魔法少女 リリカルなのはStS,EX 作:ラナ・テスタメント
−撃!−
突如、横っ面に炸裂する衝撃! それをまともに受けて、シオンは屋上に転がる。痛みと、エリオから声が飛んだ感覚を受けて――サキソフオーンが、更に高らかな音を立てた。
「っ――――!? ちぃ!」
−撃!−
苦しげに唸りながらも、シオンは転がった体勢から側転に移行。回転する彼の身体があった位置を再び衝撃波がぶった叩く。この攻撃は……!
「エリオ、気をつけろ! これは音を使った衝撃波だ!」
《へぇ、良く分かったねぃ?》
−撃!−
叫ぶシオンに再び炸裂する一撃。必死に身体を反らして回避するも、その攻撃範囲の広さ故にどうしても体勢が崩れる。しかもだ。この攻撃、ある程度衝撃波を操れるのか、ギュンターとか言ったか、彼ともう一人の周りには一切何も起こらず、変わりにシオンとエリオには衝撃波が襲い掛かっていた。更に。
《じゃあ、そろそろ魔虫(バグ)も使おうかねぃ》
「ぐ……!」
サキソフオーンを吹き鳴らす、ギュンターから飛ぶ念話。シオンは、やはりと思いながらも呻き声を上げずにはいられなかった。ギュンターの固有武装はサキソフオーン型のシンクラヴィスだけにあらず。例の虫達――魔虫(バグ)も含まれるのだから。それを、攻撃に使わない訳が無い。
再びシオンとエリオに叩き付けられる衝撃波に続いて、魔虫が羽音を立てて襲い掛かる。みちり、と身体の中心部分が開き、キャロを殺し掛けた一撃決殺の毒針が放たれる。
−閃−
「ぐっ!」
「くっ!」
何とか放たれる無数の毒針を二人は身体を反らし、また側転しながら躱して。
−撃!−
そんな隙だらけの二人を見逃す訳も無く、炸裂する衝撃波。直撃を受けた二人は、まるで案山子(かかし)か何かのように派手に屋上を転がった。
「ぐっ……かはっ……エリオ……!」
吹き飛ばされ、屋上のセメントに転がったシオンは痛みに喘ぎながら、弟分に呼び掛ける。それに、無言ながらもエリオは立ち上がって見せた。痛みを、顔に張り付けながら。
そんな二人を、戦いが始まってから一歩も動いていない化け物――ギュンターが、相変わらずの軽薄な笑いを浮かべて、二人を見ていた。
《おっとっと。これは、ちょっと実力に差がありすぎかねぃ? まぁ、二対一だし、こっちも余裕が無いから、許してねぃ?》
冗談じゃねぇぞ……!?
かはっと咳込みながら、シオンはギュンターを睨む。その顔は明らかに余裕を無くしていた。
先の攻防。自分とエリオは全く何も出来ないまま、転がされてしまった。どう考えてもレベルが自分達とは一段違う。
第二世代型戦闘機人の話し自体は、イギリスに来る前のブリーフィングで聞いた――聞いてはいたのだが、ここまでなんてのは予想出来なかったのだ。
考えてみれば、彼等と戦闘を行ったのは、あの規格外異母次兄、伊織タカトしかいないのだ。彼等のレベルを計れようはずが無い。
彼等全体はどうだか知らないが、ギュンターの実力は明らかにエースクラス。なのは達、隊長陣と同等、つまりはグノーシス”第三位レベル”の実力の持ち主であった。その事実にシオンはぐっと呻く。
自分はどう贔屓目(ひいきめ)に見ても第四位レベルがせいぜいだろう。エリオも第五位から第六位レベルか。
そう考えるとこの勝負、どんなにひっくり返ようと勝てるはずが無い。
自分達が、ひどく絶望的な戦いの最中に居る事をシオンは自覚した。
《それじゃあ、ここらで終わりにしておこうかねぃ。悪く思わないで欲しいね――》
−雷!−
そう言った直後、こちらを向いて笑うギュンターの向こうで、莫大な雷光が迸った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【ウンヴェッター・フォルム!】
高らかな、声が響く。それは、エリオのアームドデバイス、ストラーダからの声であった。
ぱりぱりと、辺りを帯電する雷が走る。それは紛れも無く、エリオから放たれた雷。同時、辺りをぼたぼたと何かが落ちた。例の虫、ギュンターの固有武装、魔虫(バグ)である。それらは全て帯電し、下に落ちたまま動かない。
《へぇ》
「……エリオ」
ギュンターからは感心したような声が、シオンからは呆然とした声が漏れ、エリオはその全てを無視した。ストラーダを構える!
「はぁあああ――――!」
【ソニック・ムーブ!】
吠えると同時、ストラーダが叫び声を上げ、エリオが雷光もかくやと言う速度で駆け出す。対し、ギュンターは即座にシンクラヴィスを吹き鳴らして。
−撃!−
発生する音衝撃波。それは、超音波によって発生する衝撃波にあらず、空間を音により歪ませ、発生させる衝撃波であった。これは、かのゲイルのポイント・アクションにも通じる能力である。ただしギュンターの能力は、彼を完全に凌駕していた。何故ならば、ギュンターは衝撃波を彼とは全然別の場所から突然、発生させていたのだから。
これに弾道も何も無い。いきなり衝撃波が周りに発生するのだから。そして、今回も例外無くエリオを打たんとして――エリオの動きは、その想像を一歩超えた。空間に足場を設置し、そこに唐突に身を投げ出す。ソニック・ムーブを発生させたままだ。ギュンターの音衝撃波は間に合わず、飛んだ彼の足元を打つ。それを感じながら、エリオは高速で身体をよじると、天地逆さまに足場に着地。ギュンターと目が合った。
ぞくりと言う感覚が、”ギュンター”の背筋を走る!
エリオは構わない。ソニック・ムーブで、そのままひた走る。狙いは当然、ギュンター! 彼はさせじと音衝撃波を発生させた。
−撃、撃、撃、撃、撃−
−撃!−
幾重にも発生する衝撃波。だが、辺りに幾つも発生させた足場を足掛かりにして、ジグザグに駆けるエリオはそれを全て回避する。自分に迫り来るエリオに、ギュンターは目を大きく見開き、衝撃波を放ちながら、今度は魔虫も飛ばす。それらは、駆けるエリオに飛翔して。
−雷!−
そんな魔虫をエリオの身体から溢れる雷が打つ。魔法では無い。ただの魔力変換資質である電撃である。だが、それは既にアビリティースキル、魔力放出に近しい威力を伴っていた。言うならば、魔力放出・雷と言った所か。何にしても、魔虫からすればたまったものでは無い。近寄るだけで雷に打たれるのだ。
毒針を撃ち出そうにもエリオが接近するだけで、その前に迎撃される。
それは則ち一つの事実を意味していた。ギュンターの攻撃全てを破ったと言う事を! そして、ギュンターまでの道が開いた。
「あぁあああ……! サンダ――!」
《っ! これはマズイねぃ!》
吠え、空に飛び上がりながらエリオはストラーダを振り上げる! そこからは、溢れんばからに雷光が迸り――。
ギュンターが自身の前方に魔虫を配置するのと、エリオがストラーダを振り下ろすのは、全く同時であった。
「レイジ――――――!」
−雷−
叫びと共に、ストラーダを中心として雷が跳ね回る!
回避する余裕も無く、ギュンターに、そして仲間であろう小柄なもう一人の仲間に、炸裂し。
−爆!−
辺り一帯を雷と共に、爆発が襲った。爆発は当然、爆煙を引き起こす。それを引き裂いて、エリオが後ろに下がりながら飛んで現れた。はぁはぁと肩で息をしながら、エリオは黒煙の中を見る。手応えあり、今のは完全に決まった。
これなら――そんなエリオを見て、シオンは呆然とする。
確かに魔虫に対して、エリオは相性がいいとは予測していた。いたが、ここまでとは思わなかった。まさか、一人であそこまでやるとは。
何より凄まじいのは、エリオは相性の良さやら実力差やらを一切考えずに突っ込んだ事にある。
シオンが実力差に呆然としていたにも関わらず、エリオはそこを全く考えなかったのだ。本来ならば、慎重になるだろう戦場では考えられない行為。しかし、時にその無謀さこそが必要とされる事がある。エリオは、それをやって見せたのだ。
……うかうかしてられねぇな、おい。
シオンは苦笑を浮かべて立ち上がる。弟分の、まさかの成長に複雑な気持ちになる彼に、エリオがこちらに振り返った。
「だ、大丈夫ですか? シオン兄さん!」
「おう。しっかし、お前……」
「な、何でしょうか? 僕、何かマズイ事でも……?」
「んにゃ、大したもんだと思ったんだよ。それより、構えろ」
「え?」
反対側で疑問符を浮かべたエリオに、シオンは苦笑を消すと刀を構える。ゆっくりと、黒煙が晴れて行き。
「あの程度でやれるんなら苦労はいらねぇさ。あの野郎、咄嗟に防御しやがった」
「っ――――!?」
エリオが、その言葉に息を飲み――同時、黒煙から二人の影がゆっくりと現れた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「やれやれ……参ったねぃ」
言葉に反し、全く参った様子も無く、ギュンターは呟いて来る。彼も、その横に居るもう一人の仲間もダメージを受けた様子は無い。
そんな彼等の前に展開する三角形の形を取る光があった。頂点に、それぞれ魔虫が一匹ずつ居る。あれもまた、魔虫の機能の一つと言う事か。
シオンとエリオはぐっと息を飲むと己の武器を構える。そんな二人にギュンターは笑いながら、目を細めた。
「……なるほど。そっちも復活しちまったようだねぃ。これは、一人じゃ厳しいねぃ」
「僕も出ようか」
そこまでギュンターが言うと、今の今まで傍観に徹していたギュンターの仲間が彼に言い放った。疑問符ですらない、既に確定事項を言うような、そんな言葉である。ギュンターはそんな彼に振り向き。
「じゃあ、お願いしようかねぃ」
「分かった」
言うなり、彼が目深に被るマントから伸びるものがあった。
長柄長斧。ハルヴァードと呼ばれるそれを、唐突に引き出したのである。どこにそんなものを仕舞っていたのか。
そんな疑問を抱く前に、彼はこちらに突っ込んで来る。エリオではなく、シオンに!
「っ!」
「君の相手は僕だよ」
−閃−
声と共に放たれる一撃。シオンはその一撃を刀で斬り流そうとして。
−撃!−
な、に……!?
彼の一撃を斬り流した方向に身体ごとすっ飛ばされる! ぐるぐると回転する自分に自覚し、驚愕に目を見開いた。
「IS:ザ・パワー」
−轟!−
次いで放たれた頭上からの一撃が、シオンに容赦無く炸裂!
シオンはビルの屋上へと直下に叩き付けられ、屋上が陥没。その姿は、ビルの中へと消えた。
「シオン兄さん!? っ!?」
「よそ見をしている暇はあるのかい」
そんな光景を目の当たりにして、エリオが悲鳴を上げるも当然敵は構わない。今度はエリオへと長柄長斧を叩き付けんと振り上げて。
「させるかボケェ! 剣魔ァ!」
−轟!−
真下から咆哮と共に、魔力をその身に纏ってシオンが突き上がって来た。
その一撃に長柄長斧を弾かれ、フードを被ったままの敵は後退。代わりとばかりに、ギュンターから例の衝撃波が来る!
対し、シオンは空中に足場を展開しながら前方に踏み込んだ――自然、刀が頭上に振り上げられる。そこから放つは、シオンの最速斬撃!
「絶影!」
−斬!−
放たれた斬撃は視認出来なかった。気付けば、既に振り放たれている。同時、空気が彼の周りにぶあっと広がった。それは、確かに何かを斬った証。ギュンターが驚きを笑みとして顔に浮かべながら、念話で吠える。
《斬ったのかい!? 空間衝撃波を!》
「二度も三度も同じ手食らってたまるか!」
ぐいっと口元を手で擦りながら、シオンはギュンターに罵声を浴びせた。どうもエリオの前で何度も転ばされたのが、よほど業腹だったらしい。刀をギュンターと、もう一人の斧使いへと差し向けた。
「ったく、何度も何度も何度も何度も! 俺は起き上がり小法師か!?」
《そのネタが分かる人間はそういないと思うねぃ。ところで、どうやって衝撃波が発生するポイントを見極めたのか聞いてもいいかねぃ?》
「うっせぇ、勘じゃ」
身も蓋も無い台詞を堂々と放ち、シオンは再び刀を構える。その横でエリオもストラーダを構えた。
「シオン兄さん。あの斧使いなんですけど……」
「気ぃつけろ。あのガキ、馬鹿みたいな怪力してやがる。まさか、斬り流した威力に身体が持ってかれるなんざ思わんかった」
「……ひどいな、ガキとか馬鹿みたいな怪力とか。僕は、クリストファと言う名前があるし、怪力じゃなくISだよ」
二人の会話に無理矢理入るようにして、斧使い――彼の言葉を信じるならクリストファと言う名前か。何にしても、彼は言ってくる。その言葉を聞いて、シオンとエリオはやはりか、と納得した。
IS:ザ・パワー。名の通り、それは尋常ならざる膂力を使用者に与える能力であったか。単純極まりない能力であり、それ故に厄介と言えた。
シオンとエリオ、ギュンターとクリストファ。四人は互いの武装を構えたまま、硬直する。
シオンとエリオ側は、ギュンターとの実力差とクリストファの戦闘能力が未知数と言う事もあり、軽々とは仕掛けられず。
ギュンターとクリストファ側は、自分の攻撃をくぐり抜けた事実から仕掛けるのを躊躇っていた。
――が、逆を言えば。きっかけがあれば、いつでも仕掛けられる状況と言う事でもある。だが、そのきっかけを掴めずに、四人は高まる緊張の中で機会を探っていた。
果たして、そのきっかけはすぐに来た。シオン達を基点として、”ロンドン中に広がった広域結界によって”!
ギュンターと、クリストファが目に見えて驚き――。
「ナイスちび姉ぇ!」
《ちび姉と言うな!》
その隙を見逃さず、シオンとエリオは二人に襲い掛かる! すぐに我に返ったギュンターが衝撃波を発生させ、クリストファが斧を振るうのと、シオンが剣魔を、エリオが電撃斬撃、スピーアシュナイテンを放つの全く同時であった。
それらの一撃は真っ向からぶつかり合う!
−轟−
−撃−
−爆!−
直後、容赦無く辺りに衝撃をばら撒き、爆砕! ビルの屋上が完膚無きまで消し飛び、そして。
−砕−
衝撃に耐え兼ねたのか、ロンドンでも随一の高さを誇っていたビルは、即座に倒壊を始めた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
虚空を進む。一隻の次元航行艦が。XL級のその艦は、元はストラ所属の船。しかし、現状ではある個人の持ち物となっていた。つまりは、艦を強奪した伊織タカトの。
ゆっくりと進む航行艦の中、ブリッジにてタカトは立ち上がったままモニターを見る。その目は何か、ひたすらにひたむきに前のみを見ていた。まるで、何か遠くを見ているよう――と言うよりは、何かから必死に視線を逸らしているようが正しいのか。
……そう、タカトは目を逸らしていた。必死に、自分が行った行為を恥じるように、後悔するように。何故なら。
「ふっふふ……! いいね……! ラ〇・デビ〇ークにはライバル心を掻き立てられるよ……!」
彼の背後では、最近とある月刊少年誌で連載を再開したちょっとエッチと噂高いラブコメアニメをジェイル・スカリエッティが熱心に見ていたのだから。
そんなジェイルからタカトは必死に目を逸らす……周りに居る、元ナンバーズからの視線が凄まじく痛かった。
何故かと言うと、今ジェイルが見ているアニメはタカトが動画データを提供したものであったのだから。やがて、視線に耐え切れなくなったのかタカトがぽつりと呟いた。
「……認めたくないものだな。若さ故の過ちと言うものは」
『『こらこらこら』』
一斉に、それこそタカトを怖がっている筈のクアットロからさえもタカトに裏手でツッコミを入れる。唯一、セッテのみが無反応であった。タカトへと、彼女達は更に叫ぶ。
「どうするのですか? と言うより、Drをどうするつもりなんですか! あんな、あんな……!」
「……いや、ものは試しとアレを見せたら。まさか、ああもハマるとは……まぁ、ものは経験だ。ああ言う人間の機微を知るのも悪くは無かろう」
「それは後付けの理由だな? そうだな? そうだと言え……!?」
「何を馬鹿な。ほら、俺の目を見てみろ。これが嘘をつく目か」
「今、一つ間が空きましたですわね? それに、そこからでは背中しか見えませんわよ!」
三人の叫びも届かない。タカトはあくまで若さのせいと言い切る。……どうでもいい事ではあるが、この兄弟は何故言い訳をする際に、ガンダ〇ネタに走るのかは一切不明であるので、あしからず。ともあれ、タカトはそれらの流れを一切ぶった切ると三人に振り向いた。
「さて、軌道拘置所を出港して早三十分。そろそろ次元封鎖にぶつかる頃合いだが」
「……話しを逸らしましたね?」
「何の事だか分からんな」
にべも無い。そんなタカトの反応に、ウーノは嘆息。手元のコンソールを操作し始めた。
「貴方の証言を元にするならば、そろそろですね」
「そうか。行けるか?」
「問題はありません」
即答で答える。タカトが問うているのは、次元封鎖を突破できるか否かであったが、それに迷い無くウーノは頷いた。ウインドウを展開し、モニター上にデータを表示する。
「このシステムは、管理局の所属と艦のデータを偽装して、次元封鎖魔法のプログラムに介入する機能です。私のフローレスセクレタリーと、クアットロのシルバーカーテンの応用ですが――この手の技術は、Drの十八番です。信用して下さい」
「…………」
タカトは無言。一瞬、アレをか? と『こう言った発明品も悪くないね!』と叫ぶジェイルに指差しそうになり、寸前で止めた。わざわざ自分から責められる要因を復活させる必要もあるまい。
そんな風に思っていると、ウーノからそのまま声が来た。
「はい。今、通り抜けました」
「……今か?」
「はい、今」
随分とあっさりとしたものである。流石にタカトは驚きを隠せずにモニターで周囲の座標を確認し、そして肩を竦めた。
確かに、自分が弾き飛ばされた座標を航行艦は越えていたのだから。大したものだと、タカトは苦笑する。
「さて、ジェイル」
「ふふ……。しかし、この金色の〇と言ったかね。彼女の能力は素晴らしい。いっそ、クアットロかセッテ辺りに」
「話しを聞けい」
「ひでぶ!」
−撃−
ちょっと怖い台詞を呟くジェイルの頭に踵落としを叩き込む。その一撃に、ジェイルは顔ごと端末に突っ込み――数秒後には何事も無かったように、タカトに振り向いてみせた。
「何だい、タカト? おおっと、もう次元封鎖は越えたんだね?」
「……まぁ、もういいか」
一応、似たような能力を持つ輩はいるのだが、その辺はあえて伏せる。タカトはこちらに戻って来たジェイルを含む、ここに居る皆に話しを始めた。
「次元封鎖も無事越えられた。感謝しよう、ジェイル」
「ふふ、感謝されるような事でもないさ」
「……そう言ってくれるのはありがたい。さて、ここからの予定だが。俺はミッドチルダに向かう。その上で、だ。貴様達はどうする?」
「当然、ここまで来たのだから付き合うさ」
タカトの問いに、あっさりとジェイルが頷く。他の者達も同様なのか口を挟んで来なかった。それは予想内だったのだろう。タカトも特に反応を見せずに頷く。
「そう言うと思っていた。ならば共に来てもらおう。今、現状でミッドの状況が分からんが、分かり次第ミッドに――」
「いえ、待って下さい! タカト、これを!」
行く、と。タカトが最後まで言う前にウーノが叫び声を上げた。それに、一同は怪訝な表情となる。
「どうした、ウーノ。何があった?」
「ミッドのサテライトニュースを傍受したのですが……これを」
そうウーノは告げると、展開したウインドウに動画データを展開する。それは、ミッドで今流れているサテライトニュースであった。
《――今、現在クラナガンでは大規模の戦闘が発生しています。住人の皆様は速やかに避難を――》
「……何?」
大規模の戦闘だと?
予想外のニュースに、タカトが目を細める。モニターでは、クラナガン上空の映像が映されており、そこでは管理局の武装局員と激しく撃ち合うガジェットの姿があった。これは。
「ストラ、か? しかし、次元封鎖がなされているのに何故?」
「ツァラ・トゥ・ストラ。君の話しによれば、本局を占拠したテロ組織だったね? く、ふふ……! 彼等にも興味が沸くよ。――それに、私の戦闘機人テクノロジーを勝手に使われた借りもあるしね」
一瞬だけ、タカトはぞくりと言う感覚を受ける。モニターを見るジェイルの目が笑っていなかったから。軌道拘置所を出る前に、ジェイル達には第二世代型戦闘機人の事を話していたのだが――まさか、こうまで劇的に反応するとは思わなかった。
だが、今はそこを気にしている場合でも無い。タカトは彼に疑問を突き付ける事にした。
「ジェイル、貴様の見解を聞かせろ。ストラはどうやって次元封鎖を突破したと思う?」
「そんなのは決まっているよ。無理矢理さ」
肩を竦めて、それこそ何でも無いかのようにジェイルは答える。その答えにこそ、タカトは眉を潜めた。
「無理矢理だと?」
「そう、外殻を強化した航行艦で次元封鎖に突撃を掛けたのだろうね。それならば、五艦に一隻程度ならあれを突破出来るだろう?」
五艦に一隻。事もなげにジェイルは告げるが、それは自爆覚悟の突貫と全く変わりなかった。カミカゼではあるまいが、死が確定している作戦である。いくら、ストラ側の戦力がガジェットや因子兵と言う人を極力使わないもので固められているとは言え、航行艦に人が乗っていない筈も無い。
ツァラ・トゥ・ストラ。彼等は、自分達の命でさえも等しく、平等に尊く”扱わない”。いっそ清々しいまでの徹底ぶりであった。
ともあれ、ストラは次元封鎖を突破してミッドで暴れている。タカトがああまでして次元封鎖の破壊を拒否していた意味は無くなってしまった……ならば。
「ジェイル。俺は今から直接ミッドに跳躍(と)ぶ。その上で奴達を叩き潰す。お前達は後でゆっくり来い。……管理局の人間には見付からんようにな」
「その前に一つ。タカト、君はミッドに何をしに行くんだい? 君の目的は?」
「助けたい奴らが居る」
即答だった。タカトは、ジェイルに間髪入れずに答える。同時、彼の足元に魔法陣が展開した。それは、次元転移魔法。
「助けたい友と、助けたい弟子。そして、そいつらの世界を守ってやりたい……答えは不服か?」
「いや、十分だよ。けど、名前だけは聞いてもいいかい? その友と、弟子の」
「ユーノ・スクライア。そして、”高町ヴィヴィオ”」
――空気が凍った。完膚無きまでに、タカトの答えによって。あのジェイルですらもが目を大きく見開いて、驚愕している。だが、それに構わずタカトは言葉を締め括った。
「あれらのためならば、俺は鬼にも修羅にも化そう。では、先に行く」
「いや! タカト待――」
待たなかった。タカトの姿が消える。後に残されたのは、固まるジェイルと元ナンバーズ達。
かつて、”ヴィヴィオを苦しめ、泣かせた者達”。
彼等しか残っていなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
高空の空に、光が灯る。クラナガンの空に光が。
それは射撃魔法、砲撃魔法の光であり、ミサイル等の質量兵器からなる光でもある。また、ガジェットや因子兵……武装隊の局員達が攻撃を受けて、墜ちる光でもあった。
《こちらブラボー2! 隊長! このままでは陣形が食い破られます!》
《ホーク4とホーク5を回せ! くそ……! なんだってこいつら……!》
部下の念話に、指示を怒鳴るように返しながら隊長と呼ばれた中年男性が射撃魔法を放つと共に、呻き声を上げた。
敵は例の人もどきのガジェットと因子兵。つまりツァラ・トゥ・ストラの戦力である。ガジェットはともかく、因子兵なぞと言うものを使うものなどストラしかいなかった。
だが、それは本来有り得ない事である。何故ならミッド周辺には次元封鎖が敷かれ、界境を越えるには管理局所属の艦である事を証明するしかない。つまりストラはミッドを攻められない――筈、であった。
そんな確信を、ストラは微塵に砕いてくれた訳だが。
まさか、強行突破を図るなどと誰も思いはすまい。結果、次元領界に容易く攻め入れられストラの軍勢は再びクラナガンを蹂躙し始めたのであった。
ミッド航空部隊や、地上でもストラ軍を迎撃はしている。だが、向こうの戦力はガジェットや因子兵が主力。対魔導師戦闘に特化した兵器であるガジェットや、再生能力を有する因子兵である。
その戦闘能力は、どう贔屓目に見ても平均的な魔導師より高い。さらに数は揃えられている上に、犠牲を厭わない戦術行動が可能と来ている。
管理局航空、地上戦力は善戦しているものの当然とばかりに不利に陥っていた。
《くそ……っ! 聖王教会からの援軍は!?》
《来てます! ですが、向こうの戦力が多過ぎて……っ!?》
−煌!−
そこまで部下が叫んだ直後、光が炸裂する! その光に部下が巻き込まれたのを、隊長は見た。
光を放ったのは、上空から現れた因子兵達。鎧型のデバイス――デバイス・アーマーを着込んだ因子兵達であった。彼等の攻撃は魔法ではなく、質量兵器。今攻撃に巻き込まれた部下は……。
「くそったれがぁあああ――――!!」
−轟!−
叫び、砲撃魔法を放つ! しかし、その一撃は易々と因子兵達に回避され、逆に光砲と光射を叩き込まれた。
彼も応射し、次々と因子兵達に砲撃魔法を放つが、所詮は多勢に無勢であった。瞬く間に周囲を包囲される。
そして、因子兵達は隊長に砲撃を放っていたのであろう背中に担いだ二門の砲台を彼に一斉に差し向ける。もう、彼にこれを回避する手段も防御する手段も、ない。
「くそ……!」
呻くように吠える。けど、もうどうしようも無くて。
「くそったれ……!」
叫ぶ、叫ぶ。現状は変わらない。隊長である彼の死と言う現実は。
せめてもの抵抗に、彼は杖型のデバイスを持ち上げて因子兵に向ける。同時、因子兵達が向けた砲門が光り輝いた。
「くそったれ共がぁあああああああああああああああああああああっ!」
−轟!−
−爆!−
直後、隊長が放った砲撃は因子兵の一つに直撃してそれを消し飛ばし、彼には因子兵達から放たれた光砲が殺到。砲撃を放って無防備な隊長の身体に次々と撃ち込まれ、爆砕した。……彼は遺体すら残さず、消し飛ばされた。
因子兵はすかさず旋回。次の標的に向かわんと、飛翔を開始して。
それを、見た。
上空に広がる雲を突き抜けるように現れた純粋なる黒を。そして。
−斬!−
次の瞬間、黒から縦横無尽に放たれた水糸が、その身体を両断して行く。
当然、すぐさま因子兵は再生しようとするものの、水糸は更に容赦無く何度も切り刻んだ。
計、五回。因子兵は再生限界数の分だけ、殺害されて結局塵に帰る事となった。それを尻目に。彼はゆっくりと降下して行く。
伊織タカト。ミッドチルダ首都、クラナガンに現着。戦闘を、開始する。
(中編に続く)
はい、ついに第五十話の大台に乗りました――ん? 百話超えてんじゃんと? 何をおっしゃるうさぎさん。まだまだ序ノ口ですよ、いまマジに(笑)
さて、今回エリオ活躍しまくりですが、さにあらん、EU編ではシオン以上に、エリオが主人公やりますので(笑)
反逆編では、サブキャラ達がむしろ主人公やります。つまりミッド編は……ここらは次回以降をお楽しみにです(笑)
では、次回は中編1かな? で、お会いしましょう。
ではではー。
PS:リアル事情が大分落ち着いたので、更新が早くなります。他二作も順次更新致します。