魔法少女 リリカルなのはStS,EX 作:ラナ・テスタメント
シオンが家出した翌日、本局内をアースラ艦長である八神はやては歩いていた。
その前にはウィンドウが展開し、通信でアースラの管制官、シャリオ・フィニーノ――通称シャーリーと話していた。
《艦内の主要設備の修理完了確認しました。アースラ、いつでも出航出来ます》
「ん、了解や。……ところでシオン君とイクスは?」
報告に頷き、もう一つ気になっている事を聞く。それにシャーリーは『あはは……』と、弱々しく笑った。
《……朝から通信は送っているんですけど》
「出ない訳やね」
苦笑する。イクスが定期連絡を送ってくれていたのだが、途中で知り合ったと言う男性とシオンに、通信の真っ最中、横から無理矢理飲まされたらしい。
二人に気付かれる前に通信を閉じたようだが、あの様子ではイクスもダウンしているだろう。
《どうします?》
「一先ずアースラは先に出航や。二人には後で合流してもらお」
幸いにもアースラは本局間と直接転送が出来る。二人の合流には何も問題は無かった。
「やあ、八神部隊長」
そこでいきなり、はやてに声が掛かった。取り敢えず通信を終了してウィンドウを閉じる。そして、声を掛けた人物に目を向けた。
「……グリム・アーチル提督」
「かの有名な八神艦長に名を覚えられるとは、光栄の極みだな」
――忘れる筈無やろー。
はやては笑顔を”作った”ままで、そう思う。
グリム・アーチル。最初にグノーシスとの交渉を受け持った人物であり、危うく両者を激突させかねないようなマネをした人物であった。
「それにしても、新造の次元航行艦を早々とオーバーホールですか。貴女もヤキが回って来ましたかな?」
……やっぱり来たか。笑顔の裏で、はやては嘆息する。
グリムお得意のいびりである。六課時代も、散々に聞いてきた訳だが――。
だからと言って腹が立たない訳も無い。今もグリムは『こんな歳の』に始まり、『元犯罪者』やら、『あれほどの戦力があって一個人にどうやって』だの饒舌にはやてに言ってくる。それに対して、はやては笑うだけだ。
歳や過去の件について言われる事は覚悟しているし、正直、思いたくは無いが言われ慣れている。
一個人(タカト)に負けた事についても、言われる事はある程度予想はしていた。
「第一次元航行部隊が一個人に敗走させられると言う事がどれだけの意味を持つのか、解っているのかね?」
「どういう意味でしょう?」
あえて、聞き直す。それにグリムは途端に苛立ちを顔に塗り付け、歪ませる。
「決まっているだろう? 次元世界の”代表者”たる我々の威信に関わる問題なのだよ!?」
……そう言うて思った。
グリムに見えないように、はやては嘆息する。グリムのような”勘違い”をしている人物。実は、管理局には少なからずいるのだ。自分達が、次元世界の統一者のような考え方をしている人達が。
本来、管理局の定義とは法の守護者だ。そして、それ以上でも以下でも無い。あってはならないのだ。
「聞いているのか!? 八神艦長!」
「勿論です、提督」
怒鳴るグリムに、やはりはやては動じない。そんなはやての態度にグリムは露骨に舌打ちする。そして、再び声を張り上げようと息を吸い――。
《艦長!》
いきなり開いたウィンドウと響く声に、声を出すタイミングを見失って沈黙した。
そんなグリムを少しおかしくは思うが、相変わらず顔には出さないまま声の主、シャーリーに答える。
「シャーリー、どないしたん? 大声を上げて……」
《あ、いえ……すみません。お話し中でしたか?》
「ええよ。その様子やと緊急の用件やろ? ……宜しいですね、アーチル提督?」
「……うむ」
何かを言いた気な顔ではあったが、はやてはあえてそれを無視。再度シャーリーに向き直る。
「で、何があったんや?」
《はい。本局から連絡。新たな感染者が現れたそうで、至急アースラに出動せよと命令が下されました》
その報告を聞いて、はやては頷いた。幸い、アースラの修理は完了している。
「了解や。詳しい話しは艦に戻ってから聞くな?」
《はい、了解です!》
シャーリーが頷き、通信終了。ウィンドウが閉じた。
そして、はやてはそのままグリムに向き直る。
「そう言う事ですので提督。お話しはまた今度と言う事で」
「……まぁ、いいだろう」
グリムの返答。それに、はやてはおや? と小首を傾げた。いつもの反応だと、それはそれは嫌そうな顔をするものなのだが。ついでに文句も付いてくる。
だが、今日はやけに大人しい。しかし、はやてとしてもそんな事に思考を割いている時間は無い。
グリムに一礼すると、アースラを係留しているドックに向かった。
そんなはやての後ろ姿を見送って、グリムはチッと舌打ちする。相変わらずいけ好かない小娘だと、そう思う。
ウィンドウを展開。操作し、通信を行う。そして、通信の相手に一言を放った。
「仕事だ。無尽刀」
――ウィンドウの向こう側で、その相手が笑い声を上げた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……頭痛ぇ」
【……あれだけ飲めば流石にな】
開口一番。ホテルの一室で起きぬけにシオンは頭を抱えてぼやいた。それにミニサイズとなったイクスが同じく額を押さえて答える。二人共、完璧に二日酔いであった。
「……おっちゃんは?」
【朝方出て行ったみたいだな。チェックアウトもしてあるようだ】
テーブルの上にある紙をシオンの前に持ってくる。書き置きだ。それをシオンは読み、最後の一文、『坊主、またな』と言う部分に苦笑した。
「……面白い人、だったよな」
【そうだな】
イクスもまた苦笑する。
アルセイオ・ハーディン。不思議な男であった。懐がでかいと言うべきか。彼との出会いによって、少なからずシオンの悩みは晴れてもいた。
と、言うより初めて尽くしのシオンに答えが出せる筈も無かったのだが。
「よっし、アースラに帰るか!」
【その前に通信だな。……”お話し”も待ってるだろうし】
――お話し。その単語を聞き、先程の勢いをシオンは無くした。
もしその頭に犬のような耳があれば、ペタンと倒れていただろう。弱々しく笑う。
「……やっぱ、もうちょっと帰るの待つか?」
【結果は変わらんのだから、引き延ばすだけ無駄だろう。ついでにさらに時間が増える可能性もあるしな】
何の時間かはもはや問うまでも無い。シオンは重い重い(自業自得)、ため息を吐いて、アースラに通信を繋げる。
【シオン君?】
「ども、シャーリーさん。はやて先生います?」
シオンの問いにシャーリーは苦笑する。そして、そのままウィンドウの向こうでコンソールを操作。すると、ウィンドウの画面が変わった。そこは。
「ブリーフィングルーム?」
《お。シオン君、起きたんやな〜〜》
シオンが疑問の声を上げると同時、はやてがウィンドウの向こう側に現れた。なのはや、ヴィータ。その向こう側に――スバルとティアナの姿も見える。
「えっと、その――すみませんでした」
《ええよ♪ 後でゆっくり、じっくり、ねっぷり三人の先生とお話ししような〜〜♪》
「……はい」
《その後は訓練室でお話し、しようね?》
「…………はい」
《ま、頑張れよ。シオン》
「……そう言ってくれるのはヴィータさんだけです」
先生二人のお言葉に、未来に待つ強烈なお話し(何故かなのはの迫力五割増し)を予想してしまい、シオンは心の中で涙を流した。
「……それと、スバル、ティアナ」
《え、えっと……!》
《その……!》
シオンに声を掛けられ、慌てる二人にシオンは苦笑する。
――昨日は俺もこうだったんだよな、と。
そのままの笑みで二人に告げた。
「俺はもう大丈夫だから。だから二人共、いつも通りによろしくな?」
《あ……う、うん》
《……分かったわ》
その言葉にスバル、ティアナは、二人揃って安心した顔になった。二人もまた怖かったのだ。シオンとの関係が壊れる事が。
それをシオンは大丈夫と言った。壊すなんて事は無いと。だから、二人もまた安心したのだ。……だが、二人の顔には若干の寂しさもあった。
《……話し、進めてもいいやろか?》
「と、そうだった。俺もすぐにアースラに――」
自分の登場で話しが脱線している事を感じて、シオンが謝る。だが、はやては首を横に振った。
《いや、それは大丈夫やよ? それよりシオン君、体調は大丈夫なん?》
「はい、何とか」
【……体調?】
それまで無言を貫いていたイクスが眉を上げて聞き直す。シオンは苦笑した。
「そういやイクス知らないんだっけか。俺、昨日風邪でぶっ倒れてさ」
【……お前と言う奴は】
流石にイクスは呆れ返る。昨日、シオンは酒を飲み、さらに雨にまで打たれていたのだ。とても大丈夫とは思えない。
【シオン、ちょっと動くな】
「ん……?」
イクスがミニサイズのまま、シオンの額に自分の額を当てる。熱を計っているのだ。暫くして、額を離す。
【37℃きっかりか】
「な? 大丈夫だろ?」
微熱ではあるが、確かにこの程度ならば大丈夫だろう。イクスは漸く頷いた。
【すまないな、八神艦長。……どうした?】
《いや、な、なんでもないよ?》
何故か顔を赤くするブリーフィングルームの面々。シオンとイクスは、そんな皆の反応に? マークを浮かべた。
《と、取り敢えずは大丈夫なんやね?》
「はぁ。まぁ大丈夫です」
若干の動揺が混じったはやての言葉にシオンは不思議そうな顔のまま頷く。はやて達も気息を整え、改めて向き直った。
《シオン君にはアースラに戻らんと、直接転移してもおっか》
「……? 何の話しです?」
はやての言葉に、シオンが更に疑問符を浮かべる。それに、はやては頷いた。
《……シオン君、止めても聞かんやろうしな。新しい感染者が出たんよ》
「成る程ね」
シオンも頷く。確かに今からアースラに戻るより、直接転移許可を貰って、自分で次元転移する方が早い。
「それで、どんな状況なんですか?」
《うん。出現した感染者は一体、ゴーレムタイプや。出撃するんはスターズ少隊。……問題は、場所なんや》
「場所?」
シオンの疑問にはやては再度頷く。そしてコンソールを操作。シオンの元にデータを転送する。それを見て、シオンは思わず目を見張った。
「聖、域……」
その場所、その世界、それが何を意味しているか理解して、シオンは息を飲んだ――。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――聖域。それは無人世界の一つである。
管理内外どちらの区分にも含まれ無い世界だ。
一見、普通の惑星のように見える。だが問題はその惑星の、とある場所であった。
山を二つ重ねたより巨きな樹がそびえ立ち、それを中心に木々が聳える森。その広大さは一つの島に匹敵していた。
そして、その森にはある特殊なものがある。それは、魔法が発動しないと言う事だった。
使え無いではない。
使わないでもない。
そもそもとして、発動しないのだ。
AMFが張られている訳でも無い。なのに、魔法は発動しない。
理由については諸説あるものの、未だ解明されていない現象だ。それ故、管理局も、この聖域を不可侵領域としていたのだった――閑話休題。
そんな聖域の近くに感染者が現れた。しかも、存在する筈の無いゴーレムの感染者だ。
またもや不可解な転移によって現れた可能性も捨てきれ無い。
聖域のある場所では雪が降っていた。おそらく、ここでは冬なのだろう。
しんしんと降る雪の中を、アルトが操るヘリが飛んでいく。スターズ分隊だ。アースラは、聖域に到着後、ヘリにてスターズ分隊を出撃させた。
アースラ自身は聖域に下手に近寄ると墜ちる可能性がある為、離れた所で待機している。
ヘリの中。その中で、ティアナとスバルは互いにそわそわしていた。
――気まずい。もの凄く気まずい。
同じヘリに乗るなのは、ヴィータ、リインも、そんな二人の空気を察知していた――が、気にするなとも言えず、沈黙していた。
「「あの……っ」」
互いに意を決して向き直るものの、普段の呼吸の合い方が逆に災いした。
重なる声に二人はタイミングを逸して、また黙り込む。それを見て、嘆息するなのは達。なんとかしてはやりたいのだが――。
「なのは隊長、降下ポイントに着きましたけど」
「あ、うん」
アルトの声に頷き、なのははスバル、ティアナに向き直る。そして二人の肩に手を置いた。
「二人共、解ってるとは思うけど」
「はい!」
「大丈夫です!」
なのはの言葉に即座に頷く二人。しかし、それでもどこかギクシャクした感じは否めない。
「なのは、先行くぞ?」
「あ、うん。……二人共、最後の確認だよ。行ける?」
「「はい!!」」
迷い無く頷く二人に、なのははしかし、まだ不安な顔になる。だが、時間は待たない。なのはも頷き、二人から離れる。そして、ヘリのハッチが開いた。全員その前に立つと、頷き合う。
「行くよ、皆。スターズ1、高町なのは」
「スターズ2、ヴィータ」
「スターズ3、スバル・ナカジマ」
「スターズ4、ティアナ・ランスター」
「ブルー、リインフォースⅡ」
『『行きますっ!/出るぞっ!』』
叫び、一気に全員ハッチから飛び降りる。直後、四色の光が空に灯った。
デバイスを起動し、バリアジャケットを纏ったのだ。そのまま五人は一気に降下していく。
聖域の近く、感染者の出現位置へと向かって行った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
聖域を見下ろす崖。そこに”それ”はいた。石で出来た身体。その身体はおよそ七メートル程か。その身体には当然、アポカリプス因子が纏わり付いていた。感染者だ。
ゴーレムの感染者は、その自重で辺りを振動させながら進む。向かう先はただ一つ、聖域であった。
進む、進む、迷わずに進む。そこに意思の介在の余地があるかは解らない。だが、ただ進み続ける。
崖の下には広大な森が広がっていた。雪化粧をされた美しい森だ。そこは聖域と呼ばれる場所だ。そこに感染者は侵入しようとするが如く進み――。
「ディバイン……! バスタ――ァァ!」
−煌!−
突如として放たれた光の砲撃に背中を叩かれ、雪が敷き詰められた地面に叩き付けられた。石で出来た身体は砕け、しかし即座に再生を開始する。それを、なのはは感染者の背後に飛んだまま見る――と同時、感染者の足が凍りついた。
リインのフリーレン・フェッセルン、凍結型拘束魔法だ。リインはなのはの頭上に浮かんでいた。彼女は手を翳したまま叫ぶ。
「ヴィータちゃん! スバル!」
その声に応えるように赤と青が疾る。ヴィータとスバルだ。
片や飛行魔法で、片やウィングロードで疾駆していく。それに感づいたのだろう。
いきなり感染者が自らの足に拳を叩き込む。鈍い音と共に膝が砕けた。地面へと倒れこむが、すぐに再生。拘束から逃れた。だが、遅い。
「突っ込め、スバル!」
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」
ヴィータはその場で急停止。スバルはそのまま突っ込む。
そしてヴィータは自らのデバイス、グラーフ アイゼンを振るった。カートリッジロード!
【ギガント・フォルム!】
高らかに叫びを上げてグラーフアイゼンの先端部分が変化。巨大なハンマーへと姿を変える。さらにヴィータは頭上に手を掲げた。そこにあるのはこれまた巨大な鉄球だ。
ヴィータはその鉄球に向かい、巨大な鎚を振り上げる。
【コメット・フリーゲン!】
「ぶち抜け――っ!」
−撃!−
−弾!−
巨鎚を鉄球に叩き付け、一気に打ち放つ! それは急速度で感染者に迫り、立ち上がろうと手を地面に着く感染者の右肘に着弾した。
−撃!−
鉄球の一撃は感染者の肘をヴィータの宣言通りぶち抜き、その右肘を砕き断った。そして、そこで終わらない。
「クロスファイア――――! シュートっ!」
−閃!−
感染者の左側。そこにオプテック・ハイドで隠れていたティアナが現れる。同時に撃ち放たれる二十の光弾。それは精密なコントロールを持って、感染者の全身を叩く。光芒が閃き、全身を叩かれて苦悶の叫びを上げる感染者。
そこに、一気にスバルが飛び込んだ。構え、左手に浮かぶ光球。それを右のリボルバーナックルが撃ち抜き、スバルは突貫する!
「ディバインっ! ブレイカ――――っ!」
−轟!−
光を纏った彼女は全身ごと感染者の胸部に突っ込み、前進力を余す事無く注ぎ込む! 次の瞬間。
−撃!−
スバルは感染者をぶち抜いて、その背中に突き抜けた。
衝撃でのけ反る感染者。因子が再生しようとするが、それをなのはとティアナが許さない。
「ディバイン……! バスタ――っ!」
「ファントム……! ブレイザ――っ!」
−煌!−
−轟!−
−裂!−
感染者の右側に回ったなのはと、左側のティアナ。両側から放たれた光砲が、感染者をさらに破砕していく。そして。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!」
感染者の頭上から真っ直ぐに降る存在がいる。ヴィータだ。両側の砲撃は同時にカット。だが、感染者の全身には皹が入り、動けない。
その感染者に、ヴィータは容赦無く、その巨大な鎚を頭に叩き込んだ。
−轟!−
−撃!−
−砕!−
轟天爆砕! その名の通り、鎚はその威力を発揮。感染の頭と言わず、全身を完全に砕いた。
そして、感染者は、ようやく塵へと還っていったのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
塵へと還った感染者。それを確認して、なのはは息を吐く。懸念した事態――つまり感染者の聖域への侵入を止められて安心したのだ。
そしてスバル、ティアナが変わらず息の合った連携を出来た事にホッとしていた。手を振るスバルに、ティアナが微笑む。その様子に、ヴィータもフッと笑う。どうやら、自分達の心配事は大丈夫だと理解したから。
やがて五人は雪の上に降り立ち、集合する。
「なんとか、無事に終わったね」
「だな。二人共、心配してたような事にはならなかったみてーだしな?」
「あはは……」
「心配かけて、すみません……」
苦笑するスバル、ティアナ。その中間にリインが浮かび微笑む。だが、彼女はふと小首を傾げた。
【そう言えば、肝心のシオン。来ませんですね?】
「そういや、そーだな」
ミッドから直接転移した筈のシオンだが、未だに顔を見せていなかった。
それにスバル、ティアナは複雑そうな顔になる。会いたいけど、会ってもどんな顔をしていいのか解らない。そんな顔だ。なのはとヴィータは二人に苦笑し、帰還を告げようとして。
「取り敢えず、ヘリに戻ってアースラに戻ろ――」
「ところが、そうはいかねぇんだなーこれが」
――次の瞬間。
−撃!−
−撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃−
−撃!−
――剣が、大剣が、巨剣が! 幾千、幾万の剣達が、五人の周りに降り注ぎ、突き立った。
「きゃ……っ!?」
「っ! なんだ、これっ!?」
あまりの攻撃に雪が吹き飛ばされ、煙が立ち込める。
それが晴れた時、一同が見たのは信じ難い光景であった。
雪が広がる崖。そのほぼ全域に剣が突き立っていたのだ。
回避、防御も不可能なタイミングで、これだけの範囲の攻撃。やろうと思えば、自分達を殲滅する事すらも簡単に出来た筈だ。
絶句する一同に、進み出てくる一団がある。五人組の男女だ。そのどれもがフードを被り、顔を覆っている。
その中で唯一、フードを被らない男が居た。壮年の男である。背はスラリと高く、顔は美形で通るだろう。髪は赤、顎の髭もまた赤だった。
さらに、その全身は赤のバリアジャケットを纏っている。まさに、赤づくしの男であった。
「悪ぃけど、アンタらを帰す訳にはいかねぇんだわ。クライアントからの依頼でね」
「何モンだ? テメー……」
問うヴィータに、しかしその男は笑う。
「答えるとでも思ってんのか?」
「……なら、後でじっくりと聞きます」
なのはが宣告すると同時、ヴィータ、スバル、ティアナはデバイスを一斉に構える。それを見て、男は口笛を吹いた。
「いいねいいね! そうでなくっちゃあいけねぇよ!」
カカと哄笑する――その直後、背後に無数の剣群が現れた。先程と同じだ。
その光景に、なのは達は背中を暑くも無いのに汗が伝う感覚を得た――悪寒だ。
「名前は名乗れねぇが、字名は名乗るとしようか。”無尽刀”――そう呼びな!」
尽くせ無い刀。その二つ名を持つ男、アルセイオ・ハーデンは、高らかに名乗りを上げ、剣群を発射したのだった。
(後編に続く)
はい、テスタメントです♪
いよいよ、ようやっと話しが動き出します♪
この無尽刀、アルセイオこと、通称おっちゃんですが、敵なのに大人気があったキャラであります(笑)
タカトに次いで人気があったと言えば、どんくらいか分かるでしょう(笑)
そんなおっちゃんの顔出し回。そして、StS,EX一、二を争う強烈な鬱回はもうそろそろ。お楽しみにです♪
では、後編にてお会いしましょう♪