魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

52 / 118
「俺とそいつは、言わば悪友と言う奴だった。顔を合わせりゃ、喧嘩する、罵る、からかう。スバルやティアナのような関係ではない。全く気の置けない、気に食わない奴。……けど、だからこそ、気は合ったんだろう。男のダチってのは、そう言うもんだと、俺は思ったんだ。魔法少女リリカルなのは StS,EX、始まります」


第三十二話「背を預けし、悪友(とも)よ」(前編)

 

「ちぃ……!」

 

    −撃!−

 

 次から次へと放たれて来る剣にアルセイオは舌打ちを一つ打ちながら、さらに剣を生み出し、迎撃する。そして、そのまま剣が向かってくる方向に目を向ける――が。その方向には何もなかった。

 少なくともアルセイオの見える範囲には。

 

 俺に見えねぇ、分からねぇ範囲って事は2kmや3kmじゃあ、きかねぇか……!

 

 どうやらこの剣の射手は超長距離からの射撃を得意としているらしい。それをアルセイオは思い、再度舌打ちする。

 このタイプは例えば、八神はやてが1番当て嵌まる。はやての場合はさらに射程が伸びるが。何せ、ミッドの地表全てにその射程は届くのだから。

 精密性が少しばかり足りないが、それは炸裂型の術式等でカバーしている。

 だが、この射手は違う。この射手は”正確にアルセイオを狙い撃っている”。しかも物理法則に束縛されてしまう物質型の”剣”でだ。

 例え音速超過しようと――否、速度が速ければ速い程、空気抵抗、その他諸々の影響を受けてしまうのが、物質型の攻撃だ。

 しかも、例え音速超過だろうと――これはアルセイオの知らぬ事だが、18kmもの超長距離を翔けるには放たれてから数秒のタイムラグが起きる。則ち、この剣の射手は未来予知にも等しい弾道計算、そしてアルセイオの数秒先の回避先をも読み切っているのだ。

 最早、一種の神業と言っても過言では無い。

 

 一体何モンだ?

 

 アルセイオはこの異常とも言える神業を成し遂げている敵にそう思い。しかし、その口元は確かに――。

 

 ――笑っていた。

 

 

 

 

「笑っとるなぁ、あのおっちゃん」

【はい。まさか見えているのでしょうか? 私達が】

 

 そう言葉を交わすのは、ウィルと、彼のユニゾン・アームドデバイスたるフェイル・ノートだ。

 二人は超長距離での”目測”を可能とするアビリティースキル、鷹の目でアルセイオが笑みを浮かべているのを見ていたのである。

 

「まさかなぁ……。フェイル、あのおっちゃんが鷹の目を持ってるなんて情報はなかったで?」

【ええ。私も過去の無尽刀の情報を検索してみましたが。間違い無く、彼のアビリティースキルに鷹の目はありません】

 

 なら、なんでやろ? と、ウィルは首を傾げる。

 更にもう一矢放ち、止まらず更にもう一矢放つ。

 数秒の時間を置いてアルセイオに剣矢は到達し、あっさりと迎撃された。

 

「くぁぁ……っ! こっちの放つ剣をあっさり弾きやがるわ。ムカつくわぁ!」

【流石は元第二位、ですか。簡単には仕留めさせてくれませんね。これだけこちらに有利な状況なのに……】

 

 ウィルが呻き、フェイルが溜息交じりの言葉を吐く。

 だが、このまま消耗戦に持ち込めば、勝ちはこっちのものだった。何せ、向こうはシオンと戦った後だ。しかも、切り札まで切っている。いくら何でもこちらより先に魔力が尽きる。その筈だった。

 

 ――そう、”このままならば”。

 

《うっし。見つけたぜ?》

「【…………!】」

 

 響く声に二人は身を固くし、即座に振り向く。そこには、”ガジェット”が居た。

 モノアイをキュイキュイ鳴らしながらウィルを見ている。

 

【マスター!】

「ちぃ!」

 

 呻き、即座に刻印弓を収納。即座に剣を錬製開始。

 フェイルからの情報呼び出しにて、剣を生み出す。白と黒の長刀、二刀一対の刀を!

 

    −斬!−

 

 ×字に描かれる白と黒の斬線。ガジェットはそのままガランと崩れ落ちた。

 

【やられました……!】

「ああ……! こっちの居場所が掴まれた。最悪や」

 

 二度目の呻きを漏らし、即座にアルセイオへと再び視線を向ける。アルセイオは足元に魔法陣を形勢していた。カラバ式の魔法陣である。あれから読み取れる魔法は――。

 

【転移魔法! マスター!】

「分かっとるわ! 逃げるで!」

 

 叫び、ウィルは即座にビルを蹴る。そのまま隣のビルに乗り移り、逃げようとして。

 

 −弾・弾・弾・弾・弾−

 

 突如として放たれた弾丸に、それを阻害された。

 

「ちっ、なんや!?」

 

 苛立たし気に周りを見回す。そこには先程と同じガジェット達が居た。その数、五体。銃口をウィルへと向け、その周りを囲んでいる。

 

【先程と同じタイプ……!】

「ガジェット言うたか。確かAMF持ちやったな」

 

 道理でと、ウィルは唸る。ウィルも狙撃の最中に邪魔が入る可能性は認識していた。故に、探査術式を念入りに周りに張り巡らせたのだから。ウィルのミスはただ一つ。探査術式を動体反応では無く、魔力反応に限定していた事だ。

 これは”魔力を感知”する事で反応するタイプの術式である。則ち、魔力を使用しないものには意味が無いのだ。

 ガジェットは機械であり、あくまで魔力を使用しない。アルセイオ隊を始めとした、強力な魔導師を強く警戒していた事が逆に裏目と出てしまったのだ。ウィルは自分のミスに舌打ちし、そのまま手を掲げる。

 

「フェイル、連続で剣錬成総発射!」

【はい。マスター】

 

 連続剣錬製鍛造。無数の剣がウィルの周りに立ち並ぶと、それを即座に解き放った。

 

「ぶちかますで!」

 

 −撃・撃・撃・撃・撃−

 

 次の瞬間、総数にして五つの爆発が起きた。造り出された剣がガジェットに飛来し、貫通。撃破したのだ。

 ウィルはふぅと、溜息を吐くとそのまま飛ぶ。今はただ、ここから離れねばならない。

 今現在において、アルセイオと自分の戦力差は、ただその射程だけである。

 一つの剣ならば魔剣殺しで無効化する事が出来ても、万を超す剣群など、どうあがいても無効化なぞ出来ない。つまり、真っ正面からアルセイオと対峙した場合、ウィルにはアルセイオに勝てる可能性は万に一つも無いのだ。故に、ここから離れねばならないのだ――が。

 

「おうおう。お元気なこって」

「【っ――!?】」

 

 響く声に、ウィルはぐっと歯を噛み締める。背後。そこから声がかけられたのだ。

 赤の長髪に、赤の髭。赤尽くしの男がそこに居た。アルセイオ・ハーデンが。

 

「さって、借りは返さねぇとな? ええ?」

「……最悪や、ホンマに」

 

 呻き、後ずさるウィル。アルセイオを見ながら、くっと呻き。そして。

 

「まさか、アホシオンに助けられるやなんて」

「誰が、アホだ! ボケウィル……!」

「っ……!?」

 

 今度はアルセイオが目を見開く番であった。その声が響いた方向、自分の真後ろに振り向く。

 見えたのはイクス・カリバーンを左手一本で振るうシオンの姿!

 

    −戟!−

 

 無意識に振るったダインスレイフとカリバーンが重なり。しかし、体勢が悪かったのかアルセイオが剣勢に押され、数m後退した。

 

「ちぃ……!」

「へっ……!」

 

 唸るアルセイオに、未だに血だらけのシオンが笑う。そして、カリバーンを左手一本で構えた。

 

「借りは返さねぇと、だっけ? おっちゃん」

「……坊主」

 

 呆然とアルセイオはシオンを見て。しかし、直後に笑い出した。くくっと言う笑みから、やがて、大爆笑に。そしてシオンに、ウィルに向き合う。

 

「上等だ、ガキ共! 二人纏めてかかって来いや!」

 

 叫び。瞬間でその背中に生まれる剣群! シオンはそれを見ぬままに駆け出し、ウィルは刻印弓を展開する。同時に剣群は二人に振り落ち。

 

    −轟!−

 

 海を仰ぐクラナガンに轟音を響かせた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「はぁぁっ!」

「フッ!」

 

 クラナガンの空に剣と槍が踊る。激音と共に放たれいくは、必殺たる一撃、それを二人――ソラと突如として現れた少年が放っていくのをシグナムは見ていた。

 

    −撃!−

 

「やろ……っ!」

 

 少年がソラの一撃を槍の半ばで受け止め。しかし、耐え切れず吹き飛ばされた。そのまま少年は後退し、ソラはしかし追撃をかけない。じろりと少年を見る。

 

「……くだらないな、リク。お前はその程度か?」

「あんたに言われる筋合いは無いね……!」

 

 少年、リクもソラを負けじと睨みながら言い返す。ソラはそれに嘆息し、再び大剣フラガラックを構えた。

 

「何の気の迷いかは知らないが、剣の道は諦めたか。しかし、槍とはな」

「誰が諦めたって?」

 

 ソラの言葉にリクが返す。それに彼はぴくりと眉を上げた。リクは構わない。槍の後端を掴む。

 

「見せてやるよ! 俺の剣を……!」

【セレクト、バスター!】

 

 直後、リクの持つ朱槍が組み替わり、その姿を変化した。槍から大剣へと。それを見て、ソラが目を見開く。

 

「それは……」

「そう、あんたのフラガラックと兄弟機、て奴らしいぜ? ”伊織タカト謹製のロスト・ウェポン”」

 

 そう呟き、変換を完了した大剣を肩に担ぐ。その剣はソラが持つフラガラックに似通っていた。

 

「銘は、ブリューナク。元は神槍だ」

 

 どうよ? と、笑うリクにソラは寧ろ冷ややかな視線を向ける。そして自らの持つフラガラックを構えた。

 

「尚更下らんな。武器が上等になれば勝てると?」

「武器に頼るつもりなんて最初っからねぇさ。……ただ、あんたのフラガラックと打ち合える剣ならなんでもいい」

 

 リクもまたブリューナクを構える。両者、睨みながらぐっと形成した足場を踏む。まるで力を溜め込むようだ。

 

「ぶちのめすぜ? クソ兄貴」

「ガキだな。その程度の挑発には乗らんさ。愚かな弟よ」

 

 直後に二人は同時に動く。瞬動を持って、その距離を潰し、互いに剣を掲げた。そして、一気にそれを振り放つ!

 

「「魔人撃!」」

 

    −撃!−

 

 叩きつけられた一撃同士が周囲に衝撃波をぶち撒け――。

 

    −轟!−

 

 クラナガンの空に轟音となり、響き渡った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ヴィータはリインと共に、目の前の光景を見ていた――正確には、見る事しか出来なかった、だが。

 

「ぬぅ……!」

「ほらほら! 逃げてんじゃないわよ!」

 

    −轟!−

 

 再び放たれる光砲。それが老人バデスを追い、老騎士はそれをギリギリで回避。光砲は容赦無く、ビルに突き刺さり、問答無用にそれを叩きのめした。

 ビルがあっさりと倒壊して行く――ヴィータはそれを見ながら、どっちが敵なんだろうな、とぼんやりと思った。

 

「ああ……! またビルが! こんの、逃げるんじゃないわよ! じい様の癖に!」

「……無茶を言う……!」

「無茶でも何でもいいのよ! あんた、老い先短いんだから、とっととくたばりなさい!」

 

 ――問題発言だろ。と、内心だけでヴィータはツッコミを入れる。何故か声に出して言えば、こちらにまで光砲が来そうな、そんな予感を覚えたからだ。

 そんな女性に、突如として声がかかる。トウヤだ。

 

《あ――。凪、千尋君? 聞きたい事があるのだが、この被害は何だね?》

 

 響く声に女性。千尋はキロリと視線を巡らせ、そのまま言葉を放つ。

 

「あのじぃ様がこっちの砲撃を回避しまくってるせいよ」

 

 人のせいかよ! 千尋以外の人間はツッコミを入れそうになりつつも、なんとか堪える。トウヤはその言葉にフムと頷いた。

 

《……まぁ、好きにしたまえ。どっちにせよ、復興費用は管理局持ちだ。人的被害以外は無視して構わん》

「あっそ。なら”遠慮無く”行くわよ?」

 

 問題発言のオンパレードに、ヴィータは頭を抱えつつ、しかし、リインと目を合わせる。一瞬のアイ・コンタクトだ。

 二人は無言のままに、痛む傷を無視して全力で空へと駆けた。そう、千尋は言った。”遠慮なく”、と。

 則ち今までは寧ろ遠慮していたのだろう。……遠慮、と言う言葉を盛大に間違えているような気もするが。

 見ればバデスも全力で反対側に離れていく。その中で千尋だけが動かない。

 舌で唇をぺろりと舐めると、白槍をくるりと回す。

 

「ガングニール。2ndフォルムまで持っていって」

【了〜〜解】

 

 ガングニールと呼ばれたその槍が、間延びした声と共に変化を開始。ガチリと刃が消失すると、刃があった部分に生まれたのは砲口だった。なんとも巨大な砲口である。それを千尋は逃走中のバデスに向ける。額のゴーグルを下ろした。

 

「最近、全力出して無かったからね。遠慮無くぶっ放すわよ!」

【周りは大迷惑〜〜】

 

 うっさいと、自分の槍を叩く。そして、両の手でしっかりとガングニールを握りしめた。

 

「神槍、ガングニール。その威光を叫びなさい」

 

 光が集まる、集まる。ガングニールの砲口にゆっくりと。そして、その光が溢れんばかりとなった――次の瞬間!

 

「大・神・宣・名! 神の名乗りを受けなさいっ!」

【オーディン・カノーネン!】

 

    −煌!−

 

 直後、ガングニールから、莫大量の光が放たれた。それはバデスに一直線に向かい――。

 

    −裂!−

 

 ――街の数区画が、まとめてドームを思わせる光に包まれたのをヴィータは見たのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「おっらよ!」

 

    −戟!−

 

 横に大振りで振るわれ大剣。それにガジェットが一機引っ掛けられ、そのまま振り回される。

 2m超の大剣を振るう大男は笑みを顔に張り付け、ぐるんと一回転。足場を形成し、踏み止まる。大剣はそこで回転を停止。

 引っ掛けたられたガジェットが、大剣が停止した事により慣性に従って大剣から離れる。その向かう先は、剣先が指し示すガジェットが居た。

 

    −撃!−

 

 盛大な音が鳴る。ガジェット同士がぶつかり合った音だ。

 二つのガジェットは絡まりながら落ち、やがて落ちた場所から煙りが上がった。

 

「センターってとこか。……ホームラン王のこの俺が」

「いやいやいやいや。何を遊んでるんよ。自分?」

 

 ムゥと唸る男にツッコミが入る。八神はやてだ。

 今、現在においてもアースラは動かず、大量のガジェットの攻撃を受けており、それを相変わらずザフィーラやシャマル、はやてが迎撃していた訳だが。

 この男。何故か途中でガジェットを引っ掛け、他のガジェットにぶつけ飛距離を計り出したのだ。

 それが十を越えたのが今だ。いい加減に我慢の限界を向かえ、はやてが苛立ち交じりでツッコミを入れたのだが。

 

「出雲ハヤトだ」

「へ?」

「俺の名前だよ、名前。流石に自分呼ばわりをずっとは嫌だろ」

 

 あっさりとそう言うハヤトに、しばしはやてはポカンとなる。名前がちょっと似ているのも驚いた。

 

「さってと、そろそろマジメにやるかね」

《おお。やっとマジメにやる気かなったかね? ウドの大木》

 

 いきなり響く声にはやてが周りを見渡す。念話通信だ。ハヤトはそれにハっ! と笑った。

 

「なーにがウドの大木だ? 年中無休のむっつり」

《他より暇だからとバッテイングセンターのノリで遊ぶノッポを、ウドの大木と呼ばずに何と呼ぶのかね?》

 

 その言葉にうっと呻く。トウヤは構わずに続けた。

 

《いいからさっさとやってくれたまえ。じゃんけんで決めた役回りとは言え、自分の仕事は果たしたまえよ》

「いいぜ? なら、俺の事を”様”をつけてお願いしてみろよ。喜ぶぞ――俺が」

《馬鹿か貴”様”》

 

 言った直後。数秒だけハヤトもはやても硬直した。……確かに、様が付いている。付いてはいるが。

 そんな二人に暫くして、トウヤの疑問の声が聞こえた。

 

《はて……? 喜んでいないようだが?》

「もういい。アンタに期待した俺が馬鹿だった。替わりと言っちゃあなんだが、アンタに言っておきたい大切な言葉がある」

《何だね? 言ってみたまえよ。ちなみに私は並の称賛では動じぬよ?》

「地獄に落ちろ」

 

 ぶつっと言った直後にハヤトは通信を切った。ふぅ、ヤレヤレと肩を竦める。

 一連の行動を見ていたはやてからしてみれば異様過ぎる行動だった。と言うか、通信は切ってもいいのだろうか?

 

「さってと、前言通りマジメにいってみるか。フツノ」

【承知】

 

 ハヤトが自らの大剣に声をかける。それにその大剣、フツノが応えた。唸りを上げて、大剣の上下がスライドする。

 

【イグニッション】

 

 ガッコン! と激烈な音と共に上下にスライドした刃が再び合わさる。直後に剣の合わせ目から光が漏れた。

 

「フツノ、2ndフォルムで上等だろ」

【無論】

 

 フツノの答えにハヤトは笑う。そして大剣を振り上げる。大上段だ。

 

「……何をするつもりなん?」

「いいから黙って見とけ。面白ぇ事になるからよ」

 

 フツノを振り上げた姿勢のままでハヤトは答える。そして。

 

「断」

 

 踏み込みと共に。

 

「星」

 

 一刀を。

 

「剣」

 

 振り放った――次の瞬間。

 

    −斬!−

 

 ただフツノを振り下ろした。はやてはそれだけしか分からなかった。ただ、それだけ。それだけなのに。

 アースラの周りに居たガジェット、”全て”が両断されていた。

 二つに上下を別たれて、下へと落ちていく。

 アースラや、ザフィーラ、シャマルには傷一つつける事なく!

 呆然とするはやてにハヤトはしかし構わない。ふぃーと、息を吐くだけ。

 

「これで俺の分は終わりだな」

 

 そう呟きながらフツノを肩に担ぎ、眠そうにあくびをかいた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 クラナガン市街地。そこに彼女達の姿はあった。

 N2Rの面々だ。彼女達は”フルメンバー”揃った状態で市街地に居た。

 何故彼女達はそれぞれ孤立せずにフルメンバー揃っているのか。それは彼女達の状態が示している。

 彼女達はまるでススを被ったがごとくの状態だったのだ。

 

「ケホ、ケホっス……」

「チンク姉も無茶するよな……」

「仕方ないだろう。あれしか姉も思い浮かばなかったのだ」

 

 ウェンディ、ノーヴェからの言葉にチンクはたじろぎながらも反論する。それにはギンガも笑った。苦笑である。

 

「確かに助かったんだけど……ね」

「いくら何でもアレは無茶だよ。チンク姉」

「う……」

 

 さらに畳み掛けるようにギンガとディエチが笑う。それにチンクも言葉に詰まった。

 さて、何故彼女達はアーチルの策略による転移魔法により孤立させられなかったのか。

 実は、転移魔法が発生した瞬間、N2Rは固まって移動しており、その真下に魔法陣が展開したのだ。普通ならばここで飛ばされる。だが、ここで行動を取ったものが居た。

 チンクだ。彼女はいきなり、スティンガーを真下に投げると同時にデトネイターを発動したのだ。

 爆発は全員の足元で起き、当然その爆風で全員すっ飛ぶ。結果として魔法陣から転移される瞬間に全員その上から退避出来た訳だ。

 ……多少のダメージをそれぞれ受けながらではあったが。

 

「まぁ、孤立するよりはマシなんだし、二人とも共その辺でね?」

「……了解っス」

「ああ……」

 

 ウェンディとノーヴェがギンガの言葉に頷き、それにチンクがほっとする。

 これでネチネチやられずに済むかと思い、安堵したのだ。

 そんなチンクに苦笑いを浮かべながらディエチがコンソールを展開し、ウィンドウを表示する。

 

「……やっぱり他の皆は孤立してるみたいだ」

「そう……。ならそれぞれ孤立しているメンバーと合流しなきゃね」

 

 ちなみに、この時点でグノーシス組がそれぞれのメンバーに介入して、宣戦まで告げているのだが。

 当のグノーシスメンバーと合流していない彼女達は、その状況を一切知らなかった。

 そして――唐突に、カランと音が鳴る。彼女等はそれぞれの武装を構えた。

 

「……いつの間に?」

「私は分からなかったよ、チンク姉。……ウェンディはどうだ?」

「おかしいっスね……?」

「私にも分からなかった」

「どう言う事かしら?」

 

 それぞれ確認し合う。そう、音が鳴った瞬間、現れたのは例のヒトガタだった。

 アーチルの言葉を借りるならば因子兵か。それが今、彼女達が見るビルの上にうじゃうじゃと――それこそ、何体居るのかわからない程に大量に居たのだった。

 

 ――こんなに居たのに分からなかったなんて……!

 

 それぞれ冷や汗を流す。流石にこれだけ因子兵が居て、分からない筈が無い。

 何か、からくりがあると判断するのが当たり前であった。

 だが、今必要なのは何故か? では無い。”どうやってここを抜け出すか”、であった。

 

「どうする……? この数、千は確実に居るよ?」

「何とか、ここから離脱しなきゃ。あの数を全部相手になんて出来ないわ」

 

 しかも、因子兵は五回は再生する。

単純計算で五千もの数と戦わなければならない事になるのだ。一気に襲い掛かられたら、当たり前に蹴散らされる。ゆっくりとビルからこちらを見る因子兵に彼女達はぐっと息を飲み。

 

「ストップだ」

 

    −凍!−

 

 一瞬。一瞬だった。その一瞬で因子兵が居たビルが全て――。

 

 ――凍っていた。

 

 見た目的には巨大な氷山な立ち並んでいるかのように見える。だが、その氷山は、ビルとその中に居る者達を纏めて凍り付けにしていた。つまり、因子兵を。

 

「切っても焼いても再生するのならば、凍らせてしまえばいい。単純な理屈だな」

 

 言葉と共に男がN2Rの元に降りて来た。全身黒尽くめの男。彼女達はその男を知っている。彼の名は。

 

『クロノ・ハラオウン提督?』

「ああ、済まない。これを受け取るのに時間が掛かって、ね」

 

 苦笑する。そして、杖のデバイスをクロノは右手で掲げた。白の杖であり、それはクロノが愛用していたデバイスである。

 名をデュランダル。しかし、それは前のデュランダルと酷く違っていた。

 カートリッジシステムは取り外されているが、形はまったく一緒。しかし、何故かそのデュランダルは前のデュランダルとは別物の印象を受ける。

 クロノが持つデュランダルをギンガ達が見ているのに気付き、再度苦笑する。

 

「なんでも、グノーシス側で修理と”改造”を施したらしくてね。……得体の知れない物を使いたくはないが、この際仕方ない」

「じゃあ、それは……」

「ああ」

 

 肩を竦めてクロノは自らが生み出した氷山を見る。彼女達も同じくだ。そして、氷山を見ながらクロノは続きを告げた。

 

「”ロスト・ウェポン”。そう言うらしいんだが……な」

 

 ――ロスト・ウェポン、真・デュランダル。

 

 新たな力を持って、クロノは再び戦線に復帰した。

 しかし、彼は知らない。ロスト・ウェポンの意味と、それを誰が設計、考案したのかを。彼は、まだ知らなかった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ――放たれる。放たれ来る剣群。それにシオンとウィルは舌打ちを同時に打つ。

 そして、目すらも合わさずに二人は同時に動いた。シオンが前、ウィルが後ろだ。

 

「しくじんなよ? ボケウィル!」

「お前と一緒にすなや! アホシオン!」

 

 両者共に叫び、シオンは左手一本でカリバーンを振るい、向かい来る剣群を叩き落とす。

 ウィルはシオンが迎撃出来そうに無い剣を、剣矢を持って迎撃した。

 シオンはウィルに向かう剣を優先的に叩き落とし、ウィルはシオンに直撃しそうな剣を優先的に撃墜する。

 その二人の動きは、二人が全く預かり知らぬ所で合い、剣群を確実に迎撃していく。

 二人は互いに、二年前に失った感覚に懐かしさを覚えながら剣を振るい、剣矢を放つ。

 

「そもそも! お前! 右手! どないしたん! や!」

「さっきの! おっちゃんの一撃で! 折れた!」

「何――! アホか! お前! そんなんで! こっちに! 来んなや!」

「誰が! アホだ! 手前こそ! 何ださっきの! あっさり! 居場所! バレ! やがって! この! ボケ!」

「誰が! ボケや! この! アホ!」

「手前だ! ボケ! 人の事! アホ呼ばわり! しやがって!」

「なんやと! この! アホ! アホ! アホ!」

「あんだと! この! ボケ! ボケ! ボケ!」

 

 二人とも互いを罵倒しながら剣群を迎撃し合う。それは罵倒を繰り返す程に正確性を増していった。

 まるで、かつての感覚を取り戻すかのように、死角が無くなっていく――。

 

 ――こいつはぁ、参ったな。

 

 罵倒し合う二人にアルセイオは苦笑する。実はシオンが復帰してもアルセイオは敵では無いと判断していた。

 何せ、精霊融合や装填の同時使用。そして斬界刀による一撃で殆ど戦闘不能だと思っていたからだ。

 ウィルもまた同じくだ。近寄って無尽刀の数で攻めれば勝てる。そう思っていた――しかし。

 

「まぁ、仲のいいこって」

 

 再び苦笑する。その視線の先では、未だに二人共互いに、アホとボケと叫び続けている。

 はたから見ればガキの喧嘩以外の何物でもない。まぁ、アルセイオとしてみても微笑ましい? 二人を見ていたくもあるが。

 

 そうも、いかねぇわな?

 

 そう思いながらニヤリと笑う。同時に右手をスッと突き出した。次の瞬間。

 

「「……!?」」

 

 シオンとウィルは同時に目を見開いた。剣群が現れたからだ。

 

 ――”自分達の真後ろから”!

 

「悪ぃな。俺の無尽刀は、別に俺の周囲以外にも創れるんだわ?」

 

 俺の認識出来る範囲ならどこでもな? そうアルセイオが続けると、直後に剣群が放たれた。それに、シオンとウィルはしかし、迷わない。

 

「アホ!」

「ボケ!」

 

 互いに叫ぶ。同時にシオンのカリバーンが光を放ち、ウィルが刻印弓を収納する。その手に持つのは白と黒、二刀一対の長刀だ。二人は更に同時に動く!

 

「神覇、参ノ太刀! 双牙ァ!」

 

 まずはシオンから、それを放った。地を疾る二条の斬撃だ。それが壁となり剣群を防ぐ。

 

 −撃・撃・撃・撃・撃−

 

 しかし、それも数秒しか持たない。斬撃の壁を数振りの剣が貫通し、技を放って動けないシオンへと殺到、襲い掛かろうとして。

 

    −閃−

 

    −裂−

 

 閃く、黒と白に全て弾かれた。ウィルだ。手に持つ白と黒の双剣で全てを弾いたのだ。

 

「アレを防ぐかよ? なら――」

 

 呟き、しかしアルセイオは笑いながら右手を突き出し、同時に左手を掲げる。直後、シオンが見る先に大量の剣群が生まれ、ウィルが見る先のアルセイオの左手に、十m超の巨剣が生まれた。

 ――同時攻撃。シオンは片手しか使えず、剣群が捌ききれない。ウィルは巨剣をあの双剣では防げぬ筈であった。

 互いの弱点を衝いた攻撃。それにアルセイオは笑い。

 そして、剣群と巨剣は同時に放たれた。

 

    −轟!−

 

 シオンに、そしてウィルに前後から向かい来る剣群と、巨剣。互いに背にしたそれが見える筈も無く、向かい来るそれに舌打ちし。しかし。

 

「「っ!」」

 

 互いに、互いの背中を支点にして、まるでコマのようにくるりと位置を入れ替えた。

 ――言葉を交わした訳では無い。視線すらも合わせていない。

 それにも係わらず、二人は互いの位置を全く同時に入れ替えたのだ。

 

「神覇、弐・伍ノ太刀。合神剣技――!」

「我流、双剣技――!」

 

 シオンは向かい来る巨剣にカリバーンの先端を突き付け、ウィルは向かい来る剣群に白と黒の双剣を振るう。そして同時に吠えた。

 

「魔閃牙!」

「裂花!」

 

    −煌!−

 

 螺旋を描く光突が、巨剣とぶつかり。

 

    −閃!−

 

 縦横無尽に疾る刃が、剣群を弾き返す!

 結果、巨剣と剣群は生み出された時と同じく、同時に世界から消えた。

 

「……くっ、くくく……!」

 

 しばし唖然としていたアルセイオだが、背中を合わせて残心する二人を見て笑いだした。

 ――恐れ入る。これほどの連携、見た事が無い。

 

「いいぜ? ガキども。なら”手加減抜き”だ」

 

 −ソードメイカー・ラハブ−

 

 響くは鍵となる言葉。それにシオンとウィルは視線を向けた。その目に映る大量の剣群達。しかし、二人はそれを見ながら同時に吠える!

 

「「上等だぁ! 来いやコラァっ!!」」

 

 クラナガンの空に二人の咆哮が響く。直後に万を超える大量の剣群が二人に振り落ちたのだった。

 

 

(後編に続く)

 

 




はい、第三十二話前編です。
おっちゃんはやはり強かった。そんな回ですな。
なんかで載せたんですが、おっちゃんの魔力ランクは平常時はSSS++。最大瞬間発生時(斬界刀)は、SSS++++++と、なります。
これがどんだけヤバいかと言うと、数値にして15億7641万8005(笑)となります。
無印なのは達の最大魔力値が1000万程として、およそ157倍(笑)。
世界が、世界がヤバい(笑)
そんな第三十二話です。では、後編もお楽しみにー。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。