魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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はい、第五十一話中編2であります。ユーノVSタカトがついに始まります。熱いバトルをお楽しみあれー。では、どぞー。


第五十一話「男の闘い」(中編2)

 

 ぎちぎちと、音が鳴る――まるで、多数の虫がうごめくような音が。その中で思い出すのは、かつての語らい。

 

『この魔法は――?』

『狂戦士(”ベ”ルセルク)。そして、狂戦士(”バ”ーサーク)です。……無限書庫で発見しました』

 

 ぎちぎち、ぎちぎちと。それは、どんな音よりも彼、ユーノ・スクライアの間近で響いていた。

 

『前者は古代ベルカ式、後者はミッド式の強化魔法の一種みたいで……特に狂戦士(ベルセルク)は聖戦士(エインヘリアル)と対を成す魔法みたいなんです。狂戦士(バーサーク)は狂戦士(ベルセルク)をミッド式に術式変更した魔法みたいなんですけど』

『それは分かりました。確かに狂戦士(ベルセルク)は古代ベルカ式の危険な魔法のようですし、こちらで術式を封印しましょう。……ですが、貴方が使いたいと言うのは……?』

『……後悔が僕には一つあります』

 

 ぎちぎちぎちぎち、ぎちぎちと! 当たり前である。その音は他でも無い、ユーノの身体、その内側から鳴り響いていたのだから。

 

『……僕は、あの時。なのはを守れませんでした』

『それは――』

『その場に居なかったとか、そんなのはいいんです。……今でも考えるんですよ。僕が、なのはをこの世界に連れ込んだから、なのははあんな怪我を負ったんです』

 

 ぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちと! 筋肉が――否、”細胞の一片、一片が”膨張していく! ユーノの身体を作り替えていく!

 それは、ヒトから別のモノへの変貌を意味していた。果たして、ユーノは気付いていただろうか。人体改造とも言えるその魔法は、目の前に存在する友の使用術式、八極八卦太極図の特性にひどく似通っている事に。

 自らを改造する。つまりは、”兵器と化さしめる”と言う一点において同一だった事に!

 

『今更過ぎた事だって分かってます。なのはが望んでこの世界に来た事も分かってます。でも、僕が力不足だったせいで、なのはを巻き込んだ。それは間違い無い事だと思いますから』

『だから、この魔法を?』

『はい。大切な人を守るための力。……そして、大切な誰かを止めるための力。僕は、それが欲しい』

 

 だから――。

 

『騎士カリム。僕にこの魔法。古代ベルカ、ミッド。ハイブリット術式、狂戦士(”バ”ルセルク)の術式開発を、許可して下さい』

 

 音が、鳴る――!

 

「ユーノ、お前……!」

「お……」

 

 タカトが目を見開いて呆然と呟く。それを聞きながら、ユーノは一つ息を吐き出した。

 見た目は何も変わっていない。だが、それは見掛けだけだ。その内側は、筋肉、骨、血管、神経……いや、人間の身体を構築する全ての要素が改造されている。すでに、ユーノの身体は兵器のレベルまで押し上げられていた。

 片手を振り上げる。拳を握り、ただ地面へと打ち下ろした。それだけ、ただそれだけで――!

 

    −轟!−

 

 ”廃棄都市が丸ごと陥没する!”

 数十Kmの範囲に渡って地下の水路をぶち抜き、陥没したのだ。ただの拳の打ち下ろしだけで!

 タカトが立っていたビルも盛大に傾く。倒壊しなかったのは、ただ運が良かっただけだろう。いくつかのビルは基礎ごと破壊され、倒壊をはじめていた。

 タカトは未だに呆然として、ユーノを見続ける。そして、ユーノは。

 

「おぉオオオオオオおおおぉぉオオオオオオオオおおおぉオッ!」

 

 ミッドチルダ全域に響き渡らんばかりの咆哮を上げた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 空気が、びりびりと震えた。ユーノの咆哮でだ。それにタカトは顔をしかめる。ユーノの咆哮は、すでにそれ自体が武器と出来うる威力と化していた。生半可な攻撃は、この叫び声だけで吹き散らされてしまうだろう。

 なら、間接的な声では無く。直接的に身体を使った場合は――。

 長い咆哮を終えると、ユーノは膝を5Cm程曲げ、伸ばした。それだけ。それだけで、ユーノは”音速を突破して、跳躍した”。

 

    −撃!−

 

「!? っが!」

 

 超音速で跳躍したユーノは、そのまま頭からタカトに突撃。その運動エネルギーを全て、タカトに叩き込む。打撃を捨てて、ただ突っ込んだのである。驚いたのはタカトだ。

 その挙動から突撃出来るなぞ誰が思うものか。

 回避も防御も出来ず、まともに突撃を受けてタカトは砲弾の如くすっ飛ぶ。そして、悲鳴を上げる暇すら彼には与えられなかった。

 タカトを弾き飛ばし、運動エネルギーを彼に預けたユーノは止まらない。そのまま身体を折り曲げて飛翔、空気をぶち抜いてタカトに追い付く。

 吹き飛び続けるタカトが見たものは、左手を振り上げて追い縋るユーノの姿。タカトに追い付くと、ユーノはそれをタカトへ放つ。吹き飛ばされ続けるタカトに出来た事は、ただ両腕をクロスさせて金剛体を発動する事だけであった。

 

    −轟!−

 

 一撃がぶちかまされた。タカトは直角に弾かれ、真下、地面へと叩き落とされる! が、タカトは地面へとぶつかる直前で身体を回転。足から着地した。

 空歩により、吹き飛ばされた一撃と着地の衝撃全てを地面全域に逃がす。だが、それでも足元にはひび割れが生じていた。ユーノの一撃、どれ程のものだったのか。

 タカトは両腕を見下ろして顔をしかめる。金剛体により硬質化した筈の両腕は、しかしユーノの一撃によって激しい痺れを残していたのだ。

 それが意味するのはただ一つ。ユーノが放った打撃は、Sランクオーバー……あるいは、SSランク以上と言う事であった。これは、かのアルトス・ペンドラゴン並の威力である。

 

 ……狂、戦士。こんな魔法――!

 

 タカトは聖戦士以上の戦慄を、この魔法に覚える。ユーノがSランクオーバーもの戦闘能力があったとは流石に思え無い。そこまでこの魔法は、ユーノの身体を改造してしまったのだろう。それが意味するものはただ一つ。術者の――。

 そこまで考えた所で、ユーノが下りて来た。今度は右手を振り上げ、放つ! だが、吹き飛んでいる時はいざ知らず、直立しているタカトがそんな大振りの一撃を受ける筈も無い。僅かに後退し、振り下ろしの一撃を避ける。

 ユーノの一撃は空を切るだけで終わった。そして。

 

「天破紅蓮」

 

 地面に着地する前に、ユーノの顔面へとタカトは回し蹴りを放つ! その足は紅蓮の赤に染まり、それを前にしてユーノは右手を掲げた。”ミッド式の魔法陣を展開しながら!”

 

    −爆!−

 

    −壁!−

 

 閃光が膨らみ、直後に爆炎となって世界に顕現する! タカトが見たものは紅蓮を放った蹴り、それにより砕けたシールドを発動した手で掴むユーノであった。

 

「な……に?」

「驚くような事じゃない。僕は防御には自信があるんだよ――君の一撃を受け止められる程度にはね」

 

 驚くタカトに、ユーノがぽつりと呟く。それにこそ、タカトは真に戦慄した。この魔法、タカトが見た限りでは自我すらも失う魔法の筈だ。それが魔法を使う? 話した? つまり、自我を失っていない。ユーノはユーノのままで戦っている――!?

 

「お前、意識が……!?」

「一番に改良したいのが、そこだったからね」

 

 ユーノはさも当然と答える。二つの狂戦士の術式を融合したのは、まさしくその為であったのだ。極限とも言える肉体強化を、理性と魔法技能を保ったまま使えるようにする。ただ、そのためだけにユーノは二つの術式を融合させたのだ。

 それが、どれ程凄まじい事か――タカトは愕然とし、しかし呻きを上げると迷わず次の行動に移った。

 足が捕えられている状況ではまともな打撃は出来ない。ならば。

 

「天破、水迅っ」

 

    −寸っ−

 

 片足立ちの状態でタカトは右手をユーノに差し向ける。すると、そこへ水が対流し始め――無数の水糸となりユーノへと殺到した。数千、数万もの水糸は全方位からユーノに襲い掛かり。

 

「邪魔だぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

    −轟!−

 

 裂帛咆哮!

 とんでもなく大きな叫び声がユーノから放たれ、咆哮は無形の衝撃波となって水糸を、タカトを叩く! 水糸は一瞬にして須らくちぎり飛ばされ、タカトは衝撃波をまともに受けてのけ反った。鼓膜もやられたか、耳から血が流れる。

 それは同時に、三半器官を激しく揺さぶられた事を意味していた。必然、タカトの身体はぐらりと傾き――ユーノは、そんな彼を右手一本で釣り上げた。

 足を捕まえられ、更に平行感覚を一時的に失ったタカトは成す術なくされるがままになり、釣り上げたユーノ自身を飛び越えて反対側の地面へと叩き付けられる!

 

    −撃!−

 

「か、は……!」

 

 アスファルトの地面が爆砕した。タカトが叩き付けられた事によって。その衝撃により内臓でもやられたか、タカトの口から血が零れ――ユーノは容赦しない! 更に反対側に叩き付ける。

 

    −撃!−

 

−撃、撃、撃、撃、撃−

 

    −撃!−

 

 ――止まらない! 幾度も幾度も、ユーノはタカトを地面へと叩き落とした。壊れた人形のようにタカトが宙を舞い、やはり壊れた人形のように地面に落ちる!

 それは戦いと言うより、既に処刑のような有様となっていた。ここまでくれば、勝負の行方よりタカトの安否を心配するだろう。だが、ユーノは止まらない。

 

「……この程度か!」

 

    −撃!−

 

「この程度、か!」

 

    −撃!−

 

「この程度かァっ!」

 

    −撃!−

 

 吠え、叫び、咆哮し、ユーノはタカトを地面に叩き付ける。最後の叫びの部分で、ユーノは地面に叩き付ける事を止めた。代わりに横、地面スレスレのアンダースローでタカトをぶん投げる! その投擲は初速から音速超過。先程が人形ならば、今度は砲弾の如くタカトは地面と平行に飛ぶ。進行上には、立ち並ぶ倒壊したビル群があった。

 

    −轟!−

 

 そこにタカトの身体が突っ込む。そして、無数にあるビルを貫通しながら進み――。

 

「っ!」

 

 ――目を見開いたかと思うと、タカトは空中でまたもや回転、ビルへと横に着地する。音速超過の運動エネルギーを叩き付けられ、倒壊したビルが砕けた。呆れた事にあれだけの猛攻を受けて置きながらタカトは平然と動いていた。

 だが、ダメージが無い訳ではないらしくタカトはぐっと顔を歪め、しかしすぐに上、本来は前を見据える。

 果たして、ユーノの姿は間近にあった。タカトを投げ飛ばして即座に追撃を掛けたのか。それを見るなり、タカトは身体を翻して本来の地面に着地、拳を握り込む。

 半歩を踏み込んだ。同時、ユーノがぶつかるように拳を放ちながら突っ込んで来る! タカトはそんなユーノに、握った拳を迷い無く放り込んだ。

 ユーノの拳と交差するように、タカトの拳が彼の鳩尾に突き込まれる――!

 

    −撃!−

 

 浸透勁、打撃の衝撃を内部へと打ち込む打法には、改造された筋肉も意味を成さない。ユーノは急所を打たれ昏倒する……筈であった。

 ”ユーノの腹筋が爆発的に膨らむまでは”。

 次の瞬間、タカトは浸透勁によって放たれた打撃の衝撃を叩き返され、右腕は、拳と言わず腕ごと弾け散った。ピンク色の肉片が散り、骨まで見えている。

 タカトは愕然と見ながら、ユーノが何をしたのかを悟った。

 

 筋肉を瞬間的に膨張させて、打撃の威力を返しただと……!?

 

 無論、本来このような事は有り得ない。筋肉を意識的に、爆発的に膨張でもさせない限りは不可能だ。そして、人間はそのような事が可能なようには出来ていない。

 だが、ユーノの狂戦士、意識的に制御された極限の肉体改造は、それを可能にしたのである。

 

「この、程度、なのか……ッ! 君の……!」

 

 そんなタカトの驚愕に構わず、ユーノは彼の胸倉を掴んだ。引っ張り上げ、そのままの勢いで傍らのビルに叩き付ける!

 

    −撃!−

 

「っぐぅ!?」

「……チェーン・バインドッ! ストラグル・バインドッ!」

 

    −縛−

 

 叩き付けられた衝撃でタカトの口から再び血が溢れた。だが、ユーノはその一切に構わない。身体を鎖状の捕縛魔法と紐状の捕縛魔法、二つの捕縛魔法で拘束する。

 単純捕縛魔法と、強化、変身無効化捕縛魔法。いくらタカトでも、普段無意識に全身に流してる強化魔法を無力化されては、抜け出すのに時間が掛かるだろう。

 そしてユーノは直ぐさま後退。永唱する――それは、ストラがSt、ヒルデ魔法学院に現れた時に使った魔法。チェーン・バインドの強化版。

 

「サウザウンド・チェーンっ!」

 

    −轟!−

 

 叫びと共に、幾千もの鎖がユーノの足元から飛び出る! それらは現れると同時、辺りへと散らばった。サウザウンド・チェーンを発動して何をしようと言うのか。

 タカトはバインドをどうにか解除しようと、もがき……そして、恐ろしいものを見た。

 

「ふぅううう……っ!」

 

 ユーノが千の鎖を丸ごと握り、頭上へと振り上げる。まるで、釣りで大物を釣り上げるかのように。そして、釣り上げたのは確かに大物だった。

 ――ビル。そこらに倒壊していたビルをユーノは釣り上げたのである。”およそ、千もの”。

 ずらりと、頭上に並ぶビルの葬列は天地逆さまとなった町を彷彿とさせた。

 あまりの光景にタカトは唖然となり、やはりユーノは構わない。釣り上げたそれらを、纏めてタカトへと振り下ろす! ビルの葬列が、音速超過で落ちて来た。

 

    −轟!−

 

    −爆!−

 

    −破!−

 

 最初に起きたのは地震だった。それこそミッドチルダそのものを揺るがすような巨大な地震。次に引き起きたのは、爆発である――正確には爆発したかのように見える程の煙りであった。

 音速超過で叩き付けられたビルは当然、全て砕けたのである。その破片が吹き飛んだ光景が爆発を連想させたのであった。

 煙りが辺りに充満する。その中でユーノは叫び続けていた……涙を零しながら。

 

「この程度なのか……! 君の想いは!? 誰かを叩きのめして! 誰かを蹴散らして! 誰かを踏み付けてまで叶えようとした君の想いは! こんな程度のものなのか!?」

 

 自分と、ヴィヴィオを助けるためにタカトはミッドチルダに来た。誰かを倒して、蹴散らして、踏みにじってまで!

 

 そんな事……!

 

「そんな事! 誰が頼んだって言うんだ! ふざけるのも――! 自分勝手なのもいい加減にしろ! 誰かに迷惑かけてまで助けられたいなんて誰が思うもんか! 君がやっている事は、ただの我が儘じゃないか! 考えた事があるのか……!? 殴られたら痛いんだ! 蹴散らされたら辛いんだ! 踏み付けられたら、悲しいんだっ! それが、何で君は分からない!?」

 

 怒号と共に吐き出される訴えは、止まらない。煙りが次第に晴れて行く。それでも、ユーノは叫び続けていた。友への、怒りを吠えながら。

 

「痛いかい……!? それが、君が誰かに与えて来た痛みだ。誰かに与えてきた苦しさだっ! 気付こうよ。そして、止めにしようよ……」

 

 ようやく――ようやく、全てを叫び終えてユーノは荒い息を吐き出す。煙りは、ようやく全て晴れ、その後には瓦礫の山しか残っていなかった。ユーノの最後の一撃で、こうなってしまったのである。他は全て、無くなってしまったのだ。ユーノは悲しげに瓦礫を見つめ続け、直後。

 

    −軋−

 

 世界が、胎動するかのように軋んだ。莫大な、怒りの気配と共に――!

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 所変わってイギリス支部『学院』、鉄納戸良子の研究室。

 彼女から追加武装として渡されたトランクを神庭シオンは開け――そして、異様なものを一同は見た。

 

「……何これ?」

「だから俺の追加武装だって。いやー、頼んでみるもんだ」

 

 ティアナがぽつりと呟く。それに、にんまりと笑いながら、口をあんぐり開けた皆の前で、シオンは武装の一つを取り出した。”鉄塊”を。

 

 ……何、これ?

 

 そんな考えがティアナだけで無く、もろに顔に出ている皆に、シオンは名前を告げてやる。

 

「BIG(ビッグ)―BEN(ベン)だ」

 

 そう、まるで黒い煉瓦のような”拳銃”の名前をシオンは告げた。

 BIG―BEN。

 口径100。冗談じみた大きさの銃口を持つ拳銃である。ハンドガンの弾丸としては、現存する最大の弾丸である0.5インチ弾の、”単純に二倍の口径を持つ弾丸”。その弾丸を放つためだけに造られた、ただそれだけの拳銃だ。

 当然、実戦を想定して造られた銃では無い。制作者が、ただ己の欲求――世界最強の拳銃を造りたいと言う欲求を満たすために造られた拳銃と言われている。

 名の由来は、今シオン達が居るイギリス首都、ロンドンのウェストミンスター宮殿にある鐘から取られていた。

 この銃は1983年に製作された幻の拳銃であり、この時造られたオリジナルは試し撃ちの段階で銃身にひびが入ったために破棄。その二年後に四丁の完成品が造られたと言われる。

 今シオンが手に持っているBIG―BENは、その完成品を更にグノーシスの手によって改造したものであった。言うならば、BIG―BEN(改)といった所か。だが、その銃の本質はまるで変わっていない。

 限りなく黒く、限りなく無骨な外見。飾り気と言うものを一切合財排除したかのような、銃と言うよりは工具のような外見が、その全てを語っている。

 何故、このような外見となっているのか。答えは、その口径にある。

 あまりに巨大過ぎる口径のため、それに応じて銃身も大きくならざるを得ず、また発砲の際の衝撃を吸収する必要性から、どうしても肉厚な造りとなっているのだ。

 強度を増せば当然重量も増す。見た目は鉄の塊だった。

 弾丸が二倍になった場合、その威力は単純に二倍になるわけではない。外周と重さに比例して火薬の量が増えるため、弾頭の破壊力は何倍にも跳ね上がる。

 その威力は最強のハンドガンであるフリーダム・アームズ製のSAリボルバー、454カスールをも軽く凌ぐ。カスールが人間の頭を木っ端微塵にするのならば、BIG―BENは人体を肉塊に変える。その威力、推して計るべしであった。

 だが、欠点が無い訳では無い――と言うより欠点だらけな銃であった。

 まず重い、えらく重い、とんでも無く重い。とてもでは無いが、普通の人間が両手で構えられる重さでは無いのだ……よしんば構える事が出来たとしても、対象に弾を当てる事はまず不可能と言える。

 また弾丸一つ一つが巨大なため、弾倉に装弾できる数が少なかった。装弾数、僅か四発。一発で対象を破壊できるとはいえ確実に当たる保証もなく、さらに敵が単独とも限らない戦場において、その装弾数は極めて命取りであった。

 更に、回転式(リボルバー)拳銃にも関わらずブレークオープン式と言う異端な造形をしている。普通、強力な威力を持つ回転式拳銃は弾倉を横に出して弾を交換するスイングアウト方式が採用されている。しかし、BIG―BENはあまりに重量のある弾倉が繰り返されるスイングアウトに耐え切れ無いために、フレームを折って弾丸を装填するブレークオープン方式が採用されているのだ。

 本来ならば強力な弾丸を使用する拳銃に、中折れ式を採用する事はまず無い。フレームを折ると、銃の強度が落ちるからである。

 そのためか、この拳銃は強度を上げるための頑強な造りと、中折れ式の銃身を確実に固定するフックを有していた。

 そして、これが最も重大な欠点なのだが――当然、反動である。

 あまりにも強力すぎる弾丸は、発砲した際の反動もまた凄まじいの一言に尽きた。普通の人間の肉体では、その反動に耐えることは不可能だ。

 一発撃つだけで、腕と言わず指を破壊される事うけあいである。つまり、実戦うんぬんの前に撃つと言う段階からままならない拳銃なのだった。

 ……だが、それは”普通の人間に限る”。

 

「よっ、と」

 

 シオンは身体強化を身体に張り巡らせると、BIG―BENを事もなげに構えて見せた。流石に片手とはいかないものの、真っ直ぐに構えられている。後はバリアジャケットでも展開すれば、反動によるダメージは無くなるといっても過言では無い。

 巨大な拳銃を構える少年の図は、どこか冗談じみた光景にも見えた。シオンは構えながら、横に居る良子に聞く。

 

「流石に重いな……試射していい?」

「ばかっ。こんな所で撃つな! 後で射撃所で撃って来い」

「へーい」

 

 適当な返事をしながら、シオンはBIG―BENを下ろす。すると、じとーとした視線を感じた。言わずもがな、ティアナである。彼女は何を言いたいのか。シオンは苦笑しながら言ってやる。

 

「……言っとくけど、地球(ここ)で質量兵器うんぬんは通じねぇからな?」

「分かってるわよ」

 

 ぷいっとティアナはふて腐れたように顔を横に向けた。

 そう、BIG―BENは立派な火薬式の拳銃である。つまりは質量兵器に区分されるものであったのだ。だが、今シオン達が居るのは質量兵器万歳な地球である。管理内世界による質量兵器保持禁止令は、管理内世界だからこそ通用する法律なのだから。

 ちなみに余談だが、グノーシスは質量兵器とデバイスを合わせて持つ場合が多い。これはただ純粋に使い勝手の良さを求めた結果であった。とは言え、位階持ち上位位階者の殆どは質量兵器の類を持ち歩く事は無いのだが。

 これは単純に、普通の質量兵器より魔法の方が強いためである。一応、グノーシスでは射撃訓練が義務課題とされているため、殆どの人間は銃器を扱えるのであった――閑話休題。

 

「さって、後は……お、OICWもあるじゃん」

「OICW?」

「グノーシスの一般正式採用小銃、アサルトライフルのこった。世間一般では、次世代兵器の代名詞なんだけどな」

 

 不思議そうな顔をするスバルに、シオンは変わった形のアサルトライフルを取り出しながら笑った。

 OICW――Objective-Individual-Combat-Weapon。

 アメリカ陸軍が長年に渡って研究開発を続けていたものの、21世紀初等、ロサンゼルス・タイムスに詳細をスッパ抜かれて大騒ぎになった究極の対人銃。それが、シオンが新たに手にしたアサルトライフルの名であった。

 未来銃の代名詞とも言われるレーザー銃は技術的には既に実用化の段階に入っている。ミッドにおいて、ガジェットが普通に装備している事からも、それは明らかとなっているのだが、地球の実働部隊はこのレーザー銃の導入に難色を示している。何故なら強力でも、その攻撃範囲は直線のみだからだ。このような兵器は、正面からの白兵戦でこそ効果があるのだが……現代の戦争では、そんな場面は皆無に等しいと言われる。

 NATO軍がよくやるように、まず爆撃で敵戦力を根こそぎ奪い、しかるのち残党狩りをするために兵士を投入するのが現代戦争のセオリーなのだ。常に敵は物陰に潜んでいる。

 そこで、より確実に、効率的に敵兵士を抹殺するために開発されたものが、OICWであった。

 弾丸自体にある程度の軌道変更能力を持たせて、それを銃のレーザーで誘導するのである。ミサイルと違って自動性が無いため、どうしても命中率は下がるのだが、弾頭を空中爆裂型にする事によって、敵を確実に仕留めると言う恐ろしい仕組みになっている。例え敵が塹壕の中にいようと、銃の誘導で弾道が歪曲し、敵兵士の背中で炸裂するのだ。逃げ場などあろう筈が無い。

 敵兵士を確実に抹殺すると言う非人間性の理念により考え出された銃――BIG―BENとは対極とも言える銃であった。

 しかも、グノーシス製のものは完全に小型化されている。現在試作されているのは、かなり大型であり、口径は20mmにもなる(ちなみに、BIG―BENは25.4mm。これより更にでかい)。これはNATOのアサルトライフルの約四倍にもなるだが、グノーシス製のものは口径も大きさも普通のアサルトライフルと変わらない程になっていた。

 魔法技術と質量兵器に精通し、その道の天才集団が集まるグノーシスならではと言った所か。

 シオンはそこらを説明しながら、こちらも構えて見る。バランスも良い。グノーシスの開発部はいい仕事をしてくれた。

 後で射撃所で試射しようと、シオンは思いながらOICWをBIG―BENの横に並べる。後残るは。

 

「これか」

 

 そう言いながら取り出したのは、一振りのナイフであった。鞘に納められたそれを、シオンな抜き出す。鮮やかな白と赤のフィンガーガードに銀色の刃が現れた。

 刃渡り30Cm程の、片刃のファイティングナイフだ。一見、普通のナイフ――しかし当然、これも普通のものでは無かった。と言っても、変な機能がついている訳でも無い。魔法的な技術で強化された訳でも無かった。ただ、その材質が違う。

 オリハルコン――伝説の金属と言われる超金属で、そのナイフは鍛造されていたのだ。その強度は凄まじいの一言に尽きる。地球で最強の強度を誇る構造分子、カーボンナノチューブを超える程の強度を、その金属は有していたのだ。加えて、錆が浮く心配も無いと来ている。

 シオンがこのナイフに求めたのはただ一つ。頑丈さ、それだけだった。ともあれ刀身を眺めすがめて、シオンは満足したようにナイフを鞘に納める。

 

「ふっふっふ、これで俺の武装は完璧だぜ。これからはフルアーマーシオンと呼んでくれ」

『『イヤ』』

 

 笑いながらシオンはそんな事を言い、当然の如く断られ、いじけたシオンは床に、”の”を書きはじめた。そんなシオンに、ティアナは頭が痛いとばかりに額を抑える。

 

「……一応言っとくけど、管理内世界で使っちゃダメだからね」

「お前が許可出してくれりゃーいいじゃん。確か、拳銃程度なら管理局に届け出たら使えんだろ? 緊急事態適用って事で――」

「却下」

 

 またもやきっぱりと断られ、シオンは再び床にのを。それを尻目に良子がパンパンと手を打った。

 

「それじゃあ今日は解散。部屋も用意してある。明日に備えてゆっくりしてくれ」

『『はい』』

 

 良子に皆は素直に頷き、シオンを放り出して解散となったのであった。

 

 

(後編1に続く)

 

 




はい、第五十一話中編2でした。
……ええ、言いたい事は良く分かりますユーノがヤバい、いろんな意味で(笑)
なにこのチート(笑)
ちなみに狂戦士発動中のユーノは、条件付きながら、作中最強レベルと化します。
いやまぁ、タカトフルボッコの時点で分かる話しなんですが(笑)
シオンの武装については、分かる人は分かる筈(笑)
ええ、某八百万機関と、汚い顔からの出展となります。
BIG-BENとか懐かしい……ではでは、次回もお楽しみにです。

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