機動戦士ガンダムSEED DESTINY ZIPANGU   作:後藤陸将

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お久しぶりです。
およそ7ヶ月ぶりの更新となりますね、待たせてしまってごめんなさい。
ちょっと時間ができたことと、お気に入りの架空戦記の新刊を読んだことで執筆意欲が湧きまして、なんとか一本書き上げられました。


PHASE-21 ignited

『担架持って来い!!全身に火傷を負っているぞ!!』

『出血が多すぎる……衛生兵!!』

『急げ……くたばるんじゃねぇぞ!!』

 

 そこは、尋常ならざる空間だった。一般人であればそこかしこにこびりついている血痕や、多くの人が身体中を包帯で巻かれて力なく項垂れている光景を見れば正気ではいられないだろう。

 シンは、そんな凄惨な光景を再生された映像であるかのような感覚で眺めていた。彼は理解しているのだ。この光景がノクティス・ラビリンタス事変の真っ只中のマリネリス基地の光景であり、シンにとってはすでに体験した『過去』の光景を再生しているだけの夢であるということを。

 

 

 一般的には、ノクティス・ラビリンタス事変は日本の勝利として伝えられ、死者も被害の割には少数だと報じられている。そのため、この戦争をマスコミの発表した情報でしか知らない一般人にはきっとこの凄惨な光景がマリネリス基地の真実だと言っても信じられないかもしれない。

 確かに、轟沈した艦艇は駆逐艦『朝霧』『夕霧』『浜霧』巡洋艦『赤間』『庄内』のみで、この5隻を除く喪失艦は全て乗員の退避に成功しているし、マーシャンの襲撃を受けたマリネリス基地の防衛砲台なども殆どが無人だった。

 MS部隊も全部隊に配備された最新鋭の不知火弐型のおかげで生き延びたパイロットが多い。不知火弐型のコクピットはTPS装甲の技術を流用して堅牢に造られており、コクピットブロックにビーム兵器の直撃を受けない限りはパイロットの安全は保障されるつくりになっている。

 しかし、コックピットに攻撃を受けて死亡したパイロットがいないわけではない。マリネリス基地に配備されている36機の不知火弐型のうち、修理不能機を含めて18機を喪失しており、その内8名が戦死している。残る10名も戦死はせずとも最低でも全治4ヶ月の重傷を負っていた。これは、軍事的には全滅判定となる。

 そして、軽空母『祥鳳』のMS隊にもマリネリス基地と同様に最新鋭の不知火弐型が配備されていたものの、軽空母1隻に配備されるMSなど、予備機を含めて二個中隊27機ほどである。

 その戦力で艦隊全体を護ることは困難を極めるものであり、さらに宇宙での被撃墜は即死は免れたとしても無事生還できる可能性は低い。デブリの直撃や流れ弾に巻き込まれる可能性が高く、また、長時間パイロットスーツのみで宇宙遊泳をしていれば放射線による被曝もありうる。元々パイロットスーツは長時間での船外活動に適したものではない。あくまで、非常時における最低限度の放射線遮断能力しかないのだ。

 結果、機体を失ったパイロットも18人が生き残ったものの、その半数がなんらかの負傷をして継続して機体に乗り続けることが困難となってマリネリス基地に搬送されている。

 また、艦艇部隊でも轟沈は免れたものの、艦艇が損傷を受けて乗組員が負傷する事例は多発していた。そして、戦闘が小康状態になったときを見計らって艦艇から多数の負傷者がマリネリス基地に運び出された。いざ戦闘が始まれば負傷者の世話をする余裕もなくなるため、できるだけ負傷者に負担をかけないように設備の整ったマリネリス基地に輸送したのである。

 しかし、撃沈された軽空母1隻、巡洋艦3隻、駆逐艦4隻から退避した負傷者と、防衛戦を辛くも生き延びた巡洋艦1隻、駆逐艦2隻から退避した負傷者の数は合計で500名以上にのぼる。

 マリネリス基地には6000人近い職員がいるが、基地職員を含む600人以上の負傷者を受け入れることは、基地の医療施設のキャパシティを超えていた。当然ながら、病院棟に収容しきれない負傷者は基地のいたるところに溢れることとなる。

 その結果が、シンがかつて見た尋常ならざる空間だった。

 

 

 しかし、この光景は過去に体験した記憶が夢で再生されているだけのこと。この現状はシンがほんの少し前に実際にこの目で見た景色の焼きまわしでしかない。

 一般人ほど軟弱ではなくとも生理的嫌悪感を拭えない凄惨な光景にも慣れがある一人前の軍人には程遠いであろう感性を持つ新兵にとって、精神衛生上あまりいい環境ではないはずだ。実際に、タリサもこの光景に気分を悪くしてカウンセリング担当者のもとに送り出されている。

 だが、シンはそんな環境下にありながらに心はそれほど揺らいでいなかった。タリサがやせ我慢をしていることに気づいて即座にカウンセリングを受けさせた甲田も、シンには一応カウンセリングを進めるだけでムリに連れて行こうとはしなかった。

 別に、彼の心が特段強かったからだとか、生まれつき感性がどこか狂っていたというわけでも、夢だと理解しているから達観していたというわけではない。単純に、彼がこの光景に遭遇するのは初めてではなかったというだけのことである。つまりは、彼は慣れていたのだ。

 

 8年前、東アジア共和国の軍靴に踏み躙られていたオーブで彼は見た。流れ弾を受けて一瞬の内に頭を掻き消された女性に、クラスター爆弾で赤い欠片へと変貌した男、そして両足を失って母の名を呼び続ける子供。そして、血の臭いが立ち込める医務室と、親兄弟、子供や孫を失って悲観にくれる人々。全て、彼は見ていた。

 幸いにも当時は自分と妹のことで精一杯で、目の前の光景に恐怖して立ちすくむ余裕すらなかった。PTSDにもならなかったのも、そのおかげかもしれない。

 

『……たくない…………死にたくない』

 死に怯える声にシンは振り返る。直後に、血まみれになったパイロットスーツを纏った男が担架で運ばれていく。

『痛い……俺の脚が……脚が』

 さらに、すぐ傍にはあるべき場所に脚がない兵士が蹲っている。

 少し運が悪ければ、自分も同じ運命にあったのではないだろうか。シンは自問する。

 もしも、あのとき軌道降下兵団(オービットダイバーズ)の援護がほんの少し遅かったら自分は死んでいただろう。死んでいなくても、五体満足ではいられなかったことは間違いない。

 自分が軍にいられない身体になったら――そう思ったシンは背筋を震わせる。決して自分の能力で助かったわけではないと自覚しているが故に、なおさら『もしも』の可能性が恐ろしく感じるのだ。

 

「……ちゃ…………お……」

 

 結局のところ、オーブで父と妹の脚を失った無力なあのころの自分と、新米とはいえ軍人となった今の自分で何が違うのだろうとシンは考えさせられてしまう。8年前も、先日の戦いも、自分の能力だけで乗り切れたわけではない。運があったからこそ乗り切れただけなのかもしれないと考えずにはいられない。

 

「おに……ちゃ……」

 

 一体、いつになったらあの人に追いつけるのだろうか。どうすれば、あの人に近づけるのだろうか。火星圏開拓共同体との手打ちが終わり、戦争が終わった後はそれを考える日々が続いている。

 自分が、何をしなければならないのかシンには分からなくなっていた。

 

 

 

 

「いい加減にしなさい!!おにいちゃん!!」

 妹――マユ・アスカの怒声でシンは目が覚めた。

「おう……おはよう」

「おはようじゃない!!もう、朝ごはん冷めちゃう!!」

 マユは兄にさっさと着替えてご飯を食べて食器を洗っておくように言いつけると、すぐにその場を後にした。

「……しっかりものになって。兄としては嬉しいような、寂しいような。複雑だな」

 シンはゆっくりと立ち上がり、妹の待つリビングへと向かった。

 

 

「大体ね、軍人ならもう少しシャキっとしてよ!!だらしない生活して職場に迷惑かけてないよね?」

「大丈夫だって。ラッパが鳴れば条件反射で飛び起きるから」

 マユのお叱りを受けながら、シンは思う。脚を失った直後は絶望して涙で枕を濡らす日々を過ごしていたマユは、もういない。妹はオーブにいたころと同じ笑顔を取り戻してくれたことは兄としてもとても嬉しい。

 軍学校に通っていたころは一年に二度しか日本に戻れなかったために中々会えなかったが、自分がいない間にマユは心も逞しく成長していたようだ。やはり、脚を取り戻したことが大きかったのだろう。

 シンはワンピースの下に見えるマユの脚に視線を向ける。そこには8年前のあの日、戦場となったオーブで失ったはずの両脚があった。義足でも、生体義肢でもない、生身の脚が。

 

 

 実は、7年前にマユは両脚の再生治療を受けていた。一年かけてマユから採取した細胞を元に脚を培養し、それを手術によって移植したのだ。そして、さらに3年のリハビリを経てマユは生身の脚と遜色の無い新しい脚を手に入れた。

 脚を手に入れたマユは厳しいリハビリにも耐えることで、普通の人間とほとんど変わらない普通の暮らしを取り戻した。しかし、それは兄の人生と引き換えにもたらされたものであった。

 7年前の時点で、脚一本の再生で日本円でざっと700万の費用がかかった。マユは両脚を失っているため両脚で1400万、手術費用を合わせれば、1500万近くの手術代が彼女が脚を取り戻すために必要となった。

 当時の日本のサラリーマンの平均年収が450万円であることからも、1500万円という金額が簡単に手が出せる金額でないことが分かる。勿論、オーブから命からがら着の身着のまま逃げてきた難民にそれほどの大金がポンと用意できるはずがない。

 脚を失った10歳の少女と、ありふれた14歳の少年、そして職を持たない母一人という難民の家庭で1500万円を工面しようとしても、まっとうな手段では10年以上かかるだろう。

 ローンを組んだり、借金をするという選択肢もないわけではない。だが、オーブから着の身着のままで逃げてきた難民一家、当然担保となるような資産など何一つなく、特別な地位や技能にも縁のないありふれた一般市民だった一家に1500万もの大金を貸してくれる銀行などどこにもなかった。

 当時、オーブから日本に渡った難民の大部分は彼らと同じように社会的信頼が低かったため、就職や起業などでも苦労するケースが多かった。この社会的信頼の低さは、東アジアの侵攻直前のオーブ政府が日本からの義勇軍派遣を断ったり、邦人の脱出の際に随伴する軍艦にも色々とケチをつけたことでオーブ国民に対する日本国民の印象が悪くなったことに起因する。ウズミを、アスハを支持したことでオーブは焼かれ、日本にも迷惑をかけた。オーブ難民は今も尚ウズミの掲げた理念の呪いに苛まれていたのである。

 社会的な信頼が得られる地位につくにも大きなハードルがあり、さらに社会的な信頼がある地位につけたとしても、1500万円の返済に子供二人を抱えたままでは何年かかるのかも分からない。このような状態では、融資やローンを組むことを渋られるのも無理もない話だ。

 しかし、再生治療を選択するのであれば、手術は早いうちに行った方がよい。自分の脚の感覚を完全に忘却した後に再生治療を施してもリハビリには長い時間がかかるし、そもそも脚を失ってからかなり後で再生治療をすると、様々な問題点が出てくることが多い。特に、成長期の子供にはその傾向が顕著である。

 

 そして、8年前シンは妹のために決断をした。それが、15歳から入学できる大日本帝国宇宙軍航宙学校の受験である。

 日本では義務教育である小学校6年間と中学校の3年間は授業料、給食費、教材費その他諸々は(私立の学校を除いて)全て国が支払っている。しかし、高校と大学の授業料の補助は基本的に少ない。入学試験での成績がずば抜けて優秀だったものに対して公立の学校が返済無用の奨学金を出すことはあるが、その奨学金に頼って高校から大学まで進学し、卒業できる人物は稀であった。

 アスカ一家には当然、シンを高校に進学させるだけの金銭的余裕など存在しなかった。シンも頭の悪い方ではないのだが、オーブとは異なるカリキュラムを組んでいる日本の高校入学試験で奨学金を得られるほどの優秀な成績を得られる可能性は極めて低かった。

 そこで、シンは一家の生活のため、そして妹の脚のために軍学校の門を叩いたのである。

 軍学校に入ればそこには一日三食付きの寮があり、そして学校の授業料や軍服などの購入費は全て国が出してくれる。さらに、学校在学中は国から毎月給料も支給されるのだ。母もインストラクターの職を得たとはいえ、その給料だけでは母一人、補助が必要な娘一人の日々の生活をしていくだけで精一杯だった。

 軍学校の給金があれば、妹が最低限不自由しない暮らしを行えるようにするために仕送りをすることもできる。

 さらに、軍学校への入学者は在学中に国が支払った授業料等の一切を国に返金しない限りは必ず軍にお礼奉公につかなくてはならない。(余談ではあるが、日本ではお礼奉公を拒否した人間に対しての社会的な風当たりは悪く、そのような人材は民間でも自分の居場所を得られるケースは少なかった)

 その代わりに、軍学校の生徒は将来ほぼ間違いなく軍にお礼奉公することが確定しているので、融資やローンを組む際の社会的な信頼度は一般的な地方公務員並の高さがあった。これは、かつて政府の方から民間に働きかけた結果でもある。

 大東亜戦争の直後は、いつ戦死するか分からない軍人に対して融資すれば、対象者が戦死してしまえば資金が回収できなくなる危険があると考えたために銀行は軍人のローンなどには消極的だった。しかし、その現状を許しておけば軍人以外の国家公務員との格差が問題となる。元軍人の議員や在郷軍人会の働きかけにより、軍人が戦死した場合の遺族年金などの設定を改定し、同時に金融業者にも軍人に対する融資の差別をやめるように指導したのだ。

 難民であっても一度軍学校に入れば融資の際にも軍人と同じような社会的な信頼度の高い取引相手とみなされるため、妹の脚の治療費を調達することも不可能ではなかった。ただ、難民であるシンか彼の母が融資を受けられる社会的身分を短期間で得るためには、こうするしか方法はなかったのである。

 さらに、シンは軍学校の中でも最も倍率が高い航宙学校に入学することを決めた。航宙学校はMSやMAの操縦を学ぶ専門の学校だ。ここでの7年に及ぶ実習と学習を経てようやく一人前のパイロットを養成できるのである。

 そのMSやMAのパイロットは任務で出撃するたびに特別手当てがもらえる上に、基本給も若干高めだ。シン自身もあの日オーブで自分たちを救ってくれたMSの姿に憧れる部分が大きかったし、妹の脚の治療費の返済を考えれば、少しでも短期間で金を稼ぐ必要があったため、パイロットという職業は彼にとっても魅力的だった。

 なお、航宙学校は他の軍学校とは違い、お礼奉公は最低でも10年間である。パイロットの養成にかかる7年という時間と手間から基本的にお礼奉公を辞退することは重篤な病気の発覚などといった特段の事情がない限りは許されない。

 このような事情があるので、社会的な信頼度は他の軍学校の生徒よりも高い。これも、1500万という大金を確実に融資してもらうために少しでも社会的な信頼度の高い立場に立ちたかったシンにとって都合がよかった。

 陸・海・空・宙の大日本帝国4軍の内、宇宙軍を選んだのは、単にシンの好みの問題であった。生まれてからずっと地球で育ってきたため、宇宙に対する憧れがシンには子供の頃からあった。どうせ自分の人生が軍に縛り付けられるのであれば、少しでも夢に近い場所がいいと考えたのである。

 

 自分の脚の再生治療にかかる治療費のために兄が人生の選択肢を捨てて軍に入るという提案を母から受けた当初、マユは人目を憚らずに泣いて兄を止めようとした。自分の脚のせいで兄の人生を狂わせてしまうという罪悪感に彼女は耐えられなかったのだ。

 しかし、どのみちオーブの難民であり、高校に通う余裕のない兄の針路は肉体労働系のブルーカラーか軍くらいしか選択肢がないということを母から説明され、さらに兄の真摯な説得(ちょっと母が心配になるほどの妹愛溢れるものだった)を受け、マユは何度も兄に謝りながらもその提案を受け入れることにした。

 そして手術を受けてから7年が経過し、マユは一度脚を失ったとは考えられないほどに回復して周囲の人間と何も変わらない生活を営んでいる。母と二人ぐらしであるが、兄からの仕送りと母の給金で狭いながらもアパートを借りて不自由ない暮らしをしていた。

 義務教育のため授業料等一切無償の公立中学を卒業後、マユは東京にある陸軍衛生看護学校に進学した。自身が戦争によって両脚を失い、そして老若男女関係なく命が無慈悲に消えていく現場にいたこともあってか、彼女は成長するにつれて人の命を救う仕事をしてみたいと思うようになっていた。

 だが、兄の仕送りと母の稼ぎで高校に進学することは難しく、大学の医学部など到底通えない。そこで、授業料などを国が払ってくれる軍の看護学校を進学先に選択したのだ。陸軍を選んだのは、単純に横浜から一番近い軍の看護学校が東京の陸軍衛生看護学校だったという理由からである。

 

 

「ねぇ、休暇は明後日までだよね。それまでにどこか行くところはあるの?」

 食事を終え、シンの食器を荒いながらマユが言った。

「ああ。父さんの墓参りに行こうと思ってる」

 シンの父は、オーブ脱出時に一家を回収してくれたアークエンジェルにて息を引き取った。その後、国の助成で身内だけの葬式を済ませて遺骨を引き取り、横浜に移住した後に神道の墓に葬っていた。シンは、帰郷の度の墓参りをこれまで欠かしたことはない。

「……そっか。お兄ちゃんもピンピンして帰ってこれたんだしね。きっとお父さんが守ってくれていたんだと思うよ」

「きっと、そうだな」

 シンは、ニュースを見るためにテレビをつける。火星マリネリス基地はテレビも使えない環境であったため、最低限の国際情勢や政治などのニュースしか見られなかった。久々に本土の世情を知りたいとシンは思っていた。

 某局では相変わらず結論ありきのコメントをする論評者と、素人で特に考えなしに政治に対する意見を言う三流コメンテーターによる報道番組が流れているし、他局も平常運転で特に変わったところもない。

 やはり某局では肝心の報道の内容も、空母から爆撃機が飛び立てるという戯言をほざいた代議士とか、相変わらずブーメラン発言をする議員を数知れず抱える野党への苦言をまたある局では現与党の議員のちょっとした発言への追求や重箱の隅をつつくようなレッテル貼りばかりだ。

 先の大西洋連邦のステルス機襲撃の件に関しても、軍事的な制裁も辞さないのが正しいかのように煽り、現政府の路線を弱腰と非難するばかりだ。ケチをつけることなどそこらへんの小学生にだってできるのだから、もう少し国民の理解を深めたり議論の呼び水となるような報道をしてほしいものだ。

 自らの思想ありきの結論を元に世論を誘導するかのような報道を積極的にどの局もしているあたり、この国のマスコミもオーブのそれと似たり寄ったりで質が悪いとシンは思う。

 もう少し、マシな番組はないのか。そう考えてチャンネルを変えようとシンがリモコンを持ったとき、目の前の画面の上部に緊急速報と銘打ったテロップが現れる。

 

『大西洋連邦が大日本帝国に対して最後通牒』

 

 そのテロップを見たシンはしばし茫然自失とする。マユも、手に持っていた皿をそのままにテレビの画面に釘付けとなっている。その間に、画面はテレビ局の報道フロアへと移り変わり、若いアナウンサーが手元の原稿を慌てながら読み上げる。

『外務省の発表によりますと、先ほど駐日大西洋連邦大使より、最後通牒が届けられたとのことです。恐らく、火星で拿捕された大西洋連邦のステルスMSへの追及に対したことが、今回の開戦理由だと思われます。……繰り返しお伝えします。外務省の発表によりますと、先ほど駐日大西洋連邦大使より、最後通牒が届けられたとのことです』

 

 我に戻ったシンは、テレビの伝えるニュースを聞いて、拳を強く握り締める。あまりに強く握り締めたその手は、彼の怒りを示すかのように真っ赤になっていた。そして、シンは我慢できずに画面に向かって吼えた。

 

「また戦争がしたいのか!? あんた達は!!」




ようやく対大西洋連邦戦が始まります。
ここから本格的な戦いになる予定です。マーシャン?あれは前座です。

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