魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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はい、テスタメントであります♪
第十八話後編です♪
こっから、彼女のフラグが何気に立ってるんですが、流石我等のフラグクラッシャー。即座に破壊してます(笑)
デレる隙すら許さない辺りがあれらしいと言うか(笑)
そんな第十八話後編どぞー♪

PS:ソードアート・オンライン −電詞都市DT− のプロット、プロローグ部分作ったんですが、なんだこりゃーと言う(笑)
無駄に規模がでかいでかい(笑)
どんくらいかと言うと、SAOの話しなのに、気付いたらゼノギアスを書いていたんだぜ的な(笑)
ヒースクリフさん、勝てないよヒースクリフさん、神様になってんじゃねーよ(笑)
そんな感じなんですが、一話から書いて見ようか試行中です(笑)


第十八話「再邂は炎の中で」(後編)

 

 炎の中、高町なのはは未だ自分を抱えている男を見る。彼の名は伊織タカト。彼女にとってみれば仇敵である。

 初めて会った時はただ救われた。次に会った時は親友を意識不明にされ、教え子とも呼べる存在を痛めつけられ、自分は一顧だにされなかった。三度目は戦いの中、視線を交わし、しかし言葉は交わさず戦った。

 ――そして、今。伊織タカトは、なのはを”助けた”。

 有り得ない。そう、なのはは思う。しかしこれは現実だ。お姫様抱っこをされ、見上げる先の顔は彼女を見ていない。

 見るのはただ一つ。先程吹き飛ばした敵、感染者が吹っ飛ばされた場所だ。

 次の瞬間、いきなりタカトは動く。なのはを抱えたまま前に重心を倒した。同時に繰り出されたのは後ろへの直蹴り。なのはは思わずタカトに掴まり、肩越しにその光景を見る。

 

    −撃!−

 

 後ろには、先程吹き飛んだ感染者がいた。その顔には足が――タカトが叩き込んだ足がある。

 瞬動。それを持ってしてタカトの後ろに回り込んだのだろう。だが、タカトにはまるで意味を成さなかった。

 現れた場所に蹴りを叩き込む事で、カウンター気味に蹴りが入ったのか。さらにタカトはそこから身を捻ると同時に魔力放出。

 

 まるで鉄骨が叩き付けられるが如き音が響く。

 

 顔面に蹴りが突き刺さったままの感染者は、再度吹き飛び、瓦礫に埋もれる事となった。

 

「……すごい」

 

 思わずなのはは呟く。この男の出鱈目さはよく知っている積もりだったが、いつ見ても見事としか言いようがない。

 感染者の行動や高速機動の見切り。そして身体の運用方。どれも自分の身体を完全にコントロールしなければ出来ない芸当であった。

 

「呟くのは結構だが」

「え?」

 

 思わずなのはは、タカトを見上げて聞き返してしまった。彼は、なのはを見ている。……信じられなかった。

 この男に”話し掛けられている”と言う事が。そんななのはの驚愕に、タカトは構わない。

 

「さっさと降りてくれるか? 邪魔だ」

 

 なのはを未だ抱えながらそんな事を言ってきた。思わず、なのはの頭に血が上る。

 

「な……! 勝手に抱えた貴方がそんな事言うの!?」

「どこぞの誰かが自由落下なんて気軽な事やってなければ、そんな事をせんでもすんだ訳なんだが」

「その原因も貴方が出て来たから驚いたの!」

「それこそ俺の知った事じゃあない」

「勝手過ぎだよ……!」

「知らんと言ってる。さっさと下りろ」

 

 タカトはどこまでも取り合わない。なのはは憮然としながら、タカトの腕から下りた。彼は、そのまま前に出る。

 

「成る程、しぶとい」

「え……?」

 

 次の瞬間、タカトは右の肘を虚空に打ち込む。そこに感染者が再度現れていた。腹部に打ち込まれた肘に、感染者が前のめりになる。下がった顎を、タカトは左の拳で打ち抜く。

 

    −撃!−

 

 快音が響き、感染者は盛大に上空へと吹き飛んだ――まだタカトは止まらない。回転しながら飛翔して追い付き、後ろ回し蹴りを感染者の腹に撃ち放つ。

 

「天破紅蓮」

 

    −爆!−

 

 感染者の腹で起きた爆発がタカトを二歩分だけ、感染者を瓦礫へと弾き飛ばした。空間に作った足場に、彼は静かに着地する。

 

「……そこの女」

 

 そのままの体勢で、タカトはなのはを呼んだ。……失礼極まりない呼び方で。それに、なのははタカトを睨む。

 

「……なのは、だよ」

「ん?」

「高町なのは。ちゃんとそう呼んでよ」

「……高町?」

 

 なのはの姓の部分に引っ掛かるものがあったのか、タカトは一度姓のみを呼ぶ。そして「偶然か」と呟くと、タカトはなのはへと向き直った。

 

「高町なのは、か。戦場に合う名とは思えんが――ふむ。良い響きの名だな。気に入った」

 

 そう言いながら、タカトは少し微笑んだ。それが高町なのはと伊織タカト。

 まったく対極の存在の、最初の会話であった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 タカトはそのままなのはに背を向けた――敵であるはずの彼女に。なのははさっきの件も含めて問おうとするが、出来なかった。

 瞬動。再び炎の巨人、感染者が現れたのだ。今度はカウンターを恐れてか、タカトの前方五メートル程に。

 

「なのはちゃん!」

「なのは!」

 

 そこで離れていた八神はやてとフェイト・T・ハラオウンが、なのはの横に合流する。彼女達は一様に心配そうな表情を浮かべていた。

 

「なのは……大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

「そか。ならよかったわ……で」

 

 なのはの安否が確認出来て、二人はようやくホッとし、そのまま前方へと目を向けた。

 そこには背を向け続ける伊織タカトが居る――そこで、気付いた。

 今、彼に世界を軋ませるような威圧感が無い。あの圧倒的なまでの気配が嘘のように消え去っている。そこにあるのはただ一つ。風のような飄々とした気配だけだった。

 

「……666」

 

 フェイトが絞り出すように声を漏らす。そこにあるのは激情だ。義兄であるクロノを殺されかけ、親友アリサを意識不明にした忌むべき仇敵である。いきなり斬りかからないだけマシとも言えた。はやてもシュベルトクロイツを握る手に力が篭る。その目には、ありありと警戒が浮かんでいた。

 だが、肝心のタカトはその二つの視線を一顧だにしない。彼が見るのはただ一つ、感染者だけだ。

 直後、唐突に感染者は口を開いた。その中に灯るのは光!

 

「っ! 散って!」

 

 なのはが叫ぶと同時、弾けるように一同は離れる。……否、ただ一人、一歩も離れない人間がいた。タカトだ。彼は平然と感染者の前に立つだけであった。

 

「何してるの!?」

 

 思わずなのはが叫ぶ。だが、タカトは無視。

 そして、ついに光が放たれた――炎の砲撃だ。迷わず真っ直ぐにタカトへと迫り来る。それに対するタカトの動きはただ一つ、右の拳を持ち上げた。左の足で一歩を踏み込んだ。その動作は拳を放つ動作。そして響くは鍵となる言葉。

 

 −トリガー・セット−

 

「天破疾風」

 

    −轟!−

 

    −撃!−

 

 風巻く拳が放たれる。それは砲撃と衝突。炎の砲撃は、微塵も保てずにその一撃で消し飛ばされた――タカトは止まらない。三人の視界からタカトが消える。

 

「天破紅蓮」

 

    −撃!−

 

 声が響いた。同時に起きるのは爆発だ。タカトが再び、感染者に天破紅蓮を叩き込んだのだ。視認すらも不可能な速度で感染者の懐に飛び込んで。堪らず吹き飛ぶ感染者、それにタカトはさらに追従する。

 

「天破紅蓮」

 

    −爆!−

 

 爆発、追従する。

 

「天破紅蓮」

 

    −爆!−

 

 爆発――まだ止まらない。

 

「天破紅蓮」

 

    −爆!−

 

 爆発! 最後の一撃で、感染者は炎を残してばらばらに身体を散らせた。そのまま瓦礫へと叩き込まれる。

 タカトは蹴りの動作で残心し、手や足をプラプラと動かしていた。まるで、久々に手足を動かすかのような動作だ。

 そうしていると、感染者が跳ね起きる。再生しつつ、怒りの視線をタカトに叩き付けた。

 だが、タカトは目も向けない。まだ自分の身体のチェックをしている。

 

「GABAaaaa!」

 

 咆哮。衝撃を伴う程のそれを叫び、感染者は再び、タカトへと向かう。迫る感染者に対して、彼はたった一言を告げた。

 

「飽きた」

 

 左手を頭上に掲げる。なのは達も吊られて見上げ――声を失った。

 

 そこにあるのは水の塊。その量、いかなる量をかき集めたのか、頭上いっぱいに広がっている。それに気付かなかった事、そんなものを維持したまま平然と戦っていたタカトに、なのは達は絶句した。

 しかし感染者は構わない。そのままタカトへと突っ込む。彼は、掲げていた左手を振り下ろした。

 

「天破水迅改式」

 

 感染者が走る、走る――間に合わない。そしてタカトも容赦せず、技を放った。

 

「天破瀑布」

 

    −轟!−

 

    −撃!−

 

 頭上の水が滝となり、感染者を丸ごと飲み込むと、地面に叩き付けた。そのまま滝は流れ落ちる。感染者をその重量で潰すと同時に、周りの火事ごと消火する。感染者は塵へと還った。火事もその滝により、全て消え去る。

 

「終わりだ」

 

 振り下ろしたままの左手を聖印を切るが如く真横に振るい、タカトは終わりを告げる。

 

 なのは達はただそれを茫然と見ている事しか出来なかった――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「さて」

 

 その声に、なのは達はハッと我に返った。タカトの声だ。……しかし、まだ違和感がある。今のタカトは、あまりに”人間”過ぎた。

 今までとまるで別人。全然違う人だと言われても、恐らく信じられるだろう。そのタカトがなのは達を見て、そのまま左へと視線を送る。

 そこに、フェイトがいた。ソニックムーブで一気にタカトの真横に移動したのだ。

 フェイトはタカトの首筋に、アサルトフォームのバルディッシュを突き付ける。タカトはしかし、何もしない。ただ見ているだけ。

 

「動かないで」

 

 その激情を押さえ込むように低い声でフェイトは告げる。はやてもシュベルトクロイツをタカトに差し向けていた。一瞬だけ戸惑い、なのはもレイジングハートをタカトへと向ける。タカトはそれをゆっくり見て――笑いを浮かべた。

 

「俺に戦う意思は無いのだがな」

「……第一級広域次元犯罪者として、貴方を逮捕します」

 

 フェイトは聞く耳を一切持たない。タカトはますます笑い顔を深くした。その笑いに、フェイトが明確な苛立ちを表す――。

 

「何がおかしいの!」

「いや済まない。どうしても笑いが止まらなくてな――」

 

 右の目は垂れ下がったフードで解らないが、左の目はそう言いながらも、まだ笑っている。そして、ようやく笑いを止めたタカトは告げた。

 

「――お前達のあまりの脳天気さにな」

 

 次の瞬間、フェイトの視界が180度回転した。

 

「っ――!?」

 

 回る視界でフェイトが見たのはバルディッシュの斧の部分を”摘む”タカトの指であった。

 フェイトは理解する――いかな方法でかは解らないが、自分は今、投げ飛ばされているのだと。

 

【ブリッツアクション】

 

 回る最中に、バルディッシュから機械音声が響くと同時に、フェイトの身体能力が加速された。高速動作魔法だ。回転を制御して一回転。その動きを持って体勢を整える――遅い!

 

    −撃!−

 

 フェイトの眼前にはタカトが既に居た。バルディッシュごと蹴飛ばされる。衝撃が走り、フェイトはそのまま虚空へと吹き飛ばされた。ただの蹴りの筈なのに、凄まじい重さである。

 

「フェイトちゃんっ!?」

「こんのっ!」

 

 なのは、はやてはそれぞれ叫び、なのははアクセルシューターを、はやてはブラッディダガーを一斉に放つ!

 タカトはそれに対して両の腕を振るった。その拳に巻くは膨大な風。

 

「天破疾風」

 

    −撃!−

 

 一撃がシューターを消し去り――。

 

「――天破疾風」

 

    −撃!−

 

 ――更なる一撃がダガーを消し去る! だが、まだ彼女達の攻撃は終わっていなかった。

 

「バルディッシュ! 3rdフォーム!」

【イェッサー。ロードカートリッジ。ザンバーフォーム】

 

 未だ吹き飛んでいたフェイトだが、数メートル程でどうにか体勢を持ち直した。そして、ザンバーフォームを起動。変形し、巨大な大剣の柄となったバルディッシュから雷の刃が伸びる。その長さ約3メートル。

 

【ソニックムーブ!】

 

 直後、瞬間でフェイトの姿が消えた。高速機動魔法! この魔法を使ったフェイトは亜音速――否、音速を超える速度を持つ。

 向かう先はシューターとダガーを叩き落としたタカトだ。間合いに入ると同時に斬撃を放つ――! だが、タカトは”逆”に踏み込んで来た。

 

 ――斬撃の間合い、その内側に!

 

「っ!?」

 

 今まで行われた事さえない回避方法にフェイトは息を飲む。するりと不思議な歩法で踏み込んだタカトは、左の手でバルディッシュの鍔に甲を当てて、斬撃を止めていた。この部分を抑えられると、大剣の雷刃に意味は無い……!

 同時に、技後硬直が彼女を襲った。フェイトは動けなくなる。彼はそれに笑いながら、右の手をフェイトの顔へと繰り出した。

 もはやタカトが放つ一撃を、回避も防御も出来ない。来るべき衝撃に思わずフェイトは目を閉じる。

 ……一秒、何も来ない。

 ――二秒、まだ来ない。

 三秒、ここでようやくフェイトは片目を開ける。

 

 そこにはやたら悪戯めいた笑いを浮かべながら、自分の額に中指を親指に番えるタカトが居た。

 

「……え?」

「デコピン、と」

 

 衝撃。スコンっ! と言う快音と共に衝撃が走った。

 

「あうっ!」

 

 予想よりも遥かに弱い――しかし、それでも確かな衝撃がフェイトの額を貫く。

 タカトがデコピンを持って、フェイトの額に中指を叩き込んだのだ。

 

「フ、フェイトちゃん?」

「な、何や?」

 

 なのは、はやても横に並んで何があったか? と驚きの声を上げ、そんな二人の前にもいきなりタカトは眼前に現れた。あまりに唐突過ぎて、揃って絶句させられる。彼はやはり悪戯めいた笑いのままに、二人の額に両の中指を親指に番えていた。

 

「へ?」

「え?」

「お前等もだ」

 

 スコン! と再び快音が鳴る。二人の額にも中指が叩き込まれたのだ。

 

「はうっ!」

「きゃっ!」

 

 揃って悲鳴を上がる。デコピンを受けた三人は、空に浮かんだまましゃがみ込み、額を押さえた。いかな方法か、タカトはバリアジャケットの防御を撃ち抜きつつも、適度なダメージだけを三人に与えていたのである。ただ一人立つタカトは、肩を竦めた。

 

「さて、頭は冷えたか?」

 

 睥睨しながらタカトは告げる。その言葉に三人共立ち上がる――未だ、目尻には涙が浮かんでいたが。相当に痛かったらしい。ともあれ、苦笑しながらタカトはもう一度言って来た。

 

「もう一度告げるぞ? 俺に戦う意思は無い。……危害を加えられん限りはな」

「ふざけないで!」

 

 フェイトが叫ぶ。タカトはそちらに視線を向けながら、ふむと頷いた。

 

「別にふざけている訳じゃない――えっと、キツネ娘」

「き、キツ……っ!」

 

 タカトのあんまりな名付けに、フェイトががっくりと肩を落とす。それを見て、はやてがぽつりと呟いた。

 

「フェイトちゃんでキツネなら私は?」

「む? ……タヌキ娘?」

「タヌキ……ここでもそう呼ばれるんか……」

 

 フェイト同様はやても肩を落とす。特にはやてはしょっちゅうタヌキ呼ばわりされているのだ。初対面でタヌキ呼ばわりは、いろんな意味でショックだろう。なのはは自分の精神的な意味での安寧の為に、あえて自分がどう呼ばれそうなのかは聞かない事にした。

 

「……フェイト・T・ハラオウンです」

「八神、はやてや……」

「む? 別にキツネ娘でもタヌキ娘でも――」

「「嫌」」

 

 フェイト、はやて、魂からの拒絶である。タカトは「了解」と、頷いた。

 

「フェイト――運命か。そしてはやて。フム。良い響きの名だな? 気に入った」

「褒めてくれて、ありがとう。……あんま嬉しくないけどな」

 

 名を褒めるタカトに、先程のやり取りもあり半眼ではやては睨む。フェイトも同様であった。タカトはその睨みを無視し、先程の言葉を続ける。

 

「三度も言うのも何だが、俺に戦闘の意思は無い。聞きたい事があるだけなんでな」

「……アンタは犯罪者や、それを見逃せ言うんか?」

 

 タカトの言葉に、はやてが反論する。当たり前だ。目の前の男は犯罪者であり、何より意識不明者を大量に出した人間だ。

 ここで逃すなんて事は論外だろう。しかし、タカトは笑いを一層濃くした。

 

「さっき証明したばかりだと思うがな? この距離だとお前等がどうあがこうが、俺には勝てん」

「「「……っ!」」」

 

 三人はその台詞に顔を強張らせて――反論出来ない。

 言われた通り、先程証明されてしまっているからだ。この距離では三人掛かりであろうと未だタカトには届かない、と言う事を。

 つまり戦おうと戦わまいと結果は同じ、タカトは三人を倒し、この場から離れるだろう。

 

「理解は出来たようだな? 何よりだ」

「……何が目的?」

 

 フェイトがやはり声を低くして問う。そんな彼女に、タカトはニヤリと笑った。

 

「せっかくの美人がそんなツラしてると勿体ないぞ」

「茶化さないで!」

 

 本題に入らず、そんな事を言うタカトにフェイトが怒鳴る。若干の気恥ずかしさもまぎわらす為に。タカトは再び肩を竦めた。

 

「まぁいい。俺が聞きたい事はただ一つだ」

「私達がそれに答えると思うの?」

「ああ」

 

 なのはの問い掛けにタカトはあっさりと即答した。それに、三人共訝し気に彼を見る。タカトは、ややあって告げた。

 

「俺の質問に答えてくれたら、そちらの質問にも答えよう。何でも、な」

「「「な……!」」」

 

 交換条件。しかし、それは彼女達からすれば降って湧いたチャンスでもある。今までその目的もまったく解らなかった男が、自ら何にでも答えると言っているのだ。これ以上のチャンスは無いだろう。はやては一瞬だけ考え込み、そのまま頷いた。

 

「……解った。何が聞きたいんや?」

「はやてちゃん!?」

「はやて!?」

 

 はやてがあまりにも素直にタカトの提案を受け入れた事に、なのは、フェイトは驚く。だが、タカトはそんな彼女達を無視して、はやてに頷いた。

 

「決断を感謝しよう、八神はやて。では、質問しよう――?」

 

 タカトは最後まで続けられなかった。ある一点を見ると、そのまま笑う。

 

「……何?」

 

 質問が来るとばかり思っていたなのは達は、いきなり笑い出したタカトにちょっと驚く。それに、タカトは笑いを一旦止めた。

 

「いや、済まない。……質問は後回しで構わないか?」

「……何で?」

 

 フェイトが尋ねる。それにタカトはふっと笑った。

 

「いや何、ちょうどシオンが戦っているのでな? その決着を”見て”からでもいいだろう?」

「……シオン君? まさか、シオン君戦っとるんか!?」

 

 はやては驚くと、シャーリーを呼び出す。あの進化した感染者が、一体だけとは決して限らなかったのだ。今更に気付き、三人は呻く。

 そして、三人とタカトの前にウィンドウが展開された。そこに映っているのは氷の巨人――進化した感染者と戦うシオンであった。

 

「シオン君……!?」

「くっ……! 今すぐ援護に――」

「行くな」

 

 なのは、フェイトがシオンの援護に翔けようとするのを、タカトが止める。二人に対して、手を翳した。

 

「悪いが、あいつの援護には行かさん」

「なんで!?」

 

 なのはが叫ぶ。タカトはあっさりと答えて来た。

 

「あいつの成長が見たい。お前達と共に居る事で、どれだけ成長したのかを、な。それでも行くと言うならば、この場で俺が貴様達を打倒しよう」

「貴方は……っ!」

 

 フェイトがタカトを睨む。その考え方に――あまりの傲慢さに。なのはもまた、タカトを睨んだ。

 

「弟、なんでしょ? 心配じゃないの……!?」

「心配? まさかな。必要ないだろう。あいつは――」

 

 タカトは言葉を切ると、三人に笑って見せた。いっそ誇らしいとも言える程に。

 

「――俺の弟だぞ?」

「「「…………」」」

 

 ……三人共絶句させられた。そこにあるのは信頼。タカトは、シオンが負ける等とは一切考えていないのだ。

 

「さて」

 

 タカトは三人娘を容赦無く無視して、再びウィンドウを眺める。そこに映るシオンは、感染者相手に剣を振るっていた。

 

「見せてくれ、シオン。お前がどこまで成長したのかを」

 

 その一言を、場違いながら三人はまるで祈りのようだと思った――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ――何だ……?

 

 振るわれる感染者の左の氷手。それをシオンはイクスで斬り流しながら、自分に猛烈な違和感を感じていた。

 不調な訳では無い。むしろ絶好調だ。魔力の流れは二倍三倍増しとも取れる程、淀みなく流れている。そして何より。

 

 ――認識できる。

 

 世界が。空間が。

 感染者の一撃が瓦礫を吹き飛ばす。その瓦礫がいくつ地面に落ちたのか理解出来る。

 凍っていく大地。それがどのくらいの範囲か、どれ程の冷たさかを解析出来る。

 あまりにも異常だ。何より、それだけの情報を自分の頭が捌ききっている事が、何より異常だった。

 右、感染者がまた腕を振り上げる。それを大きく避けようとして。

 

 ――身体が動かなかった。

 

 ……な?

 

 一撃が放たれる。しかし、シオンの身体は勝手に動く。今のシオンは、感染者の一撃を完全に把握しきれていた。放たれた一撃をミリ単位の見切りで躱す。同時、踏み込んだ。

 次の瞬間、シオンは――有り得ない事だが、吐いた息と吸った息が衝突するような幻覚を覚えた。

 身体を動かすタイミングが、今までと全然違う。肺が激烈な痛みを訴え、一瞬で収まった。

 

    −斬!−

 

 一閃。気付けば、感染者の右腕を斬り落としていた。感染者が悲鳴を上げる。それを冷ややかな目で見ながら、シオンは何となく理解した。

 

 ――これか……?

 

 胸中、そう思いながらイクスを左手で持ち直した。先程の幻覚の後から、違和感は無くなっている。頭はどこまでも澄み切っていた。イクスを構える。

 

 ――これが、アンタが見ていた世界なのか?

 

 感染者が再生を完了すると、再び瞬動に入った――無駄だった。シオンには感染者がどの位置に現れるか、もう”理解している”!

 

    −撃!−

 

 イクスを振り下ろした先に、感染者は居た。シオンから見て左だ。そのまま感染者は吹き飛ぶ。

 

 ――タカ兄ぃ。

 

 シオンは異母兄の位階に近付けた事に喜びと、そして寂しさを覚えながら、吹き飛んだ感染者へと駆けていく。

 感染者は吠え、またもや左の手を掲げた。こちらに一気に放つ。

 それをシオンは、イクスを右手に持ち替え、左手で身体を巻くように右横に回転。

 一撃をあっさりと躱した。そこからシオンは前方に跳躍。向かう先は感染者の懐だ。地面を背にした形で、シオンは空間に足場を形成して、踏み抜く。その体勢で、イクスを感染者の顎に叩き付けた。

 

    −撃!−

 

「契約の元。我が名、我が血を持って」

 

 一撃を叩き付けたシオンは、しかし止まらない。再度足場を形成。右足で足場を蹴り上げ、左足で踏み込む。体勢は低く、だが空中に留まったままなので向かうのは感染者の胴だ。

 

    −閃!−

 

 イクスを右から斬り戻し、感染者の胴を薙ぐ。同時に魔力放出。感染者は、そのままさらに体を崩した。

 

「今、汝の顕現を求めん。汝、世界をたゆたう者。汝、世界に遍く意思を広げる者」

 

 ――止まらない。さらに逆袈裟にイクスを斬り上げる! 感染者から悲鳴が上がった。

 

「汝、常に我と共に在る隣人」

 

 シオンは止まらない! 魔力放出。それが今、完全に操作出来る。シオンは斬撃の勢いのまま立ち上がり、そして魔力放出。螺旋を描く魔力がイクスに流れ込む――。

 

    −轟!−

 

 直後、イクスが上段から感染者の頭に叩き付けられた。その威力は頭を割るだけでは済まず。感染者を地面に叩き付ける。

 シオンは最後の一撃を放った体勢を解き、地面へと静かに降り立った。

 

「セレクト・ブレイズ」

【トランスファー】

 

 ブレイズフォームへと変化――同時に、感染者が変化する。背中から新しい上半身が”生えた”のだ。奇怪極まる姿となった感染者に、シオンは”驚かない”。

 ……何故か、予測できてしまったのだ。新たな上半身から両の腕をシオンに叩き付けようとして――出来ない。

 

    −斬!−

 

 一瞬で感染者の両の腕が肩から滑り落ちる。神覇弐の太刀、剣牙・連牙。二条のみ放たれた刃が、感染者の肩を絶ち斬ったのだ。

 

「今、此処に汝を召喚する。汝が枝属は雷。汝が柱名はヴォルト」

 

 さらにシオンは予測――否、予知する。次の感染者の行動を把握する。口が開いた。砲撃だ。

 それに対するシオンの行動は、右のイクスを目の前に横回転を伴いながら投げ、さらに左のイクスを投げたイクスに叩き付けながら絡め取り、再度横に時計回りに回転する事だった。

 ――砲撃が、放たれた。それは正しく氷の息吹(ブレス)。当たればたちまち凍り付くだろう。

 ……そう、当たれば。横回転で息吹を躱したシオンは、息吹の余波でその身体に霜を降らせる。それだけで終わった。

 回転しながら再度息吹が通り過ぎた位置に戻る。

 

「セレクト・ウィズダム」

【トランスファー】

 

 ウィズダムフォームへと戦技変換。右手に構えるイクスは、変換と同時に展開。シオンとイクスは同時にそれを唱えた。

 

「来たれ! 汝、雷の精霊、ヴォルト!」

【イクスカリバー、全兵装(フル・バレル)、全開放(フル・オープン)、超過駆動(フル・ドライブ)、開始(スタート)】

 

 同時、感染者が震える。その身体から溢れるのはアポカリプス因子だ。これは、感染者第二段階へと成る予兆だ。このままではここら一帯は感染者そのものと成る――このままならば。

 既にシオンはこの展開までを読み切っていた。故にこその精霊召喚永唱。故にこそのウィズダムフォーム。超過駆動だ。

 感染者が第二段階と成る前にそれは完了する。雷の精霊、ヴォルトが顕現、と同時に展開したイクスへと吸い込まれた。

 

「精霊・装填!」

【スピリット・ローディング!】

 

 精霊装填するはヴォルト。纏うは雷。シオンは第二段階へと至ろうとする感染者に、イクスを突き付ける!

 

「神覇九ノ太刀! 奥義! 青龍――――――――っ!」

【フルバースト! ゴー・アヘッド!】

 

    −轟!−

 

    −裂!−

 

 放たれ、生まれ出る、雷光纏う荒ぶる雷竜が! それは放たれた勢いのまま、感染者をその顎で喰らった。シオンは竜と繋がったままのイクスを頭上高く振り上げる。その動きに連動するように、竜も感染者を喰らったまま天へと昇っていった。それは正しく天へと昇る竜だ。竜は結界の頂上まで昇る。

 同時、シオンはイクスから竜を切り離す。そのまま竜は結界の頂上部で身体を丸めた。

 それを見ず、シオンはただ空いている左手で聖印を切るように、首前で手を横に薙ぐ。

 

「……終わりだ」

 

    −雷!−

 

 ……奇しくもそれは異母兄と同じ台詞。頭上で凄まじい雷が結界上部を疾り、感染者は塵すらも残らず消え去ったのであった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 シオンの戦闘を見ていたなのは達は一様に凍りついていた。あまりに違い過ぎるシオンに。

 

 あの戦い方は。

 

 あの在り方は。

 

 あまりにも、似過ぎている。今、目の前に居る男に。その男、タカトはふむと頷いた。その顔に浮かぶは微笑み。あまりにも優しい微笑みだった。

 

「上出来だな。このまま行けば第3の封印もじきに破れるだろう」

 

 満足気にタカトは頷く。そして、再度なのは達に向き直った。

 

「さて、では質問といこうか」

 

 そこでなのは達も我に返る。三人は、タカトを囲むようにポジションを取った。……意味が無い事を重々承知の上で。

 それに苦笑いを浮かべながら、しかしタカトは何も言わなかった。

 

「質問。いいか?」

「……いいよ」

 

 二人と顔を見合わせ、なのはが頷く。なのはの頷きをタカトは確認し、そして”それ”を問うた。

 

「……聞きたい事はたった一つだ。クロノ・ハラオウンを知っているな? 彼の安否を確認したい」

「……なんやて?」

 

 はやては思わず問い返していた。あまりに、予想外過ぎる問いを受けたから。タカトは再び繰り返す。

 

「クロノ・ハラオウンの安否だ。解らん訳じゃああるまい?」

「……何で貴方がそんな事を気にするの?」

 

 フェイトが再び膨れ上がる激情を抑え込むように問い掛ける。それにタカトはふむと一つ頷きを返した。

 

「それはそちらの質問と受け取っていいのか? 言っておくが、俺が知りたい事は一つだけ。そちらの質問も一つしか受け付けんぞ?」

「っ――」

 

 その言葉に、フェイトはバルディッシュを掴む手に力を入れる。だが、堪えた。

 ぐっと奥歯を噛み締める。その表情は、まるで泣き出す一歩手前。そんな彼女を見たタカトはたった一つだけ嘆息した。

 

「……あれを気に入り、気になったからだ」

「え……?」

 

 いきなりタカトはそんな事をフェイトに向かって言い放つ。一瞬、何を言われたか解らないフェイトは呆然とした。再度、タカトは嘆息。

 

「気になったからだ。……彼の安否が」

「何、で?」

 

 思わずフェイトはまた問い掛ける。それは二重の意味。

 

 何故、気になったのか?

 

 何故、答えてくれたのか?

 

 タカトはそれらを無視し、鬱陶し気にフェイトを睨んだ。判れと言わんばかりに。

 

「……サービスは一度だけだ。後は知らん」

 

 そして、その二つの疑問を黙殺した。その態度はまるでふて腐れた子供の様だった。はやてはそんなタカトに少し笑う。どうやら、彼は相当のお人良しらしい。フェイトのあの顔を見て、サービスで質問に答える程に。あまりに、前とギャップがあるが……。そんな笑いに気付いたのか、タカトは舌打ちを一つ放った。

 

「早く質問に答えてくれるか?」

「あ、うん。ゴメンね?」

 

 思わずフェイトも普段の調子で謝ってしまう。いつの間にか空気が和らいでいた。

 

「彼は……お兄ちゃんは、無事だよ」

「そうか。……て、何? 兄?」

 

 答えるフェイトにタカトは頷き、しかしフェイトの発言につい問い直してしまった。それにフェイトはちょっと微笑む。

 

「いいの? 質問、もう一回して?」

「……性格悪いぞ。キツネ娘」

 

 半眼でタカトはフェイトを睨み、悪態をつく。そんな彼に、今度こそフェイトは明確に微笑んだ。

 

「サービス。さっきして貰ったしね。こっちもサービス。……クロノは私の義理のお兄ちゃんだよ」

「……そうか」

 

 フェイトの態度にタカトは嘆息する。がらりと立場が入れ代わってしまったからだ。フェイトは余裕を、タカトはそれを無くしている。

 主導権をフェイト側に持って行かれている形だ。タカトは咳ばらいを一つし、フェイトからはやてに視線を移す。

 

「さて、では今度はそちらの番だ。……何を知りたい?」

 

 その一言で空気が再び固くなった。会話の主導権がタカトに移ったのだ。

 はやては息を一つ飲む。知りたい事は山とあった。だが、彼が答えると言ったのは、たった一つ。

 はやては思考する。何を問えば良いのか、と。

 

 目的は? これは駄目だ。恐らくは「感染者を狩る事」ぐらいしか言うまい。

 ならば何故、感染者を狩るのか? これも微妙だ。最悪「必要だから」としか答えまい。

 ならば固有名詞を交ぜて、曖昧な解答を避ける必要がある。

 そして、はやてが思い出すのは予言だ。カリム・グラシアの予言。希少技能、プロフェーティン・シュリフテンの。

 

 黒い遺思。これは恐らくアポカリプス因子の事だろう。却下。

 666の獣。言うまでもなく目の前のタカト自身の事だ。却下。

 亡者達。感染者の事だと思われる。やはり却下だ。

 

 そして、はやての頭にはある単語が浮かんだ。それはよく意味の解らない単語であり、恐らくは予言の最も大事な部分。知らず、はやての口はその単語をタカトに問うていた。

 

「創誕って何や?」

 

    −軋−

 

 ――次の瞬間。空気が、世界が軋んだ。タカトからはやてに発っせられた殺気によって。

 空すらも狭く感じる程の重圧に、なのは、フェイトも即座に愛杖をタカトに向ける。

 彼は構わない。はやてを睨み付けるだけ。また、はやてもタカトを見ていた。

 

「……それを、何処で知った?」

「秘密や。今回はサービスは無しやよ?」

 

 あくまで解答を避けようとするタカトに、はやては動じない。しばらくはやてをタカトは睨み――殺気を放つ事を止めた。

 

「俺が出した条件だからな。……仕方あるまい」

 

 そう嘆息し、はやてを見る。真っ正面から。はやてもまた、言葉を一つも逃すまいと彼から目を逸らさない。そして、タカトがゆっくりと口を開いた。

 

「創誕とは俺の最大の目的であり、そして世界最初にして、最後の魔法だ」

「最初にして、最後の?」

 

 なのはが横からその言葉を反芻する。タカトは頷いて見せた。

 

「そう。人の意思により、”世界を創り出し、創り直す魔法”だ」

 

 ――三人は、揃って言葉が失った。

 その答えの、衝撃で。世界を創る? 創り直す? どうやったらそんな事が可能なのだと言うのだ。絶句する三人に、タカトはそのまま続ける。

 

「魔法とは」

「え……?」

 

 唐突なタカトの言葉に、なのはが思わず聞き直す。彼は構わず続けた。

 

「魔法とは詰まる所、意思を持って世界の法則を、概念を組み換える事を指す。貴様等のミッドやベルカ、グノーシスが使うカラバ、俺の使う八極八卦太極図も例外じゃない」

 

 何を――? そう問おうとして、しかしタカトの言葉に恐るべき可能性を悟り、はやては絶句する。

 

「どの魔法にも共通する事だが、魔法と言うプログラムに意思媒介となる魔力を変換する事で魔法は発動する」

 

 そこで、フェイトもなのはも気付いた。三人は思わずタカトの右腕を注視する――タカトは構わない、続ける。

 

「もし、世界を創り直せる魔法と言う名のプログラムがあるのならば? ……そして、それに相応の”意思”が必要ならば? さて、どうなる?」

「あ、アンタは!?」

 

 思わずはやては叫び声を上げた。なのはも、フェイトも先程の空気は吹き飛んでいた。この男はこう言っているのだ。刻印を刻んだ意識不明者達の意思を持って世界を創り直す、と。

 ――危険過ぎる。この男の考えは、まさしく危険に過ぎた。タカトはそんな彼女達にふっと笑う。

 

「さて、質問には答えた。帰るとするか」

「待って!」

 

 なのはが叫び、レイジングハートをタカトに再度向ける。フェイトやはやてもだ。だが、やはりタカトは構わない。

 

「先程の焼き直しだな。邪魔するのならば潰すが?」

「「「っ――!」」」

 

 その言葉に、三人共何も言えない。一撃を叩き込めば、タカトも容赦すまい。今度はデコピンでは済まない。彼は三人を潰しに掛かるだろう。時間が止まったかのように、四人は動きを止める――そして。

 

「……行かせると思ってんのかよ」

「「「っ!?」」」

 

 声が響いた。なのは達は思わずその声がした方を向く。そこには。

 

「随分と遅い到着だな? シオン」

「抜かせよ。……タカ兄ぃ」

 

 イクスを肩に担ぐ神庭シオンが居た。タカトを真っ直ぐに見据えて。

 

 ――シオンとタカト。

 

 敵対すべき異母兄弟は、ここに四度目となる対峙を果たしたのであった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 三人が見る中、二人の異母兄弟は対峙する。言葉は交わさず、視線は交わして。

 そこでなのは達は気付いた。シオンは精霊装填技を既に二発使用している。ならば、シオンの魔力はもう……!

 

「シオン君!」

「邪魔しないで下さい、なのは先生」

 

 声を上げるなのはを、シオンは即座に拒絶する。邪魔をしないで欲しい、と。そして、イクスを正眼に構えた。タカトは構えない――いや、これこそがタカトの構えなのだ。

 自然体。構えない事こそが最大の構え。

 

 数秒、間が空く――。

 

 風が吹く。周囲が凍っていたり水びたしのせいか冷たい風が。二人の間を三度、風が薙ぎ。

 

    −閃!−

 

    −破!−

 

 次の瞬間に、二人は交差した。互いに一撃――タカトは右の拳を、シオンは真っ正面からの斬撃――を、放った姿で固まる。

 

    −轟!−

 

 一拍遅れて、互いの中心で空気が渦を巻く。同時に、中心点から地面が砕け、小さいクレーターが作られた。

 衝撃。二人の一撃に逃げ場を求めた衝撃が、地面に伝達し、クレーターを作りだしたのだ。

 

 そして、シオンがガクリと膝をついた。胸には、拳の跡が残っている。

 

「シオン君!」

 

 なのはを始めとして、三人がシオンに駆け寄る。だが、笑いが辺りに響いた。シオンの笑いだ。

 

「……どう、だよ、クソ兄貴……! 一矢、報いた、ぜ?」

 

 息も絶え絶えになりながら、シオンは笑う。それに、タカトもまた笑った。

 

「たわけ。この程度で一矢とは言わんわ。……しかし」

 

 振り返る。その左の頬には――。

 

「多少は出来るように、なったみたいだな?」

 

 ――赤い線が走っていた。

 そこから血が流れ出す。斬り傷。シオンが成した結果だ。

 シオンは、タカトの言葉にケッと悪態をつく。

 ……あのタカトに傷を。その事に、なのは達は驚いた。魔力枯渇状態でそれを成したシオンに。なのは達ですら、未だまともなダメージを与えた事は無いのだ。驚きもする。

 タカトはシオンをしばし満足気に見て、やがて口を開いた。

 

「この一撃に免じて、お前等に二つ程情報をくれてやろう」

「……何、だと?」

 

 聞き捨てならないタカトの台詞にシオンが立ち上がり、振り向く。なのは、フェイト、はやてもシオンの横に並んだ。

 

「一つ。次の俺の標的だ。貴様等の船に襲撃を掛ける」

「っ――! 何やて!?」

 

 そのタカトの台詞に、はやてが叫ぶ。なのは、フェイトも信じられ無い物を見る目でタカトを見ていた。だが、タカトは構わない。

 

「前にお前達と戦った時に一人、感染者の気配を感じたのでな」

『『――――っ!!』』

 

 今度こそ、一同は絶句した。感染者がアースラに――前線メンバーの中に居ると言うタカトに。彼はやはり構わずに続けた。

 

「シオン。心辺りがあるんじゃないか? 例えば感染者では無く、アポカリプス因子、その物に触れていた人間の事とかな」

「そんなの、ある筈――」

「シオン君……?」

 

 シオンは否定しようとして、出来なかった。顔から血の気が引く。彼はそのまま硬直した。そしてタカトは構わない。

 

「二つ目だ。今回、感染者は転送されて来た。さて、何故だ?」

「そんなの私達が解る筈ないやろ!?」

 

 さっきの宣言でいっぱいいっぱいになったのか、はやてが叫ぶ。だが、タカトはそのまま言って来た。

 

「よく考えろ。今回、貴様等は感染者の転送を事前に察知していたか?」

「してないよ。それが――」

 

 なのははそこまで言って――ここが何処だか思い出した。

 一気に血の気が引く。ここはクラナガンなのだ。曲がりなりにも、時空管理局地上本部のある。JS事件の後、特に転送系の監視はしっかりしていた筈だ。

 それをまるで感知させずに感染者を転送させる――そんな真似、出来る筈が無い。そう、”同じ時空管理局、局員”で無い限りは!

 

「この情報。生かすも殺すもお前達次第だ。ではな」

「待っ――!?」

 

 なのはは引き留めようとして、だが、彼はどこまでも構わなかった。瞬間で、タカトは消え去る。

 あの認識出来ない高速機動を行ったのだろう。彼の姿は、何処にも無くなってしまった。

 

「はやてちゃん……」

「はやて……」

「……戻ろう。情報、整理せなあかんし。……シオン君?」

「嘘、だ……!」

 

 そう言ってシオンを見たはやては驚く。

 彼は震えていた。細かく、しかし確かに。

 

「シオン君、どうしたの!?」

「シオン……!?」

《八神艦長!》

 

 そこでいきなり通信が入った。シャーリーだ。酷く慌てた声である。

 

「シャーリ? どないしたんや?」

《スバルが……! スバルが!》

 

 その言葉に、なのは達の顔から血の気が引く。シオンは通信で出た名にビクッと大きく震えた。

 そう1番最初にスバルと会った時、彼女は”因子”に足首を拘束されていた……!

 

《スバルが急に倒れて! 身体から因子が!》

 

 その報告をはやては、なのはは、フェイトは、そしてシオンは、絶望と共に聞いたのであった――。

 

 

(第十九話に続く)

 




次回予告
「感染していたスバル――その事実は、アースラメンバーに暗い影を落とす」
「だが、シオンは諦めず、また彼女達も立ち上がる」
「鍵を握るは、叶トウヤ。唯一、感染者を”治療”した者」
「シオン達は打開策を見つけられるのか――」
「次回、第十九話『ダイブ』」
「救う――その為ならば、どんな事でもして見せる」

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