魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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「私があいつに最初抱いた感情は恐怖だった。ただただ、怖くて。だが次に抱いたのは対抗心。異母兄弟とは言え、弟に負けてたまるかと。奴に挑み続けた。そして、私は並ぶ、奴と――。魔法少女リリカルなのはStS,EX、始まります」


第二十話「極めし者達――時空揺るがす兄弟喧嘩!」(前編)

 

「ダイブ!」

【ダイブ、発動!】

 

 シオンとイクスは同時に叫び、そしてシオン、スバル、ギンガ、イクスの精神が乖離して、スバルの中へと翔んだ――その中へと入った四人が見たのは、クラナガン。”ミッドチルダの首都、クラナガン”の空であった。

 

『『――――ッ!?』』

 

 突然上空に投げ出されたシオン達は驚きに目を見張り、だが同時に叫んでいた。

 

「クロスミラージュ!」

「ブリッツキャリバー!」

「イクス!」

「「セ――ット、アップ!!」」

【スタンバイ、レディ! セットアップ!】

【セットレディ!】

 

 瞬間でデバイスを起動し、バリアジャケットを纏う三人。さらにギンガがウィングロードを展開して、ティアナを抱き留めた。

 

「すみません、ギンガさん……」

「ううん、シオン君?」

「こっちは大丈夫。このまま下に降りましょう」

 

 頷くと、シオンは自前で飛行し、そのままギンガと平行して地上に降りる。着地すると、ギンガはティアナを降ろした。

 

「それにしても、何でクラナガン?」

「さぁな。イクス、何か解らないか?」

【いや、流石に俺も初めてなので何とも言えん。だがたった一つだけ言える事は、ここは既にスバル・ナカジマの世界と言う事だけだ】

「ここが……」

 

 辺りを見回すが、どこもクラナガンと変わりはないよう見える――いや、最大の変化点はあった。少し歩くと、それを理解する。

 

「人がいないわね……」

「だな」

「スバルの世界だからなのかしら……」

 

 一同疑問を抱きつつ歩く。大きなビルに掛かった時計を見て、今が夕方だと理解した。しかし、同時にティアナ、ギンガは声を上げる。

 

「この日付って……」

「確か……!」

「……? 二人とも、この日付がどうかしたのか? 一年前の日付みたいだけど」

 

 シオンは不思議そうに聞くが二人はそれ所では無い。この日付が正しいものならば――!

 

    −轟ー

 

    −爆!−

 

 ――突如として爆音が響いた。震動も走り、地面を揺るがす。

 

「何だ!?」

【爆発、のようだな】

 

 突然の爆音に二人は驚きを浮かべるが、ティアナ、ギンガは驚かない。二人が知る日付ならば、爆発は起こるべくして起こったのだから。二人は額に汗を浮かべながら、その日に何があったのかを知らず口にした。

 

「ジェイル・スカリエッティ事件……!」

「地上本部襲撃の日、ね」

「……何?」

 

 呟く二人に、シオンは思わず問い直してしまった。ギンガとティアナは頷き合うと、シオンに簡単に説明する。

 

「この日はね。私達が関わった事件のあった日付なのよ」

「……事件?」

「ええ。ジェイル・スカリエッティ事件。通称、JS事件。一年前のこの日付に、管理局地上本部が襲撃された事件があったの」

「そこに、お前やギンガさん――スバルも居たんだな?」

「ええ」

 

 二人が頷くのを見て、シオンは視線を移す。そちらには、一際大きな建物――管理局地上本部があった。ティアナ、ギンガもそちらに視線を向ける。

 

「成る程。なら、あそこに何かあるって思うべきか」

「そう考える方が妥当ね」

 

 そう言われ、シオンは頷く。一年前、ここで何が起きたのか――聞きたくはあったが、その暇は無さそうだった。ならば、行ってみるしかない。

 

「行ってみるか」

「そうね」

「行きましょう」

 

 三人は再び視線を合わせて頷き合うと、歩き始める。向かう先は地上本部。ガジェット達が暴れまわり、そしてナンバーズが暗躍する激戦区であった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 アースラ、ブリーフィング・ルーム。

 そこでは今、スバルと共に、シオン、ティアナ、ギンガが並べられて横たえられていた。少し離れた所に、はやて、なのは、フェイトがいる。副隊長及び、各少隊メンバーはそれぞれ待機中だ。

 そして叶トウヤ。彼は一人、訓練室に居た。そこで対峙する積もりなのだ。異母弟、伊織タカトと。

 

 ――伊織、タカト……。

 

 なのははその名と、その男を思い出す。寡黙にして冷徹、傲慢な青年。妙にお人良しで、悪戯好きで、人をからかうのを好む青年。

 ……どれが本当の彼なんだろう? そう、思う。どれもがタカトであり、そして違う気がする。考えれば考える程に解らない存在だった。

 彼は犯罪者だ。それも第一級の。親友を意識不明にし、先輩でもあり、頼れるお兄さんだったクロノを殺し掛けた人物でもある――なのに。

 

 高町なのは、か。戦場に合う名とは思えんが――ふむ。良い響きの名だな。気に入った。

 

 ――なのに。

 

 見せてくれ。シオン。お前がどこまで成長したのかを。

 

 ――なのに。

 

 ……サービスは一度だけだ。後は知らん。

 

 ――なのに、どうして彼の事が気に掛かるんだろう?

 

 そこまで考えて、急に鳴り出したアラートに、なのはの思考は断ち切られた。

 ブリーフィング・ルームに鳴り響くアラート。そして、管制陣が通信を介して隊長陣に叫ぶ。

 

《アースラ、転送システムに異常発生! ――嘘!? 転送システムをハッキングされてます!》

《転送システムのデータ凍結――駄目です! ハッキング速度が早過ぎる……!》

《転送システム起動! 転送ポートに侵入してきます!》

 

 ……このタイミングでアースラへの侵入者。そんな事をする人物等、一人しかいない。

 はやて、フェイトは頷き合う。なのはも監視システムに映る転送ポートを見つめた。

 転送ポートは既に管制の制御を離れて起動している。いかな方法を使ったかは定かでは無いが、来る人間は解っていた。

 

 それは、つい昨日会った人。話し、戦い、問い掛け、応えた人。

 やがて、その人物は現れた。

 全身黒づくめのバリアジャケット。半袖でありながら左右非対照の肩口、拘束具を思わせる黒のグローブ、背中は奇妙な形のマントのような広がり、そして最大の特徴である頭をすっぽりと覆うフード、その前の部分が垂れ下がり、まるで封じるが如く右の顔を隠している。

 666の獣、黒の魔王。伊織タカトが、そこに居た。

 

「伊織、タカト……」

「来たね……」

「うん」

 

 三人はそれぞれ呟く。そして、伊織タカトが最初の一歩を歩くと同時、アースラ艦内の短距離転送システムが起動した。本来は転送される本人の同意が必要なシステムだが、あえてそれは切っていた。

 タカトを送る先はただ一つ、彼の異母兄、叶トウヤの待つ訓練室だ。彼は数瞬の間を待って、訓練室に転移された。

 

「よし。シャーリー、訓練室に外側から多重強装結界展開。……何が起こるか解らん。結界は最大数を展開してや?」

《了解です!》

 

 シャーリーの返事に頷き、三人は訓練室にカメラを切り替える。

 そこでは白の異母兄が、黒の異母弟と対峙していた。

 

「始まる、な」

 

 はやてが思わず呟く。フェイト、なのはもまた、ウィンドウを注視していた。なのははもう一度だけ呟く。

 

「伊織、タカト……」

 

 画面の中の二人は対峙を続ける。

 白と黒。

 二人のEXはただ、互いのみを見続けた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 伊織タカトはその時、奇妙な浮遊感と共にそこに降り立った。

 アースラに転移すると同時に転送されたのだ。

 ……抵抗しようと思えば出来た。解呪しようと思えば出来た。なら、何故行わなかったのか?

 答えは単純。アースラに転移すると同時に、懐かしい声が念話を送って来たからだ。

 これにタカトは抵抗を諦めた。あの声の主と向き合うには真っ正面からが一番である。

 下手に無視すると、後ろからプッスリと心臓を刺されかね無い。やがて、転送された先はかなり広大な空間だった。

 いかな技術か、空間を弄って街を再現している。タカトは、歩くと同時に外側に結界が展開された事を悟る。

 

 ――正しい判断だ。

 

 それだけをタカトは思った。もし何の準備も無く、自分とあの人がぶつかり合えば、確実にこの艦は落ちるのだから。

 

 歩く、歩く――そして、タカトは目当ての人物と対峙した。

 

「……兄者」

「久しぶりだね? 元気そうで何よりだ。タカト」

 

 二人の異母兄弟はこうして、一年と半年振りの邂逅を果たしたのであった。

 

 

 

 

 互いに五メートルの距離を挟んで対峙する。二人にあるのは殺気でも何でも無い。威圧する訳でも無い。……ただ見合うだけ。

 数分の間を持って、トウヤが口を開いた。

 

「しかし、貴様も変わらんね?」

「そうか?」

「ああ」

 

 疑問で返すタカトに、トウヤはクッと笑う。その笑いに、タカトは憮然とした。この異母兄は、恋人であるユウオの事を除くとある趣味がある。

 

「――アンタこそ何も変わらない」

「それはそうさ。この歳になってまで性格が変わるものかね」

 

 きっぱりとそう返された。この異母兄は、何より弟である自分達をからかう事を生き甲斐にしていたのだ。

 タカトは嘆息。だが、そのまま警戒を解かない――何故か?

 この答えも単純だ。トウヤの手に握られた槍を見たから。

 ――神槍ピナカ。グノーシスにある武装の中で、恐らくは最強の装備だ。

 破壊の概念を秘したこの槍を、トウヤは手にしていた。それは一つの事を意味する。

 則ち戦うつもりなのだ、最初っから。この異母兄は、自分と。

 

「……本題に入ろうか、兄者。シオンに教えたか?」

「ああ、勿論」

 

 その答えにタカトはようやく笑った。それを見て、トウヤは片目を閉じて見せる。

 

「楽しそうだね?」

「ああ。これで俺の目的は半分は成った」

 

 半分。それを聞いて意味を理解すると、トウヤも苦笑した。

 

「早いね。……その目的をここで話していくつもりは無いのかね?」

「阿保言え。一番危険な男にそんな事教える馬鹿がいるか」

 

 その返答に、しかしトウヤはまだ笑いを止めない。止めないままに、こう言ってのけた。

 

「まぁ、いくらか想像はつくがね?」

「……だろうよ」

 

 やはり、か。タカトは片手で額を抑える。

 

 ――きっと、一番最初に自分の目的に気付くのは彼だと、その確信が最初からあった。

 

 直後、トウヤの顔からは笑みが消える。

 

「……一応は聞いておく、本気かね?」

「その積もりだ」

 

 笑みを消したトウヤは、タカトの返答にどんどん無表情になっていく。理解しているのだ。

 

 この異母弟が何をしようとしているのか。

 何を成そうとしているのか。

 ”何を犠牲にするつもりなのか”。

 

 目的ではなく、本質として。

 

「貴様は、本当にどこまでも変わらない」

「……そうかい」

 

 そこでトウヤは左の手に握る槍をくるりと回す。

 一動作で槍はその穂先を下に向けた。タカトはそれを見て、ただ重心を下に落とす。トウヤは、笑みを消したまま続ける。

 

「……私達ではどうにもならないのかね?」

「……どうなんだろうな。でも結局の所、俺はこれしか思いつかなかった」

 

 どうしても、それ以外の結末をタカトは思いつかなかった。ただそれだけの事。

 トウヤは――彼にしては珍しく、重いため息をつく。

 

「私は貴様を止めるよ」

「俺は止まる積もりは無い」

 

 ――平行線。二人の考えは、まさしく平行線であった。そして意見が合わないならば、後は力をぶつけるだけだ。

 片や止めたいと。

 片や止まらないと。

 そう考える二人は互いの力を構えた。

 槍を。

 拳を。

 

「ならば、力付くで止めてやろう」

「なら、力付くで押し通るだけだ」

 

    −軋!−

 

 二人の気配に空間が――世界が軋みを上げた。睨み合いだけで、二人の間にある空間が悲鳴を上げているのである。

 

「叶、トウヤ」

「伊織、タカト」

 

 二人は名乗る。そして、同時に告げた。

 

「「推して、参る」」

 

 次の瞬間、二人は魔力を吹き上げ、互いに力を叩き込む!

 

    −撃!−

 

    −轟!−

 

 訓練室の、空間シュミレーターがそれだけで破砕したが如く爆裂した。

 

 ――後に、『時空揺るがす兄弟喧嘩』と名付けられる極めし者達の戦いは、こうして始まったのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 時空管理局地上本部。シオン達がそこに辿り着いた時、見たのは異様な機械兵器が横行する場所だった。

 ガジェットⅠ型。

 ガジェットⅡ型。

 ガジェットⅢ型。

 それらが、そこら中にゴロゴロ居る。それでも、やはり人が――ガジェット達と戦っている筈の管理局員は、どこにも居なかった。

 ビルの裏路地に隠れたシオン達は、徘徊する機械群を見ながら頭を抱える。

 

「……なんなんだよ、あの変なロボットは」

「ガジェット。JS事件で猛威を奮った機械兵器よ」

 

 事件を知らないシオンとイクスに、ティアナとギンカが事のあらましを簡単にだが教える。それに、シオンはふむと頷いた。

 

「成る程。て事は、どちらにしろ中に入らないと駄目って事か」

【広域スキャンを完了したが、どこもかしこもあのジャマーフィールドが展開されている】

 

 イクスの台詞に、一同頭を抱える。スバル達FW陣やギンガはこの時、地上本部の中に居たのだ。ならば、一同が居た地上本部の中でアポカリプス因子が関与している可能性が高い。

 

「一点突破で突っ込むか……?」

「馬鹿、あの数よ? そんな真似、自殺行為よ」

「でも、このままこうしている訳にも行かないわね」

 

 実際ここで話していても事態が進むとは思わない。

 ティアナは暫く考え込み――そこで、ふと気付いた。

 地下ライフライン。そこはまだ生きている筈だ。ギンガも同時に気付いたか、二人は顔を見合わせて頷く。

 

「……? 二人共どうした?」

「何とかなるかも」

「ええ」

 

 尋ねるシオンに二人は答えると、三人はそこから離れた。向かう先はマンホールだ。

 そこから地下に入り、下水道へと降りる。中に降りると同時に、ティアナがなのは直伝のエリアサーチを行った。……しかし。

 

「……駄目だわ。AMFでサーチャーが消される」

「さっきのジャマーか」

「ならここにもガジェットが居るって事になるね」

 

 三人は同時に頷く。地下にガジェットが配置されていると言う事は、守らねばならない何かがあると言う事だ。

 ――当たり。シオンの直感もそう告げる。

 

「方向は解るんだよな?」

「そっちは任せて」

「なら行きましょう。ポジションは私がFA、シオン君がGW、ティアナさんがCG。いい?」

 

 二人共、ギンガに頷く。そして三人は向かう方向に目を向けた。

 

「「「GO!!」」」

 

 声を上げ、三人は一気に地下水道を駆け出し始めたのであった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 シオン達が地下を走る。向かう先は地上本部だ。だが、その方向にはあの敵が居る。ガジェット、と言う敵が。

 暫く走っているとティアナのクロスミラージュが警戒を告げて来た。

 

【動体反応感知。ガジェットドローンⅠ型と思われます】

「二人共!」

「了解!」

「こっちも大丈夫!」

 

 即座にポジションを取り、接敵に備える――直後、光線がシオン達に放たれた。

 すかさずギンガが前進し、プロテクションで光線を弾く。

 直後に、楕円形の機械群が五機現れた。シオンは、ギンガの脇を抜けると同時に瞬動を発動。一気にガジェットの前に出る。

 

    −閃!−

 

 横に薙ぎ払われたイクスが、ガジェットを斬断する。続けて二体目を斬ろうとして――ー身体が重くなった。

 

 ――なっ!?

 

「シオン!」

【ヴァリアブル・シュート!】

 

 次の瞬間、シオンの脇を抜けて、ティアナの放った弾丸がガジェットに叩き込まれる。弾丸をガジェットのAMFは一瞬だけ抵抗するが、対フィールド弾であるこの一撃に、AMFは持たない。即座に貫かれ、爆発四散した。同時に駆け出すのはギンガだ。ブリッツキャリバーが唸り、彼女は疾走を開始する。

 

「ハァっ!」

 

 リボルバーナックルのスピナーが回転し、カートリッジロード。

 

    −撃!−

 

 轟速でガジェットを間合いに入れたギンガはナックル・バンカーを、ガジェットに叩き込んで沈黙させる。さらにウィングロードを発動。

 ギンガはスバルと違い、砲撃系の技を持たない。だが、シューティング・アーツの完成度ではスバルを上回っているのだ。単純な動作や機動がスバルよりも疾く、鋭いのである。

 向かう先には、もう一体のガジェット。ブリッツキャリバーが唸りを上げた。

 

【キャリバーシュート! ライト!】

「ヤァっ!」

 

    −轟!−

 

 軽く跳躍したギンガの回し蹴りから放たれたキャリバーシュートに蹴り飛ばされ、ガジェットが床に叩き付けられる。

 

【ヴァリアブル・シュート!】

 

    −撃!−

 

 更に放たれたティアナの射撃がガジェットに止めを刺した。

 残り一体。向かうのはシオンだ。ガジェットはサイドのカバーを開いて、五本の触手を伸ばしている。それをシオンは見ない。目を閉じ、ただガジェットを待つ。

 

 ――今、俺の身体は重くなった。

 

 考える、考える――ティアナから聞いた、AMFの特性。魔力を結合出来なくさせるジャマーフィールド。

 これは魔法の効果を打ち消すフィールドだ。それは射撃等の魔法だけで無く、身体強化の魔法も例外では無い。

 シオンの身体が重くなったのもそのせいだ。シオンが無意識に使ってる身体強化を打ち消したのだ――だが。

 

「うぜぇっ!」

 

    −轟!−

 

 咆哮すると、同時に目を見開く。吹き出すのは魔力だ。

 魔法が無効化される?

 魔力が結合出来ない?

 関係ない。魔法とは意思によって世界を組み替える力だ。魔力が結合出来ないならば、意思によって”無理やり結合させる――”。

 

    −閃!−

 

 次の瞬間、AMFをシオンは無視して、一撃をガジェットに叩き込む。機械の身体は真っ二つになり、上下に分かたれた。

 

「ふぅ……」

 

 残心を解く。すると、後ろからティアナとギンガも追い付いて来た。

 

「全くっ! だから気をつけなさいって言ったでしょうが!」

 

 ティアナが、が――っ! とシオンに怒る。それに彼が浮かべるのは苦笑だ。

 実際、さっきは結構やばかった。ギンガもまぁまぁとティアナを宥める。

 

「でもシオン君、さっきAMFをキャンセルしていたけど。そんな技術何処で覚えたの?」

「へ? いや、あんまりにもウザかったから無理やり魔力通しただけなんですけど?」

「……アンタも大概デタラメね」

 

 シオンの返答にティアナ、ギンガは苦笑いを浮かべて呆れた。つまり、シオンは即興でAMFをキャンセルしてみせたと言う事だから。

 

「まぁ、いいじゃんか。先進もうぜ?」

「そうね」

「行きましょう」

 

 シオンが先を促すと、二人も頷いて駆け出す――まだ、地上本部までの道のりは遠かった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ――疾る。

 

 疾る、疾る、疾る、疾る、疾る、疾る疾る疾る疾る疾る疾る!

 

 十を刻み、放たれる槍が。

 百を破り、放たれる拳が。

 空間を軋み尽くし、壊し、弾かせる!

 

 −アヘッド・レディ?−

 

 −トリガー・セット!−

 

「捻れ穿つ螺旋」

「天破疾風」

 

    −砕!−

 

    −裂!−

 

 互いの風を巻く一撃がぶつかり合い、その余波が空間シュミレータのビルを破壊し尽くした。

 二人は動かない。タカトはハイリスクを覚悟でトウヤの槍をかい潜り、インファイト――超接近戦を挑む。トウヤもまたそれに応え、足を止めて槍を放った。

 軋み、軋む。

 槍が、拳が撃ち放たれる度に、空間が弾け、余波はたやすく瓦礫の山を量産していった。街一つ――否、国一つ分はあろうかと言う空間シュミレーター内は、尽く破壊されていた。

 タカトは再度ピナカをかい潜り、トウヤの懐に潜り込む。対してトウヤは突きから直後、石突きを回してタカトに叩き込む。

 線から円へ、そしてあえて鋭利さを捨てた一撃が叩き込まれ、タカトの身体が泳ぐ――トウヤは止まらない。

 そのままの動作で槍を回し、穂先をタカトに向けた。

 風が巻き、捻れる刃が撃ち放たれる。その一撃は放たれると同時に音速超過、ソニック・ブームを起こしながらタカトへと突き穿たれる。だが、タカトもまた止まらない。

 横殴りに叩きつけられた勢いを利用して、足場を空間に形成、そのまま右の回し蹴りを放つ!

 

「天破紅蓮!」

「捻れ穿つ螺旋」

 

    −撃!−

 

    −爆!−

 

 天地爆砕! 余波がまたもや瓦礫を増産。爆発が、竜巻が巻き起こる。しかし、タカトの足場はその一撃に持たず、空に身体が浮いた――その隙を逃す兄では無い!

 次の瞬間には、タカトは背に走る悪寒のままに両腕を突き出し、シールドを発動。五連で展開する。

 トウヤはその一切に構わなかった。再び、くるりとピナカを回転させると逆手に持ち替える。

 

 −アヘッド・レディ?−

 

 再び空間に響くはキースペル。そして、トウヤはそのままピナカを投槍する!

 

    −閃−

 

 空間を軋ませながら放たれたピナカは、展開されたシールドの真ん中に突き立つ。同時、響くはトウヤの朗々たる一声だった。

 

「焦がれ尽くす天空」

 

    −爆!−

 

    −煌!−

 

 烈光爆炎! ピナカを中心として巻き起こった火柱に、シールドは刹那の抵抗も許されず砕かれ、タカトは弾き飛ばされた。

 トウヤもまた駆け出し、ピナカを引っ掴む。槍を構え、タカトに瞬動。即座に間合いに入った。

 

「捻れ穿つ螺旋」

「っ!」

 

 タカトの中心に突き放たれるピナカ。明らかに心臓狙いの一撃――普通ならば、即死だろう。だが、タカトは足場を形成して逆に踏み込んだ。

 

    −閃!−

 

 脇を削りながらだがピナカが通り過ぎる。それだけでも脇腹が抉られ、バリアジャケットと共に肉が削られた――タカトは構わなかった。右の拳をトウヤの顔面に向かって放つ! 過程をすっ飛ばし、叩き込まれる技、無拍子を持ってしての一撃だ。トウヤはこれを躱せない。

 

「天破疾風!」

「――凍え鎖せし大河」

 

    −破!−

 

    −結−

 

 風巻く一撃は、確かにトウヤに叩き込まれた。しかし、トウヤは最初から拳を受けるつもりだったのだろう。殴り飛ばされながらも、冷めたい眼差しがこちらを見据えている。

 トウヤに決定的なダメージを与えられなかった事に、タカトは歯噛みした――それに、トウヤが放った技はタカトに効果を与えていた。

 

    −凍−

 

 身体が氷で覆われる。先程、ピナカを介して行われた魔法。凍え鎖せし大河だ。氷結系の封印魔法である――これがただのそれならば問題無いが、トウヤの意思で使われた封印用の術だ。簡単には解けなかった。

 

「――我が手へ」

 

 その一声に、タカトと共に凍っていたピナカがトウヤへと瞬時に戻る。タカトは必死に解呪しようとあがく――が、トウヤはそれを嘲笑うかのように床にピナカを突き立てた。

 同時に広がるのはセフィロトの樹。カラバの魔法陣だ。

 

「震えと猛る鳴山」

 

    −轟−

 

 次に起きた現象をキャロが見れば、絶句した事だろう。……それは召喚魔法だった。

 召喚されるのはただの土。だが量が半端では無い。その量は一つの山に匹敵していた。

 土は、動けないタカトを即座に押し包むと、まるで小惑星のような土塊となり、二つ目の封印となった。さらに土塊は天井へと上がっていった。

 トウヤはピナカを引き抜くと再び回転。今度は順手にピナカを持ち、穂先を土塊へと向ける。再び展開される魔法陣。そこから魔力粒子が生まれ、トウヤの身体を照らす。

 そして呟かれるは、たった一言の、トウヤ”だけ”に許された呪文だった。

 

 −時すらも我を縛る事なぞ出来ず−

 

 直後、トウヤはピナカを突き出した。

 

「輝き軋みっ! 壊れし幻想ォ!」

 

    −煌!−

 

    −輝!−

 

 烈光凄絶! それは、砲撃――あまりに強力に過ぎる光砲だった。貫通に特化した光砲は、なのはの切り札たるスターライト・ブレイカーに比べると異様に小さい。だが、そのエネルギー量は、明らかに上であった。

 その一撃は正しく必殺。このまま土塊の中に居るタカトに直撃すれば、確実に倒せる一撃だった――そう、直撃すれば。

 

 −神の子は主の右の座に着かれた−

 

「絶っ! 天衝ォ!」

 

    −裂!−

 

    −絶!−

 

 滅閃神斬! 光砲が放たれると同時、土の封印、氷の封印を諸共に砕き尽くし、タカトが突っ込んでくる!

 その右手には闇が灯っていた――闇の煌めき。そう表現するが正しい闇が!

 

    −煌!−

 

    −斬!−

 

 二つの壮絶な一撃は互いにぶつかり合い、空間が余波だけで破裂し尽くした。シュミレーター内のエネルギー許容量を超えたのだ。空間そのものが爆発現象まで起こす中で、二つの絶技のぶつかり合いに決着がつき始めた。

 タカトの絶・天衝が、トウヤの輝き軋み壊れし幻想を斬り裂きながら進んだのだ。このまま進めば、トウヤは一刀両断される。

 迫り来るタカト――それを見て、トウヤは更なる一言を呟いた。

 

「砕かれしは貴き幻想」

 

 ――追加スペル。砲撃がそれに応え、ピナカから切り離されると、タカトに集束。

 

    −煌!−

 

    −轟!−

 

    −爆!−

 

 轟天爆震! そのまま砲撃はタカトを中心として爆砕した。空間シュミレーター内の全てを砕け散らす程の爆光が、どこまでも空に広がっていく。

 トウヤはそれを見て、しかし構えを解かない――直後、煙が尾を引くようにして何かが地面へと落ちる。タカトだった。彼は、まるで猫を思わせる動きで空中を回転すると、両足で綺麗に着地した。

 

「相変わらず、とんでもないバケモノだな」

「人の事が言えるのかね? SS+級の砲撃を叩き斬っておいて」

 

 二人は笑い、再び対峙する。この二人、あれほどの戦いを繰り広げて置いて息を荒げていない。互いにダメージが残るが、しかし致命的には程遠い。その上で、彼等はきっぱりとこう言った。

 

「”ウオーミングアップはこの程度でいいか?”」

「勿論。そろそろ本気で来たまえ。退屈だよ?」

 

 そして両者は即座にぶつかり合うと、空間シュミレーターがより凄まじい軋みを起こして爆発した。

 その中で、異母兄弟達は一切構わずに攻撃を叩き込んだ。互いに、必殺の一撃を掲げて。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「よっと」

 

 二人の兄が死闘を繰り広げている頃。シオンはようやく地上本部へと――正確には、その地下施設へと辿り着いていた。

 

「つ、疲れたわ……」

「大丈夫、ティアナさん?」

 

 ギンガ、ティアナもまたマンホールから這い出る。シオンは、そんなティアナの様子に、流石に苦笑いを浮かべた。

 とにかくガジェットの量が半端無かったのだ。シオン達が撃破した数だけでも五十を超えていた。疲れもするだろう。

 三人共、マンホールから出ると、辺りを見渡す。ガジェットはとりあえずはいないようだった。

 そう、ガジェット”は。

 

「おやぁ……?」

「っ! この声は……」

 

 聞き覚えのある声に、シオン達は反射的に、背後へと振り向く。

 そこには見覚えのある二人が並んで立っていた。

 ウェンディ・ナカジマ。

 ノーヴェ・ナカジマ。

 

 ――この二人が。

 

 ノーヴェが「チッ!」と鋭く舌打ちする。……相変わらず態度が悪い。ティアナ、ギンガは、やっぱりと言う顔をしていた。この日の事を考えると、彼女達に出くわすのは規定事項であったから。

 だが、同じなのはここまで。ウェンディ、ノーヴェの身体から、黒い点が――アポカリプス因子が溢れ出した。

 

「ッ! シオン君!?」

「……まさか、本当に当たりとはな」

「だとしたらこの二人が……?」

 

 ノーヴェとウェンディの様子に当たりを引いたと三人は思う。だが、二人はそんな三人に対して、笑いを浮かべていた。その笑みは、確実に二人の物ではない。

 

「さぁ? どうっすかね?」

「ハズレかもしれねーぜ?」

 

 ――嘲笑。ニタニタと二人は下卑た笑いを浮かべていたのだ。そして、自らの固有武装をこちらに向けて構える。

 

「どっちにしろやるしか無ぇんだろうが!」

「ハン! 当たり前の事聞ーてんじゃねぇよ!」

「シオン、ギンガさん! 取り合えず、ここはこの二人を倒すわよ!」

「「了解!」」

「やれるもんなら、やってみろっす!」

 

 次の瞬間、ウェンディがライディングボードを構え、砲撃が撃ち込まれる。

 

 戦いが始まった。

 

 

(後編に続く)

 




はい、テスタメントです♪
前話から、666編クライマックス入りましたー♪
感染者となったスバル、ダイブで彼女のココロに入ったシオン、ティアナ、ギンガ。
そして、タカトVSトウヤのチート兄弟対決!(笑)
他にも見所が山とありますので、お楽しみにです♪
では、後編にてまたお会いしましょう♪

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