機動戦士ガンダムSEED DESTINY ZIPANGU   作:後藤陸将

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PHASE-13 兵士に求められるもの

 軌道降下部隊(オービットダイバーズ)の介入によって窮地から脱し、マーシャンの撤退により無事に帰還に成功したマリネリス基地航宙隊第一中隊の面々は、愛機を整備班に預けてブリーフィングルームに集まっていた。

 本来であれば一度部屋に戻るなりしてゆっくり休んでいたかったが、未だに基地の警戒態勢は解除されていないため、彼らは中隊長の響の命令でブリーフィングルームに待機していた。

 

軌道降下兵団(オービットダイバーズ)か……」

 雁屋が呟いた。その口調からはどこか高揚感が感じられる。

「噂では聞いたことがあったけど、まさか本当に組織されていたなんて」

「ああ。しかし、精鋭無比の最強部隊というのは噂だけじゃないみたいだな」

 副隊長の甲田が雁屋の呟きに答えた。

「僅か一個中隊であれだけの軍勢を壊滅させるなんて、普通の部隊じゃ絶対に無理だ。しかし、その中でもあのフリーダムだけは別格だ」

 自分たちの中隊を蝿の払うかのように軽くあしらい、他を寄せ付けない防御力と圧倒的な火力を擁する敵の巨大MAに対して自分たちは一度は絶望を抱いた。しかし、あのフリーダムは単機でその絶望を振り払い、瞬く間に巨大MAを無力化することに成功させたのだ。少なからざる戦闘経験のある彼らをして驚異的と思わせるのは十分だった。

 そこに涼が疑問を呈する。

「でも、確か、ZGMF-10Aフリーダムってザフトの機体よね?外見から察するにカスタム機だとは思うけれども、それでもどうして他国の、それも8年も前の機体が軌道降下部隊(オービットダイバーズ)に所属しているのかしら」

「さぁな……だが、俺にはあのフリーダムが他の不知火弐型に比べて劣った機体には全く見えなかった。中島少尉は元整備士の視点からしてどう見る?」

 中島はヘルメットで蒸れた頭を掻く。

「う~ん、私見ですが、私もあの機体の性能は周囲の不知火弐型に別段劣るものではないと思います。むしろ、部分的には秀でているところもあると思いますよ」

「具体的には?」

「まず、火力ですね。腰部レールガンに翼部の高エネルギービーム砲がそれぞれ2門ずつ、そして複合砲が一門……どれも距離を取ったらかなり強力な兵装です。一体多数を想定した場合、距離を取れば不知火よりも優位に戦えるでしょうね。そしてあの翼です。5対10枚のウイングバインダーが、空気抵抗を制御しているため、高速で降下していても、細かな姿勢の制御が可能なようです。だから、降下中に攻撃に移ることもできるんです」

 元整備士の的確な分析に一同は唸る。何故、フリーダムがいるのかはわからないが、フリーダムの性能が軌道降下兵団(オービットダイバーズ)に必要とされていることは確かなようだった。

「皆さん!!そんなことよりも、すっごいことがあるじゃないですか!!

 一同が唸る中、CPの舞が上機嫌で口を開いた。

「何だ?さっぱり見当がつかないが……」

「鈍いですよ、雁屋少尉!!ほら、あのフリーダムのパイロットですよ!!」

「だから、凄腕だって……」

「それもそうですけど!!あれだけの凄腕パイロットですよ!?MSもかっこいいし、物凄く強いし、きっとパイロットもすごいイケメンで、感じのいい人紳士系のやさしい美男子に違いありません!!あ~、お近づきになれるかも~!!」

 力説する舞に、涼は呆れた表情を浮かべる。

「あのねぇ、舞。軌道降下兵団(オービットダイバーズ)は精鋭中の精鋭よ。団員の構成とかは機密にあたるでしょうから、簡単に会えるわけがないでしょうが。それに、そもそもフリーダムのパイロットが男かどうかも、顔も性格も操縦みたぐらいで分かるわけないわ」

「でもでも~~、私、あの人たちからの通信を聞いたんですよ!!声は加工されていたから良くわからなかったけど、口調は男性みたいでした。だからきっと私の理想の皇子様が……」

 自分の世界にトリップした後輩に対し、涼は肩をすくめた。処置無しということだろう。

「今度のお相手は顔も名前も声も何も分からないフリーダムのパイロットか」

「ホント舞は節操ないな。前は確か、メジャーリーグに挑戦した投手だったし、それでその前が、えっと……」

「レーサーよ。本人曰く、恋多き女らしいわ」

 先任たちは彼女のミーハーっぷりは先刻承知のため、溜息をついてこの話題を打ち切った。

 

 先任たちが緊張をほぐして和気藹々と談笑している中、新人ふたりは長時間の過酷な実戦により完全にグロッキーだった。命のやりとりをする緊張感は、二人の体力を限界まで消耗させていた。

「なぁ、シン……やっぱ、洗礼ってすげぇ大事なものだったんだな」

 タリサが呟く。

「あれで化け物みたいなパイロットにマジで殺されるって経験してなければ、アタシは途中で動けなくなっていたかもしれない」

 シンも同感だった。敵のMSの性能に感じた緊張感、体力の消耗、味方の劣勢から感じた危機感、何れも今回の戦闘の方が初陣よりも大きかった。

「本気で負ける、死ぬって経験をさせてもらえたのは、確かにありがたかったかもな」

 シンは言った。

「じゃないと、俺もあの巨大MAが出てきた時点で戦意を失っていたかもしれないと思う」

「結局、シンはやけになってつっこんで撃墜されたんだから、戦意が少しくらい萎えていた方が良かったんじゃないかってアタシは思うけどな。結局、アタシがお前を回収しなければならなかったし」

 ニヤけながらのタリサの返しに、シンは不貞腐れたように顔を背けた。

 

 それからおよそ一時間後、基地司令を交えた会議を終えた響がブリーフィングルームにやってきた。そして、入室早々にシンを呼び出した。

「おう新米二人、ちょっとこっちに来い」

 シンは素直に呼び出しに従い、響の前に立つ。

「機体の記録を見させてもらった。シン、何故お前は敵の巨大MAが佐伯を撃墜した後、甲田が命令を待つように言ったのに無謀にも突っ込んでいったんだ?」

「……あの巨大MAの火力は異常でした。命令を待っていればヤツは確実に前進し、その火力で基地に大きな損害を加えることが予想されたため、自分はこれを一刻も早く阻止すべきだと判断しました」

「結果、お前は敵MAの脚を切断することに成功した。だが、同時に敵の集中砲火を浴びて機体は大破、戦闘不能になった。軌道降下兵団(オービットダイバーズ)が来るのが後少し遅ければ、間違いなくお前は死んでいたな」

 響の指摘にシンは眉を吊り上げながら反論する。

「結果論ではそうです。けど、あの時増援を待っていたら、やつはもっと前進していました!!やつに砲撃をさせたら終わりじゃないですか!!」

「お前は、あの行動が最善だと思って行動した……そう主張するんだな」

「そうです」

 その言葉が引き金となった。

 先程まで能面のような表情を浮かべていた響の顔に、青筋が浮かび上がる。そして、隣の部屋にでも聞こえるくらいの大声でシンを怒鳴りつけた。

「馬鹿野郎!!」

 怒声が室内に響き渡る。

「お前は何も考えていない!!確かに、あのMAは危険な存在だ。だがな!!危険な相手であるからこそ、より慎重な対応が求められるんだ!!撃墜された佐伯は動けない状態だったことを承知でお前はあの巨大MAを下から攻めたな。結果、佐伯の近くにも敵の雨のような砲火の流れ弾が着弾しているんだぞ!!お前は佐伯を殺しかけたんだ!!」

 佐伯は、乗機が撃破された際に、コックピットにも損傷を受けて負傷した。火傷と骨折で3ヶ月は復帰できないほどの怪我であり、近い内に後方の安土や大坂に下げられる予定となっている。そして、その怪我を負うきっかけとなったのが、シンの独走にあったことは否めない。

 シンは響の言葉に言い返すこともできず、唇を噛む。

「タリサ!!お前もだ!!このバカをフォローするためとは言え、お前も甲田の制止を振り切って独断行動をしたな!!戦術的な是非はともかく、お前までこのバカに付き合ってリスクの高い接近戦をしてどうするんだ!!」

 次なる標的となったタリサも、響の叱責に身を縮こませる。そして、響の怒りの矛先は最後に副隊長である甲田に向かった。

「そして甲田!!お前も判断が遅すぎる!!タリサを制止するのなら、お前が指揮してシンのフォローに入れるように適正な指示を出すべきだったんだ!!新任の動きにお前は注意を払っていなかったのか!?」」

 ひとしきり怒りを爆発させたのか、響の怒気は薄れ、その表情にも平素のものが戻りつつあった。だが、未だに険しい表情と厳しい目つきは変わらない。

「仮に、お前があのフリーダムのように敵のMAを撃墜するだけの能力を持っていたとしても、お前の独断行動で状況が打開できたとは思えん。お前は、あのMAが核で動いていることを考えなかったのか?」

「……考えていませんでした」

「敵MAの残骸を調査した結果、あの機体には核動力が搭載されていたことが確認された。あれだけの火力を有する機体のエネルギー消費を賄える機関として、十分に予測できたはずだがな。お前は、核動力搭載機を撃墜した場合、何が起きるのかは聞かなくても分かるな?」

 シンは無言で頷く。

 もしも、シンが敵MAの撃破に成功したとしても、敵が最後の力で原子炉を暴走させた場合にはシンは助からなかっただろう。いや、おそらくあの機体の周囲で戦闘中だった機体は敵味方問わず核の焔に焼き尽くされたに違いない。

 自分は、ただ敵を討ち滅ぼすことしか考えていなかった。一時の感情に任せて突っ走り、その後がどうなるかなんて全く考えていなかったのだ。

「……あのフリーダムは大した腕を持つやつだ。機体を検分したところ、NJCはピンポイントで破壊されていたらしいからな」

 あのフリーダムは自分よりも遥かに強い。その上、状況を冷静に見つめ、適切な対処をしてみせたということだ。全てにおいてあのフリーダムは自分の上をいっていたのである。あのフリーダムのパイロットと比べることすらおこがましいほどの自分の痴態がたまらなく悔しかった。

「お前は、大和中尉と肩を並べることが目標だと言っていたな。だがな、周りが見えていない今のお前では、絶対に彼には追いつけねぇ!!」

 そして、響は腕を組みシンを見下ろしながら言った。

 

「無茶して死ぬのは勝手だが、俺たちに迷惑をかけるな」

 

 シンは何も答えることができなかった。

 

 

 

 その後、シンは命令違反ということで減給と始末書処分となった。本来であれば数日独房で頭を冷やしてもらうべきだったが、前回の戦闘での消耗、特にパイロットの消耗が激しく、動けるパイロットが有事の際にすぐに動けるようにする必要があり、シンの機体も大破していたが、マリネリス基地の貴重なパイロットを遊ばせておくわけにはいかなかったのだ。ただ、無罪放免というわけではなく、シンの正式な処分は、日本側に余裕ができた後に改めて出されるようだと響はシンに伝えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めて本格的な予告を作りました。

 ネタ予告ではありません。(内容は90%超がネタですが)マジの予告です。ただし、本編ではなく番外編の予告ですが。

 SEED DESTINY ZIPANGUではなく、SEED ZIPANGU BYROADSに掲載する予定です。

 

 

 

<予告>

 

 C.E.73 プラントと地球連合の戦争が終結してから2年後、世界は建艦競争の真っ只中にありました。

 そんな中、日本を護る最強の戦艦を建造が決定し、その願いは造船一筋30年の造船の神に託されます。

 戦艦が戦艦であるために、大和が最強の戦艦であるために、技術者達は戦います。

 かつて、ジェネシスを打ち砕き、日本に迫る災禍を打ち払った伝説の巨砲、マキシマ砲。

 技術者へ要求されたのは、そのマキシマ砲を超える兵装、マキシマ砲に耐える装甲、全てを凌駕する高速性能を併せ持つ最強の戦艦の建造でした。

 矛盾を孕んだ技術的な問題が山積する中、設計を任された造船の神は、山積する問題を解決するために、ついに禁断の存在に手を出します。

 横浜の魔女、狂気の天災が授けた英知は、彼らの戦艦を恐るべき大怪獣へと変貌させる狂気の代物でした。

 小惑星を粉砕する艦首砲、全ての攻撃を受け付けない絶対防御、マキシマを超えたニューマキシマ。

 そして、ついに日本は総力を結集し、並み居る戦艦をものともしない最強の戦艦を造り上げます。

 

 来週は怪獣王と呼ばれた最強の戦艦を造り上げた不屈の技術者たちの物語です。

 

 次回機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU BYROADS

 PHASE-X 挑戦者達 ~日本の力を結集せよ――怪獣王を造った技術者魂~

 ご期待ください。

 




予告に書いた番外編は、速ければ土曜夜くらいには仕上がりそうです。

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