魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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はい、毎日予約投稿中のテスタメントです。
前回のちょっと遅くなる宣言はどこいった? とばかりに連続であります(笑)
いや、投稿溜めしとこうかなと(笑)
携帯投稿ですが、携帯が止まる可能性がありまして(笑)
なので第三十一話まで、0時予約で毎日お届けしまする。
いや、次で終わりですがね(笑)
ではでは、どぞー


第三十一話「グノーシス」(中編)

 

 光が溢れる――シオンを中心として。相対していたアルセイオは息を飲み、そして、それを見た。

 炎を纏う右のイクスを、風を纏う左のイクスを、そして。

 

「……精霊、融合」

 

 雷を纏い、膨大な魔力を放出するシオンを。

 すっとシオンは閉じていた目を開く。同時に構えた。

 右のイクスを上に、下に左のイクスを持ってくる。背の6枚の剣翼が展開した。

 

「神庭シオン」

「っ……!」

 

 声に引きずられるようにアルセイオはダインスレイフを構える。シオンはそれを見遣りながらぽつりと呟いた――。

 

「推して、参る」

 

 ――宣戦を。

 

 次の瞬間、アルセイオはシオンの姿を見失った。

 シオンが居た位置にあるのは雷光の残滓のみ。

 

「っっ!? ちぃ!」

 

    −戟!−

 

 アルセイオは殆ど勘任せに真後ろにダインスレイフを突き出す。そこにシオンは居た。

 右、短槍のイクスを突き出しダインスレイフと鍔ぜり合っている。肩越しにシオンを見ながら、アルセイオは胸中驚愕の叫びを上げていた。

 

 ……何も、見え無かったぞ!?

 

 冷や汗が頬を伝う。体温が二度程下がった気がした。

 

「神覇、陸ノ太刀」

「っ……!」

 

 ぽつりと呟かれるその言葉にアルセイオは反射的に瞬動で後ろに下がる。だが。

 

「な……!」

 

 ――動かない。否、距離が離れない。シオンとの距離が。

 アルセイオはしばし呆然とし、直後に気付いた。シオンはアルセイオに合わせて距離を詰めたのだ。

 ”アルセイオの方が早く瞬動を掛けたと言うのに!”

 シオンはアルセイオの動揺に構わない。一歩を踏み込み、右のイクスを突き出す!

 アルセイオは無意識に空いていた右手を突き出した。同時に爆炎が吹き出し、シオンを中心に不死鳥が産まれる!

 

「奥義、朱雀!」

 

    −煌−

 

 神覇陸ノ太刀、朱雀――シオンを中心にして生まれた不死鳥は、至近距離でアルセイオに襲い掛かり、その身体を飲み込んだ。

 

    −爆!−

 

 裂光轟炎!

 朱雀はその威力を完全にアルセイオに叩き込み、身体を真上に突き上げた。

 

「ぐっ、う! 野郎――!」

 

 真上に吹き飛ばされながらアルセイオは口から悪態を漏らす。正直、危なかった。

 直撃の瞬間に、無理矢理に形成した巨剣を叩きつけ、僅かとは言え威力を削いだからよかったものの、それが成功しなければシールドごと消し炭になる所だったのだ。凄まじい威力である

 アルセイオは息を飲みながら飛ぶ方向に足場を形成。それを踏み、体勢を整える。

 

「坊主は――」

 

 居た、”目の前に”。

 

「漆ノ太刀」

「――!?」

 

 ――早過ぎるだろ!

 

 そう叫び声を上げたいが、そんな暇は無い。アルセイオは無理矢理にプロテクションを発動する。

 だが、シオンは構わない。左――長剣のイクスを振るう。同時にその身体は風を纏い、白き虎へと変身を遂げた。

 

「白虎」

 

    −戟−

 

 −戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟・戟−

 

    −戟!−

 

 数十、数百、数千、数万!

 

 超高速の全周囲斬撃がアルセイオを襲う!

 プロテクションは数秒しか持たなかった。パリンと硝子を割るような音が響き、そして。

 

「く……っ!」

 

    −哮!−

 

 暴虐たる虎の牙がアルセイオへと容赦無く叩き込まれたのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

    −戟!−

 

 クラナガンの空に甲高い剣音が鳴り響く。

 片や、片刃の長剣を持つ者、シグナム。

 片や、両刃の大剣を持つ者、ソラ。

 二人は高空に於いて高速の剣撃戦を繰り広げていた。

 

    −戟!−

 

 再び響く剣が打ち合う音。そして結果もまた同じだった。”必ずシグナムが打ち負ける”。

 

「ふっ!」

「く……っ!」

 

 鋭く響く、息吹。そして放たれる連撃にシグナムは顔をしかめる。重く、鋭く、そして何より疾い。

 

 ……なのはが苦戦する訳だな!

 

 胸中そう思い、放たれる一撃を受ける。近接戦の、それも剣の技術に於いてこれ程の者がいるとは。

 グノーシス、元第三位。”これ”で、第三位である。

 上には上が居るとは、よく聞く言葉ではあるが、それをひしひしと実感させられた。

 ソラから放たれる上段からの斬撃を受ける勢いを利用して離れる。同時、カートリッジロード。

 

「レヴァンティン」

【エクスプロージョン!】

 

 名を呼ぶと共に、愛剣たるレヴァンティンが炎を纏う。同時、シュランゲ・フォルム――連結刃へとレヴァンティンがその姿を変えた。

 対して、ソラは剣を持ち上げる。同時、煌っと、魔力がその身体から溢れた。

 

 −ブレイク・インセプト−

 

 鍵となる声が音を介さず空間に響く。シグナムはそれを見ながらレヴァンティンを上段に持ち上げた。ソラは剣を顔の横に持ち上げ、突き出す。同時に二人は動いた。

 

「飛竜、一閃っ!」

「魔人撃!」

 

 大上段から炎を纏う連結刃が放たれ、横からの斬撃で魔力斬撃が放たれる。

 

    −轟!−

 

 二つの技は二人の中間点で炸裂。その威力を互いにぶつけ合い――。

 

    −砕−

 

 ――相殺した。だが、ソラは結果に構わず、そのままシグナムへと突っ込む。

 

「っ! ちぃ!」

 

 それを見てシグナムは即座にレヴァンティンを振るう。連結刃のままのレヴァンティンは主の意向に従いその首を擡げた。

 

「陣・風・烈・火!」

 

    −閃!−

 

 ギュラァ! と空気を斬り裂きながらレヴァンティンが踊る。その様はまさに縦横無尽。シグナムの周囲を刃が囲み、近付く者――則ち、ソラに踊りかかる!

 しかしソラは一顧だにしない。空間に足場を無数に展開。同時に瞬動を開始する。

 だんっ! と、音が響き、ソラもまた縦横無尽に駆ける。向かい来る刃を躱し、シグナムへと確実に接近を始めた。

 

「く……!」

 

 シグナムはレヴァンティンを振るい、ソラを近付けさせまいとするが、ソラはその刃のこと如くを躱す。そして、ついにソラはシグナムを手に持つ大剣の間合いに入れた。

 踏み込み。深い踏み込みだ。ソラは足場にその踏み込みを叩きつけ、同時に大剣を振るう。

 対してシグナムはレヴァンティンをシュベルト・フォルムに戻す事を諦め、”真横”にシールドを展開。すぐさま蹴りつけた。

 

    −閃−

 

 ソラから放たれた一撃は、あっさりと空を斬った。シグナムが躱したのだ。シールドを足場代わりにして。

 

「っ……」

「おぉ……!」

 

 カートリッジロードと同時にボーゲン・フォルムへと変化させ、シグナムは即座にその弦を引き絞った。

 

「翔けよ、隼」

 

 魔力により、矢を形成。更にカートリッジロード。シグナムは止まらず、そのまま矢を解き放つ!

 

【シュツルム・ファルケン!】

 

    −豪!−

 

 レヴァンティンから高らかに声が響き、直後、一撃が撃ち放たれた――必殺たる一撃が。

 しかし、ソラは動かない。大剣を顔の前に持って来る奇妙な構えを取る。

 

 −我はただ空へと向かう−

 

 そらんじるように響くはオリジナル・スペル。ソラはすっと、大剣を突き放った。

 

「魔皇撃」

 

    −裂!−

 

 ――斬り裂いた。空気を、空間すらも螺旋を描く魔力斬撃が!

 奇しくも、二つの一撃は良く似ていた。どちらも極一点という一撃だ。故にその結果もまた同じ。二つの一撃は互いにぶつかり、そして。

 

    −轟!−

 

 互いに、その威力を持って互いを喰らい、螺旋を描く衝撃波を持って消えた。

 

 ――だが。

 

「煌牙」

 

 その声にソラは驚愕を顔に貼付けた。

 シグナムが居る。”彼の目の前に”。その身体は斬り傷だらけだ。

 さもありなん。何せ、未だ消えぬ衝撃波の渦を真っ正面から突破して来たのだから。

 これは一種の賭け。ソラがこちらの戦法に気付けば確実にカウンターを叩き込まれるだろう。

 だが、うまくいけばこちらが最高の一撃を叩き込める。そして賭けにシグナムは勝った。もはやソラは目の前、回避も防御も不可能なタイミングだ。故にシグナムは自身の持てる最強の一撃をソラに放つ!

 

「一閃!」

 

    −煌!−

 

 煌炎一閃! 炎剣が疾り、ソラへと容赦無く迫る。それにソラは目を見開いたまま回避も防御も出来ず――。

 

「起きろ」

 

 ――ただ、その言葉だけを放った。

 

 

 

 

    −斬−

 

 

 

 

 ――そして決着は着いた。”シグナムの敗北”で。

 

「あ……?」

 

 シグナムは呆然と見る。”背中から自身の胸の中央に突き出した刃”を。

 

「神剣、フラガラック」

 

 ぽつりと呟かれる声。それにシグナムは顔をあげる。ソラが持つ大剣、その刀身が”消えていた”。半ばから綺麗に。

そしてそれはシグナムの背中から突き立っていた。

 

「……出来れば使いたくは無かったがな。”ロストウェポン”なぞ」

 

 ぶん、とソラが大剣を”引き抜く”。同時にシグナムから刀身が抜けた。直後、シグナムの口から抗いようも無い程の血が溢れた。

 

「ぐ……!」

 

 吐血。大量の血がシグナムの口から、そして胸から流れる。それは常人ならば、確実に死んでいるであろう量だった。何せ、位置からすると心臓を貫いている。

 シグナムが死んでいないのは、守護騎士と言う存在故だ。しかも、今のシグナムは限り無く人に近付いている。このままでは待つのは確実に死だ。

 そしてソラがそれを待つ筈も無い。フラガラックをゆっくりと振り上げた。

 

「楽にしてやる」

「ぐ……っ、う……!」

 

 声を出そうとするが、それすらも出来ない。そして刃は振り下ろされ――。

 

「阿保か」

 

 −スマッシュ・インセプト−

 

    −戟!−

 

 振り下ろされた刃が、”鍵となる声”と共に放たれた朱色の槍にぶつかり止まった。それにソラは目を見開く。シグナムは傷を押さえながら顔を上げた。そして。

 

「殺しに来たぜ、兄貴」

「何だ、貴様か」

 

 シグナムは見た。戦場で何故かヘッドホンなぞをつけている、”少年”の姿を。朱槍を肩に担ぐ、その背中をシグナムは見た。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 シグナムと反対側の空、そこでヴィータは自身の愛鎚、グラーフアイゼンを振るう。既にその姿はツェアシュテールングス・フォルムだ。

 何故早くも切り札を使っているのか――その答えは、目の前の敵がそれでしか倒せない事を知っているからだ。

 ヴィータの眼前で巨斧を振るう老騎士、バデスには。

 

    −戟!−

 

「ぶち貫け――――!」

「ぬぅんっ!」

 

 裂帛の叫びが両者より放たれ、アイゼンとタイラントが真っ向からぶつかり合う!

 

    −轟!−

 

 辺りに衝撃波がぶち撒けられ、両者共に吹き飛んだ。二人は互いに数mを吹き飛び、同時に体勢を整える。

 

「くっそ……!」

【ヴィータちゃん。あんまり焦っちゃ駄目です!】

《……わぁってる》

 

 ユニゾンしているリインの言葉にギシリと奥歯を噛み締める。

 あの転送。あれで孤立させられたのは自分だけでは無い筈だ。必然、それはアースラメンバー全員が含まれる。

 

《……嫌な予感がするんだ》

【……はいです】

 

 リインもまた頷く。嫌な予感が止まらない。この状況での孤立など、いくらなんでも危険過ぎる。

 もし、自分と同じく孤立させられた状況で襲われたら……。

 

「……さっさとこいつ、ぶっ潰すぞ」

【……ヴィータちゃん】

 

 ヴィータの焦りが伝わり、リインが心配そうに名を呼ぶ。それに心配すんなと声をかけようとして。

 

「侮られたものだな」

「【……っ!】」

 

 突如かけられた声に中断された。声の主であるバデスをヴィータは睨む。直後にへっと笑った。

 

「一度負かしてんだ。舐められんのは当たり前だろ」

「……確かに、聖域で私は貴様に負けた」

 

 だが、と続ける。タイラントを肩に担いだ。

 

「今の貴様には負ける気がせぬ」

「……言ってくれるじゃんか」

 

 あからさまな挑発だ。いつものヴィータなら乗る筈も無いそれに、しかし、ヴィータは乗ってしまった。仲間を案じる気持ちと、焦りから。

 

【ヴィータちゃん! 駄目です!】

 

 リインから飛ぶ警戒に、しかしヴィータは耳を傾け無い。ぐるりとアイゼンを構える。

 

「行くぜ?」

「来るが――」

 

 ――最後までヴィータは言わせなかった。ツェアシュテールングス・フォルムの後端から炎が吹き出すと、その推進力に任せて一気にバデスに突っ込む!

 

「ぶち貫――!」

【ヴィータちゃん! 駄目っ!】

 

 リインが叫ぶ。それにヴィータはハッとなり、しかし。

 

「タイラント・オーバー・ブレイク」

 

    −轟!−

 

 間に合わなかった。タイラントがアイゼンの”柄”にぶつかる。これこそがバデスの狙いだった。彼は、最初から真っ向勝負など考えていなかったのだ。

 挑発し、威力はあるが軌道が読み易い攻撃を誘発させ、カウンターの一撃を叩き込む。ヴィータはそれにまんまと引っ掛かってしまったのである。

 

「アイゼン……っ!」

【ヴィータちゃん! 離脱を!】

 

 ブースターをカットし、即座に後退しようとする。だが。

 

    −断!−

 

 全てが遅すぎた。

 

「が……っ!?」

【あ、くっ……!】

 

 アイゼンの柄は半ばから断たれ、巨斧の刃がヴィータの腹部にめり込む。小さな口から血が吐き出された。バデスはそれを顔に受け、そのままぐるりと旋回。地面に向けてヴィータをタイラントで投げ飛ばす!

 

    −撃!−

 

 ヴィータは下のビルに叩きつけられ、ビルの上から二階までを纏めて潰し、漸く止まった。

 

「あ、う……リイン……!?」

【大、丈夫です。ヴィータちゃんは……?】

「何、とか、な」

 

 リインに答えながらヴィータは顔をしかめる。何と言う失態。焦りとは言え、あんな見え透いた手に引っ掛かるなんて。

 潰れたビルの部屋にうずくまるヴィータに止めを刺さんとバデスが突っ込んで来る。それを迎撃しようとヴィータは身体を起こそうとするが、立てない。身体が先の一撃でろくに動かないのだ。

 

「終わりだ」

 

 バデスのそんな言葉が先にヴィータに届く。そして巨斧が叩きつけられようと放たれ。

 

「はいはい。ストップ、ストップ!」

 

    −轟−

 

 横合いからいきなり光砲がバデスに叩き込まれた。

 

「ぬっお……!」

 

 なのはのディバインバスターを思わせる一撃に、バデスは呻きの声をあげるも、何とか耐え切る。吹き飛ばされながら、体勢を整えた。

 

「いい歳したじい様が子供いじめ? 随分といい趣味ね」

 

 誰が子供だ。と叫びたいが、先の一撃のダメージで上手く声が出ない。光砲を放った主は女だった。手に持つは白い槍。セミロングの髪に、ゴーグルをかけている。なのはと同じ歳ぐらいだろうか。勝ち気そうな女性である。

 

「……何故、貴様がここに居る?」

「さぁて、なんでかしらね? でも、そうね」

 

 くすりと笑う。そして手の白槍をくるりと回した。

 

「アンタ達を止めるため――てのはかっこ付けすぎね。だからこう言うわ」

 

 その言葉と共に白槍が回転を停止。女性の右手に順手で収まる。同時にそれは構えとなった。

 

「アンタ達を纏めてぶっ飛ばしてやる為に、てね!」

 

 微笑む。その笑顔だけ見れば、可愛らしい女性はしかし、言っている事はあまりにも物騒窮まりなかった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「くっ――!」

 

 はやての側を弾丸が走る。それをシールドを張り防御。直後に、その弾丸を放った存在。ガジェットⅤ型がはやての脇を抜けた。

 

「ブラッディ・ダガー!」

 

    −寸っ!−

 

 放たれる紅の短剣群。それは瞬時にガジェットⅤ型へと疾り、数機を纏めて破壊せしめる。

 

「ハアっ、ハアっ!」

 

 ガジェットを鮮やかに破壊した彼女だが、その息は荒い。

 先程からずっと、はやては襲い来るガジェットⅤ型相手に戦っていた。いつもなら訳も無く倒せる相手である。だが、”此処”では、はやては本領たる広域魔法が使え無かった。そして尚且つ逃げる事も出来ない――何故なら。

 

「シャーリー、どない?」

《もう少しです!》

 

 はやてが通信でシャーリーと話す。そして視線をちらりと後ろに向けた。

 そこには、無数のガジェット達に虫のようにたかられ、攻撃を受けているアースラの姿があった。

 アースラは速度や積載性に装備のほとんどを費やしている。故に装甲やフィールド等の防御が弱い。そんなアースラがもし自慢でもある足を止められたらどうなるか? 答えは現状である。つまりはタコ殴りだ。ザフィーラも駆け付け、シャマルやシグナムの融合騎、アギト(主とは別々に飛ばされた)も協力して次々とガジェットを墜しているが、それよりガジェットが増える方が早い。そもそも何故アースラが足を止められたのか。

 確認する必要すら無い、グリムの仕業であった。

 予めウィルスでも仕込んであったらしく、はやてがアースラの近くに転送されると同時にアースラの推進系が纏めてストップしたのだ。

 今や、アースラは空に浮かぶ飛行船である。何せ動けず、風船よろしく浮かぶしかないのだから。

 さらにアースラに突っ込むガジェットにダガーを叩き込みつつはやては顔をしかめる。

 

 これが狙いなんか……?

 

 グリムはこう言った。絶望への片道切符、と。

 だが現状、アースラへの攻撃は続いているものの、到底撃沈には程遠い。

 こちらの戦力を読み切っていなかった訳でもないだろう。ならば、絶望とは一体? 果たして、その答えはすぐに訪れた。

 

 ――っ!?

 

 瞬間、はやてを寒気と嫌な予感が貫いた。それはかつて覚えのある感覚。JS事件の際にザフィーラが、そしてシャマルが死にかけた時に覚えた感覚だ。

 

 シグナム……!?

 

 一人はヴォルケンリッター烈火の将。

 

 ヴィータ! リイン!?

 

 そして鉄槌の騎士と、融合騎たる存在。三人の気配が、急速に弱くなりつつあった。

 

「シャーリー! シグナムやヴィータ、リインの状況、分かるか!?」

《え……? ちょ、ちょっと待って下さい!》

 

 アースラに通信を繋げる。はやてのあんまりの剣幕にシャーリーは戸惑いの声を上げ、直後に《嘘!?》と叫んだ。

 

「シャーリー!?」

《ライトニング2、及びスターズ2、そしてブルーのバイタル危険域です……! そ、それだけじゃありません! ライトニング3、4も! 他の皆も!》

 

 やっぱり……!

 

 はやては叫び出す一歩手前で、そう思う。グリムは最初っからこの積もりだったのだ。

 他のメンバー達を孤立させ、各個撃破に持ち込む事。

 そしてそれを他でも無い、自分に味あわせようとしているのだ。

 仲間達や、家族を失う絶望を! はやては唇を血が出る程に噛み締めた。

 

「ザフィーラ! シャマル! 皆を助けに……!」

《はやてちゃん!?》

 

 次の瞬間、シャマル達に通信を繋げようとして逆にシャマルから通信が入る。それにえ? と疑問符をはやては浮かべ。直後、その身体を影が差した。はやての直上のガジェットの影――”右の手にナイフらしき物を装備してガジェットの影が!”

 しまったと思った時には既に遅かった。伊達にヒトの形をしていなかったのだ、このガジェットは。既にナイフは突き出され、こちらに正確に放たれている。いやにゆっくりと迫る刃、それをはやては呆然と見る事しか出来ずに。

 

    −斬!−

 

 ガジェットが、上下に真っ二つに斬られる瞬間を見た。

 

 ……え?

 

 再び、はやては疑問符を頭に浮かべる。だが、驚きはまだ止まらない。

 

    −撃!−

 

 直後、はやての周りにいた他のガジェットも、先のガジェット同様にぶった斬られる。五体程のガジェットが一瞬で撃墜された。

 

「やれやれ……」

 

 そして気付けば、それはそこに居た。

 大柄な男である。多分、身長は190を下らない。 そして右手には2m超の大剣を持っており、それを肩に担いでいた。

 左手で頭をポリポリとかきながら空を”歩く”。そしてはやてを見てあーと、唸った。

 

「仲間達が気になるのは分かるけどよ。戦場でぼーとしてんなよ。危ねぇから」

「は、はい……」

 

 頷くはやてに男はウンウンと頷き、そして言葉を続ける。

 

「それにあんたの仲間も大丈夫だろうよ。俺の仲間が向かってるし」

 

 その言葉にはやては今度こそ戸惑う。この男は一体何者なのか? それに仲間とは?

 そこまで考えた段階で思い出した。彼等は……!

 だが、男はそんなはやてに構わない。大剣を肩から下ろして横に構えた。

 

「さぁてと。一丁いってみようか!」

 

 笑みと共に吠える。同時、大剣が上下にスライド。合わせ目から光が漏れた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 クラナガンより離れた海域。その海の上で、アルセイオは息を荒げながら眼前の存在を睨む。神庭シオンを。

 

「耐えたか。おっちゃん」

「あたぼうよ。中年舐めんなよ? 坊主」

 

 とは、言うもののアルセイオの息は荒い。実際、かなりまずかった。まさか、”盾”まで作らされるとは。

 無尽刀の能力は何も剣にのみに限定しない。盾や、必要とあれば鎧も作りうるのだ。だが、そうは言うものの久しぶりに盾を作らされた。最後に作ったのは十年も前になる。則ち、伊織タカトとの戦い以来であった。

 

「皮肉なもんだな」

「?」

「いや、何でもねぇ。さて、坊主。続きと行こうか?」

 

 −ソードメイカー・ラハブ−

 

 再び鳴り響く鍵となる声。同時、その背に剣群が展開する。シオンは何も言わない。イフリートとジンを再召喚。再び双重精霊装填で左右のイクスにそれを収めた。

 

「行くぜ。坊主」

「……おう」

 

 スッと手を掲げる。シオンもまた、両のイクスを構えた。そこまでアルセイオは見て、一気に剣群を解き放つ!

 

    −轟!−

 

 数万の剣群から成る剣の激流が迫り来る。しかし、シオンはそれを見ても動かない。アルセイオはそれに眉をピクリと上げた。

 

 動かず、防ぐ積もりか?

 

 そう思い。しかし、次の瞬間にその考えは否定された――”目の前”のシオンに。

 

「っ!?」

 

    −閃−

 

 ――いつの間に!?

 

 その叫びを放つ前にアルセイオはダインスレイフを振るう。だが、シオンの姿は既にそこには無い。あるのは雷の残滓だけだった。

 

「ちぃ!」

 

 短く唸り、背側に逆を向けて剣群を形成、放つ!

 

 −弾・弾・弾・弾・弾−

 

 僅か数本の剣。しかし、それは確かにそこに”居た”存在に放たれた。つまりシオンに。しかし。

 

「そこかぁ!」

 

 アルセイオは即座に真上に顔を上げる。そこに、居た。雷を纏うシオンが。

 右のイクスを既に振り上げている。アルセイオは半ば無意識にダインスレイフを真上に突き上げた。

 

    −戟!−

 

 轟音裂破! 聖剣と魔剣が再びぶつかる。しかし、いつもと違いアルセイオはシオンを吹き飛ばせない。拮抗する――否、寧ろ押された。

 

「ちぃ!」

 

 再び呻く。そんなアルセイオにシオンは構わない。更に踏み込み、左右のイクスを振るう。

 

    −戟!−

 

    −閃!−

 

    −裂!−

 

    −破!−

 

 疾風連撃! 次々と放たれる左右のイクスにアルセイオはついていけない。直撃は盾まで形成して無理矢理防ぐが、それでも身体の致る所にダメージを受ける。そもそも精霊融合状態のシオンは反応速度からしてヒトを超えてしまっているのだ。ヒトのままで反応が追い付ける筈も無い。

 

「おぉっ!」

「ちぃっ!」

 

 ダインスレイフを無理矢理シオンに放つ。それすらも簡単に左のイクスに弾かれた。力ですらも負けている。

 弾かれ痺れる右の手にアルセイオは顔をしかめながら、それを見た。紫雷を纏う右のイクスを突き出すシオンを。

 

「神覇九ノ太刀」

「っ……!」

 

 告げられる言葉にアルセイオは無意識の内に左手を突き出した。

 盾を――相当の魔力を注ぎ込み、盾を形成した。そこまでしなければその一撃は防げないと、本能が告げていたのだ。

 シオンは構わない。盾の中央にイクスを突き立てる!

 

「奥義、青龍!」

 

    −轟!−

 

 そしてそれは産み落とされた。荒れ狂う雷龍が、突き立てたられたイクスから。産み落とされると同時にその顎を開き、アルセイオの盾に食いつく。

 

    −咆−

 

    −哮!−

 

 轟撃たる雷龍に、しかし盾は耐えた――が、アルセイオ自体が持たなかった。足場を形成したにも関わらず、雷龍に押されその身体を持っていかれる。

 

「ち、いぃ――!」

 

 雷龍に引きずられながらアルセイオは呻く。暴虐たる雷龍を真っ正面から睨みながら。しかし、へっと笑う。

 

 ――まだ、まだ堪えられる。

 

 盾はまだ持つ。それに精霊融合には時間制限もある筈だ。ならばこの一撃を受けきれば、まだどうにかなる! そう、”このままならば”。

 

「精霊剣、カリバーン」

 

 声が聞こえた――アルセイオの”真後ろ”から。その声は、当然シオンのものだった。

 

 嘘だろ、オイ。

 

 早過ぎるとかそんな問題では無い。今、アルセイオはシオンが放った青龍を防いでいるのだ。なのに何故そのシオンが自分の後ろに居る――!?

 そんなアルセイオの疑問をシオンはまとめて無視、カリバーンと化したイクスを振り上げる。

 

「陸、漆ノ太刀、合神剣技――」

 

 まず――!

 

 ……その言葉すらも放てない。そして。

 

「紅蓮っ、天昇ォ!」

 

    −爆!−

 

    −煌!−

 

    −雷!−

 

 数百の光爆と雷龍を前後からアルセイオは受け、直後に太陽を思わせる巨大な爆発がクラナガンの海に顕現した。

 

 

(後編に続く)

 

 




はい、第三十一話中編でした。
お察しの方はいると思われますが、この話から読者様の投稿オリキャラが出て参ります。
うん、多いよ!(笑)
お楽しみ頂けたなら、幸いです。では、後編にてお会いしましょう。ではでは。

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