魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

51 / 118
はい、投稿オリキャラ祭りであるところの、この話も後編となります。
また文字数多いな(笑)
こっから先は前中後編やら1やら2やらが当たり前となっちゃいますが、どうか御容赦を(笑)
では、第三十一話後編どぞー


第三十一話「グノーシス」(後編)

 

「リボルバ――――っ!」

「ゴルディアス〜〜!」

 

 クラナガン市街地。そこで、スバルは高速で疾走していた。相対する敵はリズとリゼ。アルセイオ隊の二人である。

 向かい来るスバルにリズもリゼの前に出て、その巨拳を振るう。

 

「キャノンっ!」

「インパクト〜〜!」

 

    −撃!−

 

 ぶつかり合う拳と拳。その威力により、衝撃波が巻き起こり、周囲を揺るがせる。

 

    −破−

 

「っ!」

「わ〜〜」

 

 そして互いに弾き飛ばされた。聖域での戦いと同じだ――否、違う。前はスバルの方が吹き飛んでいたが、今回その距離は離されていない。力負けしていないのだ。

 フル・ドライブ、ギア・エクセリオンの効果故だ。しかし、スバルの敵は彼女だけでは無い。

 

「……レイ」

 

    −発!−

 

 静かな声と共に放たれた光球。リゼの射撃魔法だ。総計二十五の弾幕。それが、スバルに迷い無く突き進む。

 

「っのォ!」

【キャリバーシュート・ライト!】

 

 スバルは弾き飛ばされた体勢から、左に身を捻ると、右蹴りを宙空に向かい放った。

 

    −轟−

 

 蹴りから衝撃波が飛ぶ。リゼから放たれた光球はそれに減衰させられた。スバルはそのままウィングロードを発動し、空へと駆けようとする――が。

 

    −閃!−

 

「くぅっ!」

 

 スバルは伸びてきた指槍にウィングロードの発動を中断。プロテクションで指槍を弾く。

 そう、スバルの相手は獅童姉妹だけては無い。感染者によるヒトガタ、つまり因子兵もまたスバルの相対する存在であった。

 スバルはプロテクションを発動したまま地面に着地。そして、プロテクションを維持したまま因子兵に突っ込む。直後。

 

    −轟!−

 

「むぅ〜〜。避けられた〜〜」

 

 スバルが居た場所に巨拳が突き刺さった。リズだ。

 さらにリゼも新たな光球を放つ。光球はまたもスバルを追うが、これはスバルも予想していた。”だから”因子兵に突っ込んだのだ。

 ちょっと前にやけに集団戦闘は苦手な癖に、多数の敵を一人で相手をするのにやたらと長けていた少年から聞いた事がある。

 多対一の時に最も重要な事は何かを。少年はこう答えた。

 

『多対一での戦いだと、1番重要なのは、如何にして一対一×?数にするかだな』

 

 それに疑問符を浮かべる自分に少年は苦笑した。

 

『いいか? 例を上げるとして、百人の敵が一斉にこちらに襲い掛かった場合。まともにぶつかりゃあ負けるだけだろ? 数の暴力ってのはある意味絶対だ。……たまにそう言った常識を笑って蹴散らす非常識人間達もいるけど』

 

 先生’Sやウチの兄貴’Sとかな? と、少年はうそぶく。

 

『んで。そんな非常識人間じゃない場合、どうするか? 答えがさっき言った一対一×?数ってやつだ』

 

 つまり、と少年は言う。

 一対百が無理ならば。一対一の状況を作り出せばいいだけだと。

 

『そうすりゃあ、後はそれを百回繰り返せばいいだけだ。……あン? そんな状況に持っていくのがまず無理? なら負けるだけだな。いいか?』

 

 少年はニッと笑う。そして、そのまま続きの言葉を紡いだ。

 

『そもそも百対一って状況がほとんど絶望的なんだ。こっちに勝てる要素なんて無いんだからな。だから、死にものぐるいで勝てる要素を”作り出せ”。どんだけ汚い手でもいい。使えるモノは猫の手だろうと犬の尻尾だろうと、”敵自身”だろうと構わない。使い倒せ。そうやって初めて絶望的な状況で勝機が見えて来るんだからな。以上』

 

 スバルはその言葉をこの戦いの最中に思い出していた。それをあっさりと常識扱いしていた少年。シオンは絶対に非常識人間の側だとは思ったが。

 ――だから。まずはその状況作りから、である。

 

 ……使えるモノは何でも!

 

 そう思い、スバルは突っ込む。因子兵の集団の中に!

 攻撃はしない。因子兵の攻撃を防御するだけだ。何せ因子兵には――。

 

「むぅ〜〜!」

「……邪魔」

 

 直後、因子兵がぶっ飛ばされ始めた。獅童姉妹の仕業である。それにスバルはホッとする。

 正直、上手くいくか分からなかったのだ。この作戦が。

 そう、因子兵には盾になって貰っているのだ。これならばリゼの射撃魔法は、因子兵が盾になって意味がなくなるし、リズも自慢の巨拳を振るう事が出来なくなる。容赦無く因子兵をぶっ飛ばすとは、スバルも予想してはいなかったが。

 

 これで!

 

 スバルは未だ指槍や因子兵自体を弾いてるプロテクションを維持したままUターン。マッハ・キャリバーが唸り、疾走開始! 向かう先は――。

 

「……っ!」

「リゼちゃんっ!」

 

 ――気付かれた。しかし、遅い!

 

【ショットガン・キャリバーシュート!】

 

 高らかにマッハキャリバーが吠える。同時にスバルは因子兵の群れから飛び出し、身体を横回転させた。

 

    −撃!−

 

 右の蹴りがリゼに叩き込まれる。しかし、リゼはプロテクションでそれを止めた――スバルは構わない。回転を続行する。

 

    −撃−

 

 −撃、撃、撃、撃、撃−

 

    −撃!−

 

 回転と共に連続で放たれていく蹴りがリゼのプロテクションを削っていく。リズがそれを見てリゼを助けんと駆け出し、因子兵もスバルに突っ込んで来る。

 しかし、スバルはそれら”全て”を意識から外した。今、やらねばならない事は。

 

「リボルバ――――!」

 

 カートリッジロード。リボルバーナックルから空薬莢が飛び出す。

 そう、今やらねばならない事はリゼの打倒。他は全て後回し!

 そしてスバルはショットガンの回転エネルギー全てを乗せた拳をリゼに叩き込む!

 

「マグナムっ!」

 

    −轟!−

 

 本来のキャノンより遥かに激烈な威力を持って放たれる一撃に、リゼのプロテクションが悲鳴をあげた。そして――。

 

    −壊!−

 

 ――砕けた。硝子が割れるかのような音と共にプロテクションが。リゼが驚きに目を見開き、スバルは止まらない。

 プロテクションを砕いた右のナックルをそのままリゼに叩きつける!

 

    −撃!−

 

 一撃をもろに受けたリゼが吹き飛ぶ。地面と平行に飛び、瓦礫の中へと突っ込んだ。

 

「リゼちゃん!?」

 

 リズが悲鳴を上げ――。

 

「あぁぁぁっ!」

 

 ――スバルは止まらない!

 マグナムを放った姿勢から地面に着地と同時に一気にリズに突っ込む。リズもそれに気付き、巨拳を構えた。

 スバルはそれを見て、しかし構わない。左の掌を掲げる。その中央に生まれる光球――スバルは止まらず、リズに真っ直ぐ突っ込む。

 

「ディバインっ!」

 

 カートリッジロード。そしてナックルを左の光球に叩き込み、膜のように広がった光が、スバルの全身を覆う!

 

「え〜〜……っ!」

「ブレイカ――――!」

 

    −轟!−

 

 魔法の術式から砲撃と判断していたリズが驚きの声と共にシールドを張る。スバルはその中央に光を纏い、突き出した拳を迷い無く叩きつけた。

 

    −撃!−

 

 シールドに突き立つ光拳! マッハキャリバーが唸りを上げる。

 

「うぅりゃああぁぁぁ……っ!」

「んぅううぅぅ〜〜……!」

 

 拮抗する両者。辺りに光が弾け、紫雷が踊る――そして。

 

    −砕!−

 

 決着は訪れた。砕けたのだ、シールドが。リズも妹と同じく目を見開き、スバルは先程と同じく止まらない。リズに突っ込む!

 

    −撃!−

 

 光を纏うスバルはリズを文字通り轢き飛ばした。轢かれたリズは上空に回転しながら弾き飛び、地面に叩きつけられる。

 

    −激!−

 

 およそ人が地面にぶつかったとは、到底思えない音が響いた。スバルは思わず、うわっちゃあ……! と、呻く。一応、非殺傷設定ではある――が。

 

 やり過ぎたかも……。

 

 内心そう思う。かも、では無く完全にやり過ぎではあるが、スバルも止まる訳には行かない。

 何せまだ因子兵がゴマンと居て、スバルに向かって来ているのだ。折角、獅童姉妹をKOしたのにここでやられては元も子も無くなる。

 

【ウィングロード!】

 

 故にスバルは即座に撤退を選んだ。光の道が空に走り、スバルはその上を駆ける。一旦空に逃げられたら、姉妹が気付いても大丈夫な筈であった。

 スバルはあの二人が空を飛んでいた事を見た事が無い。故に飛べ無いと判断したのだ。今なら距離も稼げる。

 因子兵も空は飛べないのだろう。地上にはわらわら居るくせに空には一匹もいない。

 

 これならいける!

 

 スバルはそのままウィングロードの上を駆けた。これなら逃げられると。そして。

 

 

 

 

「……リゼちゃん。起きてる〜〜?」

「……起きてる」

「あの娘、行っちゃったね〜〜?」

「……うん」

「怒られるかな?」

「……多分」

「怒られるの嫌だね〜〜?」

「……嫌」

「なら〜〜」

「……うん」

 

「「”本気”を出そうよ」」

 

 

 

 

 ――次の瞬間、スバルの脇を、背後から何かが駆け抜けた。

 

 ……え?

 

 スバルはそれに疑問符を抱き、それを見た。

 ――人、二人の人間だ。

 獅童リズと、獅童リゼの二人。しかし、二人は先程とは全然違っていた。

 

 鎧。そう、鎧だ。傍から見るとそれは明らかな鎧だった。

 リズが朱。

 リゼが蒼。

 その鎧は二人の胸や腰、肩等にバリア・ジャケット越しに装備されていた。そして何より、その背中からは”翼”が生まれていた。

 鎧から出ている翼だ。当然金属で出来ている。だが、二人は今、明らかに空を飛んでいた。

 

「飛ぶよ、朱嬢(ツイノーバ・フローレン)〜〜」

「……飛びなさい、蒼嬢(ブラウ・フローレン)」

 

 朱嬢と蒼嬢。それがその鎧の名前なのか。驚いたまま固まっていたスバルは、ハッと我を取り戻し、慌てて下にウィングロードを向ける。

 理由は簡単。空を飛べる者に、空に道を作って走る者では絶対に勝てないのだ。

 機動性と動きの自由度、その全てで劣っているのだから。

 そんなスバルに二人は、くるりと上空を旋回。直後に猛烈な速度を持ってスバルに襲い掛かる。

 

「逃がさな〜〜い」

「……今度こそ、終わり」

「くっ……!」

 

 一気に追い付かれた。しかも挟み討ちだ。スバルは呻く。いっそ飛び降りる事も考え――それを実行する前に二人は動いた。

 リゼから螺旋を描く杖、カドケゥスが向けられる。

 

「……インパルス」

「っ……!」

 

 響く声。そして差し向けられた杖の先端に集う光にスバルは左手を突き出した。

 トライ・シールドだ。しかし、リゼはそんな防御に構わなかった。

 

「ブラスト」

 

    −轟!−

 

 直後に光砲がシールドに叩きつけられた。光の奔流にスバルは呻く。そして。

 

「じゃじゃ〜〜ん。行っくよ〜〜!」

「くっ……!」

 

 反対から響くリズの声に振り向く。彼女は、右の拳をスバルに向けていた。だが、スバルは砲撃を受けている真っ最中である。下手に近付けばリズも巻き込まれるだけだ。ならば果たしてどうすると言うのか。

 そう思った瞬間、答えが来た。

 

「ロケット、パ〜〜ンチ。なんちて!」

 

    −破!−

 

 ――飛んで来た。”拳だけ”が! スバルはそれに驚きの声すらも上げられず。ただ目を見開き、直後。

 

「そりゃ、ロケット○ンチやのうて、ブロウクン・○グナムやろ――――!」

「へぶっ!?」

 

 ハリセンがリズの頭を盛大にはたきのめした。

 

「……へ?」

「……嘘」

 

 スバルがあんまりな出来事にポカンとなり。リゼは何故かうろたえている。ハリセンを右手に持つのは少女だった。栗色の髪をセミロングにしている、活発そうな少女である。スバルと同い年か、ちょっと年上か。少女はニンマリと笑うとハリセンを掲げた。

 

「全く。三年も経ってこの程度のボケしかでけへんなんて、お姉ちゃんは悲しいで!」

「お笑いの修業に出てたんじゃないもん〜〜!」

「……同意」

 

 獅童姉妹が、ブーブーと文句を言うが、少女は「やっかましぃわ!」と一喝。それだけで姉妹の文句は止まった。

 

「取り敢えず、はたきのめして二人共連れ帰るで? 全く、一から修業し直さんと」

「「だから〜〜」」

「文句があるなら聞くで? 勿論、これでな」

 

 そう告げ少女は姉妹にハリセンを突き付ける。姉妹の表情が険しくなった。少女はそんな姉妹にくすりと笑う――。

 

「さぁ、行くで?」

 

 直後、少女は姉妹へと真っ直ぐに突っ込んだのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 崩れ落ちるビル。それをフライッツェの担い手、ベルマルク・ナインは冷ややかな目で見ていた。

 

 ……この程度で終わりでしょうか?

 

 自分の想像に、しかし自分自身で否、と結論付ける。この程度で終わりな筈が無い。そしてその証明はすぐに来た。

 

「シュ――――トっ!」

 

    −発!−

 

 二十の光弾が真っ直ぐにこちらに向かい来る。それにベルマルクは後退を選択。さらにその前に因子兵が立ち、盾になった。

 

 −弾、弾、弾、弾、弾−

 

 因子兵から次々と悲鳴が上がる。だが、ベルマルクはそれを一顧だにしない。即座に右手のフライッツェを光弾が来た方向に差し向けた。

 

    −弾−

 

 放たれた銃弾は一発のみ。それはビルの瓦礫に直撃。分解された瓦礫をさらに分解。粉末にまでそれを変える。

 だが、そこにティアナの姿は無かった。

 

「……隠れんぼがお上手ですな」

「そうでも無いわよ?」

「む……?」

 

 直後、声がした――真上から。ベルマルクは顔を上にあげる。ティアナはそこに居た。

 クロスミラージュから光のロープが伸び、ベルマルクの背後のビルにくっついている。そして振り子の要領でティアナはベルマルクに真っ直ぐ突っ込んで来ていた。彼は、そんなティアナにフッと微笑する。

 

「確かに、そのようですな。自ら声を出すとは……」

 

    −弾!−

 

 即座に発砲する――同時に気付いた。そう、ティアナが自分に声をかける必要は一切無い。と、言う事は……。

 答えは即座に示された。ベルマルクの放った銃弾は迷いなくティアナに突き刺さり、あっさりと向こう側に抜け、ティアナの姿が消えた。

 

「幻術……!?」

「ファントム……っ!」

「!?」

 

 直後に響く声にベルマルクはぎょっとする。声はベルマルクの真っ正面から響いたのだ。そこに、本物のティアナが居た。彼女は3rd、ブレイズ・モードのクロスミラージュを真っ直ぐにベルマルクに向けていた。同時に3連で、カートリッジロード。ターゲット・サイトが銃口の先に展開する。

 

「ブレイザ――――っ!」

 

    −煌!−

 

 そして、叫びと共に光の奔流は放たれた。巨大な光砲はベルマルクの前に居た因子兵をまとめて飲み込み。

 

    −轟!−

 

 その身体を消し飛ばしながら、一切の停滞無くベルマルクへと突き進む。

 ベルマルクはその光砲にフライッツェを差し向け更に発砲した。

 

    −弾−

 

 銃弾が光砲にぶつかると同時に光砲は消え去った。しかし、ベルマルクは顔を歪める。因子兵が全滅、すなわち盾が無くなってしまった。それが意味するのは、つまり。

 

「クロス・ファイア――――!」

「ぬうっ……!?」

 

 ――やはり。それだけをベルマルクは思う。盾が無いベルマルクのフライッツェでは複数の対象を消し去る事は出来ない。そして、それこそがティアナの狙い。故にティアナは一切の躊躇無く、それを放つ!

 

「シュ――――トっ!」

 

    −発!−

 

 放たれるは、二十五の光弾。ティアナより放たれたそれは、迷い無くベルマルクにひた走る。彼にそれを防ぐ手立ては無い。向かい来る光弾群に、ベルマルクはただフライッツェを突き出すだけ――そして。

 

「フライッツェ。リミット・ブレイク」

【はい】

 

 そんな声だけがベルマルクから来た。

 

    −弾−

 

 ……え?

 

 そして、ティアナはそれを見た――見てしまった。

 自分が放った光弾が”全て”一瞬で消え去る光景を。

 呆然とするティアナに、ベルマルクが肩を竦める。

 

「いや、お見それしました。まさか、リミット・ブレイクまで使わされるとはね」

「っ――!?」

 

 苦笑するベルマルクにティアナは我を取り戻し、クロスミラージュを構える。そんなティアナにベルマルクは苦笑を深くし。

 

「では、いい加減終わりにいたしましょう」

 

    −寸っ−

 

 次の瞬間、ティアナはいきなり拘束され、地面に転がされた。悲鳴をあげる暇も無く、ティアナはただ転がる。

 

 何、が……!?

 

 口元まで拘束されながら、視線のみをティアナは巡らし、そして絶句した。

 ――因子兵。たった五体程ではあるが、因子兵がティアナの背後に居たのだ。そして指を伸ばし、ティアナの全身を拘束している。

 

 まさか、伏兵!?

 

 しまった。そうティアナは思う。考えてみれば、至極当然の戦術であった。確実に勝とうとするならば当然の策。

 

「私は貴女を過小評価する積もりはありません。貴女は自分が思っている以上に強い」

 

 故に。そう、ベルマルクは続ける。

 

「故に、です。貴女はここで確実に仕留めさせて頂きます」

「ん――――っ!」

 

 ベルマルクの言葉にティアナは暴れる。しかし、因子兵の拘束は思った以上にきつく、少しも緩まない。ベルマルクは転がるティアナに銃口を差し向ける。そこに、一切の迷いは無かった。

 

「では、おさらばです」

 

 そして引き金が引かれようとして。

 

「ガバメント。断罪者(ジャッジメント)装填。LEVEL3でいっとくか」

【はい】

 

 ――そんな声が聞こえた。

 

 

 

 

    −轟!−

 

 

 

 

 直後、ティアナを拘束していた全ての因子兵が、上半身を消し飛ばされた。

 

 ……え?

 

 緩む拘束に、しかしティアナは抜け出さず、ただ呆然とする。ベルマルクもまた唖然と声を漏らした。

 

「何と、貴方が来るとは……!」

「上からの命令だ。ひたすら面倒臭ぇが、やるしかねぇだろうがよ」

 

 ティアナはその声が響いた方向に目を向ける。その先に居たのは、男であった。恐らくは20代前半。身に纏うバリアジャケットは派手さを嫌ったが如く、迷彩柄のズボンにタンクトップ。

 そして黒のジャケットに、これまた迷彩柄のバンダナを金髪の頭に巻いていた。何より異質窮まり無いのは手に持つ銃だ。

 ――巨きい。おそらくはデバイスなのだろうが、本当にハンドガンのサイズなのか? と、疑いたくなる程の巨大さである。

 まるで、レンガのようなゴツさであった。銃口の先にはクロスのワンポイント。そんな異質な銃を持つ男はタバコを吸い、紫煙を燻らせる。一気にフィルターまで吸い、これもまた一気に煙を肺から吐き出した。指でタバコの吸い殻を弾く。そして。

 

「か――! ヤニが美味ぇ!」

 

 そんな事をティアナとベルマルクにのたもうたのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 毒を受けて倒れ伏すエリオ、そしてキャロに白装束の三人組は駆ける。まず召喚士たる少女から殺す積もりだった。三人で、決して逃れえぬように一斉に留めを刺す。殺せる時に確実に殺す。

それが彼等、”粛清士”の在り方であった。

彼等に固有の名前は無い。三人で、粛清士。ただそうとだけ呼ばれる存在である。

 これまでも。そしてこれからも。

 故に子供といえど容赦は無い。その証明の為に、まずは少女からあの世に送ろうと刃を振りかぶり。

 

「ふっざけるなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

    −撃!−

 

 怒号と共に振りかぶられた槍に、三人揃って吹き飛ばされた。

 

「ぬ、う」

「なんと」

「まさか」

 

 粛清士は揃って驚愕の声を上げ、自分達を弾き飛ばした存在を見る。それは毒で倒れている筈の存在だった。エリオ・モンディアルである。

 息を荒げながら、真っ青な顔でキャロの前に立つ。そして、三人組を真っ向から睨み据えた。

 

「ふざけるなよ……! 誰が貴方達にキャロを殺させたりするものか!」

【エクスプロージョン!】

 

 ストラーダもまた主と共に吠える。エリオは応えるかのようにストラーダを構えた。

 

「馬鹿な」

「致死レベルの」

「毒の筈だぞ」

「何故」

「動けるのだ?」

 

 揃って驚きの声をあげる粛清士に、エリオはギッと歯を食いしばると、真っ直ぐに三人を睨んだ。

 

「貴方達には絶対に解りっこ無い……! 僕はキャロを守るって決めたんだ」

「成る程」

 

 エリオのその言葉に三人組は頷いた。ゆっくりと、刃を構える。

 

「絆の強さと」

「言うやつか」

「しかし」

「我等程強くは」

「無い」

「……何だって?」

 

 エリオが問う。三人はその問いに頷いてみせた。

 

「我等は」

「三人で一人」

「それぞれ固等は」

「無い」

「固にして全」

「それが」

「我等粛清士」

「絶対の」

「絆だ」

 

 三人組は告げる。それが誇りだとばかりに。しかし、エリオはむしろ哀しい顔を三人に向けた。

 

「それは違うよ」

「何」

「だ」

「と?」

 

 エリオの言葉が聞き捨てならなかったのか、三人組が一斉に聞き返す。エリオは首を横に振って見せた。

 

「貴方達は逃げたんだ。他者って言う存在から。他の人が、怖くて」

「「「……黙れ」」」

 

 三人は咄嗟にその言葉を留めんとする。しかし、エリオは頭を振るい、止めない。

 

「何度でも言うよ。貴方達はただの弱虫だ! そんな、他人を認められない逃げ場を絆のように感じているだけだ!」

「「「黙れと言ったぞ! 小僧!」」」

 

 叫び続けるエリオに三人が殺到する。それ以上この言葉を吐かせてはいけない。もし、それを聞けば自分達は……!

 

 一斉に襲い掛かる三人に、エリオはストラーダを横に構え、振るおうと力を入れる。

 ――しかし、カクンっと力が抜けた。前に転げそうになりながら、しかし堪える。ここで粛清士に負ける訳には行かない。

 自分の後ろにはフリードが、そしてキャロが居る。ここで負ければ二人もまた殺される。そんなことは認められない――だから!

 ぐっと、膝に力を入れ直す。無理矢理にストラーダを全力で振るった。

 

「弱虫の貴方達なんかに――――!」

「「「ぬぅあぁぁ!」」」

 

 三人組もまた吠える。しかし、エリオの叫びは、その咆哮をも駆逐した。

 

「負っけるもんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 ストラーダが振るわれる。

 三人組の刃が放たれる。

 四つの刃が重なり合わんとした、その瞬間。

 

「よく言った」

 

    −轟!−

 

 巨大な竜巻が起きた。それも一つでは無い、数本だ。

 竜巻は辺りに散る毒を纏めて吹き飛ばす。

 

「馬鹿な」

「こんな」

「こんな事が」

 

 粛清士が驚愕の声を上げる。そして竜巻が消えた時、エリオの前には背中が在った。

 男性だ。180くらいの身長に黒尽くめの恰好である。額当ても、髪の色までも黒。まさに全身黒尽くめである。

 ただ、その手に握る、鞘に納められた刀だけが鈍い銀の色を放っていた。

 かなり長い刀である。少なくとも普通の刀よりは長い。柄頭に龍の頭がこしらえられており、それが、酷く印象的だった。

 

「よく、頑張ったな。毒は消した。後は俺に任せろ」

「貴様」

「一体」

「何者だ?」

 

 ポンっとエリオの頭に手が乗せられる。そして黒尽くめの男は粛清士の言葉に向き直った。

 

「……誰でも構わねぇだろ? ただ一つ言える事は」

 

 そして男は一歩を踏み込む。同時、刀の柄に手を掛けた。

 

「お前等は俺を怒らせた」

 

 ――静かな、静かな言葉。しかし、そこに込められた殺気が尋常では無かった。大気がそれだけで震える。

 粛清士は身体が震えたことを自覚した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「エクセリオン・バスタ――――っ!」

「撃ち抜きなさいっ! 轟弓の担い手よっ!」

 

    −爆−

 

    −煌−

 

 光砲と光矢の一撃がぶつかり合い、そして巨大な爆発が起きる。

 最早、幾度と無くこの攻防は繰り返されていた。

 さらになのはから放たれる四十の光弾を、エリカが騎士を召喚して防ぐ。

 そのまま放たれる矢を、今度はなのはが高速機動で回避。そして両者から放たれる砲撃。

 おおざっぱに見えて緻密極まりない綱渡りを二人は繰り返す。

 

    −煌!−

 

 十数回に及ぶ巨大な光爆を持って、漸く両者は止まった。

 

「っ――、っ――、っ――、い、いい加減、しつこいですわね。貴女も……!」

「それは、っ――、こっちの、っ――、台詞だよ……!」

 

 互いに荒い息を抑えながらデバイスを構える。二人の実力は実際かなり拮抗していた。

 エース・オブ・エースのなのはに、ここまで着いてくるエリカの実力も尋常では無い。だが。

 

 ……ブラスター・モードを使えば。

 

 そう考え、しかし首を振る。ブラスターの反動は正直馬鹿に出来ない。ただでさえ、この間使ったばかりだ。下手な乱用はそれこそ、なのはにとって致命的な事に成り兼ね無い。

 

「……何かを迷っていらっしゃるようですわね?」

「っ!」

 

 その言葉に目を見開く。エリカは、そんななのはにフッと笑った。

 

「馬鹿にされたものですわ」

 

 エリカが挑発的に笑う。切り札があるならば使えと。そう、その表情が物語っていた。

 しかし、なのははただ、ぐっと息を飲むだけ。エリカはそんななのはに溜息を吐く。

 

「……宜しいですわ。なら、こちらからジョーカーを切りましょう」

 

 先に切り札を出すのは趣味じゃないのですけど、と笑う。そして何十度目かの冥界を切り開いた。

 

「お出で下さいませね」

 

 そう、エリカが呟いた瞬間。”それ”は来た。

 

 ――手。巨大過ぎる手だ。それがエリカが切り開いた空間を割くように、のっそりと這い出て来たのである。

 

「冥界の盟主。死を司る神よ!」

 

 エリカが叫び。ついに、”それ”は空間を両手で引き裂き、顕れた。

 それは一見、巨大な骸骨だった。100mは下らないだろう。しかし、なのはは理解する。これは死者であり冥界の住人だと。

 骸骨が放つ膨大な魔力に、戦慄と共にそれだけを理解した。

 

「冥界の女王、ヘル――と、言ってもこれはその亡き骸ですけれどもね。さて、私は先にジョーカーを切りましたわよ?」

 

 その言葉になのはは呻く。そしてヘルを見上げた。

 ヘルはなのはを待ち構えるかのようにその巨大な身体を立ち上がらせている。

 ぐっと息を飲み。そしてなのはは決意した。ヘルを打倒せしめる己の切り札を切る事を――!

 

「ブラスター……!」

「いやぁ、それは困ります」

【エクスプロージョン!】

 

 いきなり響く声に両者共に固まる。直後。

 

   −ポォン−

 

 まるで音叉のような音が響いた――ヘルから。その音に、エリカが目を見開く。

 

「この音……まさか!」

「僕の声が聞こえますか? この世界に満ちる四万六千二百の音群達よ」

 

 そして、と告げる。

 

「聞こえるならば、僕と共に一つの音楽を奏でなさい!」

 

 なのははそれを聞いた。

 まるで踊舞するかのように鳴り響く音楽達を。それはヘルを中心として響く――そして。

 

「曲名は、『運命』。冥界の女王ヘルよ。その運命に従い安寧の眠りにつきなさい」

 

 次の瞬間、ヘルの身体がいきなり砕けた。

 

「え……!?」

「っ――――!」

 

 なのはが驚愕し、エリカが唇を噛み締める。同時、空から少年が顕れた。

 細身な少年だ。メガネをかけていて、黒い髪、黒い瞳の純和風な少年。それだけを見ると少し暗い感じを覚える。しかし、口元に浮かぶ笑みがそれを打ち消していた。

 

「……全く。まさかその術式、完成させていたなんて。”固有魔法術式”なんてよく完成させられましたわね?」

「いや、相当に苦労しましたよ。それに僕だって”前例”が無ければ途中で投げ出していたかもしれません」

 

 ひょい、と少年は肩を竦める。それにエリカが笑った。優雅に――しかし、確かな警戒を込めて。

 そんなエリカに少年もまた笑った。

 

「久しぶりです。当主、エリカ様」

「……それは、何かの嫌味ですの?」

「いえいえ。勿論、心からの言葉ですよ」

 

 くすりと少年は笑い同時に右手をスッと差し出す。

 そこに握られていたのは大鎌だった。エリカのレークィエム・ゼンゼとよく似て。しかし、確かに違う曲刃。

 それをぐるりと手の中で弄びながら少年はエリカと視線を合わせ続けていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 クラナガンの空に雷光が二条疾る。それはぶつかり合い、離れ、またぶつかり合う。

 

    −撃!−

 

 再びの交差。それを交えて両者は漸く止まる。

 二条の雷光。片方は真・ソニックフォームとなったフェイト。片方は飛・王だ。

 二人は10mの距離を挟んで対峙した。

 

「いやぁ。速いで御座るよなぁ。流石で御座る」

「……貴方も速いよ」

 

 謙遜では無くフェイトは純粋にそう思う。単純な速度ではフェイトの方が上だ。だが、旋回、及び機動速度では飛の方が上であった。それを成しているのは――。

 

 ――あの、”足場”。

 

 飛の足元に展開している足場にフェイトは心中唸る。そう、飛の旋回、機動速度の理由はまさにそこにあった。

 足場があれば、そこに足を置き、自らの体重を機転として回転。旋回が出来るのだ。

 対して通常飛行の場合、どうしても踏ん張る場所が無い為に、大きくぐるりと遠回りに旋回する事になる。それは同時に、自らの速度による慣性の影響も受る、と言う事でもあった。

 

 足場のある無しで、こんなに違うなんて。

 

 胸中、フェイトはそう思う。そして両のバルディッシュを再び構え直した。

 直後に飛が駆け出す。フェイトも合わせるかのように動いた。

 

    −戟!−

 

 再びの交差。フェイトはライオットとなった右のバルディッシュを叩きつけ、飛は左の足甲を叩きつける。二つの一撃は激しくぶつかり、飛はそこから更に回転。軸足を交代させ、魔力を纏う左足を重心移動を行いながらフェイトに向ける。

 

「聖鳳拳技」

「っ――!」

 

 フェイトは咄嗟の判断で後退。単純な速度で言えばフェイトは飛より上だ。避けられる。

 しかし、飛はそんなフェイトの思考をあっさりと裏切った。足場を踏んでいる軸足を蹴ったのだ――蹴りの動作の最中に!

 それは一つの結果を生む。前へと蹴り出す事により、更に蹴りの射程が伸びたのだ。

 フェイトは驚愕しながら、身体だけは勝手に動く。左のバルディッシュを半ば無意識のまま突き出し。

 

「飛翔裂脚」

 

    −撃−

 

 蹴りを叩きつけられてフェイトは盛大に吹き飛んだ。

 

「っく……!」

 

 呻きを一つあげながら、フェイトは空中でくるりと回転。体勢を整える。

 飛はそれを見ておぉっと賞賛の声を上げた。

 

「あのタイミングでの飛翔裂脚を防ぐで御座るか……!」

 

 飛の賞賛の声を受けながら、フェイトはしかし、にこりともしない。防御出来ただけでは何も意味が無いからだ。そんなフェイトに飛は笑い。ならば、と構える。

 

「これは、どうで御座ろうな」

 

 両手を飛は突き出す。その構えにフェイトは一瞬だけ疑問符を浮かべ、直後に気付いた。飛がやろうとしている事に。

 フェイトは二つのバルディッシュを組み合わせ、ライオットザンバー・カラミティを発動。振りかぶる。飛はそれに一切構わず突き出した両手に魔力を集中。その掌に光球が生まれた。

 

「翔星閃光弾!」

 

    −轟!−

 

 裂帛の叫びと共に、放たれる光弾。2m弱のそれに、だがフェイトは回避を選ばない。振りかぶったバルデッシュをぐるりと大きく振るう!

 

「ハァッ!」

 

    −轟−

 

 短い呼気と共に放たれる気合い。振るわれたバルデッシュは迷いなく光弾に叩き付けられ。

 

    −撃!−

 

 それを盛大に打ち返した。”飛本人に!”

 

「何と!?」

 

 思わぬピッチャー・ライナーに飛が驚愕し、閃光弾を放った体勢から無理矢理身体を捻り、打ち返されたライナー、もとい光弾を躱す。だが、しかし。。

 

「ハァっ!」

「っ!」

 

 フェイトの声が真後ろから来た。飛は最早、後ろを確認なぞしない。足場を瞬時に形成するとそれを蹴り、空中で横回転。同時に魔力を纏った蹴りを放つ!

 ――そこにフェイトが居た。ぐるりと振りかぶったバルディッシュを放つ! 蹴りと雷剣は、ここに再び、激しくぶつかり合う。

 

「ジェット……! ザンバ――――!」

「魁星……! 裂光脚!」

 

    −戟!−

 

 宙空でぶつかり合った一撃に、紫雷が疾り、衝撃波が周囲に撒き散らされた。だが、止まらない――飛は!

 

「翔星……!」

「な……っ!?」

 

 飛の放つ言葉にフェイトは目を見開く。同時に蹴りから魔力が失われ、飛の脚がバルディッシュに弾かれる。そしてバルデッシュは飛自身にも叩き込まれんとそのまま進み。

 

「閃光弾っ!」

 

 直後に突き出した飛の掌から光弾が放たれ――フェイトの”真後ろ”に叩きつけられた。

 

 ……え?

 

    −爆!−

 

 バルディッシュ自身は、飛に迷い無く叩き込まれる。飛は閃光弾を放った体勢のまま盛大に吹き飛んだ。

 そして、フェイトの真後ろで起きる光爆。それにそろりと目を向けると、バラバラに落ちていく機械群があった。

 破壊されたガジェットのパーツである。そして漸くフェイトは気付いた。先の光弾はフェイトでは無く、その後ろの今、まさに襲い掛からんとしたガジェットを狙ったのだと。

 

「な、何で……?」

 

 疑問符を浮かべ、うろたえるフェイトにカカと笑う声が届く。飛だ。

 彼は吹き飛んだ状態から足場を形成して、無理矢理体勢を整えていた。

 

「いや……。詰まらぬ邪魔が入ったで御座るな」

「……何で、ですか」

「む?」

 

 笑う飛にフェイトは率直に問う。何で助けたのかと。

 今の自分の装甲は無いに等しい。ガジェットの攻撃だろうと、致命的なのだ。それを何で自分の一撃を受けてまで助けたのかと。

 フェイトは一言、何でと言う言葉に込めて問うた。それに飛が笑みを苦笑に変える。

 

「言ったで御座るよ? 詰まらぬ邪魔だと。あんな機械如きに貴女を討たせるなぞ自分、許せぬで御座るよ」

「…………」

 

 飛は肩を竦める。そして黙り込むフェイトに向けてフッ笑った。

 

「貴女を倒すのは自分で御座る。他の誰にも譲る積もりは御座らん」

「貴方は――」

「さぁ」

 

 フェイトの言葉を飛は途中で切る。そのまま構えた。

 

「相対の、続きを」

「…………」

 

 あくまで闘いを望む飛にフェイトは微笑を浮かべる。「馬鹿ですね」と一言呟き、フェイトもバルディッシュを掲げた。瞬間――。

 

「ほんと。飛兄は相変わらずだよね」

 

 ――新たな声が響いた。

 

「え……?」

「な、なぬ!?」

 

 その声にフェイトは疑問符を。飛は驚きの声をあげる。

 声の主は二人の頭上に居た。

 ――少女だ。快活そうな少女である。ポニーテールにした黒髪が元気そうな少女によく似合っていた。少女は飛にヤッホーと手を振る。

 

「ひっさしぶり♪ 飛兄♪」

「あ、ああああ……」

 

 そんな少女を見て飛はがっくりと膝を着く。……どうでもいい事だが、何故足場まで展開してそんな真似をするのだろうとフェイトはちょっと思った。

 

「さ、最悪で御座る。……よりにも、よりにもよって、こんなタイミングで……!」

「え、えっと……?」

 

 そんなに自分との闘いを楽しんでいたのだろうか? ちょっと可哀相になり、飛にフェイトは声をかけようとして。

 

「折角……! 折っっっっ角っ! 金髪巨乳の美女とフラグが立たんとしていたのに――――ぃ!」

「…………」

 

 その一言にフェイトは言葉を放つ事を止め、バルディッシュを持ち上げた。それに、ん? と飛が顔を上げ。

 

「ジェット……ザンバ――――――!」

「飛兄の浮気者――――――!」

 

    −轟!−

 

    −撃!−

 

 フェイトと、何故か少女にまで光弾を叩き込まれ、飛は盛大に吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ヒュ――――……」

 

 紅蓮天昇と青龍のぶつかり合いによって生まれた光爆が収まり、静けさを取り戻した海の上で、シオンは深く長い呼気を吐いていた。

 二つの一撃をまともに喰らったアルセイオは海の中に落ちた。完全に紅蓮天昇も青龍も入った手応えをシオンは感じ――しかし。

 

「なん、だ……?」

 

 どうしようも無い寒気を覚えていた。身体を思わず震わせる。

 

【……? シオン、どうした?】

「いや……」

 

 イクスの声にシオンはちらりとアルセイオが落ちた海を見る。しかし、何も起きない事にホッとした。

 

「……気のせいだろ」

【何の事だ?】

「いや……」

 

 先程感じた寒気をイクスに話そうとした。その瞬間。

 

「……俺は、お前を甘くみてたよーだ」

「【っ――!?】」

 

 響く声にイクスと二人して驚愕する。直後、海からそれが出て来た。

 無尽刀、アルセイオ・ハーデンが。彼は呆然とするシオンに苦笑する。

 

「いや。死ぬかと思ったぜ、マジに」

「何……で……?」

 

 シオンが目を見開いたまま問う。それにアルセイオは苦笑した。

 

「教えてやんねえよ。さて」

「っ……!」

 

 その言葉にシオンは即座に反応。カリバーンとなったイクスを構える。未だシオンの精霊融合状態は継続中だ。

 

 まだ。まだ、行ける……!

 

 そう思い――しかし。

 

 −ソードメイカー・ラハブ−

 

 響くキー・スペル。そして。

 

「ダインスレイフ、凌駕駆動(オーバー・ドライブ)」

 

 アルセイオの声にシオンは息を飲んだ。

 

   −ドクン−

 

 やけに自分の心臓の音が大きく聞こえる。アルセイオはシオンに笑い、右手に持つ紅の長剣を振り掲げた。苦笑する。

 

「……対伊織用の技なんだがよ。坊主――いや、”神庭シオン”。お前にこの技をくれてやる」

 

   −ドクン!−

 

 心臓の音が聞こえる。始めてアルセイオに名前を呼ばれたにも関わらずシオンはその音を聞いていた。

 

 そして。

 

 −我は、無尽の剣に意味を見出だせず−

 

 聞こえる。その声がシオンに聞こえる。それはアルセイオだけの呪文――否、アルセイオに”だけ”許された呪文だ。

 

   −ドクン!−

 

 心臓の音が大きく響く。

 シオンはただただ呆然とアルセイオの姿を見ていた。身体が震える――寒気に。

 

 −故に我はたった一振りの剣を鍛ち上げる−

 

 そして、その剣はこの世界に生まれ落ちた。

 

 

 

 

 ――異質な剣だった、その剣は。

 アルセイオの手に握られた3m程度の大剣。50mもの極剣を創り出せるアルセイオからしてみれば万すらも創れうる筈の剣。しかし、それが。酷く、酷く。

 

 ――怖かった。

 

   −ドクン!−

 

 シオンの心音が再び大きく響く。そして気付いた。この音は、寒気は、全て。

 ただ、恐怖していたのだ。アルセイオに。あの剣に!

 

「銘、”斬界刀”」

 

 震える。震える、震える!

 あの剣が怖くて。怖くて、怖くて!

 そんなシオンにアルセイオはただ笑い。

 

「じゃあな。坊主」

 

 

 

 

 

 

 

 

    −斬−

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……それがいつ振り下ろされたのかシオンは分からなかった。ただ、分かるのは自分の背後の海が真っ二つに”割れている事”だけ――。

 

 ――否、”斬られていた”、だ。

 

 斬られた海は海底を晒し、さらに海底には巨大な海溝があった。しかし、その海溝すらも、あの剣によって斬られた斬痕である。

 それらを背後にシオンはただただ、立ち尽くす。アルセイオは斬界刀を肩に担いだ。

 

「上手くいったようだな。下手に斬る角度を間違えると、この星を”斬りかねなくてよ?” いや、実際難しいんだぜ? マジに」

 

 アルセイオの言葉。しかしそれはシオンには聞こえない。

 ただ。ただただ。ただただ、ただただ。

 

 ――寒い。

 

 そして。

 

「…………っ!」

 

 次の瞬間、シオンは躯中から大量の血を撒き散らしながら海の底へと落ちていったのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「っ――! っ――!」

【シオン!? シオン!】

 

 響くイクスの声に、しかしシオンは応えられない。

 息すらも難しい。躯からは未だに夥しい量の血が流れている。だが、そんな状態にあっても、シオンはまだ。

 

 ……生きて、る……?

 

 自分の身体をシオンはまさぐる。どこも真っ二つになんてなってない。

 

 ”斬られてない”。

 

 そんなシオンに感心したような口笛が届いた。アルセイオだ。

 

「おー。斬れてないって事はよ。坊主、アレを躱したんだな。いや、大したもんだぜ」

「っ……!」

 

 声が、出せない。代わりに睨みつけるが、そんなシオンの視線をアルセイオは笑い、受け流した。

 

「直感の、しかもかなり高ランクだな。無意識にアレを躱すなんざ。ただまぁ、”余波”までは躱せなかったって事か」

 

 アルセイオの言葉にシオンは言い返せない。目を見開いて呆然とアルセイオを見るだけだ。

 つまり、シオンは無意識とはいえ斬撃を”完全に躱していた”のだ。この躯中の傷は余波によって刻まれただけ。

 しかし、それにこそシオンは震撼する。一体、どれほどの威力があれば、余波だけで融合状態の自分を瀕死に追いやれるというのだ。

 直撃を受けたらと考えると背筋が寒くなる。それは確実な”死”を意味しているからだ。――そして。

 

「それじゃあ」

「っ! っ……!」

 

 アルセイオが再びあの剣を掲げる。世界を斬り裂きし剣、斬界刀を。

 それにシオンはしかし、身じろぎすらも出来ない。

 声も出せず、ただ浅い息を漏らす事しか出来なかった。そんなシオンにアルセイオはゆっくりと斬界刀を振り上げ。

 

「今度こそ、じゃあな。坊主。迷うなよ?」

 

 身動きが出来ないシオンに振り下ろされ――。

 

    −轟!−

 

 ――直後に砕けた、”斬界刀”が!

 

「ああ!?」

 

 いきなり砕けた斬界刀にアルセイオは眉を潜め、次の瞬間。

 

    −撃−

 

 自分目掛けて、真っ直ぐに音速超過で突っ込む”剣”を見た。

 

「な、んっ! ちぃっ!」

 

 アルセイオも負けじと剣を創り出しぶつけるが、あっさりと砕かれる。それにアルセイオは舌打ちし、向かい来る剣達にその場を離れた。

 

 ……何だ? 俺と同じ能力持ちでもいやがるのか?

 

 更に突っ込んで来る剣達にアルセイオはそう思い。剣群を形成してそれらの迎撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

「やれやれ。あのアホはほんま手が掛かるなぁ」

 

 海を仰ぐクラナガンのビル。その屋上に少年の姿があった。

 髪はかなり長い。セミロングくらいか。眼鏡をかけていて、それをチャッと直す。

 そして左手を前に差し出し、右手を肩に並べると言う奇妙な格好でいた。

 弓を持っているならば正しい構えなのだろうが。現状、少年は何も持っていない。

 

【……仕方ないでしょう。敵はアレでも元二位。寧ろシオンはよく持った方です。……悪いのはあの、馬鹿です】

 

 いきなり女性の声が響いた。少年以外、そこには誰も居ないのに。少年はその声に笑う。

 

「ほんま、お前はイクスと相性悪いな?」

【当たり前です。自らの主に”本当の名前”を告げない融合騎なんて、融合騎の風上にも置けません】

 

 まぁそらそうやけど、と少年は苦笑して、海を見た。

 正確には海の遥か向こう、”アルセイオ達が居る18km先の場所を”。少年にはその姿が今、はっきりと見えていた。

 

「それじゃあ、あのアホ。助けるで? フェイル」

【あの馬鹿を助けるのは釈ですが……了解です、マイマスター】

 

 次の瞬間。少年の左手に光の線が走る。それは、左手を中心として一つの形を取った。

 

 弓の形に。

 

「刻印弓、”無駄無しの弓(フェイル・ノート)”。発動(ベヴァイゼン)」

【はい。魔剣殺しの剣、剣製。ソードバレル。オープン】

 

 直後、少年の手に一本の剣が握られた。魔剣殺しの概念を秘めた剣である。

 その剣を弓に少年は番える。狙う先は、ただ一つ。”幼なじみ”と相対している敵、アルセイオだ。その敵の姿を”ハッキリと視認”して少年は笑う。弓から伸びた弦を引き絞り、そして。

 

「”本田ウィル”! 狙い撃つでぇ!」

 

 叫び、弦を手放した――瞬間。

 

    −轟−

 

 番えられた剣は直後に音速超過。空気をぶち抜いて、真っ直ぐに海の向こうへとひた疾った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ミッドチルダ、大気圏上空域。衛星軌道の高度にその艦の姿があった。XV級次元航行艦、レスタナーシアの姿が。

 そのブリッジでクラナガンの状況を見ていたグリム・アーチルは唖然としていた。突然の事に、驚愕して。

 アースラのメンバーを孤立させ、各個撃破し、その様を八神はやてに見せ付ける。最初はその目論みは上手くいっていた。

 ……しかし、急に現れた謎の魔導師達によってその目論みは瓦解した。魔導師達はアルセイオ隊やガジェット、因子兵達を相手取り戦い始めたのだ。

 アースラメンバーは誰一人欠ける事もなく、今も全員無事であった。

 

「何なんだ……。何なんだ!? あいつ等は!?」

「すみません……。所属不明です。いつ転移して来たのかも――」

「く……!」

 

 ……こんな馬鹿な事があるか!?

 

 そう思い、歯を食いしばる。これでは何も変わらない。”あの人”や、”あいつ”に顔向け出来ない。

 グリムはぐっと再びモニターを見る。クラナガンの致る所で起きている激戦を。

 だが、次の瞬間。

 

《諸君》

 

 ――聞き覚えのある声が響いた。

 

「この声、は……」

 

 呆然とモニターを見る。

 モニターはザザザッと波打ち、そして切り替わった。ある一人の男の姿を映したのだ。その姿を、グリムは知っている。彼の名は――。

 

「叶、トウヤ、だと……!」

 

 そんなグリムの呻きに合わせるかのようにモニターのトウヤは再び声を放った。

 

《諸君、私の声が聞こえているか?》

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

《さて、諸君。我等は今、それぞれ相対すべき者達と向き合っている》

 

 その声はクラナガンの全域に広がっていた。それはアースラ・メンバー達に、そして救援に来た者達にも聞こえていた。

 

《諸君。我等はこれから戦おうと思う。どこかの馬鹿の思い上がりを正してやろうとね?》

 

 トウヤはモニターの中でスッと手を上げる。そして微笑して見せた。

 

《その上で問う。我等はこれから何を成す?》

 

 その声に朱槍の少年が槍を掲げた。

 

「家出なんぞをした馬鹿兄貴をはっ倒す」

 

 白槍の女性が肩を竦めた。

 

「目の前の年甲斐の無いじい様を叩きのめすわ」

 

 大剣の青年が肩にそれを担ぐ。

 

「取り敢えず、うじゃうじゃいるこいつ等を全部ぶっ壊すとするか」

 

 ハリセンを姉妹に向けていた少女が、それをレイピアへと変換する。

 

「お笑いの基礎を鍛え直す為に、目の前の二人をはたくわ〜〜」

 

 ゴツイ銃を持つ青年がタバコを吹かす。

 

「……面倒臭いから一抜け――」

《却下だ》

「ちっ! ……取り敢えず、眼前の敵を叩き潰すとするか」

 

 銀の刀を持つ黒尽くめが、鞘ごと地面に刀を突き立てる。

 

「俺の前に居る奴らをぶっ殺す」

 

 大鎌を持つ少年が眼鏡の位置を直す。

 

「実験も兼ねて遊ばせて頂きます」

 

 ドシャグシャとか余計か音を鳴らせながら少女が快活に答える。

 

「取り敢えず。浮気者を成敗します!」

 

 そして、最後。刻印弓を持つ少年がニヤリと笑う。

 

「腐れ縁のアホダチに借しを作りに行きますわ」

 

《上等だ》

 

 それぞれの答えを聞きトウヤは笑う。そして手を振り上げた。

 

《答えろ。我等――》

 

『我ら全ての戦いを終えるための力なり』

 

《我等――》

 

『我ら全ての未来を照らし行く意気なり』

 

《我等――》

 

『我ら全ての遺恨を知りて進む者達なり』

 

《我等は!》

 

『我ら全ての悪意を躊躇わず進む者なり!』

 

《我等は!》

 

『我ら知識の名を冠せし蛇なり!』

 

 叫びが響く。クラナガンに、ミッドチルダに。それを受け、トウヤが手を振り下ろす!

 

《ならば答えろ! そして相対すべき者達に教えてやれ! 我等が名は――!》

 

 

 

 

『グノーシスだ!!』

 

 

 

 

 大音声の叫びが響き、彼等は己が名を叫んだ。

 ”最強の個人戦闘能力者集団”グノーシスは、ここに、こうしてツァラ・トウ・ストラに宣戦を告げたのであった。

 

 

(第三十二話に続く)

 

 




次回予告
「クラナガンに集う最強の個人戦闘能力者集団、グノーシス!」
「彼等とツァラ・トゥ・ストラの戦いは激化していく」
「そして、シオンは幼なじみであり、悪友たるウィルとコンビを組み、アルセイオに挑む」
「そして――」
「次回、第三十二話『背を預けし、我が悪友(とも)よ』」
「罵り合い、睨みあう。それでも、奴は悪友だから」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。