魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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はい、テスタメントです♪
ついに第二部完結!
まぁ、こっからが長いんですが(笑)
どうか、お付き合い願います(笑)
では、第二十二話後編、どうぞー♪


第二十二話「黄金の剣」(後編)

 

 純白の世界。

 その世界に咆哮が響く。因子が作り上げた異形の土蜘蛛からだ。

 同時、胴体から伸びる半透明のヒトガタの、ざんばらに伸びた髪が触手となって降り落ちる。触手が向かう先には疾駆する四人が居た――シオン達だ。

 降り落ちる無数の触手に、シオンが前に出る。ノーマルのイクスを背中まで振り上げ、一気に振り下ろす!

 

「神覇、四ノ太刀! 裂波!」

 

    −波−

 

 空間振動波。それが触手の先端へと叩き込まれ、道を開く。直後に鮮やかな青と紫の道が疾った。スバルとギンガだ。二人は同時にカートリッジロード。

 

「「ダブル! リボルバ――――!」」

 

 

 疾駆しながら拳を突き出す。二つのリボルバーナックルのスピナーが激烈な回転を刻む。そんな二人の接近に土蜘蛛は触手の軌道を変化させ、二人を包み込むように襲い掛かる。……そんな事を、彼女が許す筈が無かった。

 

「クロスファイア――――! シュ――――ト!」

 

    −閃−

 

    −弾!−

 

 叫びと共に放たれる二十の光弾。ティアナだ。放たれた光弾は、寸分違わず触手を迎撃していく。そして、姉妹の声が重なって響いた。

 

「「シュ―――ート!!」」

 

    −轟!−

 

    −撃!−

 

 突き出した拳から放たれた衝撃波は、相乗効果で倍々の威力となり、壁となる触手を引きちぎっていく。道が開いた。

 その隙間を、二条のウィングロードが突き進み、二人はそのまま疾駆。壁を抜けた。

 土蜘蛛はそんな二人に対して、八つある足の内、二つを持ち上げる――。

 

    −閃−

 

    −裂!−

 

「わっ!?」

「くっ!?」

 

 ――斬撃。巨大な、それでいて、あまりにも速い斬撃となった前足が振るわれる。それを二人はぎりぎりで何とか回避。しかし、さらに放たれる斬撃に、それ以上懐に飛び込め無い。

 

「スバル、ギンガさん! 一旦下がって!」

「ティア!」

「……了解!」

 

 ティアナから飛ぶ指示に一瞬だけ迷い、だが即座に従う。そんな二人に追撃で叩き込まれる斬撃。だが、それを防ぐかのように斬閃が放たれた。シオンの剣牙だ。さらにティアナから放たれたクロスファイアー・シュートが、二人を阻む触手を叩き落とし、反対側から再度放たれたダブル・リボルバーシュートで壁を開いて四人は合流した。

 

「シオン!」

「応! 神覇、参ノ太刀、双牙!」

 

    −轟−

 

    −裂−

 

 ティアナの指示にシオンは即座に頷き、二条の斬撃を放つ。地を走るそれは、壁となって追撃で伸びる触手を防いだ。

 

「一旦距離を開けるわよ。いい?」

 

 ティアナの指示に三人は頷き、反対側に駆けようとして――しかし、シオンが突如ギョっと目を見開いて踏み止まった。

 

「シ――?」

「スバル、ギンガさん! 俺にシールド合わせろ!」

 

 スバルが疑問の声を上げる前に、シオンが叫ぶと振り返りざまに三連でシールドを展開した。そんな彼に疑問符を浮かべるが、まず言われた通りにギンガ、スバルもプロテクションとシールドを重ねて張る。そして、シオンに問い掛けようとして。

 

    −轟!−

 

    −撃!−

 

 漆黒の煌めきが、障壁に叩き込まれた。

 

「「「っ――――!?」」」

 

 砲撃。土蜘蛛の背より伸びたヒトガタの口から、漆黒の砲撃が放たれたのだ。何とか防御に成功したものの、その威力に三人は歯を食いしばる。実に、なのはのエクセリオン・バスターに匹敵しかねない威力だ。三人は更に魔力をシールドに注ぎ込む。

 

「クロスミラージュ!」

【ブレイズ・モード】

 

 放たれ続ける砲撃。ティアナはそれを見て、クロスミラージュを変化させ構える。

 

「皆! 荒っぽくいくわよ!」

「任せた!」

「うん!」

「お願いするわ!」

 

 三人にティアナは首を縦に振り、ティアナは頷く間も無く眼前の砲撃を睨み据える!

 

「ファントム!」

「散れ!」

 

 ティアナが構えるクロスミラージュの銃口に、三連で環状魔法陣が展開。さらにターゲット・サイトがその先に展開する――ティアナの叫びに合わせるように、三人はシールドを解除して飛びのいた。

 

「ブレイザ――――――――――っ!」

 

    −煌!−

 

 次の瞬間、クロスミラージュから放たれる光砲! それは迷い無く、黒の砲撃と衝突した。

 ――拮抗。二つの光はその威力を完全に拮抗してのける。しかし、ティアナは顔を歪めた。

 威力も砲撃の持続時間も向こうが上なのだ。このままではいずれ押し負ける――そう、”このままならば”。

 

「スバルっ!」

 

 ティアナが左に目を向ける。その先に、スバルが居た。両手に展開する環状魔法陣。そして、左手に束ねられるは光球。

 

「ディバインっ!」

 

 スバルは迷い無く、それを右手で撃ち抜いた。

 

「バスタ――――――――――!」

 

    −轟!−

 

    −撃!−

 

 拳から放たれるは光砲! しかも、ロングレンジ仕様のバスターだ。なのはに六課卒業までの課題とされたその一撃を、スバルは放つ。

 青の光砲は横から砲撃を放っているヒトガタの頭に直撃。頭部を半分程消し飛ばした。黒の砲撃がカットされる――そこで終わらない!

 

「あぁぁぁぁっ!」

 

 咆哮一声!

 ティアナだ。彼女は更にカートリッジをロード。一気に魔力を注ぎ込み、黒の砲撃を蹴散らす。向かう先はヒトガタだ。先のディバイン・バスターで動けないヒトガタは、それを見る事しか出来ない。

 

    −撃!−

 

    −轟!−

 

 ファントム・ブレイザーがヒトガタに直撃し、爆発。その半身が消え去った。

 ――しかし。まるでビデオの巻き戻しを見るかの如く、即座に再生していく。それを見ながらシオン達は顔を歪めた。

 

「……やっぱり再生すんのかよ」

「厄介ね……」

 

 感染者が再生する事から因子そのものである土蜘蛛が再生能力を有している事は想像はしていた。だが、実際に目の前で再生されるとやはりショックである。

 

「っ……く……!」

「ティア……」

 

 ファントム・ブレイザーを放ったティアナが膝に手を着き、息を荒げる。それをスバルが心配そう見ていた。

 実際ティアナ、ギンガの消耗はかなり激しい。カートリッジの残数も僅かだ。スバル、シオンはさほどでも無い。

 消耗度で言えばシオンも相当なのだが、彼はけろりとしていた。スバルの声にティアナは深呼吸をし、気息を整える。

 

「大丈夫よ。心配無いわ」

「でも、ティア……」

「ティアナ、ギンガさん。魔力と残弾、どれくらい残ってる?」

 

 そんな二人を見つつ、シオンがティアナとギンガに問う。それに二人は手に残弾を乗せて見せた。残り、ティアナは八発。ギンガは六発。シオンは嘆息する。

 

「ギリギリ、だな」

「私の残弾、少し分けるよ」

 

 スバルが自分の残弾をティアナ、ギンガに渡す。しかし、それでもカツカツだった。

 

「ティアナ、正直な所どうだ?」

「……厳しいわね。魔力もカートリッジもギリギリよ」

「私は戦闘機人モードなら魔力を使わないで済むからまだマシだけど……」

 

 そう言うギンガも顔は晴れない。それを聞いて、シオンは土蜘蛛へと顔を向けた。

 既に再生を終えている土蜘蛛は、まるで待ち受けるかのようにその場から動かない。こちらは余力が無いのに対して、向こうは再生能力も含めて余力を十分に有している。

 

 余りにも不利な状況であった。

 

「……とりあえず、俺はまだ大丈夫だから俺が前に――」

 

 そこまで言った瞬間、土蜘蛛の姿が消えた。

 

「な――! っ!?」

「え……?」

 

 驚愕の声を上げ――シオンは即座に後ろを振り返る。三人は、シオンの行動に呆気に取られていた。そんな三人にシオンは全力で叫ぶ。

 

「逃げろ――――――っ!」

「っ!?」

 

 そしてシオンに遅れながら、三人はようやく自分達の後ろに現れた存在に気付いた。土蜘蛛。先程まで、確かに離れた距離に居たそれが、今自分達の真後ろに居た。

 離れるべきと頭では思いながら、三人は振り向く。

 既に土蜘蛛は攻撃体勢。前足を振り上げ、斬撃を放とうとしていた。

 驚愕に目を見開く三人を嘲笑うかのように、前足は振り落ちる――狙いは、ティアナだった。

 

「――え?」

「ティ――!」

 

 既に防御も回避も間に合わない。驚愕から覚めたスバルが声を上げるが、それすらも最後まで放たれず、ティアナに斬撃が放たれんとして。

 

「さっせるか――――――!」

 

    −戟−

 

    −斬!−

 

 スバルとギンガの真ん中を、巨大な斬撃が通り過ぎた。その通過点にはティアナが居た――斬撃が通り過ぎる直前までは。

 

「シ、シオン……?」

「ぐ……っ!」

 

 ティアナは土蜘蛛から離れた所に、シオンに押し倒されながら居た。斬撃がティアナへと叩き込まれる寸前に、シオンが瞬動で横からティアナへと抱きつき様に掻っ攫ったのだ。

 

「……大丈夫かよ?」

「え? う、うん……? シオン、その背中……!?」

 

 ティアナがシオンの肩越しに背中を見て青ざめる。背中は、大きく切り裂かれていたのだ。ぱっくりと開いた傷口から、とめどなく血が溢れ出し、白い床を汚す。だが、シオンはそれを一顧だにしない。

 

「ちょ……っ! 待ちなさい!」

「心配無ぇよ。こんくらいただのかすり傷だ」

「そんな訳無いでしょうが!」

 

 起き上がり、再び土蜘蛛へ向かおうとするシオンに、ティアナが、ガ――――っ! と吠えるが、シオンはそれを無視した。

 

「シオン!」

「うるせぇ、喧しい、黙ってろ!」

 

 一方的にティアナにそう言い放つ――だがいきなり、またティアナを抱え上げた。

 

「――って、アンタ何を――」

「黙れって言ってんだろうが!」

 

    −轟!−

 

 怒鳴りながらシオンは横っ飛びに瞬動。そこを、前足からなる斬撃が通り過ぎた。ようやくそれに気付き、ティアナは目を見開く。

 

「ま、また?」

「ちっ! あの巨体で瞬動まで使いやがんのか……!」

 

    −閃−

 

    −裂−

 

 舌打ちしながら、二度、三度と振るわれる斬撃をシオンは躱す――三度の斬撃を避けた直後、巨大な衝撃波が土蜘蛛に直撃した。スバルとギンガだ。四人は再び合流する。

 

「ティア! シオン!」

「二人共、大丈夫?」

「私は大丈夫です。だけど……」

 

 下ろされたティアナはシオンを見る。彼の背中を見て、スバル、ギンガも顔色を失った。シオンの背中から落ちる大量の血を見たから。

 

「シオン、それ……!」

「……大した事は無ぇよ、心配すんな」

 

 シオンはあっさりと笑って見せる。そして土蜘蛛へと視線を戻した。そんなシオンに少しだけ迷い――だが、スバル達も土蜘蛛へと向き直る。

 ここで勝たなければ結果は同じなのだから。四人はそれぞれのデバイスを構える。いつ、瞬動で間合いを詰めて来るか解らない相手だ。距離を開けても、気を休める事は出来なかった。

 すると、一瞬の間を置いて、土蜘蛛から因子が溢れ始める。

 

「今度は何だよ……」

 

 シオンは舌打ちしながら土蜘蛛を睨む。ここに来て更なる異変。四人はすぐに動けるように構えを崩さない。

 因子は土蜘蛛より切り離され、宙を漂う。やがてそこからぽこりと何かが這い出した。

 

 ――クラゲ。

 

 シオン達はそれを見て、クラゲのようだと思った。半透明の身体に、中は赤い球が明滅している。それが七体程顕れたのだ。

 

「……あれ何だろ?」

「クラゲのようだけど――」

 

 疑問の声をそれぞれ上げる。シオンは、嫌な予感に顔を歪めていた。

 あれは、何かまずい気がする。何かは解らないが直感は叫んでいた――危険だと。

 漂うクラゲモドキはふわふわと宙を漂い、シオン達を囲む。

 そして次の瞬間、その身体から砲台のようなものが迫り出した。シオン達はぞくりと言う感覚を覚え、一気に散る!

 

    −煌!−

 

 閃光! 黒の砲撃がクラゲモドキから放たれ、シオン達が居た場所に突き刺さる。同時に、クラゲモドキは一気に動き出した。

 

「コイツ等……っ!」

【移動砲台のようなものか】

 

 ここに来て、土蜘蛛が選んだのは物量戦。最悪の展開であった。今のシオン達にとって、最も厄介なのは消耗戦だ。

 シオンは怪我を、ティアナ、ギンガは魔力やカートリッジが底を尽きつつある。このクラゲモドキを何体作り出せるかは定かでは無いが、どちらにせよ一体一体相手にしていては確実に倒されるのは目に見えていた。

 

「シオン!」

 

 スバルが叫び、近くのクラゲモドキに一撃を叩き込む。クラゲモドキは軽い炸裂音と共に消え去った。

 スバルの横ではギンガが蹴りを放ち、ティアナはカートリッジを浪費しないように気をつけながら、マルチショットで二人を援護する。

 三人は散った場所が近かったのか、即座に合流できたようだった。シオンだけが離れた場所に居たせいか、合流出来なかったのである。

 シオンに合流しようとする三人だが、再び生み出されたクラゲモドキの砲撃に近寄れない。シオンも近くのクラゲモドキを斬り伏せ、そのままイクスを掲げる。

 

「セレクトブレイズ!」

【トランスファー!】

 

 ブレイズフォームへと変化。今の一撃で解ったが、このクラゲモドキに防御力は皆無だ。ただ砲撃を放つ為だけのものなのは間違い無い。ならば、最も手数が多いブレイズフォームがこの場では正しい。さらに生み出され、囲もうとするクラゲモドキに、シオンは両のイクスを腰溜めに構え、一気に放つ!

 

「神覇壱ノ太刀! 絶影・連牙ァ!」

 

    −斬−

 

 −斬・斬・斬・斬・斬−

 

    −斬!−

 

 縦横無尽! 放たれる瞬速の刃が、周囲のクラゲモドキを一斉に斬り伏せた――しかし。

 

「……っ!」

 

    −閃−

 

 砲撃。唐突に放たれたそれに、シオンは足場を展開して後退する。次々と生み出されていくクラゲモドキからの砲撃だ。無尽蔵に生まれて来るクラゲモドキに、シオンは歯噛みする。

 スバル達も上手く凌いでいるが、あまりの量に疲弊していくのが解った。特にティアナの疲労が激しい。今、ティアナはカートリッジ温存の為、ダガーモードで戦っているが、それも含めてティアナの消耗は酷い。

 スバル、ギンガもティアナに近付かせ無いように戦っているが、何しろ数が違う。このままではじり貧もいい所であった。

 そんな三人を見てシオンは腹を決める。このままでは確実に負ける――ならば、分が悪かろうが賭けに出るしか無い。

 両のイクスを再度振るい、四体のクラゲモドキを斬り捨てた。同時、叫ぶ。

 

「セレクトウィズダム!」

【トランスファー!】

 

 シオンは戦技変換、ウィズダムフォームになる。その右手に握るのはランスだ。即座に、シオンは姿勢を低くとった。

 

「あれは――」

「シオン、まさか……!?」

 

 その構えに見覚えのある二人――スバルとティアナが絶句する。シオンの目的を、その無謀さを悟ったからだ。

 

「シオン、止めなさい!」

「シオン!」

 

 二人から制止の声が掛かるが、シオンは構わない。土蜘蛛本体を睨みつけた。

 

 ――止まらない。それを悟り、ティアナ、スバルは何とかしてシオンへと向かおうとするが、それをクラゲモドキが邪魔するように道を塞いだ。まるで、シオンの行動が解っているが如く。

 

「く……!」

「この――!」

 

 片やダガーで、片や拳でクラゲモドキを潰すが、次々と現れる援軍に二人はそれ以上進め無い。

 そしてシオンは一気に魔力を放出する。吹き出した魔力がシオンを包み込み、イクスウィズダムの石突きが弾け、地面に叩き込まれる。その反動を利用して、シオンは一気に突貫を開始! 精霊の力を借りないのならば、これがシオンが放てる最大威力の技。シオンは叫ぶ――その一撃の名を!

 

「神覇伍ノ太刀……! 剣魔・裂!」

 

    −破!−

 

 次の瞬間、シオンは爆発したかのような音と共に宙へと駆けた。大気爆発を起こすそれは、音速超過。一本の槍と化し、一気に土蜘蛛へと迷い無く突き進む!

 途上に壁の如く立ち塞がるクラゲモドキを、紙のように引き裂きながら突き進んで行く。激烈な音を立てて、シオンは土蜘蛛に肉薄。そのまま突き破らんと突貫し――。

 

    −緊−

 

 ――シオンはそれを見た。自分の放った一撃の結果を。剣魔・裂は土蜘蛛の身体に”触れる事無く”、受け止められていたのだ。

 シオンは一瞬呆気に取られ、顔を歪めた――苦痛に。

 

「が、あ……!」

 

 背中から煙りが上がる――叩き付けられたのだ、光砲を、新たに生み出されたクラゲモドキに。

 シオンは崩れ落ち、さらに土蜘蛛から前足が振り放たれる!

 

    −裂!−

 

 斬撃にひっかけられるようにして、シオンは吹き飛ばされた。床に叩き付けられ、十数メートルも転がる――。

 

「シ、シオ……ン?」

 

 スバルがその姿に呆然としながらシオンに呼び掛ける。しかし、シオンは答え無い。ピクリともしなかった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「シオン! シオン!!」

 

 ――声がする。だが、シオンは答える事が出来ない。ただ、ただ眠い。

 眠らせてくれ。心の奥底からそう思う。しかし、シオンを呼ぶ声は続く。

 

「この――! 立ちなさい、バカシオンっ!」

 

 誰がバカか誰が。遠くからの声に反論したくなる。そもそも最近バカ扱いが酷い。自分でもバカだと思ってしまうだろうが。

 シオンはまどろむ。どんどん意識が闇へと落ちていってる事を自覚する。

 

「シオン君、起きなさい! ここで貴方が倒れたら何も――何も意味が無くなるでしょう!?」

 

 ――そうかも知れない。いや、そうだ。

 さっきの突貫の意味。土蜘蛛の弱点。そして、剣魔・裂を受け止めた何か――ああ、そうだ。それを伝え無いと……。

 しかし、身体は重い。意思に反して、ろくに身体は動かなかった。

 

「やだよ……シオン……! シオンが居なくなっちゃ、嫌だよ……!」

 

 ――また泣かした、か?

 

 その声は泣き声。シオンは心中苦笑する。

 

 俺は、アイツを泣かしてばかりだな。ああ、そうだよ。本当は泣かしたくなんて無い。笑った顔を見たい。自分の為じゃなく。アイツの為に。さっきも思った筈だ。

 思い出す――皆を。

 アイツ等が幸せであってくれるなら、

 ”ここ”に居てもよかったと、やっと胸を張れるじゃないか。思いが結実する。その中で思い出すのは、異母兄の言葉だ。

 

 ――強くなれ。

 

 ……強く、なる。

 

 ――強くなれ。誰より強く、誰より高く。

 

 ……強く、なってやる……!

 

 ――全ての希望を喰らい、全ての絶望を飲み込み。

 

 ……希望も絶望も、今この瞬間の為に。

 

 ――強くなれ、シオン。そして……。

 

 強く、なる! まだ自分は”見せていない”。切り札を。黄金の剣を――!

 

 ――俺を――。

 

 俺は、アンタを――!

 

 ここで倒れている場合じゃない。歯を食いしばり、血に塗れながら、それでもと叫ぶ。そして、シオンは叫んだ。

 ココロの草原で聞いた、たった一つの言葉を。もう一つの姿の名を、叫んだのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……イクス」

 

 シオンから呟かれるように声が漏れる。溢れる血がしとどにバリアジャケットを濡らす――構わなかった。無理やり立ち上がる。

 

「シオン!」

「よかった……」

「心配させないでよ……バカ……」

 

 三者三様の声にシオンは苦笑いを浮かべる。身体は重い。血が流れ過ぎて、意識も朦朧としていた。

 

 ――それがどうした!

 

【シオン、”使うか”?】

「ああ」

 

 即座に頷く。そしてイクスを真っ直ぐに構えた。次の瞬間、土蜘蛛が消える――瞬動だ。一気にシオンへと接近する。

 

「っ! またっ!」

「シオン!」

 

 それを見て三人はシオンへと向かおうとするが、周りにいる大量のクラゲモドキに再度邪魔された。近付けない。

 そして土蜘蛛が現れた。その巨躯をシオンの眼前に現し、前足を斬撃として放つ。振り落ちる斬撃――それにシオンは構わない。そして、叫んだ。

 

「イクス、モードセレクト! カリバ――――!」

【トランスファー!】

 

    −轟!−

 

 直後、光が溢れた――黄金の光が。同時に固い音が鳴り響く。土蜘蛛が放った斬撃が受け止められたのだ。

 光が収まり、シオンがその姿を現す。袖までのジャケットに、黒のシャツ。下は長ズボンだ。膝から下は甲冑に覆われている。さらに両の手には手甲が嵌められていた。そのバリアジャケットは金色。背に伸びるのは六枚の剣翼。そして、両手――右手に握るのはウィズダムのランスを更に短かくした姿だ。左手には片刃の剣。細く、だが力強い長剣が握られていた。

 シオンはそのまま魔力を放出。土蜘蛛を弾き飛ばす。そして、両のイクスを構えた。

 

 新たな姿。

 新しい力。

 

 その名は――。

 

「カリバーフォーム……!」

 

 シオンは名乗りを上げ、そのまま後ろを――スバル達を振り返る。左手の長剣を振るった。

 

「神覇壱ノ太刀! 絶影・連牙!」

 

 シオンの姿が消える――。

 

    −斬−

 

 −斬・斬・斬・斬・斬−

 

    −斬!−

 

 瞬間、スバル達を囲んでいたクラゲモドキ達が横にズレた。一瞬にして斬り裂かれる!

 縦横無尽。一気にシオンは三人に合流した。その周囲のクラゲモドキを殲滅して。

 

「シ、シオ――」

「三人共、しゃがめ!」

 

 更に叫び、次に振るうのは右のランスだ。三人はその動作に嫌な予感を覚え、地面にへとしゃがみこむ。シオンはランスを振り放った。

 

「神覇弐ノ太刀! 剣牙・裂!」

 

    −破!−

 

 ――弾けた。ランスが、ウィズダムと同じく。それはまだ残っているクラゲモドキを貫き、5メートルの長さで刃を停止した。そのままシオンは回転開始。空気が唸る音と共に、伸びた刃も回転する――。

 

    −轟!−

 

 回転しながら放たれた斬撃は、まとめてクラゲモドキを薙ぎ倒していく。

 シオンが三回の回転を刻む頃には、全てのクラゲモドキは消え去っていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 三人は見る。シオンのその姿を――黄金の姿を。

 シオンは右のイクスを一振りし、伸びた穂先を元に戻した。そして三人に視線を向ける。

 

「大丈夫か?」

「う、うん。……て、違う! シオンこそ大丈夫なの!?」

 

 頷き、しかしシオンに突っ込みを入れるスバル。シオンはそれに笑うが、血は流れ続けている。金のバリアジャケットは早々と紅に染まりつつあった。

 

「シオン……!」

「俺はいい。絶好調なんだからな。それより三人共、聞いて欲しい事がある」

「……何?」

 

 ティアナが訝し気に聞く。シオンは土蜘蛛から伸びるヒトガタの胸の部分を指差した。

 

「あそこ。球みたいなのが見えないか?」

「え……? あ……!」

 

 三人はシオンが指差した部分を注視し、声を上げる。胸の部分に確かに球がうっすらと見えたからだ。しかもあの形状に、三人共見覚えがあった。

 

「……コア?」

 

 スバルが想像したものを言う。シオンはそれに頷いた。

 

「半透明になってるから見え難いけど……。似てるだろ?」

 

 言われ、三人は頷く。それは感染者が第二段階に到達した際になるコアに確かに酷似していたのだ。

 

「罠って可能性は?」

「さぁな。……だけどこのままじり貧よりマシじゃ無いか?」

 

 ティアナはシオンの言葉にしばらく考え込む。断定は出来ない。しかし、もしあれが弱点となり得るならば、狙う価値は確かにあった。

 

「……確かに、このままじゃあこっちは消耗するだけだしね」

「ああ。ただ問題は――剣牙・裂!」

 

    −閃−

 

 瞬間、いきなりシオンは右のイクスの一撃を放つ。穂先が弾け、土蜘蛛の真っ正面の”空間”に突き立った。土蜘蛛が再び瞬動を行おうとしたのだろう。その出鼻をくじかれて、土蜘蛛は後退する。シオンはイクスを振って、穂先を戻した。

 

「……見たか?」

「うん、何あれ?」

 

 まるで壁のように土蜘蛛の正面に張られた防御障壁。それが今の一撃も、先程の剣魔も止めたのだ。

 

「イクス、どうだ?」

【……厄介だな。耐魔力、耐物理の障壁が四重に張られている】

 

 シオンはイクスの返答に嘆息する。先程の一撃で解ってはいたが、とんでもなく硬い防御障壁であった。そして、ティアナを見る。

 

「正直に言うと、あの防御障壁は何とか出来る。……けど、そこまでだ」

「あれ、何とか出来るの?」

 

 考え込んでいたティアナがシオンに顔を上げる。シオンは即座に頷いて見せた。

 

「……相当な無茶を覚悟しなきゃだけどな」

【封印開放から即座に使う羽目になるとは思わなかったが】

 

 苦笑し合う二人の答えに、ティアナは頷くと、スバルを見る。彼女もまた頷いた。

 

「あの防御障壁が何とか出来るなら大丈夫。私達も”切り札”があるわ」

「切り札?」

「うん。……ちょっと時間掛かるけど、私とティアの切り札」

 

 その答えにシオンもまた笑い。次にギンガを見る。ギンガもまたシオンに頷いて見せた。

 

「私は二人を守り抜く役ね?」

「はい。アイツは俺が引き受けます。でも例のクラゲモドキまでは対処が厳しいですから……」

 

 任せて、と笑うギンガにシオンもまた頷く。そして、再び土蜘蛛に視線を向けた。

 

「作戦は前にアンタがエリオとキャロとやった時と同じよ」

「ああ。……スバル」

「うん、何? シオン」

 

 頷き、スバルに視線は送らず声のみを返した。そのままで続ける。

 

「とどめ任せるな? お前が決着を着けろ」

「……うん!」

 

 シオンの言葉にスバルは一瞬だけ呆然として、しかし綻ぶように満面の笑みで頷いた。

 そんなスバルに、シオンはニッと笑う。そして、右の親指を口元に持ってくる。

 カリッと言う音と共に血がポタリと落ちた。

 

 ――精霊召喚。だが、土蜘蛛がそんなものを許す筈も無い。再び、瞬動に入ろうとする。そんな土蜘蛛にシオンは獰猛な笑みを浮かべた。

 空中に血で文字を描く――風、と。描いた手を頭上へと掲げ、叫ぶ!

 

「来い! ジン!」

 

 直後、風が顕れた。極小の竜巻を伴って小太りの男が顕れる。風の精霊、ジンだ。

 だが、それよりもスバル達には驚愕すべき事があった。

 ――無永唱。シオンは”一切の永唱”無しに精霊を召喚してのけたのだ。

 スバル達は知らぬ事だが、それはシオンの異母兄、トウヤに”しか”出来ないと言われた技術の一つだった。

 ――文字召喚。柱名を描く事によって永唱無しに召喚出来る技能だ。それがカリバーフォームによって追加されたスキルの”一つ”であった。

 瞬動に入りかけた土蜘蛛が慌てたが如く、急停止。クラゲモドキを生み出す――そんなモノ、壁にもならないと言うのに。

 ジンはその姿をぶれさせ、シオンと融合していく。シオンとイクスは、再び叫んだ。

 

「精霊融合!」

【スピリット・ユニゾン!】

 

 風が鳴る。それはシオンを優しく包む――次の瞬間、シオンの姿が消えた。

 

    −斬−

 

 直後に音も無く全てのクラゲモドキが切り裂かれる!

 シオンだ。風を纏うシオンが、一瞬にして全てのクラゲモドキを斬り捨てたのだ。しかもそのまま止まらない。

 右のイクスを振るうと、全方向から風の刃が土蜘蛛に襲い掛かった。

 

 ――弐ノ太刀、剣牙・風刃。

 

 土蜘蛛本体には防御障壁でダメージは通らないが、髪で構成された触手や、斬撃の為の前足はその範囲外であるのか切り裂かれ、あるいは傷だらけとなる。

 土蜘蛛が吠える――苦痛に。即座に再生しながら、触手と前足をシオンへと差し向け――。

 

 ――”鈍い”。

 

 今のシオンには、それが全て止まっているかのように思えた。

 超感覚。これこそがジンとの融合で得られた特化能力だった。そして、もう一つ。

 

    −閃−

 

 前足が切り落とされた――音も無く。

 触手が全て、細切れにされた――静かに。

 シオンはただ両のイクスを振るっただけだ。それだけで攻撃を成したのである。

 これがジンとの融合で得られる最大の能力。風を――つまり大気”全て”を攻撃として使用可能とする能力。

 その攻撃範囲はシオンの認識範囲の全てだ。そして今のシオンは、ジンとの融合による超感覚で十数Kmに渡る事象を認識出来ていた。

 則ち、その距離は全てシオンの攻撃範囲だと言う事。

 土蜘蛛が動く――瞬動だ。向かう先はスバル達。だが、シオンはそれを許さない。動かず、左のイクスを振るう。

 

    −裂!−

 

 次の瞬間、地から走る風の刃が土蜘蛛の足を全て切り裂いた。

 

 ――参ノ太刀、双牙・風刃。

 

 瞬動には必ず足を使う。故にシオンは容赦無く、足を狙ったのだ。これで土蜘蛛は動く事も叶わない。

 土蜘蛛を一時的に無力化しながら、シオンはこの融合にも欠点がある事を見切っていた。軽いのだ、攻撃が。

 今の一撃も足を傷付ける事は出来ても、斬り断つまでは至らない。故に、シオンはあえて自分の脇を抜けて、スバル達へと向かう、再び生み出されたクラゲモドキを見逃した。

 今、シオンがすべきはこの土蜘蛛を何もさせずにその場に留める事。時間稼ぎだ。

 さらに風刃を放ちながら、シオンはクラゲモドキをことごとく潰していくギンガに頼る。

 そして待つ。ティアナ、スバルの準備が整う事を。それまで、あの防御を潰すのはお預けだ。

 シオンはただただ、風の刃を放ち続けた――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……凄い」

 

 スバルがぽつりと呟く。シオンの能力を見てだ。ティアナも、驚きに目を見開いていた。しかし、首を一振りして気持ちを切り替える。

 今すべきは、一刻も早く準備を整える事だ。

 

「――スバル! いくわよ!」

「ティア……。うん!」

 

 頷き合い、二人は同時に準備に入った。

 ティアナはクロスミラージュをブレイズ・モードに。スバルはギア・エクセリオンを発動する。

 ティアナは銃口を土蜘蛛へと向けた。そして、ぽつりと呟く。

 

「……星の光よ――」

 

 直後、銃口の先に魔法陣が展開。ティアナの周囲にオレンジ色の輝きが次々と現れ、魔法陣の中央に集束してゆく。

 

 ――集う。集っていく。

 魔力が光となって、ティアナに集っていく。それは、スバルが、ギンガが、シオンが、ティアナ自身が放った魔力の残滓だ。

 星空から流星が落ちるように、それは集っていく。銃口へと集う光は、次に集まる光を吸収し、次第に巨大に、その輝きを増していった。

 

 ――星の光(スターライト)。

 その名は、その光景から由来している。ティアナが尊敬し続ける、なのは直伝の魔法。

 

 ――スターライト・ブレイカー。

 

 これこそがティアナの切り札であった。

 

 そして、スバル。彼女はティアナから少し離れた場所に居る。

 目を閉じ、両の手をパンッと柏手を打つように重ねた。深く長い呼吸を一つする。その呼吸に合わせるように、両手に環状魔法陣が展開。それも、それぞれ三連での展開だ。そして、両の掌をゆっくりと離す。そこには光の光球があった。”二つ”の光球が。

 スバルは両の手をそのままゆっくりと回転。同時にカートリッジロード。

 回転が収まると、それは一つの構えと成った。ディバイン・バスターの。

 しかし、違う点がある。一つは両の手に展開する環状魔法陣の数。もう一つは左の掌と右の拳の前にある二つの光球だ。やがてベルカ式の魔法陣がスバルの足元に展開する。さらにカートリッジロード。光球がさらに輝きを増す――。

 

 そして、スバルはティアナを見る。ティアナもまたスバルを見ていた。二人は同時に頷く。

 

 準備は完了。後は――。

 

「「シオン!!」」

 

 二人は同時に叫ぶ。普通ならば、シオンまではその声はほとんど届かないだろう。だが今のシオンには、はっきりと声が聞こえた。両のイクスを掲げる。

 

「ジン、ユニゾン・アウト」

 

 シオンとジンの像がブれ、両者は離れる。そのまま今度は左の親指を噛み、血を流させた。そして描く文字は”火”。シオンは叫び声を上げた。

 

「来いよ……! イフリートォ!」

 

    −業−

 

 炎が走る、疾る。それは一瞬にして形を成した。炎の巨人へと。火の精霊。イフリートだ。

 しかも、ジンは未だ送還されていない。シオンは両のイクスを振るう。

 右、ランスのイクスをイフリートに。

 左、長剣のイクスをジンに。

 そしてそのまま叫んだ。

 

「”双重”、精霊装填!」

【デュアル! スピリット・ローディング!】

 

 直後、イフリートが、ジンが、その姿をブらし、両のイクスに吸い込まれる。これが、カリバーフォームの新たなスキル、その”二”であった。そしてシオンは最後の”三”――切り札を切る。

 

「イクスぅっ!」

【応! イクスカリバー。全兵装(フル・バレル)、全開放(フル・オープン)、凌駕駆動(オーバー・ドライブ)、開始(スタート)!】

 

 右のイクスと左のイクスを重ねる。それは合わさり、形状を変化。たった一振りの剣と成った。

 

 ――黄金の剣に。

 

 形状は普通の両刃の剣だ。バスター・ソードと呼ばれる剣に酷似している。

 それはシオンの手を離れ、しかしシオンの眼前に浮かんでいた。それは金色の輝き。二つの精霊を同時に有する黄金の剣だ。シオンは恭しく、手に取った。頭上に掲げ、その剣の名を祈るような心地で呟く。

 

「精霊剣、カリバーン」

 

 名乗りを受け、剣が――カリバーンが光り輝く。

 その光りに、土蜘蛛がまるで恐れるかのように後ずさった。シオンは構わない。真っ直ぐに、そして一気に土蜘蛛へと翔け征く!

 土蜘蛛はそんなシオンに、狂ったように再生した触手と、全ての足を使った斬撃を放つ。

 シオンは襲い掛かるそれらを前にして、カリバーンを振りかぶった。

 

「神覇、陸、漆ノ太刀――”合神剣技”」

 

 シオンは纏う。炎を、風を。それは炎を猛らせ、風を荒れさせる。朱雀と、白虎。二つの奥義を”重ねた”。

 

「紅蓮、天昇ォ――――――!」

 

    −輝−

 

 シオンはその瞬間、光となった。

 

    −爆−

 

 −爆・爆・爆・爆・爆・爆・爆・爆・爆・爆!−

 

    −爆!−

 

 数十、数百、数千の爆裂が、全ての触手を、足を、防御障壁を叩き尽くす!

 白虎の速度に、朱雀の爆炎を乗せて乱撃が放たれているのだ。SS相当の威力に、SS+の速度で放たれるそれは、途方も無い破壊力となり、土蜘蛛を一気に蹂躙した。一枚目の障壁があっさりと砕かれ、二枚目が耐える――が、最後まで持たずに砕かれた。

 しかし、紅蓮天昇もそこで終わる。シオンはそのまま地面へと着地した。

 ――息が荒い。もう、体力も魔力も限界だった。

 無茶のツケ。それがシオンの意識を揺さぶる――だが、今のシオンは限界をも越える!

 

「ジン、イフリート。装填解除! 送還!」

 

 カリバーンからジンとイフリートが離れ、送還される。シオンはそのまま血文字を両の手で描いた。”雷”と”水”を。

 

「来い……ヴォルト! ウンディーネ!」

 

 シオンの呼び掛けに応え、ヴォルトが、ウンディーネが、揃って召喚される。

 シオンはカリバーンを再度掲げた。時間が無い。後、二つ。障壁が修復される前に、後二つの障壁を突破せねばならない――直後、ヴォルト、ウンディーネがカリバーンに装填された。

 

【シオン……! 俺もお前も限界が近い! 次でラストだ。叩き込め!】

「応っ!」

 

 イクスに返答しながら、再び黄金に輝くカリバーンを振りかぶる。土蜘蛛が吠えると、一気に障壁が修復され始めた――それを許さない!

 

「あぁぁぁっ! 神覇、八、九ノ太刀――合神剣技っ!」

 

 振りかぶられたカリバーンを背中まで反らし、そして一気に振り下ろす!!

 

「逆鱗! 龍降ォ!」

 

    −閃!−

 

 一閃。それが振り下ろされたカリバーンから、光となって放たれる。

 それは、障壁にぶち当たる瞬間にいくつも枝分かれして、土蜘蛛を包囲。光は甲羅を模したシールド・ビットであった。八つに分かれたそれは、次の瞬間、光の龍と成り、障壁に喰らいついた。

 まるで八又の龍を思わせる一撃。噛み付き、砕き、壊し、喰らい尽くす。

 障壁を喰らい征く八又の龍は、三枚目の障壁を喰らい、さらにそのまま四枚目も喰らい尽くした――それでは飽き足らず、土蜘蛛を喰らう。足を全て喰らって、漸く龍は消えた。

 

「……後は任せたぜ。ティアナ、スバル――」

【モード・リリース】

 

 全ての力を使い切ったシオンとイクスは、逆鱗龍降を放った姿勢から、前に崩れ落ちた。

 

「シオン――任せなさい!」

 

 そんなシオンを見て、ティアナは応えるように叫ぶ!

 シオンの呟きが聞こえた訳では無い。ただそう言いたかったのだ。そしてティアナは睨みつける。

 星の光は放たれる瞬間を待つように光り輝いていた。銃口は土蜘蛛に向けられている。後は、トリガーを引くだけ。

 ティアナは迷い無く、叫び、トリガーを引く!

 

「スタ―――ライトっ! ブレイカ――――――――――!!」

【スターライト・ブレイカー!】

 

    ー煌ー

 

 ――星の光。それは一気に放たれた。激烈な破壊力を持って、音は光に遅れて響く。轟音だ。

 オレンジ色の輝きは、巨大過ぎる柱となって土蜘蛛を襲う。純白のこの世界をあって尚まばゆい閃光。

 その一撃は土蜘蛛にぶつかると同時にその破壊力を遺憾無く発揮。その全身を容赦無く砕き、弾かせ、滅ぼす。土蜘蛛は一瞬にして、その全身を失った。

 ただ一つ――コアだけを除いて。ティアナがその場で膝をつく。魔力切れだ。息は荒く、意識を失いそうになる。それでも彼女は叫んだ。

 

「やりなさい……! スバル!」

「うんっ!」

 

 ティアナの叫びにスバルは頷く。

 

「スバル! いって!」

 

 クラゲモドキを蹴散らしながらギンガも叫ぶ。そして――。

 

「スバル……やっちまえ――――――!」

 

 シオンが倒れたまま、叫んだ。スバルもまた頷き、吠える!

 

「一撃! 必倒ぉ!」

 

 右の拳を放つ――それは拳の前にある光球を撃ち抜き、そして拳はその光を纏ったまま左の掌の光球に突き刺さった。

 

「ディバインっ! バスタ――――――っ!」

【ディバイン・バスター。”ティタン・ブレイク!!”】

 

    −轟!−

 

 光が放たれた――極大の輝きが。それは迷い無く、コアへと突き進む。しかし、その途上で形状を変化した。集束し、光が束ねられたのだ。

 半ば物質化したその光は、一筋の――貫通の意思を具現した姿だ。

 

 ――巨大な槍。

 

 ”巨人破り”。そう名付けられた一撃は、スバルの思い。一直線をただただ突き詰めた一撃だ。貫通力だけならば、スターライト・ブレイカーすらも凌駕しかね無い一撃。これこそがスバルの切り札であった。

 巨人破りは寸分の狂いも無く、コアを撃ち抜き、何の抵抗すらも無く貫通した――そこで止まらない!

 スバルの瞳が金色へと変化。巨人破りの後端、つまり石突きに拳を叩き込む!

 同時にIS発動。振動破砕。それが槍へと放たれる!

 

「ハウリング! ブレイクっ!」

 

    −砕−

 

 直後、石突きから槍が砕かれ始めた。

 

 −砕・砕・砕・砕・砕−

 

    −砕!−

 

 槍は砕かれながらも、振動破砕そのものを確かに伝播して征く。それはコアに確かに叩き込まれた。振動破砕による超振動。それによりコアはビクンッと震え――次の瞬間。

 微細な塵へと変わり、消えていった。超振動によって完全に分解されたのだ。

 

「……終わった……?」

 

 スバルが残心のまま呟く。

 

「……終わったわ、ね」

 

 ティアナも膝を着いたまま頷いた。

 

「……うん、終わったね」

 

 ギンガも、またその場に座り込みながら頷く。

 

「ああ、俺達の勝ちだ」

 

 そして、指一本も動かせないシオンが、しかし倒れたまま笑った。

 それを聞いて、スバルが、ティアナが、ギンガが、笑いながら抱き合う。やったと、やり遂げたと。

 

 それを一人遠巻きに、シオンは笑いながら見て、そのまま意識が消えていくのを感じた――やがて、世界が割れる音が響いた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 無限なる幻想世界。それが、唐突に解除された。タカトとトウヤはいきなり戻ってきた重力に、しかし一歩で耐える。

 

「……術を解除したか」

「ユウオ?」

《トウヤ、タカト君。聞こえる? シオン君、”帰って来たよ”》

 

 ――それはつまり、ダイブを成功させたと言う事に他ならない。スバルはこれで史上二人目の帰還者と成った訳だ。

 二人はそれを聞き、揃って肩を竦めた。これ以上戦う理由が無くなってしまったのだ。

 

「また、決着とはならなかったね?」

「いっそ運命と思って諦める方がいいかも知れんぞ? 兄者」

 

 そう言いながらタカトはフードを再び被り直し、”拘束具”を右手に取り付けた。トウヤはフッと笑う。

 

「ユウオ。シオン達はどうしているかね?」

《ぐっすり寝てるらしいよ。……さて、ボクもこれから八神さんの所に行くよ。怒られるかな――》

 

 それは聞くだけ野暮である。普通、無断侵入などすれば、怒られる程度では済まない。そんな二人のやり取りに、笑い声が響いた。タカトだ。

 

「何か面白い事でもあるのかね?」

「いや。本当に二人は変わらないと思っただけだ」

 

 そう、タカトは笑う。この二人はいつもこんな調子であった。再び二人に会う事があると思わなかっただけに、どうしようも無く笑ってしまった。

 ひとしきり笑い切り、タカトはトウヤに背を向けた。

 

「……行くのかね?」

「ああ。此処にはもう用は無い」

 

 そのまま歩き出す。向かうのはボロボロになり、辛うじてその形状”だけ”を保った扉だ。トウヤはそんなタカトの背中を忘れまいと見る。

 

「……タカト」

「…………」

 

 トウヤの呼び掛けに、しかしタカトは応えない。

 ――言葉で止まるのならば、最初から戦う意味は無いから。二人の道は二年前に分かたれた。それが、ただ唯一の真実だ。それでも、トウヤはタカトへと告げてやる。

 

「いつでも待ってる」

「――――」

 

 タカトはその言葉に止まり――だが、再び歩き出した。

 そして訓練室を出る。そこまで見届けて、トウヤはゆっくりと寝転んだ。久しぶりに全力で戦ったのだ。行儀については考えない事にする。大の字になって寝転びながら、トウヤはその意識を手放したのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 アースラ艦内を一人の女性が翔けてゆく――。

 なのはだ。彼女は今、訓練室に向かっていた。

 

 ――先程スバルが治療された。

 突如としてスバルを始めとして、四人に纏わり付いていた因子が奇怪な断末魔を上げて消え去ったのだ。四人はそのまま静かに寝ている。

 同時に、訓練室に展開していた魔法も解除された。その魔法を展開していたユウオは、先程ブリーフィング・ルームに向かったそうである。

 そして、なのはは今、アースラに侵入してきたもう一人の存在を拿捕する為に翔けていた。

 

 則ち、伊織タカトを。

 

 ……正直、なのはとしても疲労している彼と戦うというのは気は進まない。だが、それとこれとは話しが別であった――私情を交えてはならない。それを自分に言い聞かせ、次の角を曲がる。

 

 ――先程のシャーリーの報告通りなら……。

 

 そう思いながら、なのはは空中に静止。前方を睨む――そこに、彼が居た。

 

 伊織タカトが。

 

 彼はなのはを見て、しかし一顧だにせずに歩く。そんな彼に、なのははレイジングハートを向けた。

 

「動かないで」

「……」

 

 なのはの言葉を聞いたからと言う訳でも無いだろうが、タカトはその場で歩みを止めた。二人の視線が絡み合う。

 タカトはボロボロだった。バリアジャケットは所々穴が開いており、血も流れている。だが、そんな状態にあってなお、彼は。

 

 ――凜。と世界の全てに抗うようにそこに立っていた。

 

 そんなタカトに、なのはは苦く顔を歪め、声を出す。

 

「伊織タカト。貴方を逮捕します。武装を――」

「どうやって?」

 

 最後まで告げる前にそう言われ、なのはは愕然とする。それに、タカトはつまらなそうな瞳を向けた。

 ――彼はこう言った。どうやって、と。それは則ち、この状態にあってすら、なのはに勝てる。

 いや、勝負にすらならないと断言しているのに等しかった。

 

「……君、は」

「これ以上の戦闘を俺は望んでいなくてな? 邪魔をするなら叩き潰すだけだが……。どうする?」

 

 なのはの喉が鳴る。目の前のタカトは満身創痍だ。だが、その状態にあっても、彼はなのはを圧倒していた。

 そんななのはの様子に肩を竦め、タカトは歩き始めようとし――しかし、顔を歪める。胸を押さえ、キッと歯を食いしばるように。それを見て、なのははつい。

 

「っ! 大丈夫!?」

 

 ――感情のままに尋ねてしまった。言葉を放った後でハッとする。

 タカトはしばし呆然とし、すぐにある表情になった。微笑みに。そしてタカトは、なのはに向かって口を開く。

 

「……君は無用心だな」

「え……?」

 

 そんな事をタカトは言う。その言葉を聞き、呆然となるなのはに、タカトは構わない。

 

「俺は敵だぞ? しかもすこぶるつきのな」

「……それは」

 

 言われて、なのはは戸惑う。タカトはそのまま続けて来た。

 

「君は誰に対してもそうなのか? だったら一つ忠告だ。優しさを持つのはいい。しかし、それを向ける相手を考えろ。……少なくとも、俺のような敵に向けるな」

 

 ――忠告。そう、タカトは言う。

 それに、なのははくすりと笑ってしまった。可笑しくなってしまったからだ。

 優しさを向ける相手を選べとタカトは言った――彼にとってすれば、なのはの方こそが敵であるのに。

 

 ――お人良し。

 

 人の事は何も言えないと、なのはは笑う。タカトはそんななのはに憮然とした表情を向けた。

 

「何が可笑しい」

「ご、ゴメンっ。でも、ちょっと可笑しくて……っ」

 

 未だ笑うなのはに、しかしタカトは立ち去るような真似をしない――不機嫌そうな顔はしていたが。

 やがて、漸くなのはは笑いを止めた。でも、その顔は微笑みのままで。

 

「随分と余裕だな?」

「余裕なんかじゃないよ」

 

 でも、先程の緊張は無くなった。それは間違いなかった。

 そんな、なのはにタカトはすっと前に出る。気配を一切感じさせない――滑るような歩み。余りに自然過ぎて、なのはの反応が遅れた。驚きに目を見張るなのはに、タカトはレイジングハートを握る。

 余りに近い距離。吐息のかかる程の距離で、互いに見合った。

 

「本当に無用心だな、君は」

「……あなたは」

 

 先程と同じ言葉。しかし、今度は何かが違った。

 ――冷たい。タカトの一言一言が、あまりにも。その冷たさのまま、タカトは続ける。

 

「――たとえば」

 

 たとえば。そう、たとえば――。

 

「ヒトとして生きる事すらもおこがましい奴が。赤子の時からその手を血に濡らして来た外道が。”幸せ”、なんてものを理解出来ると、君は思うか?」

「っ――――」

 

 瞬間、なのははトウヤの話しを思い出していた。

 地獄に居た。ヒトとして扱われなかった、少年の話しを。

 絶句して固まるなのはに、タカトは笑いかける。それは、余りにも優しい微笑みで。

 

「そら、解るだろう? そんな”化け物”にあまり気安くするな」

 

 そう言い放ち、タカトはなのはから離れる。肩を竦め、呆然とするなのはを今度こそは無視して歩き出した。擦れ違う――その瞬間。

 

「……思うよ」

 

 その言葉にタカトの歩みが止まった。なのはは、そのままタカトへと向き直る。

 

「理解できるって私は思う。……だって、その人は、誰よりも幸せを望んでると思うから」

 

 真っ直ぐにタカトの黒瞳を見据え、はっきりとなのははそう告げた。

 タカトは、すぐに答えない。互いに見つめ合い、一呼吸の間が流れる。

 やがて、タカトは何も告げずになのはの横を抜けた。同時に、八角の魔法陣がその足元に展開する――次元転移!

 なのはは気付くなり、慌ててレイジングハートを向けようとして。

 

 ――振り返ったタカトの表情に絶句した。

 先程までの優しい微笑みが嘘のような無表情。

 感情の無い、瞳。

 感情の無い、顔。

 そのまま、タカトはなのはに告げた。

 

「――だったら、俺はお前が嫌いだ」

 

 拒絶。あまりにはっきりとした、完全なる拒絶がなのはの心に突き刺さる。

 次の瞬間、タカトはアースラから消え去った。何も言えず、何も出来ないまま、なのははその姿を見送る事しか出来なかったのであった――。

 

 

(第二十三話に続く)

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 徒然なる後書き――。

 

 はい、どうもー♪ テスタメントであります♪

 第二十二話&第二部666編完結でありまする。

 第二十三話から第三部となる訳ですか――ぶっちゃけ長い(笑)

 べらぼうに第三部長いです(笑)

 なので、第三部を三分割し、第三、第四、第五部とします。いや、そんだけ長いんですよマジに(笑)

 第三部は反逆編。第四部は逆襲編。そして第五部を創誕編と銘打ちます。

 なろうで読んで下さってた方々なら、大体どの辺からか分かると思うので、多くは語りませぬ。

 因子、真実、タカトの目的、そして裏側に蔓延るもの――ここから、さらに激化していくストーリーをお楽しみ下さい♪

 

 ではでは♪

 

(PS:第三部予告を次ページに載せます♪)

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「――シオン、俺は成すよ。創誕を」

 

 その出会いは運命であったか、聖剣の少年は魔剣の男性と出会う。

 

「おっちゃん……! なんで、なんであんたが!?」

 

「坊主、人間譲れねぇもんってのがあんだよ」

 

 その中で、少年は真実を知る――。

 

「うそ、だ……」

 

 −かかかかかかかか……! 本当さ兄弟、お前が−

 

「うそだ、うそだ、うそだうそだうそだうそだ……!」

 

 −お前が、全てを奪ったんだ−

 

「うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!」

 

 明らかになる二年前の真実、タカトの嘘、痛みを伴う答えに少年はどんな答えを出すのか――。

 

 やがて、因子を巡る事件は、大規模の抗争に発展する。

 

 管理局へのクーデター、ミッド争乱、本局占拠、アースラチーム壊滅、物語は更なる戦いへと向かう。その中で、一つの真実が明らかになる時、彼女が一つの決断を下す。

 

「私が、あなたを”幸せ”にしてあげる」

 

「……やはり、俺はお前が嫌いだ」

 

 そして、物語の行方はある世界に進む――。

 

 魔法少女リリカルなのは StS,EX。

 

 ――真名解放。

 

「ツアラ・トゥ・ストラ、お前達は――」

 

 我が真名は――!

 

「やりすぎた」

 

 第三部「反逆編」

 

「それでも、タカ兄ぃは――優しかったんだ……」

 

 始まります。

 

 




次回予告
「スバルを助け出し、ようやく、いつもの日常が帰って来たアースラ」
「しかし、思わぬ事態が起きて……?」
「ついに第三部『反逆編』開始!」
「次回、第二十三話『はじめて』」
「それは、少年、少女達にとって。紛れもない、はじめてで」

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