魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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「俺は、罪を犯した。謝っても謝っても、どれくらいの事をしても、決して許されない筈の罪。だけど、あの人は――。魔法少女 リリカルなのはStS,EX、始まります」


第二十八話「少年の願い、青年の決意」(前編)

 

 冬の世界。雪が敷き詰められた聖域の上で、彼等は五度目となる対峙を果たした。

 それをスバルとティアナは彼の後ろから見る。敵である筈の存在、神庭シオンの異母兄、伊織タカトの後ろから。

 

「……シオン」

「ぐ、うる、る」

 

 タカトの呼びかけに、シオンは明白に反応する――いや、怯えるが正しいのか。その反応を見て、タカトはギシリと歯を軋ませた。

 

「タカト、さん?」

「ちょっ、スバル!」

 

 再びタカトの名前を呼ぶスバルに、ティアナは制止をかける。しかし、肝心のタカトはそんな二人に構わなかった。

 

「……イクス」

 

 今度はシオンとユニゾンしたイクスに声をかける。反応は当然無い。だが、別の反応は起きた。シオンの周りに。

 

「あ、ぐ、が、あ……っ!」

「「シオンっ!」」

 

 急に苦し気に呻くシオン、その周囲にポコリポコリと溢れていた因子が激しく動き、怒涛の如く溢れ出した。それにスバル、ティアナが叫び――消えた、シオンが。

 

 ――トン。

 

「へ……?」

「え……?」

 

 同時にスバルとティアナの身体が泳ぐ。優しく突き飛ばされ、左右に分かれるようにだ。それを成したのはタカト。

 いつの間にやら、自分達の真横に移動したタカトが二人を突き飛ばしたのだ。

 直後、タカトの眼前にシオンが現れる!

 右手の鈎爪は既に掲げられ、数瞬も待たずにタカトへと叩き付けるべく動き。

 

    −徹!−

 

 瞬間、上空に跳ね飛んだ。シオンが。タカトがカウンターで、顎を蹴り貫いたのである。

 しかし、シオンは蹴りダメージにも構わない。タカトの真上でくるりと回転。そのまま空中に足場を展開し、それを足掛かりにタカトへと急降下する。

 タカトは構えを取る事さえ無い。再び振り下ろされる鈎爪に、タカトは頭を一つ下げる事で対応した。

 

    −閃−

 

 鈎爪が数瞬前までタカトの頭があった部分を通り過ぎる――次の瞬間、シオンはタカトの”背後に”現れた。

 

「る――!」

「っ……!」

 

 今度こそ自身の反応を越えた動きに、タカトは目を見開いて驚き。

 

    −戟!−

 

 放たれた左の鈎爪と、振り返ったタカトの左腕が交差した。何とか防御に成功したが、体勢が悪かったのかタカトは力負けし、吹き飛ばされる。そして、再びシオンの姿は消失した。

 

「天破紅蓮」

 

    −爆!−

 

 直後、吹き飛ばされた勢いを利用して放った胴回し蹴りと、同時に叩き込まれた天破紅蓮が背後に現れたシオンに叩き込まれる!

 

    −轟!−

 

 蹴りが叩き込まれたシオンを中心に、天を衝く火柱が突き立った。同時に、シオンとタカトがその火柱に断たれるように反対に吹き飛ぶ――。

 

「ぐう、る……!」

「ふぅっ」

 

 ――止まらない。両者ともその姿を消し、火柱が漸く消えた場で再び対峙した。

 

    −戟−

 

    −戟−

 

    −戟!−

 

    −撃−

 

    −撃−

 

    −撃!−

 

 至近で、左右の鈎爪と両の拳がぶつかり合う! 振るわれる左の鈎爪。それをタカトは今度は拳で迎撃せずに逆に踏み込んだ。

 

    −閃−

 

 左右の腕を使った踏み込み。同時にシオンの左の腕を捌き、腹へと両の掌が当てられる。

 

「ひゅっ」

「がっ!」

 

    −破!−

 

 鋭い息吹がタカトの口より吐き出され、シオンがすっ飛んだ。

 ――双纏掌。八極拳の一手だ。転がるシオンにさらにタカトは踏み込む。シオンは、そのまま獣のような勢いで立ち上がる――だが、既に懐へタカトは潜り込んでいた。

 

「天破震雷!」

 

    −破−

 

 再び叩き込まれる両掌! 雷を纏うそれに、シオンの身体は一瞬だけ浮き。

 

    −雷!−

 

 直後、凄まじい雷がシオンを貫く!

 

「る、う……」

 

 そして、身体のそこかしこから煙を上げて、シオンは前のめりに崩れ落ちた。

 

「……シ、シオン?」

 

 あまりの戦いに呆然となっていたスバルが漸く口を開く。だが、シオンは動かない。

 

「あんた……!」

 

 ティアナも動かないシオンを見て、それを成したタカトを睨む――次の瞬間。

 

    −戟!−

 

「ぐっ!」

 

 タカトが吹き飛んだ。

 

「「え……?」」

 

 いきなり吹き飛ばされた彼に二人は唖然となり、同時にそれを見る。シオンの背後にくねる尻尾を。

 さらに因子がシオンの身体に激しく沸き立つのが見えた。再生しているのだ、普通の感染者と同じく。

 

「そこの二人、死にたくなければ下がれ」

 

 タカトから初めてスバルとティアナに声がかかった。だが、スバルもティアナもそれには気付かない。目の前で再生し、立ち上がるシオンを見るだけ。

 

「ほら、何してんだ!」

「スバル!」

 

 いきなり二人の身体が引かれる。ノーヴェとギンガだ。

 スバルとティアナが気付いた時には、その周りにN2Rの面々が居た。二人の手に引かれ、そのまま後ろへと下げられる。

 のそりと立ち上がるシオンに再びタカトが立ち塞がった。

 

「ぐ、うるる!」

「……」

 

 タカトは黙ったまま眼前のシオンを見る。シオンは構わない。四肢を地面につけ、獣のような体勢でタカトと対峙するのみだった。

 

「裏コードALICE入力。前マスター、伊織タカトの名の元に。イクスカリバー管制人格再起動」

 

 ぽつりとタカトが呟くと、シオンがぴくりと反応した。苦し気に呻き出す。だが、タカトはシオンの様子に構わない。

 

「イクス、話せるか?」

【……再……起動……開始……タカト、か……】

 

 ノイズ混じりの声が響く。それはスバル、ティアナ達にとっても聞き覚えのある声だった。

 

「イクス!」

「大丈夫なの!?」

【……あまり、無事では無いな】

 

 スバルとティアナからかけられる声に答えるも、力が無い。二人には構わずにタカトは一歩前に出る。

 

「イクス、何でシオンが感染者化している? 封印を施して二週間しか経っていない筈だ」

【……俺にも、解らん。だが、一つだけ言える事がある】

 

 響くイクスの言葉。それを聞き逃すまいとさらにタカトは前に出る。そして、”それ”を聞いた。

 

【シオンは真実を知ってしまった】

「……なに?」

 

 思わず、イクスに問い直すタカト。その声は、まるで聞きたく無いものを聞いてしまったかのように、微かに震えていた。

 

【……事実は変わらない。シオンは、真実を――】

「……っ」

 

 再び鳴る歯ぎしり。悔し気に、そして哀し気にタカトは顔を歪める。

 そんなタカトの様子に、スバルやティアナ、N2Rの面々は驚いていた。今までのタカトは基本至って無表情であり、まともに話したのもシオンを他とするならばなのは達しかいない。それが今、感情を表に出している。

 

「う、ぐ、う!」

【済まない、俺は……!】

「イクス」

【タカト、シオンを――!】

 

 最後まで言えなかった。イクスの声が途絶える。そして同時に、シオンの背後に生まれ出る無数の剣群。

 それを見てタカトから表情が消えた、このスキルは――!

 

「人様のスキル使いまくってんじゃねぇって」

 

 −ソードメイカー・ラハブ−

 

    −轟!−

 

 響く鍵となる言葉と共に、無数の剣群がシオンが生み出していた剣群にぶつかる。

 それは再び相殺。金属が砕き合う音と共に剣群は地面に落ちた。

 それを見て、それを成した人物にタカトは目を移す。

 その人物はタカトに生まれて初めて、死ぬかもと思わせた男であった。

 

「無尽刀の――?」

「おう。覚えていたみたいで光栄だぜ、伊織」

 

 笑い、再び剣群を背中に従えながら無尽刀、アルセイオが歩いて来る。シオンとタカトから対角線になる位置へと。

 こうして、十年ぶりにアルセイオとタカトは出会ったのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 三角を描く位置で三者は対峙する。シオンへの警戒は緩めぬままに、タカトはその男を見ていた。

 十年前には髭を生やしていなかったので、今の今まで解らなかったのだが。

 

「……なんであんたがここに居る? 何をしていた」

 

 疑問をアルセイオへと投げかける。それに、少しだけアルセイオは笑った。

 

「どっちも秘密だ。……まぁ、坊主に関係ある事さ」

「今さらですがね」

「真藤ソラ。お前まで……」

 

 そこで漸く気付いた、かつての同僚の存在に――そして、その足元に展開する魔法陣と、魔法式にも。

 

「……ダイブか」

「ご明察。たった今、永唱完了した所だ。……相変わらず見ただけで魔法式を読み取るんだな」

 

 タカトの言葉にため息混じりでソラが答えた。アルセイオもニヤリと笑う。

 

「そこの嬢ちゃん達がダイブで坊主を助けに行きたいんだと。で、俺達はその協力だな」

「一銭の得にもならない気まぐれですがね」

「……」

 

 その言葉に、タカトはスバル達へと視線を向ける。彼の視線に、スバル、ティアナは少しだけたじろいだ。

 

「お前達が、シオンの中に?」

「うん」

「そうよ」

 

 問いに二人は即座に答える。タカトはスッと視線を強めた。

 

「……無理だ。ダイブだけではシオンの感染者化は解けない」

「そんなの……!」

「解る」

 

 きっぱりとタカトは言う。あまりにもはっきりとした物言いに、ティアナも二の口が告げなかった。

 

「だけでは、な。そう言うからには確証があるってこった。伊織、お前は何を知ってんだ?」

「……」

 

 横合いからアルセイオが口を挟む。しかし、タカトはそれに沈黙、答えない。

 

「……お前が咎人の嬢ちゃんを手に掛けた事と関係すんのか?」

「答えるつもりは無い」

 

 にべも無い。視線すら向けずにタカトは答えを拒否し――それに、と続ける。

 

「……そこの二人がダイブするのだろう? なら、一緒に真実も見る筈だ。後で聞け」

「……真実?」

 

 スバルからの声に、タカトはぷいっと顔を背けるようにシオンへと視線を移す。

 同時にその右手に魔法陣が展開する、666の魔法が。

 

「ダイブだけではシオンの感染者化は解けない。だけでは、な。シオンの外から刻印を刻んで封印を施す」

「「っ――!」」

 

 その言葉に、スバルとティアナはタカトを睨む。だがそんな二人の視線をタカトは苦笑と共に流した。

 

「……心配する必要は無い。シオンは意識不明にならない。……出来ないと言ったほうが正しいか」

「それ、どう言う――」

「答える義務は無い」

 

 相変わらずタカトの返事は素っ気無い。そのまま今度はアルセイオを見る。

 

「無尽刀、何故協力するのかは聞かないが、協力するからにはあてにさせてもらう」

「心配すんな。こっちとしてもその積もりだ」

 

 くっと、かつての敵は笑う。続いてアルセイオは話しの内容に今一つ着いて来れなかったN2Rの面々に目を向けた。

 

「そこの嬢ちゃん達はどうすんだ?」

「どうするって言われても……」

「話しが今一解らなくて」

 

 そもそも来てみたらシオンが感染者となっていて暴走しているわ、なのは達の報告にあった魔導師達は居るわ、666こと伊織タカトは居るわで少し混乱していたのである。状況を察しろと言う方が無理であろう。

 

「事情説明の暇は無い。手伝うなら手伝え」

「……とりあえず、シオン君を足止めすればいいんですか?」

「そう言うこったな」

 

 アルセイオの答えに少しだけ彼女達は目配せし、そして頷き合った。

 

「現場の判断と言う事で、今は貴方達に協力します」

「おーらい」

「頼む」

 

 ギンガの言葉に、アルセイオ、タカトが頷く。そして、シオンへと視線を向けた。

 シオンは動かない。まるで機を狙うが如く、四肢を獣よろしく地面につけたまま唸るだけであった。

 

「俺達二人は?」

「あの二人がダイブでシオンを起こすまでの時間稼ぎを俺達が前に出て行う。出来るか?」

「ああ? 誰に聞いてる積もりだ?」

 

 肩にダインスレイフを担ぎ、アルセイオが答える。それにタカトが苦笑して頷いた。そして、再度スバル、ティアナに視線を向ける。

 

「……何?」

「いや、名前を聞いていなかったと思っただけだ。聞いても?」

 

 タカトの問いに二人は少したじろぎ。だが、共に頷き合った。

 

「スバル・ナカジマです」

「ティアナ・ランスターよ」

「スバルにティアナか……良い名だ、気に入った」

 

 二人に向けてニッと笑う。その笑いは、二人にとって見覚えのある笑顔であった。シオンに良く似た笑顔。

 

「……シオンを頼む」

 

 呟くような一言。それをスバル、ティアナは聞き、同時にタカトはシオンに向けて駆け出した。そんなタカトの背中を見て、二人は再度頷き合った。

 

「「はい」」

 

 そして、彼女達はソラに向かった。

 

 シオンへとダイブする為に。

 シオンを取り戻す為に――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 タカトが飛び出すと同時にシオンも一気に駆け出した。同時に背後に生まれる剣群。

 しかし、それは生まれると同時に、全て破砕された。

 タカトの後ろから駆けるアルセイオが、やはり剣群を生み出し、全て迎撃したのだ。

 

「アレは任せろや」

「スキルを喰らわれた人間が良く言う」

 

 アルセイオの台詞に愚痴りながらも駆ける速度を緩め無い。シオンもまた、その速度を殺さなかった。

 

「ひゅっ」

「が、あっ!」

 

    −戟!−

 

 再びぶつかる拳と鈎爪。だが、そこで二人は止まらない。シオンが振るう左の鈎爪をタカトはやはり左手で捌き、右拳を振りかぶる。震脚、踏み込みと同時に拳が放たれる――。

 

    −破−

 

「っ」

「ぐう、る」

 

 そして、タカトは目を見開いて息を飲んだ。自身の拳がシオンの掌に止められたからだ。ごく、あっさりと。

 タカトの打撃は魔法を介さずとも、AA+相当の威力を叩き出す。それをあっさりと止められたのだ、驚きもする。

 さらに、シオンの背後から首を擡げる三本の尻尾がタカトへと放たれる――だが。

 

「IS、ヘヴィ・バレル」

 

 そんな声をタカトは背後から聞いた。力を抜き背後に倒れ込むと、シオンの腹へと右足を叩き付け、背後へと投げ飛ばす。

 巴投げだ。くるりとシオンは空中で回転し――直後、光の一撃がその背中を打撃した。

 

    −撃!−

 

 轟音が聖域に響く。同時に煙がぶあっと広がった。その煙を突っ切るようにして、シオンは吹き飛ぶ。しかし空中でくるりと回転し、宙に足場を展開して踏み止まって見せた。

 

「が、う」

「どこ見てんだっ!」

 

 叫びと共に、シオンの背後に影が射す。ノーヴェだ。エアライナーで一気に駆け、シオンへと突っ込んで来たノーヴェはその場でくるりと回転。脚に装備したジェットエッジのスピナーも回転し、さらにブースターが火を吹く!

 

「おらぁっ!」

 

 咆哮と共に放たれるリボルバースパイク! それに対し、シオンはただ左手を突き出した。

 

    −戟!−

 

 轟撃! 凄まじい音が鳴り響く。しかし、ノーヴェは自身の蹴りの結果に目を見開いて硬直した。

 鈎爪が備えられた片手が、あっさりとその一撃を受け止めていたのだ。

 

「離れてろ、たわけ!」

 

 直後に叫びが放たれる、タカトだ。

 煙を突っ切って、一気に空へと駆ける。突っ込んで来るタカトにシオンもまた止まらない。左手に掴んだ脚を振り回す。それはつまり、ノーヴェを振り回すと言う事だった。

 こん棒よろしく振り回されるノーヴェ。だが、タカトは踏み止まら無い。両手でノーヴェを受け止めると、その勢いを前進で受け流す。そして。

 

    −撃!−

 

 吹き飛んだ――シオンが。

 顔面を蹴り飛ばされたらしく、顔を背けたまま後ろへとすっ飛んでいく。

 タカトはノーヴェを受け止め、その勢いを受け流しざまに、シオンの顔面に蹴りを叩き込んだのか。

 蹴り飛ばされ、しかし再び宙に留まるシオン。タカトはそれを見遣りつつ、受け止めたノーヴェを傍らのエアライナーに下ろした。

 

「あ……」

「手伝うのはいいが、せめて邪魔をするな」

「ご、ごめん」

 

 普段なら反発するノーヴェだが、何故かこの時は素直に頷いた。

 タカトはもうノーヴェに視線を向けず、シオンへと視線を戻す――直後に目を見開いた。

 シオンが口をがばりと開いていたのだ。さらに、その口内に光球が収束する。

 

「ちぃっ!」

 

 それを見て、タカトも即座に両手を腰溜に構える。

 同時にその両掌に生まれ、収束する光球。それは、シオンが生み出したものと同じで魔法だった。

 

「が、あぁぁ!」

「天破、光覇弾!」

 

 口から、そして突き出した掌から、光球が螺旋を描き、回転と共に放たれる。

 それは放たれると同時に特大の光弾へと変化。迷い無く互いの標的へと突き進み、そしてぶつかり合う!

 

    −轟!−

 

 光がぶつかり合い、逆回転の螺旋を叩きつけ合う。そして。

 

    −裂!−

 

 弾け合い、喰らい合う! 直後、激烈な音と共に衝撃と爆音、爆煙を発生させた。

 

「今の――」

「……」

 

 よく似てる――を飛び越えて、全く同じ砲撃だった。それに苦い顔を浮かべるタカト、だが。

 

 −閃・閃・閃・閃−

 

 煙を引き裂き、現れる大剣群! タカトはくっと唸り。だが、直後に真下から無数の剣群がその剣群を襲い、相殺し合った。

 

「……礼は言わない」

「期待してねぇよ」

 

 それを成した人物、アルセイオに、しかしタカトは視線を向けずに言葉だけを放った。

 アルセイオはそんなタカトに苦笑しつつ、その横に並ぶ。

 

「今の砲撃だがよ」

「聞く必要は無いだろう、あんたと同じだ」

 

 やはり。自分の想像が当たっていた事にアルセイオは額を押さえた。

 先程の砲撃、おそらくはタカトの砲撃技だったのだろうが、これもまた”喰われた”のだろう。厄介に、厄介な能力であった。

 

「何だ、ありゃあよ。スキルを喰らう能力なんぞ聞いた事もねぇぞ」

「奇遇だな。俺もアレ以外には知らん」

 

 タカトの答えにアルセイオは嘆息するが、タカトは視線を向けない。

 

「一応、俺は暴食(グラトニー)と名付けている」

「七大罪の一つか」

 

 七大罪、暴食。ある意味ぴったりな名前ではある。

 

「聞いた話しだが、魔法だけでは無く、魔法に関連したあらゆるものを喰らう事が出来るそうだ。……レアスキルや、アビリティースキルも例外では無いらしい」

「どんな反則技だ、そりゃあよ」

 

 再度ため息を吐き出し、しかしふと気付く――聞いた?

 

「おい。聞いたってのは……!」

「ダイブの準備が完了したようだな」

 

 アルセイオからの問いに、タカトは構わない。そのまま下に目を向ける。

 ソラが展開する魔法陣、そこにスバル、ティアナが待機し、こちらを見ていた。準備は完了、後は――。

 

「どうやって坊主にダイブさせるか、だな」

 

 そこが唯一の問題点。ダイブの術式をシオンに打ち込まなくてはならない。

 今のシオンが、素直にそれを打ち込ませる筈も無い訳だが。

 

「案じる必要は無い。俺に手がある」

 

 ぽつりと呟くように答え、タカトは下に降りて行く。アルセイオもそれに続こうとして、だが、同時に煙を突っ切り突進する影があった。

 シオンだ。彼は、下降する二人に向けて一気に駆けて来る。

 

「IS……」

 

 次の瞬間、その眼前に無数の投げナイフが現れた。チンクの固有武装、スティンガーである。包囲するかのように展開した刃に、たたらを踏むようにシオンは踏み止まり、だがスティンガーは止まらない。シオンへと一気に放たれる!

 

「ランブル・デトネイター!」

 

    −爆!−

 

 シオンへと殺到し、爆裂するスティンガー! 聖域に爆音が響いた。

 

「早く行け伊織! それとそこの髭は行く必要は無いだろう!」

「……ダンディの象徴を」

 

 下からチンクの叫び声が響く。それにアルセイオは苦笑し、下降を止めた。

 そして、アルセイオの横にウィングロードが走り、ギンガが並ぶ。後ろにはウェンディも居た。

 

「私達も援護します」

「足を引っ張らないように頼むっスよ?」

「こいつは手厳しい」

 

 二人に苦笑し、アルセイオは視線を、煙が立ち上る場所に向ける。直後、漆黒の魔力が疾り、煙を吹き散らした。その中央に居るのは、黒の甲冑。シオンだ。

 

「来るぞ、嬢ちゃん達。構えろ」

「が、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 そして、雄叫びを上げてシオンが駆け出した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 上空で再び響く爆音。それに構わず、タカトはソラの、そしてスバル、ティアナの眼前に降り立った。

 

「……伊織」

「後は任せろ」

 

 右手を突き出す。そこに展開するのは666の魔法陣だ。それをソラと自分達に向けられ、スバル、ティアナは流石に焦る。

 

「ちょっ!?」

「何をするつもり!?」

「……」

 

 慌てる二人にタカトは構わない。右手から虹色の光が疾る。

 光はスバル、ティアナを避け、ソラに――いや、その大剣に突き立った。

 

「これは……!?」

 

 驚きの声を上げるソラに、しかしタカトは構わない。大剣から”何か”を引きずり出す。それは、そのままタカトの右手に吸い込まれた。

 

「まさか……術式を?」

「答えるつもりは無い」

 

 目を見開くソラに、やはりタカトは構わない。スバル、ティアナへと視線を移した。

 

「今からダイブで君達の精神を”撃ち放つ”。準備はいいか?」

「撃ち……?」

 

 タカトの妙な言い回しに二人は訝し気に首を傾げる。だが、とことんタカトは構わなかった。再び、その右手を掲げる。同時に展開するのは666の魔法陣だ。それを今度は上空のシオンへと差し向ける。

 

「二人共、俺の近くに」

「「?」」

 

 疑問符を浮かべつつも、二人はタカトの真後ろに移動する。そして、タカトの足元に、八角の魔法陣が展開した。それはスバル、ティアナの足元にまで広がる。

 

「二人共、目を閉じろ」

 

 タカトからの指示に二人は一瞬だけ視線を交わし、しかし素直に頷いた。目を閉じる。

 

「深呼吸しろ。続いて、自身の内へと精神集中」

 

 スウっと深呼吸を行い、それを繰り返す。深呼吸を繰り返す度に、自身の意識が内に向かう事を二人は自覚した。

 

「よし。精神の乖離を確認。……二人共、準備はいいな」

「はい」

「いつでも大丈夫よ」

 

 頷く。それをタカトは確認。そして、右手をシオンに向け、呼吸を合わせるように深呼吸を開始。

 動き回るシオンにまるで繋がるように、掌が動く。

 そしてアルセイオが大剣群を放ち、それに足止めを喰らってシオンが立ち止まるのが見えた。タカトはくっと息を飲む。

 

「ダイブ発動、行って来い!」

 

    −煌−

 

 次の瞬間、スバル、ティアナの精神は、タカトの右手から先程の言葉通りに”撃ち放たれた”。虹の光となり。一気にシオンへと突き進む! それにシオンは光を喰らわんと口を開き――。

 

 ――シオン!

 

「っ、が!」

 

 だが、いきなり硬直した。虹色の光がシオンに突き刺さる!

 二人はそのままシオンの中へと入っていった。

 

「……伊織、お前」

「ここからだ。あの二人がシオンを起こせるかどうか……賭けだな」

 

 倒れそうになったスバル、ティアナを抱き止め、雪の上にそっと寝かせる。そして、と呟いた。

 

「俺達が、もつかどうかか」

 

 その言葉に応えるかのように、ムクリとシオンが立ち上がる。そして、天へと再び咆哮を上げたのだった。

 

(中編に続く)

 

 

 




はい、第二十八話前編でした♪
この第二十八話はノンストップで暗いお話しとなります。
鬱展開ですが、これに匹敵するのは、それこそミッド編の最新話くらいでしょう。覚悟はしてましたが、感想凄かった……(笑)
こちらではどうなるか分かりませんが、お楽しみにですよー♪
では、中編にてお会いしましょう♪
ではでは♪

PS:やはり我慢出来ず、SAOの小説書き初めました(笑)

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