魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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「ずっとずっと後悔していた。それは、晴らす事が出来なくて。けど、もう二度と失わないと誓った。大切なものを無くさないと、そう誓った。魔法少女リリカルなのはStS,EX、始まります」


第十九話「ダイブ」

 

 PM14時30分。

 感染者の転送事件により、アースラはミッドに向かっていた。その中で、ヘリ1に乗るスバル・ナカジマは言いようの無い不安を抱えていた。

 

 ――気分が悪い。

 

 とある理由により、スバルはあまり病気になった事が無い。それなのにも関わらず、妙な具合の悪さを感じていた。

 身体の内側から、何かがうごめいているような感覚。虫か何かが這い回っているような感覚だ。この感覚は前から少しだけあった。

 最近になって、急にこの感覚は強くなっている。本局で検査を受けた際には何も無かったのだが――。

 

「スバル?」

「え……?」

 

 呼ばれ、顔を上げると間近にティアナの顔があった。……いや、ティアナだけでは無い。エリオもキャロもティアナの後ろに居た。皆、一様に心配そうな顔をしている。

 

「アンタ、今日の朝もしんどそうだったけど……大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。ティアも知ってるでしょ? 私病気とかあんまりした事無いし」

 

 笑い、そう言う。だけど、ティアナも、エリオもキャロも納得した顔はしていない。

 

「これから出撃なのよ? 体調が悪いなら正直にそう言いなさい?」

「そうですよ、スバルさん」

「あんまり無理したら良く無いって思います……」

 

 皆一様にスバルを止める。それだけ、スバルの様子はおかしかった。いつもの元気もどこと無く、無理矢理に出している感じだ。

 

「大丈夫だって、それより出撃準備しなくちゃ――!?」

 

 そこまで言った、瞬間。身体の内側を”何か”が突き破る感覚をスバルは得た。同時に、例の虫が這い回る感覚が今までの比ではない強さで襲ってくる。

 

「あ、あ……!」

「スバル? スバル!?」

「スバルさん!?」

「どうしたんですか、スバルさん!?」

 

 三人共、スバルの尋常じゃない状態を見て、彼女に近寄る。しかし、スバルは手を大きく振り、それを拒絶した。

 

「スバル……!?」

「駄目……駄目!」

 

 それでも近付くティアナに、スバルは首をブンブンと横に振る。――そして。

 

「……っ! スバル、さん? それ!?」

 

 ――こんな筈じゃない。

 

「スバル……さん……!」

 

 ――結果が再び。

 

「う……そ……」

 

 ――訪れる。

 

「駄目……皆……っ! 離れて!」

 

 スバルはガクリと倒れ、その身体から黒い点が――”死”の象徴、アポカリプス因子が溢れ出す! 因子は瞬く間に、彼女を覆い尽くした。

 

「……っ! シャーリーさん!」

 

 最初に立ち直ったのはエリオだった。即座にブリッジへと通信を送る。すぐに、シャーリーが通信に出ててくれた。

 

《エリオ? どうしたの、慌てて――!?》

「スバルさんが!」

「スバル!」

 

 そこで、弾かれたようにティアナがスバルに手を伸ばす。だが、傍らのキャロがそれを必死に留めた。

 

「駄目です! 今、ティアさんが触ったらティアさんまで……!」

「っ……!」

 

 その言葉に手を伸ばしながらも、ティアナはそれをギリギリで留まった。シャーリーも、ウィンドウ越しにその光景を見たのだろう。通信している顔からは血の気が引いていた。

 

「とりあえず、シャマル先生を!」

《うん! すぐに呼び出す!》

 

 エリオに頷き返し、シャーリーは通信を切る。その間、ティアナは何も――スバルを抱き抱えてあげる事さえ出来なかった。

 

「スバル……!」

 

 ティアナはただ呆然と呟く。だが、スバルは身体から因子を溢れさせたまま、ピクリとも動かない。

 ――ティアナ達は、そんなスバルをただ見ている事しか出来なかった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 PM15時。

 スクライア邸で、ユーノ・スクライアと高町ヴィヴィオは、ウィンドウを介してヴィヴィオの母でもある高町なのはと話していた。

 彼女ともう一人の母、フェイト・T・ハラオウンと、二人の親友であり上司、八神はやて。そして部下であり、今回三人に着いて来た神庭シオンは、感染者の転送事件の後、スクライア邸に戻る予定だったのだが、急遽アースラに戻る事になったらしい。

 約束は違うが、ユーノも、ヴィヴィオも何も言わない――いや、言えない。

 それほどまでになのは達の表情は陰っていた。シオンに至っては顔を上げる事すらしない。

 

 ――スバル・ナカジマが感染者となった。

 

 部下であり、大切な教え子がそうなってしまったのだ。表情に陰が射さない訳が無い。

 

「……うん、わかったよ。こっちの事は大丈夫だから」

《ありがとう、ユーノ君。……ヴィヴィオ、ゴメンね? ママ達行かなくちゃいけなくなっちゃった》

「だいじょうぶだよ。だから、なのはママもフェイトママもがんばって?」

《……うん。ヴィヴィオ、ありがとう》

 

 その言葉を最後に通信は切れた。ユーノは同時にため息を吐く。なのはの性格からして、どれだけ辛い思いをしているかは、想像出来ない程だった。

 元々、自分より人の事を考えてしまう彼女だ。故に声にこそ出さないが、相当辛いだろう。見ると、ヴィヴィオも顔を伏せている。ヴィヴィオにとっても、スバルは姉のような存在だった。

 その彼女が感染した――無論、ヴィヴィオは因子の事も感染者の事も知らない。その彼女でさえ、母達の顔色でスバルがどれだけ危険な状態か解ったのだろう。

 そう考えていると、玄関が開く音が鳴った。廊下を歩き、居間のドアが開く。そこに居たのは居候、伊織タカトであった。

 

「ただいま」

「あ、うん。タカトお帰り……随分遅かったね?」

「……おかえりなさい」

 

 ユーノとヴィヴィオがタカトを迎える。だが、タカトは一瞬だけ閉じられていないほうの目――つまり左目の眉をピクリと動かした。居間に漂う重い空気を感じたのだろう。しかし、あえてそれには触れない。

 

「ああ、済まない。ちょっと”知人”に会っていてな? 久しぶりに話したからついつい話し込んでしまった」

「そっか……」

「……ユーノ。客人はどうした?」

 

 頷くユーノに、今度はタカトが問う。それに、ユーノは少し微笑んで見せた。……無理な笑顔は引き攣った顔にしかならなかったが。

 

「帰ったよ。……用事が出来たんだって」

「そうか……なら、仕方ないな」

 

 ユーノの答えにタカトは頷きながら手に下げていた袋を台所に置く。買って来たアルミホイルや、野菜や肉、調味料と言った物を手早く袋から出して、冷蔵庫や戸棚に仕舞っていった。

 

「ヴィヴィオ」

「……う?」

 

 そうしながらの呼び掛けに、ヴィヴィオが答える――が、その声にはあまり力が無い。それにタカトはフッと笑ってみせた。

 

「時間は遅いから夕食の後になるが、焼きたてのクイーニーアマン食べるか?」

「…………たべる」

 

 ヴィヴィオは暫く迷い、だがタカトの言葉に頷いた。自分が落ち込んでも駄目だと思ったのだろう。彼もそれに頷く。

 

「よし。なら夕食の準備をするか。……ああ、ヴィヴィオ。今日は修業は無しだ」

「う?」

 

 ヴィヴィオが可愛いらしく首を傾げる。タカトは再度苦笑いを浮かべた。

 

「今日はちょっと疲れててな?」

「うん、わかった」

 

 こくりと頷く。それに頷き返してやると、今度はユーノの方に視線を移した。

 

「それからユーノ。悪いが明日はちょっと出掛ける」

「そうなんだ? いいよ」

「済まないな。家事はなるべく終わらせていく」

 

 そう言うタカトに、ユーノは「気にしなくてもいいのに」と笑うが。タカトは納得しない。……流石、ブラニーであった。

 そんないつも通り過ぎるタカトに、ついユーノもヴィヴィオも笑う。

 

 ――スバルの事を忘れた訳では無い。だが、確かにさっきまでの重い空気は消えていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 アースラ。ブリーフィング・ルーム。

 普段は作戦会議等に使われる部屋である。その中に、現在のアースラ前線メンバーを始めとした主要メンバーが集まっていた。先程合流したN2Rのメンバーもそこに居る。

 この会議の主題であるスバル・ナカジマのアポカリプス因子による感染。シオンの話しによれば、1番最初にスバルと出会った時、彼女は足首を因子により拘束されていたらしい。シオンが剣牙で両腕ごと消し去ったのだが――。

 

「そん時に……な」

 

 はやてが呻くように呟く。皆、一様にその表情は曇っていた。

 まずそんな状態での因子感染がある、と言う事がもはや異例であった。シオンも見た事も聞いた事も無いらしい。それを正しく認識していたのはただ一人、仇敵である666――伊織タカトただ一人だけであった。

 そして、最大の問題は対処方法が無い事であった。

 

 感染者の末路は三つ。

 一つは因子に飲み込まれて死ぬ。

 一つは第二段階状態の感染者に至り、そして全てを飲み込む。

 そして、最後の一つは、伊織タカトの”刻印”による意識剥奪。

 ――どれも最悪の結果であった。死か、意識不明となるか。その二つしか道は残されていないのだから。

 それを再認識して、また一同は沈む。特にスバルの姉、ギンガはそれが酷い。最初、シオンにつかみ掛かりそうになったくらいだ。

 ――皆が止めなければ、一撃くらいは殴っていたかも知れない。シオンも甘んじてそれを受けただろう。何しろ抵抗らしい抵抗をしなかったのだから。

 ギンガも半ば八つ当たりに近い事は認識したのだろう。即座にシオンに謝ったのだが、そのシオンの方が辛そうな顔をしていた。

 謝らないでくれと、その顔は言っていたのだから。

 そして今、対策は浮かばず、会議は進展しなかった。

 そもそも会議を開ける程の余裕がある事が異例なのだ。因子に感染した者は、例外無く暴走し、破壊活動を行う。だが、スバルは因子が顕れた後、そのまま気絶していた。

 ……まず、有り得ない事である。だがこれにはシオンを除くアースラメンバーは検討がついていた。

 スバルの特異性である、戦闘機人。彼女の身体の何割かは機械で――つまりは無機物で構成されている。それが恐らくは、完全な感染を防いでいるのだろう。だが、第二段階に成ってしまえばそれも意味が無くなる。そもそも生身の部分が持つかどうかも不明なのだ。

 現在彼女は医務室で寝かされている状態だ。フローターで身体を浮かし、医務室に連れて行ったのだ。だが、それに意味があるのか。彼女を救う手段が無いのに――。

 

「……一つだけ」

 

 暗い空気の中、今まで黙っていたシオンが口を開けた。そちらに、視線が集まる。シオンは一度手元に目を落とし――次の瞬間に顔を上げた。決意に満ちた顔を。

 

「一つだけ、手があります」

「何やて……?」

 

 一同が顔を上げる。はやてが代表して、シオンに問い直した。彼は頷いて見せる。

 

「一つだけ――いや、一例だけ心当たりがあります。スバルを救う方法が」

「そんな方法があるの!?」

 

 すぐさまギンガが立ち上がり、叫ぶ。それにシオンはゆっくりとだが、確かに頷いた。

 

「はやて先生、覚えてますか? 最初に俺が言った事」

 

 はやてに向き直る。彼女はその言葉を吟味して、そして思い出した。確か――。

 

「一人だけの治療例、やったね?」

「……はい」

 

 神妙な表情で、シオンは頷く。そしてそのまま告げた。

 

「成功確率、0.000000001%の治療法が」

 

 一瞬、一同は言葉は失う。シオンが告げた成功確率、それがあまりにも絶望的な数字であったから。――しかし。

 

「……でも、成功例はあるのね?」

 

 ティアナがシオンに確認するように聞く。彼は、ティアナに視線を移してしっかりと頷いた。

 

「その成功した人は誰なの?」

「なのは先生も会った事がありますよ」

 

 なのはの問いに。シオンは即座に答えた。そして、その名を出す。

 

「治療が確認された人はユウオ・A・アタナシア。治療した人は、叶トウヤ。……トウヤ兄ぃです」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 アースラ・ブリッジ。その艦長席で、はやて達隊長陣と、シオンは目の前のウインドウを見ていた。

 そこに映るのはトウヤの秘書であり、恋人。そして唯一感染から治療された女性、ユウオ・A・アタナシアであったた。

 

「それじゃあトウヤ兄ぃは――」

《うん、少し席を外してるよ》

 

 画面の彼女はゴメンね、と謝る。何でも一週間ばかりの留守で溜まっていた仕事を片していた真っ最中らしい。それには、シオンの方こそ謝りたくなった。その一週間はシオンの為に空けたも同じだからだ。

 

《そっか。でも、シオン君もそんな年頃になったんだね》

「……そんな年頃、てどんなさ」

 

 ユウオがあらあらと、元某艦長のような事を言っている。シオンは若干の頭痛を覚えて額を抑えた――そんな彼に、すかさず後ろから声が来る。

 

「うむ。それはこう若さ溢れる、何と言うのかね? 強いて言えば、青春?」

「いやいや――て、へ?」

 

 妙に古い事をと言おうとして、そんな事をほざく人物が自分の真後ろに居る事に、シオンは驚愕した。慌てて振り向くと、皆一様に驚いた顔をしてその人物を見ていた。そこには。

 

「と、トウヤ兄ぃ!?」

「騒々しいね。何を叫んでいるのかね? お前は」

 

 ――そこに居る筈が無い存在、叶トウヤが当然のように立っていた。そして唖然としたのは、アースラの人間だけでは無い。ウィンドウの向こうの彼女もまた声を上げる。

 

《トウヤ!?》

「ユウオ、君もかね? 叫ばずとも――」

《叫ぶに決まってるよ! 仕事は!?》

 

 即座に問い質すユウオに、しかしトウヤはただフッと笑って見せた。そして、親指をビシッと立てる。

 

「後は任せたよ?」

《ちょ……! ちょっと待ってちょっと待って!?》

「待たん。フィニーノ君、通信を切ってくれたまえ」

「え、ええ!?」

「早く」

 

 ポカンとする一同を前に、トウヤはただシャーリーに通信を切るように求める。シャーリーはその声に押され、通信を切る操作をしてしまった。

 

《ちょっとトウヤ!》

「何、今回はすぐに戻る。心配する事は無いさ。帰ったら存分に愛でてあげよう」

《そんな事を公衆の面前で――!》

 

 ――ブツ。

 

 そこで通信が切れた。まだ唖然としたままの一同を前に、トウヤはやれやれと肩を竦める。

 

「どちらにしろ来る予定だったろうに」

「……どう言う意味さ?」

 

 シオンが思わず呟く。それにトウヤはフムと一つ頷くと、一同を見回して告げた。

 

「何、どこかの末期到達型の馬鹿がアースラに攻め入ると向こうで盛大に教えてくれてね?」

「……それって」

 

 そんな事を事前にトウヤ達に教えられる存在は一人しか居ない――伊織タカト。彼しか。何のつもりだと言うのか。

 

「それで? 奴がアースラを襲う必要があると言う事は、誰かが感染したと、言う事だが?」

「うん、それでトウヤ兄ぃに聞きたい事があるんだ」

 

 シオンが真っ正面からトウヤの瞳を見る。それにトウヤもまた頷いた。

 

「ふむ。で、何が聞きたいのかね?」

「トウヤ兄ぃ。俺に”ダイブ”を教えてくれ」

 

 ――次の瞬間、ブリッジに言い知れぬ気配が走った。それは殺気と同義にして、だが違うもの。プレッシャーが一番近いだろうか。その場に居る全員が息を飲む中、異母兄弟達はただ視線を交わし、やがてトウヤはため息と共にプレッシャーを消した。

 

「……ここで話す物でもないね。八神君、申し訳無いがブリーフィング・ルームに移動して構わないかね?」

「はい。大丈夫ですよ。なら、また皆を集めんと……シャーリー?」

「は、はい」

 

 プレッシャーに飲み込まれていたシャーリーは、我に返ると頷き、再び皆を呼び出す。前線メンバー一同は、再びブリーフィング・ルームに集まる事となった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「さて……」

 

 ブリッジでの一幕の後、再びブリーフィング・ルームにはアースラの主要メンバーが集まっていた。その中で新たな参入者、トウヤが立ち上がっている。そして、データチップをシャーリーに渡していた。ウインドウが皆の前に大きく展開される。

 

「ダイブの事を知りたいのだったね?」

「……ああ」

 

 シオンが頷き、一同もまた頷く。ダイブとは、果たしてどう言う意味なのか――?

 そんなシオン以外の皆の疑問を黙殺し、トウヤはウインドウに指を走らせ、感染者の映像を出した。

 

「アポカリプス因子とは精神生命体。これは皆、知っているね?」

 

 確認の意味を込めてトウヤは聞く。それに全員が頷き、トウヤもフムと頷き返した。

 

「それとダイブって言うのに何の関係があるんだよ?」

「いや、大事な事なのだよヴィータ君。因子は生命体。その大前提を理解していなくてはね」

「どういう事なのですか?」

 

 シグナムからも疑問の声が上がる。それを慌てるな、とトウヤは両の手で制した。

 

「生命体と言う事は、因子は生きてると言う事だ。……ならば殺す事も可能なのだよ。私達は普段、これを感染者を滅す事で間接的に因子を殺している訳だ。……ここまでは理解できるね?」

 

 一同を眺め、全員の顔に理解があるかをトウヤは確認する。これは前提条件なのだ、理解してもらわねば困る。

 

「だが、因子は直接的に滅す事が出来ない。……厳密には生きてはいるが、生命活動を行っている訳では無いからね。ましてや因子は精神的な生き物だ。……その感覚で言うと精霊に近い存在とも言えるね?」

 

 ……話しがどんどん難しくなっていく。その中で「は〜〜い」と手が上がった。N2Rの一人、ウェンディ・ナカジマである。

 

「……ナカジマ君では皆と混同してしまうね。ウェンディ君で構わないかね?」

「いいっすよ。で、質問があるんすけど」

「ああ、どうぞ?」

 

 トウヤに促され、ウェンディも頷く。そして、彼を見ながら質問を開始した。

 

「ならなんで感染者を倒すと間接的に因子も消せるんすか? 話し聞いてると、物理的な意味合いじゃあどうにもなんないと思うんすけど?」

「よい質問だね? ウェンディ君」

 

 その問いに、トウヤも頷く。コンソールを操作し、出すのは感染者のアップ画像だ。特に、因子を拡大して表示する。

 

「因子は他生命体に感染する際、一種の精神融合現象を起こしている。つまり、因子は感染すると同時に感染者の精神と融合している訳だね。これにより、感染者を滅ぼすとその精神も滅び、そして融合している因子も消えると言う訳だよ」

「ハァ〜〜〜」

「……なら第二段階の場合はどうなるんですか?」

 

 今度はなのはからだ。質問しながらコンソールを操作する。ウインドウに映るのは、最初の出撃で現れた感染者だ。トウヤは即座に答える。

 

「第二段階に至った感染者の場合は、有機体の感染者をコアとして、その周囲を無機物で覆っている訳だね。第二段階の感染者は無機物に感染する――これは、非常におかしな現象でね? 何しろ精神なんて無い筈の無機物に感染する訳なのだから。だが、感染者は第二段階になる際に無機物を精神的に支配出来る様になるのだよ」

 

 そこで、トウヤは皆を見回しながらつまりと続けた。

 

「感染者は原理はさておき、無機物にすらも精神干渉を起こせるようになる――進化によってね。これが第三、第四となると、どんどん精神支配出来る幅が広がる。まぁ、とことん因子と言うのはとんでもない存在だと言う事だね」

 

 解ったかね? と、トウヤは聞くが、一同、唖然としていた。今まで何となくとしか把握していなかった因子の本質に、驚いているのだ。その反応で大体理解できたとトウヤは判断する。

 

「では本題に入ろう。ダイブとは他者の精神世界に入る特殊魔法術式の事を指す。これで感染者を治療出来る理由はたった一つだ」

「一つ、ですか?」

 

 聞き返すフェイトにトウヤは首肯する。一つ間を開いて、皆に理解があるかを確認。再び講義を披露する。

 

「ああ。先程も言っていた通り、因子は感染する際に感染者と精神融合を起こす。これを逆手に取ったのがダイブな訳だ。ダイブした術者は精神が肉体から乖離して、被術者の中に入る。この時、術者は精神存在になるのだよ。……精霊や、因子のようなね。言わば同質の存在になる事により、術者は直接因子にダメージを与えられるのだよ。精神体と精神体だからね? これにより、ダイブした術者が感染者の精神世界の因子を消す事が可能となり、因子感染を治療出来る訳だ」

「……簡単な話しに聞こえるけど、シオン君に聞いた成功率やとそうや無いんやね?」

 

 そこまで聞いて、はやては神妙な顔で問う。それに、トウヤはまた頷いた。

 

「そう言う事だ。因子は先程言った通り精霊に近い存在でね? その精神的な巨大さもまた精霊並なのだよ。……それで済めばいいのだが、最悪な事に感染者の精神世界と融合してしまっている。つまりはダイブした術者にとって、世界そのものが敵となりうるのだよ。実際は、因子と融合しているのは一部で感染者の精神世界の中で色んな姿となって存在している訳だが――ここら辺は実際ダイブしないと解らないので割愛といこう」

 

 ここでトウヤは話しを一旦切り、皆を見渡した。ここまでで質問が無いかを視線で問うているのだ。そこで、今度はフェイトが手を上げる。

 

「……もし、ダイブに失敗して感染者の中で因子に取り込まれたらどうなるんですか?」

「簡単な事だよ、ハラオウン君。感染者が増えるだけの話しだ」

 

 ――つまり、失敗は感染を意味すると言う事か。

 一同、それに暗い顔になる。どう考えても現実的じゃない成功率だからだ。――だが。

 

「で、ダイブの術式は?」

 

 シオンは構わなかった。トウヤは彼を――彼の瞳を見て、嘆息する。何だかんが言っても兄弟だ。こう言う時、異母弟が止まらないのも理解していた。

 

「……待って下さい。シオン君がダイブするんですか?」

 

 だが、二人のやり取りを見て今度はギンガから質問が来た。……確かに、その通りだろう。一度でも成功した者と、やった事すら無い者。信頼するのは当然前者だ。しかし、トウヤは彼女に首を横に振った。

 

「残念だが、私ではスバル君にはダイブ出来ない」

「……何でですか?」

 

 別方向からも声が来た。ティアナからだ。トウヤはそちらにも目線を向けて頷いた。

 

「単純に私では彼女と縁が薄い。……ダイブには条件があってね? 一つはカラバ式を使う者。もう一つは対象者と縁がある事だ。故に、私では使えない。シオンはスバル君と仲が良かったようだしね?」

 

 そこまで言って、直後にトウヤは顎に手を当てて考え込む。やがてギンガへと向き直った。

 

「この中で一番スバル君と付き合いが長い者は誰かね?」

「私と……」

「私かな?」

 

 ギンガとティアナがそれぞれ手を上げる。それにトウヤは頷き、今度はシオンへと視線を向けた。

 

「この二人と征きたまえ」

「……ギンガさんとティアナと?」

 

 シオンの問いにトウヤはやはり頷く。彼女達を手振りで指して続けた。

 

「シオンはまだスバル君とは付き合いは浅い。……成功率を上げる為に、彼女と付き合いが長い二人を連れて行くのが妥当だろう」

「……でも」

 

 そんなトウヤの言葉に、シオンは難色を見せる。何しろ成功確率ほぼ0だ。そんな事に二人を巻き込むのは――。

 

「行くわ」

「……ティアナ」

 

 あっさりと決めるティアナにシオンは驚き、そして非難の瞳を向ける。

 

「お前、解ってんのか? 失敗したら――」

「何回も説明しなくても解ってるわよ」

 

 そんなシオンをティアナは一蹴した。……親友なのだ、スバルは。それをこんな形で失いたくなんて無かった。手があるのならば行う。自分に出来る事があるのならば、何でもする。

 それに思い出すのは先程の自分だ。パートナーが倒れて、でも何も出来ない自分。それが辛かった。だから、今度こそは助けるのだ。あの、優しい我が儘な相棒を。

 

「止めても無駄よ。無理矢理でもくっついて行くわ」

「……はぁ……」

 

 そんなティアナに、シオンは嘆息した。何と無く解る、彼女に説得は無意味だと。そして、次にギンガを見る。すると、真っ直ぐに瞳を覗き込まれた――それだけで理解してしまった。彼女にも説得は無駄だと。再び嘆息し、今度ははやてを始めとした隊長陣を見る。はやて、なのは、フェイトは苦笑いを。シグナムは嘆息を。ヴィータも「やれやれ」なんて言っていた。

 

「……私達としては止めなアカンのやろうね」

「はやて先生」

「解ってるよ。……三人共止まらんよね。やから約束してや。必ず、スバルを連れて皆、無事に帰ってくる事。ええか?」

 

 はやての台詞にシオンはティアナを見て、次にギンガを見る。二人共しっかりと頷いた。だから、三人揃って答える。

 

「「「はい!」」」

「よし。ならダイブ組はこれで決定や。なのはちゃん、フェイトちゃんも異論無いな?」

 

 シオン達の返事を聞いて、なのは、フェイトへと振り向く。二人は苦笑い混じりに頷いた。

 

「よし。なら後はここに攻め入ってくる伊織タカトについてやけど――」

「ああ、それに関しては大丈夫だ」

 

 あっさりとトウヤはそう言い切る。それに、はやて達は疑問符を浮かべた。

 

「大丈夫って、どう言う事なん?」

「あの愚弟は私が抑えるからだ」

「……え?」

 

 思わず問い返してしまった。だが、トウヤは構わず話しを続ける。

 

「他の者は万が一に備えて待機していて欲しい。それから結界の準備がいるね?」

「い、いやいやいや! トウヤさん、何を……!?」

「何を、と言われてもね。私がタカトと戦うと言っているのだが?」

「えっと……」

 

 そんな事を言うトウヤに、はやてはついたじろいでしまった。まさか、別組織のトップがこんな事を言い出すとは。それを許していいのか迷う。そんなはやてに、トウヤは苦笑した。

 

「……忘れがちかも知れないがね。私もあいつと同じ、EXランクなのだよ?」

『『あ……』』

 

 そこで漸く皆は思い出した。目の前に居るこの青年は、666と同等の存在だったと。つまり、彼以上にタカトの相手を任せられる存在は居ないと。

 

「奴は任せてくれたまえ。……ただ強装結界を多重に張って貰えると助かるがね?」

「うん、了解や。……トウヤさんもあんま無茶せんようにな?」

 

 はやての気遣いに、トウヤは気にしないでくれたまえと返す。それに頷き、はやては立ち上がった。

 

「ダイブ作戦開始は明日とします。シオン君の魔力の関係もあるしな?」

 

 その言葉に、シオンは少し視線を逸らす。今のシオンは先の戦いの後でもあり、魔力は大して残ってはいないのだ。最低でも一夜の休息は必要だった。

 

「先程スバル君の様子を見たが、まだ小康状態のようだしね? 一昼夜程度なら大丈夫だろう。寧ろ動き出すとマズイ」

 

 トウヤがはやての言葉を引き継ぐ。実際、彼の見立てでは、スバルは前例が無い程に安定していた。

 ……彼女の体の事は解らないが、ただの身体ではあるまい。そして、それを支える意思力が、おそらくは因子を抑え込んでいる。ならば、こちらは万全の状態を整えるのが最善だった。

 

「うん。ほんなら皆、一時解散や。集合は明朝、0600時。……ええな?」

『『了解!』』

 

 皆一斉に頷くと、その場は一時解散となった。席を立つ彼女達と共に、シオンもブリーフィング・ルームを出る。部屋に戻るべきだが、気付けば医務室の前に居た。

 少し、躊躇いながらも入る――シャマルは何故か居なかった。暗い室内の中、明かりをつける。医務室を歩くと、程無くして、スバルが眠るベットに着いた。

 スバルはよく眠っていた。その顔だけみれば、普通と変わらない――スバルの身体を這う因子さえ無ければ。

 

 ――ギリッ。

 

 気付かぬ内に、掌から血が滴る。拳を強く握りしめ過ぎたらしい。シオンはそれに気付くと苦笑した。直後、医務室のドアが開く。

 

「……シオン?」

 

 扉を開けて入って来たのは、スバルのパートナー、ティアナ・ランスターだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……どうしたよ? お前もスバルの見舞いか?」

「うん、そんな所。……? あんた、それ!?」

 

 頷きながらも、ティアナは怪訝そうな顔をすると、こちらの左の掌に気付いたか、指差すと怒鳴り声を上げた。

 

 ……結構な血が流れているし、気付いて当たり前か。

 

 そんな事を苦笑いと一緒に、シオンは思う。ティアナはずかずかとこちらに近付くと、手を取った。掌を見て、思いっきり嘆息する。

 

「バカ。ケガ増やしてどうすんのよ」

「……わざとじゃないぞ?」

 

 これは本当。無意識に力を込め過ぎたのだ。決してわざとでは無い。

 

「好んでケガする奴なんていないでしょ。ちょっと待ってなさい」

 

 そう言うと、ティアナはシャマルのディスクに向かう。ややあって持って来たのは救急箱であった。

 

「そんなのあったんだな」

「確かにね。少しの傷ならシャマル先生、治療魔法で治すし」

 

 救急箱から消毒スプレーを取り出しながら、ティアナは頷く。「滲みるわよ?」と言って来て、傷口にスプレーを振り掛けた。

 

「……ッ」

「あ、ゴメン」

 

 滲みて、少し息を飲んだ事が解ったのだろう。ちょっとだけ申し訳ない顔をする。そんな彼女に、シオンは笑って見せた。

 

「いや、気にしなくて大丈夫だぞ?」

「……うん」

 

 消毒が終わり、傷が穿たれた部分にガーゼを当てる。これで治療は終わりだ。ティアナは立ち上がり、救急箱にスプレーやガーゼを戻すと、そのまま話して来た。

 

「……スバルの事だけど」

「ん?」

 

 突如として出されたスバルの名に、シオンは小首を傾げる。ティアナはそれを見ない。続けようとして。

 

「本当は、私から話す事じゃあ無いんだけど――」

「スバルの身体の事ならいい」

 

 しかし、シオンはあっさりとそう言ってきた。それに、ティアナは少し驚いた顔となる。

 

「いいの……?」

「いいさ。いつかスバルから話してくれるだろ」

 

 そう言いながら、彼は微笑む。それは、とても優しい笑みだった。

 

「……そう。なら何も言わないでおくわ」

「ああ」

 

 ティアナは救急箱を片付け、スバルをチラリと見た後、そのまま医務室を出ようとする。

 

「ティアナ!」

 

 そんな彼女を、シオンは呼び止める。ティアナは、振り向かず留まった。

 

「左手、ありがとうな。それからお前、いい奴だよ」

「……何よいきなり。それに私、女よ? 奴は無いでしょ?」

 

 そこで漸く振り向いてくれた――憮然とした表情で。シオンはティアナの言葉に笑う。

 

「なら言い換えてやるよ。……お前、良い女だよ」

「っ……!」

 

 シオンの突然の発言に、ティアナの顔が赤く染まる。「……意識せずに……」とか「……天然……」とか聞こえた気がするが?

 

「どした?」

「なんでもないわよ! ばか!」

 

 そう叫び、今度こそは医務室を出た。それにシオンは片手を上げる。……ティアナは背を向けているから、見えるとは思えないが。

 

「また明日な? ティアナ、おやすみ」

 

 返事は期待していなかった。だから、そのままスバルへと顔を戻すと。

 

「アンタも早く寝なさい……おやすみ」

 

 そう、声が返ってきた。振り向くが、既にティアナはいない。それにシオンは微笑むと、スバルを見遣り、右の拳を握った。

 

「大切な奴等……」

 

 ――呟く。もう二度とこんな筈じゃない結果なんて起こさせない。そう、決めたのだから。

 

「必ず、守り切ってみせる。そして……」

 

 ――取り戻してみせる。必ず。

 

 そう言うと、シオンはスバルにもう一度目を向けて、踵を返すと扉へと向かう。

 医務室を出る前に、再び、バルを見る。彼女は何も変わっていない。ただ眠るだけ。それでもシオンはスバルに声を掛けた。

 

「スバル……おやすみ」

 

 そう彼女に言って、医務室を出た。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 翌日、AM6時。

 アースラのブリーフィング・ルームに、シオンを始めとした一同は集まっていた。

 スバルも既に運ばれている。そして、トウヤはシオンとイクスにダイブの術式構成を教えていた。

 

「ダイブの永唱は覚えたのかね?」

「そっちは何とかね」

【俺もサポートする。問題は無い】

 

 シオンの肩に腕組みをして立つのはイクスだ。二人はトウヤに頷いてみせる。そして、後ろのティアナ、ギンガもシオンの横に並んだ。三人の顔を見て、トウヤは頷いた。

 

「では最後の注意事項だ。ダイブすると同時に、精神世界に君達は突入する。だが、その世界はあくまでスバル君の世界だ。従来の世界では有り得ない――そこを必ず心に留めていてくれたまえ」

「「はい!」」

「うん」

 

 三人もトウヤに頷いて、返事をした。今度は隊長陣に顔を向ける。はやて達はシオン達に頷いてくれた。

 

「昨日言った通りや。必ず、スバルを連れて三人共戻って来るんやよ?」

「気を付けてね?」

「無理すんじゃねーぞ」

「頑張って来い」

「……三人共、しっかりね?」

 

 それぞれの言葉で送り出してくれる。三人共、それぞれ頷いた。

 そして、そのままスバルに近付く。三人の顔を見てトウヤは頷き、厳かに告げる。

 

「では始めよう。……シオン、永唱開始」

「了解。アイン・ソフ・オウル」

 

 カラバに置いて、無からカラバ式は永唱される。

 アイン(無)からアイン・ソフ(無限)へ、そしてアイン・ソフ・オウル(無限光)へと唱えられるのだ。

 これはカラバに置ける世界創造の理念だ。これを永唱する事で、まず自分の自己暗示を施す。――キースペルがあれば一言で済む永唱だが、シオンは未だキー・スペルを見出だしていない。故に、この永唱が必要なのだ。さらに、シオンは唱える。

 

「ケテル(王冠)からコクマー(智恵)へ、コクマーからビナー(理解)へ、ビナーからケセド(慈悲)へ、ケセドからゲブラー(峻厳)へ、ゲブラーからティフェレト(美)へ、其は落ちて落ちて、内へ内へ、ティフェレトからネツアク(勝利)へ、ネツアクからホド(栄光)へ、そしてホドからイェソド(基礎)へ、流れ流れて、其が表すは裸の男。其が守護天使はガブリエル。其が神名はシャダイ・エル・カイ!」

 

 そこまで唱えると同時に、シオンの足元に魔法陣が展開される。セフィロトの樹を模した図――カラバ式魔法陣だ。その中の円、セフィラの一つが一際輝く。それは第九のセフィラ、イェソドの位置だった。シオンは更に唱え続ける。

 

「其が象徴するはアストラル界(精神世界)。我は求む、その世界への到達を。勝利、栄光、基礎の象徴を持って、我が道と成れ!」

【永唱完了! 各自、精神の乖離を開始。魔法式、ダイブ起動確認。被術者。スバル・ナカジマ――シオン!】

 

 後はただ一言を叫ぶだけだ。シオンは共に征く、ティアナの手を握る。ティアナはギンガの手を。三人は頷き合うと、後ろを見た。

 

『『いってらっしゃい!』』

 

 その場に居る全員からのいってらっしゃいである。それに三人は笑いながら頷いた。返すはたったの一言だ。

 

「「「行ってきます!」」」

 

 再びスバルに振り向くと同時、シオンは叫ぶ。その魔法の名を!

 

「ダイブ!」

【ダイブ、発動!】

 

 シオンの叫びとイクスの叫びが交わり、次の瞬間、シオン達の精神はスバルの中へと翔んだのだった。

 

 

 

 

 シオン達は最後の叫びを上げた後、その場で卒倒した。同時に、一気に三人に因子が纏わり付く。

 

『『ッ――!』』

「大丈夫。ダイブ、成功したようだね」

 

 三人を見て叫びかける一同を、トウヤが制する。

 これは感染者にダイブすると、必ず起こる現象らしい。感染している訳では無いとトウヤは念を押した。

 

「さて、こちらも準備を整えるとしよう。八神君、強装結界の展開を宜しく頼むよ」

「了解です。なら皆は第一級警戒体制で待機や」

 

 はやての指示で、それぞれ散っていく。その中でトウヤが目指すのは訓練室だ。

 空間シュミレーターでもあるあそこならば、多少は頑丈だろうとトウヤは予測を付けたのである。ブリーフィング・ルームを出て歩きながら、トウヤはぽつりと呟いた。

 

「”一年と半年”ぶりの再会がこんな形とはね。……つくづく私達は殺し合う運命にあるようだね? タカト」

 

 そう言いながら纏うは白の装甲服だ。中は軽鎧。さらにそれを羽織るような白の上着。脚部は足首に向かって膨らむズボンだ。

 それがトウヤのバリアジャケットであった。さらに手にするのは白の槍。

 ロストロギアでもある、”世界最強の破壊槍”だ。

 かの破壊神、シヴァが持っていたと言われる神矢が神槍と成ったもの。”破壊の概念”を秘めし槍だ。

 

 その名をこう呼ぶ。神槍ピナカ、と。

 ピナカを携えたままトウヤは進む。己の異母弟との決戦場へと、迷い無く。

 

 

(第二十話へ続く)

 




次回予告
「シオン、ティアナ、ギンガはスバルのココロの中へ入る」
「彼女を治療する為――助ける為に」
「そして、アースラへと侵入を果たすタカト」
「彼と対峙するは、もう一人のEX。叶トウヤ」
「二人の異母兄弟はここに対決する――」
「次回、第二十話『極めし者達――時空揺るがす兄弟喧嘩!』」
「二人のEX。その凄絶なる戦いが、時空を軋ませる」

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