機動戦士ガンダムSEED DESTINY ZIPANGU   作:後藤陸将

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お久しぶりです。
大体半年振りですかね?

チマチマと毎晩書き続けてどうにかさきほど書きあがりました。


PHASE-25 始まりの砲火

C.E.79 7月2日

 

 アメノミハシラ付近の宙域に大西洋連邦宇宙軍第一任務部隊(TF1)と大日本帝国が擁する第四艦隊の姿があった。

 両軍合わせて百数十隻の艦艇が対峙する中で、最初に動いたのは大日本帝国宇宙軍だった。

 

「要塞の庇護から出てくるとはな……」

 大西洋連邦宇宙軍第一任務部隊(TF1)の司令官マクスィー・グフラン中将は旗艦アンドリュー・ジャクソンのCICにて日本軍の行動に首をひねっていた。

「普通ならば、要塞の庇護の下で戦わんとするでしょうな」

 彼に追随して副官のデリー・ハンスプ中佐も疑問を呈した。

「こちらの射程ギリギリまで距離を詰めさせ、要塞砲で確実に仕留めるのが常道です。しかし、何故堅実な常道を棄てたのか……」

「さてな……けれど、あちらさんもバカではあるまい。何かしらの策があると見るべきだ」

 グフランにも、日本軍の司令官の腹の内はまったく分からない。ただ、彼自身は敵将の取った策をベターな策だと考えていた。

 『オペレーション・メイス』の戦術的な目的は日本にとって重要な物流拠点であるアメノミハシラを守護する艦隊を撃滅し、周辺の制宙権を奪取することで日本軍の兵站と流通にダメージを与えることである。

 つまり、こうして艦隊を引きずり出すことに成功した時点で、作戦の第一段階はクリアしたこととなる。要塞砲の射程内に篭って防衛戦を展開された場合には非常に厄介な事態になっただろう。

 仮に敵艦隊が要塞砲の射程内に留まり続けた場合には態々引っ張ってきたモニター艦による砲撃と浮遊機雷の散布によって引きずり出さなければならなかったのだから、その手間も省いて作戦の第一段階をクリアした意味は大きい。

 そして、敵艦隊からしてみても、この展開はこのまま消極的になっているよりも都合のいいものだ。機雷を散布された場合、掃海は非常に危険で手間がかかる作業となり、物流には官民問わず大きな問題が発生することが見込まれ、モニター艦による砲撃を受ければ(まぁ、ラッキーヒットしか当たりそうに無いのだが)要塞機能に支障をきたすことも考えうる。

 それならば、最初から打って出た方が被害を最小限度に防げるかもしれない。尤も、それは日本艦隊がこちらの艦隊を撃滅できればの話であるが。

「仮にどのような策があったとしても、我々はそれを食い破るだけだがな。全艦、砲撃準備!!一斉射後にMS隊を順次発艦させるぞ!!」

 恐れなどまったく感じさせない堂々とした声でグフランは指揮下の艦隊に命じた。

 

 

 

 

 宇宙空間を進む大西洋連邦艦隊の先頭、そこには艦隊をグレーに染めた特徴的な艦がいた。

 主砲である230cm2連装高エネルギー収束火線砲「ドルヒボーレン ドライ」2基4門と副砲の110cm単装リニアカノン「バリアントMk.8 mod3」2基2門を放ちながら勇猛果敢に敵陣に迫るその艦の名は、ドミニオン。前回の大戦の最終決戦とも言える海皇(ポセイドン)作戦にも参加し、大きな成果を挙げたことでも知られる武勲艦である。

 元々がMS運用実験艦としての側面が強く、通常の規格に合わない高性能機や少数生産機を運用する能力に秀でた艦ということもあり、ドミニオンには撃墜王(エースパイロット)とその専用機が多数搭載されていた。

 艦内では二個MS中隊24機の出撃準備が滞りなく完了しており、後は順次特徴的な足のような形をした艦首カタパルトから発進するのを待つのみとなっていた。最初にカタパルトに接続して発艦態勢に入ったのは、GAT-04ウィンダム。現時点での大西洋連邦の主力MSである。

 唯一、フェイズシフト装甲を装備していないという点で防御力だけは前回の大戦の中盤では悪鬼の如き猛威を振るったGAT-X105ストライクに及ばないが、それ以外の面ではストライクの性能を上回り、生産性も非常に高い優れたMSだ。

 このボディーを燃え盛る業火のような朱に染め、肩に焔とFを象った特徴的なマーキングをしたこのウィンダムこそ、大西洋連邦の誇る美貌と技量を兼ねそろえた撃墜王(エースパイロット)、フレイ・アルスター少佐専用のウィンダムである。

「始まったわね……」

 発艦態勢に入ったMSのコックピットブロックの中でフレイは呟いた。

 モニターにはドミニオンのブリッジのカメラが捉えた映像が映し出されている。

 周囲の艦からは無数の光条が放たれ、闇一色の空間を貫く。画面の向こう側からもこちらの砲撃に応えるかのごとく無数のミサイルの灯やビームの光条が放たれ、こちらの砲撃と交差して暗黒の宙を彩っていた。まさしく、人と人が殺意をぶつけ合う戦争という劇の幕が上がったところだった。

 しかし、人が人を殺すために磨き続けた刃が次々と交差する戦場を前にしていながらも、フレイのバイタルデータは全く動揺を示していなかった。寧ろ、僅かながらの高揚が見て取れる。

 初陣以降、幾多の戦場を己の技量で切り抜けてきた彼女は、もはやアークエンジェルに乗っていたころの戦闘の度に頭を枕に埋めて縮こまっていた少女ではないのだ。今の彼女は、己の在り方と戦いに少しの疑問も抱かない一人前の戦士だった。

『GAT-04ウィンダム、カタパルト接続、発進スタンバイ』

 艦橋の発艦管制オペレーターの声がフレイの耳に聞こえてくる。

『システムオールグリーン、進路クリア、ウィンダム発進どうぞ!!』

「フレイ・アルスター。ウィンダム、行くわよ!!」

 電磁カタパルトによって加速された朱のウィンダムが漆黒の大宇宙へと飛び立つ。

 朱に染まったウィンダムのメインカメラの見据える先には、こちらを迎え撃たんとする日本軍のMSの姿があった。

 

 

 

 黒一色の宇宙空間のあちこちでけたたましいフラッシュが炸裂している。それは、推進剤が引火して爆発四散するMSの末期の姿だったり、戦艦が搭載する巨砲が吐き出す太いビームの光だったり、弾薬庫に誘爆して轟沈した艦船の断末魔だったりと様々な要因で生み出されていた。

 この光景を直接目撃していれば、繰り返される直視できない光の点滅で目をやられ、まともに瞼を上げることはできなくなっていただろう。

 幸いにも、大西洋連邦の艦やMSではモニターに映し出される光は光量を調整して表示する機能が搭載されているし、日本軍のパイロットが利用している高解像度網膜投影システムでも同様に強すぎる光にはフィルターがかけられるようになっているため、戦士たちはこの戦いの中でも目を見開きながら戦うことができていた。

 シンも、絶え間なく浴びせられる光に惑わされることなく乗機を最大速力で飛翔させていた。雲龍航宙隊に所属する24機の不知火弐型が腰部噴射ユニットから青い炎を吐き出しながら敵MS隊に迫る。

『全機、敵機との距離が200になるまで現状の速度を維持!!』

 中隊長、響剛輔中佐の檄がとぶ。

『第2小隊は第1小隊と連携して左翼の敵に当たれ!!第3小隊は左翼だ!!』

 命令と同時にシンの所属する第3小隊の小隊長、甲田大尉(イーグル2)の機体が左に傾斜して針路を変更する。それに続き、雁屋少尉(イーグル4)シン(イーグル11)、タリサ《イーグル12》が針路を左に変更した。

 速度を維持したまま敵機に向かっていったため、すぐに敵機の姿が頭部メインカメラに捉えられる。敵は4機のウィンダムと8機のダガーL。ストライカーパックはどうやらウィンダムがエールストライカーでダガーLがドッペルホルン連装無反動砲のようだ。

『聞いたな!!シン(イーグル11)タリサ(イーグル12)はエレメントを組んでウィンダムと当たれ!!』

「「了解!!」」

 甲田の号令と同時にシンはトリガーを引いた。目標は、流れ弾でも喰らったのかストライカーパックを損傷したウィンダムだ。78式支援突撃砲が火を吹き、緑の閃光がウィンダム目掛けて放たれた。閃光はウィンダムの掲げた盾に弾かれて四散する。

 さらに、不知火の肩部ユニットからミサイルが発射され、3方向から包囲するような軌道を描きながら敵機に迫る。標的となったウィンダムは周囲の3機と協力してミサイルを撃墜しつつ可能な限り回避しようとするが、ここまで全てが陽動だ。

「突っ込めタリサ!!援護は引き受けた!!」

『おうさ!!』

 シンの指示を受けるまでもなく、タリサは既に突っ込んでいた。フットバーを蹴っ飛ばし、噴射ユニットを吹かしながらタリサは敵に肉薄する。敵機の弾幕は不規則に噴射ユニットの角度を調節してジグザグに飛行するタリサを捉えることができない。

 さらにシンは肩部ミサイルユニットからミサイルを立て続けに発射してウィンダムの逃げ道を塞ぐように追い立てながら、同時にビームで牽制する。逃げ道を狙われていることに気がついたのだろう。損傷のあるウィンダムを庇うように一機のウィンダムがタリサの前に立ち塞がり、タリサの突進に対するカウンターを狙ってか、ライフルを棄ててビームサーベルを引き抜いた。

 真っ直ぐに突っ込んでくる相手であればカウンターの要領でビームサーベルを叩き込むのは難しいことではないと、この時敵パイロットは考えたのだろう。だが、タリサを相手にこの判断は悪手だった。

『舐めんじゃねぇ!!』

 タリサは山岳の戦闘民族の末裔、近接戦闘に秀でた一人前のグルカだ。74式近接戦闘長刀を振りかざしたタリサの不知火弐型は敵機との接触寸前に脚部と腰を捻り、ウィンダムの振りぬいたビームサーベルを掠めながらウィンダムの脇へと移動していた。

 敵パイロットが脇に移動した不知火弐型にサーベルを向ける前に、74式近接戦闘長刀がウィンダムのコクピットのある腰を貫通した。タリサはそのまま勢いよく長刀を振りぬき、ウィンダムを両断、さらに庇われていた機体にも肉薄し、こちらのコックピットも長刀で叩き斬った。

 両断されたウィンダムは、そのまま機能を停止してただの鉄屑に成り下がり、叩き斬られたウィンダムは爆発四散した。これで、敵の半数を撃破。残りは二機だ。

「次だタリサ!!」

『言われなくても!!』

 周囲の状況をレーダーや目視で確認し、付近にはあの2機のウィンダム以外の脅威がないことを確認したシンは矢継ぎ早に指示を出す。

 どちらかというと突撃志向の強い二人だが、紛いなりにも士官学校をトップクラス(同時にトップクラスの問題児でもあったが)の成績で卒業しているのだ。攻撃一辺倒ではなく、周囲の状況を確認した細かな連携や状況判断ぐらいはやってのける力は備わっている。火星では経験不足から攻撃に逸ることが多く、結果窮状を招くことも少なくなかったが、場数を踏むことで多少はその気も抑えられるようになったのである。

 立て続けに二機が長刀で斬られる様子を見て、臆したのだろう。生き残ったウィンダムのうち、一機がライフルと頭部バルカンを連射して必死に弾幕を張ってこちらを近づけまいとする。

 先ほどと同様に鋭角な機動を取りながら敵機に近づこうとするタリサだが、今度は先ほどのように容易に接近することはできなかった。敵機はミサイルを頭部バルカンで薙ぎ払い、ビームを回避しながら距離を取ろうとするからだ。

 だが、トリガーハッピー状態の敵機には、どうやらタリサしか目に入っていないらしい。先ほどの長刀での解体ショーを見せつけられたということもあるだろうが、シンに対する注意は散漫というほかなかった。

 シンは救援に入ろうとするもう一機のウィンダムを牽制して足止めに徹する。どのみち、頭部バルカン砲の弾数など限られているのだ。あのように無茶苦茶に撃ち続けていればそう遠くないうちに弾切れになる。

 あの程度で恐慌状態に陥るパイロットであれば、頼みの綱であるバルカンを失えばさらに冷静さを失うだろう。完全に冷静さを失いパニック状態になった新米パイロットなど、火星で実戦を少なからず経験したタリサの敵ではない。

 シンの予想通り、その直後パニックになったウィンダムは不知火弐型に背を向けて逃亡を図った。だが、スピードでは不知火弐型が優る。追いつかれたウィンダムは背後から両断され、爆発四散した。

 残るは、一機。だが、味方が全て撃墜され、生き残った一機も勝ち目がないことは理解したのだろう。積極的に攻勢に出ることはなく、守勢にまわりつつ、少しずつ戦場を移動しようとする姿勢を取っている。速度で負けている以上、背を向けて逃げることは愚策だと理解しているらしい。

 敵機は一機だ。ミサイルの弾幕に絡み取れば撃墜は難しくないだろう。しかし、ミサイルの数も限られているため、ここでミサイルを消費することはシンも避けたい。そのため、78式支援突撃砲による牽制に留めているのだが、ビームライフル一丁の牽制で敵機の動きを封じられるほどにはシンは場数を踏んでいなかった。

 このままでは埒が明かない。そう判断したシンは、ちょうど近くを漂っていた先ほどタリサが撃破したウィンダムの盾をかっぱらって不知火の左手に持った。

「タリサ!!タイミング合わせろよ!!」

 シンは盾を掲げながら突進する。攻撃を棄て、回避と防御に専念したシンはちょこまかと動き回るウィンダムにどうにかくらいつき、長刀が届く距離にまで肉薄することに成功する。慌てて頭部の近接火器から12・5mm弾をばら撒いて牽制しようとするが、シンは弾幕をものともせず盾ごとウィンダムに体当たりを決める。

 凄まじい衝撃に襲われる両機。コックピットを揺らす激しい衝撃に、視界が揺れ、操縦桿を握る手も握力を保持するだけで手一杯となる。だが、僚機を失ったウィンダムと違い、シンには相棒がいるのだ。

『隙アリィ!!』

 衝撃に揺さぶられるパイロットは、背後から迫り来る長刀に対応することはできなかった。74式近接戦闘長刀はウィンダムを袈裟斬りにした。タリサは即座に噴射ユニットを全開にしてその場を離脱。その直後、袈裟斬りにされたウィンダムは推進剤が引火したのか、火球へと変貌した。

「周囲に敵影はなし……どうやら甲田大尉も敵機を片付け終えたらしいな」

 シンは周囲をレーダーで確認しながらタリサに通信を繋いだ。

『シン、こっちの機体に目立った損傷はない。そっちはどうだ?』

「ああ、頭が少しクラクラするけど、こっちにも損傷はないな。関節部も大丈夫そうだ」

 戦場の全体で見れば、混戦状態になりつつあるようで、優勢なのか劣勢なのかは分からない。だが、どうやらシンの周囲では概ね日本側が優勢に立っているらしく、敵機の反応もそれほど多くはないし、距離も離れている。

『イーグル2よりイーグル11並びにイーグル12』

 シンたちと別れて8機のダガーLと交戦していた甲田から通信が入る。どうやら、あちらも無事に敵機を殲滅できたらしい。

『周囲の敵機はひとまず掃討した。ポイント245で合流後、中隊長のもと――』

 甲田が命令を言い切る前に、目の前に通信ウィンドウが開かれ、ヘルメット内蔵のスピーカー越しに悲鳴じみた要請が聞こえてきた。

『甲田大尉、雁屋少尉!!すぐに戻って下さい!!このままじゃみんなが――』

 悲鳴じみた声の主は中隊のCP将校(コマンドポストオフィサー)、緑川曹長だ。そして、彼女の悲鳴と同時に、視界の端に新たなポップアップが表示される。それは、彼の中隊の内2機のシグナルが消失したことを知らせるものだった。

 

 

 

 

 

形式番号 GATー04

正式名称 ウィンダム(フレイ専用)

配備年数 C.E.78

機体全高 18.67m

使用武装 M2M5 トーデスシュレッケン12.5mm自動近接防御火器

     M7G2 リトラクタブルビームガン

     ES04B ビームサーベル

     Mk315 スティレット投擲噴進対装甲貫入弾

     M443 スコルピオン機動レールガン内蔵式対ビームシールド

     ストライカーパック

     ガンバレルストライカーVer4

 

備考:外見は通常のウィンダムと同じ。朱色にボディーがペイントされ、左肩には炎とFをモチーフにしたマークが刻まれている

 

 

フレイ専用にチューンアップされたウィンダム。第二期GATシリーズのカスタム機の部品も流用しているため、機体性能的には通常のウィンダムに比べて平均して2割から3割ほど高い

自律誘導兵器ユニットによる多角攻撃を織り交ぜた近接戦闘を得意とするフレイのスタイルに合わせて武装も変更されており、乱戦での取り回しに長けたブルデュエルのリトラクタブルビームガンや、レールガン内蔵式対ビームシールドを用いる

ガンバレルストライカーVer4は前回の大戦時にフレイが搭乗したダガーMk.Ⅱに搭載されていたガンバレルストライカーVer2の改良型で、4機のガンバレル全てがエグザスで搭載実績のあるM16M-D4ガンバレルの改良型である無線誘導式のM16M-D7ガンバレルに換装されており、GAU-868L2 2連想ビーム砲とDE-RXM91Dフィールドエッジ「ホーニッドムーン」を組み込んである(つまりは、無線誘導のエグザスのガンバレルを背負っているということ)


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