魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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はい、寝ようと思って結局眠れなかったテスタメントですちくしょう(笑)
そんな訳で予告載せたりしながら、第十七話後編であります♪
日常会も今回で終了。ほのぼのとして下さい、今の内に♪(笑)
では、第十七話後編、どうぞー♪


第十七話「すれ違う者達」(後編)

 

 タカトがユーノ宅で居候してから三日目。つまり、クラウディアへの666襲撃から三日目。

 時空管理局本局に予定より早く戻ってしまった――クラウディアの本局への牽引等で、戻って来たアースラ。その訓練室に、少年二人が向かい合っていた。神庭シオンとエリオ・モンディアルである。

 シオンはウィズダムへと戦技変換している。互いに構えるは槍。

 しかし、シオンのデバイスでもあるU・A(ユニゾン・アームド)デバイス、イクス・ウィズダムは短槍。だがエリオが構える槍、A(アームド)デバイス、ストラーダは長槍であった。

 また二人の槍は形状も違う。シオンのイクス・ウィズダムが突撃槍(ランス)ならば、エリオの槍は突き、薙ぎ、どちらにも対応可能なパルチザンである。両者の槍の違いは至極簡単、戦い方の違いであった。

 ランスは突き――身体ごとぶつかっていく突撃の為の物であり、パルチザンはその形状通り、斬撃に特化した性能を有している。

 同じ槍。しかし、その性能はレイピアとクレイモア程にも違っていた。

 

 シオンは右半身でイクスを上から斜め下へと構える。対して、エリオも右半身。シオンとは逆に槍を掲げるように刃を背に回す構えだ。これは、互いの槍の特性上の構えである。シオンはあくまで突きに、エリオは斬撃に。

 互いの戦い方の差異から生まれた構えの変化であった。シオンとエリオ、二人はたまにこうやって槍同士での模擬戦を行っていた。

 これは二人の師匠――たった一週間程だが――の、叶トウヤの影響である。曰く、同じ槍使い同士、模擬戦を出来る限り行えだ。

 シオンは厳密には剣士なのだが、使う得物が槍な以上、そこに意味は無い。二人がトウヤの影響をバッチリ受けたのには理由がある。

 ……トウヤの罰ゲームが怖かったからだ。

 ヌットリコース(三時間でトラウマになります)。

 爽やかコース(ヒトとしてのアイデンティティを見つめ直せます)。

 ――と、多種多様な罰ゲーム、その最多被害者二人――そこまで言えば解るだろうが、二人はトウヤの罰ゲームが見事にトラウマと化していた。

 だが、それ故に二人は技量の伸びもまた凄まじかった。恐怖、それはかくもヒトを成長させうるものなのか。

 構えを取って、数秒――次の瞬間、二人は同時に動いた。

 シオンは瞬動を、エリオはソニック・ムーブを発動。互いに瞬速のスピードで駆ける。

 初手はシオンからだった。瞬動の勢いのまま、左足を地面に叩き込み、身体ごと突き出しながらの突き。対してエリオは、ソニック・ムーブを右足の踏み込みを持って、停止。身体ごと、右に回転する。

 

    −閃!−

 

 エリオのバリアジャケットを掠めるように、イクスの穂先が通り過ぎる。

 エリオは回転による回避運動のまま、斬撃を放った。

 孤を描くストラーダはシオンの首筋に吸い込まれるように進み――シオンの動きの方が早い! 超短距離瞬動。その距離”後方五十センチ”。

 エリオのストラーダが通り過ぎ、未だ左手側にあるイクスが金属特有の音を響かせ、停止。

 二人の距離、1メートル――互いにその距離で軽く笑い、互いに至近距離での超短距離の高速移動術を持って、間合いから外れた。だが、止まらない。

 今度は互いに間合いを詰める。次はエリオからの先手だった。シオンの間合いに入る前に、ストラーダを振るう。

 イクス・ウィズダムよりもストラーダの方が長い為だ。つまりはエリオの方が間合いは遠い。しかし、シオンはこの斬撃を身を屈める事で回避。さらにその動きのまま突きを放つ。

 狙うは斬撃で開いたエリオの胴。イクスの穂先は迷う事なく、エリオへと突き進み――だが、ストラーダの石突きがその進行を止めていた。

 

「――っ!」

「ストラーダ!」

【エクスプロージョン!】

 

 一瞬呆然とし、すぐに我を取り戻すと、即座にシオンは後退する。だがエリオがその隙を逃さない。

 ストラーダのブースターが両側から迫り出す。2ndフォルム、テューゼン・フォルム。その特性は、両のブースターを使っての攻撃速度強化。エリオが右手一つで、ストラーダを回転。指運の動きで、突きの構えを取って見せた。

 後方に飛びながら、シオンはイクスを斜め縦へと構える。それは防御の構えだ――エリオは構わない。チャージ(突撃)を愛槍に命じる!

 

「撃ち抜けーっ!」

【メッサー・アングリフ!】

 

    −撃!−

 

 突貫! エリオの足元が爆裂し、シオンへと一直線に駆ける。その速度はソニック・ムーブより鋭く、或いは疾い。一気にシオンへと向かい、切っ先がシオンの構えるイクスの長柄へと接触した――瞬間、エリオは重力を失った。

 

「……な」

 

 エリオの目の前には回転する槍がある。それに合わせるように、シオンが左へと重心を移動。エリオの右側を抜けた。

 エリオは悟る。自分の一撃が、あの回転エネルギーへと転換されたのだと。

 ――合気。未だ完成しえぬ、シオンの近接戦に於ける切り札の一つだ。

 一撃の威力を抜かれたエリオは隙だらけであった。当然、シオンはその回転エネルギーを転換し、斬撃を持ってエリオを攻撃しようとする。

 しかし、背中を走る悪寒に従って、瞬動を持って一気に後退した。

 直後にシオンの顎先を過ぎるのはストラーダの石突き。あのまま攻撃していたら、顎を打ち貫かれていただろう。

 エリオは突きの一撃の後、重心を後ろに移し、右後方にいるシオンの顎を狙って石突きを跳ね上げていたのだ。

 エリオは思い出す、トウヤの言葉を。

 

 ――長柄の武器の真骨頂とは何だね? この問いに、エリオはその長さを活かした突きや斬撃です、と答えた。トウヤは笑いながら、それを否定。

 

 ――実践で試してあげよう。

 そう言われ、そして存分に試され、思い知らされた。

 トウヤは言った。長柄の武器の真骨頂は、円運動による変幻自在の連続攻撃にあると。穂先と柄。この両端を攻撃に使える為に、剣のように切り返す必要が無く、同じベクトルを保ったまま攻撃を繰り返し行えるのだと。

 エリオはまだトウヤの技量には追い付けない。当代最強の槍術士だ。当たり前である。

 しかし、トウヤから教わった技は確かにエリオを劇的に成長させていた。

 ――そして、それはシオンにも言える事だった。シオンは槍を扱うには経験不足。故に、トウヤは徹底的に異母弟に槍を使わせた。エリオとの模擬戦もその一貫である。

 未だ、シオンはエリオに槍の技量では追い付けない。しかし、まともに戦えるようにまではなっていた。

 

「……驚きました。確か合気、ですよね?」

「ああ。成功率はまだ五割がいい所だけど、上手くいってよかったよ」

「……シオン兄さん。そんな成功率の技を使ったんですか? ”また”、なのはさんに怒られますよ?」

「ま、まぁ、大丈夫だろ? 多分、いやきっと」

 

 シオンの言葉にエリオはちょっとだけ笑う。シオンはスバル達に連れ戻され、例の紙芝居のショックも覚めやらぬまま、なのはに訓練室に叩き込まれ、たっぷりと”お話し”をした。

 その間、絶え間無い悲鳴が響いたそうな。ティアナがトラウマ爆発で震えたりもしたとかあったが――。

 ともあれ、そんな事もあり、シオンはなのはにある意味666以上の恐怖を植え付けられていた。

 だが、そこは若さ溢れる十七歳の男子。訓練中の無茶はしょっちゅうなのである。そのたんびに、なのはは信念でもある「模擬戦で徹底的にきっちり打ちのめした方が、教えられる側は学ぶことが多い」を、シオンに居残り授業として実践していた。

 後にシオンは語る――「いや666ともやり合えますて、マジに」。

 その言葉に、約二人がウンウンと頷いたそうだが。

 閑話休題。エリオの笑いに、シオンは憮然とする。

 

「オラ、続き。行くぞー」

「あ、はい」

 

 瞬時に気を引き締めて再び構える。だが、二人の槍は、再び交差する事は無かった。

 突如、訓練室のドアが開く。そちらへと目を向けると、居たのはフォワードメンバー三人娘。

 スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、キャロ・ル・ルシエの三人であった。

 

「あ、いたいた。シオン、探したよー」

「探した? 何でまた?」

 

 スバルがこちらへと近づきながらシオンへと話し掛けてくる。それに、彼は構えを解いた。

 少なくとも、模擬戦は続けられない。エリオも構えを解き、シオンの側へと歩いてくる。

 

「八神艦長がアンタ探してたわよ? 通信か何か無かったの?」

「……通信? 知らねぇけど」

「僕も知りません」

 

 シオンの答えを、エリオが補足する。二人揃って疑問符を浮かべていた。そんな彼等に、キャロが微笑みながら言って来る。

 

「最初は通信で呼び出そうとしたみたいですけど、エリオ君もシオンお兄さんも忙しそうだったみたいですから」

「忙しい? ああ、そう言うことな」

「納得です」

 

 キャロの言葉に、二人は苦笑いを浮かべる。多分模擬戦の最中だったので、通信で邪魔をするのを無粋と感じたのだろう。

 どちらにしろ模擬戦は中止になったのだから、意味は無かったが。

 

「で、シオン。今度は何したの?」

「……うぉい」

 

 スバルのあんまりな台詞に、シオンは半眼で睨む。その視線を笑いでごまかそうとするが、彼は視線を緩めない。だが、スバルの横から援護口撃が走った。

 

「そうよ。アンタ、今度は何やらかしたのよ?」

「待てコラ」

 

 ティアナだ。シオンは否定しようとして。しかし、さらに自分の横のちびっ子達からも口撃が来る。

 

「シオン兄さん。早めに謝った方が……」

「わ、私も一緒に謝りますから……!」

「お前等もかい」

 

 流石に、シオンはげんなりとする。そんなに問題行動を起こしたろうか? と、少しばかり思いを馳せ――瞬時に戻って来た。

 思い出すまでもなく、問題行動のオンパレードである。ここまで多いといっそ清々しい。シオンは一つ、溜息を吐いた。

 

「……とりあえず、俺は何もしてねぇよ」

『『本当……?((ですか?))』』

「四人揃ってハモンな」

 

 シオン、ジト目である。

 だが四人は、だってとか、ねぇとか、ですよねとか、ウンだとか。主語を省いた会話を行う。……内容は大いに丸判りだったが。

 

「まぁいいや。はやて先生は艦長室に?」

「うん。なのはさんやフェイト隊長も一緒だったよ?」

「……マジに?」

「大マジに」

 

 スバル、ティアナの答えに再度溜息をつく。真剣に何かやらかしたかな? と、考えてしまう自分が情けない。

 

「シオン兄さん。怒られたって大丈夫です。頑張って下さい!」

「少しも嬉しくない応援ありがとう♪ お前、後で真剣に覚えとくように♪」

 

 あくまで怒られると判断するエリオに、シオンは満面の笑顔を向ける。とっても引き攣った笑顔が返って来た。……容赦をしてやる積もりは微塵もないが。

 

「……とりあえず行ってくるわ」

『『いってらっしゃ〜〜い』』

「たっぷり怒られて来なさい」

「そのネタはもういらんわ!」

 

 最後にティアナにツッコミを入れつつ、訓練室を出る――ちょっとばっかり怯えが入ったのは内緒であった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

《なら、明日帰ってくるんだ?》

「うん。久しぶりにね。ヴィヴィオ、元気にしてるかな?」

《元気だよ。最近は特にね》

 

 アースラ艦長室――正確には執務室が正しいだろうか、そこに居るのはアースラが誇る隊長三人娘。高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやてである。

 そして、三人の前にはウィンドウが展開しており、ある男性が映っていた。

 三人の幼なじみであり、親友。時空管理局が誇る無限書庫司書長、ユーノ・スクライアである。

 三人が彼と通信をしているのは訳がある。それは朝方、ブリッジでの話しまで遡る――。

 

 

 

 

 ――突然、モニターに表れたリンディ・ハラオウンはにこやかな笑顔のままでなのは達に告げた。

 

「休み……ですか?」

《ええ、三人揃って♪》

 

 そうリンディは告げたのである。三人は、副長であるグリフィスに言ったように、三者三様の反論を展開するも、歳のこ――否、経験の賜物か。完全に意見を封殺され、気付けば頷かされていたのであった。

 驚異の交渉能力である。と、そんな理由で、三人の休みが急遽決まったのであった――。

 

 

 

 

《流石、リンディさんだね……》

「母さん。こう言った事での手の回しよう、凄いから」

「本当や。気付いたら休暇申請も全部通っとったからな」

「にゃはは……」

 

 ユーノの苦笑まじりの言葉に、三人は力無い笑いを返す。絶対にリンディには敵わないと再認識させられた一幕であった。未だ、クロノが頭が上がらないのも無理は無い。

 

《明日なら大丈夫だね。ヴィヴィオも学校休みだし、彼も……》

「……? ユーノ君。彼って?」

《あ、そう言えば、なのは達に知らせてなかったね。実は――》

 

 そして、ユーノは家に居る居候について話す。自分の勤務状況や、それについての事まで話しは及んだ。

 

「へぇ、私と同レベルの……それは是非確かめてみなあかんね」

「はやてちゃん目が光ってる光ってる」

 

 なのはがはやての目の色にツッコミを入れる。フェイトとモニター越しのユーノが浮かべるのは苦笑いだ。

 

《家政夫、みたいなものかな。結構面白い奴でね。三人共、気が合うんじゃないかな?》

「そっか……あ、そう言えばユーノ君に会わせたい人が居るんだけど。連れて行っても大丈夫かな?」

《彼?》

「ほら、今ウチに居る嘱託の――」

《ああ!》

 

 モニター越しに、ユーノがポンと手を打つ。なかなかに古いリアクションを取るものだ。ユーノは、そのまま笑顔で続ける。

 

《確か、アースラの最大級問題児だっけ? 名前は確か――神庭シオン》

「……まぁ、反論は出来んわな」

 

 ツッコミたいけどな。と、はやてはぽそりと呟く。実際シオンが行った事、行ってきた事はその二つ名に誤た無い経歴なのだ。

 曰く、管理局史上最大のトラブル・メイカー。アースラの最大級問題児。

 そう言った二つ名が付けられる程には、シオンの名前は知れ渡っていた。

 

《そっか。うん、大丈夫だよ》

「うん、それなら。あ、ヴィヴィオ居るかな?」

 

 もし居るなら通信を代わって貰おうと思い、なのはが聞く。しかし、ユーノが浮かべるのはただ苦笑いであった。

 

《……今は、庭でちょっとね》

「……? どうかしたの、ヴィヴィオ?」

 

 そんなユーノの様子に、フェイトは疑問符を浮かべて尋ねた。彼は、「まぁ、ちょっと」と曖昧に言及を避ける。

 ちなみに今現在、ヴィヴィオは”彼”により、投げ飛ばされている真っ最中だったりする。

 流石にそんな姿を見れば、過保護なフェイトだけでは無く、なのはもすっ飛んで来るだろう。最初はユーノも止めた程だ。

 

「まぁ、明日になったら会えるからいいかな?」

《うん。ゴメンね、なのは》

「気にしてないよ。それじゃあユーノ君。また明日」

「ユーノ。またね」

「明日、楽しみにしとるな?」

《うん。なのはも、フェイトも、はやても。また明日ね。じゃあ》

 

 最後に手を振りながら通信が切れる。そして、三人は顔を見合わせて笑った。

 

「ユーノ君が”奴”なんて使う人、ちょっと見てみたいね」

「だね。クロノ以外じゃあ初めてかな?」

「まぁ、そもそも私達の面子に男性陣があまりおらんのやけどな」

 

 そう言いながら苦笑いを浮かべる。実際、アースラ関係者は女性陣が多い。これは結構珍しい事である。大体は、どこでも男性陣がある程度は多いものなのだが。

 そんな事を言っていたら扉がノックされた。次いでインターフォンが鳴らされる。

 

《失礼します。神庭シオン、来ましたけど》

「うん。入ってええでー」

 

 はやての許しを貰い、艦長室の自動扉が開く。そこには、神庭シオンが怪訝そうな顔で立っていた。

 

「ども。……で、何の用なんでしょう?」

「うん、あんな?」

 

 ちょっとおっかなびっくりに艦長室に入って来たシオンに、はやては苦笑いを浮かべながらも説明を始めた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 首都クラナガン。

 ミッドチルダの首都にして、時空管理局地上本部がある街である。この街は一度炎に包まれた。

 JS事件。ミッド全域を震撼させた事件である。あの事件により齎された被害は、それこそ馬鹿にならない。

 しかし、あの事件から一年。クラナガンは見事に再興を果していた。事件の爪痕は勿論残っているのだが、それを感じさせない程に活気を取り戻していたのだ。

 そんな、クラナガン。本日は見事な日本晴れである。現在の時刻、AM10:30。

 そんな空の下のショッピングモールの一画に、見目麗しい三人の女性と、これまた女性的な顔立ちの少年が居た。女性三人に少年一人。姉弟に見える一団である。そんな一団の中で少年は汗を流していた。そりゃあもう、流しまくっていた。

 ――何故か? 単純に手の荷物が重いからだ。

 少年の両手の紙袋は、総計で十を超えていた。中身は服からお菓子まで多種多様である。

 そんな少年をよそに、三人の女性の手荷物はバックくらいのものだ。第三者から見てもよく解る荷物持ち。それが少年、神庭シオンの役目であった。

 シオンは思いを馳せる――俺、何かしたか? と。しかし心当たりがあり過ぎるので嘆息するしかない。

 金髪の女性、フェイト・T・ハラオウンが店を眺め見る。その光景にシオンは冷や汗をだらだらと流した。

 その表情はこう語る。まだ、何かを買うつもりですか? と。だが、声は逆方向から上がった。

 

「なのはちゃん。これ、ヴィヴィオに似合うと思わんか?」

「うん♪ いいね〜♪」

「……マジですか……」

 

 しまったとシオンは呻く。見ると、そこには我らが艦長、八神はやてとスターズ少隊、隊長高町なのはが子供用の服を見ながらキャイキャイと談笑しているのが目に入った。

 女性が三人寄れば 姦しいとはよく言う。それがショッピングともなれば、さらなるパワーを発揮すると言う事をシオンは初めて知った。……出来れば、一生涯知りたくは無い事実であったが。

 

「あはは♪ なのはも久しぶりにヴィヴィオに会えるからね。ちょっとくらい大目に見てあげてくれるかな?」

「……そう言いながら荷物を追加するのは止めて欲しいんですけど、マジに」

 

 フェイトが笑いながら――いつの間に購入したのか、更に服が入った紙袋をシオンに手渡す。彼は拒否する事も許されず、その荷物を左の手に追加した。

 

「仕方ないよ。これ、シオンに対する罰の一種だから……私達、個人からの」

「く……っ!」

 

 職権乱用! と叫びたいが、そうもいかない。実際、シオンがやらかした色んな事を実質助けてくれたのはこの三人だからだ。

 頭が上がらない所か、足を向けて眠れない。それ程の恩義が三人にあった。

 故にシオンは黙って、今回の三人の帰宅に付き合い、こうして荷物持ちに甘んじている訳だが――。

 

「シオン君、ゴメンね? これもお願いするね」

「流石、男の子やな? これならまだいけそうやな〜〜」

「……勘弁して下さい。マジに」

「「「無理」」」

「……」

 

 三人の満面の笑顔。それを心の底から恨めし気に見つつ、シオンは再度嘆息する。

 なのはの娘を預けていると言う親友の元に行くのが昼頃、それまでお土産を物色するらしい。

 それまで、あと一時間半。長い、一時間になる――シオンはそう確信しながら三人について行ったのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 AM11時30分、ユーノ宅。

 伊織タカトは台所に立っていた。家主によれば、本日はお客さんが来るらしい。なんでも弟子、ヴィヴィオの母二人と、親友。そして、その生徒だとか。

 詳しくは聞いていないが、結構な人数である。故に昼食(本日のメニューは酢豚、春雨サラダ、中華風つみれ汁)には中華をセレクトしつつ、下拵えを行っていたのであった。

 家主であるユーノ・スクライアとヴィヴィオは、にこにこしながら居間でくつろいでいる。

 特にヴィヴィオは朝からずっとご機嫌であった。久しぶりの母親と会えるのだから当たり前か――と、タカトは少々苦笑いを浮かべながら思う。

 

 ――タカトに母の思い出は無い。母代わりだった人の思い出はあるが、彼は最後まで彼女を母とは呼ばなかった。

 理由はいくつかあるが、最大の理由は気兼ねしたからである。異母弟と、その母の間に入る事はあってはならない――と、タカトは考えていた。

 それは異母兄も、”彼女”もである。その事をずっと寂しがってはいたようなのだが――。

 

「……ん?」

 

 そんな事を思いつつ、昼食の下拵えが終わり、ついでに三時のおやつであるクイニーアマンの生地――昨日の内に仕込んだ――を、最後の工程、焼成しようとして、彼はらしくないミスに気付いた。

 生地を入れるべきアルミホイルが無い。見事に切らしている。生地は既に完成しており、後は型に砂糖とバターを敷いて焼成するだけなのだが――肝心の型となる、アルミホイルが無かったのだ。

 

「……やれやれ」

 

 タカトは嘆息し、居間に向かう。ユーノ、ヴィヴィオはテレビ――ウィンドウだが、を見ながらゆったりとしていた。

 

「ユーノ。悪いが少し出てくる」

「へ? どうしたの?」

「う?」

 

 タカトの言葉に、二人が振り向く。もうそろそろ客が来る時間なのに、どこに行こうと言うのか。

 

「三時のおやつを作ろうとしたんだが、器がなくてな」

「お皿ならあるよ?」

「いや、いるのは小さい型なんだ。アルミホイルがベストなんだが――見事に切らしていてな」

 

 ユーノの疑問に、タカトは苦笑いを浮かべながら答える。ユーノはそう言えばと頷いた。

 

「そうなんだ? ゴメンね。なら僕が――」

「こう言うのは居候の仕事だ、家主殿? ゆっくりしていろ」

 

 席を立とうとする彼を、タカトは片手で制する。そして、そのまま居間を出た。

 

「すぐに帰ってくるが、客人が来たら遠慮なく昼飯を食べてくれ。飯は炊けてるし、酢豚以外は温めれば大丈夫だ」

「うん。わかったよ」

「タカト、いってらっしゃい」

 

 玄関に向かうタカトに、二人から声が掛かる。それに微笑みながら、タカトは玄関の扉を開けた。

 

「ああ、行ってきます」

 

 そして、彼は玄関から出て、近場のショッピングモールへと向かったのであった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ピ〜〜ンポ〜〜ン♪

 

 タカトが出て、すぐにユーノ宅にチャイムが鳴る。インターフォンに出たユーノは、昨日聞いた声を再び聞いた。

 

《ユーノ君、来たよー》

「ママ!」

 

 なのはの声だ。それにヴィヴィオの目が輝く。居間のソファーから飛び出し、玄関へと走っていった。ユーノは苦笑いを浮かべながら「どうぞ、開いてるよ?」、とインターフォンに返し、自らも玄関に向かう。

 

「ママ〜〜♪」

「ヴィ〜ヴィオ♪」

 

 飛び付いて来たヴィヴィオを、そのまま抱き上げるなのは。それを若干羨ましそうにフェイトが見る。

 そんな二人の後ろに見えるのは、はやてと銀髪の少年であった。

 ……しかし、三人が涼しい顔をしているのに対して、少年は汗をびっしょりかいていた。ユーノが玄関に到着し、まずはなのはに片手を上げる。それを見て、なのはもヴィヴィオを抱えたまま片手を上げた。

 

「ユーノ君、昨日ぶり♪」

「うん、なのは♪」

 

 ハイタッチ。昔ながらの二人の挨拶である。続いてユーノはフェイトとはやて、少年に向き直った。

 

「はやてもフェイトも昨日ぶり。その彼が?」

「うん。そうや♪ ほらシオン君、挨拶」

「あ、と――。はじめまして、神庭シオンです。……えっと……」

「ユーノ。ユーノ・スクライア、だよ。はじめまして。ユーノでいいよ」

「それならユーノさんで、と」

 

 ユーノに手を差し出し、握手をしようとして――両の手が紙袋で埋まっているのを思い出した。ユーノは苦笑いを浮かべながら、シオンを制する。

 

「いいよ。……それにしても凄い量だね? 何買ってきたの?」

「……それは、そこの先生達に聞いて下さい」

「「「あ、あははは……」」」

 

 半眼のシオンに三人は笑って誤魔化す。その態度で、ユーノは理解した。

 この紙袋の中身を誰が買ったのかを。だが、あえてツッコまなかった。

 

「それじゃあ、玄関で話すのもアレだし、上がってよ」

『『お邪魔しま〜〜す』』

 

 ユーノに促され、一同は居間へと移動する。ただシオンが靴を脱ぎにくそうにしていたのは余談であった。

 かくて、なのは、フェイト、はやて、そしてシオンはユーノ宅へと来た。

 ――そこに誰が住んでいるのかを知らないままに。運命は回る。悪戯のように、皮肉に。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「よっと!」

 

 ユーノ宅、台所。そこで中華鍋を振るうのは、エプロンを掛けたはやてであった。

 元来、彼女は家事が大好きである。料理に至っては幼少時から作っていただけあり、和、洋、中、なんでもござれなのだ。

 現在、PM12時10分。居間で談笑していたのだが、昼を回り、流石に皆お腹が空いたので、居候が用意していた昼食を仕上げて食べる事にしたのだ。

 幸い、下拵えは完璧だったのですぐに出来る。つみれ汁と春雨サラダは完成していたのだ。後は酢豚だけである。それを聞いたはやては、なら私が作る。と、中華鍋を片手に持った訳であった。

 

 再度、中華鍋の中で、野菜が踊る。その中に下拵えが済んである豚の角切りを放り込み、さらにこれまた予め作られていた甘酢餡を加えて手早く全体にからませた。これで完成である。

 

「よし、おまっとさん♪」

「わぁ……はやてちゃん、いつ見ても料理上手いよね?」

「うん、美味しいそうだ♪」

「てか、はやて先生。料理出来たんですね――て、危なっ!」

 

 何気に失礼な事を言うシオンにげんこつが飛ぶ。だが、シオンは頭を下げてそれを躱した。

 

「乙女に対して、失礼な事言うなぁ。シオン君は」

「いや、だってキャリアウーマンってイメージがあったんですよ!」

 

 追撃を構えるはやてに、シオンは若干距離を取る。一同はそれに笑った。

 

「ちょっと一人足りないけど、先に食べちゃおうか?」

「ああ、例の居候君やね?」

「うん。昼の下拵えをしたのも彼だよ。何でも三時のおやつを焼こうとしたらしいけど、型が無かったんだって」

 

 大皿へと盛られた本格風の酢豚を食卓へと運びながら、ユーノも答える。食卓には既に、料理が所狭しと並んでいた。

 

「すぐ戻るって言っていたけど、まだ戻らないし、それに本人からも間に合わなかったら先に食べててくれってさ」

「そうなんだ? なら、お言葉に甘えようかな」

「そうやね。中華は熱々が1番やし」

 

 そう言いながらそれぞれ食卓へと着く。余談ではあるが、ユーノ宅の食卓は大きく、また椅子も多数ある。

 これは元来、ユーノ宅にはお客――全員アースラ関係者だ――が、多い為だ。故に、食卓は大きい物を。そして椅子も多数用意してある訳だ。皆が席に着いたのを確認して、ユーノが音頭を取った。

 

「それじゃあ、いただきます」

『『いただきます』』

 

 一同手を合わせ、思い思いの料理に箸を伸ばした。

 

「あ、熱っ!」

 

 出来立てをいきなり頬張った為か、その熱さにびっくりする。だが、その顔はすぐに笑顔へと変わった。

 

「ん〜〜♪ 美味しい♪」

「はやて、また腕を上げた? これ、とっても美味しいよ♪」

「んー……今回は、例の居候君が下拵えしてくれてたからなー。あまり、自慢出来んな」

 

 二人の評価にちょっと複雑そうな顔をするはやて。しかし、中華は火力が命だ。それを仕上げたはやてはまごう事なく一級の料理人である。

 ユーノ、ヴィヴィオもまた美味しい♪ と喜ぶ。

 だが一人だけ、複雑そうな顔をしている人間がいた。シオンだ。酢豚を頬張った後、何かを考え込んでいる顔をしていた。

 

「……? どうかしたんか、シオン君。ひょっとして、舌に合わんかった?」

「え? いや、凄い美味しいです。でも……」

「? でも?」

 

 シオンの反応に、一同不思議そうな顔をする。はやてが続きを促すが、それにシオンは居心地の悪そうな顔をするだけだった。

 

「……言いたくない事なんか?」

「いや、そう言う訳じゃあ無いんですけど……これ言ったら確実にからかわれるなと」

 

 シオンの発言に今度こそ一同――女性陣が身を乗り出した。だが、シオンはただ苦笑いのみを浮かべるだけ。絶対に口を割るつもりは無いらしい。

 

「もう、教えてくれたってええやん」

「はは。すみません」

 

 はやてが拗ねたように腕を組んで頬を膨らませるが、シオンはただ謝るだけで答えない。それにはやては「ええよ」と返し、別の話題に移ってくれた。

 皆が、思い思いの談笑を交わしながら昼食を楽しむ。その中で、シオンは再び酢豚を頬張った。口の中に広がるのはあまりにも懐かしい味――そして、有り得ない味だった。

 

「まさか、な……」

 

 ――その味は異母兄、タカトの料理の味だった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 管理局地上本部。そこでは今、混乱が起きていた。

 クラナガンのショッピングモール。そこでとんでもない事が起きていたからだ。

 ――ショッピングモールで火災発生。急な出来事である。

 すぐに近場の災害担当部に連絡し、救助部隊がショッピングモールに向かった。……誤解を恐れずに言えば、ここまではまだいい。

 しかし、その救助部隊が目にしたのは救助すべき人達と、そして有り得ないものだったのである。

 

 ――異形。

 

 スバルを襲い、アースラ初出動の時にも現れた存在がそこにいたのだ。

 オーガ種の”アポカリプス因子感染者が”。それも複数である。

 管理局の監視システムを抜けて、どうやって現れたのかまったく謎であった。

 また感染者に対してまともに対抗出来る部隊がなく、至急感染者対策部隊であるアースラに連絡するも、その到着には時間が掛かると言われていたのである。――だが。

 

「高町一等空尉に、ハラオウン執務官、八神司令までここに来ているのか!?」

「はい! 先程、確認しました!」

 

 地上本部の司令室で、地上本部勤務の准将が管制を担当していた女性士官に叫ぶ。

 今、クラナガンの地上陸士部隊に、複数の感染者を相手取る事は出来ない。その中で、その情報はまさしく朗報だった。

 

「すぐに連絡を取れ!」

「は、はい!」

 

 素早く指示を飛ばす准将。だが、彼はこの時知らなかった。

 今、その場に感染者にとっての天敵。第一級の次元犯罪者である666――伊織タカトが居る事を。

 

 ……そして、再び彼女達は彼と邂逅する。炎の中で、互いに解り合えない気持ちを抱えたままに。

 

 

(第十八話に続く)

 

 

 




次回予告
「クラナガンのショッピング・モールを中心に大量出現する感染者達!」
「再び都市部で起きた事件に、なのは、フェイト、はやて、そしてシオンは対応すべく向かう」
「こんな筈じゃない結果にさせない為に」
「だが、そこには意外な人物まで居て」
「次回、第十八話『再邂は炎の中で』」
「彼との再邂は、一つの真実と、……一つの絶望を彼女達に与える」

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