魔法少女 リリカルなのはStS,EX 作:ラナ・テスタメント
第二十話後編をお届けします♪
より激しさを増すはた迷惑な異母兄弟達(笑)の喧嘩をお楽しみに♪
「喰らえっす!」
−煌!−
管理局地上本部の地下施設。そこでシオン達は因子が複製した? と思われるウェンディとノーヴェと戦っていた。
従来でも中々に厄介な手合いだが、この二人はさらに変化していた。
――砲撃。ウェンディのライディング・ボードからはAAA級の砲撃が放たれたのだ。
彼女も射砲撃は使えるが、ここまで強力な砲撃は持っていない。
そんな砲撃が迫る中で、シオンはギンガ、ティアナの前に出ると片手にシールドを発動し、受け止めた。
「貰ったぁー!」
その隙を狙ってノーヴェが襲い掛かる! 両足のジェット・エッジが激烈な回転を刻んだ。さらに背中からブースターが展開し、加速――これも、本人には無い物だ。
「チィッ!」
上下から襲いくる凶気。シオンはそれに対して、シールドにイクスを叩き付ける。
「神覇四ノ太刀、裂波!」
−波!−
直後、シールドが砕けたと同時に、空間振動が放たれる。波に晒され、砲撃は減衰され、ノーヴェも加速を止められた。さらに。
「はぁっ!」
【ウィングロード!】
シオンの背よりウィングロードが伸び、疾駆する。ギンガだ。左手のリボルバーナックルのスピナーが回転する。向かうはノーヴェ。しかし彼女もそのままでは無い。
ジェット・エッジと背中のブースターを吹かし、回転。裂波の拘束を破った。しかも、その回転を利用してギンガの一撃を向かい撃つ。
−破!−
−撃!−
互いの拳と蹴りが交差する。回転する二つのリボルバーは、鍔ぜり合いのまま互いに硬直状態になった。
それにウェンディから援護のエアリアルショットが放たれる。ノーヴェの身体を掠めて、ギンガに向かう光弾――だが全弾、ギンガの後ろから放たれた射撃が撃墜した。
「――! このへっぽこガンナー!」
「へっぽこで悪かったわね!」
ティアナへと罵倒を飛ばすウェンディ。だが、その暇は彼女に無い。瞬動でシオンが突っ込んで来たからだ。
ウェンディはそれに対して迎撃のエアリアル・ショットを放つ。……が、その射撃は全てシオンを通り過ぎた。シオンの姿はそのまま消える。
「幻影!?」
「遅ぇ!」
驚愕するウェンディの左横からシオンが突如として現れる。ティアナの幻影を囮として、シオンは瞬動でウェンディの真横に回り込んだのだ。ウェンディはライデング・ボードを構え、防御しようとする――遅い!
「壱ノ太刀、絶影!」
−閃!−
振るわれた刃は盾をかい潜り、ウェンディの胴を薙いだ。
だが、ウェンディはそれに笑う。次の瞬間、ウェンディの胴体から因子が溢れ、再生した。
「……な!?」
「呆けてる場合っすか!」
−弾!−
一瞬呆然としたシオンに、至近距離から砲撃が襲い掛かる。
シオンはそれを辛うじてプロテクションを張り、何とかガード。だが耐え切れず、弾き飛ばされた。そこに、ギンガと接近戦を行っていたノーヴェが突如、ギンガに背を向けてシオンに疾る。
「とどめーっ!」
その顔に悪意をべったりと張り付かせて、ノーヴェが襲い来る。ギンガも追うが、追い付け無い。放たれる蹴り。それに対して、シオンは叫んだ。
「セレクトブレイズ!」
【トランスファー!】
−戟!−
ブレイズフォームに戦技変換。軽くなったイクスを振るい、左のイクスで蹴りを受け止める。そこからシオンはノーヴェへと踏み込む事で、蹴りの威力を殺した。そのままノーヴェの蹴りの威力を伝導し、右のイクスをカウンターでノーヴェへと叩き込む!
−撃!−
鎖骨に食い込んだイクス・ブレイズの一撃を受け、ノーヴェは下へと叩き落とされた。
さらにギンガのリボルバーバンカーが追撃を叩き込み、ノーヴェは吹き飛ぶ。
――だが、ノーヴェの顔に浮かぶは笑み。直後に身体から因子が溢れ、やはり再生する。
シオンはそのままギンガと合流して、ウェンディと射撃戦を行っていたティアナの前へと降り立った。
ノーヴェもウェンディと合流。体勢を整える。その身体を覆う因子を見て、シオンは舌打ちした。
「あれで再生まですんのかよ」
「とんでも無く厄介ね……」
「それにあの子達。さらに”機能”が追加されてる」
恐らくは因子が改造したのだろうが、どちらにせよ厄介な事に変わりは無い。
【シオン】
突如としてシオンが手にするイクスから声を掛けられる。シオンは目線を落とさず、聞き返した。
「イクス? どうした?」
【……気になる事がある。ここは一時撤退を】
いきなりの提案。これに、三人は顔を見合わせた。
この二人は確実に因子と関わりがあるのだ。そこに迷う。この二人を倒せば、ひょっとしたらスバルを治せる可能性があるのに。
【……先に言っておく。あの二人を倒しても、恐らくはスバル・ナカジマを治療する事は出来ない】
「何……?」
「どう言う事?」
【それも含めて後で話そう。今は撤退を】
一瞬だけ、三人は躊躇い――だが、そのまま脱兎の如く二人に背を向け、駆け出す。
「逃がすと思――っ」
「参ノ太刀、双牙・連牙!」
−轟!−
−裂!−
三人を追おうとするノーヴェとウェンディに、シオンがいきなり振り返りつつ双刃を振るう。放たれるは四条の牙。それはシオンを包み込むように放たれ、二人に対して壁となった。
「この……っ!?」
「小賢しい真似するっすね!」
背中に叩きつけられるのは二人の悪態。だが、それを無視して再びシオンは駆け出す。同時にティアナが幻影を作り、四方八方に散らした。これで暫くは時間が稼げる筈だ。
「説明してもらうぞ、イクス」
【無論、その積もりだ。今は撤退に集中しろ】
その言葉に頷き、三人は走り続けた。奇しくもそれは、一年前にティアナ達が二人を相手に撤退を選んだ方向と同じであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
三人は暫く駆けて――二人が追って来ない事を確認すると、漸く足を止めた。シオンはイクスを眼前へと持ち上げる。
「ここまで来りゃあ、大丈夫だろ。……イクス?」
【解っている。その前にギンガ・ナカジマ、ティアナ・ランスター、二人に聞きたい事がある】
「……私達に?」
「何かしら?」
いきなり言われ、二人はイクスに疑問の声を上げた。即座に、イクスは問い返す。
【この事件の顛末と、スバル・ナカジマに、この事件で起こった事だ】
「……それは」
イクスの問いに、ティアナは迷う。ちらりと見るのはシオンだ。そのティアナを見て、ギンガが前へと進み出る。
「私から話すわ」
「ギンガさん……」
心配そうな顔をするティアナに少し微笑み掛け、そのままイクスとシオンに向き直る。
「まずこの事件の顛末だけど――」
そうして、ギンガから二人に説明が行われた。この時、自分がどうなったのかを。スバルがどのようになったのかを。二人はそれを聞き、暫く黙り込む。
「……イクス?」
【ああ。やはりと言うべきか】
「やはり?」
聞き返すティアナ。シオンやギンガもまた疑問符を浮かべる。イクスはそれに構わなかった。
【……あくまでこれは推測だ。トウヤに聞いた話しと統合しただけなのでな。しかし、恐らくは間違いあるまい】
「トウヤ兄ぃから?」
シオンの疑問にイクスは肯定する。そして、そのまま三人に告げた。
【恐らく因子は、スバル・ナカジマの記憶の改竄を行い、負の感情を増幅させようとしている】
「……記憶の改竄?」
「それに負の感情?」
聞き返すギンガとティアナ。イクスは【そう】と肯定する。
【トウヤは告げた。因子は精神生命体だとな】
「それが……?」
【ああ。ならばアレは、精霊の類と判断する事が正しい。そしてトウヤが過去にダイブした話しを統合するならば、アレは負の、”悪意”の精霊と判断するのが妥当だ】
「「「……は?」」」
イクスの推測に三人の目が丸くなる。そのままギンガとティアナはシオンに目を向けるが、シオンも初耳な話しなのだ。解る訳が無い。
【詳しい話しは後にしよう。重要なのは、因子がこの事件に置けるスバル・ナカジマの記憶を改竄し、トラウマと成す事で負の感情で満たし、完全に感染しようとしていると言う事だ】
「……つまりはこの後のギンガさんが掠われる所か」
【そうなる】
イクスの台詞に、シオンは頷く。そして、ティアナを見る――と、そのティアナは顔を青ざめさせていた。
「どした?」
「やっば……! もう時間が無いわ!」
「っ! そうだわ!」
そう。あの事件では、なのは達と合流している頃に、ギンガと通信が取れなくなり、そしてスバルが単身で突っ込んだ先で彼女は半殺しの目にあって掠われたのだ。つまり、もう時間が無い!
「ティアナさん! ごめんね!」
「きゃっ!」
「イクス! セレクト、ブレイズ!」
【トランスファー!】
時間が無い事を知ると同時に、ギンガがティアナを抱え上げ、ブリッツキャリバーの最大戦速で疾り出す。
シオンもまた速度に優れるブレイズに戦技変換し、空を翔けた。
向かうのはギンガが、チンクと戦っていた場所。
スバルが絶望と共に泣き叫んだ場所であった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
−閃!−
−撃!−
アースラ、訓練室。そこで戦う二人――トウヤとタカトの激闘は未だ決着を見る事無く続いていた。
ピナカが唸り、捩れながら空気を纏めて引きちぎり放たれ。
風巻く拳は空気を破り、それとぶつかり合う。
その度に周囲に展開している空間シュミレーターのビルの瓦礫が塵にまで還えられた。互いの技の余波がそれ等を引き起こしているのだ。
トウヤは突きを放った姿勢からピナカを回転し、石突きによる三連突きを敢行。魔力放出の恩恵もあり、それは打撃となってタカトへと放たれる。
それをタカトは両の腕で捌き、弾く。トウヤは構わない。そのままピナカを回転。今度は穂先がタカトへと差し向けられる。
−アヘッド・レディ?−
既に幾度も唱えられたキースペルが響く。それに対するタカトもやはり、キースペルを唱えた。
−トリガー・セット!−
この瞬間、二人の脳裡にガチリと鍵が開かれるイメージが展開される。開かれた扉から放たれるは、互いの魔法術式構成だ。その術式に魔力を乗せる。
「捩れ穿つ螺旋」
「天破疾風」
−裂!−
−破!−
互いの一撃はぶつかり合い――そこから止まらない!
一閃から十撃へ、そこから百裂、千轟と槍と拳、蹴りが叩きつけ合う。
風を纏い、炎が弾け、水が凍り、雷が疾り、土が跳ねる!
この時、二人は至近に留まりながら戦っている。
元来、魔法戦に於ける近接戦闘というのは、ようは体当たりみたいなものだ。高速で相手に向かって飛びかかり、魔力と勢いを乗せた渾身の一撃を叩き込む。つまり一撃、ならず攻撃を放った後は、勢いを付ける為に距離を取るのが定石なのだ。これは空戦や地上戦でも一致する事だ。
射撃魔法や砲撃等がある為、それを交える戦闘に近接して離れない戦闘法は廃れている、と言っても過言では無い。
古代ベルカ式ならともかく、近代ベルカ式は特にこの傾向が強い。しかし、巨大生物等を相手に近接での戦闘法を突き詰めたカラバ式はこの限りでは無い。むしろ、離れないのだ。
これは巨大生物の懐に飛び込む事を最前提としているからである。懐に飛び込む事により、敵の間合いから外れる。ミッド式では離れてこれを外すが、カラバは近付く事で外すのだ。
故に二人は離れない。至近距離こそが、互いの必殺の間合いなのだ。離れる馬鹿はいない。
放たれる槍を潜り抜け、放たれる拳をそのまま槍を回す事で防御する。二人はそんな一進一退の攻防をずっと繰り広げていた。
――しかし。
突如として、トウヤが離れる。タカトは追撃をかけようとし――トウヤの目を見て、追撃を止めた。
トウヤは左脇にピナカを通し、掴んだままタカトを見る。
――空気が変わった。タカトはそう感じる。頬を、冷や汗が一筋流れ落ちた。
「そのままでいいのかね?」
突如、そんな事をトウヤは聞いて来た。タカトはそれに疑問の言葉を放つ。
「何の事だ?」
「惚ける気かね? 貴様と私が至近戦で”互角”? ……舐めているのかね、貴様は」
トウヤは片目を閉じ、不機嫌そうにタカトに聞く。それにタカトは知らない”フリ”をした。
「何の事を言っているか解らんな」
「……そうか。あくまで見せたくは無い、と言う訳かね。良いだろう。ならば貴様はここで終わっていきたまえ」
トウヤはそう告げると、虚空に風と文字を描いた。タカトの冷や汗はさらに流れる。
「……ここで、そんな物を使う気か?」
「その通りだ。せいぜいあがきたまえよ」
次の瞬間。風が集い、巨大な巨漢の男が現れる。それは人間では無い。精霊。トウヤは永唱すらもせずに、それを呼んだのである。……たったの一動作で。それを見たタカトが、我知らずに呟いた。
「精霊王。――誓約者」
異母兄、トウヤの二つ名を。その二つ名はトウヤが行った、とある事が由来である。
――曰く、全ての精霊と契約せし者。それは未だ、成し得ないとまで言われた偉業だ。
それを成した者であるトウヤは、故に生ける伝説とまで呼ばれたのだ。トウヤはそのままピナカに風の精霊、ジンを装填する。精霊装填。それをトウヤは事もなげに使いこなしていた。
「……上手く防ぐ事だ」
「――っ!」
直後、トウヤは瞬動を持ってタカトの眼前に現れる。
まずい、既に回避は不可能だ。タカトは再びシールドを展開する――無駄だと知りながらも。
トウヤはそんなタカトを冷ややかに見ながら、ピナカを突き出した。
−アヘッド・レディ?−
「真・捩れ穿つ螺旋」
−閃!−
−裂!−
−砕!−
――まず、空気が切り裂かれた。次に空間が捩れ、光が歪曲して見える。
音は遅い。既にそんな物は軽く超えている。
突き放たれたピナカは、タカトの防御を紙屑のように砕き、その胸へと突き立とうとして。しかし、タカトは仙技、縮地を持ってギリギリで回避。だが、その余波はたやすくタカトを吹き飛ばした。
近くのビルにタカトは叩きつけられ、そのまま貫通。ビルを二つ程貫通して、ようやく止まった。
「ぐ……っ!」
タカトはすぐに身を起こそうとし――目の前に突き立つピナカに絶句した。
予備動作無しの投擲。そして、ピナカが纏う赤より朱い紅に!
「真・焦れ尽くす天空」
−煌!−
タカトはその瞬間。確かに、意識を失った。世界から音が消えた事を確信する。
−爆!−
烈煌滅爆! 火柱――あまりにも巨大な火柱が突き立つ!
それはたやすく訓練室の床と天井をぶち抜き、巨大なクレーターを作り出した。
火柱が消えた後には、タカトが身体の所々から煙を上げて倒れ伏している。
周りにあった瓦礫はとうに蒸発してしまっていた――そもそもタカトが原形を保っていられる事が驚きであった。
トウヤはそんなタカトに向かって歩く。手にはいつの間に戻って来たのか、ピナカを携えていた。
圧倒的過ぎる攻撃力をタカトにぶつけたトウヤは、無表情のままである。そしてクレーターの縁に立つと、タカトを冷ややかに見据えた。
「……もう一度言おう。タカト、”そのまま”で良いのかね?」
「ぐっ! ……っ!」
タカトが身体を引きずるようにして無理やり立ち上がる。しかし、その顔に浮かべるのは笑みだった。
「そんなにまでして見たいのか?」
「そんなにまでして見たいのだよ」
タカトの疑問にトウヤは頷く。
立ち上がったタカトは、そのまま右手首を左手で押さえる。強く、強く。
「……いいだろう。なら、見せてやる……!」
「そうしてくれたまえ」
そう言った――直後。
光が集う、光が集う、光が集う!
暗い暗い、光が集う!
闇が集う、闇が集う、闇が集う!
輝く、輝く闇が集う!
タカトの右手。その拘束具に――!
そしてタカトが浮かべるは、獰猛な、獣が如き笑み。
「よく、見ろ……これがっ!」
瞬間、タカトの身体から凄まじいまでの力が溢れ出した。それは一瞬で空間シュミレーター内の空間を、次元を――否、世界を軋み尽くす!
「アンタが望み、欲した力だっ!」
−煌−
その一言と共に、タカトの拘束具が滑り落ちた。更に頭と右の顔を隠していたフードが弾け飛ぶ。その開かれた”右の瞳”が世界を照らし出した。
――煌々と灯る、紅を。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――カメラが急に何も映さなくなった。
ブリーフィング・ルームに詰めている三人、なのは、フェイト、はやては、慌てる管制陣の声を聞きながら、背を流れる冷や汗を自覚する。
トウヤの異常過ぎる戦闘能力に恐怖すら覚えたからだ。正直、トウヤを知らな過ぎたとしか言いようが無い。
あのタカトと互角に渡り合い、さらに最後は圧倒すらしていたのだ。
同時に精霊召喚と精霊装填。それを瞬時に行う技量。そしてSSS級以上の攻撃を連続で叩き込みさえした。
「……まさか、やね。これ程とは思わんかった」
はやてが呟く。なのは、フェイトもそれに頷いた。
ランクEX――評価規格外。その意味を、改めて実感させられた。
《すみません艦長。モニター、先程のトウヤさんの一撃で完全に破壊されてしまったみたいで……》
「……そか。ん、しゃあないよ」
《それからもう一つ、今の一撃で多重強装結界、五つ破壊されました》
その報告に、はやて達はトウヤの一撃がどれ程の物だったのかを悟った。今、訓練室には二十の強装結界が展開されている。それが五つ。
なのはのブラスター・モードの3を使用した、スターライト・ブレイカーに匹敵する威力をそれは叩き出した事を意味していた。
そんな三人に、唐突に声が来る――。
《……いい……う。なら、見せ……る……!》
「……何?」
急に聞こえたその声に、なのはがウィンドウを注視する。ウィンドウのモニターは画像こそ映さなくなったが、集音はまだ壊れて無かったらしい。はやて、フェイトもなのはに倣い、ウィンドウに顔を寄せる。
《よく……ろ……これが……!》
「上手く聞き取れん……シャーリー?」
《はい、最大集音を行ってみます》
はやての指示に従い、シャーリーがカメラの集音を操作したのだろう。音が大きくなる。そしてタカトの一声を――叫びを、なのは達は聞いた。
《アンタが望み、欲した力だっ!》
−轟!−
−軋!−
次の瞬間、アースラに激震が走った。三人は机にしがみ付く事で何とか耐える。
「な、何?」
「どないしたんや!?」
「シャーリー!」
なのは、はやてが疑問符を浮かべ、フェイトがシャーリーに事の子細を頼む。だが。
《……何、……コレ……?》
三人が聞いたのは、そんな声だった。呆然とした、そんな声。
「シャーリー?」
「どないしたんや、シャーリー!?」
《……艦内に、異常発生……。訓練室を中心に少規模ですが、”次元震”が発生しました》
震える声での、シャーリーからの報告。それに、今度こそ三人は絶句させられた。
――次元震。次元災厄でも最悪に近いものである。それが少規模とは言え、どうやったら発生させられると言うのだ。しかも、彼女達の驚愕は止まらない!
−軋!−
−裂!−
先程よりもさらに激しい揺れがアースラを襲った。なのは達も危険を察知し、デバイスを起動。それぞれバリアジャケットと騎士甲冑を纏う。
「っ――! シャーリー!?」
《……次元震、少規模から中規模になりました……! 嘘……!? じ、次元断層が引き起こりかけてます!?》
《多重強装結界! 今の次元震で二層破壊! 再展開まで後一分です!》
矢継ぎ早に飛ぶ報告に、はやて達は顔を青ざめさせた。しかし、即座に各部署に指示を下す。
「強装結界の再展開を最優先! 各部署はこれに全力を持って当たってや! 強装結界が破られたら一巻のおしまいや! お願いするな!?」
《了解!》
−轟!−
そこでまた激震が走る。再び次元震が起こったのだ。それも、明らかに先程より巨大なものだった。――中規模から大規模に変わったと、三人は直感で悟る。そして苦々しく、今は何も映さなくなり、集音すら出来なくなったモニターを睨み付けた。
「……何が、……中で何が起こってる言うんや……!」
はやての呟き、それになのは達も答える事が出来ずに沈黙する。
−轟!−
−軋!−
四度目の激震が、再びアースラを揺らした――。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
スバル・ナカジマは、その光景を見る。それは――あまりに異様な光景だった。
「う、うあ……!」
スバルが呻く。その視線の先には多種多様の人達が居た。……ボロボロの、死体で。
なのはが居た。
フェイトが居た。
はやてが居た。
エリオが居た。
キャロが居た。
シグナムが居た。
ヴィータが居た。
シャマルが居た。
ザフィーラが居た。
リインフォースⅡが居た。
さらに管制陣や、スバルの父、ゲンヤの姿もある。
山と積まれ、並ぶ死体達。それにスバルは涙を流す。ここには”死”が溢れていた。
まさに地獄。その表現が正しかった。
スバル自身もボロボロだ。立ち上がれ無い程に痛め付けられている。
そして、更に目の前にはティアナを抱えるノーヴェ。ギンガを抱えるウェンディ。その二人にスティンガーを突き付けるチンクが居た。
ややあってチンクが口を開く。その顔はあまりに醜悪だった。絶対に本人では有り得ぬ顔。それはチンクと同じ顔だが、しかし本人とは決定的に違う顔であった。ノーヴェ、ウェンディもまた悪意を顔に張り付かせ、笑っていた。
「”また”、助けられなかったな?」
「あ、あ……!」
そしてチンクは辺りを見渡す。死体の山を。
「お前の力が足りないからこんな事になった」
「アンタの力が足りないからお姉さんは死んじゃったんすよ?」
「テメェが弱いから友達も死ぬんだぜ?」
「う、ううぅ……!」
スバルは両目を見開いて涙を流す。弱かったから、弱かったから。
――だから助けられなかった。
三人はただそれだけを繰り返す。スバルがその言葉に耳を塞ぎ、頭を抱える。何も聞きたく無いと、何も見たく無いと。そんなスバルを満足気に見たチンクもどきは、手のスティンガーをスバルへと向けた。
「だから力をあげよう」
「全部、殺して守れる力を」
「殺して殺して殺して、そうすれば守れるっすよ? 最後に自分だけは」
「あ、う……!」
そんな三人にスバルは目を開く。守る為に殺す。それをまるで、呪詛の様にスバルに刻み込んでゆく。
「さぁ、これを受けろ。そうすればお前は新しい■■■■■■■になれる――!」
そして、チンクはスティンガーをスバルに放った。呪いが注ぎ込まれた刃を!
――守れる。
それが呪詛となり、スバルはスティンガーを避けない。スティンガーがスバルの胸へと――。
−戟!−
――突き立た無かった。突如として現れた刃、その持ち主が刃を振るい、スティンガーを弾いたから。
刃の持ち主は少年だった。スバルはその少年を見る。その背中を。
銀の髪に整っている、と言うよりはもはや女の子のような顔。纏うは黒のバリアジャケット。赤のシャツにフード付きの黒い半袖の上着。そして、膝下までのふっくらとした黒の半ズボン。
スバルは知っている。その少年の名を、彼は――。
「シ、オン?」
「ああ。何とか間に合ったか」
その少年、神庭シオンは肩にイクスを担ぐとスバルに向き直る。
「助けに来たぜ。スバル!」
シオンはスバルの名を呼び、そして満面の笑顔で笑って見せたのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「貴様ー!」
叫び、更なるスティンガーを放とうとするチンク――恐らくはこれも因子による複製だ――が、叫ぶ。
しかし、それすらもチンクは出来なかった。ギンガとティアナが、シオン達の後ろから追い付いて来たのだ。ティアナはギンガに抱えられたまま、周囲に展開したスフィアを一斉に放つ!
「クロスファイア――! シュート!」
−閃!−
−弾!−
放たれた光弾は、余す事なくチンクへと向かった。
それにチンクは舌打ちして、後ろへ下がり、ハードシェルを発動。そこに光弾が衝動し、全弾防ぎ切られた。だがその隙に、三人は合流した。
「シオン! またアンタは勝手に先行して――――っ!」
「あんなぁ。それでもギリギリだったんだぞ?」
ガーッ! と怒るティアナにシオンが半眼で告げる。
最初は平行して三人一緒に進んでいた訳だが、いきなりシオンが「嫌な予感がする」と呟き、最大速度で一人で先行してしまったのだ。ブレイズの速度と、シオンの空間に足場を作る能力。そしてその身体性能により、シオンの速度は結果としてギンガを上回った。
二人を置き去りにしたシオンが見た光景は、今まさにスバルへと投げられんとするスティンガーだったのである。
「ティア……それに、ギン姉……よかった。生きてて……」
「は? アンタ何言って――」
「ティアナ、あれあれ」
スバルの台詞に疑問符を浮かべるティアナ。だが、シオンが指した先を見て飛び上がった。ギンガも嫌そうな顔をしている。
二人が見たのは自身の死体であったのだ。非常に嫌なものであろう。誰も好き好んで自分の死体なぞ見たく無い。
うっ、と青ざめるティアナだが、スバルがここに居る意味を悟り、即座にスバルへと向き直った。
「て、そうじゃない! スバル、アンタ大丈夫なの!?」
「……う……ん……」
「スバル?」
スバルの返答に疑問の声を上げるティアナとギンガ。スバルの声はあまりにもか細い――いや、声だけでは無かった。スバルの身体はスゥっと透けているのだ。
それを見て慌てそうになるティアナとギンガ。しかし、シオンはここに来るまでにイクスから聞いたトウヤのダイブ体験談を聞いた為、焦らない。二人を留める。
「シオン! このままじゃスバルが……!」
「これでいいんだ。二人共、落ち着け。……スバル。最後に言っとく」
二人を押し止めたシオンが、スバルに向き直る。スバルもまた消える身体でシオンを見た。
「必ず助ける。次のお前の世界でも、その次の世界でも」
「う、ん……待ってる……信じてる……よ。シオン……」
そして、ニッコリと笑ってスバルは消えた。
「スバル! シオン、アンタ――!」
「いいから聞け! スバルは――”この世界”のスバルは助けられたんだよ!」
「……どう言う事なの?」
問われ、シオンは事情を話そうとして。だが、叩き付けられた殺気に口を閉じる事になった。
チンク、ノーヴェ、ウェンディの三人だ。三人共、その顔は噴怒に染め上げられている。
「よくも、よくもやってくれたな……!?」
「そりゃあ、こっちの台詞だろうが」
シオンはその殺気を全く意に解さない。三人に向き直る。手に握るイクスに力が篭った。
「好き勝手やりやがって。……覚悟は出来てんだろうな?」
――シオンは怒っていた。あからさまと言っていい程に。ティアナ、ギンガもそれぞれのデバイスを構える。それに、三人もまた固有武装を構えた。
「この世界でのスバルの借り、まとめて返してやるよ!」
シオンが叫び。次の瞬間、六人は一気に駆け出した。
ここに、この世界での決戦の幕が上がったのであった――。
(第二十一話に続く)
次回予告
「異母兄弟達、EX同士の極限の死闘の最中、シオン達は、スバルのココロの中で相対する」
「それは、あるいは懐かしい者達で」
「そして、ついにシオンは彼女と再会するのだった」
「それが、どんな意味を持つかも知らずに――」
「次回、第二十一話『スバルのココロ』」
「どんなスバルでも、スバル。その、本当の意味を、シオンは痛みの中で知る」