魔法少女 リリカルなのはStS,EX   作:ラナ・テスタメント

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はい、第四十九話の前編2です。今話は六部構成(笑)長いなー。では、どぞー。


第四十九話「約束は、儚く散って」(前編2)

 

「よっ、と」

 

 剣魔でエレベーターから抜け出し、一気に虫達を突破したシオンは剣魔を解除。飛行魔法を発動して、空へと飛び上がった。

 その頭上ではやはりと言うべきか、視界いっぱいに虫達が飛んでいる。

 それらが、飛び上がって来たシオンへと顔(?)を巡らし、即座に飛んで来た。

 だが、それを見てシオンは短く舌打ちする。”こちらに来た数が少ない”。

 ティアナの作戦を完了する為には、虫達全てを引き付けなければならない。それなのに、自分の元に来た虫は約半数程。後の半分はシオンを無視して降下していたのだ。そこにいる先には――。

 

「させるかボケっ! 剣牙ァ!」

 

    −閃!−

 

 虫達の行く先を察知して、シオンが振り向きざまに放つは弐ノ太刀、剣牙。放射状に放たれた魔力斬撃は、虫達を複数体飲み込んで破壊する。

 虫達の総数から言えばほんの僅かな数。だが、こちらに注意を向けさせる事は出来た。

 案の定、降下していた虫達もこちらに向かって来る。シオンはほくそ笑もうとして――しかし、直ぐさま悪寒が襲って来た。また正面に振り向くが、それが間に合わない事を察っする。

 そう、元々シオンに向かって来ていた虫が居た筈だ。当然、その虫の到達速度は、後でこちらに来た虫より早い。

 シオンが剣牙を放っている間に接近を終わらせていたとしたら。

 

 後は、攻撃するだけか!

 

    −閃−

 

 そんなシオンの想像を肯定するように、彼へと放たれる毒針。回避は間に合わない。

 

「ちぃっ!」

 

    −壁!−

 

 鋭く舌打ちしながら、シオンは右手を開いて背中に突き出す。展開するのは、カラバの魔法陣、シールドだ。回避が不可能ならば防御するしかない。

 しかし、シオンはシールドを展開しながら顔を歪める。何故か? その理由はすぐに来た。

 シールドに撃ち放たれた毒針が接触する。本来なら楽に防げる筈の毒針。弾かれて、落ちるのが普通だろう。だが、それは違った。

 シールドへと毒針が接触するなり、それを”中和”していく。そのまま毒針はこちらに押し進んで来た。魔力結合を解いて、シールドを強制的に通り抜けようとしているのだ。

 AMF。それも針に、仕込まれていたのである。

 ある意味、シオンの単一固有技能『神空零無』に使用方法が似ている。あれもまた、敵の防御を無効とするスキルであったから。シオンは顔を歪めたまま、こちらに進んで来る毒針を見据え、突如、シールドを解除した。

 そんな真似をすれば、防ぐ物が無くなった毒針はシオンへと殺到する。当然、毒針も例外では無い。

 シオンへと再度進もうとして、その前に動いていた。シールドを解除した右手を刀の柄に添えて、ゆるりと円を描いて刀が振るわれる。そこから発生するのは、攻撃性の空間振動波、神覇四ノ太刀。

 

「裂波ァ!」

 

    −塵!−

 

 咆哮するシオンの叫びのように、破壊振動波は毒針に収束する。シオンに突き進んでいた無数の毒針は、波に晒されてあっさりと塵に還り、さらに振動波は突き進み、毒針を放った虫達の尽(ことごと)くを針と同じ末路へと辿らせた。

 それらを尻目に、シオンは振動波で開いた道を飛翔して駆け抜ける。向かい来る虫達、そのど真ん中。”最も危険な場所に”、シオンは自ら飛び込んで行った。

 

 

 

 

「シオン……」

 

 そんなシオンを地上を疾走しながら見上げて、スバルがぽつりと名前を呼んだ。

 ティアナの作戦の中で最も危険な役割、それを行っているシオンの名を。

 遮る物の無い戦闘空間たる空中戦では、彼しか万を超える虫達相手に空中で渡り合えないと言う判断から、ティアナがシオンにそれを任せたのである。シオン自身もあっさりと請け負ったのだが……。

 そんなシオンが、やはりスバルは心配だった。相変わらず、無茶を好む彼が。

 シオンがああ言った性格だとはよく知っているし、理解もしている。その無茶に助けられた事だって沢山あった。

 だけど、それでも、そんなシオンが、スバルは心配だった。無茶をして欲しく無かった。

 でも、状況はそれを許さなくて、彼の無茶に甘えるしかなくなってる。

 

 やだな……。

 

 強く、そう思う。シオンに無茶ばかりさせたく無い。けど、それをさせているのは自分達の力不足のせい。

 それが分かっているからこそ、なおさら嫌だった。

 

「スバル?」

「……っ、ギン姉? どうかした?」

 

 そんな風にシオンを見つめていると、隣で同じく走っているギンガから声を掛けられた。はっと我に返って、スバルが振り向く。そんなスバルに少しだけギンガは心配そうに眉を寄せた。

 

「あまり気にしない方がいいわ。シオン君はシオン君、スバルはスバルなんだから」

「え……?」

「シオン君、強くなっちゃったものね。けど、そのせいでまた無茶を押し付けてる……そう思ってたんでしょう?」

 

 ギンガの問い掛けに、スバルは目を大きく見開く。それは正しく今、スバルが考えていた事に他ならないから。ギンガは戸惑うスバルに微笑する。

 

「大丈夫。スバルは強くなれるわ……私達だって強くなる。その為にここまで来たんだから――それに、ちょっと悔しいし、ね?」

「あ……」

 

 そう言って、ウィンクしてくれたギンガにスバルは一瞬だけ呆然として、でもすぐにいつもの笑顔となった。

 

「うん! そうだね、そうだった。ここに強くなりに来たんだよね!」

 

 嬉しそうに笑うスバルにギンガは微笑み続けながら頷いてくれる。それを見て、スバルもまた頷いた。

 そう、強くなりに来たのだ、ここには。だったら。ううん、だからこそ。

 そう思い。スバルは再びシオンを見上げる。その先でシオンは、空を飛びながら虫を刀で両断していた。

 

 シオンの無茶に甘えない程に。

 シオンの無茶に頼らない程に。

 ”シオンに頼られる程に”!

 強く、なる!

 

 自分が強くなるべき理由を得て、スバルはぐっと拳を握った。

 今はまだ無理だけど。それでも、いつかそうなりたいと願って、だから!

 

「今は、ティアの作戦を成功させるよ……! 行こう! ギン姉!」

「ええ!」

 

 叫び、一気にマッハキャリバーの速度を加速させる。そんなスバルにギンガも頷いて、後ろに続いた。

 ティアナの作戦を完成させる為に、スバルとギンガは、自分が向かうべき場所へと駆け抜けて行った。

 決意を新たにした、スバル。しかし、彼女はすぐに知る事になる。

 その願いは軽々には決して叶わないと言う事を。それがとても難しい事を。

 彼女は知る事になるのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 なんだ……?

 

    −閃−

 

 無数に自分へと放たれた毒針。それに、しかしシオンは自分がどこまでも落ち着く感覚を得た。

 三百六十度、くまなく自分に突き立たんとする殺意の針――本来ならば、それを回避する術は無い筈であった。フィールドを展開して、毒針の速度を遅らせ、裂波で塵に還す。それくらいしか出来ない。シオンの空間把握能力を持ってしても、知覚出来ない毒針もあるのだ。どうにか出来る訳が無い――その筈、”だった”。だが。

 

 ”分かる”。

 

 シオンは迫り来る毒針達を前に、そう思う。

 今にも突き刺る筈の毒針達。更に逃げ場を無くすように、追加で毒針が放たれる。それら一瞬ごとに起こる全ての事象が、どこまでも致命的に己の命を侵さんと追い掛けて来る。

 その全て、”発生する事象の必ず一歩先をシオンの感覚は知覚する”。

 まるで、知覚だけが時間の速度を超えたかのよう。その急激な知覚の加速の中で、刀を振るう!

 

    −閃!−

 

 一瞬。たった一瞬である。その一瞬で、シオンは”全ての毒針達を迎撃してのけた”。

 毒針達を見もせずに、むしろ物憂(ものう)げに振るわれた刀が、まるで吸い寄せられたように毒針をいなし、さばき、受け止めて見せたのだ。

 ぱらぱらと迎撃された毒針が下に落ちて行く。その中で、シオンは腰に手をやった。すると、そこからするりと刃が滑り落ちてグローブに包まれた手の中に落ちた。

 スローイングダガー。投擲専用の短剣である。その形状は、かのチンクの固有武装、スティンガーにも似ている。それをシオンはバリアジャケットに仕込んでいたのだ。

 暗器等の、隠し武器を仕込める仕様のバリアジャケット、バトルフォーム。それが、シオンの新たな姿の名であった。

 取り出したスローイングダガーをシオンは無造作に投げ放つと。

 

    −閃−

 

 迷い無く虫へと突き立った。それを合図にしたように、虫達は羽を鳴らしシオンへと襲い掛からんとして、それより早くシオンは動いていた。

 

    ―裂!―

 

 前へと展開した足場に踏み込みながら、刀を振り落とす。その一閃は、容赦無く虫を縦に叩き斬り――止まらない!

 

「あぁああああ……!」

 

    −閃!−

 

    −裂!−

 

    −波!−

 

 縦横無尽!

 視認すら許さずに、シオンの刀が虫達を蹂躙する。

 見る必要は無い。いらない。自分が感じた場所に虫がいる。その確信があった。放たれた毒針すらも脅威にならない。容赦無く迎撃していく。

 その異様なまでに澄み渡り、冴えて行く知覚。まるで自分の五感の他に、別の誰かが加わっているかのようであった。

 その知覚が伸び、空間を支配し、虫の動きが全て読み取れる……だが。

 

 あくまで、勘だ……! この感覚に頼って戦い続ければ、いつか外れる!

 

 シオンは、その知覚を”勘”と言い切った。所詮はあやふやな感覚の一つでしか無いと。

 そして外れた時が終わりになる。一撃決殺の手段を有するこの虫達ならば確実にそうなる!

 ならば可能な限り早く、一撃で敵を倒していかなければならない。そうでなくては、この戦い方は続けられない。

 そこまで思い至るにあたって、シオンは慄然とした。

 

 だからこそ、多対一の条件下で、”常に初手の一撃で敵を無力化する”タカ兄ぃや、トウヤ兄ぃの戦い方があった訳か……! そら化け物な筈だ、こんな戦い方をずっと続けられているんだからな!

 

 納得すると、思考とは別に虫を断ち斬る。それで、近場の虫は全て撃滅していた。それを確認して、シオンは刀を翻し、遠巻きに居る虫に突き付ける。にぃと笑った。

 

「悪いが――負ける気がしねぇよ」

 

 言うなり、シオンは刀を突き付けた虫へと駆ける。そんな彼を、まるで恐れるかのように虫達が一気に殺到した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「あのバカ……」

 

 学院屋上。そこで、ティアナは遠目に映るシオンを見ながらぽつりと呟いた。

 自分の作戦通りに、虫達を引き付けるシオン。いや、正確には”それ以上の仕事”をやってのけているシオンに。

 まさか、あれほどとは思わなかった。ティアナは胸中、そう思う。

 今の戦いである。シオンは向かい来る虫達の毒針をあっさりと払いのけ、さらに虫本体達も苦もなく打倒せしめていたのだ。

 イクスを失い、弱体化していたと思っていたシオン。とんでも無かった。今、シオンは明らかに強くなっている。

 あるいは、なのは達と同じレベルに。

 あるいは、彼の兄達と同じレベルに!

 今、シオンはそこまでの段階に進もうとしていたのである。

 

「あいつ、一人で虫全部潰しちゃうんじゃないでしょうね?」

 

 あながち冗談では無く、それをしかねない。それほど今のシオンは圧倒的過ぎた。だが。

 

《流石に、それは無理じゃないかな?》

「ギンガさん」

 

 呟いたティアナの眼前にウィンドウが展開して、ギンガが苦笑混じりに言ってくる。通信だ。向こうでもシオンの大立ち回りを見ているのだろう。

 ティアナから視線を時折外しながら、ギンガは言葉を続けた。

 

《今のシオン君は凄いけど……あんな戦い方、ずっと続けられるとも思えないわ》

「はい、分かってます」

 

 ギンガの台詞に、ティアナは即座に頷く。

 あのシオンの戦い方は、一歩間違えば致命的な隙を作りかねない戦い方であった。彼の兄達と同様の戦い方。逆を言えば、それだけの実力がなければ出来ない戦い方なのだ。

 言って見れば、命懸けの綱渡りをずっと続けているようなものである。少しのミスも許されない、そんな戦い方。

 体力はともかく。精神が持ちそうに無い。実際、スバル並の体力バカなシオンの息が若干乱れて来ていた。精神的な疲労を覚え始めているのだろう。それを見るなり、ティアナは顔を歪めた。

 

「ギンガさん、そっちは?」

《こっちは準備完了よ。スバル?》

《あ……! うん、ごめんギン姉。こっちも大丈夫だよ!》

 

 繋げた通信に、スバルが慌てて答える。シオンの様子でも見ていたのか。ティアナは無理も無いと思いながらもスバルに頷く。

 

「なら後は、私の番ね」

 

 そう言うと、ティアナは立ち上がる。クロスミラージュを両手で構えて、虫達の中心に掲げた。告げる――。

 

「散布魔力確認。これより集束開始! ”スターライト・ブレイカー”で敵を殲滅します。準備はいい? スバル! ギンガさん!」

《うん、いいよ! ティア!》

《こっちも大丈夫よ》

 

 スバルとギンガが、ティアナに応えて頷く。それを聞いて、最後にティアナは叫んだ。未だ、最も危険な場所で戦っている彼に。

 

「――シオン!」

 

 その叫びに、シオンは薄っすらと笑った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ジェイル・スカリエッティを拘留していた軌道拘置所とは別の世界の軌道拘置所。その内を、アラートが激しく鳴り響く。

 それを聞きながら、伊織タカトは悠々と軌道拘置所内を歩いていた。

 こう言った音は基本万国共通なのだなと、どうでもいい事を思う。そして。

 

    −煌!−

 

 そんなタカトに真正面から撃ち込まれる魔力砲撃! それは迷い無くタカトに直撃して、更に数十発の砲撃と射撃魔法が彼に撃ち込まれる。

 

    −轟!−

 

    −撃!−

 

 それでも、まだ飽き足らないとばかりに撃ち込まれていく光砲達。数分程もそれは絶える事無く続いた。

 やがて砲撃が収まると、周りからぞろぞろとデバイスを手に持つ者達が現れる。管理局局員、武装隊の面々である。辺りが数千にも及ぶ砲撃と射撃魔法による煙りに包まれる中で、彼等は油断無くデバイスを構える。そして、煙りが晴れ――。

 

「天破光覇弾」

 

 ――そんな声が彼等の耳朶を打った。

 

    −轟!−

 

 直後、煙りを突き抜けて現れる特大の光弾!

 それは容赦無く軌道拘置所内に炸裂し、特級の爆発を一気にぶち撒けた。

 

    −煌!−

 

    −爆!−

 

 爆発は容赦無く武装隊の面々を巻き込み、吹き飛ばして行く。光弾自体を直撃された訳でも無いのに、それだけで彼等はまるで人形のように空中を舞って、床に叩き付けられると動かなくなった。

 そんな中で、光弾を放った当人であるタカトは未だに立ち上る煙りを切って現れる。周りを見渡して、肩を竦めた。

 直撃はしなかったが、爆発に巻き込まれた武装隊達は見るも悲惨な状態になっている。基本的に非殺傷設定を全く使わないタカトだ。先の光弾も例外では無い。結果として彼等は死にこそはせずとも、大怪我を負ってしまっていた。

 

「……約束は殺さない事だしな。うむ、手足が逆を向いたりしているがセーフな筈だ。多分」

 

 そんな事を言いながら、タカトは一人うんうんと頷いた。これを当の光弾を叩き込まれた彼等が聞けば激怒は間違いないだろうが、肝心の彼等は全員昏倒している。

 そんな文句(ツッコミ)が来る筈も無かった。そして、タカトは誰も彼もが倒れている中を再び歩き始める。無人の荒野を行くが如く、真っ直ぐに拘置所内を進み。

 

「……ナンバーズが拘留されている場所はどこだ?」

 

 そんな身も蓋も無い事を呟いた。何故、彼がナンバーズを探しているのか。それは僅か二十分程前まで話しは遡る。

 

 

 

 

「ナンバーズ? それを助けて来いと?」

 

 タカトが偶然にも突っ込んだジェイル・スカリエッティを拘留していた軌道拘置所。そこで、ジェイルが拘置所内の端末を操作していた。

 そんな彼から告げられた言葉をタカトは繰り返す。ジェイルは端末を操作し、拘置所内のワーカーロボット達に拘置所に突っ込んで座礁(ざしょう)している次元航行艦を起こさせながら頷いた。

 

「そう、私の大切な娘達だ。君も見ただろう? 私の研究所に居た彼女達だよ。あの娘達も連れて行きたいから、君に助けて来て貰いたいのが」

「ああ、あいつらか……必要か?」

 

 漸く思い出し、頷きながらも聞いてみる。はっきり言うと、タカトは彼女達をさほど評価をしていない。

 あくまで基準が自分となっている為、どうしても彼女達を戦力として見做(みな)す事が出来ないのだ。言ってしまえば、自分一人居れば問題無いだろう? と、言いたいのだが。そんなタカトにジェイルは振り向きながら苦笑した。

 

「君一人ならともかく、私も追われる身となったからねェ。私も身を守りたいのさ」

「いざとなれば俺が守るが?」

「それは絶対かい?」

 

 逆にそう問われ、タカトは肩を竦める。確かに彼にとってジェイルのガードは優先順位が低い。ユーノやヴィヴィオと比べると、どうしてもそうなってしまう。目的は彼等を守る事なのだから、これは仕方ない。タカトは苦笑いを一つ浮かべると、立ち上がった。

 

「いいだろう。了解だ。そいつらはどこに居る?」

「それぞれ別の無人世界の軌道拘置所に拘留されているからね。複数の世界に行って貰うけど、いいかい?」

「構わん。一、二時間もあれば全員連れて来れるだろう」

 

 この軌道拘置所内の看守と武装隊の配置からタカトはそう予測を立てる。それにこそ、ジェイルは本当に苦笑した。

 管理局の誇る最高レベルの監獄。それを彼は事もなげに数時間程度で”攻略”してのけると言っているのだ。それも、違う世界にある複数の軌道拘置所をだ。

 改めて自分が目指していた者の凄まじさを思い知らされる台詞であった。

 

「君が彼女達を連れて来る間に私も次元航行艦の修理を終わらせよう。よろしく頼むよ」

「ああ、任せろ」

 

 そうして、彼はジェイルと同じく別の無人世界に拘留されたナンバーズを脱獄させに向かったのだった。時空管理局としては非常に、そしてとんでもなく迷惑な事にだ。

 早々と、この二人が手を組んだ事が最悪な事だと分かるエピソードであった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……ここか?」

 

 あれから出会う武装隊の面々や管理局員達を適当に叩きのめしながらタカトは歩き、最終的にやはりと言うべきか、ここの所長から専用端末をくすねて、漸くタカトはそこに着いた。

 ナンバーズNo.1、ウーノが囚われている牢獄に。

 思ったより時間を喰ったと彼は思うが、それは道に迷った彼が悪い。とりあえず牢獄のごつい扉を破ろうとして

 

 ……はて、どうするか。

 

 よくよく考えれば鍵等を奪い忘れた事をタカトは思い出した。当然、鍵がなければ開かない。だが、どうでもいいかと思い直した直後。

 

    −撃!−

 

 問答無用に特殊合金製の扉に叩き付けられる蹴り!

 それは一撃で真ん中から扉をへし折り、勢いのままに牢獄の中へと弾き飛ばした。

 

「……邪魔をする」

 

 扉を文字通りに蹴破ったタカトは礼儀として、それだけを言って中に入る。そこには、あまりの出来事に普段は切れ目な彼女が目を大きく見開き、こちらを見ていた。最初のナンバーズ、ウーノが。彼女はタカトを見るなり、呆然と呼び掛けて来る。

 

「貴方は……伊織タカト?」

「ほう? ジェイルもそうだが、一度しか顔を見ていない俺をよく覚えてるな?」

「……いえ、それ本気で言ってますか?」

「む?」

 

 顔を合わせて早々にそんな事を言われて、タカトは首を傾げた。そんな彼の様子に、変わってないとジェイルと同じ事を思いながら、ウーノはため息を吐いた。

 彼程インパクトがある人間などそうそう居る筈も無いから出た言葉である。忘れろと言う方に無理があるだろう。

 未だに首を傾げた彼にウーノは再び嘆息、用件を尋ねる事にした。

 

「それで、御用件は何でしょう?」

「む。そう言えばそうだったな。単刀直入に言おう。ウーノ、貴様の主人の依頼で来た。ついて来て貰おうか」

「主人……? Drの事ですか?」

「そうだ」

 

 問われ、タカトは短い言葉で肯定する。それを聞いて、彼女はあっさりと頷いた。にこりと微笑みながら立ち上がる。

 

「わかりました。行きましょう」

「……またえらく早い決断だな。一応言っておくが、これは脱獄だ。罪がまた大きくなるぞ?」

「構いません」

 

 念を押して解うタカトに、ウーノは即座に答える。何故なら答えなんて最初から決まっているのだから。だって。

 

「Drが呼んでいるのでしょう? なら、私は行くだけです」

 

 その答えにこそ、タカトは肩を竦めて苦笑した。

 まずは一人目、ウーノを回収。残るは後三人。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ふ、ふふ……! 最近のユウオは激しいね!? あやうくあっちに逝ってしまう所だったよ?」

「言葉は選ぼうよ!? 次は『月夜』から放り出すよ?」

 

 『月夜』第一位執務室。そこで先程、完璧なセクハラ要求を受けた高町なのはは、目の前で行われている夫婦漫才に乾いた笑いを浮かべた。そのセクハラ要求は、ユウオのツッコミにより難を逃れたのだが。

 しかし、天井に頭から突っ込み、逆八ツ墓村状態だったにも関わらずトウヤは相変わらずである。その丈夫さはある意味尊敬出来なくもない。

 そんな風に思っていると、漸くトウヤはなのはに視線を戻した。隣で監視とばかりにユウオが張り付いているのにはとても安心してしまう。

 

「さて、話しを戻そう。タカトの好みだが、代価はブラでいい――いや!? 待ちたまえユウオ! 二度は流石に私も逝き切ってしまうよ!?」

「なら、バカ言ってないで早く言いなよ!? ほら、ボクも聞きたいし」

「……結局、君も聞きたいのではないかね」

 

 即座にユウオが拳を持ち上げたのを見て、流石にトウヤが訴えるが、ならセクハラ要求を止めればいいのにと思わなくもない。

 ……トウヤなので、今更そこら辺は期待していないが。コホンと咳ばらいを一つして、トウヤは漸く語り出した。

 

「アレの好みはね? ”強い女性”だよ」

「……え?」

「”強い女性”。自分より強い、ね……それがタカトの好みだと言ったのだよ」

 

 あっさりと言われたものだから、ついなのはは聞き返す。それにトウヤは丁寧に教え子に勉強を教える心持ちで繰り返してやった。しかし、それにも関わらずなのはは呆然とする。

 それは、どう言う事なのか?

 ユウオも隣でポカンとしている。

 予想外過ぎる答えに二人が我を忘れているのを眺めながら、トウヤは昔、タカトに問い、得た答えを思い出していた。

 まるで大切な宝箱から宝物を取り出すような、そんな顔で。

 

 強い女(ひと)が好きだ。

 

 そう告げた異母弟の言葉を思い出す。相変わらずの無表情で、それを自分にだけは教えてくれた異母弟の言葉を。

 

 心の強い、女(ひと)が。もし、俺より強い女(ひと)がいたならば――きっと、俺はその女を好きになる。

 

 そう告げた、異母弟の言葉を。やがて、なのはとユウオが我に返り始めたのを見て、トウヤは微笑んだ。

 

「さて、なのは君? 君はタカトに自分より強いと認めさせる事が出来るかね?」

 

 そう告げて、トウヤは席を立つ。最初から答えを期待した訳では無いのだろう。なのはの方を見ずに微笑み続け、そして。

 

「ゼグンドゥス。何があったね?」

 

 唐突に、そんな事を言った。その言葉に、なのはは、え? と思い、次の瞬間、それは唐突に現れた。

 黒のローブを見に纏う金髪金眼の青年が。

 本当に全く突然に現れた為、どのようにして現れたか分からなかったくらいだ。

 いきなりの事態に目を丸くするなのはを置いて、彼――ゼグンドゥスはトウヤに口を開いた。

 

【”ネットワーク”に感ありだ、主よ】

「……ネットワークに? と、するとシオン達の方に何かあったかね?」

 

 問う。しかし、ゼグンドゥスは答えない。変わりに手を差し出した。そこにウィンドウが展開する。映るのは必死にキャロに心臓マッサージを施すシオン……!

 

「キャロ!? トウヤさん、これは――!?」

「ふむ。少々厄介な事態のようだね。こちらに連絡が来ないと言う事は、余程切羽詰まってるようだ」

 

 そう言うと、慌てるなのはに手を差し出して制止する。やがて画面の中でみもりが何やら処置を施したのか、キャロは息を吹き返したようだった。

 それを見て、なのはは漸くホッとする。しかし場面が変わると、それも消えた。次に映った画面では、シオンがただ一人、謎の虫と戦っていたからだ。

 

「どうやらあの虫がキャロ君があのようになった原因のようだね? 道理で連絡が来ない筈だよ。通信も妨害されていると見た方がいいね――待ちたまえ、なのは君」

 

 自分の台詞を最後まで聞かずに駆け出そうとしたなのはを彼は即座に止める。彼女は何故と聞こうとして、それより先にトウヤが言って来た。

 

「シオンの方は陽動だよ。本命はこちらだ」

 

 そう言うと、トウヤはウィンドウを指差す。そこには数隻の次元航行艦が、地球周辺宇宙に次元航行を完了している場面が映っていた。

 

「陽動と言うよりはどちらも本命かね。艦隊戦になるだろうが、念の為、こちらの迎撃に参加して貰いたい……大丈夫さ、今のシオンを倒すのには”第二位レベル”がいる。あの程度、どうとでも切り抜けるだろうね」

「…………」

 

 なのはは無言。相当な葛藤があるのだろう。しばし悩み、やがてこくりと頷いた。それを見て、トウヤは動く。

 

「よし。では、ユウオ。これより『月夜』は第一級戦闘配備。はやて君にも連絡を取ってくれたまえ。”アレ”を出すよ?」

「うん。分かったよ。任せて」

「さて、では行こうかね、なのは君」

「あ……その前に一つだけ。さっきのは一体?」

 

 前を歩こうとするトウヤに問うて見る。先のゼグンドゥスに見せられた画像達だ。あれは、普通の通信等では無い。全然別物だと、なのはの直感は訴えていた。そんな彼女の問いにトウヤは一度だけ苦笑した。

 

「何、彼は”時の精霊”でね。少し、”過去の情報を再現”してもらっただけさ」

「過去の……?」

「そう、過去の情報距離を零とする魔法。これを、”ネットワーク”と呼ぶのだよ」

 

 そううそぶくと彼は早足で執務室を出る。そんな彼に、なのはも続こうとして、その前に続きの言葉が来た。

 

「私は過去を力とする者。故に、私に知り得ない過去はそうそう無いよ?」

 

 そう言って、トウヤは『月夜』の通路を歩き出したのだった。

 

 

(中編1に続く)

 

 




はい、第四十九話前編2でした。またもや艦隊戦か(笑)
いや、好きなんですよ艦隊戦。ゼノサーガのEP1とか、あのノリ超好きです。例えがマニアック過ぎるか……(笑)
ではでは次回もお楽しみに。

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