機動戦士ガンダムSEED DESTINY ZIPANGU 作:後藤陸将
ダイナミックでダイナマイトで大好きなウルトラを知っている同志ならば察してくれていると思うのですが……そういうことなんですよ。けど、これだけ好評だと正直そのことを書き辛い……どうしよう。
「何て格好をしてるんですか!!ここは軍の施設でしょう!!憲兵隊に突き出しますよ!!」
目の前にブーメランパンツ一丁の変態がいたら普通は『キャー!!』などと甲高い悲鳴をあげているはずだが、目の前の女性は悲鳴などあげることなく怒鳴り散らしている。やはり、彼女には女らしさが欠片も残っていないのだろうか。
目の前の状況に対してこんなズレた感想を抱いていたあたり、俺はどうやら現実逃避に走っていたらしい。だが、次第に俺も正気に戻ってきたみたいだ。現状を冷静に分析できるようになっていた。
――――先ほど特殊兵士課の持ち場近くで目撃した変態たち
――――現れる気配もない憲兵
――――目の前にいるブーメランパンツ一丁の変態
――――特殊兵士課のものと名乗った目の前の変態
――――俺達は特殊兵士課に配属された
…………どうやら俺とタリサは変態の巣窟に配属されたらしい。しかも、いつの間にか北条軍曹は逃亡してこの場にはいない。あの野郎、今度あったらただではすまさん。
「おっと……うっかりしていた!私としたことがレディーの前で!」
俺は思わず息を撫で下ろした。その格好が趣味なのかどうなのかは知らないが、どうやら人前での最低限のマナーは心得ているみたいだ。女らしさの欠片のないタリサでも一応はレディーとして扱って配慮をしてくれ…………
「ネクタイが曲がってたか!」
「「違う!!」」
ネクタイよりも服を着るほうが先だ!!けど、大佐はパンツ一枚でいることを気にしている様子を全く見せない。あの人は筋金入りの変態なのかもしれない。
「あんた、服はどうしたんだ、服は!?何故海パン一枚」
「海パンキック!!」
「グフゥ!?」
俺が言い切る前に大佐のキックが飛んできた。大きなモーションも無く繰り出された蹴りに反応することはできず、腹部を蹴りとばされた俺は壁に叩きつけられた。
「飛鳥少尉、上官に対する言葉遣いというものを弁えたまえ。ここは『軍隊』という組織だ。上官の命令がどんなに理不尽だろうと国のためであれば従わなければならない。故に、『軍隊』では何よりも規律が重視されている。目に余る場合には鉄拳制裁もありうるからな、以後気をつけたまえ」
……あんたの服装は規律以前に公序良俗を乱しているだろうがと言いたいが、ここで口答えしたらまたさっきの強烈な蹴りを喰らいかねないだろう。
「先ほどは失礼しました、大佐殿」
「よろしい。……さて、君たちの抱いた質問に対して答えようか。何故私がパンツ一枚しか着ていないのかという質問でよかったかね?」
「そうであります!!」
頼むからまともな理由があってほしい。じゃないと、正直この部隊に耐えられそうもない。
「まず、動きが機敏になる!人間以外の動物は全て裸だ!これが自然の姿だ!」
……確かに、軍人たるもの動きが俊敏でなければならないことは事実だ。だが、特殊兵士課は歩兵ではないし、そこまで俊敏さを要求されないはずだ。まぁ、何処の部隊であろうと軍人であれば俊敏なことに越したことは無いのだが。
「次に、実を飾らぬことによって敵とも心を割って分かり合うことができる。敵の命であっても、投降を促すことで救える命があるのなら、私は救いたいと思う。これが私の
ものすごいかっこいいことを言っていると思うのだが、どこかズレていないだろうか?
その時、軽快な電子音がフロアーに響き渡った。反射的にポケットに手をあてるが、自身の携帯は鳴動していない。バイブレーション設定にしているから、もしも俺の携帯が鳴動していたら分かるはずだ。
隣のタリサも首を傾げているし、タリサの携帯でもないらしい。だけど、海パン一丁の汚野大佐は携帯なんか持ち歩けるはずが……
……ということは、携帯をしまっているのは大佐か?しかし、大佐が携帯を持っているとすると、それは『あそこ』以外ありえない。だが、まさか『あそこ』に入っているなんて……
「私の携帯だ」
汚野大佐は海パンに手を突っ込み、中から携帯電話を取り出した。ネクタイの柄とおそろいな派手な携帯をまさか海パンから出すなんて予想外だ。今に鳩や万国旗、茄子なんかもあそこから出てくるかもしれない。
「うむ……そうか。分かった」
汚野大佐は通話を終えると携帯を後ろ手で放り投げ、回転して前方に戻ってきた携帯を海パンの中にしまった。
「既に大隊の他のメンバーもブリーフィングルームに集まって君達を待っているらしい。彼らを待たせるわけにもいかんから、すぐに移動しよう」
汚野大佐に連れられて俺達はブリーフィングルームに辿りついた。扉の向こうにはいったいどんな変態がいるのだろうか。想像するだけで胃が痛くなりそうだ。しかし、ここで立ち止まるわけにもいかない。俺は意を決してブリーフィングルームに足を踏み入れた。
「よく着たな、新人。私がマリネリス基地守備隊第12大隊特殊兵士課を率いる海野土佐ェ門准将だ」
……確かこの人は先ほど廊下で見た
「宇宙軍屈指のエリート部隊である我々は、情報管理の関係上基本的にコードネームで呼び合うことになる。私のことはドルフィン准将と呼んでくれたまえ」
どの辺がドルフィンなんだろうか。そんなことを考えていると、汚野大佐が補足説明してくれた。
「准将は元々海軍に所属する軍用イルカの調教師で、その後江戸切子職人、漫画家を経て軍人になった。宇宙軍に配属された現在でも調教師時代に育成した予知能力を持つイルカを連れまわしている。また、海軍時代に
海の無い火星に可潜艦持ってきてどうするつもりなのだろうか。経歴も意味不明だ。そして大佐、あんたのコードネームはそれ以外に思いつかねぇよ。言われるまでもない。
ドルフィン准将の自己紹介が終わると、次に隣の髭面の男性が自己紹介をする。
「私は
……コードネームにする必要を感じない。本名をコードネームに使ってしまったらコードネームを使う必要がないと思うのだが。
「ムスタング大佐は7年前にイシュヴァール殲滅戦にも従軍し、イシュヴァールの
また海パン大佐が補足説明をしてくれた。しかし、イシュヴァールの
自己紹介はまだまだ続く。
「私はマリネリス基地守備隊第12大隊特殊兵士課戦車隊を率いる狩生州乙人少佐だ。コードネームは愛車からとってタイガー少佐となっている」
「タイガー少佐の妹は日本最古にして最強の戦車道の流派の家元だそうだ。姪は学生時代に戦車道の全国大会に初出場校を優勝に導くほどの鬼才だ。因みに彼の姪二人は彼の部下として配属されている。機会があれば交流を深めてみるといい。初心なところはあるが、実力も人柄も確かだ」
海パン大佐、あんたいろんなことよく知っているな。副隊長は伊達ではないってことか。
「マナンダル少尉、飛鳥少尉。私は聖羅無々少佐です。コードネームは月光少佐です、よろしく」
「「よ、よろしくお願いします」」
次は、見た目も行動も常識的なブルーシャドーが特徴のおっさんだった。コードネームは若干厨二臭いが、これまでの変態的なメンバーの後に常識的な人間が出てきたため、俺はギャップで少し慌ててしまっていた。
「そしてもう一人……」
月光少佐に促されて彼の隣にいた眼鏡に髭の男性が前に出た。
「私の相棒、聖羅美茄子大尉。コードネームは美茄子大尉です」
「美茄子大尉です、よろしく」
この課にも普通の人間がいるみたいだ。てっきりまだまだ変態がゴロゴロしていると思って身構えていたが、逆の形で意表を突かれてしまった。できれば他の人物もこの人たちみたいにまともな人であって欲し……
「戦争を!根絶するために!!世界を!変革するために!!ここに参上!!」
……突如隣の部屋から凄まじい変態が飛び込んできた。ちょんまげ、前のはだけた上着、マント、ミニスカート、ルーズソックス、下駄、濃い体毛……弁解の余地のない変態だ。何者だあんた。そう思っていたら、海パン大佐が補足説明を冷静にしてくれた。
「彼は伝嬢雨亭裸大尉だ。コードネームは革命大尉。中学時代は
こんな危ない思想を持つ輩を採用するなよ。
「そして今回拙者にはパートナーがついている!!」
変態親父は俺達のショックなど気にも留めずに恐ろしいことをほざく。こんな危ない輩にパートナーなんて止めてくれ。頭痛が倍以上になりそうだ。
「宇宙軍火星方面軍の核弾頭ミサイルと呼ばれる!〆宮庵水大尉だ!!」
「よろしくね♥」
……伝嬢大尉と同様の格好に眼鏡、王冠を被った褐色肌の変態親父がそこにいた。正直、もう帰りたい。マユ、お兄ちゃんはもう限界かもしれない。
「武力による紛争根絶!!それこそが革命!!革命大尉がそれを成す!!拙者と共に!そうだ、拙者が!拙者達が革命大尉だ!!」
二人で何か物騒なことを高らかに宣言しているが、いいのだろうか。明らかに軍人として拙いだろう。大佐、あんたさっき俺に帝国軍人たるもの常に余裕を持って優雅たれって言ってなかったか?
「飛鳥少尉、マナンダル少尉、何を草臥れている。まだ課の半分ほどしか紹介していないぞ」
なんかもう色々とあって草臥れている俺達にはお構いなく、海パン大佐は次のメンバーを前に連れてきた。というか、まだ半分しか紹介していないのか!?……って、うん?足元にはしご車のミニチュア?はしごが伸びてきて俺とタリサに名刺を差し出している。
「ラジ野……コン太郎?」
小学生を対象にした漫画の主人公みたいな名前だ。今までの流れから推測すると、このはしご車のラジコンを操縦しているのが……
「空からは航空軍団!地上からは戦車軍団!海からは海洋軍団!その軍団を統括するのがこの私!僕はラジ野コン太郎曹長――コードネームラジコン曹長だ!!」
首からいくつものコントローラーをぶら下げたTシャツにキャップ、出っ歯が特徴のいい年した大人が多数のラジコンを引き連れて前に出る。芸が細かいのは認めるが、いい年してあの格好ははずかしくないのだろうか?
「あの……曹長はおいくつですか?」
階級が下のはずなのに何故かタリサは敬語を使って子供っぽい大人に問いかけた。
「大きなお世話だ!!僕がいくつだろうとお前には関係ない!!」
タリサに齢もことを尋ねられたラジコン曹長は逆上している。ホントに子供っぽいな……
「曹長、一人称『僕』ってのは止めた方が……正直、子供っぽいですよ」
俺も何故か敬語で曹長に話しかけている。何でなんだろうか?
「う……五月蠅い!!僕は僕だろ!!僕だから僕なのだ!!子供の頃から僕と言ってるんだから僕だ『女の子からのファンレターの文章は半分くらい自分の事が書いてあるキック!!』グフォ!?」
ラジコン曹長は突然側面から突っ込んできた白いおっさんのトウシューズに吹き飛ばされた。見事な蹴りでラジコン曹長の出っ歯をへし折った謎の生物は見事な回転を決めて着地した。
「私が!!麻生瑠璃華少佐よ!!」
目の前でフェッテ・アン・トゥールナンを決めたのは、バレリーナの格好をしたトドのような髭親父だった。おちゃめのつもりなのだろうか、ビール腹には白塗りにして絵をかいてある。
「ラジコン軍曹、軍隊組織において上官に向けてそんな口調で接することはご法度よ~。以後、気をつけなさ~い」
もう、この課にまともな人物を期待することは止めようと思う。
「私のコードネームは美少女少佐!!だけど、できれば瑠璃リンってよんでねぇ~」
「麻生少佐は少女漫画家志望でな、これまでに漫画雑誌の投稿でCクラスまで入ったことがあるらしい。因みにバレエの腕前も相当なもので、男子バレエ団を率いた東京オヘラ座での公演では女子チームを差し置いて最高の評価を勝ち取ったこともある。」
相変わらずどうでもいい情報をありがとうございます、海パン大佐。
「次は……うん?タイガー少佐、ミレニアム少尉はどこだ?」
どうやら次のメンバーは不在なのだろうか?あたりを見回した海パン大佐はタイガー少佐に声をかけている。
「大佐、ミレニアム少尉は1000年に一度しか出てこないという設定です。魅力的な美人がいなければ設定を無視して出てくることはないでしょう」
なんだそいつは。1000年に一度しか活躍しないってどういうことだ。……まぁ、いないならそれでもいいか。頭痛の種になる変態は少ないほうがいい。
「では……お祭り軍曹!!前へ!!」
海パン大佐の呼びかけに答えて、部屋の隅に待機していた神輿を担いだ集団が動き出した。
『ソイヤ!ソイヤ!ソイヤ!』
威勢のいい掛け声を上げながら近寄る集団。日本の祭りにいたら違和感はないだろう。何故ここにいるのかは謎だが。
「私が!!高瀬祭太郎軍曹であります!!」
神輿の担ぎ棒に乗っている男が敬礼する。……神輿って確か、神様が鎮座するものを意味するって座学で習ったぞ。その上に人が乗ることに対して思うところはないのだろうか?それとも、オーブ人であるから俺がこういう風習に疎いのだろうか?
「神輿の担ぎ手は皆宇宙軍特殊部隊であるM機関のメンバーだ。また、彼らは普段神輿といっしょにマリネリス基地内の神社で待機している。今日はこの基地の創立祝ということで出てきているそうだ。彼らの部下には青少年の非行防止のために結成された少年お祭り隊がある」
このままずっと待機していればいいのにって思った俺は悪くないと思う。
そういえば、さっきからお祭り軍曹たちの隣にいた4人組だが、微動だにしていない。もしかして、あれはラジコン曹長の人形か何かか?
「海パン大佐、先ほどから気になっていたのですが、あそこの4人組は人形ですか?」
思い切って大佐に尋ねてみる。
「いや、彼らは人形ではない。……レインボー軍曹!!」
「はっ!!」
動いた!?さっきまで微動だにしていなかったのに。
「彼らはレインボーチームと呼ばれていてな、立番の達人だ。左から立番レインボー軍曹、立番ブラック伍長、立番フラットブラック伍長、立番ディーブラック伍長だ」
……レインボーと言う割には4人だし、全員黒だから地味だ。この課のメンバーの中で一番地味だと思う。
「立番ブラック伍長は硬派好き、フラットブラックはボーイズラブを好んでいる。全員の好みとしては、フライトアテンダント、インテリ女教師といったところか」
正直、彼らの好みなんてどうでもいい。
「残りは二人だな……」
海パン大佐の零した言葉に正直安堵を覚える。もう、あの変態は二人だけ。あと二人の自己紹介さえ耐え抜けば、とりあえず開放される……これからあんな変態と勤務する苦痛についてはひとまず置いておこう。そんなこと考えたらもう軍にいることに耐えられなくなる。
「まず、
目の前に出てきたのは将棋の駒の着ぐるみを着たおっさんだ。
「紹介に預かった、居尾車駒損ノ介中尉だ。私のコードネームは将棋中尉である」
正直、何がしたいのかさっぱり分からない。後。今気がついたのだが、この特殊兵士課では変態度が高いほど階級が高い傾向にあるらしい。月光少佐や美茄子大尉、ムスタング大佐、タイガー少佐は例外か。
「中尉の被り物はただのコスプレではない。あの被り物は様々な防弾素材を組み合わせた五重構造になっており、12・7mm弾でも貫通しない防御力を備えているのだ。こと防御力で言えば、その実力は課の上位に名を連ねる」
敏捷さを強調していた海パン大佐の時も思ったが、そんなに俺達は白兵戦をする機会が多いのか?
「そしてこちらが
……将棋中尉との差異は、被り物が麻雀の中の牌になっているだけだ。そんなに防御力の高い兵士が必要なのか?
「彼は脱衣マージャンが得意でな、かつては名うての勝負師だったらしい。この課でも脱衣マージャンでは負けなしだ」
脱衣マージャンなんて軍人の品格を問われないのだろうか。そもそも、どうして男同士で脱衣マージャンをしているのだろうか……
マユ、もうお兄ちゃんは限界だ。
母さん、立派な軍人になって帰るって約束は護れそうにない。
不動、俺の分までこの国を守ってくれ。
――もう、俺は軍人を辞めたいと心から思った。
疲れた……特殊兵士課の面々の紹介だけで終わってしまった……