機動戦士ガンダムSEED DESTINY ZIPANGU 作:後藤陸将
「マーズ少尉、贅沢を言うな。現状の戦力で最善を尽くす、それが軍人の使命だ」
月光少佐が項垂れる俺の肩を叩く。確かに、少佐の言葉は間違ってはいない。だが、それでも気になることはある。
「……参考までに聞きますが、少佐と大尉の乗機はなんなのでしょうか?」
こんな扱いを受けているのは俺だけなのだろうか?もしかすると、少佐や大尉も同じような苦労をして……
「私と美茄子大尉の乗機は陽炎改のステルス仕様機である月虹の複座カスタム機――通称月虹一一型だ。元は偵察機としての運用を考えて製作されたテスト機でな、管制ユニットの拡大に伴って背部が通常使用機よりも大きくなってしまったために動きは悪いが、肩部および背部に銃座が設置されているために機動力を補えるほど広い射角が取れるという特徴があるのだ」
ものすっごいまともな機体だ。いや、俺との落差はなんだよ、これ。しかも俺が卒業前戦闘技術特別審査演習で戦った月虹と比べても明らかに高性能だし。
「少佐、発言宜しいでしょうか?」
「許可しよう」
「あの、『桜野くらら』と月虹一一型では……その、スペック差が大きすぎやしないでしょうか?連携が取れるかどうか……」
「軍人は与えられた条件で最善を尽くさねばならない。少尉が挙げた問題は運用でカバーしたまえ。取らぬ足らぬは工夫が足りぬというだろう」
いや、そんな軍備とか予算とかが末期状態の標語を持ち出されても……それにこれは運用でカバーできる範囲を超えてないか?それともなんだ?第二次世界大戦時に全盛だったっていう精神論か?
「マーズ少尉、君の乗機は『桜野くらら』でいいな?」
「はい……」
もう諦めよう。言いたいことは山ほどあるけど、少佐の雰囲気からしてもうこれ以上我儘言うなって感じもするし。
「よし!!マーズ少尉!!出動準備だ!!」
機体があのロボ娘というのはものすごい不満ではあるが、基地を守るためには仕方の無いことだと割り切ろう。そうと決まればすぐにコックピットに行って調整を終えなければならないな。既にタリサの駆るMG5はスキージャンプ式の滑走路から離陸しているし。
「了解!!ですが、機体の調整に5分だけ」
「待ちたまえ、マーズ少尉!出撃前にやることがある!!」
機体の調整などに時間がかかるためにコックピットに通じるパレットに駆け足で向かおうとした俺は、月光少佐に呼び止められる。一体何をするのだろうか?ブリーフィングは別に機体に乗り込んでからでもできるだろう。
もしかすると、発進ゲートが発進待ちの機体で混み合っていることを予測して、今の内にブリーフィングを終えようということなのか?美茄子大尉が取り出したトランクからスピーカーと布を出しているところから察するに、ここに即席のスクリーンでも作って一時的なブリーフィングルームでも設営するつもりなのだろうか?
しかし、俺の予想は完全に外れていた。月光少佐は懐から月を象った飾りのついたスティックを取り出して天に掲げたのだ。そして俺にはあのスティックに見覚えがあった。あれは確か、マユがオーブにいたころに嵌っていた魔法少女アニメに登場する変身アイテム――ムー○・スティックだ。
……物凄い嫌な予感がする。まさかこれは、いや、そんなことはないと信じたい!信じさせてください、少佐!!
「ムーンライトパワー!!」
ムー○・スティックが点灯し、安っぽい効果音が流れる。同時に美茄子大尉がスピーカーからBGMを流す。そして軽快な回転を始めた月光少佐にむけてスポットライトを照射し、更に少佐の前に先ほど取り出したカーテンを張る。スポットライトによってカーテンには月光少佐のシルエットが浮かび上がった。
少佐はBGMに合わせてピルエット、イタリアン・フェッテっといった技を決めていく。美少女少佐といい、月光少佐といい、いい歳したおっさんのバレエというのはあまり気持ちのいいものではない。
「メ~イクア~ップ!!」
カーテン越しではあるが、そのシルエットで月光少佐が何をしているのかは理解できる。その影の動きはまさしく着替えをしている動きだった。
「まさか、中で着替えているんじゃ……」
「説明しよう!!月光少佐はコスチュームを換えることにより七つの特殊能力を発揮するのだ!!……では私も」
まるでアニメのナレーションのような説明を終えると美茄子大尉はそのままカーテンの裏に入ってしまった。
流石は特殊兵士課、一筋縄ではいかない。しかし、一体少佐たちはどんな格好に着替えているのだろうか?せめて、ふざけているのは変身の前置きだけであって欲しいものだ。切実にそう願う。
そしてBGMが終わり、カーテンが取り払われた。しかし、同時にシンは絶句することになる。カーテンが取り払われたむこうにいたのはセーラー服を着込んだムキムキの変態親父達だったのである。
「月の光は私のエナジー……月よりの使者、月光少佐!!」
「同じく美茄子大尉!!」
「「只今見参!!」」
俺はどうやら裏切られたみたいだ。やはり、特殊兵士課に普通の人なんていなかった。だれだよ、月光少佐がまともだって言ってたやつ……ああ、俺自身だったっけ。
さらに月光少佐はムー○・スティックの底部からチューブほどの太さがあるワイヤーを展開して振りかぶる。
「世間を騒がす敵軍は……月に代わっておしおきよ!!」
「イテェ!?」
そして少佐は俺にむかってワイヤーを叩きつけた。まるで鞭打ちでもされたかのような痛みが背中にはしる。
「いきなり何するんですか!?」
俺は少佐に抗議する。一番体罰に厳しかった第二次世界大戦時ですら鞭打ちなんて体罰はなかったはずだ。一体何故俺がこんな仕打ちを受けなければならないのか。だが、少佐の返答は意味不明なものであった。
「出動の儀式だ」
「意味分かりませんよ!!それにどうしてセーラー服なんですか!?ドルフィン准将は元海軍士官だったからまだしも、少佐達は関係ないでしょう!?」
「MSを操縦するときはこの方が動きやすい。それにMSを降りるときパンチラのサービスをすれば整備員の士気も上がる。士気が上がりすぎて悩殺されてしまった整備兵もいるぐらいなのだ」
「気持ち悪くなってぶっ倒れただけじゃないんでしょうか……」
頭が痛くなってきた……変態の巣窟に左遷されて、さらに宛がわれた乗機がロボ娘というだけでも辛いのに、直属の上司も課で3本の指に入る変態ときた。もう胃がヤバイです。
「マーズ少尉、何をしている。君も着替えるのだ」
え……?今少佐はなんと仰った?
「君が私達のコンビになった以上、君も変身しなくてはならない。無論、君のコスチュームは既に美茄子大尉が用意してくれている」
「私が生地を裁断して仕立てました」
少佐の横を見ると、美茄子大尉が赤を基調としたセーラー服を掲げていた。……まさか、これを着ろと?
「既に
「いや、それなら変身せずに出撃すればいいのでは?」
変身でおよそ3分もの時間を既に費やしてるのに何故変身に拘るのだろうかと俺は疑問に思って月光少佐に問いかけた。しかし、やはり少佐の返答は常識では理解できないものであった。
「それは私達の
……何を開放しているのか知らないが、永遠に内に封印しておいて欲しい。
「時間がないぞ、早く着替えるのだ!!」
「いや、自分には変身によって開放される内なる力なんてありませんから」
少佐が急かしてくるが、俺は絶対にあんな服は着ない!!俺には眠れる力なんてないし、隠されている性癖もないんだ!!
「四の五の言っている暇はないのだ」
「月光少佐、待ってください。これはあれですよ」
「美茄子大尉、どういうことだね?」
……何故だろうか。背中に凄まじい寒気が走っている。
「魔法少女のお約束ですよ。ほら、初回の変身は自発的にするのではなく、マスコットキャラに導かれながらするっていうやつです」
「なるほど、つまり初回の変身は我々の手でエスコートすればいいというわけか」
「はい」
そのやり取りを聞いた俺は全速力で駆け出した。敵前逃亡?始末書だろうが独房行きだろうが構わない。俺は今、男であるために
「貴様!!敵前逃亡は重罪だぞ!!」
「俺は敵から逃げるんじゃありませんよ!!」
「逃がさん!!」
美茄子大尉が懐から取り出したスティックの底部からワイヤーを引き出して、俺の脚を絡め取った。ワイヤーが足に絡まってバランスを崩した俺は転倒して取り押さえられてしまう。
「離してください!!俺は、俺は!!」
「何、心配はいらない。初回の変身ということで描写も多く取られるかもしれないが、それは初回だけの辛抱だ。二回目からは変身は簡略化される」
「そういう問題じゃないんです!!だから……ってうわ~~!?」
「ほら、美茄子大尉も手伝って!!マーズ・スターパワー!!メ~イクア~ップ!!」
その日、俺は恐ろしい境地に脚を踏み入れてしまった。
「ゴメン、マユ……俺、性別だけは絶対守るって言ったのに……」
そんな誓いをしたような、しなかったような、色々と曖昧だが、まぁ、していたことにしよう。誓っていようがいまいが、必死になって守り抜こうとしたことは事実なのだから。結果的には守り抜けなかったけど。
ロボ娘――TSF-JC120-6、スペースダンシングMS一号機の『桜野くらら』のコックピットの中、コンソールに映る俺の姿は黒の長髪に紅目、赤を基調としたセーラー服を着込んだ変態だ。こんな姿をマユに見られたらもう俺は生きていけない。
『マーズ少尉!!既に
正直、このまま敵に撃墜されて死にたい。そんな気分だ。
『TSF-JC120-6、発進どうぞ!』
「聖羅マーズ……『桜野くらら』逝きます…………」
俺は絶望だけを胸に火星の空へと飛び立った。
『マーズ少尉、敵機はこちらの第一次防衛ラインを突破した。我々は防衛ラインを抜けてきた敵を集中して叩くことでこれ以上の敵の侵攻を阻止する役割を与えられた。後3分で会敵する予定となっているから突撃砲を構えておけ!!」
ああ、会敵時の牽制射撃に当たりにいって撃墜されてしまおうか……生き恥を曝すよりはマシかも知れない。それに、どうせこちらには5発しか撃てないハイパーニードルガンしか遠距離で使用できる武装がないのだ。敵機に距離をとられてしまえば手も足も出ない。
「……俺の遺族年金でマユは幸せに暮らせるのかなぁ」
ふと、俺が戦死した後のことを考える。回収された俺の死体は死体袋に入れられて本土に送られるはずだ。そして棺桶に収められた俺の姿を見たマユは人目も憚らずに号泣するのだろう。だが、待て。俺はこんな変態な格好をして死体を曝すわけだ。俺の軍服は変身の際に少佐が没収してしまったから、恐らくは後送時もこの格好のまま送られる。
……この格好をした俺を見たらマユはもう墓参りにすら来てくれないのではないか。父とは墓も分けられてしまうかもしれない。だが、誰が悪い?――何が悪かったんだ?俺をこんなところに配属した人事課か?こんな部隊の存在を認めている軍の上層部か?いや――違う。悪いのは敵だ。敵がいるからこんな部隊でも利用され、俺は犠牲にならざるを得なかったんだ。
結論は出た。そう――敵がいるのが悪いんだ。
「
『その意気だ、マーズ少尉!!いくぞ!!』
『何をしているんだ、マーズ少尉!!ハイパワーニードルガンを撃つんだ!!』
俺の指はトリガーに手をかけたまま硬直していた。いや、別に
「……少佐、あのデカイのは何ですか?」
目の前の敵は一言でいうのなら、三つの顔を持つ巨大な頭だった。およそ50mはあるだろう。アンバランスなほど小さな足と手が申し訳程度に生えている。何なんだこいつは。
『あれはマーシャンの中核をなすオーストレールコロニーのMA、ガラオンだ!!気をつけろ、やつには側面など存在しない!!』
そりゃあどこから攻めても正面から攻めることと同意義だしなぁ。しかもデカイし。
『いいか、マーズ少尉!!やつの倒しかたはそう難しいものではない!よく見ておけ!!』
そう言い残すと少佐は乗機である月虹で急上昇した。そしてガラオンの上部を取るとそのまま急降下しながら銃撃を加える。火箭はまるで剣豪の一太刀のようにガラオンの泣きっ面を上面から斬りつけた。
だが、まだ攻撃は続く。急降下した月虹はその速度を維持したまま右手に刀身の長いビームサーベルを展開する。そして先ほどの火箭をなぞる軌道でガラオンに向かって斬りつけた。斬撃をお見舞いした月虹は噴射ユニットを最大出力で吹かし、地面すれすれを水平飛行で離脱する。同時にガラオンの泣きっ面が火を噴きながらゆっくりと倒れ、爆発炎上する。その姿はまるで中世の城郭が落城しているかのようだった。
『さぁ、マーズ少尉も続け!!』
あんな化け物MAを瞬殺とは、どうやら人は見かけによらないものらしい。本当に、あのおぞましい姿さえ見なければ頼もしい上官だ。
『HQより全部隊に通達!!第一次防衛ラインを巨大MAが突破した。近隣の部隊はこれの迎撃を優先せよ!!』
ガラオンを撃破して一息ついていた時、突然HQからの緊急通信がきた。送られてきたデータからすると、その巨大MAの進行方向に俺達はいるらしい。
『マーズ少尉、我々で迎撃するぞ!!私達はステルス迷彩を起動して上方から奇襲をするから、君は囮役を頼む!!』
「……っ了解!!」
美茄子大尉の命令に従い、前に出る。レーダーは既に敵機の巨大な姿を捉えている。有視界に入るまでは後1分ほどだ。前線の部隊を蹴散らして進撃しているということは、先ほどの三面頭より強敵であることは間違いないだろう。
ハイパーニードルガンを構えて砂埃の向こうにいる敵機の姿を見やる。シルエットだけであまりはっきりとは分からないが、背丈は140mほどはあろうか。幅も80m以上はある。これだけデカイと普通ならただの的だ。ただ、今その姿は見えない敵機は防衛線を強行突破するだけの力がある。侮ってはいけない。
そして遂に土煙を抜け、敵がその巨体を曝す。しかし、俺はその敵機の正体を目の当たりにして愕然とした。
「な……龍!?」
そこに見えたのは銀色の首をもたげる巨龍の姿。だが、その頭は一つではなかった。
「頭が一、二……三つ!?」
それは例えるのならば銀の龍。ただ、あれの背に乗っかってもロデオよろしく振り落とされるのは確実だろう。火星の赤い大地の中でその存在を主張するかのように銀色に煌く翼を広げた三頭龍だった。だが、俺にはその姿にあっけに取られている余裕なんてなかった。三頭龍はその首を鞭にように撓らせながら頭から光線を発射したのだ。
蛇のようにうねりながら大地を蹂躙する3本の光線を前に、俺は回避だけで精一杯だ。頼む少佐!!早くやつを何とかしてくれ!!
俺の願いが通じたのかは分からないが、作戦通りに少佐は上方から龍の中央の首にむけて強襲をかけた。しかし、それに反応した三頭龍は左右の首とあわせて弾幕を張って応戦、その熾烈な対空砲火に少佐の月虹も離脱を余儀なくされた。
「まずいな……まさかアレが完成していたとは」
月光少佐が険しい顔をして零した今の言葉からして、少佐にはこの化け物の心当たりがあるのか?
「少佐!?あれの正体を知っているのですか!?」
「ああ。レインボー軍曹が1ヶ月のオーストレールコロニー内部での立番で入手した情報の中に、アレに関するものもあったのだ」
レインボー軍曹すげえ。ただのパントマイムの人じゃなかったのか。というか、あきらかに怪しい存在だったろうが、気づけよ
「ヤツの名前はハイパーメカキングギドラⅡ。オーストレールコロニーが製作した巨大MAだ!!D.S.S.D
……どこから突っ込めばいいのだろうか。初登場にしてⅡ、何故かついているハイパー、機械以外の兵器もないのにメカ、そして大げさなキングという名称だ。
「以前のハイパーメカキングギドラと違い、尾までも完全に装甲に覆われています!!冷凍メーサーの出力も以前のものとは比べ物になりません!!」
美茄子大尉が緊張した声で報告しているが、そもそも冷凍メーサーってなんぞや。そんなもの俺も聞いたことがないのだが。
「前のやつは確か、尾は金色の特殊繊維のカバーだったな?」
「はい。それが装甲に覆われているということは、尾の廃熱機構の問題は解決されたということなのでしょう。装甲部は我々の手持ちの火力で太刀打ちできるものではありません」
前は一部とはいえ、銀以外の色の箇所もあったのか、なんて下らないことを考えてしまう俺だが、残念ながら状況は余談を許さない。
「つまり美茄子大尉、あの化け物にはもう弱点はないってことでしょうか?」
俺の質問に美茄子大尉は静かに首を縦に振った。……てことは、あの3本の首から吹き荒れる冷凍メーサーの嵐を紙一重で潜り抜けてビームサーベルで斬りつける以外にあいつを倒す方法はないということか。正直、無理です。
「少佐ぁ!?何とかならないんですかぁ!?」
冷凍メーサーの嵐に突入しておよそ10分ほど。吹き荒れる極寒の嵐を避けきることは難しく、俺の駆るロボ娘は右脚を失っていた。
「耐えろ!!もうすぐドルフィン准将が来てくれる!!」
少佐の機体も銃座のいくつかが既に動作不良を起こしている。元々偵察や強襲目的で設計された機体なので、このような高機動戦には向いていないのだろう。だが、俺も人のことを心配していられる余裕もない。とりあえず直撃も至近弾も無い少佐とは違って先ほどから何度か至近弾を浴びているせいか、スカート内のスラスターの調子が悪いのだ。
そして限界は突然訪れた。突如スカート内のスラスターが停止し、ロボ娘は慣性のままに火星の大地に盛大にずっこけたのだ。俺は凄まじい衝撃の中で自身の死を覚悟する。主力のスラスターを失い、片足を失った状態では、冷凍メーサーを避けることは不可能だ。
……俺は氷付けになって内地に後送されるのだろう。そしてこの格好のまま葬られるのか。マユにも一度くらいは墓参りしてほしいなぁ。
『諦めるな、マーズ少尉!!』
自身の死後に妹が取る態度のことをつらつらと思っていたら、突如後方から3条のメーサーが放たれて俺にトドメをさそうとしていたハイパーメカキングギドラⅡを怯ませる。更に、その大きな翼に赤みを帯びたビームが立て続けに突き刺さり、巨龍は後退する。俺は自身を救ったメーサーが放たれた方角に反射的にメインカメラを向けた。
「……あれは!?」
そこにあったのはパラボラアンテナを掲げた特殊車両だった。相当に大きい。しかも何故かその特殊車両を牽引しているのはあんこうを模したマークが描かれたIV戦車号H型と黒森峰とペイントされたⅥ号戦車2両だ。
『マーズ少尉、どうやら我々は助かったようだ。あれはタイガー少佐が率いる90式メーサー殺獣光線車部隊に、革命大尉の太陽炉搭載型MSだぞ!!』
ハイパーメカキングギドラも反撃しようとするが、冷凍メーサーは90式メーサー殺獣光線車を捉えることができないでいる。どうやら射程が足りないようだ。さらに、ハイパーメカキングギドラⅡの後方に回り込んだ2機のMSが無防備な背中に次々とビームを放つ。革命大尉達の乗るMSのあの驚異的な運動性能は一体何なのだろう。何故か赤く発光しているし。
『伝嬢雨亭裸大尉の乗機はGNー001/hs-A01Dガンダムアヴァランチエクシアダッシュ、〆宮庵水大尉の乗機はGN-005/PHガンダムヴァーチェフィジカルだ!!どちら太陽炉と呼ばれる最新鋭の動力炉を搭載した試作機で、一定時間の間全ての性能を三倍まで引き上げるというトランザムシステムを搭載した機体なのだ!!』
月光少佐、説明ありがとうございます。……しかし、何で変態な人ほど性能が高い機体に乗れるんでしょうか?
『すまない……到着が遅れてしまった。ここは私達にまかせて後退してくれ!!』
タイガー少佐からの通信が入り、命が助かったことにほっとする。しかし、同時に思ってしまう。ああ、タイガー少佐とのコンビだったら俺は性別を守ることができたのではないか……と。
タイガー少佐の救援を受けてほっとしたのもつかの間、再度HQから全軍に連絡がはいった。
『HQより全部隊に通達!!さきほど火星艦隊の巡洋艦がこの基地に接近しつつある小惑星を探知した!!敵は小惑星の軌道を変えてこの基地に落下させようとしている模様!!奈原司令はマウンテンガリバー5号のスペシウム砲をもってこの小惑星を破砕することを決定した。全部隊はマウンテンガリバー5号の退却を援護せよ!!』
なるほど、この攻撃も囮で、全ては小惑星落としで決着をつけるつもりだったということか。しかし、これからマリネリス基地の命運を背負って一時退却するタリサと違い、俺はポンコツに乗り換えるために退却するんだよなぁ。何か気が重い。
タイガー少佐にこの場を任せ、何とか機体を立たせて後退しようとしたとき、俺の機体は接近する大型の艦影をキャッチして警報音を鳴らした。恐る恐るレーダーが指し示す方向に頭部メインカメラを向けると、そこには俺の予想だにしないものが浮かんでいた。
『タ~リラリラ~♪お茶目なヤシの木カットは伊達じゃない!!海を愛し、正義を愛す!!誰が呼んだかポセイドン!!タンスに入れるはタンスにゴン!!特殊兵士課最高指揮官、ドルフィン准将只今見参!!』
ドルフィン准将の意味不明な口上と共に現れたのは全長150mはあろうかという船体の戦端に巨大なドリルを構えた異形の戦艦だった。更にその異形の戦艦は船体後部からミサイルを発射してハイパーメカキングギドラⅡを牽制する。
「な、何なんだよ、あれ……」
『あれはドルフィン准将の轟天号だ!!』
思わず口から漏れた呟きにも反応してくれるから助かってますよ、美茄子大尉。
『第二次世界大戦時に大日本帝国海軍が設計した万能戦艦でな、完成する前に終戦を迎えてモスポール保存されていたものを准将が接収して改造を加えたのだ。4000mの深海でも空でも宇宙でも航行可能、さらに艦首鋼鉄ドリルには絶対零度砲を装備している』
ああ、そう言えば海パン大佐が言っていたな、ドルフィン准将は可潜艦を持っているって。潜水艦じゃなくて可潜艦って言ってたのはこういう意味だったか。だが、それにしてもハイスペックな軍艦だ。
『マーズ少尉!!ここは私達に任せて君は戻れ!!』
月光少佐が俺に退却を促す。だが、正直再出撃しても足手まといになる気しかしない。何せ予備機が『丸出ダメ太郎』と『度怒り炎の介』の二択だ。生きて帰れるとは思えない。
「いや、しかし、自分の予備機では戦えません!!ここで固定砲台として戦ったほうが」
『待ちたまえ。マーズ少尉、君には宇宙に上がってマウンテンガリバー少尉の援護をしてもらう』
そこに割り込んできたのは海パン大佐だった。モニターに映し出された映像を見たところ、彼は轟天号の操舵手をしているみたいだ。
『ハイパーメカキングギドラⅡは我々で何とかできる。だが、小惑星の破砕に使われるスペシウム砲は射程が短い。君はマウンテンガリバー5号をスペシウム砲の射程距離まで無傷で送り届けてくれ!!彼女こそがこの基地の希望なのだ!!』
大佐がここまで言うということは、状況は切羽詰まっているのだろう。そして、俺ならばこの任務を達成できると大佐は信じてくれている。なら、俺としてはその期待に応えるしかないだろう。
「わかりました!!必ずマウンテンガリバーを無傷で送り届けます!!」
『任せたぞ!!マーズ少尉!!』
俺は『桜野くらら』の生きている各部スラスターを使い、跳躍噴射で基地を目指す。…………どうせ基地で俺を待っている機体が俺の棺桶になるのだという悲愴な諦めを抱きながら。
「待っとったで、マーズ少尉。もう機体の用意は終わっとる」
基地のハンガーで俺を出迎えてくれたのは堀井技官だった。その隣には基地司令の奈原中将もいた。
「早速だが、時間がないから君もすぐに乗り換えて発進してほしい。君の機体は向こうだ。堀井技官、案内を頼む」
奈原司令に促され、堀井技官が早足で俺を案内する。どうせ、あのポンコツのどちらかに乗って発進するのだろうと思っていたが、どうやら違うらしい。ポンコツの予備機が並ぶハンガーを通り過ぎ、俺は堀井技官と共に地下に繋がるエレベーターに乗る。
「堀井技官……俺の乗機は『丸出ダメ太郎』でも、『度怒り炎の介』でもないのでしょうか?」
「あの二機は火星の大気圏内での運用しか想定されてへんから、宇宙では運用できん。マーズ少尉に乗ってもらう機体は別に用意してある」
だが、これまで自分に宛がわれた機体を思うと、堀井技官が用意した宇宙活動用の機体とやらも正直期待はできない。その時の俺は心からそう思っていたんだ……。
「このシャトルの中にマーズ少尉の宇宙用専用機、マーズマシンが格納されとる」
……目の前に鎮座していたのはシャトルでも何でもなく、ただの列車だった。まさか、これで宇宙に飛び出して来いと?いくら何でも無茶だと思うのは俺だけではないはずだ。
「堀井技官、これ、本当に宇宙に行けるんですか?」
「大丈夫やと思う」
「それって、保障はないんですか?」
「……ない。すまんけど、急いでくれへんか?説明は発進してからでもできる」
色々と聞きたいことがあるが、堀井技官の表情から本当に余裕がないことも分かったので、俺は素直に従って汽車を思わせる車両に搭載されていたレッドマーズ1に乗り込んだ。
『安心せぇ。それは烈車よりも15年近く古い設計のゴーライナーやけど、デザインはこっちの方が人気ある。それに小売業者の間ではその売れ行きから黒いダイヤと呼ばれていたんや。……まぁ、そろそろ話を元に戻して少尉の専用機について説明するで』
……何を言っているのかさっぱり分からない。あれか、堀井技官は電波とか因果とかそういう現代科学では分からない何かを受信しているのか?
『ゴーライナーの中にはマーズマシンっちゅう5台のマシンが格納されてるんや。火星の引力圏を脱出したら、マーズマシンは変形合体する。少尉はその合体したロボを操ってマウンテンガリバーを援護してもらう。後、ゴーライナーの操縦はラジコン軍曹が行ってくれるから火星の引力圏離脱までのことは考えんでええ』
……ラジコン軍曹か。あの子供みたいな人で大丈夫なのか色々と不安だ。
それに変形合体か。何故か脳裏には上半身と下半身が分離したMSが敵のビームサーベルを回避する映像が浮かぶ。……大丈夫なのか?そんな子供のおもちゃのように好き勝手に上半身と下半身が分離できるMSに乗っていて。空中分解しそうだから俺なら絶対そんなMSに乗りたくない。
『大気圏離脱後はレッドマーズ1に搭乗してくれ。合体はパスワードさえ打ち込めば後はコンピューターが自動でやってくれる。パスワードは456Vや』
「了解……こっちも準備終わりましたよ」
『少尉のコードネームには、このマーズマシンの専属パイロットって意味もあるんや、無様に撃墜されたらあきまへんで~!!」
いや、それってこじつけではないのか。それなら最初からマーズマシンに乗せて欲しかった。
『スペースゴーライナー緊急発進!!』
『ブースター、セットアップ!!』
ゴーライナーの最後尾にブースターと特殊装備がマウントされた。そしてゴーライナー各車は一度地下に降ろされ、方向転換してシャトルと連結する。これで発射の準備が整った……らしい。ものすごい不安だ。
『発射5秒前』
だが、そんな俺の不安を他所にカウントダウンは無情にも進んでいく。
『……4……3……2……1……0!!』
ブースターが猛烈な勢いで火を噴き、スペースシャトルをくっつけた列車が空へと打ち上げられていく。見た目によらず打ち上げは問題なく進んでいるようだ。高度はグングンと上がっていく。中々の負荷がかかっているが、肉体的にヤバイレベルではない。
そして、ついにスペースゴーライナーは火星の引力圏を抜けた。
『マーズ少尉!!火星の引力圏は抜けたぞ!!』
ラジコン軍曹、腕を疑ってごめんなさい。見た目と態度はあれだけど、軍曹はどうやらきっちり仕事は果たしてくれたみたいだ。
「よし……いくぞ!!456V!!流星合体!!」
何故か流星合体とかいう単語を叫んでしまった。まさか、俺も電波とか因果とかそういう意味不明なやつを受信してしまったのだろうか?なお、俺の謎な叫びなど関係なく合体は無事完了し、マーズマシンは4足のMAへと変形合体した。
『上手くビートルマーズへの合体は完了したみたいやな』
火星から通信が届き、堀井の顔がモニターに映し出される。
「堀井技官、変形合体は成功しましたけど、こんな4本足のMAじゃ戦えませんよ」
武装は上部のマーズキャノン一門のみ、これでは盾になる以外の活用法がない。だが、堀井技官は俺の考えもお見通しだったらしい。
『問題ない。ライジングフォーメーションでビートルマーズはビクトリーマーズへと変形する。座席左のレバーを引けば変形シークエンスが開始される』
「……えーと、これか!!」
レバーを引くと、モニターに変形シークエンスの実施の是非を問うウィンドウが開く。俺は指示に従い、変形シークエンスを開始した。すると、ブリッジしていた体勢だった機体が上体を起こし、レッドマーズ1のコックピットが胸部へと移動する。腕部が半回転して正常に肩に収まって頭部が開き、変形は完了した。
しかし、変形が完了した直後にコックピットに警戒音が流れる。咄嗟にビクトリーマーズの身を引かせると、さきほどまでビクトリーマーズがいた場所に閃光が降り注いだ。相手はゲイツだ。ザフト崩壊時のドサクサにまぎれて火星圏に流出した機体だろう。
「邪魔だぁー!!」
先ほどまでの鬱憤を全てこめてジェットランスを振り回す。巨大な槍なので取り回しが悪いことは事実だが、伊達に訓練校で首席争いをしていたわけではない。敵機の動きを読んで槍を振るい、敵のゲイツを両断した。
「堀井技官……ひとつだけ質問いいですか?」
『なんや?』
火星に赴任してからの初の撃墜……どうしても感慨深いものがあるのは事実だ。だが、それ以上に胸にこみ上げて来る想いがある。
「どうしてこれを最初から俺の機体として宛がってくれなかったんですか!?」
最初からこれを宛がってくれていればガラオンだって一刀両断できたかもしれない。ハイパーメカキングギドラⅡとももう少しまともに戦えたはずだ。
『実は、ビクトリーマーズには重大な欠陥があってな……』
「パイロットが乗り込んだ後にそれを言うか!?」
欠陥があると分かっていたら普通乗せないだろうが!!堀井技官、あんた俺に恨みでもあるのか?
「欠陥って何なんですか?」
『実は、重すぎて地上ではクレーンを使っても合体できへんねん。せやから、合体、分離は全て無重力空間でないとあきまへん』
……よかった。構造とかの根本的な欠陥ではなかったみたいだ。だが、そもそも何故こんなクソ重たい変形合体ロボを造ったのだろうか。
『とにかく、急いでくれ。小惑星の破砕に向かったMG5が敵MA部隊の襲撃を受けて救援要請をだしとる。スペシウム砲を失ったら全て終わりや』
「MG5にはスペシウム砲以外の武器は無いんですか?」
『今のところは……ない!それに、スペシウム砲は3回しか撃たれへん。既に火星でマーシャンのMA、グワーム相手に一発使こうているから残りは2発や。MA相手には使えん』
いくらあのチビスケと言えども、流石に可哀想に思えてくる。丸腰の巨大ロボットで敵の防衛網を突破させられるなんて無茶振りだろう。
「わかりました……ビクトリーマーズで救援に向かいます!!」
待ってろよ、タリサ!!今助けに行ってやる!!
「見えた!!あれか!!」
周囲には多数の機械人形ともいうべきノッペラとした巨大MAが3体。あれに囲まれていては前進できないのは無理も無いだろう。
『あれは
ま~た巨大MAですか。
「待たせたな!!タリサ!!」
『シンか!?』
ビクトリーマーズはジェットランスを突き出し、Σズイグルの胸部を貫いた。胸部を貫かれたΣズイグルは破孔から火柱を噴出して動かなくなる。更にビクトリーマーズはジェットランスを動かなくなったΣズイグルから引き抜くと、それを上段に振りかぶってMG5の前に立ち塞がっている別の機体に叩きつけて吹き飛ばした。
「タリサ!!ここは俺が何とかするから、先に小惑星を!!」
『ああ、分かっ……ブフゥ!?』
MG5と通信回線を繋いだら、突然タリサが噴出した。
『お、お前、何だ、その格好……クク……ギャハハハハハハハハ!!!!』
し……しまった俺は今あんな格好をしているんだった。音声のみ繋いでいればよかった。
『あ~面白い!!アッハハハ!!腹が捩れそうだ!!』
「うるせぇ!!こっちだって好きでやってるんじゃないんだ!!これは月光少佐に無理やり着させられたんだよ!!」
必死に弁明をするが、タリサはこちらの言うことを信じてはくれない。
『ククク……アハハハ!!うん、シン。お前がそんな趣味を持っていようと……ククク、ア、アタシは……ハハッハハ!!き、気にしないからな。それじゃあ、ここは任せたぞ!!……駄目だ、耐えられない!!アハハ、ハハハハ!!』
物凄い腹が立つ。覚えていろ。基地に帰ったらお前を変身させてやるからな!!この場を俺に任せて先に進むタリサに俺は心からの憎しみを籠めて中指を突き出した。
「畜生……タリサにまで馬鹿にされた。これも元はといえば、あんた達が悪いんだぁ!!」
やりきれない思いを抱えて俺は敵機に八つ当たりをする。だが、タリサを送り出してからもこちらを狙う敵機の数は増えるばかりだ。しかもちょくちょくMSまでもが増援に来ていて、カトンボみたいで鬱陶しい。
「だぁ!!こんなデカイランスでカトンボを一々撃墜できるかぁ!!」
その時、俺は背中を狙うゲイツの姿に気がついた。小回りが効かないのでこの機体では回避は不可能だ。だが、被弾の衝撃に備えようとした次の瞬間、背中を狙っていたゲイツは爆ぜて宙をのたうっていた。
『こちらキティ小隊、援護します……
通信回線に映し出されたのは顔に一文字の傷がある凛とした雰囲気のある物騒な少女だった。どうやら、マリネリス基地のMAが加勢に来てくれたみたいだ。これで俺は巨大MAの相手に専念できると思い、Σズイグルに向き直ったその時であった。左上方から凄まじい光が発せられ、敵味方を問わずこの宙域で戦う全ての戦士達を照らし出した。
「これはスペシウム砲……やったのか!?」
これほどの光を発する爆発の心当たりはそれしかない。タリサがスペシウム砲を命中させたのだ。これで勝ったと俺は確信した。しかし、それは早合点だったようだ。警報音と共に、コックピットのモニターにはビクトリーマーズのメインカメラが捉えた未だ健在な小惑星の姿が映し出された。
スペシウム砲による攻撃は成功したものの、威力が足りなかったために小惑星の破砕には失敗したのだと俺は理解した。そして唇を噛む。スペシウム砲が効かないとなると、自分達にできることはもう無いのだ。
俺が諦めを抱いていたその時、通信回線からトランペットの音色が高らかに響きわたった。ビクトリーマーズのコックピットでもも接近する大型の艦影を捉えて警告音を鳴らす。そしてメインカメラが捉えた光学映像を見て、俺は愕然とした。
「曙丸……?」
絶望的な雰囲気に呑まれていた広域通信回線でも、あの軍艦の登場と共に歓喜の声が溢れる。
『キャプテン・ブラボー!!』
『あの伝説の……!?』
一体何なんだよ、あの船首に髑髏をつけた海賊船みたいな軍艦は。明らかに正規軍じゃなくて海賊的な雰囲気だよな、アレ。
『男には負けると分かっていても戦わなければならない時がある』
突如、全周波回線で流れてきた男の映像に目が釘付けになる。どうやら発進元は件の曙丸らしい。ということは、あの全身を銀のジャケットで覆った怪しい男がキャプテン・ブラボーか。
『真っ直ぐ突っ込みますか、親分!!』
コートの男の後ろに控えていたアロハシャツの男がキャプテン・ブラボーに声をかけた。
『親分と呼ぶな、キャプテンと呼べ!!……何故ならその方がかっこいいから!!』
『へい、頭!!』
お前らはコントでもやっているのか。伝説の存在ならもう少し真面目にやれよ。
突然現れた曙丸とかいう伝説の集団。こいつらはお笑い要素として伝説なのではないか?と勘ぐったが、実力も伝説という名に恥じぬほど凄まじかった。3連装4基12門の主砲をもって敵MS隊を次々と屠りながら前進を続ける。
『怯むな!!スペシウム砲が効かずとも、我らの兵器を全て集めれば破砕は不可能ではない!!』
全軍を鼓舞しながら敵戦力を正面突破する謎の集団、あんたらは何者なんだ?
だが、敵もさるもの。ここにきて敵も焦りを感じたのか、切り札を投入してきた。そう、火星でも猛威を振るったあの三頭龍は一体だけではなかったのだ。
『おい……あれは何だ!?』
『よ、避けられない!?ぐぁぁ!?』
『まずい、パンサー小隊がやられた!!こっちに来るぞ!!』
『く……来るな、来るなぁぁ!?』
最強、最大の銀の三頭龍――――ハイパーメカキングギドラⅡが猛威を振るう。3本の首から放たれる冷凍メーサーは鞭のように変幻自在にその射線を変えるため、次々と味方機が絡み取られて宇宙の藻屑となって消えていく。だが、地上で逃げ回っていた俺と今の俺は違う。このビクトリーマーズなら、戦えるんだ!!
俺はフットバーを蹴っ飛ばしてビクトリーマーズを突撃させる。次々と俺を狙って放たれる冷凍メーサーを紙一重で回避し、ハイパーメカキングギドラⅡの懐に潜り込む。
「喰らえぇぇ!!」
ジェットランスの戦端からシャトル型ミサイルのトップジェットを射出する。トップジェットは至近距離からハイパーメカキングギドラ首の付け根に突き刺さって爆発した。
「どうだ!!」
凄まじい爆炎に勝利を確信する。だが、爆炎が晴れた先には未だ健在の巨大な龍の姿があった。ただ、先ほどの必殺の一撃を前に無傷というわけにはいかず、左の首は根元から吹き飛ばされていた。
「くそ……こうなったらトップジェット無しでやってやる!!」
最大の破壊力のある武装を失ったからといってあきらめるわけにはいかない。後2本の首を吹き飛ばすことができれば、敵は無力化できるのだから。ビクトリーマーズは再度ジェットランスを構えて突撃の構えを取る。
『待ちたまえ、マーズ少尉!!』
だが突撃はラジコン曹長の声で中断される。メインモニターの隅にはマーズマシンをここまで運んできたゴーライナーの姿もある。
『ここは僕に任せて君も小惑星の破砕に行くんだ!!』
「けど、ゴーライナーじゃあいつは倒せない!!」
『大丈夫だ、このゴーライナーはただの移動母艦ではない!!連結合体!!』
目を見張るシンの前でゴーライナーは5つの車両に分裂し、そこからさらに変形、合体した。
『合体完了!!グランドライナー!!』
……
『くらえ!!グランドストーム!!』
グランドライナーは右腕のガトリングと左腕のMLRSを同時に起動させて怒涛の嵐のような攻撃をハイパーメカキングギドラⅡに叩き込む。ただ、ラジコン軍曹。あんたは何で小学生みたいに必殺技を叫ぶんだ。あんたはいい大人だろうに。
『ここはグランドライナーと僕が引き受けた!!君は小惑星の破砕に向かえ!!』
言動とか巨大ロボとか、突っ込みたいところはたくさんあるけれど、今は小惑星の破砕が優先だ。俺はこの場をラジコン軍曹に任せ、小惑星に機体を向けた。
『もはや……これまでか』
先ほどまで城郭のような風貌を誇っていた曙丸であったが、度重なる攻撃で大破して船体の各部で火災が発生しているようだ。戦闘能力は既に半減といったところか。
『手伝ってくださいよ、戦士長。消化活動でみんな忙しいんです』
艦橋にも映像で見る限り煙が充満しつつあるみたいだ。そりゃあ消化で忙しいだろう。だが、キャプテン・ブラボーはそんなことには気も留めずに中村に命令した。
『中村……船をあいつに向けろ!!エンジン出力全開!!我々は……ネオフロンティアの捨石となる!!』
『キャプテン・ブラボー……』
未だ曙丸艦橋の映像は全周波で垂れ流しにされているので、彼らの状態は楽に分かる。あんたらは何してるんだと突っ込みたい。特攻はまだ早いだろうが。スペシウム砲だって残っているはずだろうに。
「ちょっと待った~!!」
『キャプテン・ブラボー!!援軍ですよ!!マリネリス基地のビクトリーマーズが……』
「まだ諦めるなぁ!!」
そのときの艦橋のやつらの顔は、なんとも言いがたい表情だった。何か、引いている雰囲気だった。……ああ、そうか。俺は今セーラー服を着た変態だったっけ。
『…………キャプテン、目標そのまま、最大船速!!』
『よし……派手に行くぞ剛太!!』
「……すいません、無視は止めてくれませんか?」
腫れ物に振れるみたいな扱いされると、心が折れそうになるからやめて欲しい。ホントに。
そういえば、タリサのMG5の姿が見えない。一体どこに行ったのだろうか?
『おい、シン!?いるんなら手伝ってくれ!!』
あ……いた。曙丸を盾にするように隠れていたから気付かなかった。
『アタシを庇いながら小惑星まで連れて行ってくれ!!スペシウム砲の威力じゃ、至近距離からの攻撃以外にあの小惑星を破砕する方法はないんだ。あんたの馬鹿みたいにデカイ機体ならスペシウム砲の盾になる!!』
「俺の扱いは盾かよ!?」
だが、従うしかない。俺達の希望はスペシウム砲だけなんだから。
「だぁ~畜生!!分かったよ!!その代わり、絶対にスペシウム砲を外すなよ!!」
曙丸の影からMG5を抱えるようにして飛び出し、MG5をしつこく狙うゲイツの攻撃も全てビクトリーマーズの装甲で受け止めながら進む。被弾のたびにコックピットも凄まじい振動に襲われるが、そんなことを気にしている余裕はない。ここで小惑星を破砕できなければ、小惑星はマリネリス基地を文字通り押しつぶしてしまう。
「タリサ!!まだ射点につかないのか!?」
『後5分!!5分だけ耐えてくれ!!』
曙丸の影から飛び出しておよそ数分だが、反撃に出られない俺達は袋叩きにあっていた。ビクトリーマーズも全身の損傷は激しく、既に左足も動かなくなってしまった。だが、それでも止まることはできない。
そして遂に俺達は射点へと辿りついた。
『シン!!MG5を支えてくれ!!スラスターが逝かれて姿勢制御ができないんだ!!』
「分かった!!」
MG5の肩を掴み、姿勢を固定する。姿勢が固定されたことを確認したタリサは、スペシウム砲の砲口を僅かに動かして目標をロックオンした。
『ロックオン……スペシウム砲、発射!!』
スペシウム砲の砲口から放たれた光の奔流は寸分違わず小惑星の中央に突き刺さり、大爆発を起こした。爆発の衝撃で俺達の機体も吹き飛ばされ、破砕された小惑星の破片が凄まじい勢いで機体の装甲を叩く。
先ほどの敵機の砲火を上回る衝撃を受け、コックピットの計器も爆ぜる。そして俺は頭を強く打ち付けたせいか、次第に意識も遠くなっていく。
『おい……シン!!しっかりしろ!!』
タリサが呼ぶ声が聞こえてくる。
『起きろよ……起きてくれよ!!』
段々と視界がぼやけ、薄暗くなっていく。だが、一方でタリサの声は鮮明になっていく。
「シン起きろ!!目覚めろシン!!」
あれ?俺はいつの間に目を閉じていたのだろうか。眩しさを感じて目を開くと、そこにくっきりはっきりタリサの姿が見える。しかもここはビクトリーマーズのコックピットでもなく、宇宙軍学校の隣の宿泊施設の一室だ。一体何故……?だが、自分の状況を把握する前に言っておかねばならないことがあった。
「俺、変態じゃないです」
「お前はシスコンの変態だよ!!」
そう吐き捨てると、タリサは俺の枕元にあった腕時計を投げつけてきた。マユからのプレゼントなのに、なんて乱雑な扱いを……ってうん?現在時刻は0620?
寝ぼけてさび付いている俺の頭がその時刻が指し示す意味を理解するには数秒を要した。
「アァァァ!?寝坊した!?」
「アァァァ!?じゃねえぇよ!!シンまで寝坊してどうするんだ!!ほら早く着替えろ!!30秒で着ろ!!」
そうだ。昨日宇宙軍航宙学校を卒業した俺達は寮から追い出され、翌日の配属先発表まで伏見の軍関係者用宿泊施設に一泊したんだった。通りで生活班のやつらがいないわけだ。そしてたまたま同室になったタリサ共々遅刻してしまったらしい。因みに男女同室なのは、戦場ではそういった区別がないということを知らしめるためらしい。
「……ということはタリサも寝坊してしまったってことか?」
「ああ、そうだよ。だから急いで……」
タリサが最後まで言い終える前に部屋のドアが凄まじい勢いで開け放たれた。扉の向こうでは三科教官が仁王立ちしている。俺とタリサは反射的に背筋を伸ばし、敬礼をした。……俺ははだけた寝巻きというものすごいだらしない格好だったが。
そして額に青筋を浮かべた三科教官は思いっきり息を吸い込み、鼓膜が破れるかと思えるほどの大声で叫んだ。
「ドアホ~~!!!!」
……というわけで、およそ20日間、37000字をかけたエイプリルフールネタでした。尚、うたかたの空夢シリーズに登場した人物及び兵器は本編とは全く関係ありませんのであしからず。
後、読者の皆様の中にハイパーメカキングギドラの元ネタ分かる人っています?自分で言うのもなんですけど、元ネタはそうとうマニアックですからね。しかし、一人も元ネタ分からないってなると、寂しいです。ネタを分かってくれる人がいてこそのエイプリルフールネタですし。
ですから、もしも元ネタが分かる人がいれば、普段は感想を書かない人でも積極的に感想を書いて欲しいです。重ねて言いますが、もしもネタ分かる人が0ってなると、悲しいです。