魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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ふぅ、リアルでのごたごたが一つ片付いたので更新です。第四十九話中編2、ついに艦隊戦。お楽しみにー。


第四十九話「約束は、儚く散って」(中編2)

 

 次元転移が完了する。暗い、軌道拘置所内の監獄内に。それは先と同じ部屋であり、しかし別の部屋であった。違う無人世界にある軌道拘置所なのだから当たり前なのだが。

 そんな事を思いながら、タカトは今度こそは驚かず前を見る。そこには眼鏡をかけたおさげの少女が居た。

 こちらをぽかんと見ている彼女を見て、俺もこんな間抜けな顔をしていたのかと、自己嫌悪に陥りかけた所で、ウーノが呼び掛け。

 

「クアットロ、久しぶりね」

「ウーノ姉様!? それに、トーレ姉様に、セッテまで……! どうしてここに?」

 

 クアットロが反応し、猛烈な勢いでこちらに詰め寄った……タカトを見事に無視して。

 ちらりとウーノはタカトを見て、口端を引き攣らせつつ宥めるように手を上げた。

 

「ええ、Drが私達を必要としているのよ。彼の目的にDrが協力するためらしいのだけど――」

 

 そこまで言うと、ウーノはちらりと再びタカトへと視線を向ける。追従する形で、クアットロもタカトに目を向けた。……胡散臭いものを見るような目を。

 タカトはと言うと、何故かクアットロの方では無く、直接転移したために閉まりっぱなしの扉を注視していたが。

 

「彼は――」

「あ〜〜ら。あなたが私達を助けて下さったんですか〜〜? ありがとうございます〜〜♪」

 

 説明しようとするウーノを遮るようにして、クアットロがタカトへと話し掛ける。その声には、あからさまなまでの嘲りが込められていた。更に。

 

「けど、調子に乗らないで下さいね〜〜? 私達にあんまり大きな顔すると、プチッと潰しますんで〜〜♪」

「く、クアットロ!」

 

 さすがに毒舌が過ぎると、トーレが口を挟む。しかしクアットロは変わらず不敵な笑いでタカトを見て。漸くタカトが扉から目を離し、クアットロへと視線を向けた。

 

「ほぅ? プチッと潰されてしまうのか。それは気をつけねばな?」

「でしょう? だから――」

「なら、お前は俺に再び頚椎をプチッと潰されんように気をつけるのだな」

 

 へ? と、その言葉にクアットロの顔から笑いが消える。タカトの言葉に何かを思い出したか。固まってしまった彼女に、つつっとウーノが近付いた。耳元に口を寄せる。

 

「ほら、貴女、覚えてるでしょう? 五年前に研究所を襲撃して来た――」

「あ、ああ、ああ!?」

「はじめまして、では無いのだな。伊織タカトだ」

 

 ウーノの言葉に、クアットロの目が大きく見開かれ、口から悲鳴が零れる。それに気付いてか、気付いていないのか――気付いているに決まってはいるのだが、何にしろタカトは彼女の間近まで顔を寄せて。

 

「よろしく」

 

 そう、静かに告げた。直後!

 

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいい――――――――!!!!」

「ぬおっ!?」

 

 いきなりクアットロからとんでも無い奇声が上がる! その声量、タカトが驚きの声を上げたほどだ。どれほどの奇声だと言うのか。

 クアットロは構わず奇声を上げながらベッドに頭から突っ込むと、そこで頭に枕を乗っけてガタガタ震え出した。当然、奇声は上げ続けながら。

 タカトは汗ジトになりながらも、声を掛けてみる。

 

「……おい?」

「うひぃいいいいぃいいいいい――――――――!」

「……ちょっと?」

「きょえぇえええええええええええええ――――――――!」

「……あの、だな」

「ぎぃいぃいいいいいいいいいいいいい――――――――!」

 

 声を一つ掛ける度に、奇声がパワーアップして返って来た。……さすがにタカトは珍しくも途方に暮れた、凄まじく困った顔となり、ウーノとトーレの方を向く。彼女達は、そんなタカトにため息を吐いて見せた。

 

「……つまりは、こう言う事なんだ、伊織」

「いや、全く訳分からんぞ……?」

「ようはトラウマです」

 

 簡潔にウーノが答えを告げる。再びクアットロへと三人は目を向けた。

 

「どうも、あんな風に殺されたのははじめてだったので、変にトラウマを抱えてしまったらしくて。蘇生した後、暫くはこんな感じで」

「…………」

「やはり、伊織と認識するとこうなるのだな」

 

 ウーノの説明に、口端をひくりと引き攣らせたタカトへ、トーレが締めを告げる。暫く監獄内に奇声が響き、そのままと言う訳にも行かず、タカトはクアットロへと近付いた。

 

「まぁ落ち着け、クアットロとやら。あの時は問答無用に殺してすまなんだ」

「ぎ、ぎぃいい……?」

「そう。俺達は人間だ。分かり合えるはずだ」

 

 むしろ人間外に使う言葉じゃないか? と言うような言葉を吐き、タカトがクアットロに手を差し出す。それに光明を見出だしたようにクアットロは震える手を伸ばして――ぐわしっと、その手をタカトが掴んだ。

 

「と言う訳だから、いい加減、その悲鳴を止めんと今度は首を捩切るぞ?」

「うぎょろもぽぇえええええええええぇええええええ――――――――!」

「「ちょ――!?」」

 

 いきなりとんでも無い事をのたもうたタカトに、クアットロが最大級の奇声を上げる。それを見て、流石にウーノとトーレが驚きの声を上げた……セッテだけは無表情であったが。

 む? と首を傾げたタカトに二人が詰め寄る。

 

「何をしているんだお前は!?」

「いや、何と言われてもだな。こう、先のやり取りから見ても嘗められんように締める所は締めておこうと」

「だからと言って、あの台詞は無いでしょう!?」

「むぅ……」

 

 二人がかりで怒涛の勢いで責められて、タカトも流石にやり過ぎたと感じたか。二人の怒鳴り声に呻き声だけをもらす。その間にも、クアットロが人外の奇声を上げ続けてはいたが。

 何しろこのままではまずい。タカトは再び、クアットロの元へ向かうと、声を掛け――。

 

「……おい」

「きょえぇふもぐにゅくるげゃぁあぁああああああ――――――!」

「…………」

 

 ――奇声を上げ続けるクアットロの首に無言で腕を回し、こきゅっと捻った。奇声が止まる、と同時にクアットロがベッドに沈んだ。一同、唖然とする中でタカトは額の汗を拭う仕種をして。

 

「よし。これで静かになったな」

「「こらこらこらこら!」」

 

 いい仕事をしたとばかりに爽やかな笑みを浮かべやがるタカトに、またもや揃ってウーノとトーレがツッコミを入れる。いきなり何をしだすのか。

 そんな二人のツッコミに、しかしタカトは構わずにあさっての方を向いた。

 

「静かになった……それでいいじゃないか。俺は何も悪くない。そう、悪いのは世間だ」

「貴方、どこの厨二病患者ですか!? 世間関係ありませんし!」

「どこからどう考えても悪いのはお前だろう!?」

「と言うかウーノ、お前の口からその単語が出た事が俺は驚きなんだが……」

「「話しを誤魔化すな!」」

 

 ついには命令口調で言われてしまう。タカトは視線を外したままで。そこから数分程、再び責められて、漸く観念したように両手を上げた。

 

「分かった分かった。次からは、もう少し大人し目の対応を心掛ける」

「……殴ったり、窒息させたりもダメですからね?」

「顎を踏み砕くのは?」

「「論外です!/だ!」」

 

 どこまでもひど過ぎるタカトに、ウーノとトーレはツッコミを斉唱させ、再びため息を吐いた。

 なお、つい数時間前に元六課――つまりは現アースラ隊長陣が彼に全く似た感じでツッコミを入れていたのだが。そんな事は流石に知る由も無かった。

 ちなみに、ぴくぴくと痙攣しているクアットロをセッテが無表情で介抱していたりする。なんにしろ、彼女達は息を吐き切るとタカトを冷たく見据えた。

 

「ほんとに……何でこんなにクアットロだけ対応が酷いのですか?」

「む?」

「確かに。そもそも研究所襲撃の段階でクアットロのみ殺されているしな」

 

 ウーノの問いに首を傾げる。そんなタカトに、トーレも思い出したように呟いた。……確かに、どうもクアットロのみ酷い目に合わせているような気がする。これは、果してどう言う事なのか。

 首を傾げていたタカト自身も、不思議そうな顔となった。

 

「ふーむ。何故か気付いたら、ああ言った真似をしているのだがな……こう、顔を見ているだけでイライラすると言うか」

「どう言う理屈だ。どう言う……」

 

 完璧に虐めっ子の理屈である。呆れたような顔となる彼女達に、自分でも分かっていないのか、タカトは首を捻り続けた。

 ……なお、この疑問が解消された時、またもやクアットロに災難が降り懸かる事となるのだが――それはまた、別の話しである。

 とりあえずそのままと言う訳にもいかず、まずはクアットロを起こそうとして。

 

    −爆!−

 

 唐突な爆音が監獄に響き渡る! ウーノもトーレも、セッテすらもがぎょっと身構える中で、唯一タカトは構わず、クアットロに気付けを施していた。

 

「……まさか、向こうに察知されたか?」

「違うだろう。これは戦闘音だ」

 

 タカトが口を挟み、一同、は? とタカトを見る。だが、彼は構わずクアットロの中指を一つ手に取った。ゆっくりと反対側に反らしていき。

 

「襲撃だ。俺達とは別口のな」

 

 直後、一気に反対側に中指を折り畳んで、本日何度目かのクアットロの悲鳴が響き渡った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 地球衛星軌道。第97管理外世界において、代表とされる母なる青い星、地球。その大きな青を見下ろしながら、ゆっくりと降下していく物体があった。

 次元航行艦。管理局が誇る、次元世界を渡り歩くための船である。もっとも、その四隻の航行艦達は管理局所属ですらない。

 ツァラ・トゥ・ストラが所持する次元航行艦であった。それが地球に降下して何をしようと言うのか……と、いきなり四隻の艦がぐるりと向きを変える。地球に向けて縦へと艦の向きを変えたのだ。同時、艦首に環状魔法陣が展開した。

 それをもし魔法に詳しい者や、航行艦の事を知っている者が見たならば、血相を変えた事だろう。

 アルカンシェル。数百Kmに渡って空間を歪曲させながら、対象を消滅させる砲。それが地球に向けられていたのだから。

 最初から地球に降下するつもりも無かったのだろう。彼等の目的は、衛星軌道からの砲撃にあったのだ。四つの砲は、それぞれ別の方向を向いている。

 それはアメリカ合衆国、中国、ロシア、EU諸国へと、それぞれ狙いを定めている。アルカンシェルを首都に叩き込んで殲滅する腹なのか――どちらにしろ、被害を想像するだけでぞっとする。

 数万の単位では、とても効くまい。数億。二次災害を考慮するならば、数十億単位の人的被害は間違い無く引き起こる。

 それは地球と言う星を壊すに至らなくとも、人類を始めとした生物を根絶するにあまりある被害であった。正気の沙汰とは思えない。しかも、彼等は通告すら出さずにそれを行おうとしていた。

 やがて艦全てのアルカンシェルがチャージ完了。地球へと滅びの一打が放たれようとして。

 

    −撃!−

 

 突如、航行艦の一つを光が艦底から貫く! さらにその光は、貫いた航行艦から一気に炸裂!

 

    −爆!−

 

 光が広がり、残り三隻の航行艦も巻き込んで行く。だが不思議な事に、最初に一撃を受けた艦も残りの三隻もダメージを受けた様子は無い。最初に一撃を受けた艦は沈黙。

 残り三隻もヨタヨタと不安定な動きを見せながら回転し、光が放たれた方向へと艦首を向けた。

攻撃を受けた方へと。

 そこからは、猛烈な勢いと、考えられない速度で疾駆する艦が来ていた。

 

 

 

 

「敵航行艦に主砲、”フレスヴェルグ”直撃! 敵艦一隻、沈黙しました!」

「残り三隻、地球からこちらに回頭します!」

「……よし。まずは成功やね」

 

 アースラ2ndブリッジに、シャーリーとアルトの報告を読み上げる声が響く。それを艦長である八神はやては聞き、厳しい顔を浮かべて頷いた。

 『月夜』から空間転移カタパルトを使用し、地球衛星軌道まで跳躍して来たのだが、その時アースラ2ndに居る者達が見たものは、地球へとアルカンシェルを叩きこまんとするストラ次元航行艦だったのである。

 既にこちらの射程内だったので、主砲を叩き込んで、それを妨害出来たからよかったものの、少しでも遅れたらと考えると冷や汗が止まらない。

 アルカンシェルが一発でも地球に打ち込まれれば、甚大な被害が出るのだから。

 矢継ぎ早に飛び交う管制達の声を聞きながら、はやてはトウヤがうむと頷いたのを見た。

 

「お見事。やはり、君とIFMSは相性が良いようだね」

「ん、ありがとうな」

 

 素直に褒めてくるトウヤに、はやては謙遜せずに礼を言う。その彼女は今、球のような魔法陣に囲まれていた。

 球状魔法陣。情報処理を最重要とした特殊な魔法陣である。元々ミッドにも、ベルカにも無い魔法陣であるが、この艦をはやてが使うと決めた段階でベルカ式用に調整したのだ。つまり、それを使わなければならないシステムを使っているのだが。

 彼女の周りに展開した球状魔法陣は、あるデータを表示さていた。

 はやて専用の魔導書型ストレージデバイス、『夜天の書』のデータを。

 今、かの魔導書はアースラ2nd内に取り込まれている。そして、”艦から直接はやての魔法を撃った”のだ。

 これが、IFMS。イメージ・フィードバック・マギリング・システムと呼ばれる、この艦最大のシステムであり、航行艦ならず戦闘艦と呼ばせるに至ったシステムであった。

 このシステムの特徴は、ずばり艦の武装を介して艦長の魔法を艦が使えると言う事に限る。つまり、はやての長距離炸裂型砲撃魔法、フレスヴェルグを艦の主砲から発射するなどの真似が出来るのだ。同時に、このシステムは艦の中枢制御システムを艦長の魔法処理に割く事も出来る。はやての弱点とも言えた並列処理と高速処理を艦のシステム任せで行えるのだ。

 艦内に居ながら魔法を。しかも従来の数倍の威力と制御で放てる。これ程、はやてにうってつけのシステムもあるまい。

 先の彼女とトウヤのやり取りも分かろうと言うものであった。

 

「艦長! 敵艦、回頭完了――こちらにアルカンシェルを向けてます!」

 

 シャーリーから悲鳴じみた声が上がる。さもありなん。”あの”アルカンシェルで狙われているのだ。悲鳴の一つも上げようと言うものであった。

 見れば、ブリッジに居る面々は誰も彼もが顔を青くしている。なのはや、フェイトすらもだ。だが、それを聞いてなお平然としている者が二人居た。

 艦長であるはやてと、その艦を貸し与えたトウヤである。はやてはシャーリーの報告に頷くと、次の指示を飛ばす。

 

「アースラ2ndは現状速度を維持! フィールドを展開したまま敵艦に突っ込むよ!」

『『ええ!?』』

 

 まさかのはやての指示に、ブリッジの至る所から驚愕の叫びが響く。しかし、はやては迷わなかった。更に声を飛ばす。

 

「大丈夫や……! この艦のフィールドなら耐えられる! シャーリー!」

「は、はい! フィールド、展開します!」

 

 言われ、シャーリーは動揺を滲ませながら、はやての指示に頷き、アースラ2ndのフィールドを展開させる。加速するアースラ2ndの周囲の空間が歪み、フィールドが発生した――直後、敵次元航行艦三隻から一斉に光の帯が解き放たれる。それは迷い無く、アースラ2ndに殺到し。

 

    −煌!−

 

    −裂!−

 

    −爆!−

 

 光が広がる! メビウスリングにも似た形を取りながら空間を歪め、周辺数百Kmを容赦無く消し飛ばした。空間ごとである。

 これがアルカンシェル、時空管理局の当事者達ですら、その威力に恐れを覚え、使用を躊躇う兵装であった。やがて、ゆっくりと光が晴れ、そこに影が射した。それは!

 

    −轟!−

 

 アルカンシェルの余波を突っ切り、龍を模した艦が現れる。つまりはアースラ2ndが。アルカンシェルに見事に耐えて見せたアースラ2ndは、なおも加速。ブリッジで、当の本人達も唖然とする中、その結果を予想していた者達――はやてとトウヤは頷き合っていた。

 

「ディメイション・フィールド……次元歪曲フィールドか。ここまでやなんてね」

「我々グノーシスは、管理局に数十年単位で技術レベルが劣っている。だが、単に戦闘系技術だけを見れば管理局の一段上でね。特に空間、次元系の技術は某馬鹿弟の提唱した次元・空間に対するエネルギーポテンシャル理論等がある通り、更に一歩踏み込んだ技術がある。――まぁ、つまり何を言いたいかと言うとだね」

 

 はやての言葉を引き継ぐようにして、トウヤの説明がブリッジに響く。

 それを聞きながら、なのははアースラ2ndのフィールドを何処かで見た事を思い出していた。これは、かのツァラ・トゥ・ストラが指導者、ベナレスが有する対界神器、ギガンティスのフィールドと同じものでは無かったか? そう思いながら、トウヤの続きの言葉を聞く。

 

「アルカンシェル? 既に時代遅れの武装なぞ、怖くも何とも無いのだよ」

 

 そう締め括ると同時に、頷きながらはやてが更なる指示を飛ばす。

 

「ぼーとしてる暇はあらへんよ? シャーリー、アルト! 主砲斉射用意! フレスヴェルグ、”非殺傷及び非物理破壊設定”で起動してや!」

「あくまで、そこにこだわるかね?」

 

 その指示に、すかさずトウヤが疑問を飛ばす。しかし、はやては即座に頷いて見せた。当たり前と言わんばかりに。

 

「これが私達のやり方や……文句は言わせへんよ?」

「当然だね。頑張りたまえ」

 

 あっさりとトウヤは頷く。既にこの艦を貸与した時点で、彼女に文句を言わないと、そう言わんばかりであった。

 はやてはそれを聞きながら、管制の報告を待つ。果たして、すぐにそれは来た。

 

「主砲、回頭完了! IFMSリンク……測距データ確認! 艦長!」

「主砲発射……! フレ――ス、ヴェルグっ!」

 

    −煌!−

 

 はやての叫びが響き、アースラ2ndの主砲砲塔から光が放たれる! それは真っ直ぐに伸び行き、三隻ある次元航の内、真ん中の艦に直撃。敵艦のフィールドを撃ち抜いて貫通、更に炸裂し、三隻纏めて広がる光が打撃した。

 次元航行艦が、びくんとまるで痙攣するが如く震えて、そのまま先にフレスヴェルグを撃ち込まれた艦同様、今度は三隻共沈黙する。艦には一切の損傷も無しにだ。

 非物理破壊設定の魔法により、対象に一切のダメージを与えずに衝撃のみを叩き込んで中の人員のみを昏倒させたのである。

 元々、宇宙空間ならずとも艦に損傷を与えればどうしても死傷者が出る。それを嫌う管理局――と言うよりはアースラの面々は、非物理破壊設定を使ったと言う訳だ。

 中の人員を昏倒させられ、虚空をただただ漂う四隻の次元航行艦をアースラ2ndが減速しながら通り過ぎる。それを見ながら、アースラ2ndのブリッジではやては安堵の息を吐いた。ブリッジに居る面々も緊張が緩んでいく。

 

「よし、警戒レベル引き下げ。念の為に周辺の警戒を怠らんようにな?」

「はい……え!?」

 

 はやての指示に頷いて、直後にシャーリーから突然驚愕の声が漏れた。はやては、それを聞いて何故か嫌な予感を覚える。

 

「シャーリー?」

「艦長! 新たな転移反応を感知しました! 場所は……月! 月の衛星軌道です!」

 

 シャーリーの悲鳴じみた声に、ぞっとした感覚を覚える。月の衛星軌道に現れた転移反応。それが示すものは月への敵襲! つまり、先の四隻は囮だった訳だ。

 陽動。しかし次元航行艦を使った陽動など誰が考えつくものか。

 はやてはくっと呻くと転舵させ、シャーリーに空間転移を命じようとして――。

 

《こちらは大丈夫だ。任せておきたまえ》

「え?」

 

 念話通信が、ブリッジに響く。それも、先程までブリッジに居た人間の。

 ブリッジに居る皆は、すぐにトウヤが居た席に目を向けるが、そこに居た筈のトウヤは忽然と消えていたのであった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 月、衛星軌道。そこを新たに現れた六隻の次元航行艦が進む。彼等の目的は既に問うまでも無い、グノーシス月本部『月夜』。その殲滅か、占拠か――なんにしても『月夜』こそが目的だったのだ。

 六隻もの次元航行艦隊なぞ、そうお目に掛かれるものでは無い。それに一斉に攻撃を受ければ、さしもの『月夜』と言えども敗戦は必死だったであろう。”彼”さえ居なければ。

 

《悪いが、そこで行き止まりだよ。それ以上こちらに来るならば、相応の対処を取らせていただく》

 

 念話が響く。艦隊全てに。それを放った当人は、艦隊の進行方向の真っ正面に居た。アースラ2ndのブリッジからどうやってここに来たと言うのか。

 既に、バリアジャケットを展開し、左手にはピナカを携えている。不敵に微笑む彼は、そのまま艦隊に言葉をぶつけた。

 

《そのまま帰るもよし。投降するもよし。何にしても、今ならば命の保証くらいはしよう。返事は――》

 

    −煌!−

 

 そこまでトウヤが言った瞬間、返事は来た。六隻全てから放たれた砲撃――アルカンシェル!

 それは真っ正面のトウヤを滅ぼさんと殺到して。

 

《ふむ、それが答えかね? よく分かった》

 

    −閃!−

 

 ピナカ。神鳴る破壊を一閃! 十分に一度だけ発生させられる無限攻撃力を持って、放たれたアルカンシェルに叩き込む!

 それだけ、それだけで全てのアルカンシェルは砕かれた。まるで硝子のように、あっけ無くだ。

 それは流石に予想だにしていなかったのか、艦隊は次撃を用意しておらず、ただ前を進む。動揺しているのか、中の人員が呆気に取られているのか。どちらにしろ、それが全てであり――そして致命的だった。

 トウヤは振るったピナカを虚空に突き立てる。足元にカラバ式の魔法陣が展開した。更に、右手の指を滑らせ文字を描く。地、と言う文字を一つ描いて。

 

《来たまえ、ノーム》

 

 ぽつりと念話が響き、同時にそれが現れる。小柄な子供のような体躯の老人の姿をした精霊。地の精霊、ノームだ。彼の精霊は現れるなりピナカの中に吸い込まれて行く。

 精霊装填。がしゃん、とまるで銃に弾丸を装填したが如き音が響き渡り、それは起きた。

 艦隊の真上、そこに魔法陣が展開。ゆっくりと姿を現す。

 石柱。石柱である。何の変哲も無い石の柱が現れたのだ。ただ、その大きさがとんでも無かった。

 ”幅、数km。長さ、数十km”。巨大な隕石に匹敵する石柱。それが何と、艦隊の数と同じ数、つまり六つ、艦隊の真上に現れたのだ。単純に質量だけでも相当な破壊力があるのは間違い無い。それらは、まるで艦に狙いを定めるようにゆっくりと先端を巡らせる。トウヤはそれを眺めながら、ピナカを振り上げた。

 すると、艦隊から慌てて念話通信が入る。降伏を告げる旨の内容のそれが。しかし、トウヤは嫣然と微笑むだけだった――もしここに第三者が居れば、ぞっとするような笑みを。そして。

 

《私は言った筈だね? 相応の対処を取る、とね。では、さようなら》

 

 ゆっくりとピナカを振り下ろし、呟く――。

 

《真・震えと猛る鳴山》

 

 ――処刑宣告を。

 次の瞬間、石柱達が一気に加速! 艦隊達に音速を超えて突っ込み。

 

    −撃!−

 

    −轟!−

 

 フィールドを紙のように叩き割り、石柱達が航行艦に突き立ち、刺さった。他の艦にも容赦無く、石柱は突き刺さって行く。

 

《悪いがね。私は自分の領域を侵されて尚、是と出来る程人間は出来ていないのだよ――ここで終わって行きたまえ》

 

 そう言って、ぱちんと指を鳴らした、直後。

 

    −爆!−

 

 全ての艦が爆発! 中の人員諸共に、虚空に花となって散って行った。それを、彼にしては珍しく無表情で眺めて。

 

《……トウヤさん》

《はやて君かね? こちらは終わったよ》

 

 唐突にはやてから念話が来た。それに彼は鷹揚に頷くが、はやてからの念話はどこと無く元気が無い。

 

《……すみません。向こうの陽動を読めませんでした。トウヤさんの手を煩わせてしまって》

《何、あれを感知出来るのはネットワークを使える者くらいだよ。気にしなくてもいい。……それに、言いたいのはそれでは無いだろう?》

 

 その返事に、向こうではやてが息を飲んだのが分かる。トウヤは先とは違う、少し苦いものが混じった微笑みを浮かべた。

 

《君達は人死にを嫌うのだろうがね。これが私のやり方だ。口出しは無用だよ》

《……はい、分かってます》

 

 トウヤの返事に、はやてが頷きの念話を返す。少し躊躇いがちなそれは、彼女の本心を如実に表していた。

 先のトウヤの一撃は全ての艦隊を完全に撃破してしまっている。当然、次元航行艦の中に居た人員も一人残らず死亡していた。

 はやて達は、それを気にしていのだろう。トウヤを責める訳でも無く、悔し気なのはそれが原因か。トウヤは微笑み続けながら『月夜』の方向に振り向く。

 

《では、『月夜』で合流と行こう》

《はい》

 

 最後にそう告げると、トウヤの姿が消えた。

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 トウヤとの念話を終えると同時、はやては艦長席の背もたれに身を倒すと、目を閉じ、息を吐いた。その内心にどんな思いがあるのか、それは推し量れないままで。

 そんな彼女に、席から離れてフェイトとなのはが近付く。艦長席に手を掛けて、彼女に微笑んだ。

 

「お疲れ、はやて」

「お疲れ様〜〜。はやてちゃん」

「ん……ありがとな。最終的にはトウヤさんの手を借りたから、あんま褒められた結果やないけど」

 

 苦笑して、そう答える。それには、フェイトもなのはも微笑に苦いものを混ぜた。三人共口にこそ出さないが、結果より人死にを出してしまった事の方がきついのだろう。

 だが、トウヤを責める事は出来ない。彼は最初に勧告を出している。それにも関わらず戦闘を行ったのは向こうなのだから。

 殺されても文句は言えない。当然の事と言えた……だが、それでも。

 

《なのは》

「……え?」

「うん?」

「なのは?」

 

 暗い空気が三人に流れる中、唐突になのはが声を漏らした。フェイトもはやても、怪訝そうに彼女を見る。だが、なのははそれにも関わらず目を大きく見開いた。今の、声は――。

 

「タカ、ト、君……!?」

 

 呆然と呟く。そう、なのはに響いた声は他でも無い、タカトのものであった。念話では無い。だが普通の声でも無い。まるで、”なのはの中から響く声”で。彼女の声に、しかし響くタカトの声は構わない。

 

《……すまんな、なのは》

「何、何が……!」

 

 何を伝えようと言うのか。謝るタカトの声に、なのはは疑問を飛ばそうとして――それより早く、答えは来た。それは。

 

《約束を、破る》

「え……?」

 

 宣告。彼女と交わした約束を破ると。そうとだけ、タカトの声は告げたのだった。

 

 

(後編1に続く)

 

 




はい、第四十九話中編2でした。
ようやく次回、タイトルが……お楽しみにです。
では、また次回にー

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