魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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はい、テスタメントです♪
第二十八話後編をお届けします♪
まず最初に――長いです(笑)
そりゃもう、ごっつ長いです(笑)
そして全体的に暗い(笑)
しかし、それに見合うだけの話しではあると勝手に思っとります(笑)
そんな第二十八話後編
どうぞ、お楽しみ下さい♪


第二十八話「少年の願い、青年の決意」(後編)

 

 割れた世界。そこにスバル、ティアナは落ちて、再び、そこに戻った。薄暗い水の中へと。

 

「……戻って来た、ね」

「そうね」

 

 二人共頷く、そして。

 

 −さぁ、この奥だ−

 

 ……奴もまた現れた。ぼこぼこと黒泡(バブル)が沸き立ち、ヒトガタになる。その口のみ赤い、ヒトガタ――アンラマンユが。

 

「…………」

 

 −どうした? この底に兄弟はいるんだぜ?−

 

 現れたアンラマンユに少しだけたじろぎ、だが二人はそのまま水の底へと向かう。暗い、暗い、光も届かない奥底へと。

 

「やっぱりここ、シオンの世界なのかな……?」

「さぁね、でも」

 

 納得は出来る。ココロの世界が心象風景だと言うならば、この光景はシオンの今のココロ、そのものだろう。真実を知って、絶望して、後悔に押し潰されて、哀しみに沈んで、……そして、この世界となったのだろう。なら、この奥底にいるシオンは。

 

 −着いたぜ−

 

「「……っ」」

 

 アンラマンユの声に二人はハッと我に返った。気付けば、目の前には水底が広がっていた。海草だろうか、それが一面に広がっている。

 

「……嘘……ここ……!?」

「スバル?」

 

 急にスバルから上がった声に、ティアナは振り向く。

 スバルは教会の時と同じく目を見開いて驚いていた。だが、その顔は真っ青になっている。血の気が完全に引いていた。

 

「ちょっ、スバル、どうしたの?」

「ここ、は――」

 

 −そうさ−

 

 再び響くアンラマンユの声に、二人は目を向ける。

 ……彼は笑っていた。この上無く、嬉しそうにアンラマンユは笑っていた。

 

 −ここはかつて青空を仰ぐ悠久の草原。何も知らない、無垢な乙女のようだった兄弟の世界さ−

 

 だが、とアンラマンユは、にたりと口端を吊り上げた。その表情は愉悦に歪む。

 

 −真実を知ってからはこんな感じさ。全て水の中。何もかんもを諦めと言う感情で兄弟はこの世界を閉ざしたのさ−

 

「シオン……」

「…………」

 

 アンラマンユの言葉に二人は俯く。

 諦め。

 絶望と後悔で押し潰されたシオンが得た、ただ一つの感情。それが、そうだと言うのか。

 

 −愉しかったなぁ。まるで汚される前の乙女の純潔をゆっくりと犯して奪うような感じだった−

 

「「……っ!」」

 

 その言葉に二人はかぁっと顔を赤らめながら、同時にアンラマンユを睨む。

 彼は二人の反応に輪郭のみの手でやれやれと肩を竦めた。

 

 −解らないかなぁ、この快感−

 

「解らないよ」

「解りたくも無いわ」

 

 即答する。そんな二人にアンラマンユはただ笑うだけだ。

 嫌悪すらもコレにとっては糧となるのか。

 

 −無駄話しが過ぎたな……こっちだ−

 

 漸くアンラマンユは歩き出す。アレに案内されるのはひたすら癪だが、シオンがどこに居るのか、解るのもアレだけだ。二人は悔しそうに顔を歪め、それでもと首を振り、彼について歩いて行った。

 

 ……シオンに、会う為に。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 −ここが終点さ−

 

 暫く歩き、アンラマンユが立ち止まる。

 そこにはただ一本の刀が地面に突き立っていた。古ぼけた、刀が。だが。

 

「終点って……」

「シオン、どこにもいないじゃない」

 

 呆然と二人共辺りを見渡す。だが、シオンの姿は影も形も無かった。

 

 −ふ、ククク、ははは、カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!−

 

 その言葉を聞いた途端、アンラマンユは突如として大笑いし始めた。何がそんなに愉しいと言うのか。

 

 −いやぁ、兄弟。お前はとことん不幸だなぁ。あの二人に気付いて貰え無いらしいぜ−

 

「「……え?」」

 

 その言葉に憮然となっていた二人が目を丸くする。その言い方ではまるで――。

 

 −此処に居るぜ。兄弟は−

 

 そのアンラマンユの言葉に二人は絶句する事となった。何故、自分達には見えずにアレには見えるのか。

 

 −解らないかなぁ? 存外鈍い。じゃあ大ヒント。もし、お前達が兄弟の立場なら、お前達に兄弟が会いたがると思うか?−

 

「「――――っ!」」

 

 その言葉に、否応なしに二人は理解させられた。シオン自身が拒否しているのだ、二人に会う事を。

 

「……シオン」

 

 スバルがぽつりと呟き、辺りを見渡す。それでもシオンの姿は何処にも見当たらなかった。

 そしてティアナはアンラマンユを睨みつける。

 

「一つだけ聞きたい事があるわ」

 

 −いいぜ? 何でも答えてやるよ−

 

 ティアナのきつい視線を愉しそうに見遣りながらアンラマンユは首肯する。それに少し顔を歪めながらも、ティアナは口を開いた。

 

「あんた、さっきからやけに協力的だけど、それはなんで?」

 

 そう、アンラマンユは先程からやけに協力的なのだ。

 シオンの過去を見せたり、シオンの元に案内したり、果てはシオンが自分達に見えない原因までもを教える。

 ここまでくれば嫌でも疑うと言うものだろう。だが、アンラマンユはティアナの疑問にただ笑った。

 

 −そんなの決まってるだろう? その方が兄弟が感情を得るからさ−

 

「感、情……?」

 

 スバルが訝しみながら聞き直す。アンラマンユは笑いを止めない。

 

 −ああ。お前達が兄弟に近付けば近付く程、その過去や真実を暴く程、兄弟は絶望を味わう。悲しむ。気付いてないのか? お前達は、今−

 

 

 

 

 −兄弟の傷を晒そうとしてるんだぜ?−

 

 

 

 

「「――っ!」」

 

 その言葉に、スバル、ティアナは、自分達がどれ程の事をしているのかを漸く理解した。

 勝手に人の過去を見て、勝手に人のココロに踏み込む。それは、どう言い訳しようと、プライベートを侵す行為だ。

 二人は何故、アンラマンユがこうも協力するのかを理解した。

 こいつは喰らっているのだ。自分達が、シオンのココロに近付くにつれ、おこるシオンの負の感情を。

 二人共、唇を噛み締めて俯く。自分達の行為が酷く恥ずかしいものに思えて、醜い事をしているように思えて。……だが。

 

 −ん? やれやれ、やり過ぎたか−

 

 いきなりアンラマンユがそんな事を言い出した。

 それに疑問符を浮かべて、スバル、ティアナは顔を上げ、そして同時に目を見開いた。二人の視線の先、そこには。

 

「シオン……」

 

 虚な目で、体育座りをしたまま呆けるシオンが居た。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 シオンはずっと、ずっと此処に居た。そして、何度も何度も見せられた。

 アンラマンユに、自身の罪を――ルシアを奪った瞬間を。

 そして願った。もう見せないでくれと。何も見たく無い、と。それにアンラマンユは笑った。

 

 −いいぜ? なら何も見えなくしてやるよ−

 

 それからだ。シオンは何も見えなくなった。ただ、その視界が埋めるのは黒のみ。

 自分のココロの中で、盲目となったのだ。でも、それでよかった。

 あの日の、あの光景の、あの瞬間など。

 もう、見たく無かったから。

 そうこうしている内に声が聞こえた。どうやら視覚は消えても聴覚は残っているらしい。

 どうせならこれも消して欲しかった。でも、響く声に、それを踏み止まった。

 聞こえてきた声はスバルとティアナのものだったから。ダイブか何かで自分のココロに入ったのかも知れない。それを嬉しいと思う反面、シオンは怖くなった。

 もし、あの二人があの日の事を見たら。真実を知ったら。そう思うとたまらなく恐怖した。

 知られたく無かった。識ってほしくなんて無かった。

 でも、声はただ響いて、結局二人には知られてしまった。

 あの日、あの時の事を、そして二人は自分の前まで来てしまった。

 

 ――会いたく無かった。

 

 どうせならこのまま帰って欲しかった。二人と顔を合わせたくなんて無かった。

 だから、ひたすら見えないでくれと願った。

 でも、だけど。二人の声とアンラマンユの声はただ聞こえて。そしてアンラマンユが二人に放った一言、それを許せなかった。

 ただ、それだけ。

 自分を罵倒するのは構わない。何を言われるのも、自分のせいだから。

 だけど、自分を助けに来たスバル、ティアナを傷付ける事は許せなかった。汚す事を許せなかった。そう思った。

 

 それが、結局の所全て。拡散していた意識は収束、再びシオンと言うカタチを取った。

 そう、何の事は無い。シオンは自身のカタチを失い、ココロの世界に散らばっていたのだ。

 そして、シオンはスバルとティアナ、そしてアンラマンユの眼前に現れた。未だ、その視覚を失ったままに。

 

 

 

 

「シオン……」

 

 二人の視線の先、そこにシオンは居る。刀に背をもたれ掛かるように体育座りで。

 そして、スバルの呼び掛けに、ぴくりと反応した。スバルはその反応に少しだけホッと息をついた。

 どうやら、声はちゃんと聞こえているらしい。ならば。

 

「シオン、帰ろう?」

 

 そう言い、シオンに向かい歩く。だが、シオンはスバルのその言葉にただただ首を横に振った。

 

「駄目だ、俺は行けない」

「……なんで?」

 

 シオンの言葉に、今度はティアナが反応する。しかし、その問いにもただシオンは首を振るだけ。

 

「……アレ、見ただろ?」

「……うん」

 

 少し迷い、しかし二人共頷く。

 アレ――間違い無くシオンの過去だろう。だが。

 

「でも、あれはアンラマンユが原因だよ。シオンはただ――」

「違う……!」

 

 スバルの言葉をシオンは否定する。強く、ただ強く。

 

「どう言う事よ?」

「…………」

 

 ティアナが再度問う。それにシオンはただ歯を食いしばる。ギリっと言う音がココロの世界に響いた。

 

「シオン」

「違う、違うんだ。アレを、アレを望んだのは……」

 

 首を振り、顔を上げる。その瞳はただ虚だ。だが、その瞳からは涙が溢れ出ていた。

 

「俺なんだ」

 

 絞り出すように、苦しそうに、シオンはそう二人に告げた――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 聖域の空、厚い雲がその空を覆っていた筈だが、今は一部分だけ穴が空いていた。

 シオンが放った反物質による影響である。流石の一撃に、アルセイオを含めたメンバーは肝を冷やしていた。もし、この場で放たれていたかと思うとゾッとする。ほぼ間違い無く、自分達は助からなかっただろう。

 それは同時にシオン自身の死も意味するが、そんなものは関係が無い。

 

 ――死。

 

 それを否応なく実感させられた。そして、それを成したシオンに恐怖する。

 るると唸り、再び反物質を生成しかねないシオンに――だが。

 

「…………」

 

 ただ一人だけ、恐怖していていない存在がいた。

 伊織タカトだ。彼は、その眼前に立ち塞がる。

 

「伊織」

「……」

 

 アルセイオからかけられる声にも反応しない。ただ、タカトはその瞼を下ろした。

 破壊の権化となりつつあるシオンを前にして、タカトは目を閉じたのだ。

 

「伊織、何で目を閉じてなんか――!?」

「そうだな」

 

 チンクから飛ぶ声。だが、タカトはただ一言を呟いた。自嘲気味に口端を吊り上げる。

 

「伊織?」

「……?」

 

 その様子に、ソラもアルセイオも訝し気な顔となる。しかし、タカトは構わない。その脳裏に浮かべるのはかつての教会での出来事。そして、もう居なくなってしまった、その時限りの相棒の声。右手を開き、ジッと見つめる。

 

 −殺したくなんて、無い、誰も奪いたくなんて無いよ−

 

 そう涙を流して訴える異母弟が居た。

 

 −殺すつもりで戦え。それで、やっとだ−

 

 そう、自分に助言する相棒が居た。

 

 開いた手を握った、固い拳と成す。

 

「そう、それでやっと、だな」

 

 フッと笑い、そして一歩を、ただただ一歩を前に刻んだ。次の瞬間。

 

    −軋−

 

 世界が悲鳴を上げた。聖域が、震える。タカトは構わない、もう一歩を刻む。

 

    −軋−

 

 軋む。その気配に、その存在に、世界が、震える。タカトは漸く立ち止まった。

 

「伊、織?」

 

 アルセイオがその気配に、ぞくりと身体を震わせる。ソラも同様だ。

 N2Rの面々も目を見開いている。その中で、ギンガがぽつりと口を開いた。

 

「あの時と同じだわ」

「あの時?」

 

 即座に問うアルセイオに、こくりと頷く。

 

「最初にあの人が、伊織タカトが現れた時、やっぱりこんな風に世界は軋んだの」

「おい、ならまさかあの馬鹿は――」

 

 その言葉に、アルセイオは目を見開く。バッとタカトに振り向いた。

 タカトは構わない。その異様な気配は――いや、殺気は止まらない。

 

「――今の今まで、手加減してやがったのか?」

 

 次の瞬間、タカトの姿が消えた。

 

    −撃!−

 

 そしてシオンが盛大に吹き飛ぶ! その身体はくるりと縦に回転。まるで重機に跳ね飛ばされたが如く、くるくると回って、森へとその身体は飛び込み。

 

    −破!−

 

 そのまま木々をまとめて数十本倒しながらその奥底に消え。

 

    −轟−

 

 木々をぶち抜きながら、遥か彼方へとその姿を消した。

 それを成した人物、タカトは拳を振り抜いた姿勢で残心。ポツリと呟いた。

 

「天破疾風」

 

 スッと残心を解くと、シオンが消えた方向に目を向ける。

 

「シオン。今からは殺すつもりでやってやる」

 

 その瞳は余計な感情が削ぎ落ち、無感情へと変わっていっていた。

 だが、その拳には今まで篭められていなかったある明確な意思が篭められている。

 

 ――殺気。

 

 その存在を殺すと、今の今までまったく篭められていなかったそれが篭められていたのであった。

 

「ぐう、るる、る!」

 

 やがて、森の奥からシオンが現れる。今の一撃に、まるで堪える様子は無い。だが。

 

「るる……っ!」

「……」

 

 明確にタカトに警戒を飛ばす。しかし、タカトは構わない。いつもの自然体。そのままでシオンと相対した。

 感情が消えた顔で、しかし意思はその瞳に湛えて。

 

「があっ!」

 

 シオンの姿が消え――。

 

「……」

 

 ――タカトの姿が消える!

 

    −轟!−

 

 直後、聖域に爆音が鳴り響く!

 異母兄弟のぶつかり合いで、世界が激しく軋んだのだった――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……シオン、それは」

 

 スバルはシオンの言葉に、戸惑う。ティアナもまた、だ。

 ただ一柱、アンラマンユだけがただただ笑っていた。

 

「……アンラ・マンユは関係無い。俺が望んだんだ。ルシアが欲しいって、タカ兄ぃから奪いたいって」

「でもっ!」

 

 シオンの言葉にスバルは納得しない。アレがシオンの望みだなんて信じられなかった。そんなスバルにシオンはただ首を振る。

 

「ずっと、ずっと思ってた。ルシアが欲しいって。タカ兄ぃが憎いって。誰より、誰よりも憧れたから。だから、誰よりもあの人を憎んだ」

「「…………」」

 

 シオンの独白。それに遂にスバルは黙り込んだ。ティアナもまた同じく。

 ただ、シオンの言葉を聞く。

 

「アンラマンユが俺の中に入ったのは――感染者になったのは単なるキッカケ。そいつは、ただ俺の望みを叶えたに過ぎないんだよ」

「……そんなの」

 

 そんな事は無いと、スバルは言いたくて。でも、出来なかった。言えなかった。

 シオンの記憶を、スバルも見たから。

 ルシアを見ていた。

 タカトを見ていた。

 シオンを知っていたから。だから。

 

「……俺は、咎人だ」

「シオン……」

 

 悲し気に、ただただ哀し気にシオンは呟く。

 そんなシオンに、スバルはかける声を見出だせなかった。

 俯く。シオンを、助けたいのに、何も出来ない自分が情けなくて。

 

「……もう、お前達も――」

「ふざけんじゃないわよ」

 

 突如、声が飛んだ。その声にスバルは、そしてシオンは、顔を上げる。アンラマンユでさえも、へぇっと感心したような声を漏らした。

 その言葉を紡いだ主は――ティアナは、真っ直ぐに碧眼でシオンを見据えた。

 

「何、を……?」

「聞こえなかった? なら、もう一回言ってあげる。ふざけんじゃないわよ、あんた」

 

 きっぱりと、ティアナは言葉を吐く。そこには明確な苛立ちが込められていた。

 かつて、シオンに向けられた時以上の苛立ち。まだ呆然とするシオンに、ティアナは構わない。ヅカヅカとその傍まで歩き、シオンの胸倉を掴むと、無理矢理立ち上がらせた。

 

「ティ――」

「あんたね。いつまでこうしてる積もりよ?」

 

 胸倉を掴む力が強くなる。ぐいっとシオンを引き寄せた。

 

「ぐじぐじぐじぐじ、うじうじうじうじ。見てるだけで腹立つわ。もう一回聞くわよ? あんた、いつまでこうしてる積もりよ。私、いつまでもあんたの中になんて居たくないのよ。さっさと帰りたいの。解る? いや、解りなさい!」

「ティ、ティア?」

 

 流石にスバルが冷や汗をかく。言ってる事が目茶苦茶であった。だが、ティアナは構わない。シオンが呆然としているが、一切躊躇しなかった。

 

「大体、あんたがそんな風にうじうじしてるからこんな事になったんでしょうが。好きなら好きでさっさと告白するなり、なんなりすれば良かったじゃない!」

「て、テメっ……!」

「何? 何か文句あんの? 優柔不断の半端モンが文句あんの!?」

「――っ」

 

 流石に抗弁しようとするシオンだが、ティアナの剣幕に何も言えなくなる。

 ティアナは漸く、その手の力を緩めた。しかしシオンはもう、座り込む事は無かった。

 

「もう全部、起こっちゃった事でしょ? これからどうするかを考えなさいよ」

「……でも」

「何? まだぐじぐじする積もりなの?」

 

 未だ踏ん切りがつかないシオンに、ティアナが更に形のいい眉を吊り上げる。シオンはしかし、俯くだけ。

 

 −カカカ。そりゃ無理だろ。なぁ、兄弟?−

 

 唐突にアンラマンユが笑う。同時に、シオンの瞳が虚から戻った。視覚が戻ったのだ。

 さらにアンラマンユの背後に、映像が映る。ルシアをシオンが奪った映像が。

 

 −なぁ、兄弟。お前、お兄ちゃんにどう申し開きする積もりだよ。これから頑張るから、罪を償うから許して下さいとでも言う気か? なぁ、これだけの事をしといて、それだけで済ますつもりかよ?−

 

 そして、流れる映像。それにシオンは顔を歪める。

 見たく無かった真実をそこに晒されて、見せられて、俯く。

 

 −なぁ、兄弟? どうなんだ? それとも、この真実をまだ疑ってんのか?−

 

「俺は……」

 

 顔を上げる。その映像を、幾度も見せられた己の罪を再び見て、シオンは顔を歪めた。

 

「これが、これが……真実……。俺が……俺が……!」

 

 −そう、お前がこれをやったんだ。だから−

 

 歯を食いしばる。そんなシオンにアンラマンユは更に言葉を紡ごうとして。

 

    −撃!−

 

 いきなり拳を叩き込まれた。

 

 −うぉっ!?−

 

 始めて、声に動揺が混じる。アンラマンユをいきなり殴りつけたのは、スバルだった。彼女は、キッとアンラマンユ睨みつける。

 

「あなたは黙ってて」

 

 −おいおい−

 

 苦笑を伴う声が響く。しかしスバルは構わない。後ろに、シオンへと振り向いた。

 

「ね、シオン。タカトさん、聖域に来てたよ」

「……え?」

 

 その言葉に、シオンの目が見開かれる。スバルはそんなシオンに優しく微笑んだ。

 

「聖域に来てた。シオンを助けようとしてたよ。今も外でシオンと戦ってる」

「タカ兄ぃ、が……?」

 

 スバルの言葉に、シオンは呆然と呟く。

 何故、タカトが自分を助けようとしてくれているのか、それが解らなくて。

 そんなシオンにスバルは再び振り向いた。アンラマンユへと。

 

「ずっと、気になってる事があったんだ」

 

 −何がだ?−

 

「この”続き”」

 

 スバルの言葉に、今度こそシオンは固まった。そう、続きがある筈だ。真実はこれだけじゃない。

 ルシアを手が貫いた。その後の記憶が、シオンには無い。シオンの記憶を見たスバルもまた知らなかった。

 スバルは今度はシオンに振り向く。

 

「シオン、続きを見よう。多分、シオンが見ようと思えばこの続きは見れると思う」

「お前……なんでそんな事」

「私は”治療者”だから」

 

 元感染者だからと、スバルは笑う。そんなスバルに、シオンは呆然とする。

 

「シオン、もう一度、真実を見よう? 目を背けないで、ちゃんと向き合おう?」

 

 スバルのその言葉に、まるで応えるかのように、映像に3の文字が入った。

 

「視線、逸らさないで」

 

 2という文字に変わる。

 

「私も、私達もココに居るから、だから……!」

 

 1になり――。

 

「一緒に、本当の真実に、向き合おう?」

 

 ――そして、0になった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

    −軋−

 

 震える――。

 

    −軋−

 

 ――壊れる。

 

    −軋!−

 

 悲鳴が上がる!

 

 轟音が聖域に響き、揺るがせる!

 地響き。まるで、世界そのものが鳴動しているかのような音である。その音の発生元は宙空でぶつかり合っていた。

 鈎爪を掲げて、拳を叩きつけて。

 シオンとタカトは、周囲にその余波をぶち撒けながら衝突し合った。

 

「あれが……!」

 

 二人の戦いをプロテクションを張りながら一同は見る。

 その中で、アルセイオが目を見開いていた。その視線はただ一人、伊織タカトに向けられていた。自分が十年前に、目標とした存在に。

 冷や汗を流しながら、それでもアルセイオは口端を吊り上げた。

 

「そう、そうでなくっちゃあいけねぇよ!」

 

 笑い。アルセイオは気付けば哄笑をあげていた。再び、見る事が出来たから。

 自身が超えると誓った存在の、その力を。

 

「もっとだ。もっと、見せろ。伊織タカト!」

 

 叫びを上げながら、アルセイオはただ二人の戦いを見続けた。

 

 そんなアルセイオに構わずに、シオンとタカトは至近距離で互いの一撃をぶつけ合う。

 

    −轟!−

 

 激音! 衝撃が走り抜け、そのまま二人は止まらない! 鈎爪を放ち、拳を撃つ。

 

 シオンの尾が振るわれる。それをタカトは後退と共に回避しながら地上へと降り立つ。

 シオンもまた、真っ直ぐにタカトを見据え、急降下する。同時に生み出される剣群!

 アルセイオの援護が無くなったタカトはしかし、ただ無表情のままで左手をスッと掲げる。直後にシオンから剣群が射出された。

 

「天破水迅」

 

    −砕−

 

 一本の大剣が砕けた。そして。

 

 −砕・砕・砕・砕・砕・砕・砕・砕・砕・砕・砕・砕・砕・砕・砕・砕−

 

    −砕!−

 

 それを皮切りに一斉に剣群が砕け散る!

 水糸が群がる全ての剣を砕いたのだ。降り落ちる剣の破片がきらりきらりと光を反射して光る。

 砕かれた剣群に、しかしシオンは構わない。

 元よりそれはただの囮、シオンの本命は両の腕から繰り出される鈎爪だ。

 もはや人を越えた膂力から繰り出される斬撃。振りかぶり、背中に隠れた右の鈎爪が、鈍く光る。

 

    −閃!−

 

 鈎爪が振り下ろされた。人の身体など豆腐も同然に斬り割く一撃を、タカトは斜め前に踏み出す事で躱す。

 同時に振り下ろされる右手の甲にそっと手を添え、その軌道を僅かに変える。それは一つの結果を生んだ。

 ベクトルを狂わされ、シオンの身体が僅かに傾いたのだ。重心を崩して着地するシオン。

 しかし、至近にいるタカトは更に一歩を踏み込み、膝をかち上げる!

 

    −撃!−

 

 肝臓(レバー)に叩き込まれた膝が黒の甲冑をいともたやすく砕く。

 全身のバネを使った一撃は同時に焔を点した。

 

    −爆!−

 

 爆裂! 打撃と爆発が膝の一点で炸裂する!

 シオンの身体がくの字に曲がって宙に浮いた――タカトは止まらない、更に踏み込む。

 浮き上がった身体が地面に触れる前に、シオンの顎を風纏う肘でかち上げる。

 

    −破!−

 

 激音と共にシオンの首が後ろが見える程にのけ反った。

 タカトが放った技は全て必殺。並の、いや、一流の魔導師や魔導士であろうが、十回は死んでお釣りがくる程の攻撃であった。

 タカトはその宣言通り、シオンを”殺し”にいっている。

 一撃一撃に込められた技は全て疾風や紅蓮、震雷の亜種だ。純粋な生命体ならば確実に死んでいる。

 だが、今のシオンは純粋な生命体では無かった。

 シオンは宙に浮いた勢いを利用し、タカトの顎を狙って右の膝を跳ね上げる。

 完全に死角となる攻撃。だが、心眼でシオンの攻撃予測を立てていたタカトには死角となる一撃すらも意味は無い。これだけ長い時間戦っているのだ。いくら理性を無くし、破壊衝動に支配されたシオンだとしても行動データは充分過ぎる程に取れている。

 タカトは左前方に更に踏み出すと、体捌きのみであっさりと膝は空を切った。

 だが、タカトは止まらない。そのままシオンの胸倉を引っ掴むと同時、残る左足を刈った。

 スパンと、いっそ小気味よい音と共にシオンの身体が上下に反転する。柔道で言うところの大内刈りが近いだろうか。そのまま頭から落ちるシオンの顎に、タカトは掌底を打ち下ろす。

 打撃より押し込む事を目的とした一撃。さらに腰を落として振り抜く。同時、その掌に煌めく雷光! 頭頂から地面に叩きつけると、下が雪の為にシオンの頭はその中にすっぽりと埋まった。そして。

 

「天破震雷改式、天破轟天」

 

    −雷!−

 

 爆雷! シオンの身体を雷が走り、一気に周囲にもその余波が叩きつけられた。

 

    −轟!−

 

 雷鳴閃光! 一気に周囲数十mに渡って走る雷が、一瞬で雪を溶かし、気化させる。

 タカトは周りより一段低くなり、地肌が見えた地面に立ち上がった。シオンはそのまま仰向けに倒れる。だが、タカトは容赦しない。

 さらに振り上げる踵。頭上高くに孤を描くそれは、頂上に達すると同時にボンッと焔を纏った。

 振り下ろす! だがしかし、シオンの身体は直撃の瞬間に一挙動で跳ね起きた。人体の構造を完全に無視した、映画のキョンシーのような動きだ。

 その動きにタカトの踵は空を切る。同時にシオンは背後に剣群を展開し、射出と同時にそれを追い抜くような速度でタカトに迫る。剣群と左の鈎爪が同時にタカトを襲う。

 しかし、タカトはたった一歩を踏み込んだ。そこからいきなり放たれる拳。予備動作を一切廃したそれは武術に於ける秘奥だ。

 曰く、無拍子。その動きは物理的速度を超えると言う。

 放たれた拳に纏う暴風。震脚と共に放たれた一撃は進路上の剣群を纏めて砕き、シオンの顔面に叩き込まれる!

 

    −撃!−

 

 シオンは拳が顔面に突き刺さった勢いで身体が泳ぎ――。

 

    −轟!−

 

 ――暴風がその牙を剥き、爆裂する!

 

    −破!−

 

 シオンはまるで人形のように跳ね飛んだ。くるりくるりと舞うシオン。少しは堪えたか、ぐるる、と呻く。

 だが、空中で姿勢を制御すると、足場を展開。ガシャッとそこに着地し、一時離脱を計る。とにかく距離を取ろうとしたのだろう。だが、タカトはその隙を見逃さない。

 

「天破水迅改式」

 

 スッと天に掲げる左手、その先には頭上いっぱいに広がる水塊があった。

 何せ辺り一面雪である。水の補給には事欠かない、使わない手は無かった。

 

「ぐ、うる!」

「天破瀑布」

 

    −轟−

 

 莫大な――莫大な量の水が滝となって降り落ちた。それこそ、数百tに匹敵する水量である。

 頭上から降り落ちた水塊の重量に押し負け、たまらずシオンが墜落する。

 かろうじて足から着地したものの、その圧倒的重量に縛られ、地面に這いつくばった。

 動きを止めたシオンに向かってタカトは即座に突っ込む。

 ――縮地。空間移動術たるそれをもって一気にシオンに接近、同時に瀑布を解除する。辺りに散る水。そして、タカトはその姿をシオンの眼前に現す。

 だが、シオンはそのまま跳ね起きた。たわんだ膝を戻す勢いを利用し、目前のタカトに鈎爪を突き上げる!

 縮地をもって接近したタカトの喉元に、カウンターで襲いかかる狂気の一閃。しかし、タカトは構わない。むしろ前に踏み込む。思い切り深く腰を落とした。

 

    −閃!−

 

 喉を切り裂く筈の一撃はしかし、タカトの頭上を通り過ぎた。

 タカトは頭上を黒光りする鈎爪が駆け抜けていくのを意識の端で確認し、掌をシオンの下腹、丹田に当てる。

 

「ヒュッ」

 

 鋭い呼気が響いた、タカトの息吹だ。同時、ぐっと両足で大地を踏み締める。

 その反発力を膝から腰、腰から肩へと、螺旋を描き増幅しながら伝達していく。肩から腕の先へ、全身の運動エネルギーを収束し、掌から前方へと解き放つ。同時に身体から溢れる程に練り上げた魔力を八卦太極炉に注ぎ込み、雷の門に流し込む。

 それは収束された運動エネルギーに合わさり、掌から雷がほとばしって、シオンを貫く様子を明確にイメージした。

 

「天破震雷!」

 

    −発っ!−

 

 寸っと雷がシオンを貫く。ぶあぁっとシオンの身体が浮き上がり、そして。

 

    −雷!−

 

    −爆!−

 

 莫大な威力の雷が丹田に炸裂! シオンの身体に雷が通り、走り抜け、そして爆破されたように吹っ飛んだ。そのまま音速超過し、森に再度突っ込む。

 

 −激・激・激・激・激−

 

 再び木々を折りながら、シオンは数百m先に吹き飛ばされた。最後の木を叩き折ってシオンは漸く止まる。

 

「ぐ、う、る……!」

 

 その身体はまさに満身創痍、ボロボロであった。

 だが、即座に因子が湧き立つ。身体が急速に再生される――だが。

 

    −煌!−

 

 シオンが突っ込んで来た方向。そこからいきなり巨大な光の弾が走ってきた。横回転と共に走る一撃、天破光覇弾!

 シオンはろくに動かない身体では回避も叶わずに、あっさりと光に飲み込まれた。

 

    −轟!−

 

 シオンを飲み込んだ光覇弾は直後に爆裂! 光の柱となって天地に突き立った。

 それをタカトは光覇弾を放った姿勢のまま見る。

 まさに、一切の容赦を捨てた攻撃。タカトは正しくシオンを殺しにかかっていた。

 

 ……シオンが起きるまでは封印は出来ない。

 

 スッと残心を解きながらタカトはそう思考する。

 ようは意思の支配権の問題だ。因子が……アンラマンユがシオンの意思を支配している状態では封印は不可能だ。

 先程のように非殺傷設定に術式を組み替えた瞬間ならば、シオン自身に支配権は戻っているだろうが。

 

 スバルとティアナとか言ったか。

 

 再び腰を落とす。そしてシオンが吹き飛んだ方向から視線は変わらない。ぐっと拳を握る。

 

 ……シオンを早く――。

 

 次の瞬間、シオンの姿がタカトの眼前に現れた。同時に放たれる右の鈎爪。しかし、タカトはそのまま一歩を踏み込んだ。

 

 俺がシオンを――。

 

「天破疾風」

 

    −撃!−

 

 無拍子を持って放たれる一撃。螺旋を描き、風纏うその拳はシオンの鳩尾に迷い無く突き刺さる。

 

 ――殺してしまう前に。

 

    −破!−

 

 風破爆裂! 甲冑を叩き割り、その腹部で暴風は炸裂。シオンを景気よく吹き飛ばしたのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 そして、映像が再生された。

 

「ルシア――――――っ!」

 

 目の前で貫かれたルシアに、タカトが叫ぶ。そのまま駆け寄ろうとして。

 

「っ!」

 

 だんっと教会の床を蹴り、飛び上がる。直後に、床に突き立つのは無数の手だった。シオンを、ルシアを襲った手。

 

「シオン……!」

 

 顔を歪め、タカトはシオンを見る。

 ――泣いていた。

 笑いを顔に張り付け、同時にシオンは泣いていた。

 そして、身体に沸き立つは因子。チラリとタカトはルシアに視線を移す。

 ルシアの身体からも、また因子が溢れ出していた。

 それを確認してタカトはギシリと歯を軋ませる。

 シオンとルシアが感染した。その事実に、顔を歪める。

 

【ぐっううっ!】

 

 突如声が響いた。それはシオンの胸元からの声。

 タカトがシオンに譲り渡したデバイス。聖剣、イクスカリバーがそこに居た。

 

「イクス!?」

【タカト……駄目だ、これは――】

【ユニゾン・イン】

 

 その声にタカトは唖然となった。イクスのユニゾン形態は戦技変換の最終形態だ。

 今のシオンに使える筈も無いもの。かつて、タカトですら起動できなかった物だ。

 

【ちが、う。これは、イレギュラーな……!】

「イクス!」

【タカト……!】

【コード:アンラ・マンユ確認。アヴェンジャーフォーム起動】

 

 直後、イクスがシオンの中へと取り込まれた。同時に、漆黒の闇がほとばしる!

 

    −煌−

 

「っく……!」

 

 辺りにぶち撒けられる衝撃波。それにタカトは防御壁を展開し、凌ぐ。そして、闇が晴れた先には。

 

「シオン……」

「う、るるるっ……」

 

 漆黒の、まるで剣竜を反芻させる甲冑を纏い、三本の尻尾をくねらせるシオンが居た。そのシオンにタカトはぐっと息を飲む。次の瞬間。

 

「る――」

 

 シオンの姿が消えた。

 

「っ!?」

 

 同時に背筋を走る悪寒。タカトは本能的にそれに従い、再び床を蹴る。空中で半回転し、上下逆さまの状態になった、直後。

 

    −閃!−

 

 タカトが居た位置に、刻まれる八の斬撃痕。そこに、シオンが居た。両の手を放った姿勢で顔を上げ、こちらを視認する。

 

「天破紅蓮!」

 

 上下逆さまの状態で身をくねらせ、真横に直蹴りを叩き込む。そこにはまさに今、瞬間で現れたシオンが居た。

 

    −爆!−

 

 蹴りの先で爆発が起こる。同時、吹き飛ぶシオン。殆ど勘に任せた一撃ではあったが、上手く当たってくれた。

 爆発の勢いを利用して、床に両足を揃えて着地する。

 吹き飛んだシオンはそのまま祭壇に突っ込み、十字架を破壊。埋もれる事となった。

 

「何が、どうなってる……!」

「う……」

「っ!? ルシアっ!」

 

 響く呻き声にタカトは即座に反応した。ルシアへと駆け寄り、その身体を抱き上げる。

 

「ルシア……!」

「タカ、ト……?」

 

 ゆっくりとルシアの目が開く。それにタカトはホッとして。

 

「あっ! うぅっ!」

「ルシアっ!」

 

 その身体から因子が激しく湧き出した。

 タカトはルシアの名を叫び、同時に何も出来ない自分に歯を噛み締める。

 タカトの魔法術式は既に八極八卦太極図へと変わってしまっている。つまり、ダイブが使え無いのだ。

 ダイブは前提条件として、カラバ式の使用者でなければ行使出来ない。

 

「くっそ……っ! ルシア、少し待ってろ。今、兄者を――」

「駄目、だよ……」

 

 タカトの言葉に、しかしルシアは首を振る。そしてシオンが埋もれた祭壇に視線を向けた。

 

「シオンを、助けてあげなくっちゃ……」

「解ってる! すぐにシオンにもダイブで」

「違うの」

 

 タカトの言葉を遮り、再度首を振る。

 その仕種はあまりにも儚げで、まるで消え入ってしまいそうな印象を受けた。

 

「……シオンの、あれは特別。ダイブじゃ、どうにもならない……それを受けた私も……っ!」

「ルシアっ!」

 

 再び苦し気に呻くルシアにタカトが叫ぶ。

 ルシアの周りに湧き立つ因子は、いよいよその激しさを増していた。

 それを抑え込んでいるルシアの意思は超人的とも言える。そんな彼女はゆっくりと微笑み、そしてタカトの頬に手を当てた。

 

「タカトは、お兄ちゃん、でしょ……? シオンを助けてあげなくちゃ……、ね?」

「ルシ、ア」

 

 ルシアの手を掴む。そしてタカトはゆっくりと頷いた。

 

「うん……それでこそお兄ちゃんだね」

「ルシア」

「ごめん。少し眠る、ね」

「……ああ。すぐにシオンを助けて、兄者の元に連れていく」

 

 タカトの返事にルシアは微笑む。ゆっくりと頷いた。

 

「待ってるから」

 

 そして、その瞳を閉じた。

「……ルシア……」

 

 名を呟き、タカトは佇む。祭壇の方から音が鳴った。シオンだ。

 十字架の瓦礫を払いのけ、立ち上がる。

 それに合わせるように、タカトもルシアを優しく床に寝せ、立ち上がる。そして、シオンへと向き直った。

 

「シオン」

「る、るる……」

 

 唸る。そんなシオンにタカトは拳を突き出した。そっと腕に手を添える。

 

「シオン、ルシア。待ってろ。必ず助ける」

「が、ああああああああああああああああっ!」

 

 タカトの声がまるで聞こえているかのように、シオンは吠え、次の瞬間、同時に駆け出した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 互いに駆け出し、シオンの目前でタカトは立ち止まる。

 じゃっと地を蹴る音と共に右足が孤を描いた。鮮やかな上段蹴りがシオンの顔面に着弾する。しかし、シオンは止まらない。そのまま突っ込む。

 

「っ!」

「が、う、あああっ!」

 

 咆哮と同時に鈍い色を反射して光る鈎爪を振り上げた。それにタカトは蹴りを放った右足の前に足場を形成。それを蹴り後退する。

 

    −閃−

 

 放たれる一閃は、だがタカトは捉えられ無かった。タカトは足場を蹴った勢いを利用したまま背後にバク転、その勢いで左足を跳ね上げ、シオンの顎を蹴り抜く。

 

    −徹!−

 

 小気味よい音と共にシオンの顔が跳ね上がる。

 タカトは足を回転させ、体勢を整えた。くるりと回り、一回転を回り切る――その眼前にシオンが居た。

 

「っ――!?」

「が、あああああっ!」

 

 完全に虚を突いた動きにタカトは驚愕し、しかし身体だけは勝手に動く。

 振るわれる鈎爪をくるりと腕をコマのように回して捌いた。化勁と呼ばれる技だ。そのままの動きで身体を深く沈める。

 

「天破震雷っ!」

 

 叫び、同時に両の掌を突き出す!

 雷光を纏うそれは腹部に押し当てられると同時に威力をシオンの体内で炸裂。

 爆裂したかのような音が鳴り、シオンの身体が盛大に跳ねた。だが。

 

    −戟−

 

 突如としてタカトの身体が吹き飛ぶ。シオンの尻尾による打撃だ。

 腹に直接受けた打撃で空へとタカトの身体が浮く。

 

「っく!」

「が、あああああああああああああああっ!」

 

 咆哮、同時に繰り出される一閃!

 体勢を崩したタカトにそれを躱す術は無い。鈍く光る鈎爪がタカトを串刺しにせんと走り――。

 

「シオン……?」

「あ、あ、あ、あ、あ」

 

 ――止まった、タカトの眼前で。

 ふるふると止まった手が震える。その瞳に、明確に灯る意思の光。

 それを見てタカトは目を見開いた。シオンの自我が戻っている。

 

「シオン……!」

「殺したくなんて、無いっ! 誰も奪いたくなんて無いよ……!」

 

 まるで自身に訴えるようにシオンは叫ぶ。だけど鈎爪は下りない。震えながら突き出されるだけ。

 そして、シオンはタカト涙を流しながらタカト見た。

 

「ゴ、メン……タカ兄ぃっ! ゴメン、なさい……! ゴメンなさいっ!」

 

 謝る。必死に、ただただタカトに。タカトも悟る。シオンもまた、戦っている。自身の中で、因子と。

 

「タカ兄ぃ……助けて…」

 

 涙はただ流れ落ち、そしてシオンは訴える。叫びと共に。タカトに。

 

「助けてっ! ルシアをっ」

「…………」

 

 その叫びに、タカトは息を飲み、少しだけ微笑した。

 ルシアはシオンを助けてと訴えた。

 シオンはルシアを助けてと訴えた。

 因子に感染しながらも、そう言う二人に。自身より、相手を助けてと言える二人に。タカトは頷いた。

 

「……お前もだ」

「っ――!」

 

 シオンが目を見開く。タカトはそれを見て再度頷いた。

 

「お前もだ。ルシアも、お前も、俺は諦めない」

「タカ兄ぃ……」

 

 ぐっと拳を握る。そして突き出した。

 

「必ず助ける」

「……う、ん。あ、あ、あ、ああああああっ!」

 

 タカトの言葉に頷き、次の瞬間、シオンの身体を因子が再度湧き立つ。

 再び、シオンの自我が消えた。同時に振るわれる一閃。それをタカトは床を蹴り、再度宙に跳ぶ事で回避。

 シオンを飛び越えて、反対側、壊れた十字架の傍に降り立った。

 

 ……問題は方法だ。

 

 即座に突っ込んでくるシオン。振るわれる鈎爪を両の手で捌く。

 いかな膂力か、化勁で受け流した筈の手が僅かな痺れを残した。

 

 今の俺にはダイブは使えない。

 

 捌く、捌く。至近距離でシオンが振るう鈎爪の事如くを捌く。

 

 考えろ。何か、手段がある筈だ……ルシアは言った。ダイブじゃ駄目だと。それでもシオンを助けられると信じていた。

 

 振るわれ、放たれた鈎爪を捌き続ける。

 それは恐ろしく精密な作業だ。タイミングが、角度が、少しでもずれれば即座に腕は弾かれ、タカトは鈎爪に貫かれただろう。

 それでもタカトはそれを成す。

 

 考えろ、考えろ。何かを見落としていないか、考えろっ!

 

 −我を望むか?−

 

「っ!?」

 

 声が聞こえた。シオンの攻撃を捌いていたタカトは、その声に声にならない声を上げ、同時にシオンの鈎爪を捌いて、後退する。

 シオンも何故か追撃して来なかった。

 辺りを見渡す。しかし、誰もいない。

 

 −我を望むか?−

 

 また声が聞こえた。誰もいないのに、しかしタカトはその声に応えた。

 

「誰だ?」

 

 −我はアレを、カミを封じせし器。汝等が666と呼ぶものだ−

 

「何?」

 

 その答えにタカトは思わず足元を見る。

 そこにはちょうど十字架の中央部分があった。666と刻まれた、それが。

 

 −我を望むか?−

 

 再び響く声。それにタカトはスッと目を細めた。

 

「二人を助けられるのか?」

 

 問う。二人を助ける方法があるのかと。666が僅かな光を放った。

 

 −今、この場であの者等が命を落とさない方法ならば提示出来る−

 

「引っ掛かる言い方だな?」

 

 −事実だ−

 

 にべも無い。それにタカトは俯き、しかしぐっと拳を握りしめた。

 

「いいだろう。乗ってやる」

 

 −我を望むのだな?−

 

「ああ」

 

 −ならば−

 

 直後、666の紋章が十字架から跳ね上がった。そのままタカトの右手に食らい付く!

 

「っ……!? が、あああっ!?」

 

 −力をくれてやる!−

 

 食らう、喰らい尽くす! タカトの右手に侵入し、飲み込み、細胞から、霊的から、融合を果たす!

 

「ぐっう……!」

 

 そして、タカトの右手の甲に、666の紋様が描かれた。

 

 −融合、完了。情報を共有化、開始する−

 

「っ……! が、ああああああああああああっ!」

 

 そして、タカトの脳裏に莫大の情報が送られた。

 

 カミ。

 アンラマンユ。

 666。

 紋章。

 ■■■■■■■。

 〇〇〇〇〇〇〇。

 

 送られる。

 送られる。

 ありとあらゆる情報が、タカトに。そして。

 

 

 創誕。

 

 

 −情報共有化、完了。気分はどうだ? マスター?−

 

「いいと思うか?」

 

 呻くように言葉を吐く。そのまま、自身の右手を見詰めた。

 

「これしか、無いんだな?」

 

 −二人を救いたいのならば……いや、取り戻したいのならば。創誕を成す以外に手段は無い−

 

 フゥッと息を吐く。そして、眼前のシオンに目を向けた。

 シオンは、まるで戦くように唸るだけ。

 タカトはぐっと右の拳を握り締めた。

 

「……なら、成してやる。例え――」

 

 ――世界を敵に回そうとも。

 

 そう誓った。次の瞬間、シオンが駆け出した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 突っ込んで来るシオンにタカトはその場を動かず向かえ撃つ。

 シオンが振るう左の鈎爪とタカトの右腕が交差、化勁で捌く。

 先程の再現だ。振るわれ、振るわれ続ける鈎爪をタカトは捌き続ける。

 

「っがぁ!」

 

 それに業を煮やしたのか、シオンが背中に大きく右の鈎爪を振り上げた。

 だが、それをタカトは待っていた。合わせるように踏み込む。右の順手突きを鳩尾に叩き込んだ。

 

    −戟−

 

 カウンターとなる一撃。しかし、シオンの甲冑を破壊するには至らない。

 数歩分弾かれるが、両足を地面に付けたまま堪える。だが、タカトは構わない。

 右腕を肘から曲げ上に突き出し、左手をそっと添えた。

 

「天破疾風改式――」

 

 風が、シオンの周りにある風が全てシオンに収束する。集まる風は、シオンを押し包んだ。

 

「天破乱曲」

 

    −轟!−

 

 直後、風が纏めて収束し、全周囲からシオンを押し潰さんと叩き込まれる!

 シオンはそれに苦悶の悲鳴を上げ。しかし、両の腕を突き出した。

 

「が、ああああああああああああああああっ!」

 

    −裂−

 

 引き裂く、風の拘束を。そのまま、タカトに向き合い。

 

「天破光覇弾!」

 

 直後、巨大な光弾がシオンに叩き込まれた。

 

 光弾の一撃を放ったタカトは残心を解く。回避、防御不可能のタイミングでの一撃。

 これでシオンを行動不能に出来たならば――だが次の瞬間、タカトは信じられないものを見た。

 光弾を前にしてシオンはがばりと口を開く。そして、光弾はシオンの顔面に突き進み。そのまま口顎に飲み込まれた。

 

「な……!?」

 

 タカトがそれを見て短い驚愕を上げる。しかし、ぞくりと再度走る悪寒に再び両掌を構えた。

 灯る光球。そして、シオンを見る。光弾を飲み込んだシオンの口は未だ開かれたまま。その口内にタカト両掌と同じく光球が灯る!

 

「天破光覇弾っ!」

「がぁっ!」

 

 光弾が放たれ。また光弾が放たれる!

 二つの光弾は互いにぶつかり、その威力を喰らい合い、相殺した。

 

「俺の技を喰った、のか……?」

 

 −大罪の内の一つが顕現したか−

 

 呆然と呟くタカトに、666があっさりと答える。それにキッと視線を向けた。

 

「どう言う事だ?」

 

 −わざわざ聞くな。我の知識は既に汝にある。検索しろ−

 

 666の答えはにべも無い。だが、確かにその通りだ。即座に自身の中の情報に検索をかける。そして、その出鱈目さに少しばかり絶句した。

 

「魔法ならば、何でも喰らう事が出来てさらにそれを使用可能?」

 

 −そう言う事だ−

 

 無茶苦茶にも程と言うものがあろう。取り合えず自分の事は棚上げして、タカトはそう思う。

 そんなタカトに当然構わず、さらに突っ込んで来るシオン。再度振るわれる鈎爪をタカトは捌く。

 

 −何を手加減している−

 

「っ」

 

 見透かされている。知識を共有化したから当たり前ではあるが、タカトはそれに顔を歪めた。

 

 −殺すつもりで戦え。それで”やっと”だ−

 

「黙ってろ……!」

 

 呻き、さらに振るわれる鈎爪を捌く――次の瞬間、タカトの視界が180°回転した。

 

「なっ!?」

 

 何が起きたか一瞬解らず。しかし、タカトはそれを見る。

 ――足首、それにシオンの三本ある尻尾の内の一本が絡まっていた。これで宙に引っ張り上げられたのか。

 

    −戟!−

 

 直後、床に叩き付けられる。背中から落ちて、肺の空気が口から吐き出された。そして。

 

    −戟−

 

    −戟−

 

    −戟!−

 

 幾度も叩き付けられる!

 床に、壁に、天井に! そして、そのままシオンの目の前に引きずられた。

 閃く右の鈎爪! 迷い無く、それはタカトに向けて放たれ。

 

    −閃−

 

 ――捌かれた、タカトの左手に。化勁で捌いた勢いのまま、タカトは右の拳を顔面に叩き込む!

 

    −撃!−

 

「シオンっ!」

 

 止まらない。左拳で逆側を殴り飛ばし、右側を再度殴る。

 続け様に叩き込まれる拳に、シオンの顔が左右に跳ね回る。

 

「助かりたいんだろう!」

 

 タカトが叫ぶ。そして拳は止まらない。

 

「助けたいんだろう!」

 

 続けて叫ぶ。まだ拳は止まらない。

 連撃となって、次々にシオンの顔面に叩き込まれる。

 

「だったらっ!」

「ぐ、う、うぁあああぁぁぁぁぁっ!」

 

 互いに至近で吠える!

 タカトが次に振るった拳をシオンの左手が弾く。

 だが、それすらも化勁で捌かれ、返す右がシオンの顔面に叩き込まれた。

 

「さっさと起きろ! このたわけがっ!」

 

    −撃!−

 

 いかな威力がその拳に込められていたのか。

 シオンの身体がぐるりと回転し、床に叩きつけられた。

 それを最後まで見遣り、ぺっとタカトが口から血を吐く。

 あちこちに叩きつけられた時に、口の中でも切ったのか。ぐいっと手で拭う。そして。

 

「い、てぇよ。……タカ兄ぃ……」

 

 シオンからそんな声が漏れた。意識を回復したのだ。

 それにタカトはたわけと呟くと、右手を突き出した。

 同時、発生するのは幾何学模様の魔法陣。666の魔法陣だ。

 

「タカ兄ぃ……」

「お前は、何も心配する必要は無い。ここの記憶は全て、俺が持っていく」

 

 呻くシオンに、タカトはぽつりと呟く。

 666、その能力は略奪だ。

 ありとあらゆるモノを奪い、自身に封印する力。

 

「俺がお前を助ける」

「タカ兄ぃ……?」

 

 シオンがその言葉に問い直す。だが、タカトは構わない。

 

「俺がお前の前を歩く」

「タカ兄ぃ……何、言って……?」

 

 呆然とするシオン。だが、タカトは一切構わない。そのまま続ける。

 

「お前に恨まれながらだとしても」

「……え?」

 

 その言葉に、シオンの目が見開かれる。タカトの唇が歪む、微笑みの形に。

 

「俺がお前の標となってやる」

 

 そして、と続ける。666の魔法陣が一際激しい光を放った。

 

「ルシアとお前を”取り戻す”。……例え、”世界の全てを、時間を、やり直してでも”」

「タ、カ、兄ぃ……?」

「だから、シオン」

 

 ――俺を憎み続けてくれ。

 

    −煌!−

 

 次の瞬間、666の魔法陣から虹の光りが迸り、シオンの身体を貫いた。

 同時、黒の甲冑が砕かれ、因子は消えて。

 シオンは元の姿へと戻り、その場に倒れ伏したのだった――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「タカ兄ぃ……」

 

 過去の再生が終わり、シオンは映像の前にただただ立ち尽くしていた。

 本当の真実を知って。

 タカトが何をしたのかを知って。

 それをスバルとティアナが後ろから心配そうに見る。

 シオンの過去、それを見て――だが。

 

 −やれやれ、余計な事をしてくれる−

 

 声が響いた。それにスバルとティアナが振り向く。

 声の主は当然、アンラマンユであった。肩を竦め、こちらへと歩いて来る。

 

 −せっかく兄弟からいろいろ引き出せたのに、終わりにしなきゃいけなくなっちまったじゃないか−

 

「終わり?」

「それ、どういう意味よ?」

 

 −知る必要は無い。そもそもお前達をここに案内したのが間違いだったよ。お帰りはあちらだ−

 

「「っ――――!?」」

 

 瞬間、いきなり水の底に光りが照らされた。それはスバルとティアナを照らし、二人はまるで光に引きずられるように上へと連れて行かれる。

 

「スバル!? ティアナ!?」

「「シオンっ!」

 

 シオンが叫び、二人に駆け寄る。しかし、同時に伸ばした手は空を切って。

 一気に二人は上へと連れて行かれた。

 シオンはそれを追い掛けようとするが、何故か上に浮かべ無い。足は地に着いたままだ。

 

「っ――!」

 

 −さて、邪魔な二人にはお帰り願った所で−

 

「手前ぇ……! 二人を何処にやったっ!」

 

 シオンはアンラマンユに振り向き、怒鳴る。しかし、アンラマンユはそれにただ首を振った。

 

 −あの二人はただ自分の身体に帰っただけだ。それより……人の心配より、自分の心配をしろよ−

 

 直後、いきなりアンラマンユがそのヒトガタを解いた。いつかのように、その身体が無数の手と成る。

 

「っ!」

 

 −本当、惜しいよな。もっと兄弟の感情を楽しみたかったのに、これで終わりなんてな−

 

 本当に、本当に残念そうな声が響き、そして。

 

 −それじゃあ、終わりにしようか−

 

 一気にシオンへと襲い掛かった!

 

「――――っ!」

 

 襲い来る無数の手。それをシオンは躱そうとする。

 しかし、足が動かない。まるで地面に接着されたかのように、固定されていた。動けない! ――そして。

 

 −いただきます−

 

 いつかの再現のように、シオンへとアンラマンユが突き立った。

 

「う、ぐ、あああああああああああああああああああああああああっ!」

 

 侵食されるココロ。シオンの意識が、アンラマンユにより、一気に押しやられる。

 霞む、霞む。あらゆる感覚が。

 食らわれ、喰らわれる、シオンと言う存在、そのものが!

 

 シオンは自分を抱きしめるように、その両腕をきつく回す。

 そして、必死に抗う。アンラマンユと言う存在、そのものに!

 

 −抵抗するなよ、兄弟−

 

 −そもそも、お前にそんな権利なんてないだろう?−

 

「っ!」

 

 響く声に、シオンは愕然となる。

 アンラマンユの声は止まらない。シオンの内側から、声はただ響いた。

 

 −あれだけの事をしておいて、まだ赦されるつもりか?−

 

 −お兄ちゃんが、本当にお前を憾んでないとでも思ってんのか?−

 

 −全てを奪ったお前を−

 

 −今も、奪い続けてるお前を!−

 

「あ、う、うあ、う、う……!」

 

 響く声にシオンという”固”は揺さぶられる。罪悪感に、後悔に潰れそうになる。

 

 ――だけど。

 

「ごめん、なさい……」

 

 −ん?−

 

 突如として響くシオンの謝罪。それにアンラマンユが疑問を浮かべる。でも、シオンは構わなかった。

 

「ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん……ごめん、なさい……」

 

 −おいおい、謝られても……−

 

「……それでも」

 

 −ん?−

 

 ――だから。

 

 ぐっとシオンは歯を食いしばった

 

 ――だから。

 

「それでも、俺は、前に、進むよ……」

 

 −お前ね……−

 

―シオンの解答、それにアンラマンユが嘆息する。

 

 −おこがましいんだよ−

 

 −そうやって、また罪から逃げんのか?−

 

 −謝ればお兄ちゃんが赦すとでも思ってんのか?−

 

 −そもそも、赦されるとでも思ってんのかよ−

 

 −赦されたいのかよ?−

 

 響く声に、シオンの精神が揺さぶられる。ココロが壊される。

 

 ――だけど。

 

「そんなの……っ! 解るかよ! 解るもんか! 解らないさ!」

 

 叫ぶ! 拳を地面に打ち付け、ぐっと立ち上がった。

 気付けば涙を流していた。

 頬を伝う涙を自覚しながら、目を閉じる。

 思い浮かべるのは、憎んでくれと訴えた、異母兄の顔。

 

「それでも……」

 

 全てを悟って。

 全てを覚悟した、そんな顔。

 そして、呟かれた最後の言葉。

 

「タカ兄ぃは……」

 

 ――シオン。どうか、お前自身を恨まないでくれ……赦して、やってくれ。

 

 

 

 

「優しかったんだ」

 

 

 

 

 直後、アンラマンユを成す因子はシオンの身体からバラバラになって吹き飛んだ。

 

 −なっ!?−

 

 驚愕の声が響く。アンラマンユの声だ。

 そのまま弾かれた因子はズルズルと集まり、再びヒトガタへと戻った。

 

 −馬鹿、な−

 

 呆然と声をあげるアンラマンユ。しかし、そこで異変は止まらない。

 水が流れる。渦を巻き、地面に吸い込まれるように。

 シオンとアンラマンユを無視する形でどんどん水は無くなり、そして青空が現れた。

 水に覆われた筈の草原も青々と茂り、悠久なる世界は――シオンのココロの世界はその姿を取り戻した。

 シオンはその草原の中央に立つ。閉じていた目を開いた。

 

 −兄弟、お前−

 

「だから、俺はお前を、受け入れない」

 

 歩く。アンラマンユに向かって、ゆっくりと。

 それにアンラマンユは後退しようとして。

 

 −……っ!−

 

 足がまったく動かない事に気付いた。

 先程のシオンとまったく逆。シオンとアンラマンユの立場はここに完全に逆転した。

 さらにシオンは歩く。アンラマンユの目前まで歩き、左の腕を振り上げた。

 

「だから、俺は――」

 

 拳を握りしめる。最後の一歩を踏み、そして。

 

「――前に歩き始めるよ」

 

 拳を振り下ろした。

 

    −撃−

 

 拳は迷い無く、アンラ・マンユの顔面に突き刺さった。同時、そのヒトガタが崩れる。

 バラバラの因子となったアンラマンユは、そのまま現れた時と同じく、暗雲へとその姿を変え、空へと昇っていく。

 

 −カカカ、いや、こいつはたまげたよ。まさか俺を否定出来るなんてな。……いや、流石と言うべきなのかな?ー

 

 そのヒトガタを崩されてもアンラマンユの軽口は無くならなかった。その声は笑いのまま。

 

 −今回はここまでだな−

 

「一つ聞かせろ」

 

 −うん?−

 

 かけられる声にアンラマンユが疑問の声をあげる。シオンはアンラマンユを真っ直ぐに見据えた。

「……なんで、俺を兄弟って呼ぶんだ?」

 

 シオンはずっと、ずっと疑問に思っていた事を聞く。

 こいつは、アンラマンユは最初に会った時からずっと自分の事をそう呼んでいた。

 

 −ふ、ククク、カカカカカカカカカカカカカ!−

 

 唐突に笑い声が響いた。アンラマンユが大笑いしたのだ。ひとしきり笑い声が響くと、これまた唐突に笑いは消えた。

 

 −お前、自分の”真名”知ってるか?−

 

「……?」

 

”逆に問われて、シオンは訝し気な顔となる。それが何の関係があると言うのか。

 そんなシオンの反応に、アンラマンユの笑いはただ響く。

 

 −知らねぇみたいだな。なら、俺の真名を教えよう−

 

「何?」

 

 アンラマンユの言葉にシオンは眉を潜めた。だが、アンラマンユはそんなシオンに構わない。

 

 −”カイン”。

 カイン・アンラマンユ。

 それが俺の真名だ。よく覚えておけよ、兄弟……いや−

 

 自身の真名を告げたアンラマンユは、一拍の間を置き。そして言い直した。

 

 −”アベル・スプタマンユ”−

 

「何、だと?」

 

 告げられたその名に、自分をそう呼んだアンラマンユにシオンは疑問の声をあげた。

 

 その名は――。

 

 −じゃあな。兄弟。またな?−

 

「待て!」

 

 −嫌だね−

 

 アンラマンユは、あっさりとシオンを拒絶すると、そのまま空へと消えた。

 同時、世界が硝子を割るような音と共に割れ、シオンはその割れ目に飲み込まれた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 聖域に響く音は止む事が無い。

 空間に軋みと歪みが走り、そしてそれを引き起こした当人、伊織タカトはただ拳を振るう。

 

    −撃!−

 

 無拍子の理をもって放たれた風巻く拳は容赦無くシオンの腹部に叩きつけられる。

 再び響く軋み。同時、風が爆裂した。

 

    −轟−

 

 シオンが景気よく飛ぶ。くるりくるりと回転し、そのまま森へと再度突っ込んだ。

 

「これで、もう何度目かしら」

「さぁ? 途中から数えるの、止めちゃったっスからねー」

 

 その光景を広域に張ったプロテクション内で見ていたギンガが呟き、ウェンディが律儀に答える。

 実際、タカトが本気を出してからは手伝える事が無くなってしまい――と、言うより下手な手出しは余計な邪魔になってしまう可能性があったので、彼女等は戦闘の余波に巻き込まれ無いように、プロテクションの中でただタカトとシオンの戦闘を見ていた。

 無尽刀は未だ食い入るかのようにタカトを見て、ソラもまた同様に二人の戦闘を見ていた。

 既にタカトが本気を出して結構な時間が立っている。

 殺しにかかっているタカトの一撃一撃は正しく必殺であり、一撃が叩き込まれる度にシオンは常人ならば確実に死亡確実なダメージを与えられていた。

 その度に因子が身体を修復するのだが、それよりも尚タカトが一撃を加えるほうが早い。

 必然、シオンの再生は間に合わず、その身体は次第にダメージが蓄積していっていた。

 

「……伊織タカトはシオンを殺す積もりなのか? このままではシオンは――」

「そうなった時は私達が彼を止めるしか無いわ」

「”あれ”をか?」

 

 チンクの視線の先のタカトを見て、ギンガも顔を歪める。

 実際止める手立てがあるかと言えばきっぱりと否である。勝てる要素がこの状況では無い。だが、それでも止めねばならない。

 チラリと傍に眠る二人を見てギンガは思う。シオンの中には未だにスバルとティアナが居る。そしてシオン自身もまた見捨てたくは無かった。だから――。

 

「んっ……」

「え?」

 

 突然、スバルが呻いた。それにギンガが目を見開く。

 ティアナも同様だ。そして二人はゆっくりとその目を開いた。

 

「ギン……姉……?」

「スバル!?」

 

 ギンガが驚きの声をあげて、スバルの傍に膝をつき、手を添えて抱き起こした。

 

「スバル大丈夫? どこも変わった所とか、無い?」

「うん、大丈夫だよ……っ!」

「ティアナ、お前は大丈夫なのかよ?」

「うん……心配無いわ……っ!」

 

 それぞれ異変は無いかと聞くギンガ、ノーヴェに答え。瞬間、二人して目を見開いた。

 即座に互いを見て、シオンへと視線を向ける。タカトと激戦を繰り広げるシオンへと。

 

「「シオンっ!」」

「スバル? ティアナさん?」

 

 叫び、がばりと立ち上がる二人にギンガが目を丸くする。しかし、二人は構わなかった。

 プロテクションの外に無理矢理出ようとする。流石にその二人の行動にN2Rの面々は顔を青ざめ、即座に止めに入った。

 

「だめよ、スバル!?」

「今外がどうなってんのか解ってんのか!?」

「離して、ギン姉!」

「シオンの中にまた戻らないと……!」

「それはどう言うこった、嬢ちゃん達?」

 

 組み付くギンガ達を振り解こうともがくスバルとティアナ。

 その二人に、今の今まで黙っていたアルセイオが口を開く。

 そもそもこの二人が起きて、シオンが未だに感染者状態だというのがもはや異常なのである。

 基本、ダイブで対象の精神世界に入った場合、その対象とは一蓮托生の状態になる。

 共に戻るか。

 共に戻れなくなるか、それしか無いのだ。

 だが、二人は現実として今、自身の身体に戻り、そしてシオンは未だ感染者状態のまま。気にもなると言うものだ。

 そんなアルセイオに、しかし二人は構わない。組み付かれたままシオンに叫ぶ。

 

「「シオンっ!」」

 

 ――直後、シオンが地面に叩き付けられた。タカトが頭をひっ掴み、真下に放ったのだ。

 

    −轟!−

 

 雪が敷き詰められた地面に叩き付けられ、一気に周囲に雪が舞い上がる。

 そして、タカトが急降下を開始した。足を下に向け、地面に俯せで倒れるシオンへと。

 

    −撃!−

 

 踏み抜き。背中に叩き込まれたタカトの足に、シオンがくの字に曲がる。

 直後、タカトがぽつりと口を開いた。

 

「天破紅蓮」

 

    −爆!−

 

 シオンを中心に天地に火柱が突き立つ!

 周りの雪は一気に気化、水蒸気へと変わった。火柱が消えた後には底の見えない穴が開いていた。

 辺りにクレーターが出来ていないのは全ての威力を一点に集中させた結果である。

 火柱は雪だけでは無く、地面すらも蒸発させたのだ。その熱量はいかほどのものというのか。

 

「ぐ、う、る……」

 

 穴からシオンが這い出して来た。再生途中の身体はボロボロ、よく四肢が繋がっているものである。そのシオンに落ちる影。

 

「…………」

 

 タカトであった。感情の消えた顔でシオンを見下ろす。シオンはただ呻くだけ。

 そして、タカトは足を振り上げる。シオンに止めを刺すかのように。

 

「「シオンっ!」」

 

 スバルとティアナが叫ぶ。だが、タカトは構わない。

 振り上げた足をシオンの顔面に叩き込まんと振り下ろし――。

 

「タ、カ兄、ぃ……」

「……っ!」

 

 シオンの口から漏れた言葉に驚愕した。しかし、足は振り下ろされた後だ。そのまま止まらず直進し。

 

    −撃−

 

「シオン」

 

 しかし、無理矢理軌道を曲げて、シオンの顔の傍に突き立った。

 

「う、く……タカ……」

「もういい、口を開くな」

 

 ――シオンの意識が戻った。

 それのみをタカトは確認すると、右手をシオンに向けて突き出す。666の魔法陣が展開した。

 

「……ごめ、ん、なさい……」

「謝る必要は無い。ただお前は――」

 

 最後の最後まで謝ろうとするシオンに、タカトは二年前と同じように微笑した。

 

「ココに戻ってくるだけでいい」

 

    −煌−

 

 次の瞬間、666の魔法陣から虹の光が放たれ、シオンに突き刺さる。

 光が突き立ったシオンの身体からイクスが強制排除されて吹き飛んだ。同時にアヴェンジャーフォームを成す黒の甲冑は砕け、周囲を覆う因子は弾け飛ぶ。

 

 後にはただ、半裸のシオンのみが取り残された。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「う……っ、く……」

 

 ――光が差し込む。

 そんな感覚と共にシオンは目を開いた。

 聖域の空、曇り空が目に最初についた。

 

「あ、シオン! やっと起きた……!」

「この……っ! 心配させて! 何ともなってない?」

 

 直後、スバルとティアナがしがみつく。

 余程心配したのだろう、目尻には涙が浮かんでいた。

 そんな二人にシオンはただ頷くと、自分の身体を見下ろした。

 身体の上には毛布がかけられている。そして周りにはスバルやティアナだけでは無い、N2Rの面々も心配そうに見ていた。

 

「みんな、その、ごめん……」

「本当だぜ」

「こらっ、ノーヴェ!」

「この借りは大きいっスよー?」

 

 ノーヴェとウェンディの言葉にシオンは、ん、とだけ返し頷く。そして、みんなに向き直った。

 

「本当に、みんな、ごめん。ありがとう」

「あー、その、解ったらいいんだよ。解ったら」

「そっスねー」

 

 思ったより素直なシオンの反応に、逆に二人はどぎまぎする。

 そんな二人に、一同に少しだけ笑みが戻る。緊張した場が和らいだ。

 シオンはそのままキョロキョロと辺りを見渡す。

 礼を言わなければいけない人がもう一組いたからだ――だが。

 

「……無尽刀と、あの大剣使いならいないわよ」

 

 ティアナの声に振り向く。そんなシオンに、ティアナはただ頷いた。

 

「……帰った、のか?」

「うん。またな、てだけ伝えてくれって」

 

 スバルが言葉を引き継ぐ。

 その伝言にシオンは苦笑した。格好をつけるのも程があるだろう、と。

 

「イクスは……?」

【ここだ】

 

 声は間近で響いた。シオンの顔の真横、そこにイクスは居た。

 どうやら無事な相棒にシオンはホッと息をつく。

 ……そしてようやく向き直った、最後の一人に。

 

「……タカ兄ぃ」

「…………」

 

 シオンの視線の先、皆より離れて5m先にタカトは居た。シオンをただ見ていて。

 不意に振り返り、背を向けると歩き始めた。

 

「待ってよ、タカ兄ぃ」

「…………」

 

 シオンより響く声。それにタカトは立ち止まった。しかし、振り返らない、背はただ向けたままだ。

 シオンは毛布を身体に巻くとそのまま立ち上がる。

 

「聞きたい事があるんだ」

 

 タカトの背中を真っ直ぐに見据える。もう、迷わないとばかりに。そして口を開く。

 

「アンタは結局、何がしたいんだ? ……創誕って何さ?」

 

 シオンはタカトを見据えたまま問う。

 どうしてもそれだけは聞いて起きたかった。聞かねばならなかった。

 ココロの世界で聞いたタカトの言葉が気になっていたから。

 タカトのフッと笑う声が響いた。

 

「創誕。世界最初の魔法であり、世界最後の魔法だ。創造魔法と呼ばれる魔法でもある。……お前に解りやすく言ってやろう。”事象概念創造魔法”。そう言えば解るだろう?」

「……」

 

 その言葉にシオンは沈黙する。

 事象概念創造魔法。いわば世界を作り直す魔法だ。それをタカトが求める理由は――。

 

「タカ兄ぃは、二年前に”世界”そのものを戻すつもりなのか?」

『『――っ!』』

 

 シオンより放たれた言葉に一同は絶句する。

 特に、スバルとティアナはそれが顕著だ。

 二人はシオンのココロの中でタカトの言葉をシオンと一緒に見ていたから。

 だからシオンの言葉を理解した。タカトはこう言ったのだから。

 

 とり戻す、と。

 

「答える義務は無い」

「やめろよ」

 

 シオンは即座に告げる。

 答える義務は無い、と言う言葉にでは無い。

 創誕そのものをそれは指していた。

 沈黙するタカトにシオンは構わない。続ける。

 

「やめろよ。そんな事。……世界を戻すなんて。個人の感情で今の世界を否定なんてするなよ!」

「ならどうする?」

 

 叫ぶシオンに、タカトの疑問が飛ぶ。

 それにシオンは言葉に詰まり、そしてタカトは構わない。

 

「それで、お前の中に在るアンラマンユをどうするんだ? ……ルシアを、どう治すつもりだ?」

「それ、は……」

「シオン」

 

 立て続けに出されるタカトの言葉に、シオンはぐっと詰まる。

 そんなシオンに、タカトは視線のみをシオンに向けた。

 

「もう、言葉を尽くすという段階はとうに過ぎている。俺は止まらない。創誕を”成す”し。成さないという選択肢は”無い”」

「タカ兄ぃ……」

「止めたければ力ずくで止めるんだな」

 

 それだけをタカトは告げると、シオンから視線を外し、再び歩き始めた。

 もう、話す事は無い、とばかりに。

 その背中をシオンはただ見る。

 視線を逸らさずに、ただ真っ直ぐに。そして呟くように口を開いた。

 

「……止めてみせるさ。絶対に、アンタにやり直しなんてさせない」

 

 そう、タカトの背を見ながら宣言する。

 タカトは何も答えずに、森の中へと消えた。

 

 互いを想う異母兄弟は、互いを想う故に再び離別した。

 

 分かり合える気持ちを抱えたままに。

 

 

(第二十九話に続く)

 

 




次回予告
「聖域での戦いは終わった……兄弟達の、分かりあえる気持ちを抱えたままに」
「兄弟について、イクスが語る内容とは」
「そして、なのはは彼と出会い、一つの別れが訪れる」
「次回、第二十九話『一つの出会い、一つの別れ』」
「彼の事を放っておけない。そう思ったからこその約束」

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