魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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「災厄に対して集まる力達。その準備はまるで嵐の前の静かさで。そして、シオンは私達の舞台に上がる為に”先生”達と修練の日々を過ごす。優しくも厳しい日々を。魔法少女リリカルなのはStS,EX、始まります」



第五話「始める為に」

 

 神庭シオン。

 

 魔力ランク(ミッド方式):S−。

 

 所有デバイス:イクス。

 デバイスタイプ『ユニゾンアームドデバイス』(八神はやて一佐命名)

 

 クラス(ジョブとも呼ばれる。ミッドでの陸戦や空戦といった分けかたに近い。なお。かなり細かく分けられている。):剣士。

 

 魔法術式:カラバ式。

 

 戦闘スタイル:剣撃特化型スタイル『神覇ノ太刀』

 

 カラバ式に関する考察。

 ミッド式や近代ベルカ式、古代ベルカ式のどれにも属さない術式。ただ近似としては古代ベルカより。

 対人戦というよりは、対巨大生物等のより大きな生物との戦闘を主眼に置いている。

 そこだけみればミッド式に近いが、ミッド式と違う点は、砲撃等による遠距離からの射撃ではなく、あくまで近接戦での戦闘を前提としている事である。

 ゆえに、その魔力使用も身体強化、並びに斬撃強化、打撃強化が計られ、また空間を『足場』と、する事で、空戦に於ける三次元的な動きが組み込まれている。

 なお、ミッドに於ける『レア・スキル』に近い物として、『アビリティ・スキル』があり。

 この『アビリティ・スキル』は魔力の大小。さらに戦闘スタイル。そして、魔力制御等の各戦闘技法にかなり影響を与えている。

 個人個人で保有しているスキルにもかなり違いが出ているが、神庭シオン曰く「人間が持ってる性能を修練により技能化したもの」との事なので、後天的技能と言える。

 

 神庭シオンの『アビリティ・スキル』

 

 『魔力放出・A+』

 魔法を介さず、魔力を放出する技法。この魔力は防御、攻撃追加、攻撃加速等、はば広く使用できる。余談になるが、それぞれスキルはランク付けされており、ミッドにおける魔力ランクと同じランク付けがされている。最高位はEX(実質の測定不能)で、こちらの呼び方はオリジナルとの事。

 

 『対魔力耐性・A』

 純粋な魔力に対する攻撃の耐性スキル。対魔法戦闘で、あくまで近接戦にこだわるカラバ式ではこのスキルの有無、大小はかなり明暗を分ける。

 Aは純粋な魔力攻撃ならばAランク以下の純魔法は全て耐えうる。だがあくまで純粋な魔力であり、副次作用を持つ攻撃には意味をなさず。また魔力による衝撃も消せない。

 

 『直感・A+』

 戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を選択するスキル。

 一種の第六感であり未来予知にも等しい。

 僅かな勝率の戦いでも無理矢理勝利する為の手段を”閃く”とも言える。

 

 『戦技変換・B』

 シオンと言うよりは所有デバイスであるイクスのスキル。

 戦闘時、自らのフォームを変換する事で、多彩な戦闘スタイルに変化できる。

 尚、元来はSSランクスキル。

 現在はシオンが”ノーマル”と、”ブレイズ”にしか変換できない為、Bランクにまで落ちてしまっている。

 

 『神覇ノ太刀』の技名並びに、その威力検証。

シオンの戦闘スタイル。神覇ノ太刀の威力のランク付け。

 ちなみに『魔力放出・A』による追加効果では各技の威力は1ランク上がる。

 

 『神覇・壱ノ太刀・絶影』。

 威力A+、速度S+。

 効果対象。1名。

 斬撃技。速さに特化した技でその速度が最大の特徴。尚、スキルによる恩恵もあり、威力は『シグナム一等空尉』の『紫電一閃』と、同等。

 

 『神覇・弐ノ太刀・剣牙』。

 威力B+、速度A。

 効果対象。1名〜4名。

 放出技。魔力で形成された斬撃を飛ばす技であり、近ければ近い程威力が上がる。剣砲とも呼ぶとの事

 

 『神覇・参ノ太刀・双牙』。

 威力A、速度B。

 効果対象。1名〜10名。

 放出技。地面を走る二つの斬撃を飛ばす技。

 ただ、技の特性状。空では使えず。また射程も低い。

 

 『神覇・四ノ太刀・裂波』。

 威力C、速度C+。

 効果対象。1名〜10名。

 放出技。掲げた剣を対象に衝撃波を放つ技。

 攻撃というよりは捕縛用の技である。

 尚、防御に組み合わせると、効果は絶大。

 また、威力によっては射撃魔法や砲撃魔法を跳ね返すことも出来る。

 

 『神覇・伍ノ太刀・剣魔』。

 威力S+、速度A+。

 効果対象。1名。

 突撃技。魔力を身に纏い、敵に突っ込む技。

 威力、速度共にかなり高いが、突撃技という特殊性の為、回避、カウンターを狙われやすい。

 

 『陸ノ太刀』以降は奥技ではあるが、今だシオンは習得していない為。ここでは割愛する。

 

 イクス『ユニゾンアームドデバイス』に対する考察。

 元来の名称は『イクスカリバー』

 だが本機の意向もあり『イクス』と略称で呼ぶ。

 元々は『ユニゾンデバイス』であるが、ユニゾンするための条件があまりに特殊過ぎる為(戦技変換におけるフォームチェンジの最終形態)。

 後からアームドデバイスとしての装備を取り付けられた。

 デバイスとして使用されている時は使用者と体(両手)の一部分のみユニゾンしている。

 尚、本機は元々はロストロギア扱いの物である。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ほらほら次、行くよー!」

「ッ!」

 

 なのはの宣言と共に、アクセルシューターの数が増える。

 それを、シオンはひたすらに回避しまくっていた。

 嘱託魔導師試験。実技模擬戦における家庭教師として、シオンは今、なのはに戦技教導をしてもらっていた。

 今は、そのなのはとの模擬戦の最中である。

 

 ――すごい。これ、全部かわすんだ……?

 

 涼しい顔でアクセルシューターを放ちながら、なのはは内心驚愕していた。

 シオンは今、一切の防御を取らず、身体を振り回して、シューターを回避していたのである。

 アクセルシューターの数、現在追加した分を含めて二十。

 ほぼオールレンジ攻撃と化したシューターを、シオンはひたすら回避し続ける。

 

「砲撃、行くよー!」

「ぐっ……!」

 

 一方で、シオンもまた、なのはに近づく事が出来なかった。

 攻撃濃度が高すぎる。正直、回避に専念しなければ今頃落とされていると言うのが現状だ。

 そこで、シオンはハタっと気付くと、身体を捻りながら回転し、空中に足場を展開して跳躍。その場からさらに離れる。

 

 ――気付かれちゃったか。

 

 なのはが笑う。今、シオンが気付いた場所には、設置型のバインドを仕掛けて置いたのだ。

 捕まえたら、直後に砲撃を叩きこんで終わりだっただろう。だが、構わずなのはは魔力を溜める。

 シオンはそこから『瞬動』を発動。

 なのはに急接近しようとして、しかし唐突に前方に足場を形成すると、足場にして、後ろに跳躍。

 直後、シオンの進行方向に、シューターが殺到した。

 

 ――あれも、気付くんだ?

 

 なのはの口元が緩む。大した空間把握能力である。

 

 ――でも、これならどうかな?

 

「ディバイーン……!」

 

 狙うのは、シオンの空中での着地点。なのはは、その一点を狙って魔力を放出した。

 

「バスタ――――!」

 

    −煌−

 

 砲撃の一撃が放たれる。

 光砲は、狙い違わず、シオンに殺到。だが、シオンは逃げなかった。着地と同時に空いた右手を振り翳した。そこに、光砲が直撃する!

 

    −撃!−

 

「っ――! 神覇四ノ太刀……!」

 

 左手でシールドを張り、光砲を堪える。直後に、シールドの内側へとイクスを叩きつけた。

 

「裂波!」

 

    −破−

 

 振動波が広がる。その波は、光砲を減衰させ、そして失速。掻き消してしまった。

 しかも、波の進行方向には、今まさにシオンを取り囲もうとしたシューターがあった。波と光射が衝突する。その結果は、相殺。

 シュータと波は同時に消え。

 そこをシオンは見逃さない。余波をかい潜るように、『瞬動』で一気に接近するとイクスを振り上げた。

 

「神覇壱ノ太刀!」

 

 なのはは既に眼前。そこに達した段階で、最速の技を放つ。

 

「絶影!」

 

    −閃−

 

 だが、そこでシオンは気付く。

 なのはのレイジング・ハートの先端には、既に光りが集束完了している事に!

 

「ッ!」

 

 漸く気付いたシオンは止まろうと形成した足場に足を叩きつけた。しかし、間に合わない。そして――。

 

「バスタ――――――!」

 

 二発目の光砲がシオンを飲み込み、完膚無きまでに撃墜されたのであった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 「惜しかったね」

 

 なのはとの模擬戦が終わり、シオンはイクスを通常に戻しながら、その場にへたりこんだ。

 

 完敗。ものの見事に敗北してしまった。

 なのはが満面の笑みを浮かべながら歩いてくる。

 

「発想はよかったよ。バスターを弾いて、シューターを無効。こっちの守りはもう無いからね」

 

 なのはがシオンを褒める――本心だろう。だが、敗北した身としては欠点や至らない点も見えている。案の定、なのはは忠告して来た。

 

「けど、動きが直線すぎ。あれじゃあカウンター狙われちゃうよ?」

 

 まさしく今さっきカウンターを叩きこまれたのだ。シオンとしても黙ったまま頷く。

 

「うん、今回の課題はこんな所かな? ……それにしてもシオン君、すごい空間把握能力だね」

 

 なのはが言っているのは、自分が放ったシューターをシオンがひたすらによけまくった事だ。

 かなり高いレベルで空間を把握してなくては出来ない芸当である。

 

「……んー。ほら俺、空間に足場とか作るじゃないっスか? だから自分の周囲の空間の把握は絶対条件なんっスよ」

 

 肩で息をしながら言う。なのはも「そっか」と頷いていた。

 

 ――まだまだだな。

 

 そんななのはを見ながら、シオンは思う。自分の未熟さにちょっと呆れた、と。これで一人で戦おうとしていたとは。

 

 ――でも。

 

 シオンは一つの確信を得ていた。まだまだ自分は強くなれると言う事を。なのはとの模擬戦は、それを十二分に理解させてくれた。得た物も大きい。

 

 ――あの人に……。

 

「さて、次はフェイトちゃんの番だね」

 

 そこでシオンはピシッと固まった。

 シオンにとって一番苦手な時間が来たのである。

 同時に、訓練室へとフェイト・T・ハラオウンが入って来た。まさに時間ピッタリ、タイミングピッタリである。

 

「なのは、終わった?」

「うん。今終わった所だよ」

 

 なのはが満面の笑みで答える。フェイトもまた笑顔で頷き――。

 

「そっか。……なら、シオン?」

 

 そのままの笑顔で、シオンに声を掛けた。

 シオンがゆっくりと出口に向かおうと、最初の一歩を踏みだそうとしていた瞬間にである。

 固まったシオンに、フェイトはやはり満面の笑みで。

 

「お勉強……始めようか♪ それと、逃げようなんて考えないようにね?」

「……はい」

 

 ――この人からは逃げられまい。

 

 シオンは心の中で涙を流したと言う。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「へー。シオン。頑張ってるんだ?」

 

 ナカジマ家、スバルの部屋。

 元六課が解散した後、スバルは自宅に戻っていた。

 今は『独立次元航行部隊』による新たなる艦船に、自分の生活用品等を持ち込む為、いろいろ荷造りしていた所である。

 今現在、二週間後に『独立次元航行部隊』に異動するメンバーはおおあらわで引き継ぎを行っている最中であった。スバルも例外ではなく、所かしこを走り回っている。

 

《そうみたいよ。なーんか、なのはさん達から家庭教師って事で学科、実技の二種を徹底的にしごかれてるみたいね》

 

 念話しているティアナが笑いながら答える。

 内心はざまぁ見ろと言った所か。

 六課時代に散々味わった数々の教導を思い出し、スバルは苦笑いを浮かべる。

 

「うわ……シオン大変だねー。あ、そう言えばティア。私達の行く部隊名って聞いてる?」

 

 衣服をしわにならないように気をつけて畳みながらトランクに積めつつ聞く。

 

《そう言えば聞かないわね。艦の名前も聞いてないわねー》

「まさか、『アースラ』だったりして♪」

 

 スバルが笑いながら言う。アースラはかのJS事件の際、機動六課が乗り込んだ艦だ。ティアナはそれに呆れたような念話を返す。

 

《アースラは完全に廃艦。有り得ないわよ》

 

 JS事件後に退役となったあの艦は新旧合わせた乗組員一同の見る前で廃艦となった。だからこそ、有り得ないとあっさりと否定する。

 

「そっかー。気になるなー」

《ま、当日まで内緒なんでしょ。さて、そろそろ寝るか。アンタもさっさと寝なさい》

「はーい♪」

 

 スバルは頷き、荷物を積め終えたトランクを閉めると、布団に入った。

 

《それじゃあ、またね》

「うん。じゃあ」

 

 そして、二人は眠りの挨拶をかわす。まるで同じ部屋にいた時のように。

 

《オヤスミ》

「オヤスミー」

 

 直後電気が消え、スバルはぐっすりと眠りについた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ふ、フェイト先生、テスト、終わったっス」

 

 シオンは疲れきった声で、目前に展開されたウィンドウをフェイトに渡す。……いや、実際疲れたのだが。そのウィンドウには、嘱託魔導師試験における学科項目のテストが表示されていた。

 

「そう? どれどれ」

 

 そう言いながら、フェイトはウィンドウに目を走らせる。無言のままに採点していき、そして。

 

「……七十点。間違えた箇所、六問。シオン、解ってるよね?」

 

 その言葉にシオンがビクッ! となった。がたがたと震え出す。だが、フェイトはその反応を見遣り、次の一言をきっぱりと放った。

 

「間違った箇所、書き取り十回。合わせて六十回」

「嫌だ――!」

 

 フェイトの言葉にシオンは立ち上がり、扉に向かい全力疾走開始。だが、フェイトがパチリと指を鳴らすと、その場にすっころんだ。慌てて足を見る。すると、足首にいつの間にか設置型のバインドが掛かっていた。

 

「どこに、行くのかな?」

 

 ビクゥ! っと先の数倍もシオンの肩が跳ね上がる。

 そんな彼にフェイトは構わず、ゆっくりと近寄る。シオンは心底、恐怖した。

 

「い、いや。だって、ほら、もう三時間もしてますよっ!? ほ、ほらフェイト先生も疲れてるんじゃ!?」

 

 必死に叫ぶシオン。だが、フェイトは耳を貸さない。

 

「大丈夫だよ♪ 全然疲れてないから♪」

 

 どころかニッコリと笑って来た。とってもいい笑顔である。……シオンにとっては、ひたすら恐怖の笑顔だが。

 

「さ、続けようか」

 

 もはや、疑問符ですらもない。シオンは泣くように――と言うか実際泣きながら叫んだ。

 

「ご、後生です! これ以上はっ! これ以上はっ!」

 

 泣きながら、必死に拝み倒す。そんなシオンにフェイトは倒れた彼の前に移動し、目の前でニッコリと微笑んだ。

 その微笑みにシオンは一縷の希望を見出だし、ゆっくりと顔を破顔して。

 

「だ・め♪」

 

 フェイトの駄目出しを喰らった。

 

「いぃいやぁぁぁぁぁぁ――――――――!!」

 

 その切ない叫びは、本局に響き渡ったとか渡らなかったとか言う。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「お、来た来た。待っとったよー。……て、シオン君、どうしたん?」

 

 シオンが訓練室に入って来るのを確認して、微笑む八神はやて。だがシオンの様子を見て、さすがに心配そうな表情を浮かべた。

 

「うぅ……フェイト先生、もう、もう書き取りは……!」

 

 何故か涙を流しながら、譫言を呟いている。そんな彼に、はやては額から汗を一筋流した。

 

「ちょっ、シオン君? シオン君ー?」

 

 そこまで言われて、ようやくシオンは正気に戻った――戻るなり、目の幅程の涙を流して泣きついて来る。

 

「うぅ、はやて先生――――!」

「……なんか、私の番になる前、絶対フラフラやな。そんなにフェイトちゃん厳しいん?」

 

 答え。めちゃめちゃ厳しい。

 特にシオンは学科は不得意であったので、ここぞとばかりにフェイトはシオンに教え込んでいた。

 ある意味。気にいられているとは言えるのだが……。

 

「そ、その件についてはノーコメントで!」

「そうなん? なんや、めちゃ気になるなー」

 

 それはやめておいた方がいい。人間、普段は優しくとも怖い時と言うのは必ずあるものだ。

 

「ま、ええか。それじゃ始めようかー」

 

 その言葉に頷くシオン。こちらの授業もまた、かなり厳しいものがある為、気が抜けないのだ。

 

「さて、第一章から第二章まで永唱、開始しよかー」

 

 そして、シオンは目を閉じる。儀式魔法永唱開始。シオンはゆっくりと唱え始めた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 やがて、数日が経った。

 『独立次元航行部隊』に編入するメンバーは、それぞれ引き継ぎや部隊申請の為、疾走し。

 一人は来たるべき嘱託試験に対して、先生sにしごかれ。そして、試験当日が訪れた。

 

「さて、私が今回の嘱託試験の試験官を行う。クロノ・ハラオウンだ」

 

 試験会場に現れた人物に、シオンは唖然とする。

 その人物に見覚えがあったからだ。だが試験官は――クロノ・ハラオウンは、そんなシオンに構わず告げる。

 

「返事はどうした? 神庭シオン君?」

「と、すみません!」

 

 敬礼をしようとするが、クロノはそれを片手を上げて制止する。あくまで嘱託魔導師とは、民間協力者の延長線上の存在である。軍隊のような堅苦しい挨拶は必要無い。

 

「さて、試験の種類は知っているな? 最初は面接。次は学科を、その次に実技で儀式魔法の試験を、最後に模擬戦を見させてもらう事になる」

 

 試験内容を確認の意味も込めて、クロノは告げる。それに、シオンが頷いているのを確認。最後に一つ息をつき。

 

「以上だ。――頑張ってくれ」

「はい!」

 

 そうと言われ、シオンは元気良く返事を返した。まずは面接からだ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「や、クロノ君♪」

「お、君達か……」

 

 現れた三人に、クロノが笑みを浮かべる。

 はやて、なのは、フェイトの三人が揃って歩いて来たからだ。

 

「なんだ? 神庭シオンの試験の様子を見にきたか?」

「ご明察や♪」

 

 即座にはやてが答える。

 やはり三人とも教え子の様子が気になっていたらしい。そんな彼女達にクロノは苦笑した。

 

「面接と学科の結果は、どう?」

「ああ、それなら問題ない。文句なしの”合格”だ」

 

 そこでフェイトの眉がピクリと動いた。ゆっくりと聞き直す。

 

「”満点”じゃあないんだね?」

「ん? ああ、その通りだが」

 

 妹の妙な気迫に、クロノは気圧された。こめかみを、一筋の汗がすべり落ちる。

 

「間違った所、後で教えてくれる?」

「ああ、でも何に使うんだ?」

 

 その質問に彼女は答えない。ただニッコリとした微笑を浮かべるのみだ。

 そんなフェイトの背後で、なのはとはやてが曖昧な笑みを浮かべる。

 何に使うか、大体検討が着いたからだ……シオンの明日を祈りたい。

 

「さて、なら今は儀式魔法の実技試験やな?」

「ああ、儀式魔法は、はやてが?」

 

 勿論、とはやてが答える。

 

「お、始まるぞ」

 

 クロノの言葉に、皆試験が行われている訓練室を見る。

 そこではシオンが広域に魔法陣を展開していた、永唱が始まる。

 

「アイン・ソフ・アイン。アイン・ソフ・オウル……」

 

 鍵となる永唱をシオンは繰り返す。

 それに比例して、ゆっくりと魔力光が強くなった。訓練室が、シオンの魔力光――白銀で満たされる。

 

「そう、それでええ♪」

 

 そんなシオンを見て、はやては頷いた。焦る必要は無い。儀式系の魔法に求められるのは、何より集中だ。規模が大きい為、ともすれば冷徹とも言える冷静さを要求されるのである。そして、永唱は続く。

 

「炎の民よ。それは太陽が最も輝く日、豊饒の祈り、願う夏の日、則ち火の日なり、則ち炎が猛る日なり。猛ろ。猛ろ、猛ろ、猛ろ猛ろ猛ろ猛ろ! 祭りはここに始まる――炎の日を祝うために!」

 

 一息区切り、シオンは目を見開くと同時に足元の魔法陣が拡張する。シオンが右手を上げると、そこに火が灯った。

 

「――民よ、夏至の祭に炎の中で踊れ!」

 

 叫びと共に呪文の結尾を結び、炎を纏った右手を足元に展開した魔法陣に叩きつけた。そこから一気に炎が膨れ上がる!

 

「炎界(ムスペル)!」

 

    −轟!−

 

    −爆!−

 

 直後、天を衝かんばかりの炎の柱が、魔法陣より伸び立ったのであった。

 

「……これは、合格だな」

 

 クロノが一人ごちる。残るは実技、模擬戦のみ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 本局第六訓練室。空間シュミレーターにより展開された森の中、そこにシオンはいた。

 

 ――最終関門。

 

 実技試験、模擬戦。

 面接、学科、儀式魔法、共に手応えを得たシオンは、イクスを握る手に力を込める。これを通れば合格する、と。そう思い。

 

【あまり気負い過ぎるな】

 

 だが、そんなシオンにイクスから声が掛かった。

 相棒の言葉に、シオンもまた息をつく。確かに、肩に力が入り過ぎるのはよくない。むしろ得意分野であるのだから、リラックスするべきだと。小さい声で礼を言い、苦笑した――と、同時に前方に魔法陣が展開した。ベルカ式の魔法陣であるだ。

 

 俺の相手……。

 

 その魔法陣から現れたのは女性であった。

 髪はポニーテール。手には魔剣レヴァンティン。

 顔は美しくも凛々しく、一降りの剣を彷彿とさせる。その名をこう呼ぶ。

 『ヴォルケン・リッター、烈火の将、シグナム』、と。

 

「待たせたな」

「いえ」

 

 シオンは否定する。多分に緊張していたので逆に助かったのだ。そんな彼を見てとったのだろう。シグナムは微笑した。

 

「では、早速だが始めるとしよう」

「はい!」

 

 シオンが頷き、どちら共なく、距離をとるため短く後ろに跳んだ。

 数歩の距離を挟んで対峙する。

 

 どう、来る?

 

 シオンの額に汗が浮かぶ。目の前の女性、間違いなく強い。

 その強さを、彼は肌で感じていた。シグナムがレヴァンティンを鞘より抜き放つ。静寂が辺りを包み、そして。瞬間、互いに距離を詰めた。

 

「ハァッ!」

「だぁぁッ!」

 

    −戟!−

 

 互いに一撃で相手を打ち倒さんとばかりに初撃から全力の一刀を交わす。真っ正面からぶつかりあった剣撃は、衝撃波を辺りにぶち撒ける。だが、そこで止まらない。

 二人は僅かに後退し合うと、まるで申し合わせたように、幾度も剣をぶつけ合った。シオンがパワーで押すように大剣を放てば、シグナムは技で弾き返す。互いに会話するように剣撃を交え、シオンの顔には笑みが浮かんでいた。

 

 おもしれぇ……!

 

 シオンは紛れも無く歓喜していた。目の前の女性の腕前は、間違いなくエース級である。そんな彼女の技量に純粋な感動と、それに追い縋れる自分。

 どれもが楽しくて仕方ない。シグナムもまた笑っていた。

 

「レヴァンティン!」

【エクスプロージョン!】

 

 シグナムが叫ぶなり、レヴァンティンは応え、カートリッジロード。魔力を込めた弾丸が吐き出される。

 同時、刀身に炎が巻き付いた。大上段に構える。

 

「紫電――」

「っ!」

 

 シグナムがとった構えを見て、すかさずシオンもまた、腰だめにイクスを構える。あれは生半可な一撃では無い。必殺の一撃、それが来る。だから。

 

「神覇、壱ノ太刀――!」

 

 彼もまた、自分が最も信頼する一撃を放つ事を選択した。そんなシオンに、シグナムは頷くように、更に魔力を注ぎ込む。刀身の炎が倍加した。

 

 シグナムは静かに。

 シオンは荒々しく。

 

 しかし、互いに剣を構え――そして。

 

「一閃!」

「絶影!」

 

    −戟!−

 

    −轟!−

 

    −裂!−

 

 次の瞬間、互いの剣撃がぶつかり合い、本日最大となる衝撃波が訓練室を奮わせたのであった。

 

 

(第六話に続く)

 




次回予告
「ついに始まったシオンの嘱託魔導師試験!」
「実技の相手は、烈火の将、シグナム。技量のレベルが違う彼女との戦いは、シオンをあっさりと追い詰めていく」
「シオンは果たしてシグナムに勝てるのか。そして、試験の結果は――?」
「次回、第六話『その名は』」
「少年は確かに成長していく」

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