、それを選ぶのはあまりに遅すぎた。

 

「起きろ。銀龍」

 

 ぽつりと呟かれる、刃の言葉。それを契機に、”それ”は目覚めた。

 

 ――咆哮。

 

 エリオは確かに、銀の刀。銀龍が、咆哮を叫んだと感じた。

 声がした訳では無い。ただ、何かが目覚めた。それだけを、エリオは感じたのだ。

 刃は目覚めた銀龍を振り上げ、大上段の姿勢から一気に――。

 

「燃え盛れ、銀龍。焔龍・煉、獄、陣!」

 

 ――銀龍を振り下ろした。次の瞬間。

 

    −業!−

 

 焔が疾った、刃の先から!

 

    −轟−

 

 その焔は、産まれると同時に大地を駆ける!

 寸っと焔は炎線となって一瞬でクラナガンの街を駆け抜け。

 

    −煌!−

 

 炎線から立ち上る幾重もの炎柱! それは1Km先にまで顕現した。

 

「……終わったな」

 

 ぽつりと呟かれる刃の言葉と共に炎柱は全てあっさりと消える。炎線が通り抜けた後には、立ち並んでいた建物全てが焼失し、ただ瓦礫のみが列を成していた。

 その向こう。500m程先に、粛正士達は倒れ伏していた。

 非殺傷設定に魔法を組み換えたていたのか、胸が上下している所を見ると三人共、生きているらしい。

 刃はそれを確認して、地面に突き刺した鞘へと、手に持つ銀龍を納めた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 クラナガンの空に音が響く。鋼が重なる音が。それをなのはは聞いていた。

 音を高らかに鳴らしているのは二つの大鎌だ。死神を思わせるそれらを振るうのは、片や魔女然とした女性。緑の髪をツインテールとし、トンガリ帽子を被る女性。一条エリカだ。

 それに対峙するは少年、黒の肩まで伸ばした髪に、眼鏡を掛けた少年だ。

 二つの鎌は、互いに円運動の動きを持って放たれる。それは一つの円舞を連想させる。互いにぶつかり合う刃が、その威力を持って跳ね返る。

 

    −戟−

 

 十合のぶつかり合いの果てにそれを制したのは少年だった。エリカはくっと顔を歪めながら後退する。

 

「おやおや? 忘れましたか? 僕は冥界降誕の儀を使えなかった為に、かつては近接戦の技量に特化していた事を」

「ええ、ええ! 忘れてましたわよ! このイヤミ!」

 

 い〜〜! とエリカが舌を出す。その態度に少年はハァっと嘆息した。

 

「何で貴女はそうお転婆なんです? 一応は僕の姉でしょう?」

「一応とは何ですの!? 一応とは!」

 

 噛み付くエリカに少年は嘆息する。その言葉に脇にぽつんと追いやられていたなのははえ? と、思う。

 よくよく見ると、二人は髪の色や性別こそ違えど、その顔立ちはよく似ていた。

 

「大体、なんで貴方がここにいますの? 悠一?」

 

 エリカが初めて少年の名を呼ぶ。悠一、それがこの少年の名前だと言うのか。悠一はそんなエリカに微笑する。

 

「じゃんけ――……いやいや、一条家の跡取りの貴女を向かえに来たに決まってるじゃあ無いですか」

「……今、そこはかとなく、とんでも無い事を言おうとしませんでしたの?」

「気のせいです♪ じゃんけんで行き先を決めたあげく、『行き先が姉さん? ちっ!』な〜んて事は言ってせんでしたとも」

「……まぁ、信じましょう」

 

 半眼でジトーと、見るエリカにはっはっはと彼は笑う。そして、手に持つ鎌を一振りした。

 

「で、まだ続けますか?」

「当たり前ですわ。姉として弟が作り上げた固有魔法。確かめさせていただきますわよ?」

 

 エリカもまたその鎌、レークィエム・ゼンゼを構える。悠一はそれに苦笑した。

 

「では……月詠(げつえい)?」

【エクスプロージョン!】

 

 次の瞬間、その鎌、月詠の後端がスライド。そこから空薬莢が跳ね跳んだ。対するエリカは再び、レークィエム・ゼンゼで空間を切り裂く。

 

「私の声に応えなさい! 騎士の剣の担い手よ!」

 

 直後、空間の裂け目から再び3m超の鎧が現れた。

 冥界の騎士だ。それに悠一は笑う。そして、鎌を振るい声をあげた。

 

「聞こえますか? ”十八万四千八百”の音群達よ。僕の声が聞こえたならば、この声に応えなさい」

 

   ーぽぉんー

 

 悠一の声と共に再び鳴り響くは音叉のような音。

 そして、悠一が告げた言葉になのはは目を丸くする。

 先程、ヘルを打倒せし『運命』を奏でた時は、四万六千二百の音群と悠一は言っていた筈だ。しかし、彼は今、確かにこう言った。十八万四千八百の音群達、と。つまりそれは――。

 

「……先程は様子見、という訳でしたの?」

 

 エリカが冷や汗交じりに呟く。悠一はそれに、いえいえと首を振った。

 

「先の音素(フォニム)式は『運命』を奏でる為だけのものでしたから。今、僕が呼び掛けた音素達は多様性重視。強いて言うならば、四重奏。と言う所ですか」

 

 ――さて。と、呟くと悠一は月詠を差し向ける。エリカに、その前に立ちはだかる騎士に。

 

「演奏を始めるとしましょう。姉さん」

「上等ですわ」

 

 エリカもまたレークィエム・ゼンゼを悠一に差し向けた。同時、騎士がガチャリと鎧を鳴らし、動く。

 二人の視線が交差し、そして姉弟は同時に叫んだ。

 

「集え音素。我が声に応え、音群となりて旋律を奏でよ! 烈風協奏曲(ウインドコンチェルト)!」

「冥界の騎士よ! 我が声に応え、眼前の敵を討ち果たしなさい!」

 

 直後、高らかに空間が音を鳴らし、烈風を生み、それに抗うかのように騎士が動く。

 

    −轟!−

 

 二つの力のぶつかり合いは、激烈な衝撃波をぶち撒け、クラナガンの空を揺るがせた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

    −撃−

 

 音が響く、クラナガンの空に。それは互いに蹴りの一打。空間に形成した足場を踏み締めて放つ蹴りが、ぶつかり合ったのだ。

 飛・王と、ポニーテールの少女が放つ蹴りが。

 直後に互いに距離を取り、離れる。少女はフェイトの隣に、飛は反対側だ。そして、互いに構えを持続したままで見合った。

 

「どう? 飛兄。私、強くなったでしょ!」

「……まぁ、そうで御座るな。出来れば、今月今日今時でさえなければ存分に確かめたく御座ったよ。アスカ」

 

 飛の言葉にアスカと呼ばれた少女がへへ〜〜と、嬉しそうに笑う。飛自身は未だフラグ立てを邪魔された怨みが視線に篭っていたが。

 そんな二人の様子に、つい見入っていたフェイトがえぇっと、と唸る。先程の宣戦で、少女がグノーシスの人間だとは分かった。

 しかし、ツァラ・トゥ・ストラの一員と思わしき飛と何故こんなに親しげなのか? それが分からなかった。

 

「……えっと、貴女は……?」

「あ、そうだ。自己紹介しなきゃ。私、グノーシス第四位、聖徳アスカっていいます。よろしくお願いします♪」

「あ、うん。よろしくね」

 

 フェイトに、にぱっと笑って自己紹介するアスカにフェイトは若干気圧されながら頷く。随分と人懐こい少女であった。そんな二人を見て、飛がぬぅ……! と呻く。

 

「ちちぃ……! 先を越されるとは。これはイカン! 再びフラグを立てる為にも自分も……!」

 

 もう、十分です。と、フェイトは思う。ついでにフラグなんて立ちませんよとも。

 そんな飛にアスカがニマっと笑う。そして取り出したるはマイク、であった。

 

《飛兄は私のね〜〜?》

 

 大音声が辺りに響く。マイクで持って増幅された声が、フェイトどころかクラナガン中に響いた。

 何を? と疑問に思うフェイト。同時、飛がハワワと慌てる。

 

「ちょっ! アスカお前、まさか――!」

 

 アスカはそんな飛を見て――笑った。にぱっと太陽のように。

 だが、何故だろう。フェイトはそんなアスカの笑顔に、何故か一物を覚えた。

 同時、飛がその名の通り飛び出した。アスカの言葉を続けさせない為に!

 

「さっせるかぁぁぁぁ――……!」

『翔星閃光弾〜〜ん!』

 

    −煌−

 

「ぶぐるふぁぁぁぁーー!」

 

 突っ込んで来た飛に、容赦無くカウンターで叩き込まれる光弾! 飛は直撃を受け、綺麗に煙を上げて吹き飛んだ。

 

《駄目だよ〜〜。飛兄? 今から私と飛兄の関係を話すんだから〜〜♪》

「いやぁぁぁぁぁぁ! やっぱり――! 後生で御座るっ! アスカ、せめてフェイト殿の聞こえない所で――――!」

「?」

 

 何をそんなに慌てているのか? 飛の様子に、寧ろフェイトは興味を覚えた。

 ……何の関係も無いが、さっきから自分のザンバーやら砲撃やらを受けてピンピンしている飛の頑丈さは、ある意味凄いと思う。

 アスカは飛の慌てふためく様子にんふふ♪ と満足そうに笑う。

 取り敢えず、彼女はSだとフェイトは確信した。そして、アスカはすぅっと息を吸い、マイクに一気に言葉を叩きつける。

 

《私と飛兄は〜〜》

「お願い! すとっぷぷり――ず!」

 

 飛の悲鳴が響き、しかしアスカは寧ろ止まらない。続きの言葉を容赦無く放った。

 

《将来を誓い合った許婚で〜〜す♪》

 

 ……許婚。その言葉にフェイトはへ〜〜と、思う。アスカはそれにおや? という顔をした。

 

《あんまり驚かないんですね〜〜?》

「え? ううん、驚いてるよ? ただ、あんまり顔に出て無いだけだよ。あ、もうマイクは止めてね?」

 

 は〜〜い。とアスカは頷くとマイクをしまう。そして、飛に視線を向けた。フェイトもそちらに視線を送る。

 そこではイヤァァァァっとばかりに崩れ落ちる飛の姿があった。

 ……取り敢えずはフェイトは飛に声をかける事にする。

 

「……ええっと、よかったですね。カワイイ娘が許婚で」

「ち、違うで御座るよ――!」

 

 飛、復活。立ち上がると同時に、叫び声を放つ。そんな飛にフェイトはアスカに尋ねた。

 

「ああ言ってるけど?」

「ちゃんと許婚ですよ♪ 飛兄がああ言ってるだけです♪ お父さんもお母さんも認めてますし♪」

「いやいやいやいや! それ、幼稚園時代の話しで御座ろうが!」

「あの時の飛兄の言葉、思い出すなぁ〜〜。ちょっと照れちゃう♪」

 

 アスカの台詞にやーめーてーと飛が泣き叫んだ。そして、アスカをぐっと睨みつける。

 

「……それ以上は喋らさんで御座る!」

「ん〜〜♪ まだまだ喋り足りないけど。でも私も飛兄を連れて帰らなきゃいけないもんね♪」

 

 そして、二人は同時に構えを取った。半身にだ。

 それは全く同じ構えだった。

 

「飛兄、いっくよ〜〜♪」

「自分はここで帰る訳にはいかぬで御座る! 真実の愛を掴む為! 何より、金髪巨乳とフラグを立てる為に!」

 

 マジな顔でそんな事を堂々と飛が叫び、直後、二人は同時に駆け出した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

    −轟!−

 

 海を仰ぐクラナガンの街、そこに剣群が突き刺さる――万を越える剣群が。

 それはビルを纏めて倒壊させ、街中に突き刺さっていた。まるで、剣の山である。

 それを成した張本人、アルセイオ・ハーデンは下を眺める。正確には、そこに居る二人組に。

 シオンと、ウィル。幼なじみの相棒たる二人はそこでぐったりとしていた。

 だが、その身に剣は一本たりとも刺さってはいない。キー・スペルを持って放たれし剣群全てを、二人は凌いで見せたのだ。

 シオンはイクス・カリバーンを左手一本で振るい、ウィルは時に剣矢を放ち、時に双剣を振るい、剣群を凌いだのだ――だが。

 

「……ま、こんなもんだろ」

「「っ……!」」

 

 アルセイオの声に二人はぐっと睨みつける。しかし、その瞳にはあまりにも力が無かった。

 

「お前達はよく頑張ったさ、坊主。寧ろ、今まで魔力やら体力が持っただけ大したもんだぜ?」

「……うるせぇよ」

 

 シオンが悪態を吐きながら立ち上がる。ウィルもそれに続いた。しかし二人共、先の剣群を凌ぎ切る事でほとんど全力を使い果たしてしまっていた。特にウィルの消耗が激しい。これは片手しか使えないシオンのフォローをした為だ。

 ウィルは息を荒げる。シオンも同じくらい息が上がっていた。

 

「……で、立ち上がったはええけど、どないするんや、アホシオン」

「……知るか、ボケウィル」

 

 互いを罵倒する言葉にさえ、力が無い。それをアルセイオは見遣り、さてと笑う。直後。

 

 −ソードメイカー・ラハブ−

 

 鍵となる言葉が再び響いた。

 

「いい加減。終わりにしようや、坊主」

 

 直後に、その背に展開する剣。

 

 −剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣−

 

    −剣−

 

 万を越える剣の軍勢が再び生まれた。それを見て、シオンは小さく舌打ちし、ウィルに視線を送る。

 

「一応、聞いとくけどよ。お前、後どんくらい行ける?」

「……剣矢が一矢放てりゃいいほうやな」

 

 ウィルから返ってきた返答は実に無情だった。つまりはお手上げ。完全に詰みであった。

 

「くそ。何か、何か無いか……?」

 

 考えろ。考えろ、考えろ、考えろ!

 

 シオンは己に繰り返し問う。この盤上を覆すだけの何かを考えろと。

 王手を防ぐ。いや、盤をひっくり返すだけの何かを。考える。考える――そして。

 

「……あ」

 

 一つだけ閃いた。かつて、アルセイオを退け、追い詰めた、”あれ”ならば。しかし、あれは――。

 

「相談は終わったかよ?」

「っ――!」

 

 アルセイオの声に顔を上げる。そこには今、まさに剣群を放たんと片手を上げるアルセイオが居た。迷っている暇は、無い!

 

「来い……」

「? シオン?」

 

 ウィルがシオンの様子に疑問符を浮かべる。しかし、それに構う、その暇すら惜しい。

 

 ――来い。

 

 それだけをシオンは繰り返す。

 

「来い……。来い、来い、来い、来い、来い、来い、来い、来い……!」

「何をやろうってんだ、坊主……?」

 

 シオンの様子にアルセイオからも疑問の声が飛ぶ。

 それにすらもシオンは構わない。ただただ、己に叫ぶ。

 

 来い、来い、来い、来い、来い、来い、来い、来い、来い、来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い!

 

 来い……!

 

 そして――。

 

 −呼んだかい?−

 

 ――”それ”は来た。

 

 −兄弟?−

 

 ……闇が、ニタリと笑った。

 

「来た……!」

「シオン?」

「坊主?」

 

 −ドクン−

 

 心臓の鼓動をシオンは強く聞く。同時。

 

【し、シオン! お前ーー! ユニゾン・イン】

 

 イクスの叫びが聞こえる。それすらも今は彼方だ。

 

「来た……! 来た、来た、来た、来た、来た、来た、来た、来た、来た来た来た来た来た、来たぁ……!」

 

 そしてシオンは叫ぶ。切り札とも言えない、ただの”反則を”。

 

 己の、闇を!

 

「アヴェン! ジャァァァァァァァァァァァァァ――――――!」

 

    −煌!−

 

 次の瞬間、シオンは闇に飲み込まれたのだった。

 

 

(第三十三話に続く)

 

 




次回予告
「シオンは切る――切り札とも言えない、ただの反則を」
「それはアルセイオに驚愕を与える」
「そして、ついに決着が――!」
「一方、ヴィヴィオ達にもストラの魔の手が迫る」
「ユーノは果たして彼女を守れるのか」
「そして、彼は」
「次回、第三十三話『優しき拒絶』」
「――嘘をつく娘は嫌いだよ。少女に、決定的な離別が突き付けられる」

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