魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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はい、テスタメントです♪
第二十一話の中編であります。
ここまで見て頂けた方はお分かりでしょうが、テスタメントの得意分野は戦闘です(笑)
逆に恋愛は苦手です。書いてて照れるから(笑)
そんな、戦闘ばっかなStS,EXですが、よろしくお願いします♪
では、第二十一話、中編どぞー♪


第二十一話「スバルのココロ」(中編)

 

 ガジェットが張るAMF。それは、シオンには意味を成さなかった。その身に纏うは自身の魔力。シオンは己の身体に魔力を流し、AMFに対抗する。吹き上がる魔力が推進力となり、シオンは加速。ガジェットに一気に突っ込む!

 

「神覇伍ノ太刀、剣魔ァ!」

 

    −轟!−

 

 吹き上がる魔力をシオンは纏って、突貫する。イクスを突き出しながらの突貫は、その進行方向に居るガジェットを纏めて砕き切った。

 シオンはそのままガジェット群の真ん中まで進み、剣魔を解除。両の靴を地面に叩きつけ、床を削りながら止まる。

 しかし、壊したガジェットはシオンの進行方向に居たガジェットだけだ。それを免れたガジェットが、今度はシオンを包囲して殲滅せんと彼の方を向き――。

 

    −閃−

 

    −弾!−

 

 ――追撃で走ったクロスファイアーシュートが飛来! 後方から放たれたそれはガジェットを貫き、爆砕していく。

 その後ろから、ティアナの姿が唐突に現れた。オプテックハイド。光学迷彩を掛ける魔法だ。これをもってティアナは姿を隠していたのだ。そして後一人。

 

「はぁっ!」

 

    −撃!−

 

    −砕!−

 

 シオンの周囲に居たガジェットが、次々に破壊されていく。全て破壊された直後、これもまた唐突に人が現れた。ギンガだ。

 彼女もまたティアナにより、透明化をかけられたのである。シオンの突貫にティアナの射撃、ギンガの追撃で陣形を崩されたガジェットは散り散りに撤退を開始――それを許す筈が無かった。

 

「神覇参ノ太刀――」

「クロス、ファイア――」

 

 シオンからは再び魔力が吹き上がり、ティアナはカートリッジロード。周囲にスフィアが二十、展開した。そして、二人は同時に叫ぶ!

 

「双牙ァ!」

「シュ――トッ!」

 

    −破!−

 

    −閃!−

 

 振り下ろしたイクスから二条、地を疾る斬撃が放たれ、それを追うように二十の光弾がガジェットに向かう。それは過たず撤退するガジェットを粉砕したのだった。

 

 

 

 

 シオンは残心を解き、立ち上がると、ギンガがウィンクして見せた。二人にティアナも合流する。

 

「よくこんな作戦思い付くよなー」

 

 そう言いながらシオンが見るのはティアナだ。彼女は「まぁね」と答えながらカートリッジの残弾を確認する。ギンガもまた、カートリッジの確認を行い、二人は顔を曇らせた。

 

「うーん、まだカートリッジに余裕はあるけど……」

「補給が期待出来ないのはきついわね……」

「大変だなー」

 

 ぼやく二人にシオンは他人事の様に呟く。二人と違い、カートリッジシステムが無い為、シオン自身は気楽であった。そんな彼を二人は恨めし気に睨む。

 

「何、他人事なのよ」

「シオン君? 私達の残弾が無くなったら自動的に援護は出来なくなるのよ?」

「う……!」

 

 二人の言葉にシオンは呻く。実際、彼は連携戦闘は苦手であり、ティアナ、ギンガがシオンを援護する形で連携戦闘を行っているのだ。

 

「ま、まぁ、それは置いて置くとしてだ」

「逃げたわね?」

「逃げたね?」

「それは置いて置くとして!」

 

 半眼の二人にシオンはあくまで繰り返す。決して誤魔化そう等とは考えてはいない――多分。

 

「ティアナ。スバルの位置、掴めたか?」

「もうちょっと待って。エリアサーチが今、六割済んだ所だから」

【ふむ。その間にギンガ・ナカジマ。この時のスバル・ナカジマはどうなったのか教えて欲しいのだが】

 

 イクスがギンガに向かって問う。この時の事情をスバル自身から聞いているティアナはエリア・サーチに集中し、事情を知らない二人はギンガに説明を受ける形だ。ギンガは頷き、シオンの眼を見ながら口を開いた。

 

「ええ。この日、私達は――」

 

 自分の目を見て話すギンガに、この姉妹は眼をジッと見て話すよな、と思いつつシオンは耳を傾けた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ええっ!?」

 

 ちょうどギンガから事情を聞き終えたタイミングで、ティアナから声が上がる。それにシオンとギンガが、ティアナを訝し気に見た。

 

「どしたよ。いきなり叫んで?」

「その。……スバル、見つけたんだけど……」

 

 言い難そうにティアナは話す。そんな彼女の様子に、シオン、ギンガは疑問符を浮かべた。一体何があったと言うのか。

 

「見つかったならさっさと行こうぜ」

「そう、なんだけど」

「……何かあったの? ティアナさん」

 

 真剣な顔持ちで話すティアナに、ただ事では無いと二人は居住まいを正す。ティアナも息を一つ飲んで、エリアサーチが感知した”存在”を話した。……それを聞いて、シオン、ギンガは流石に絶句する。

 

「……イクス?」

【十分有り得る話しだろう。寧ろ、スバル・ナカジマのこの時の印象の度合いからすると、”彼女”が出ない方がおかしな話しだろうな】

 

 イクスの答えに、それぞれ冷や汗を流す。確かに聞いた話しによれば、この時のスバルは”彼女”に助けられた事により、魔導師を志したらしい。ならば、彼女の姿を因子が取るのは至極当然と言えた。

 

「……だからと言って此処でまごまごともしてられないか」

「そうね……。気は進まないけど、やるしかないし」

「行きましょう!」

 

 三人は一斉に頷き、駆けようとする――直後、突如に周囲の炎が巻き上がった。

 

「「っ!?」」

「二人共、散って!」

 

 ギンガの叫びに一番前に居たシオンは前転し、ティアナは右後ろへとジャンプ。ギンガも左後方へと飛びのく。

 次の瞬間、シオンと二人を分断するかのように巻き上がった炎が降り落ち、炎の壁となった。

 

「二人共!?」

《こっちは大丈夫!》

 

 シオンの叫びにティアナから念話が来た。ギンガも即座に念話で話し掛けて来る。炎が邪魔で声がこちらまで届かないらしく、念話を使ったらしい。シオンは頷き、すぐさまそちらに行こうとして。

 

《今すぐそっちに――》

《馬鹿! 目的が違うでしょ? アンタはスバルの所に行きなさい!》

《そうよ、シオン君!》

 

 シオンの念話に、ティアナが、怒鳴り、ギンガもティアナを肯定する。そんな二人の念話に、シオンは若干考え込み――だが振り返ると、即座に駆け出した。

 

《……悪い。なら先に行く!》

《すぐ追い付くから!》

《シオン君、スバルをお願いね!》

 

 二人の念話にシオンは頷きながら、魔力を吹き上げ疾駆していった。

 

 

 

 

「……行きましたね」

「ええ」

 

 二人はシオンがスバルの方に向かったのを感じ、ホッと息を吐く。そして眼前の”敵”を見た。それは炎の巨人だった。形状としては、なのは達がタカトと会った時の感染者に酷似している。

 

「このタイミングで出て来たって事は――」

「間違い無く私達の足止めね」

 

 二人に応えるが如く炎の巨人は吠える。二人はそれぞれのデバイスを構えた。

 

「すぐに突破しましょう!」

「ええ。シオン君を追い掛けないと!」

 

 向かい来る巨人に、二人は同時にカートリッジをロードした。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「お父さん……」

 

 声が響く。子供の声だ。辺りは炎に包まれている。その中を、弱々しく少女が歩いていた。

 少女の名はスバル・ナカジマ。十一歳のスバルがそこに居た。

 

「お姉ちゃん……」

 

 歩く、歩く。父と姉を呼びながら。だが、その声に応える者はいない。スバルがホールを歩いていると、突如として振動が走る。それに振り向いた――次の瞬間。

 

    −爆!−

 

「わぁっ!?」

 

 近くで爆発が起きた。その爆風にスバルの身体は軽々と吹き飛ばされる。

 

「くぅ……痛っ!」

 

 軽い身体は地面を跳ね、空港のエントランスにある女神像の下まで飛ばされた。

 

「うぅっ……う」

 

 泣きながらスバルは両手をついて膝立ちになる。ポロポロと、涙が頬を伝った。

 

「痛いよ……」

 

 スバルは涙を流す――それでも助けは来ない。

 

「熱いよ……」

 

 炎は容赦をしない。スバルの小さい身体を情け容赦なく、痛めつける。

 

「こんなの……やだよぉ……!」

 

 嫌だと、こんな現実は嫌だとスバルは泣き続ける。それすらも炎に包まれた世界は許さなかった。

 

「帰りたいよぉ……!」

 

 切なる願い。だがそれを嘲笑うかのように、女神像の台座部分に皹が入った。

 

「助けて……!」

 

 皹は徐々に拡大し、そして――

 

「誰か……助けてっ!」

 

 ――崩れた。

 女神像はゆっくりと、だが確実にスバルへと落ちていく。影がスバルに射し、そこで漸くスバルは異変に気付き、後ろに振り向く。そこには、スバル目掛けて落ちる女神の顔があった。

 

「っ――!?」

 

 スバルはしかし逃げる事も出来ずに、目を閉じて顔を両手で覆う。そんな事で、逃れられる筈も無いのに。

 

 ――そして。

 

「神覇!」

 

 像が。

 

「壱ノ太刀!」

 

 落ちて――。

 

「絶影ィ!」

 

    −撃!−

 

 一撃の元に砕け、吹き飛ばされた。

 

「きゃうっ!」

 

 その衝撃に、スバルは悲鳴を上げる。だが、衝撃が巻き起こした風はスバルの頬を撫でた。

 それはこの炎で熱く、スバルを焼く筈の風。だが、何故かスバルはその風を優しいと感じた。

 その風に誘われるように目を開くと、そこには少年が居た。銀の髪に、黒のバリアジャケットを着ている少年が。

 

「ぎりぎりだな。また今度も」

 

 少年は嘆息し、そのまますかさず頭上を睨み付けた。

 

「……本当なら助けるのはアンタの役目でしょう?」

 

 その睨み付ける先に、”黒の”少女が居た。――少年は知っている。本来そのバリアジャケットは純白であった事を。そして少女は笑う、嘲笑う。

 それは本人では――”高町なのは”では無い証。

 彼女は絶対にそんな表情はしない。断言出来る。

 この存在は、カタチだけの偽物だと。それを少年は、シオンは確信する。

 

「もうちょっとだったのになぁー」

 

 なのは――ややこしいので彼女もなのは・オルタとでも名付ける――は、残念そうに言う。そんな彼女にシオンは明確に苛立った。何がもうちょっとだったと言うのか。

 

「もうちょっとで、その子プチって潰れたのに」

「ひっ……!」

 

 なのは・オルタのその一言にスバルは怯える。そんな彼女を見て、なのは・オルタはニッコリ笑った。

 それは、天使の様な慈愛の笑み。

 

「スバル。今すぐ死んでくれない? ほら、あの炎に飛び込んだら一瞬だよ?」

「あ……あっ!」

 

 怖い。その慈愛に満ちた笑みがただひたすらに恐ろしい。なのは・オルタは続ける。”悪魔”の慈愛の笑みを浮かべながら。

 

「大丈夫だよ。死んじゃっても大丈夫な様に力を上げるか――」

「黙れ」

 

 なのは・オルタの台詞をシオンが遮る。たった一言。だが、その一言はあまりに重く、力があった。

 

「それ以上スバルの思い出を、なのは先生を汚すな。ゴミ」

「……ゴミ?」

 

 シオンの言葉に、今度はなのは・オルタが怒りの視線を向ける。だがシオンは構わない。

 

「これ以上、ゴミと話す積もりも無い。汚れるからな」

「言ってくれるね……!」

 

 シオンはイクスを。なのは・オルタはレイジングハートを構える。

 

「誰がゴミか――」

「黙れと言ったぞ」

 

 シオンの静かな怒り。それに呼応するかのように、炎がシオンを中心に避けていく。まるで、シオンを恐れるかのようだ。

 それを見ていたスバルも恐怖に固まる――しかし。

 

「スバル」

 

 一言。その一言がスバルの恐怖を取り払った。それはあまりにも優しい声で。

 

「お前の思い出を、取り戻すから」

 

 スバルは彼が何を言っているか解らない。だが。

 

「うん」

 

 スバルは確かに頷いた――。

 直後、シオンは駆け出し、なのは・オルタは魔法を放つ!

 

 いつかの戦いの続きが、ここに始まった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 シオンの意識がまた怒りで澄み渡っていく。心はまるで、機械のように静かに、冷たくなっていた。心の何処で、カチリと歯車が嵌まる感覚を覚える――。

 

「アクセルシューター!」

【アクセルシューター!】

 

 なのは・オルタのレイジングハートから空薬莢が飛び出る。カートリッジロードだ。そのままレイジングハートをこちらに向けて来る。

 

「シュ――――ト!」

 

    −閃−

 

    −弾!−

 

 なのは・オルタが放つは四十の光射。それは過たずシオンを、その”後ろ”へとひた走った。シオンは回避を選ばず、距離を狭める事を諦め、イクスを振り上げる。

 

「セレクトブレイズ」

【トランスファー!】

 

 ブレイズフォームに戦技変換。そのまま両のイクスを振るい、”全て”の光射の迎撃に動く。それを見て、なのは・オルタが浮かべるのは嘲笑だ。

 

「クスクス……。律儀だね? ”スバル”を守る為、あえて全部防ぐなんて」

「……」

 

 シオンは答えない。そもそもなのは・オルタと話す積もりが無い。だが、なのは・オルタはスバルへと視線を向けた。

 

「スバル、解る? 自分が足手まといになってるって」

「……!」

 

 スバルがなのは・オルタの言葉に呆然となり、シオンへと視線を移す。彼は、未だ降り注ぐ光射を切り払っていた。なのは・オルタは追撃のアクセルシューターを放ちながら、スバルへとさらに言葉(凶器)を放つ。

 

「守って貰ってばっかりで、だから大切なモノも失う、守れない」

「う……うっ!」

 

 それは呪詛、それは呪い。

 

 ――守れない。

 

 なのは・オルタは次々と、スバルにそれを刻み込んでいく。

 

「だから力をあげる。誰かに守られない力を、自分は守れる力を」

「あ、あ……!」

 

 再び慈愛の笑みを浮かべるなのは・オルタに、スバルは目を離せない。そのまま――。

 

    −閃−

 

 ――なのは・オルタの肩を一条の斬撃が斬り裂いた。

 

「な……!?」

 

 あまりの突然の事に、なのは・オルタの顔が驚愕に歪む。それをシオンは冷ややかに見ていた。既に全ての光射は消えている。全て斬り裂いたからだ。彼はぽつりと呟く。

 

「やっぱゴミか。なのは先生より遥かに弱いよ、お前」

「き、貴様……!」

 

 既に外面を取り繕う余裕も無いのか、言葉遣いも真似出来ていないかった。さらに。

 

    −撃!−

 

「あ……!?」

 

 再び背後から襲い来たダメージに、なのは・オルタは愕然する。その背中には、いつ投じられたのか二振りのイクス・ブレイズが突き立っていた。

 

「い、いつ!?」

「お前がお喋りに夢中になっている時にだ。魔力”だけ”は、なのは先生でも他が全部劣化品。しかも質の悪い、な」

 

 シオンはいっそ侮蔑すら――いや、哀れみさえも浮かべて、なのは・オルタを眺める。

 そのあからさまな侮蔑に、なのは・オルタは二の句も告げなかった。シオンからしてみれば、この劣化品はあまりにも弱すぎた。

 いくら優位に立っていても敵を前にして他者とお喋りする等、三流を飛び越えて五流にすら劣る。

 なのは・オルタの身体からバブルが、因子が溢れる。再生。身体の傷が治ろうとしているのだ。シオンは両の手をなのは・オルタへと突き出す。

 

「イクス」

【リターン】

 

    −撤−

 

「あ、ぐっ!?」

 

 呼び掛けに応じ、イクスがなのは・オルタの胸を突き破り、シオンの手元へと舞い戻った。彼は柄を掴むと、そのままなのは・オルタを眺める。彼女はダメージの深刻さ故か、再生にかかりきりで何も出来ない。シオンは、イクスをノーマルへと戻した。

 

「ま、待って!」

「…………」

 

 とどめを刺そうとするシオンに、なのは・オルタは再び本物を真似た声音を出した。

 

「助けて! お願い、シオン君!」

「…………」

 

 命請い。それに、シオンが止まった事を確認して、なのは・オルタは嘲笑を浮かべた。やはり、人間は愚かだと。

 

 ――シオンが止まった理由を履き違えているのに。

 

「ははは! 死ぃ――」

 

    −斬!−

 

 ……最後まで言葉を紡ぐ事さえ出来なかった。

 なのは・オルタは自分の胸に突き立つイクスを見て呆然とする。

 シオンは一歩も動いてはいない。射刀術。彼は、イクスを目にも留まらぬ速度で投げ放ち、なのは・オルタへと突き立てたのだった。

 

「な、ん……!?」

「いい加減舐めすぎだ。せめて本物の万分――億分の一でも”らしい”所があればよかったのにな」

 

 シオンは命請いに止まった訳では無い。ただ呆れたのだ。あの薄っぺらい演技に。

 結局、この劣化品は本物のなのはの力を片欠すらも使う事が出来なかった。ただそれだけの事。

 

「――呪ってやる! 呪ってやる、呪ってやる!」

「ウゼェ。いいからさっさとくたばれ」

 

 呪詛を撒き散らす醜悪ななのは・オルタを、シオンはこれ以上見る気になれなかった。一刻一刻ごとになのは先生を汚されている――そんな気持ちにさせられたから。

 

 結局、なのは・オルタは最後まで呪詛を撒き散らしながらバブルへと変わっていき、消えていったのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 シオンはなのは・オルタが消えた事を確認すると、漸く息を一つ吐いた。

 もし、あれが本物並の能力と知性を合わせ持っていたならばと考えると恐ろしくなる。実際、本物のなのはと戦ってもシオンに勝てる自信は寸分も無かった。切り札を連発して勝てるかどうかと言う人なのだ。

 蓋を開けてみれば本物と比べる事すらおこがましい偽物だった訳だが。

 

 そして、もう一つ。いくら何でも知人の顔をしている存在を殺す事に、シオンの精神は参り始めていた。

 ――今なら解る。これは地獄だ。シオンはもう一度だけ嘆息すると、スバルの元へと降り立った。

 ……そこで失敗に気付いた。自分は、スバルの眼前で何をやった? 頭を抱える。普通に怖がられるだろう。暴言の連発に、情け容赦ない攻撃。おまけにとどめも刺した。

 

【後悔後先立たずだな】

「……うるさいよ」

 

 呻くようにイクスにツッコミを放つ、が。それにも力は無い。とりあえず怖がられる事を覚悟の上で、スバルに近付く。だが、意外にもスバルは表情を変えなかった。

 

「……スバル?」

「うん。何? ”シオン?”」

 

 スバルの言葉にシオンは絶句する。今、このスバルはシオンの名を呼ばなかったか? 呆然とするシオンに、スバルが笑いを浮かべた。

 

「大丈夫だよ。……全部、思い出してるから」

「あ、ああ。そうか」

 

 シオンはスバルの言葉に絞り出すように頷いた。どうやら基点とも言える感染者を倒すと、スバルは記憶を取り戻すらしい。シオンはようやく嘆息では無い、安堵のため息を吐く。

 

「安心した?」

「まぁな。……て事は――」

 

 スバルが頷く。その姿は、うっすらと透け始めていた。

 

「そっか……」

「うん。……ねぇシオン、一つだけ教えておかなきゃいけない事があるんだ」

 

 薄れゆくスバル。それにシオンも頷く。声を聞き漏らさない為に、スバルへと顔を近付けた。

 

「……ここから先の私は、多分私で、そして私じゃないと思う」

「それって――」

【フム】

 

 シオンがちらりとイクスを見て、イクスもまた声を上げる。薄れゆくスバルは、しかしシオンの袖を掴み、真摯な目で訴えた。

 

「でも、これだけは覚えてて。それも含めて”私だから”! どんな、どんな私でも、それも私だから! だから――」

 

 ――嫌いにならないで!

 

 スバルの声にならない声に、シオンは一瞬だけ呆然とする。その意味を理解して、ゆっくり頷いた。

 

「……解った」

「信じてるから。きっと、信じてるから……」

 

 声が掠れる。姿が薄くなる。それでも、スバルは繰り返す。シオンはスバルの瞳を見て、もう一度頷いてやった。

 

 ――きっとだよ。

 

 スバルの言葉は声にならず、けどシオンには確かに聞こえた――やがて、スバルの姿は消えた。

 

「……イクス」

【気付いたか? 今のスバル・ナカジマは情緒不安定だったろう? だが、”彼女は彼女”だ。紛れも無い本人だ】

「……うん」

 

 シオンは思う。自分が知るスバルも、今の情緒不安定なスバルも、同一人物なのだ。同じココロ。だけど、それでも――。

 

「……どんなスバルでもスバル、か」

【そうだ】

 

 一人ごちるシオンの背後から、ローラーが地を走る音が鳴る。振り返るとティアナを抱えるギンガが居た。シオンは、二人に手を振る。

 ……不安を、スバルのココロの奥底に向かう不安を振り払うように、大きく手を振った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ――私、守ったよ。

 

 世界が割れ、次の世界に落ち――唐突に、シオンはそんな言葉を聞いた。

 次の世界はどう言う訳か、暗い施設の様な場所だった。辺りには研究用の機材が置かれている。

 

「なん、だ……?」

「どうしたの、シオン?」

 

 いきなり疑問の声を出したシオンに、ティアナが問い掛ける。二人に、先程の声が聞こえなかったかを聞こうとして。

 

 ――私、頑張って守ったんだよ。

 

 また、声が響いた。今度は聞こえたのだろう、ティアナ、ギンガもまた驚きに顔が固まった。この声は――。

 

「スバルの、声?」

 

 次の瞬間。シオン達の前にスバルが現れた。だが……。

 

「ス、バル……?」

 

 スバルの身体は、因子に覆われていた。その瞳は暗い――暗く、闇い。

 

 ――私、頑張って守ったんだよ?

 

 声を介さない声。それを目の前のスバルは放っていた。

 

「スバル、どうしたの……?」

「スバル……?」

 

 ティアナ、ギンガが立て続けに問い、近付こうとして――そのまま二人は愕然とした。近付けなかったのだ。まるで、足がその場に縫い留められたかのように動け無い。

 

 ――でも、”助けられなかった”。

 

 直後、シオンに、ティアナに、ギンガに、イクスに、あるイメージが脳裏に叩き付けられた。

 それはある光景。燃える火災現場。守れなかった人。子供の死体を前に、呆然と、涙すら流せずに呆然とするスバルの姿――!

 

「これは!?」

「スバルの……!?」

「っ!」

 

 ティアナが目を見開き、ギンガが呻く。シオンは顔を歪めた。

 スバルの、闇。それをほんの僅かだが、見てしまったからだ。

 

 ――守りたかったよ。私、守りたかったんだよ……。

 

「スバル……っ!」

 

 眼前に立つスバルに手を伸ばすシオン。しかしその手は届かず、スバルは因子に飲み込まれるようにその姿を消した。同時、三人に自由が戻る。思わず転倒しそうになりながら、しかし体勢を立て直した。

 

「……イクス」

【シオン、そしてティアナ・ランスター、ギンガ・ナカジマ。今の光景を受け止めろ】

 

 今見たモノが嘘であって欲しいと、そう思いながらイクスに問い掛ける。しかし、返って来た返答は無情であった。

 

「でも……!」

「信じ、られない……」

 

 ティアナも、ギンガも首を横に振る。そんな筈が無いと。シオンもそう思いたかった。だけど、思い出すのは先程のスバルとの会話。

 

 ――どんな私でも、私だから。

 

「そう、なんだな。……イクス」

【ああ】

 

 イクスは迷わない。シオンはぐっと息を飲んだ。解っているのだ。答えは、解っている。ただ。

 

「そう、か」

 

 ただ。

 

「認めるよ。この世界のスバルは」

 

 ただ、認めたくなかっただけ。

 

「”因子”を、受け入れたんだな」

 

 シオンは認めたく無い事実を、声に出す事で認めようとした。

 

 ――そんな事に意味は無いと解っているのに。

 

 この暗い、闇い世界で、シオンはスバルの言葉の意味を、ようやく痛みを伴う実感としてココロに刻み込んだのだった。

 

 

(後編に続く)

 




はい、第二十一話中編でありました。
こうして見ると、本当に戦闘ばっかな(笑)
ちなみに、ラストのスバルなんですが、スバルにとって守れなかった事って、相当のトラウマになると思うんですよね。
ただ、彼女は基本的に強いので普段は表に全く出ません。
それが、感染者となる事で顕在化したと言う訳です。
なのは・オルタについては、もう完全に別物と言うか、物真似の類なんで、大目に見て貰えると助かります(笑)
ではでは、ここまでで最大文字数となる後編でお会いしましょう♪

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