機動戦士ガンダムSEED DESTINY ZIPANGU   作:後藤陸将

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機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU
の原作キャラ紹介

そして番外編である
機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU BYROADS
の最新話

更に更に昨日から投稿を始めたSEED ZIPANGUの続編

機動戦士ガンダムSEED DESTINY ZIPANGU

の第一話を今回同時投降しました!!疲れた……


PHASE-1 新たなる戦士

 世界中を戦場としたヤキンドゥーエ戦役から7年。日本は世界を包んだ戦火を乗り越え、今、様々な、未知なる世界へと進出していた。

純粋な憧れと探究心に満ちた日本人の旅立ち。政府やマスコミはそれを新開拓(ネオフロンティア)時代と呼んだ。

 しかし、それは同時に新たな戦いの火種を孕んだ時代だった。

 

 

 

 

C.E.79 2月18日 L4外周宙域

 

 航宙母艦鳳翔は前線では旧式化し、練習艦としての改装を受けて伏見の大日本帝国宇宙軍航宙学校に払い下げられた艦である。MSやMAの操縦指導はL4のコロニー群から離れた安全な宙域で行われるため、MSを運搬する艦船が必要だったのだ。そしてこの艦は練習艦を兼ねているので、当然機関士や操舵士等にも学生が混ざっている。

 しかし、この艦のパイロット以外の人員の半分は学生ではない。流石にヒヨコどもに航宙母艦の全てを任せるとなれば不安なのだ。そこでこの艦には退役軍人を招き、後進の指導に励んでもらっている。

 そしてこの艦のブリッジには、今ただならぬ緊張感が漂っていた。その緊張感の原因となっているのは、宇宙軍の軍装に身を包んだ二人の男女にあった。肩章を見るに、男は少佐、女性は中尉だ。

 男はブリッジから見える星の海を飛び回る訓練機――瑞鶴を見て呟いた。

「ヤキンドゥーエ戦役中期の高性能MSが、今は訓練機ですか」

 その呟きに、傍らにいた訓練学校の三科正巳教官が答えた。

「まだまだ現役で行けますよ……と言いたいところですが、昨今の技術進歩を見ていると、そうも言えませんな。しかし、それでも訓練生には勿体無いぐらいですよ」

「心配なのは、それを乗りこなす訓練生の腕ですよねぇ……」

 三科に続いて口を開いた女性は大上律子中尉だ。少佐の肩書きを持つ男の副官である。

「運転免許の教習所じゃないんだ。腕は徹底的に鍛え上げているはずさ。そうでしょう?三科教官」

「はっはっは……少佐に信用されていると思うと、嬉しいですな」

「自分の部下にも教官に扱かれたってやつがいましてね。そいつの腕を見て分かりましたよ」

 教官と楽しそうに談笑している男こそ、大日本帝国が誇る最強の撃墜王(エースパイロット)、『銀の侍』の二つ名を国内外問わず轟かす英雄である白銀武少佐だ。彼が訓練学校に来たのは将来有望な新人をその目で見極めるためであった。

 教科書に記述されるほどの英雄の登場に、ブリッジにいた訓練生達はガチッガチに緊張していた。

 

「現在の最高は78点……この二名が、全くの同点です」

三科がブリッジにある教官用コンソールを操作し、生徒のデータを映し出した。飛鳥シンと不動猛、二人の成績は額面上はとても優秀なものだった。

「おぉ~、この高得点が2名ですか。将来有望ですなぁ」

「今年の新人はかなり期待できそうだ」

 昂揚している大上に対し、武は冷淡な口調だ。そして武はブリッジの外を見て、2機の瑞鶴が長刀で斬り結んでいる様子を見て言った。

「接近戦は中々の素養があるようですね」

「ええ、どちらも近接戦闘に秀でたタイプのパイロットです。勿論、だからと言って銃が使えないわけじゃあありませんが」

 三科の言葉を証明するように、肩に一号機とペイントされている瑞鶴が鍔迫り合いの状態から背部ガンマウントを起動し、脇下から二号機に銃撃を見舞う。しかし、二号機もそれは見破っていた。長刀に力を乗せ、敵の長刀を支点に機体を上に弾き飛ばすことで銃撃を回避、さらに一号機の上方でガンマウントを起動し、弾丸のシャワーを浴びせようとする。

 弾丸のシャワーを上方から浴びせられた一号機は大きく足を振り、AMBAC制御で後方に退き、長刀を構えなおして二号機と向き合った。弾数が限られている以上、むやみやたらと弾丸をばら撒くわけにはいかない。まして、相手は自分と同格となれば簡単には弾は当たらない。

 無駄弾を出さず、いかに勝負所で上手く突撃砲を使うか。それがこの戦いを左右すると二人の訓練生は確信していた。

 

「まぁ、技術的にはなんら問題はないんですが……」

 三科が今年の最高成績者のデータを前に唸る。

「このアスカですが、かっとなりやすいところがあり、一度熱くなると周りが見えなくなりがちなんですよ。訓練時にはいい学友がサポートに入ってくれていたみたいですから、額面上の成績はいいんですけどねぇ」

「要するに、問題児ってやつですか」

 大上の言葉に三科は苦笑する。

「ええ、まぁ……」

 

 2機の瑞鶴の戦いも終盤に差し掛かっていた。互いに突撃砲の残弾は残り少なく、設定された制限時間に近づきつつある。一号機は長刀を水平に構え、突きの構えを取る。それに対し、二号機は長刀の切っ先を下げ、下段の構えを取った。

 2機は同時に急加速して接近する。そして一号機の長刀の切っ先目掛けて二号機が長刀を振り上げる。一号機の長刀の切っ先は振り上げられた刃に逸らされて二号機の左肩を突き、刺突を逸らした際に長刀を弾かれた二号機は更に左肩を突かれた衝撃で左方向に回転する。

 そしてその回転の勢いと腰部噴射ユニットの噴射の勢いにのって二号機の右脚が振りぬかれ、一号機の胸部に鞭のように打ち込まれた。凄まじい衝撃に襲われた一号機のパイロットはしばしその動きを硬直させてしまう。

 その一瞬の隙を二号機のパイロットは見逃さなかった。瞬時に突撃砲を背部から展開し、一号機に撃ち込んだ。ペイント弾が炸裂した二号機はあっという間に胸部を中心に黄色の染料に染め上げられてしまった。

 

 2機の瑞鶴が帰艦する光景を見た大上が口を開く。

「決着がつきましたか……」

「腕はいいんですよ、しかしねぇ……」

「あんな蹴りをやられたら二号機の膝関節は分解整備だな。一号機も胸部のフレームが歪んでる可能性がある。リミッターがかけられていても遠心力と噴射ユニットの加速をかければかなりの破壊力になるからな」

 三科はボヤキ、武もこれから整備に追われる学生達の苦労を察して苦笑する。

 

 

 

 

「ちっくしょ~、おい!シン!てめぇ何しやがる!!」

 鳳翔の格納庫にて、胸部を黄色に染められた瑞鶴から降りた体格のいい男――不動猛が隣の機体から降りてきた黒髪紅眼の青年――飛鳥シンに詰め寄った。

「別に問題ないだろ?瑞鶴の装甲は今の主力機よりも厚いんだぜ?リミッターかけられた機体の蹴りぐらいでは潰れないって」

「衝撃は装甲の中にモロに伝わるんだぞ!!中の人は無事ですまねぇよ!!」

 猛はシンの首に腕を回してロックし、頭に拳を当て、ウメボシをしかける。

「わ、悪かった!悪かったって!!」

 シンは猛の腕をタップするが、猛はウメボシをやめようとしない。

「不動候補生、もっとやっちゃて下さい!!」

「遠慮はいりません。いつもこいつの機体にはものすごい整備の手間をかけさせられるんです!!」

 さらに整備班からも追撃のリクエストがとぶ。猛はそのリクエストに応えるかのようにより強くシンを締め付け、格納庫にはシンの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 不動による制裁から開放されたシンであったが、いまだに頭を抱えていた。

「おい不動。あそこまで強くやる必要はねぇだろうよ。まだ痛むぞ」

「整備班の皆様のリクエストだからな。まぁ、あれだけ不満を溜め込ませたお前が悪いんだ。この機会に少しは清算できたことを少しは嬉しく思えよ」

 シンの愚痴にも不動は何処吹く風といった様子だ。

「嬉しくなんて思えるか!!……って痛!!おいこらタリサ!!」

「なんだよ~アタシもお前には色々と溜め込んだ不満があるんだから少しぐらい清算させてくれてもいいだろう?」

 未だに痛むシンの頭に追撃をかけようとした褐色肌の少女が繰り出した両腕をシンはがっしりと掴んでいた。よほどウメボシされていたところを触られたくないのだろう。

 実習を終えて教官に反省点を纏めたレポートを提出した後、彼らはブリーフィングルームに集まっていた。これから始まるのは大日本帝国宇宙軍航宙学校の伝統行事、所謂『洗礼』についての説明だ。

 

 『洗礼』と聞くと宗教的な行事かと思うかもしれないが、実際には宗教色なんぞ欠片も存在しない。正確には卒業前戦闘技術特別審査演習と言い、現役のパイロット演じる仮想敵(アグレッサー)相手に航宙学校卒業予定の生徒が模擬戦をするだけだ。

 しかし、この伝統行事は毎年かなりエグイことをする。なんせ前回の大戦で名を馳せたエースパイロットを招聘し、彼らに手加減なしでヒヨッコの相手をさせるのである。この行事の目的は、狭い航宙学校の中で天狗になりかけている者を徹底的に叩くことと、エースパイロットクラスとの戦いを経験させることにある。

 毎年ヒヨッコたちは仮想敵(アグレッサー)の10倍以上の数で挑むのだが、それでも一時間もったためしはない。まして、仮想敵(アグレッサー)を撃墜したことなど一度も無い。

 因みにこの制度が始まった6年前から今日まで、過去に仮想敵(アグレッサー)を引き受けたパイロットは化け物ぞろいだ。『最強の傭兵』叢雲劾特務中尉、『白の鬼神』大和キラ中尉、『山吹の姫武将』篁唯依少佐、『銀の侍』白銀武少佐、『烈士』沙霧尚哉少佐と言った生ける伝説クラスのパイロットの圧倒的な力を見せ付けられ、恐怖に慄く生徒も少なくない。

 この伝統行事にはヒヨッコたちが部隊に配属される前に本物の化け物の力を知ることで己の力を自覚し、配属後もより一層鍛錬に励むように促す目的も勿論あるが、主目的は別のところにある。いくらなんでもヒヨッコたちへの激励と今後一層の努力を促すためだけにエースクラスのパイロットを毎年派遣できるほど現場は暇ではないし、軍令部も酔狂ではない。

 前回の大戦で宇宙軍が得た戦訓の中には、ザフトの圧倒的な個の質の有利を生かした戦術に対するものもあった。前回の大戦時、連合軍に比べ、パイロットもMSも圧倒的で量でおとるザフトは個の圧倒的な質の差を持って戦線を維持していた。

 当時、超人的なパイロットとワンオフに近い超高性能MSの組み合わせは連合軍に尋常ではない被害を及ぼしていた。一機のエース機を撃墜するために1ダース以上の量産機が必要という笑えない撃墜対被撃墜比率(キルレシオ)を提示された各国はその対策として、超高性能機を少数導入せざるを得なかった。

 日本も安土攻防戦でザフトのフリーダム、ジャスティスには散々な目に合わされていたこともあり、もしも敵のスーパーエースクラスのパイロットが相手になったときのための対策を講じる必要があった。

 この『洗礼』では、配属前の卒業予定者達に真の撃墜王(エースパイロット)の理不尽なほどの実力を肌で感じてもらい、もしも敵エースパイロットと遭遇したときでもその圧倒的な技量差、機体の性能差に呑まれないようにすることなど、エースパイロットを相手にする場合の気の持ちようや、時間を稼いだり撤退するために何をすればいいかを考えさせる場でもある。

 これはただの弱いもの虐めではないのである。

 

 

 

 

 

「しかしよう、今年の仮想敵(アグレッサー)もやばいヤツなのかな……」

 そう零したタリサ、実はその肌から分かるように、純粋な日本人ではない。シンも純粋な日本人ではないという点で航宙学校に入ったばかりの頃は周りと少し隔意があったが、同じような境遇だったタリサとは妙に馬があい、実習では彼女と二機連携(エレメント)を組むほど仲がよくなった。

 

 

 

 因みに彼女は第三次世界大戦後に日本に移住してきた元ネパール人の子孫とのことだ。以前、彼女の曾お爺さんがどのようにしてこの国に来たのかを聞いたが、正に波乱万丈と言っても過言ではなかった。

 第三次世界大戦末期、東アジア共和国はインド亜大陸に電撃的に侵攻し、ネパールも戦火に包まれた。当時のネパールにはビジネスや観光目的で多くの邦人も滞在していたが、東アジア共和国軍がインド、ネパール侵攻後即座に制空権、制海権を掌握したために数千人近い邦人の殆どが脱出の手段を失い、在ネパール日本大使館に駆け込んだ。

 その後、東アジア共和国との交渉の末、1日だけ邦人脱出のために航空機が飛行することが許可され、殆どの邦人がネパール脱出に成功した。しかし、全ての邦人が脱出できたわけではない。

 その理由は隣国のインド国内にあった。インド国内の少なくない空港がインド国内の反抗軍が占拠されていたり、空爆で滑走路に被害を受けていたために使用できる空港が少なく、また他国もその空港に脱出機を用意するため、一日でインドに住む全ての邦人を脱出させることは不可能だった。

 そのため、在インド大使は邦人の一部をネパールの空港から脱出させることを目論んでネパールに送った。しかし、ネパールにいた邦人に加えてインドから脱出してきた邦人まで脱出させようとしても、ネパールの空港機能は小さく、到底無理な話であった。結局邦人脱出のために与えられた一日の休戦期間では十数人の邦人が脱出できずにネパールに取り残されることとなってしまう。

 本国が交渉を重ねてくれており、そう遠くないうちに救援が再度来ることは当時の在ネパール日本大使である江守誠一も理解していた。しかし状況は緊迫の度を増し、東アジア共和国軍が日本人への敵対心から邦人に危害を加えようとしたり、地元のレジスタンスに漢民族と間違われて襲撃されかけたこともあったりととても状況は楽観視できるものではなかった。

 特に江守は東アジア共和国の姿勢に恐れを抱いていたという。邦人の女性に乱暴したという事例もあり、東アジア共和国軍に抗議したが、全く効果がなかったばかりか次第にその行動がエスカレートしていることを感じていたらしい。

 江守大使は伝を使って様々な方法で邦人を脱出させるように懸命に努力したが、インドの全土が安全の保証できる環境ではなくなり、本国からの救援を待っていてはその前に殺されてしまうと判断した。

 そこで、彼はネパールに取り残された16人の邦人を連れて隣国の汎ムスリム会議領への脱出を決断した。その際、彼が頼ったのは現地で親交があった地元の山岳民族の男だった。地元のレジスタンスの攻撃を避け、かつ東アジア共和国の攻撃を避けられる険しい山岳地帯を通って脱出するとなると、彼らの助力が不可欠だと判断したのである。

 

 江守に手を貸すように頼まれた男――タリサの曽祖父、ジャナ・マナンダルは条件付でこれを受け入れた。その条件とは、自分達の部族の一部の日本への同行、そしてその後の市民権である。

 流石に一大使に即決できることではなかったが、かといって本国と協議する方法もない。江守は免職覚悟で、第三国への渡航ビザの発効までなら保障するという条件を提示、ジャナはそれを呑み、こうしてネパール大使一行は険しい山々を越えて隣国への脱出の途についたのである。

 旅路は険しく、途中で3人の邦人と9人のグルカの民が命を落すこととなったが、一ヶ月後に彼らは無事に汎ムスリム会議領に辿りつき、現地の大使館に保護された。

 その後、日本国内ではこの奇跡の脱出のことが大きく報道され、ジャナらも国民から歓喜の声で迎えられた。当初外務省は第三国――当時建国したばかりのオーブへの渡航ビザを手配することでジャナたちグルカの民への報酬としようとしたが、それに待ったがかかった。

 脱出を支援してくれたグルカの民は日本の市民権を望んでおり、同胞の命の恩人に対して報いないということはどうなのかという意見が世論から噴出したのだ。外務省としてはこのような前例を許すことは日本への異民族の移民増加に繋がりかねないこともあって、簡単には許可できない。

 そんな中、いとやんごとなきお方がこの件に関してお言葉を発せられた。

「命からがらの逃避行を支えてくれた恩人に対し、礼を欠くのはいかがなものか」

とのお言葉を受けて、外務省は彼らへの市民権の供与を決断。同時にこのような事態を考慮した特別法を制定し、自作自演で市民権を得ようとする不貞の輩が出ないように予防線を張った。

 その後ジャナの連れてきた赤子が同時に脱出したある夫婦の娘と結婚し、その息子が一族の娘と結ばれたことでタリサが生まれたということらしい。人に歴史ありということか。

 

 

 

 

「去年はあの『山吹の姫武将』だったって聞いたぜ。25分しか持たなかったんだっけか?そんで模擬戦後、篁少佐の美しさと気高さと強さに惹かれた負け犬共が少佐に告白する権利を賭けて大乱闘したんだっけか」

 不動の言葉で昨年の騒動を思い出す。先輩方が本気の殴り合いをしてた結果教官の雷が落ち、彼らは確か卒業まで毎日居残りして鳳翔の外壁清掃の罰則をやらされていたはずだ。先輩だが、馬鹿なやつらだったと思う。そもそも、少佐は子持ちの既婚者だ。告白など応じてくれるはずがないだろうに。

「一昨年は『白の鬼神』だった。あの人も凄かったな」

 シンは思い出す。かつて、オーブにいたころに東アジア共和国軍にに襲われた家族を救ってくれたMSに乗っていたのも『白の鬼神』だった。一昨年、その大和中尉が学校を訪れると知った彼は一言お礼を言いたくて大和中尉との接触を試みたが、それは大和中尉を一目見ようとする女性士官候補生の壁の前に頓挫していたのであった。

 

「それじゃあ今年は」

「総員、席に着け!!」

 タリサが何か言いかけたが、それは教官の大きな声に掻き消された。シン達は三科の声に反応し、素早く席について姿勢を整える。そしてブリーフィングルームを見渡して全員が席に着き、姿勢を整えたことを確認した三科が言った。

「これより、今期の卒業前戦闘技術特別審査演習の概要を説明する」

 三科の指示でブリーフィングルームのモニターに審査の概要が映し出される。日時、場所、そして想定される条件等が次々と提示されていく。どうやら例年の評判通り、ザフトのトップエース相手の遭遇戦のようだ。30分持たせれば増援が駆けつけるという想定なので、勝利条件は30分の間足止めするか撃墜するかして、敵機を母艦に近づけさせないこととなる。

 昨年は敵精鋭を突破して敵母艦を攻撃することだったらしいが、今年は敵機から防衛することが任務の目的だ。任務の内容も作戦の成功を左右する重要な要素の一つだが、それ以上に作戦の成功を左右する要素がまだ提示されていない。

 

 今年の参加者達は固唾を呑んで教官の言葉に耳を傾ける。そして三科も参加者側が最も関心を持っていることは分かっている。唇を吊り上げながら彼は言った。

「そして今年の仮想敵(アグレッサー)だが……喜べ。過去最強のパイロットが参加してくださることとなった」

 その言葉に参加者達は目を見開き、一様に驚愕を顕にする。教官の口ぶりから仮想敵(アグレッサー)の正体を感じ取ったのだ。そして、彼らの予感は的中した。

「少佐、どうぞ」

 三科に促されてブリーフィングルームに入ってきた精悍な顔立ちをした男を見て参加者達は今度は絶望的な表情を浮かべる。

「諸君、私が今回の卒業前戦闘技術特別審査演習の仮想敵(アグレッサー)を担当する白銀武少佐だ。諸君がこれまで訓練校で学んできたことを存分に活かして健闘することを期待する」

 

 

 

 

 

 教官から解散を命じられた後も殆どの生徒はブリーフィングルームに残っていた。しかし、その雰囲気はまるでお通夜といっても過言ではなかった。

「何でよりにもよってあの『銀の侍』が相手なんだよ……」

「日本最強のパイロットじゃねぇか」

「俺達10分持つのか?」

 漏れ聞こえてくる会話は敵の圧倒的な強さに対して畏怖するものしかなかった。そして、シン達も険しい表情を浮かべている。

「正直、勝つビジョンが見えねぇ……」

 タリサが項垂れ、不動も相槌をうつ。

「同感だな。少佐の戦闘技術は記録映像で見た事あるが、あんなものに対応できるとは思えん」

「この演習で活躍できれば精鋭部隊からお声がかかるとか教官が言ってたけど、あの人相手に活躍できるやつなんているのかよ……そんな実力あるヤツがいたなら訓練学校飛び級で卒業してるはずだ」

 この卒業前戦闘技術特別審査演習の結果は軍内部には公開されており、新人の獲得競争の参考にされているとの噂があるのだ。と言っても、それは教官がそのようなことを仄めかせているだけであって、実際はどうなっているのかは彼らは知らない。

 実は、確かに教官の言葉通りに獲得競争の材料になっている。しかし、近年は獲得競争をしてまで欲しい人材が出ていないために獲得競争自体が行われない。あまり獲得競争で騒げば部隊間の不和にも繋がりかねないため、積極的な獲得姿勢は自粛されているのだ。

 

「だけど、俺は諦めないぜ……せめて一矢報いてやる」

 シンは頬を叩き、自分に喝を入れる。最初から負ける気でいては勝てる戦も勝てないということは教官に散々言われたことだ。

「そうだな……逆に考えれば、あの『銀の侍』に一矢報いたらアタシ達は訓練校の伝説に名を残すことになるんだしな!!」

 タリサは持ち前のポジティブさを全面に出して自身を奮い立たせる。敵が強いほど闘争心が湧くのは山岳の戦闘民族であったグルカの血が騒ぐからだろうか。

「全く……お前らは前向きだな。俺にもその馬鹿さ加減を分けてもらいたいもんだ」

 そう言いながらも不動は顔に好戦的な笑みを浮かべた。




つ……疲れた。
年末年始のストックがこれで消えました。
これからしばらくの間忙しくなるので更新はできなくなります。
また、更新もおそらく外伝が優先されますので、こちらの更新は2ヶ月ほどはないでしょう。

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