機動戦士ガンダムSEED DESTINY ZIPANGU   作:後藤陸将

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久しぶりに架空戦記を読み漁って、執筆意欲が湧いてきました。


PHASE-22 カウントダウン

 最後通牒。それは、外交文書の一つであり、国家間の交渉の際に最終的な要求を文書で提示するものである。最終的要求を示すことで交渉を打ち切る姿勢を臭わせ、最終的な要求を相手国が受け入れない場合には即座に交渉を打ち切るという意思を示す。

 日露戦争を受けて『宣戦布告なき不意打ちによる先制攻撃』を避けるために1907年にハーグで締結された「開戦に関する条約」の第一条には、「締約国は理由を付したる開戦宣言の形式、または条件付開戦宣言を含む最後通牒の形式を有する、明瞭かつ事前の通告なくして、其の相互間に戦争を開始すべからざることを承認す」とある。

 そもそも、宣戦布告のない戦争は国際社会から戦争からみなされず、中立国条項なども適応されなかったりするため、現在では戦争を始めるにあたって宣戦布告をすることが常識となっている。

 宣戦布告というのは当事国が正式に戦争を始めることを布告し、それを相手国に伝えることで即時有効となるものだ。直接相手国に交渉打ち切りを通告するという形式が、上記の条約第一条にある開戦宣言となる。

 そして、条件付開戦宣言を含む最後通牒というのは、提示した条件が一定の期限内に満たされない場合、期限切れと同時に宣戦布告としての効力を発効する物を指す。そして、その条件付開戦宣言を含む最後通牒が、大西洋連邦から大日本帝国に対して送られていた。

 

 

 

 さて、在大西洋連邦日本大使に、大西洋連邦国務長官ウィルソン・マルコンスの手による後の歴史で「ウィルソン・ノート」と称される対日最後通牒が手渡されたのは、6月25日のことであった。

 「ウィルソン・ノート」の主な内容は、以下の通りである。

 

 

1 日火平和条約調印式を襲撃したステルス機に関して、大西洋連邦に謂れの無い濡れ衣を着せようとしたことに対する謝罪と賠償

2 大西洋連邦と共同での宇宙開発の提案並びに、宇宙開拓基幹技術の相互開示

3 火星圏開発共同体の領土主権の了承並びに通商における平等待遇の確保

4 各国の火星利権に対する門戸開放並びに機会平等の保障

5 大西洋連邦による日本の資産凍結を解除、同時に日本による大西洋連邦資産の凍結の解除

6 大西洋連邦による日本の対大西洋連邦攻撃拠点となりうる基地の査察

7 衛星軌道ステーションの国際管理

8 返答期限は7月1日に設定

 

 

 

 額面でも美辞麗句とはいえないほどにドロドロとした我欲を窺えるが、これを意訳すると、小学生にも分かる剛田主義(ジャイアニズム)が見えてくるようになる。被害者側の視点に立って意訳したものは、以下の通りである。

 

 

1 「おい。俺はあの条約調印式を妨害したステルス機なんて知らねーっつてんだろ!!証拠?んなもんお前らが捏造したんだろうが!!イエローモンキーのジャップが神に祝福された白人様を疑うのか?さっさと捏造認めて土下座して、疑って俺を傷つけた慰謝料よこせや!!」

2 「宇宙開発は一国だけ突出してるとかってのはよくないし、共同でやるべきだよな。そして、お前の物は俺の物、俺の物も俺の物。というわけで、新しいマキシマとか宇宙開発に使える技術全部見せろ」

3 「お前がこないだの戦争で奪った領土はお前のものとは認めねーから。あれは先住民の火星圏開拓共同体のものだからなww。そういうことだから、やつらの領土を返して、やつらのものだってことを認めてやつらと対等な通商条約を結べ」

4 「火星の利権をお前が独占しているってことがど~も気に食わねぇんだ。俺たちも利権にかませるってのは当然のことだよなぁ?締め出しってのはナシだろうが。平等に行こうぜ」

5 「資産凍結は互いにやめようぜ。俺の命令に従ってくれるのならわざわざお前の金を永遠に返さないでおく必要はねぇから」

6 「お前、俺を殺せる兵器持ってるよな。俺、そういうのマジやなんだわ。というわけで、俺を殴れる兵器がある場所全て俺に見せて安心させてくれねぇかなあ。俺?俺の兵器は見せねぇよ、お前に見せる必要ねぇし」

7 「アメノミハシラってお前が独占するってズルくね?地球のみんなで仲良く使うことが、地球全体のへーわとはってんに繋がると俺は思うのよ~」

8 「7月1日までに俺の命令に従わなかったら、お前の国を武力で滅ぼすから。シンキングタイムは5日ね。これ受け入れてくんないと、今後交渉の余地ないよ」

 

 

 もはや、どこからどう見ても駄目駄目小学生を苛めるガキ大将のやり方そのものである。当然のことながら、そんな要求を大日本帝国が呑むはずがない。

 火星との条約締結の際に襲撃したステルス機は日本側が鹵獲し、それが大西洋連邦の機体であることも、部品もアクタイオン社純正のものであることも分かっている。火星までこの機体持ち込まれた経緯に大西洋連邦の輸送艦が関わっていた証拠も掴んでいた。

 また、自分たちが長年の間汗水垂らしてやっと手に入れた科学技術と火星の資源利権を二束三文で敵国にくれてやる筋合いなどない。火星開発に血も汗も流していない他国に手に入れた利権を平等に分配する理由もない。既に戦闘に勝利した火星圏開拓共同体に慈悲を与える必要もない。

 そして、最後の基地査察だ。まるで、自分たちの軍だけは正義で、他の軍は全て悪であるかのような身勝手な言い分だ。大西洋連邦の属国でもなければこのような要求が受け入れられる余地はないだろう。

 

 傍若無人な振る舞いに怒り心頭に発した帝国の陸・海・空・宇宙の4軍は、形式上返答期限を待ちながらも間違いなく避けられなくなった開戦に備えて動きはじめていた。

 

 

 

 

C.E.71 6月26日 L4 大日本帝国領『安土』

 

 

 妹との久しぶりの再会を突然の大西洋連邦による最後通牒によって打ち切られ、その日の内に出された休暇返上と基地への即座の帰還命令を受けてシン・アスカはアメノミハシラ経由でL4の大日本帝国領コロニー安土の安土鎮守府に向かわされることとなった。

 

 安土鎮守府に停泊中の航宙母艦『雲龍』に乗り込んだシンは、すぐさま発着艦訓練を叩き込まれた。発着艦の経験は、伏見の大日本帝国宇宙軍航宙学校にある練習航宙母艦『鳳翔』で積んでいるが、航宙母艦にはそれぞれ微妙に発着艦の際に注意しなければならない癖がある。

 特に、着艦では小さなことが原因で事故となるケースも多い。着艦の際には自動着艦プログラムなどが使えるはずだが、戦闘で調子の悪くなった機体をプログラムで制御できないことだってあるのだ。

 そこで、パイロットはいざという時には限られたセンサーと己の腕だけで損傷機を着艦させるテクニックを学ばなければならないのである。幸いにも、パイロット以外のクルーは慣熟訓練をほぼ終了していたために艦側の問題はあまり発生しなかった。そして、発着艦訓練を終えたシンとタリサは、隊長たちが待っているブリーフィングルームに移動していた。

 

「そう不機嫌そうな顔するなって。アタシだって久しぶりの家族の団欒をぶち壊されたんだ。気持ちは分かるけど、そんなあからさまに不機嫌です~って顔をされると空気が悪くなる」

 眉間に皺をよせて刺々しいオーラを発する我らが主人公、シン・アスカに対し、タリサが忠告する。

「それに、怒る相手は大西洋連邦だろ?これからアタシたちはあのジャイアンをぶん殴る任務につくんだ。憂さ晴らしはそこでやりなよ」

「……別に、憂さ晴らしの相手を探してたわけじゃない」

 と口では言いながらも、どこかシンもやつあたりをしていた自覚はあったのだろう。先ほどまでの刺々しいオーラを少しおさめた。

「単純に、俺はもうすぐ戦争になるからピリピリしていただけだ。これからは、気をつける」

「ふ~ん、付き合いの長いアタシにはピリピリしていただけには見えなかったけどね。ま、そういうことにしておいてやるよ」

 一応言い訳しておくと、シンの中にも戦争になることに対する不安が無かったわけではない。ノクティス・ラビリンタスで死に掛けてからまだ3ヶ月も経っていないのだ。そのおかげであの島流しじみた配置から逃れることができたという面もあるのだが、やはり命と島流しは天秤にかけられるものではない。何より、自分が戦場に出たことが妹と母を心配させていることを彼は知っている。また彼女たちに心配をかけてしまうことはシンにとっても心苦しいものであった。

 ノクティス・ラビリンタスの武力衝突は相手が格下の火星圏開発共同体だったが、それでも終戦までおよそ3ヶ月を費やした。しかし、今度の敵は大西洋連邦だ。国力も軍事力も火星圏開発共同体とは比べ物にならない。

 そんな相手と戦争をするとなると、最低でも数ヶ月、長ければ数年は続くだろう。ということは、自分は母と妹に数年の間心配をかけ続けることになる。軍の基地からは家族とはそれなりの頻度で連絡が取れるが、航海中は家族とは一切連絡が取れない。作戦行動中に外部と私的な交信をすることなど許されるわけがないのである。

 母艦が戦地を巡っていると、機密保持の関係上連絡を取ることが数ヶ月できないということもザラにある。当然、その間に搭乗員の家族たちは音沙汰のないことに不安を感じる。家族に本当の意味で覚悟をさせている軍人など、このご時世にどれだけいるだろうか。

「なぁ……タリサ」

「うん?」

「連絡が長い間取れない時って、家族に心配かけないようにするにはどうすればいい?」

 急におとなしい声音で声をかけてきたシンに、タリサは訝しげな表情を浮かべる。

「いきなり何を……なるほどね。そういうことか」

 タリサは鬼の首を取ったような笑みを浮かべる。

「お兄ちゃんは可愛い可愛い妹に心配をかけたくないってことか。相変わらずのシスコンぶりだなぁ」

「シスコンじゃねぇ!!妹を心配するのは兄として当たり前のことだ!!」

「お前のそれは健全な兄妹の持つ家族愛ではねぇだろう……」

 タリサは知っている。航宙学校時代には休暇の度に妹に会いに行き、毎週妹に手紙を送り、さらに携帯の着メロは妹の声、待ちうけは妹とのツーショット。そして私物には妹と撮ったプリクラ。これを健全と考えるのは無理がある。

「まぁ……お前の常軌を逸したシスコン度は置いておくとして、うちの家族の場合だけどな」

 頭を恥ずかしそうにかきながらタリサは自身の家族のことについて語る。

「そもそも、うちの家族は戦場に出たアタシのことを思って毎日祈るとかそういうのは絶対ないな。グルカ族の働き手がみんなグルカ兵ってわけじゃないんだけど、アタシのご先祖様は大東亜戦争時や、フォークランド戦争で活躍した英雄だったこともあって、アタシの家系は第三次世界大戦前まではグルカ兵を多く輩出する家系だったのさ。いつも一族の誰かしらは必ずグルカ兵になってるから、一々無事を祈ってハラハラする毎日を送るよりは信じてただ待つってのが普通になったんだと。アタシも家族も、曾爺ちゃんから色々と聞かされたしな」

「そういえば、お前の曾爺ちゃんって……」

「5年前に大往生さ。アタシも子供の頃から爺ちゃんに言いつけられてたよ。『家族が戦場にいったとしても、ただ信じて待っていればいい。それがグルカだ』ってね」

 第三次世界大戦時にネパールから脱出し損ねた日本人達を命を賭して隣国の汎ムスリム会議領まで連れて行き、その後先代の陛下のお言葉を受けて、日本の市民権を手に入れたタリサの曽祖父、ジャナ・マナンダルの話は日本でも有名だ。20世紀の某映画に登場するベトナム帰還兵のような活躍をしたため、『ラ○ボー』という異名も広く知れ渡っている。

 その後、日本に脱出したグルカ族からは軍に志願した者の多くは非常に高い評価を受けているということも、軍の人間であれば知る者も多い。タリサの姉は歩兵第45連隊の妖怪首おいてけであるし、タリサの父も大西洋連邦のレンジャー資格に相当する、鳶徽章の訓練教官をやっているらしい。

「母さんも婆ちゃんも爺ちゃんも、この間帰った時は全然心配した顔を見せなかったよ。大西洋連邦の最後通牒でニュースで聞いても、涙一つ見せずに送り出してくれた」

 シンが家を出たときは、マユは気丈に振舞って涙を見せまいとしていた。父と両脚を戦争で失っているという経験があるため、どうしてもその時のことを思い出してしまうのだろう。そもそも、マユは可愛らしく繊細でとても優しい子だ。タリサの家族と同じことをさせることは無理だ。

「……参考にはならなかったが、ありがとうよ」

 投げやりな口調で礼を言うシンに、タリサも苦笑する。しかし、その後にタリサの放った何気ない一言をシンは聞き逃さなかった。

「だろうな。アタシの一族は特殊だから。でも、そうだな……お前が撃墜王(エースパイロット)にでもなれば妹さんも安心できるんじゃないか?撃墜数が20を超えれば、従軍記者とかが特集で取り上げてくれるかもしれないぞ。一方通行だが、無事を伝えるには悪くない手だろう?」

 

 撃墜王(エースパイロット)――それは五機以上の敵機を撃墜したパイロットに送られる称号だ。これをもっているパイロットは尊敬の的となり、撃墜数が多いパイロットは世間からも大きな注目を浴びる。戦時中は取材やインタビューなどの機会にも事欠かない。

 確かに、撃墜王(エースパイロット)とならば記者を通じて戦地から自分の情報を発信できるし、撃墜王(エースパイロット)と称されるほどの実力を持っていることが分かれば、簡単に死ぬことはないと考えてマユも少しは安心してくれるかもしれない。シンが妹のために撃墜王(エースパイロット)を目指すことは、当然のことだった。

 後世でも、シン・アスカの名前はこの時期を代表する撃墜王(エースパイロット)として轟くことになる。しかし、撃墜王(エースパイロット)を目指した動機が拗らせたシスコンだということも様々な資料によって裏付けられてしまう。

 彼が撃墜王(エースパイロット)の栄誉とシスコンの不名誉を歴史に刻むことになるとは、まだこの時誰も予期していなかった。




次回あたりには、フレイを出したいなぁ……なんて思ってますけど、出せるかなぁ。
そろそろ、原作メインを出しておきたいんですけどね

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