機動戦士ガンダムSEED DESTINY ZIPANGU   作:後藤陸将

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前作までのシリアスはどこにいったのかって?
まぁ、後1ヶ月もすれば帰って来ると思いますよ。


PHASE-? うたかたの空夢 3

 もう軍人辞めたい。マユの足の手術費用の返済のために最低10年間は御礼奉公しなければならないけど、正直10年後にまともでいられる気がしない。この課には月光少佐と美茄子大尉ぐらいしかまともない人がいないじゃないか……。

 

「よし……これで課のメンバーの紹介が終わったな」

 海パン大佐の発言に心底安堵する。もうこれ以上新たな変態を紹介されることはないみたいだ。それだけでも心が休まる。しかし、このタイミングで海パン大佐は休まりかけていた俺の心と胃に爆弾を投下した。

「さて、課のメンバーを紹介したところで次は君達のコードネームを決めよう」

 ……先ほど紹介していただいた先輩改め変態のコードネームを思うと、背筋に寒気は走る。

「……せめて自分で決めさせてもらえないのですか?」

 タリサ、その気持ちはよく分かる。よくぞ言ってくれた。まぁ、正直自分で決めるのもイタいものかも知れないが、この課の変態的な法則に倣ったコードネームはもっと嫌だ。

「コードネームは基本的に、ペアを組む相棒と相談して決めるものだ。ペアの相手次第では君の方向性も変わるからな」

 なるほど。つまり、自分でコードネームの方向性ぐらいなら決めさせてもらえるということか。だが、この変態たちのセンスというのは正直恐ろしい。一番まともに見える月光少佐たちでさえ少々厨二的なネーミングセンスだ。

「ペアを組む相手については、君達の意思が考慮される。流石に二人とも同じ相手と組むことはできないが」

 ……つまり、タリサと俺のどちらかは必ず月光少佐以外の変態とチームを組まなければならないということか。

「因みに大佐。大佐なら本官がペアになった時にどんなコードネームをつけるのですか?」

 大佐に尋ねたのは単純に渾名みたいなストレートなコードネームになるという期待を抱いたからだ。海パン大佐の場合、名は体を現すという言葉を地でいっているということもある。できれば俺も名は体を現すようなストレートなコードネーム(渾名)がいい。

「君が私のペアになったらか……ふむ。ならばこんなのはどうだろうか」

 そう言うと、大佐は海パンの中に手を突っ込み、中から大佐とおそろいの柄のネクタイとフリップボードを取り出した。あんたの海パンは青狸の四次元ポケットか。だが、驚くのはまだ早かった。大佐が俺たちに見せたフリップボードを見た俺たちの顔は盛大に引き攣る。

「私と揃いのネクタイを大切なところに結んだスタイルを取ってもらおう。名づけてフルチ」

「いいです!!分かりましたから!!」

 最後まで言わなくてもコードネームの由来も俺のやることも全て分かる!!あんなの絶対に御免だ!!あんな格好した日にはマユが俺の半径10mを避けるようになってしまう!!

 

「おい……どうするよ、シン」

 コードネームはこれからの自分のこの課でのやる気を左右するとか適当な理由をつけて俺たちは海パン大佐からコードネームを考える時間を10分もらった。だが、二人ともそんな時間をもらうまでもなく、既に結論は出ていた。問題は、いかにして最良の選択肢を掴みとるかだ。

「海パン大佐は二人で同じ人のコンビにはつけないと言っていたな」

 タリサが神妙な顔で言った。

「ああ、そうだ。つまり、二人とも別々のへんた――もとい、先輩とペアを組むことになるな」

「となると、話がはやいな。アタシはもうペアになる先輩は決めてんだ」

「奇遇だな、俺もだ」

「俺(アタシ)が月光少佐と組む!!」

 俺とタリサの視線が空中で交錯して火花が散る。

「おい、タリサ。お前は美少女少佐と組めよ。バレエでもすればちったぁ色気が出てくるんじゃねぇのか?」

 俺はあくまでにこやかに、紳士的にタリサに美少女少佐とペアを組むことを薦める。だが、タリサも譲るつもりは毛頭ないようだ。

「シンには分からないだろうが、アタシはこれでもなかなか人気があるんだ。胸とくびれしか見ないような馬鹿野郎には色気がないように見えるらしいがな。シン、お前こそラジコン曹長とペアを組んだらどうだ?見た目は大人、中身は子供なコンビだから上手くやっていけそうな気がするぜ?」

 俺とタリサは互いに笑みを浮かべているが、それは犬歯を剥きだしにした威嚇に使われる笑みだ。現に、俺の目もタリサの目も笑っていない。

「考え直せってタリサ。バレエをすれば背筋もしゃきっとして絵になる美人になれるんだ。恋愛対象に犯罪臭がするやつら以外から人気があったほうがいいだろう?」

「お前もそんなモテるやつじゃないだろうが。曹長と組んで活躍でもしないと嫁さんなんて永久にもらえねぇよ」

 あくまでもにこやかに交渉を進めなければならない。ここで逆上でもしたら月光少佐たちに悪い印象を与えてしまい、コンビが組めなくなるかもしれないのだから。

 

 

 笑顔の裏に狂気を隠しながらのやり取りを静観していた海パン大佐が月光少佐に声をかける。

「ふむ……月光少佐、君はどう思う?この二人の内、君が希望する一人を配属するのだが」

 少佐の希望する一人を配属する!?そうなればタリサとの交渉は不毛だ。向こうも容易には引き下がらないだろうから。タリサに視線を送ると、彼女は俺からのアイコンタクトに静かに首を振って、月光少佐にその目を向けた。なるほど、どのような結果になろうと少佐に決定してもらったなら恨みっこなしということを言いたいのだろう。……しかし、タリサの態度がやけに堂々としたものに感じられるが、彼女は自分のどこに自信をもっているのだろうか?

 そんなことを考えていると、どうやら決断したらしい様子の月光少佐がその口を開いた。

「……そうですか。では、私の一存で決めさせていただきましょう」

 思わず緊張して唾を飲み込む。少佐の決断次第では俺は良識を捨てるか憲兵に連行されるか分からない。頼む!!オーブを護れなかったハウメア以外のご利益ある神様!!アルティメットまどか様でも聖衣を纏ったアテナ様でもベルダンディー様でもいいから俺に加護を!!

 祈りもむなしく、非情にも月光少佐はタリサに歩み寄っていく。ああっ女神さまっ!!あえて女神様を選んでお祈りしたのが拙かったのですか!?そして、絶望のどん底に墜ちた俺を尻目にタリサは歓喜の表情を浮かべている。すまない、マユ。俺は内地に帰るころにはもう君の知る良き兄ではなくなってしまっているだろう。

 しかし、タリサの肩に手をかけようとして月光少佐の腕が突然とまった。そして少佐は踵を返すと今度は俺の方に歩み寄る。これは……もしかすると!!

「飛鳥シン少尉。君を我々のコンビとして歓迎しよう」

 そして、月光少佐は俺の肩に手をおいた。どうやら、先ほどタリサに歩み寄ったのはフェイントだったらしい。

「はっ!!月光少佐の下で粉骨砕身帝国のために尽くします!!」

 先ほどの某グルメレースのようなフェイントに内心イラっとしたが、それも月光少佐のコンビに選ばれた喜びに比べれば微々たるものだ。小躍りしてしまいそうなほど俺の心は弾んでいた。

 しかし、その反面で先ほどのフェイントに騙されたタリサはこの世の終わりのような表情を浮かべていた。気の毒だとは思うし、同期として助けてやりたいとは思うが、代わってやろうとは全く思わない。すまない、タリサ。俺には帰りを待っている世界で一番可愛い妹がいるんだ。

 

「よし、飛鳥少尉。私達とコンビになった君に私からコードネームを送ろう。さて……どんなコードネームをつけようか」

 多分に気になるが、月光少佐なら海パン大佐のような憲兵のお世話になるような格好もコードネームもないだろう。

「……そうだな。うん、今日から君はマーズ少尉だ」

 マーズ?……直訳すれば火星って意味だな。マリネリス基地が火星にあるからそこから取ったのか?少々安直な気がするが、厨二なコードネームや変態的なコードネームを付けられるよりはマシだろう。贅沢は言ってはいけない。タリサよりはマシな境遇にいるのだから。

 ふと、タリサのコンビは一体誰になるのだろうかと気になって彼女の方に目線を配る。タリサの前にはタイガー少佐が立っていた。

「マナンダル少尉、君のコンビはこの私、タイガー少佐が引き受けることとなった」

「よろしくお願いします、少佐……」

 キノコでも生えてきそうなほどタリサはどんよりしている。まぁ、タイガー少佐であればそれほど問題はないとは思うが……。

 

 

 

 

『防空識別圏で多数の飛行物体を感知しました。総員、緊急出動(スクランブル)体勢に入ってください。繰り返します。防空識別圏に多数の飛行隊を感知しました。総員、緊急出動(スクランブル)体勢に入ってください』

 一瞬で周囲にいる先輩達の顔色が真剣なものに切り替わった。どんよりしているタリサも、浮かれていた俺も先輩達の変化を察して慌てて思考を切り替える。

「総員、緊急出動(スクランブル)!!月光少佐、タイガー少佐、ムスタング大佐、革命大尉はハンガーに向かうんだ!!残りは私に続け!!」

 ドルフィン准将が号令を取り、特殊兵士課の兵士達は素早く行動に移った。海パン大佐達は何に乗って出撃するのか気になったが、今はとにかく基地に迫る脅威を排除することが先だ。一刻も早くハンガーに向かわなければならない。

 どんな機体が与えられるのかという期待もあるが、初見の機体に乗って操縦に慣れる前に撃墜というのも嫌なので、できれば訓練校時代に乗っていた瑞鶴の系列機か吹雪と操縦の感覚が近いと言われている不知火弐型を宛がってほしいものだ。

 

 

 ……前言撤回する。月光少佐はまともだと言ったが、それは違った。彼らも立派な特殊兵士課の一員だった。

「これが君の機体……TSF-JC120-6、スペースダンシングMS一号機の『桜野くらら』だ!!」

 女性型のロボット……しかも全長はおよそ18mといったところか。下から見上げると、その無駄に豊満に設計された胸部と、スラスターを内蔵したスカートしか見えない。その外装と塗装は何故かセーラー服を連想させるものとなっている。現在は機体の全面が灰色なので、おそらくこの機体はフェイズシフト装甲を採用しているのだろう。しかし、はっきり言って、見た目はセーラー服を着込んだ発育のいい白人の女性だ。これでいいのか?

「スリーサイズは上から893・549・926だ。この比率には設計主任の堀井技官の凝りがあるそうだ」

 誰もこのMSのスリーサイズなんて聞いていない。そんなことよりも、重要なことを教えてもらっていない。

「このMS、武装は何があるんですか?」

 俺は疑問を恐る恐る堀井と名乗った技官に尋ねた。こんな変態度重視のMSだ。武装も安心できない。

「武装は、特注したハイパワーニードルガンとビームリボンしかない」

 ビームリボンって何だと思っていたら、堀井技官が手元の端末から画像を出して解説してくれた。

「ビームリボンっちゅうのは鞭のようにビームの形状が変化するビームサーベルだと思ってくれればええ。それに、出力を調整することでビームサーベルとしての使用もできる。ハイパワーニードルガンっちゅうのは高出力のレーザーや。これも、有効回数は5発限りや」

 ……激しく不安だ。しかも、唯一の遠距離兵装であるハイパワーニードルガンもエネルギーの関係上5発しか撃てないそうな。

 

「堀井技官、他の機体は無いんですか?操縦経験の無い機体に搭乗するのは不安でして……」

 何とかこの機体から逃げたいというのが本音なのだ。しかし、操縦経験の無い機体への不安を訴えればあちら側も考慮はしてくれるだろう。堀井技官はなにやら端末を操作して調べてくれている。

「ちょうど、隣のハンガーにパイロットがおらん機体が2機あるらしい。若干旧式やけど、戦闘には支障はないそうや。今この端末の画面に出すからどっちかを選んでくれ」

 頼む。旧式となれば撃震かジンかストライクダガーか……何でもいいからもう少しまともなMSを俺に……

「左のやつがTSF-JC53-8『丸出ダメ太郎』、見ての通り手がバル○ン星人と同じ形状やから武器は持てへん。武装は腕部内臓の75mmバルカン砲だけや。バッテリーの残量が下がるとCPUの性能も低下するっちゅう欠陥もある。そしてその隣のやつがTSF-JC57-3『度怒り炎の介』、装甲が薄くて被弾のたびに内部で火災が発生するから5式ライターという渾名が付けられとる。活動時間を超えて運用を続けると動力炉の熱で推進剤が爆発してしまうから気ぃつけなあかん。武装は日本軍の規格のやつやったら基本的に使える」

 武装が75mmバルカンだけの達磨と炎上確実のライター。正直、どちらに乗っていても命が助かるとは思えない。他に何か無いかと自棄になって周囲に目を配る。こうなったらMAでもいい。せめて、まともな機体が欲しい。

 

「マーズ少尉、緊急出動(スクランブル)だ。これ以上時間は割けんぞ」

 月光少佐が俺に出撃を促す。確かに、これ以上時間を割けば敵機の接近を許すことになりかねないのも事実だ。こうなったら、フェイズシフト装甲を装備しているので万が一の時生き残れる可能性が高い『桜野くらら』で……うん?そういえば、ハンガーの隅にあるあれ……柱だと思っていたが、スラスターが見える!!柱じゃない、あれはMSの足だ!!

 目の前の巨大な足に驚いた俺が見上げると、そこには全長60mはあろうかという超巨大なMSがあった。

「堀井さん、あれあるじゃないですか、あれ!!」

 でかくても、こいつは見た目はまともだ。この超巨大MSの方がまださっきの変態機よりはマシだと思う。だが、俺の希望は聞きなれた声によって打ち砕かれた。

「こいつはアタシの機体だとよ」

 タリサは巨大なMSの前で踏ん反り返っている。しかし、何故お前がこいつのパイロットなんだ。疑問符を浮かべていると、隣にいた堀井技官が説明をしてくれた。

「MG-005-RXマウンテンガリバー5号 へ-0001号……略してMG5」

「いや、誰も名前は聞いてません」

そんなことより、何で俺がロボ娘のパイロットでタリサが巨大MSのパイロットなのか納得できる答えが欲しい」

「こいつは火星で取れる特殊な鉱物を使って造られたスペシウム砲をもっとる。スペシウム砲は、理論上はアメノミハシラに設置されたデラック砲以上の火力があるんや」

「なら、こいつより俺の方が適任じゃないんですか?射撃や砲撃の成績なら俺の方がタリサより上ですよ?」

 ここで俺の方がこのデカブツのパイロットの適正があることをアピールして、何とかこのデカブツのパイロットの座を得たい。主に俺の命と胃壁のために。

 しかし、現実は無常だった。堀井技官はMG5を見上げながらポツリポツリと話し出す。

「実はこいつには重要な欠陥があってな……」

欠 陥機という言葉に少し警戒するが、先ほどの『丸出ダメ太郎』や『度怒り炎の介』ほどの欠陥でなければ問題はないだろう。まさか、これからタリサを乗せて出撃するという機体にあの2機ほどの深刻な欠陥はないはずだ。そう俺は思っていた。だが、次に堀井技官の口から紡がれた言葉は俺の予想の斜め上をぶっちぎった。

「コックピットが狭いねん」

「どうしてそんな……」

 コックピットブロックの装甲かコンピューターでも増設したのだろうか?と俺は予想する。

「設計ミス」

「…………」

 再び俺の予想は外れた。というか、まず設計段階で気づけよ。

「そやからパイロットは、こちらのお嬢さんくらいのちびスケでないとあきまへん」

 なるほど、ならば仕方がない。しかし、ちびスケめ……体格で得しやがって。因みにあのちびスケのコードネームはマウンテンガリバー少尉らしい。あのちびスケに巨人って渾名をつけたことは痛快だった。

 

 だが、一方の俺は結局あのロボ娘に乗るしかないのか……あまりタリサのコードネームを笑ってはいられないみたいだ。


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