機動戦士ガンダムSEED DESTINY ZIPANGU   作:後藤陸将

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PHASE-15 閉塞作戦

『敵MS部隊、前方に展開。数は200です!!』

『機種特定――ダガーL100、ゲイツ50、その後方に三本脚(トライポッド)50!!』

 敵影をキャッチした『金剛』からMS隊に報せが入る。

「敵さんのおでましか……幸いなことに、あの盾蟹(シェンガオレン)とやらもいないみたいだな」

 『紅鳳』MS隊を統率す高田博康少佐は乗機である陽炎改のコックピットの中で口元を僅かに緩めた。

 第二次マリネリス基地防衛戦において猛威を振るった盾蟹(シェンガオレン)の情報は、作戦開始前に伝達されている。だが、情報があったからといって正直なところ高田はあの化け物を撃墜できるとは思えなかった。

 記録映像に残されていたフリーダムのような動きができるパイロットなど、帝国宇宙軍の中でも一握りだ。『紅鳳』MS隊全24機を当てたとしても、勝算は1割に満たないだろうと高田は確信している。

 もしも盾蟹(シェンガオレン)が出てきた場合、あのフリーダムが相手をしてくれる手筈になっているため、盾蟹(シェンガオレン)の存在如何で作戦の成否が左右されるということはないだろうが、正直戦場で出くわしたくない類の敵であることには違いないのだ。

 

『全部隊に通達、これより対空ミサイルを前方に発射し、敵部隊の陣形を乱す。炸裂と同時に進撃し、敵を迅速に各個撃破せよ』

 その通告の10秒後、巡洋艦や戦艦からミサイルが前方に放たれ、多数の火球を眼下に出現させた。そして火球が放つ光は次第にしぼみ、その奥に多少なりとも数を減らした敵部隊の姿が現れる。

「よし……全部隊突撃だ!!俺に続け!!」

 高田は自らを鼓舞するかのように叫び、3機の陽炎改を引き連れて突撃した。

 高田の標的はダガーLだ。迫り来るGAT-01ストライクダガーをそのまま踏襲した直線的なフォルムに高田はビームを浴びせる。盾に身を隠したダガーLに対し、左上方から回り込んだ僚機が斬りこみにかかる。

 咄嗟に反応した敵機はビームライフルで牽制するが、その隙に高田も敵機に接近し、複合砲をしまってビームサーベルに持ち替えていた。至近距離まで接近していた高田の機体に対して盾をむけるダガーLだったが、高田はダガーLの目前でスラスターを噴かして瞬時にダガーLの背後に回りこんでいた。

 高田が振り下ろした光刃は一瞬でダガーLの腹部を左から右に撫で斬った。ダガーLは離脱する高田の機体の背後で火球へと変貌する。

「次だ!!あの左足がもげた砲塔つきのヤツをやるぞ!!」

 高田の意識は既に先程撃墜した機体にはなかった。新たなる目標を見つけた高田は僚機を引き連れて標的に接近を試みる。

 先程の対空ミサイルから放たれた散弾が掠ったのだろう。左足がもげたダガーLは、右脚のスラスターも咳き込むように光を瞬かせている。どうやら右脚の調子もよくなさそうだ。この様子ではAMBAC制御も簡単ではなかろう。背部に備え付けられたドッペルホルン連装無反動砲が機動性を低下させたことが祟ったようだ。

 敵機も接近するこちらに気づいた。そして、連装無反動砲と両腕のビームカービンから火箭を放ち迫り来る陽炎改に対して弾幕を張る。ライフルに比べて接近戦での取り回しに秀でたカービンを二丁持っているというのがどうにもやりにくい。

 正面から撃ちあうことは愚策だと判断した高田は、僚機とともに左右からの挟み撃ちを狙う。左右から同時に接近する高田たちに対し、敵機は牽制射撃をしながら下降して逃げようと試みる。だが、脚部の調子の悪い脚部では姿勢制御は難しく、牽制射撃の精度もお世辞にも高いとは言えない。

 急降下中に姿勢制御が乱れた敵機に対し、高田たちも急降下で追い討ちをかける。高田の機体の左右、上下にビームカービンから放たれた緑の軌跡が囲い込むように描かれる。だが、高田の機体はその緑の軌跡には一切触れてはおらず、緑の軌跡はそのまま一瞬の内に後方へと流れ去った。

 高田は操縦桿を巧みに操作し、陽炎改は迫り来る火箭を掻い潜って射程距離に敵機を収めた。そして、高田はライフルの引き金を引く。

 放たれた火箭は見事に敵機の頭部を貫き、敵機から目を奪い去る。だが、高田は深入りせずにそのまま機体を左に滑らせながら離脱する。陽炎改の姿を追うように敵機から火箭が放たれるが、メインカメラを失った状態での射撃など、まず当たるはずがない。高田は悠々と離脱することに成功した。

 そして。高田に続くように僚機もが連続して緑の閃光を放ち、敵機の胴体を次々と射抜いていく。そして、僚機が離脱した瞬間、敵機は胴体部から紅の焔を吹き出して爆散した。

「これで2機か……」

 高田は警戒を緩めないまま、周囲の状況をレーダーで確認する。どうやら、最初のミサイルで30機ばかり撃墜できたことが効いたらしい。170対96――戦力比にしておよそ2対1だったはずが、今では100対88――およそ10対9にまで縮まっている。

 その時、高田の視界の端を5条の閃光が掠めた。直後、閃光の先でいくつもの火球が生まれる。高田が閃光の出所へと視線を向けると、そこにはあの蒼翼のMSがいた。そしてそのMSの砲撃で空いた穴に向けて間髪いれずに最新鋭の不知火弐型特別仕様機が斬り込んでいく。

 ある機体は敵MSの間を縫うように進み、その間に長刀で敵MSの腹を斬り裂く。ある機体は両腕にライフルを持ち、正確無比な射撃で次々と敵MSの腹部に風穴をあけていく。その手際は芸術と呼べるほどに無駄がないものだった。

「フリーダム……そしてあの練度……あれが噂の軌道降下兵団(オービットダイバーズ)か!!」

 フリーダム率いる一団は敵の軍勢の中を突き進む。高田は敵の軍勢を圧倒的な戦闘力で割って進むその姿にモーゼの奇跡を幻視した。

「別格どころじゃねぇ……次元が違うってことか。ま、味方となればこれ以上に頼もしいことはないな。敵に回されたマーシャンには同情するが」

 

 

 

 

 そのころ、アグニスはオーストレールコロニーに設けられた火星圏開拓共同体宇宙攻撃軍の最高司令室で顔を顰めていた。自分の護るべき兵たちは、数で優りながらも圧倒的な性能差で劣勢に立たされている。

「中央にあのフリーダムが現れました!!既に中央の部隊は壊滅寸前です!!」

「敵輸送艦!!進路変わらず!!まっすぐ突っ込んできます!!」

 オペレーターからの報告を聞いたアグニスは拳をコンソールに叩きつける。

「また……また貴様か!!フリーダムゥ!!」

 前回の戦闘でフリーダムの手によってもたらされた損害を思い出したアグニスの額に青筋が浮かぶ。あの戦いでアグニスは多数の部下を失い、切り札であるマルスも失った。何物にも代えがたい自身の右腕、ナーエはマルスのコックピットから救出できたことは不幸中の幸いだったと言えるだろう。

 多数の戦力を失った今、マーシャンが火星の資源採掘権を日本から奪い返すことはまず不可能だ。大西洋連邦の援助があるとはいえ、それは兵器の供給に限ったものであり、その兵器を扱うことができる義勇兵を融通してはくれない。

 既にこの国のMSパイロットは二度の侵攻失敗によって払底しているし、払底した人材を確保するあてもない。当初は傭兵の雇用も考えたが、資源の採掘の目処がなく手持ちの財産もないマーシャンに雇用されることを望む傭兵には碌な人材がいなかった。PMCなども、戦う前からまず負けが確定していると判断した相手を優良な顧客としては見てくれない。

 そもそも、大日本帝国の本格的な武力介入となればいくら傭兵と言えども大抵は命を惜しむ。募集に応じるのは、現実が見えない粗野な三流か、命知らずの一流ぐらいだ。こちらが所望していた命知らずの一流の傭兵の大半は現在中東の某王国にある地獄の一丁目と噂される最前線中の最前線、地獄の激戦区に集結しているとのことだ。結果、集まったのは治安を悪化させるような人材ばかりで、とても戦力たるものではなかった。

 また、これまで援助してくれたジャンク屋組合の残党は、前回の戦闘でこちらの勝機がなくなったことを察知してこの国を早々に出ていった。どのようなルートを使ったのか分からないが、彼らは大西洋連邦船籍の貨物船で堂々とこのコロニーを後にしていったのである。ただそれでもごく一部のバカのような気前のいいジャンク屋はこの国を逃げ出すことを拒否し、手を貸してくれていた。

 既に敵は本土であるコロニーの眼前まで攻め込んできている。そんな中、人も、兵器も満足ではない状態で勝ち目があると思えるほど、アグニスは楽観主義者ではない。彼はリアリストであり、それ故にこの先自分たちが受け入れる『敗北』という運命も理解していた。

 当然、敗北の運命の後に訪れるマーシャンの苦難も分かっている。民族浄化や虐殺といったジェノサイドが行われることはないだろうが、マーシャンは牙を抜かれ、日本にとって害のない犬に成り下がることになるだろう。

 尊厳も、技術も、資源もその全てが奪われ、マーシャンは0から――いや、マイナスから再出発を始めなければならない。マイナスから這い上がる国民の苦労は想像を絶する。復興のためにはマーシャンを導く運命を遺伝子により決定された自分の存在が必要不可欠であることをアグニスはもちろん理解していた。

 そう、アグニスはパトリック・ザラと同様に戦犯として今回の武力衝突の責任を取らなければならないのだ。アグニスがマーシャンの憎悪の対象となり、遺伝子による適正診断に基づいた社会を否定する象徴となることが、祖国の未来を救うのだから。

 実は、自身の部下を、マーシャンの未来を奪い、現在進行形で戦場で大暴れしているフリーダムへの復讐を願う心はアグニスにもあり、本当なら自分が出撃したいとアグニスは考えていた。だが、ここで自分が前線に出て戦死することになれば、戦犯としての責任は自分以外の誰かが償わなければならなくなる。それは、戦後に必要な人材を失うことにも繋がりかねないため、アグニスには自身の命を危険に曝す行為は絶対にできなかった。

 元々我慢強い方ではないアグニスは、自身に課せられた役割を全うしようとする理性と、今すぐに敵討ちに向かおうとする感情との板ばさみで激しいフラストレーションを溜め込んでいる。それを象徴するかのように強く握り締めた彼の手からは血が流れ、司令官席から飛び出そうとする身体を押さえつけるかのように歯を食いしばっていた。

 その時、怒りで頭が茹で上がっていたアグニスの下に新たな報告が届く。

「左翼を突破し、輸送艦がコロニー群に接近中!!数は13!!このままのスピードではコロニーと衝突します」

「何だと!?」

 アグニスは 宙域図で敵輸送艦の位置を確認する。既にかなりコロニーに輸送艦が近づいていることがわかる。

「何故ここまで接近を許したぁ!?」

 怒鳴るアグニスに対し、オペレーターがおそるおそる答える。

「……す、既に左翼は組織的な戦闘ができる状態にありません。中央、並びに右翼も敵MS隊に押し込まれています。救援に回せる戦力はありません」

「そうではない!!何故左翼の輸送艦の情報が今頃になって上がってくるんだ!!もっと早く気づくことができただろうが!!」

「前線が混乱しており、その……通信を整理することで手一杯となって、結果的に……えっと、レーダーへの注意が散漫に」

 ただでさえ我慢弱いアグニスの堪忍袋の緒は一瞬で切れ、怒髪天を衝く勢いで怒鳴った。

「貴様、それでも軍人かぁ!!戦場の把握が貴様の任務だろうがぁ!!」

 日本軍のECMに対応しつつ、混乱して収拾のつかなくなった自軍の管制を経験の浅い火星出身のオペレーターが行う以上、このようなことは避けられなかっただろう。管制への適正だけでオペレーターを選んだことへのツケをマーシャンはこの場で払うこととなった。

 

 

 

 コロニー群に迫る輸送船団目掛け、コロニーから出撃した旧ザフトの警備無人ポッドが迫る。MSとの戦闘には全く使えない非力な旧式機だが、そのアームに抱えられた76mm砲は民間の輸送船ぐらいであれば沈めることも可能だ。

 本来であれば密入国を試みるシャトルなどの小船を撃沈するための警備ロボットなので、戦闘には向かないのはマーシャン側も百も承知である。ただ、各戦線が崩壊状態にある以上、コロニーを目指す輸送船相手に割ける戦力はこれ以外に存在しなかった。

 しかし、所詮は警備用。輸送船の護衛任務についている7機の不知火弐型の敵ではない。前回の侵攻時に損傷を負ったネルソン級までもが湾港区画から出撃するも、装甲の修復が終わっていない区画を集中的に攻撃されて数分足らずで撃沈されていた。輸送船2隻が流れ弾で損傷を負い突入を断念したが、もはや輸送船の脚を止めるものはなかった。

 

『輸送船10隻、全て突入コースに入りました』

 巡洋艦『赤塚』の艦橋で、『小早』の符丁を与えられた輸送船団を指揮する猪谷信夫少佐は、通信士からの報告を聞いて笑みを浮かべた。

「よし……全艦突入だ!!」

 猪谷少佐の号令で輸送船は次々と別々のコロニーに向かって猛進する。そして、無人の輸送船はコロニーの湾港部に設置されたエアロックのシャッターへと激突した。加速がついた輸送船の船首はシャッターを突き破り、内壁との間に火花を散らしながら船体をエアロックの内部に捻りこませる。強引な突破、正規のアプローチを無視した突入の衝撃はコロニー全体を揺るがした。

『全艦、エアロックに突入しました!!』

「ようし……仕上げだ!!積荷をぶっとばせ!!」

 猪谷少佐の合図で、エアロックに強行突入した輸送船内部に施された仕掛けが作動した。




う~ん、気分転換に別のSSでも書きたいですね。
本当はこういう気分転換したいときはゴルゴさんの出番なのですが、アポ5巻の内容次第では修正がいるかもしれないので今続き書くのは無理ですし……5巻でるのは冬ですから。
かといって、別の長編は正直厳しい……自分は長編の同時連載は2本までが限界ですね。前にネタ予告したゴジラの短編でも書こうか悩んでます。

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