魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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「懐かしい人達と過ごす楽しい時間。だけど事態は待ってくれなくて。現れたのは謎の異形。そして、謎の少年。動乱はまた、再び始まる。魔法少女リリカルなのはStS,EX、始まります」



第二話「剣の行方」

 

 咆哮。それには様々な用途がある。威嚇だったり求愛だったり、仲間を逃がす為の危険信号だったりがそれだ。あるいは恐怖をまぎわらす為と言うのもあるだろう。

 だが異形の獣が放つ咆哮はこの場では意味を為していなかった。

 異形に対峙するは銀髪黒衣の少年。その目は対峙する存在に対して、恐怖も畏怖も抱いていなかったのだ。

 あるのはただ一つ。死刑執行者の目であった。

 

「もう答える意思も残ってねぇか」

 

 ぽつりと少年は呟く。先程の問いだ。

 

 ――ナンバー・オブ・ザ・ビーストを知っているか?

 

 その問いをスバル・ナカジマは思い出していた。

 

 ……何の事?

 

 自分を先程助けてくれた? 少年はそんな事を異形に聞いていた。だが。

 

「RuuuuGAaaa!」

 

 当然異形は答えなかった。いや、そもそも意思なんて物は、もはやないのではないのか? 知性など更に期待出来まい。

 

「使えねぇな」

 

 少年はただそれだけ呟いた。腰を落とし、左手に剣を持って腰溜めに構える。

 その構えを見て一瞬、確かに異形はうろたえた。だが、その恐怖をまぎわらすかのように異形は突進を開始。もはや腕を無くした異形は最後の武器とばかりに頭ごと突進して、その顎を開く。赤い口腔内に乱杭歯が乱立し、よだれが尾を引いていた。

 異形が少年に迫る。しかし、少年は意に返さない。

 

 少年は異形に対して、たった一歩を踏み込んだ。

 

    −閃!−

 

 瞬間、剣が閃く! 少年が放った一刀だ。同時、”何か”が飛んだのをスバルは見た。

 

 ……異形の首だ。

 

 首が宙を舞う空の下で、少年は異形に背を合わせる様に、剣を振り抜いた姿で残心している。

 

「嘘……」

 

 目を見張る。自分が放った拳もなんの魔法もなく堪えた異形。それが一刀の元に伏されるとは。しかも……。

 

「全っ然、見えなかった」

 

 呆然と呟く。いつ斬撃を放ったのかも解らなかったのだ。恐るべき剣速である。

 

「神覇壱ノ太刀・絶影」

 

 少年がぽそりと呟く。それがあの技の名前なのか。残心を解いた少年はしかし、異形から目を離さない。

 

「ここから再生するか。タフだな」

「え? ……っ!」

 

 疑問符を浮かべるスバルであったが次の瞬間、少年の言ってる意味を理解した。

 あの黒い点が斬られた部分に集まり、その形を取り戻していたのだ。再生。そう再生している。斬られた首から上を。そして、消えたはずの四つの腕を。

 

「うそ……」

 

 思わず呆然する。が、スバルもまた理解した。何故自分が倒した筈の異形が、あの時無傷で立っていたのかを。こんな風に再生していたのだ。

 

「チッ……! これだから”因子”に感染した奴は。うぜーな」

「ちょ、そんな事言ってる場合じゃないよ!」

 

 舌打ちする少年に声をかける。だが少年は、視線のみをスバルに向けると興味なさげに無視した。

 

「無視しないでよ!」

「黙れ、うぜーな」

 

 あまりと言えばあまりの言葉にスバルは絶句する。ここまで言葉が悪い人と会話をした事は流石になかった。近い人ではヴィータがいるがそれでもここまで悪くはない。

 そんな二人を余所に再生が終わったのか、再び異形は突進してくる。

 

「馬鹿の一つ覚えか。ん?」

 

 少年が完全に見下しながら異形を見ていると、突進してくる異形の足元から何かが走って来るのが見えた。あれは、先程スバルを捕まえた黒い点! さっきと同じように少年も拘束する気か。だが、少年は迫り来る黒い点に不敵な笑みを浮かべた。

 

「舐めんなっ!」

 

 吠えながら、足元に剣を突き立てる。黒い点は、そこに真っ直ぐぶつかった。だが、剣の腹に阻まれ、少年まで届かず霧散する――しかし。

 

「GAaaaa!」

 

 再び放たれる咆哮。直後に少年の頭上から異形の手が迫る!

 

「ハッ! ない頭使ったってか? 笑わせんな!」

 

 向かい来る異形に、少年は嘲笑すらも浮かべ、そのまま一気に剣を地面から引き抜いた。

 

「吠えろ……。イクス!」

【フル・ドライブ!】

 

 叫ぶ少年の意思に応え、剣のデバイスが魔力を爆発的に吹き出した。

 

「神覇弐ノ太刀・剣牙!」

 

 地面から引き抜きざまに振り上げられた剣が、頭上高くで光を放つ。少年は迷い無く一気に振り下ろした。

 

    −轟!−

 

 振り放たれた一撃は光斬の形状をもって異形へと突き進む。突進していた異形は、無論迫るそれを回避出来よう筈も無く、そして。

 

    −斬−

 

 一撃は異形をあっさりと両断。そのまま空へと消えた。

 

「終わったな」

 

 再び再生する気配がないか少年は探ったようだが、異形が塵に変わっていく事を確認すると漸く剣を下ろす。それを見て、呆然としていたスバルも我に返った。

 

「終わった、の?」

 

 少年に問い掛ける、が少年は完全に無視。振り向きもしない。

 

 「ねぇっ! 聞いてるの!? 君!」

 

 スバルが怒鳴る。そうした所で漸く、少年がスバルに向き合った。

 ひどく面倒臭そうにではあるが。紅い瞳が、彼女を映す。

 

「そうそう、会話のキャッチボールは大切だよ?」

「お前、何モンだよ?」

 

 少年の言葉には顔がひくりとなる事を自覚する。

 本当に言葉使いが悪い。スバルはそう思う。だがいちいち怒っていては、会話も成り立たない。こほんと咳ばらいすると、自分が大人になる事にした。

 

「普通、名乗って欲しかったら自分の名前名乗ろうよ」

「…………」

 

 少年はしかめっ面をして考え、暫くして漸くその口を開いた。

 

「シオンだ。神庭シオン」

「それだけ?」

「お前は名乗れって言ったんだ。んで俺は名乗った。……文句あるか?」

 

 あるに決まっている。これだけの戦いをやって、それだけで済ます積もりか。

 だが確かに向こうは名乗ったのだ。だからこちらも名乗る事にした。

 

「スバル。スバル・ナカジマ」

「それだけか?」

「君だって。……シオンだっけ? だって、それだけじゃない」

 

 だが少年は……。シオンはスバルの言葉に素知らぬ顔をする。

 

「生憎、無所属でな」

「そうですか〜〜」

 

 その返答にスバル自身気の無い返答をした。内心腹が立っていたらしい事を自覚し、落ち着けと自分に言い聞かす。

 無論、少年の言葉をそのまま信じるつもりもない。

 

「でも今の。何か知ってるんでしょ? 詳しく話しを聞かせて貰うよ?」

「答える義理はねぇだろ」

 

 シオンはあくまでも答える積もりはないらしい。だが、そうも行かなかった。スバルはむっとした表情で、彼に詰め寄る。

 

「あのね、私。襲われたんだよ? 話して貰う義理はあるよ。――それに義務も」

「……何?」

 

 スバルの言葉にシオンの目が細まる。その意味を理解せず、スバルは続けた。

 

「時空管理局一等陸士。スバル・ナカジマです。ちゃんと事情、聞かせて貰うからね?」

「管理局? ……成る程な」

 

 その言葉に納得したのだろう。シオンはフムと頷く。その様子にスバルは安心して話しを続けようとして。

 

「解った? ならまず武装を解除して――」

「飛んで火に入る夏の虫、だな」

 

 ――次の瞬間。スバルの首筋に刃が押し当てられた。

 イクス、と言ったか。大剣のデバイスを首筋に突き付けられたのだ。

 

「……っ!」

 

 一瞬訳が分からずきょとんとスバルはして、しかし突き付けられた剣にスバルは目を見開いた。シオンをキッと睨み付ける。

 だが、彼はその視線すらも構わない。

 

「これ、どういう意味?」

「そのままの意味だ。聞きたい事がある」

 

 スバルの問いにシオンはきっぱりと答える。

 そして、あの質問がスバルにも突き付けられた。

 

「ナンバー・オブ・ザ・ビーストを知ってるか?」

 

 異形に放たれたのと同じ、その質問が。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ……あの馬鹿っ! どこ行ったのよ!?

 

 スバルとの先程の念話が途絶えてから、ティアナはずっと走り続けていた。息は荒く、肩で息をしている。

 

 あんな目茶苦茶気になる所で念話切るなんて……!

 

 スバルが何かの事件に巻き込まれた。それは間違いない。念話が途切れた後、エリオ達に連絡を取り、動かせる人数を動かせて貰ってる。

 幸い。宴会場には六課のメンバーが集結中だ。すぐに見つかる。ティアナはそう信じる事にした。

 

《見つけた!》

 

 管制担当にして、ヘリパイロットでもあったアルトの声がティアナに響き渡る。

 今、六課の隊舎に残っていた設備でスバルの魔力反応を追って貰っていたのだ。

 幸い、設備はまだ撤去されておらず、すぐに使える状況だったのも幸いした。

 

《スターズ3が何処にいるか解りました! スターズ3市街地の七番エリアにいます!》

《ティアさんが1番近いです。お願いできますか!?》

 

 エリオの声が響く。スバルの念話が切れた直後、同窓会会場にいた管制官達とエリオに連絡を取り、スバルを一緒に探して貰っていたのである。

 ……隊長陣は深酒をしていた事もあり、あえて連絡は取らなかった。エリオの念話にティアナは頷き返す。

 

《うん! 先に行くわ!》

 

 今は早く元相棒の元へ。ティアナは更に足を速めた。走りながらティアナは脳裏で愚痴る。

 

 ……ったく! これで何もなかった時は覚えてなさいよ!

 

 スバルの顔を思い描き、ティアナは内心スバルに向けて頬をどの角度で引っ張ればいいかを考えながら、更に足を速めたのであった。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ……ナンバー・オブ・ザ・ビースト

 

 先程異形に彼、シオンが問うた単語だ。スバルはその響きを反芻する。だが。

 

「知らない……」

 

 スバルはシオンを睨みながらそう答える。ロストロギアの名前か、何かか。どちらにしろ、スバルには解らなかった。

 

「……チっ。使えねぇな」

 

 そんなスバルを見て、シオンがあからさまに悪態をつく。舌打ちまでして来た。

 あんまりと言えば、あんまりな態度に流石のスバルもムッと来る。

 

「そんなの見た事も聞いた事もないんだよ!? 解る訳ないじゃん!」

 

 思いっきり怒鳴る。が、シオンはそんなスバルの文句を完全に無視した。

 

「ま、大して期待してた訳でもねぇしな」

 

 その返答に更にスバルは怒りのボルテージを上げる。元より期待してなかったらしい。ならこの扱いは何なのか。

 

「なら、どうしてこんな方法で聞いたりしたの!?」

「もし、万が一お前が知ってたらって思っだけだ」

 

 あっさりと言ってくる。言い返してやろうかと思ったがシオンが喉に剣を突き付けたままなので何も言えない。ぐっと呻いて、スバルはシオンを睨み続けた。

 

「なんで剣を突き付けたままなの……!?」

「お前、正直やかましい。うぜーんだよ」

 

 要するに必要な事以外喋らせたくないらしい。シオンの態度に、スバルは更に激昂した。剣を突き付けられているとか、もうどうでもよくなり、文句を浴びせようとして――。

 

 突如、シオンは左へと顔を向けた。同時にシオンの手元が動く。スバルの首筋に当てられていた刃が離れた。その勢いのまま剣を振るうと、同時。

 

 −撃・撃・撃・撃・撃−

 

    −撃!−

 

 光が剣とぶつかり、煌めいた。魔力弾である。突如として飛来した弾丸を、シオンは大剣で弾いたのだ。弾いているのはオレンジ色の魔力光を持つ弾。

 

「スバル!」

 

 弾を放ったのは少女。スバルの親友であり、元相棒、ティアナ・ランスターだった。周囲にスフィアを引き連れて彼女は走って来る。

 

「ティア!」

 

 現れたティアナに、スバルが喜びの声を上げる。だが、スバルとティアナの間にシオンはすっと身体を挟み込んだ。

 

「一人で来るか。……そこまで自信があるのか?」

 

    −閃!−

 

 訝しむように呟きながら、シオンは向かってくるティアナに右の足で一歩を踏み込み、体重を乗せた斬撃を放つ! しかし、その斬撃は完全に空を切っていた。

 

「!? 幻影か!」

「やあぁぁぁ……!」

 

 驚愕し、シオンが声を上げる。斬撃を放ち、振り抜いたシオンにティアナが姿を現した。これはティアナお得意の幻影魔法、フェイク・シルエット!

 先に、幻影を展開してこちらに来たのか。ティアナは、真っ直ぐに疾走してくる。

 クロスミラージュを2ndモードに移行。光が刃を形作る、と同時に展開していたスフィアを魔力弾として放つ!

 

 既に振り抜いた剣を今から戻すのは容易じゃないはず……!

 

 ならば、今放った一撃はかわせない。よしんば防御できたとしてもさらに勢いで体勢を崩す事になるだろう。そこでダガーを突き付けたら終わりだ。

 そう、ティアナは思い。だがシオンはそこからとんでもない行動に出た。

 斬撃の勢いのままに剣を手から離したのだ。

 

「な……!?」

 

 剣を離したシオンはその勢いのまま軽くなった身で測転での宙返りを敢行。結果、放った魔力弾は全て空を切った。

 

「っ! でも……!」

 

 驚き、しかしさらにティアナは走る速度を上げる。相手はデバイスを離したのだ。このまま突っ込んだら勝てる。

 しかし、シオンはそんなティアナの顔を見ながら天地逆さまで笑っていた。そして、測転での宙返りの最中に引っ掛けるようにして蹴りを放つ。相手はティアナではない。自分が離した剣。イクスだ。柄を蹴り上げ、そのまま斬撃の勢いを回転ベクトルに変換。

 その場でシオンとイクスは左右対象のように同じ速度で回転する。

 そして、シオンは地に着地したと同時、右手を横に差し出す。一回転したイクスはそのまますんなりとシオンの手に納まった。

 

 そんな……!

 

 シオンの挙動を見て、内心ティアナは驚愕していた。

 自分が放った魔力弾をかわしつつ、体勢までも整える。軽業師を思わせる、とんでもない手だ。

 

 けど……!

 

 確かに相手は体勢を整え、剣をその手に戻した。だが、そこまでだ。 既にティアナは少年の眼前まで迫っている。大剣型のデバイスではここからでは斬撃できない。近すぎるからだ。ならば、もはや詰みの段階である。

 

 勝った……!

 

 そう思い。光刃を突き付けようとして――しかし、ティアナもまた見た。未だに笑みを消さない少年の顔を。

 

「イクス、モードセレクト。ブレイズ」

【トランスファ−!】

 

 ぽつりと呟くと同時、シオンのバリアジャケットは変質した。黒から赤へ。ジャケットの部分が無くなり上は完全にシャツ一枚になった。

 更に所々パーツが無くなり、より機動に特化したフォルムへと変質する。

 そして、何より――ティアナは自分の額から汗が流れ落ちるのを感じていた。

 今まさにクロスミラージュを突き付けようとした瞬間、既に自分の首筋に刃が突き付けられていたのだ。

 大剣は既に無く。少年の手に握られているのは二刀一対の大型のナイフである。デバイスが変型したのだ。

 

「く……!」

「お前の負けだ。まだやるか?」

 

 シオンは未だ不敵な笑みを消さずに、呻くティアナに問う。

 

 そんな……。

 

 一方。かやの外に置かれたスバルはティアナの敗北をその目で見る事になった。

 目茶苦茶な方法で、だが無理矢理でも勝利をもぎ取ったシオンと敗北したティアナを。

 

 でも……、凄い。

 

 シオンの技量。そんな大胆な手を躊躇いなく使う胆力。そのどれもだが、何よりその何が何でも勝ちに行く姿勢。それがスバルにとって凄いと感じられた。

 

「さて、普通ならここでギプアップするか聞くんだろうがな」

「誰が……!」

 

 挑発的なシオンの言葉にティアナが唸る。それを聞いて、シオンは苦笑混じりの笑みを浮かべた。

 

「状況考えろよ。今、ここは意地になる所か?」

「アンタ、一体何者よ……?」

「質問するのはこっちだ。拒否権は認めない」

 

 質問するティアナをさらりと無視しつつシオンは告げる。取り合うつもりもないらしい。それを理解して、ティアナは歯噛みをした。

 

「聞きたい事はたった一つだ。ナンバー・オブ・ザ・ビーストを知っているか?」

「なん……? 何? それ?」

「成る程、いやもういい」

 

 この少女もまた知らないらしい。

 ティアナの答えにそれを悟ると、シオンは少し頭を振った。

 重い溜息を吐きながらぼんやりと思う。またハズレか、と。気を取り直すと、少女から刃を離した。

 

「……何のつもりよ?」

「もう用が無ぇんでな。帰る」

 

 訝し気に見て来るティアナにシオンはあっさりと言い放ち、踵を返した。

 二人の少女など、どうでもいいと言わんばかりに、置いて帰ろうとする。

 

「て、ちょ、認める訳ないでしょ……!?」

「お前に認められる筋合いなんざあるかよ」

 

 取り付く島もない。もはやスバルにもティアナにも興味を失ったらしく、シオンはさっさと離れていく。

 

「待って!」

 

 だが、突如として放ったスバルの大声に、ティアナはおろかシオンまでも立ち止まる。スバルは構わない。

 

「何か、探しものがあるんでしょ? その……。ナンバーなんとかって奴」

「ナンバー・オブ・ザ・ビーストだ」

 

 名前を覚え切れないスバルに、シオンは即座の訂正を入れる。漸く名前を思い出して、スバルは相槌を打った。

 

「うん、それそれ。それでさ……。よかったら私達と一緒に来ない?」

「スバル!?」

 

 ティアナから驚きの声が上がる。まさか、まさかの提案だったからだ。確かに、局まで事情聴取は必要だろうが、それにしても無茶苦茶である。元相棒の声にスバルは念話で答えた。

 

《大丈夫だよ……ティア。シオンは多分、そんなに悪い人じゃないと思う》

《……もうっ! 後でどうなっても知らないからね!》

 

 ゴメンね、と念話を返す。何だかんだで自分の事を許してくれる、そんなティアナにありがとうと、そう思った。

「その、管理局なら大抵の事も解るし、情報も集まるよ。シオンの探しものも見つかりやすくなるって思う」

 

 ゆっくりと、シオンに近付く。シオンの目を見て話したい。何故かそう思ったから。

 

「……どう、かな?」

 

 スバルはシオンの目を見る。しかし、その目はただただ、無感情で。

 

「お前さ、うぜーんだよ」

「え……?」

 

 呆然の声を上げたスバルに、シオンは構わない。無感情のまま続ける。

 

「いちいち人に構うな。そう言うの、なんて言うか知ってるか? ……有難迷惑なんだよ」

「で……でも!」

 

 スバルは更に引き止めようとするが、シオンは背を向けて、完全に拒絶する。もはや話す気もないらしい。

 魔法陣が現れる。見た事もない魔法陣だ。だが、意図は解る。空間か次元転移。ここから離れるつもりだ。

 

「シオン……!」

「……お前、本当もう俺に構うな」

 

 じゃあな。と、だけ付け加えてシオンはあっさりと転移して去った。

 スバルは手を伸ばしたまま、その場に立ち尽くす。

 

 差し出し。しかし、拒絶された手が風に触れて。

 

 寂し気に震えた。

 

 




次回予告
「差し出し、しかし拒絶された手は寂しく震えて」
「去っていった少年を、少女は想う」
「そして、少女は窮地の少年と再び邂逅する」
「少女の出した、答えとは」
「次回、第三話『刃と拳』」
「綺麗だな、ただそうとだけ思ったんだ」

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