機動戦士ガンダムSEED DESTINY ZIPANGU   作:後藤陸将

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手元に資料がないので、設定などに細かな差異があるかもしれません。ただ、オリジナルの設定も混在しているので、設定の修正は本拠地に帰還してからする予定です。


PHASE-2 若人の力

 練習艦『鳳翔』の射出口でシンは乗機であるTSF-Type7『吹雪』の最終調整をする。

「全システムオールグリーン……ファイター5飛鳥訓練生、発進準備完了しました」

『了解。ファイター5飛鳥訓練生、発進を許可します』

 発進タイミングを譲渡され、シンは操縦桿を強く握り締めた。

『ファイター5飛鳥訓練生、行きます!!』

 まるで見えない壁に押しつぶされるような力がシンの全身にかかり、同時にシンの機体がカタパルトで加速されて射出される。

 

 カタパルトから射出されたシンの吹雪は鳳翔の前方で他の訓練生の機体と陣形を組み、演習が行われる宙域へと向かう。シンが最後発だったので、既に彼以外の生徒は陣形を整えている。彼の二機連携(エレメント)のペアはタリサだ。

『ファイター5、前に出すぎんなよ!!』

 タリサがシンを茶化すが、シンは気に留めた様子も見せない。

「ファイター6、余計なお世話だ」

 実際、タリサも人のことをとやかく言えないほどに前に出たがる。超がつくほど前衛タイプで、突撃志向コンビのタリサとシンのコンビだが、何故か相性はかなりよく、二機連携(エレメント)の実力では今期の訓練生で右に出るものはいないほどだ。どちらも近接武器を振り回して敵を次から次へと切り捨てていくので、同期からは『人斬りコンビ』呼ばれて恐れられている。

 

『HQよりファイターズ、敵味方不明機(アンノウン)は数1、距離7000グリーン63マーク12アルファです。後15秒で有視界に入ります』

 敵の数は1――仮想敵(アグレッサー)は白銀少佐だけということだろうか。それならばいいのだが。過去には英雄様が率いる一個小隊と交戦して僅か数分で全滅した例が幾度もある。白銀少佐一人でもどうしようもないのに、お仲間を呼ばれたらもう立ち向かう気概すら失せそうだ。

『はっ……英雄様は1機であたしら全員撃墜する気らしいな』

 タリサは彼女らしくない気弱な声音で言った。

「それができるから、英雄って呼ばれているんだろ」

 本来、タリサの気性ならこの時点で相手は自分達を舐めていると判断して怒りを覚えてもおかしくなかっただろう。しかし、今回の仮想敵(アグレッサー)はあの白銀少佐だ。生ける伝説とも呼ばれるパイロット相手にはタリサも流石に勝てる気がしないのだろう。

 

 そして遂に白銀少佐の駆る機体が有視界に入る。同時にシンはその機影を見て目を見開いた。タリサや不動も驚きを隠せていない。接近してくる機影はデュアルアイに角のようなV字アンテナが特徴的な、連合のGAT-Xシリーズと似通った意匠のMSだ。その正体はシンもよく知っている。

『おい、シン!!あいつは!!』

 隣の小隊を率いていた不動がシンに通信を繋いだ。彼は一瞬でその機体の正体を見抜き、オーブ出身であるシンに確認を求めたのだ。

「ああ……間違いない。モルゲンレーテのM1アストレイだ!!」

 

 M1アストレイ。C.E.71にオーブ連合首長国の国営企業、モルゲンレーテがロールアウトしたMSだ。大西洋連邦の開発したビーム兵器の技術やナチュラル用OSの技術を盗用して開発されたと言われていたが、世界でも有数の技術力を持つモルゲンレーテの開発ということで世界の注目を集めた機体だった。

 しかし、同年の東アジア共和国のオーブ侵攻でこの機体はその真価を発揮することができなかった。護るべき国民と侵略者の歩兵が入り乱れる狭い国土での防衛戦となったために歩兵用対戦車兵器による攻撃を阻止できず、文字通りに足元を掬われて撃破されていったのである。

 性能面では当時の大西洋連邦の主力MSであったストライクダガーを上回るものであったとされているが、遂に対MS戦を経験することはなかったとされている。その後M1アストレイは生産設備ごと東アジア共和国に接収されて東アジア共和国の保護国向けに少数生産されたものの、現在では後継機や改修機を含めた全ての新規機体の生産、補修部品の生産が終了している。

 

 シンは父を失ったあの日にM1アストレイを直接目にしているのでこの機体を見間違えるはずがない。故に、この機体は宇宙仕様なのか、あの日見た機体とはスラスターが違っていることにいち早く気がついた。

「ファイター5よりファイターズ!!あの機体は授業で習ったM1とはスラスターが違う!!おそらく宇宙用だ!!」

「なるほど……実戦仕様ということか。まさしく俺達は未知の機体と戦うこととなる」

 コールサインファイター1――訓練生部隊(ファイター中隊)隊長の不動は仮想敵(アグレッサー)側が何故M1の亜種を選んだのかを推理し、一人納得した表情を浮かべる。

「感心してる場合か!!あたし達を凌駕する化け物パイロットに性能も把握できないMSだぞ!シン、どうするんだ!?」

 タリサに指示を仰がれたシンはまず敵の装備を確認する。敵機の右手にはビームライフル、左手には盾、腰にマウントされたビームサーベルが2本、頭部機関砲が2門、背部マウントに長刀2本といったところだろうか。とりあえず、遠巻きに様子を見るべきだろうとシンは判断した。

 因みにビームサーベルとビームライフルだが、今回の演習では訓練用のものを使用する。ビームサーベルに刀身はなく、各自の機体のコックピットのモニターには刀身を形成する映像に加工されて映しだされる。ビームライフルは微弱なレーザーを発射するものだ。レーザーの着弾で命中を判断するらしい。

「ファイター5よりファイター1、とりあえず距離を取って様子見に徹することを提案する。見たところ特殊装備はなさそうだが、無理にしかけるには早計だろう」

「……同意する。ファイター1より、ファイターズ。各機距離を」

 だが、不動が命令を言い切る前に、彼らの後方から放たれた火箭が訓練機の内の一機を黄色に染めた。

『え……!?』

 ペイント弾によって胸部を染められた吹雪の中で訓練生の一人は呆然としていた。そして彼に試験官である三科教官の判定が下される。

『ファイター10、胸部被弾により撃墜。すぐに鳳翔に帰艦せよ』

 ファイター10は自身の身に何が起こったのか理解できないまま、鳳翔への帰艦の途についた。

 

 

『くそ!?何が起こった!?どこからの攻撃だ!?』

『後ろから撃たれたぞ!!』

『そんな馬鹿な!!センサーには何の反応も……』

 訓練生が予期せぬ事態に混乱する。そしてこの隙を武が見逃すはずがなかった。武のM1はビームライフルを構え、うろたえる訓練生達に銃口を向けた。

『!?散開しろ!!』

 不動は咄嗟に声を張り上げて散開を促したが、予期せぬ事態に混乱していた訓練生は反応が遅れてしまう。結果、レーザーの命中判定を受けた2名が更に脱落した。

『ファイター3、胸部被弾により撃墜。ファイター7、推進剤タンク被弾により撃墜。両機は即時帰艦せよ』

 開始早々に訳がわからない奇襲で撃墜判定を受けた二人は納得ができないと言いたげな表情を浮かべていた。

『畜生!!不意打ちじゃねぇか!!』

『こんなの!!戦闘能力と関係ないぞ!!

『実戦では泣き言は通用しない。素直に帰って来い』

 三科に窘められた二人はまだ色々と言いたげであったが、渋々機体を翻した。

 

 

「後ろに何かがいる……おそらくミラージュコロイドだ!!ファイター2、ファイター4、後ろに弾をばら撒いて炙り出せ!!残りのやつらは前方に弾幕を張ってM1を近づけるな!!」

 いち早く奇襲から意識を切り替えた不動が背後の宙域に牽制射撃をすることを命令する。

 命令に従って2機の吹雪がガンマウントを起動し、背後の宙域に牽制射撃を叩き込む。その射撃を受けて隠遁を諦めたのか、先ほどの銃撃の下手人が隠遁の衣を脱ぎ捨ててその姿を顕した。

 

 

『5式戦……陽炎改か!?』

 不動はその見覚えがあるシルエットから敵機を現在の宇宙軍の主力機である陽炎改と判断する。だが、タリサが彼の判断に疑問符を口にする。

『陽炎改にミラージュコロイドの運用はできないはずだろ!?あれは本当に陽炎改なのかよ!?』

『知るかよ!!』

「タリサ、不動に噛み付いてないで落ち着けよ!あいつはミラージュコロイドを使える陽炎の改修機の可能性だってあるんだ!!」

 シンはヒートアップするタリサを諫め、自身の意見を述べる。

 

 MS開発の現場に詳しいわけでもない彼らには知る由も無いことであるが、彼らが相対する機体の名前は、XFJ-Type5S『月虹』といい、シンの読み通り陽炎の先進技術実験改修機である。

 その最大の特徴はステルス性能であり、ミラージュコロイドによる光学迷彩である。ミラージュコロイドを展開していなくてもアクティブステルスにより敵のレーダーに探知されにくく、優れた廃熱技術を施されているために熱源探知にも引っかかりにくい。敵の光学機器の索敵に範囲に入るまではミラージュコロイドを展開せずに接近できるため、バッテリー機故の短いミラージュコロイド展開可能時間を最大限に利用できるのだ。

 音も無く忍び寄り敵に気づかれる前に刺すというファストキルに特化した機体であったが、原型機である陽炎改がステルスを前提とした機体設計にされてはいなかったということもありステルス性能は当初予想していたほどの精度にまで達することはなかった。

 この演習に参加している機体を含めて12機の陽炎改が月虹に改修され、先進技術の実験を行った。そしてその実験で得られたデータは次世代ステルスMSの開発に生かされることとなる。

 また、本機の情報を察知した大西洋連邦でもバッテリー機の短いミラージュコロイド展開可能時間の問題を打破すべく、初期GAT-Xシリーズの内の一機、GAT-X207ブリッツに核動力を搭載したNダガーNを試作したが、核動力機故に動力炉が熱源探知されやすいという問題を打破することはできなかった。

 結果、大西洋連邦はブリッツの核動力化を諦め、オーブ崩壊に伴い流出したパワーエクステンダーの技術を盗用することで稼働時間を延長することに成功した。また、パワーエクステンダー搭載のブリッツは後にアクタイオン・プロジェクトによって改修され、GAT-X207SRネロブリッツが開発されることになる。

 

『クソ……相手が2機でいる可能性を何故俺はもっと真剣に検討しなかったんだ!!周りを警戒させていればこんなことには!!』

不動の声はステルス機による奇襲で立て続けに二機を失ったことによる悔しさを滲ませていた。

『不動!!どうするんだ!?』

 シンはライフルで前方に弾幕を張りながら不動に指示を乞う。既に3機を失ったので、中隊の戦力は25%が失われたことになる。対する仮想敵(アグレッサー)は無傷で弾薬の消耗も極僅かだ。しかも相手のうち1機は帝国一の撃墜王(エースパイロット)ときた。前門の人外、後門のステルス機。はっきりいって、後何分もつかという勝負だ。だが、やるからには一矢報いたい。

 だからシンは不動の決断を待った。自分の操縦技術は不動を凌ぐものがあるが、自分の指揮官としての適正は学年トップである不動はおろか、タリサにすら及ばない。不動なら、現状の戦力を最大に活かすことができる策を導き出すことができるとシンは信じていた。

 

 

『……ファイター1からファイターズ』

 ややあって不動は全訓練生機に通信を繋いだ。

『正直、勝機は無い。だがせめて1機でも撃墜したい』

 不動もやはり、訓練生側の勝利は望めないと判断し、次善の策を選んだようだ。

『ファイター5、6両機はが白銀少佐を足止めし、残る全機で後方の陽炎を叩く……ファイター5、やれるか?』

「やってみなくちゃわからねぇだろ?」

 シンは険しい表情を浮かべている不動に対し、好戦的な笑みを浮かべながら答えた。そしてタリサもシンと同じ表情を浮かべながら口を開いた。

『同感だ。英雄だろうが何だろうが、相手はあたしと同じ人間だ。……それに、なんなら倒しちまってもいいんだろう?』

 二人の口から放たれた勝気な言葉に不動は苦笑する。タリサの台詞は負けフラグのような気がしたが、気にしないことにした。

 帝国最強のパイロット相手に2対1で挑む。普通なら恐縮して当たり前の状況でありながら二人にはまだ勝気な台詞を吐くだけの余裕があるのだ。同期の中でも最強の二機連携(エレメント)なだけはある。

 無鉄砲で思い込んだら一直線という単純な思考の二人だが、それ故に彼らは後退を知らず、前進を恐れない。強襲戦での彼らはまるで水を得た魚だ。彼らの猛攻ならば流石の白銀少佐も数分は身動きが取れないだろうと不動は信じることにした。

『シン、タリサ!!作戦が成功したら奢ってやるからな!!他のやつらは俺について来い!!』

 不動はシンとタリサ以外の残存機を纏めてその機体を翻した。

 

 

「……俺を相手に2機で足止めか。舐められてんのか?」

 卒業前戦闘技術特別審査演習の仮想敵(アグレッサー)に抜擢された白銀武少佐は乗機のコックピットで獰猛な笑みを浮かべていた。自身が名実共に帝国最強のパイロットであることは訓練校でも学んでいるはずだ。まさかそんなことも知らずにこの場に臨むような馬鹿はいまい。そんな馬鹿をあの三科教官が許すはずがないだろうから。となると、相手の2機は武のことを知っていながら、自分達の連携で足止めができると判断したのだろう。

 そして自身が乗る機体はM1――正確には宇宙仕様のM1Aだ。

 この機体はオーブ陥落後にオーブ亡命政権から譲渡されたアメノミハシラに設けられていたM1Aの製造設備を使用して製造されたものだ。

 

 前回の大戦の末期、アメノミハシラの前管理者であるロンド・ミナ・サハクは地上で生産されているM1は宇宙での戦力には適さないと考え、アメノミハシラの防衛のために自前で宇宙用戦力を用意することを選択した。

 しかし、他勢力のMSを採用することは難しかった。連合で生産されるストライクダガーはザフトと対峙している各地の部隊や、海皇(ポセイドン)作戦に備えていた宇宙艦隊に最優先で回されているので、オーブが必要数を回してもらうことは無理だったし、ヘリオポリスでのG兵器の違法コピーの前科があったためにライセンス生産は許可されなかった。

 ザフトのMSを選択することもできなかった。最新鋭機のゲイツはそもそも回してもらえるはずもないし、ゲイツのロールアウトで2線級の機体となったジンやシグーの性能は正直低すぎる。ストライクダガーを配備した連合の部隊にも、ゲイツを配備したザフトの部隊にも対抗できない以上、抑止力にはなりえないため、配備したところで無意味だろう。自身の半身を奪った薄汚いジャンク屋の手を借りることなど論外だ。

 本命に考えていた日本との交渉も失敗に終わった。ヘリオポリスの一件に冠する前代表ウズミの失態を受けてオーブと日本の関係が冷ややかになっていたこともあり、日本側が自国MSの販売を躊躇していたのである。

 結果、ミナは自国のMSであるM1アストレイを改装することで急場を凌ぐことを選択し、M1アストレイを設計したエリカ・シモンズにM1アストレイの宇宙仕様機の設計を依頼した。こうして完成した機体がM1Aである。

 M1Aはスラスターの数を増やし、無重力空間における機動力を高めた機体であり、AMBAC制御の精度を高めるために人体の構造を精確に模したゴールドフレームと同じ機構を各部に採用している。各部機構の複雑化によってM1A1機あたりの調達コストはM1に比べて増加したが、ストライクダガー以上ゲイツ以下という防衛力として最低限通用するレベルの機体に仕上がった。

 しかし、この機体が実戦を迎える前にアメノミハシラは日本に譲渡され、ミナは完成していたM1Aを生産施設ごと日本軍の手に委ねることとなった。その後日本はこのM1Aを各種テストに投入してデータを収拾した。

 性能はお世辞にも戦後の一線級とは言い難いものであったが、導入コスト、稼動コスト共に優れていたM1Aの設計に富士山重工業のMS設計チームが注目し、戦後にM1の機体構造を多数の箇所で流用した廉価なMSが開発された。

 因みにこの廉価MSの生産のため、アメノミハシラのM1A生産設備はその後L4の富士山重工業の工場に移送されることとなる。

 尚、武の乗る機体は各種テストが終了したことを受けて廃棄が決定していたM1Aに背部ガンマウント取り付けや若干のチューンアップを加えたものだ。

 

 

 はっきり言って、限界までチューンアップしたM1Aでも訓練機である吹雪には僅かに及ばない。彼らが機体の性能差も理解した上で武に立ち向かうという決断をしたのかは分からないが。

 よろしい。その判断が正しいのかはこれから彼らに身をもって実証してもらおうか。白銀の侍の力をヒヨッコどもに思い知らせてやろう。

 武は乗機であるM1Aの両腕に長刀を握らせ、全速力で突撃する。

 

 突撃に反応し、即座に散開した訓練生の吹雪の1機、肩に06とペイントされている1機を狙いに定めた武は長刀で突きを放つ。

 相手の吹雪は盾を構えて突きを防ぎ、ナイフシースから取り出した短刀を突き出す。武は半身を引くことでナイフによる一撃を回避し、同時に散開したもう1機――肩に05とペイントされた吹雪が放った弾丸も避けた。

 

「同時攻撃か……至近距離で密着している僚機に誤射することを恐れずに突撃銃ぶちかます度胸とその弾道の正確さは中々のもんだな。俺と至近距離からぶつかってもビビることなくナイフ一本で向かってきた相方も中々イケてる」

 武はこの訓練生の二機連携(エレメント)の評価を上方修正した。技量と連携に自信があるからこそ、自身を相手に僅か2機で立ち向かうことを無謀だとは考えなかったのだろう。

「けど、まだ甘いんだよな」

 武はニヒルな笑みを浮かべながらひとりごちる。そう、確かに彼らの度胸、技量、連携は見事なものだった。だが、その褒め言葉にはは『訓練生にしては』という枕詞がつく。

 実際、武はこの程度の2機連携(エレメント)は過去に何組も見てきた。精鋭部隊のパイロットであればこの程度の連携は軽くやってのけるし、経験を重ねたベテランのパイロットはそれに加えて老獪さも併せ持った策をしかけてくる。

 それに比べれば彼らはまだまだ未熟な井の中の蛙だ。撃墜王(エースパイロット)が闊歩する戦場に立つ前に大海を知ってもらわねばなるまい。

「さぁて……訓練校で天狗を気取ってるヒヨッコの鼻をへし折ってやりますか!!」

 武は乗機の背部マウントの2本の長刀を手に取り、逆手に構える。そして前方にいたタリサの吹雪に急加速して斬りかかった。

 

 

 武のM1に斬りかかられたタリサは盾を構えてその両腕から繰り出される連撃をいなそうとする。だが、緩急をつけた無駄のない巧みな連撃を受けたタリサの反応は次第に遅れ始めていた。

『っつ!!シン!!』

 タリサがたまらずシンに助けを求める。シンはビームサーベルを構えてM1Aを背後から襲うが、M1Aはステップを踏むような軽やかな動きでシンの斬撃を回避した。しかも回避の際に機体を半回転させて長刀の切っ先をタリサの機体の右腕を斬りつけた。右腕全損のダメージ判定を受けてタリサの吹雪の右腕が制御不能となる。

「クソ!!当たらない!!」

『どこから攻めても反応してくる!!あの人の目玉は何個ついてるんだよ!?』

 並の技量ではないことは理解していたが、やはりキツイ。右腕が使用不能となったタリサの吹雪では次の攻撃を持ちこたえることは不可能だ。そう判断したシンはこのまま一か八かの勝負に出ることを決断した。

 

「タリサ!!次にやつが突っ込んできたら至近距離でアンチビーム爆雷ディスチャージャーを起動させろ!!その後俺の合図でアンチビーム爆雷の幕から脱出するんだ!!」

『考えがあるんだな……信じるぞ!!』

 タリサはシンの機体の傍につけ、再度接近するM1Aに対して盾を構える。次の武の攻撃を確実に防ぎ、アンチビーム爆雷ディスチャージャーを起動させるためだ。そしてM1Aの両腕から放たれた突きが盾にあたった瞬間、アンチビーム爆雷ディスチャージャーを起動し、自身の吹雪とM1Aをアンチビーム爆雷の幕で包み込んだ。

 

 しかし、武は突然の事態にも動揺しなかった。煙幕も兼ねるアンチビーム爆雷で視界がはっきりしない中、熱源センサーだけを頼りに目の前のタリサの機体に長刀をあてて無力化した。そしてその目くらましに乗じ、ビームサーベルを突き出してきたシンの吹雪にも瞬時に反応し、ビームサーベルを持つ腕を蹴りとばした。

「目くらましに乗じて攻撃なんざ、甘いんだよ!!」

 だが、武器を失った吹雪に対してトドメの斬撃をお見舞いしようとしたその瞬間、武の駆るM1Aが凄まじい衝撃に襲われ、M1Aはその衝撃で大きく吹き飛ばされた。武は予期せぬ衝撃に驚きを顕にする。

「援軍か!?いや、違う!!これは……噴射ユニットか!!」

 衝撃でアンチビーム爆雷の幕から弾き飛ばされた武は視界の端を高速で掠める影を発見し、先ほどの衝撃の正体に気がついた。

 元々、噴射ユニットは被弾による誘爆によるダメージを避けるために緊急時にはパージできるようになっている。だが、あの訓練生は意図して噴射ユニットをパージし、即席のミサイルとして利用したのだろう。かつての部下であるキラも雷轟を使用した演習では幾度かストライカーパックを特攻させたことがあったが、まさか訓練生が同じ戦術を使ってくるとは。

 そして、武に続いて追撃をかけるためにビームサーベルを掲げた吹雪がアンチビーム爆雷の幕から飛び出してきた。先ほどの噴射ユニットの特攻で生まれた隙を突くつもりだったのだろうが、ここでシンは白銀武という男を見誤っていたことを思い知らされた。

 武は突撃する吹雪に対し、武は左腕の長刀を槍のように投げつけた。シンはこれを回避するが、腰部噴射ユニットの一片を失ってバランスを欠いた状態で咄嗟に機体を動かしたため、その姿勢は大きく崩れてしまう。

 そして、武がその隙を見逃すはずがない。姿勢の回復に手間取った一瞬の隙にM1Aは吹雪の懐に入り込み、右腕の長刀を胸部に叩きつけた。

 

『ファイター5、胸部被弾により撃墜。すぐに鳳翔に帰艦せよ』

 一瞬の出来事に半ば呆然としていたシンは三科教官の声で現実に引き戻された。自身を撃墜したM1Aは既にもう一機の仮想敵(アグレッサー)に加勢すべく移動をはじめていた。

 

「……畜生!!」

 手も足もでなかった。まさに完敗だ。しかし、シンは自信を完膚なきまでに打ち砕かれても闘志までは打ち砕かれてはいなかった。その瞳には悔しさを滲ませていても、諦めは微塵も浮かんでいない。

 彼は大海を知り、己の矮小さを知ったのだ。高みをしった彼はただ、上のみを見据えてこれからも歩み続けるのだろう。

 

 

 

 

形式番号 TSF-Type7

正式名称 七式戦術空間戦闘機『吹雪』

配備年数 C.E.77

設計   富士山重工業

機体全高 18.0m

使用武装 71式突撃砲

     71式支援突撃砲

     70式近接戦闘長刀

     70式片手盾

     71式ビーム砲

     71式ビームサーベル

     71式複合砲

     71式高周波振動短刀

 

備考:外見はMuv-Luvシリーズに登場する97式高等練習機『吹雪』

   ただし、脹脛の部分にスラスターを内蔵しているほか、甲型は跳躍ユニットの形が異なっている。(飛行機を思わせる形状ではなく、扁平な形状)

   撃震とは異なり、ナイフシースは前腕部にある。。

 ストライカーパックの換装で様々な状況に対応する連合のMSとは異なり、武装の換装のみで如何なる状況にも対応できる基本性能が優れたMSである不知火はこれまでの主力機とは一線を画す性能を持っており、海皇(ポセイドン)作戦では凄まじい戦果をたたき出した。

宇宙軍は次期主力機として陽炎改の改良型か不知火の設計を元にした量産仕様機にすることを決定し、量産のために各部の性能を落とした量産型不知火の生産に着手した。そして不知火をベースに量産性を重視した不知火弐型がロールアウトし、コンペに競り勝って次期主力機の座を見事に射止めた。

しかし、在来の機体とは隔絶した性能を持つ不知火弐型を乗りこなすことは一部のエース以外には難しかった。そのため、宇宙軍は不知火弐型の操縦になれるための練習機の開発を決定する。

不知火弐型の設計を一部流用した吹雪は不知火弐型の完全な下位互換機として完成し、吹雪で操縦のコツを掴んだパイロット達は不知火弐型の扱いにも慣れることができるようになった。

C.E.79現在では軍学校にも配備され、生徒達は在学中から不知火弐型の操縦に慣れることができるようになっている。

コスト的にも性能的にも不知火弐型の下位互換機ということで実戦にも十分耐えうる性能を持つため、スカンジナビア王国や赤道連合でも主力機としてライセンス生産されている。

 

 

 

 

形式番号 XFJ-Type5S

正式名称 五式戦術空間戦闘機『月虹』

配備年数 C.E.76

設計   三友重工業

機体全高 18.0m

使用武装 77式突撃砲

     71式支援突撃砲

     70式近接戦闘長刀

     70式片手盾

     71式ビーム砲

     71式ビームサーベル

     71式複合砲

     71式高周波振動短刀

 

備考:XFJ-Type5と外見上の差異は無い。しかし、宇宙軍使用の甲型、陸軍使用の乙型が存在し、跳躍ユニットの形状が若干異なる。

 

 

 月虹は陽炎改の先進技術実験改修機であり、ミラージュコロイド粒子を機体の周囲に展開することで光学でもレーダーでも捉えられなくなる。ミラージュコロイドを展開していなくてもアクティブステルスにより敵のレーダーに探知されにくく、ラミネート装甲の技術を転用した優れた廃熱技術を施されているために熱源探知にも引っかかりにくい。

敵の光学機器の索敵に範囲に入るまではミラージュコロイドを展開せずに接近できるため、バッテリー機故の短いミラージュコロイド展開可能時間を最大限に利用できるという特色がある。

音も無く忍び寄り敵に気づかれる前に刺すというファストルック・ファストキルに特化した機体であり、原型機である陽炎改の優秀な戦闘能力を可能な限り損ねることなくステルス性能を寄与するという開発計画の目標を達成することには成功したが、原型機である陽炎改がステルスを前提とした機体設計にされてはいなかったということもありステルス性能は当初予想していたほどの精度にまで達することはなかった。

そのためにこの機体が正式に採用されることはなく、結果としてステルス機の配備は次世代機の開発を待つこととなった。

C.E.79の卒業前戦闘技術特別審査演習に参加している機体を含めて12機の陽炎改が月虹に改修され、先進技術の実験を行った。そしてその実験で得られたデータは次世代ステルスMSの開発に生かされることとなる。


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