機動戦士ガンダムSEED DESTINY ZIPANGU 作:後藤陸将
いや、もう……本当に緊張で震えましたね。サインだけではなく写真も撮らせていただいたのですが、写真に写った自分の表情の固いこと……ちなみに、同行していた友人曰く、緊張のしすぎで自分は挙動不審一歩手前だったとのこと。
しかし、歴代ゴジラに会えて、機龍に会えて、オキシジェンデストロイヤーに抗核バクテリアを見れて、おまけに監督にもお会いできたなんて……本当に夢のような時間でした。
そんな夢の時間に浸っていたために執筆時間が押され更新が遅れたというわけです。
因みに今回のタイトル、ウルトラな同志はピーンとくるかもしれませんが、錦田小十郎景竜もデキサス砲で森林火災が発生した山も一切関係ありません(笑)
上空から接近する未確認飛翔物体に対してレーダーが警告を表示した時には、既に遅かった。上空から降下する物体は10以上、しかもそのどれもが迎撃や回避ができる速さではなかった。
もう少し早期に探知できていればなんらかの行動を取る余裕があったのだろうが、NJの影響でレーダーの索敵能力が低下している現状では適わないことであった。
そして、降下する物体は、その質量と速度だけで並外れた脅威となりうる。大気が薄いために地球に比べて火星では大気による速度の減退は小さく、物体はより高速で降下する。そのため、戦場に降り注ぐ物体は巨砲による砲撃を遥かに凌ぐ運動エネルギーを秘めているのだ。
赤熱した物体が描く光の軌跡は、まるで流星群のようであった。戦場に降り注いだ流星群は大地を穿ち、赤い土煙をいくつも奔騰させる。大地を揺るがすほどのすさまじい衝撃によって吹き飛ばされたり、クレーターの中で塵芥に還った機体も少なからず存在した。
『何だ!?何なんだよ、一体!?』
『日本軍の新兵器か!?』
『テール!?カッタス!?応答してくれ!!』
予想外の自体に対してマーシャン側は動揺を隠せないでいる。凄まじい衝撃とともに、多数の部隊に損害を与えられたのだ。しかも自分達に打撃を与えた攻撃の正体は不明となれば、第二撃への警戒や恐怖から継戦に対して慎重な意見を持ってしまうのも無理もないことだろう。
部隊は動揺し、その攻勢にも一歩引いた姿勢が見受けられる。人間の心理について一日の長があるナーエは通信回線に溢れている部下達からの交信から自軍の士気の低下と動揺を即座に察し、反射的に彼らの動揺を鎮め軍の統制を取り戻そうと全軍にむけて回線を開こうとしたが、何かに気がついて通信回線を開こうとしていた手を止めた。
おそらく、自軍のこの体たらくを把握したアグニスはすぐに回線を開き、全軍に叱咤するだろう。
アグニスは人を率いる者としての素質を遺伝子に持つ、いつかは全マーシャンの指導者となることを約束された男だ。生来の
その苛烈さや勇敢さから、軍における支持はナーエを上回ることは間違いない。アグニスのためなら死ねると考えているものもいるだろう。この攻撃にも怯むことなく進み続ける彼の叱咤を受ければ、全軍の士気は向上するに違いない。少なくとも、巨大な要塞に篭って普段どおりの冷静で温和な態度を演じているナーエが全軍を窘めるよりも、上手く兵士達を鼓舞できるだろうと考えたのだ。
ナーエの下した判断は少なくとも誤りではない。
いくら迎撃不能、回避不能な速さで襲い来る物体といえど、その本質は対地支援攻撃だ。艦砲による砲撃、航空機による爆撃、重火砲やミサイルなど対地攻撃の中でも、支援砲撃、支援爆撃に限ればその本質は敵の勢いを削ぐことにある。そして、勢いを削がれて損害を被った敵に追撃をしたり、その隙に一時撤退をしたりするのだ。
今回の流星も、種を明かせば高高度からの質量弾による支援爆撃にすぎない。もしもこの爆撃が支援爆撃ではなく、敵の殲滅を意図した爆撃であれば、この程度の損害ですむはずがない。おそらく、彼らのいた場所は月面のようなクレーターだらけの土地となり、彼らの躯や機体は火星の赤い土に塗り潰されて判別できなくなっていたことだろう。
そして、これが支援爆撃である以上は当然次の手が打たれているのだ。支援爆撃の次に敵が打つ手を読み、それに対抗する一手を打つことが最善の判断である。日本軍がこの支援爆撃の後に如何なる戦略をとってくるのかは未だに分からないが、狼狽する軍の統制、士気の鼓舞が継戦を考える上では最重要事項であることには代わりがないのだ。
しかし、この支援爆撃の目的は劣勢に陥った日本軍の撤退のためでも、ましてや反攻のためでもない。
「上空にまた反応!?しかし……これは!?」
再度マルスのレーダーが上空から接近する物体を捉える。だが、レーダーが捉えたのは、レーダー画面に雲のように広がる歪な影だった。熱源反応も影の全体にあり、影の正体は分からない。
電子機械がだめならば目視で確認すればいい。そう判断したナーエはマルスのメインカメラを飛翔体の方向に向ける。そしてメインカメラが捉えたその物体の正体に驚愕する。
「MS!?……まさか、空挺部隊!?」
ナーエは理解した。あの支援爆撃の目的は、自分達を一時的に混乱させてその隙に空挺降下を成功させることにあったのだ。そして、レーダーの異常の原因は上方に停滞している粒子とその中で灯る光の珠にあるのだと。
おそらく、あの粒子はレーダーに影を映し出したチャフに違いない。そして、あの珠はフレアだ。上空から接近する熱源反応を誤魔化すためのものと考えられる。熱源とレーダーを誤魔化すことでこちらの対空砲火の命中精度を下げるつもりなのだろう。
降下直前の超音速弾による支援爆撃、それに続いて高速で降下するMS部隊、そしてチャフとフレアによる対空火器対策。その一部の隙もない流れるような手際のよさにナーエは内心で舌を巻いた。
それでも、こちらには並大抵の対空火器をも上回るマルスがいる。対空砲一発の命中精度が期待できないのであれば、対空砲を増やせばいいだけのこと。命中精度が期待できないのであれば総合の命中率を上げるだけだ。
マルスはそのキノコの傘のような頭部に多数取り付けられた凶悪な牙をもたげさせる。そして75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」が火を噴き、空に火箭が打ち上げられた。
火箭の嵐に絡み取られた敵機が火を噴き、火星の空を照らす火球となる光景をナーエは幻視する。十数機の敵機を全てを蹴散らせるとは思わないが、敵を散開させて包囲することができれば降下部隊の撃滅も容易くなる。幸いにして敵の数は一個中隊ほどでしかないため、数ではこちらが優位だ。各個撃破が可能だろうと考えた。
しかし、そんな彼の予想は一瞬で覆された。降下中の敵機は殺到する火箭をダンスするかのように軽やかに回避し、そのまま地表へと迫る。周囲のガードシェルも対空砲火に参加するが、ただの一機も火を噴くことはなく敵機は降下を続けている。
先程まで豆粒のようにしか見えなかった敵機が、苛烈な砲火を難なく潜り抜けて光学映像で捉えられるところにまで接近する。そして、光学カメラが捉えた敵機の姿を目の当たりにしたナーエは戦慄する。
それは、かつての大戦で一騎当千を体現した機体の一つ。核動力により実現した豊富なエネルギー供給と大出力の多彩な火器をもって、正義、神意の名を冠した兄弟機と並び、連合軍に災禍を振りまいたヤキンドゥーエ戦役後期の傑作機。連合を打倒し自由を勝ち取る象徴として造られた蒼き翼をもつ鋼鉄の天使がそこにいた。
「フリーダム!?……そんな、馬鹿な!?」
フリーダムは翼を広げて腰部レール砲と翼部バインダーの収束ビーム砲を展開し、5門の砲口をマルスへと向けて斉射した。ナーエは慌ててアルミューレ・リュミエールを展開して防御する。
これは幻ではない――ナーエは確信した。どんな事情があるのかは全く分からないが、フリーダムが現実に存在し、日本の国籍マークである日の丸をその肩に刻んで自分達の前に立ちはだかっているのだ。
8年の沈黙を破り、ザフトの伝説を歴史に刻んだ機体が今、火星の地で蘇った。
キラは敵MAがアルミューレ・リュミエールを展開した時点で砲撃戦の選択肢を捨ててライフルをマウントし、背部から長刀を取り出した。そして、光りの傘ごしに殺到するおびただしい数の火箭を潜り抜けながらMAに肉薄する。
そして、キラはイーゲルシュテルンの回転する砲身がはっきりと見えるところまで近づいてそのまま近接長刀を突き出し、光波シールドの発生器を寸分の狂いなく貫いた。
ビームサーベルの登場によって、扱い辛く有効なダメージを与えにくい兵器という評を受けるようになった実体剣だが、まだまだ使い道はあるのだ。剣術に秀でたパイロットであれば弾薬の残量を気にせずに乱戦で戦えるし、アンチビームコーティング処理が施されていればこのように対光波シールド兵器としての使い道もある。
特に対光波シールドを念頭において設計された78式近接戦闘長刀は、表面にダイヤモンドコーティングが施されている。そのため、通常のアンチビームコーティングがされた実体剣とは違って狙いどころによっては一撃でアルミューレ・リュミエールを貫き、その後も使用継続が可能なだけの耐久力があるのだ。
アルミューレ・リュミエールを破ったキラは、瞬時に腰部レールガンを展開し、至近距離からMAの装甲に弾丸を叩きつける。さらに、間髪いれずにキラはレールガンを叩き込んだ箇所に長刀を突き刺す。さらに深く突き刺さった長刀を滑らせ、実体剣では斬り裂けないはずのフェイズシフト装甲の表面を切り裂いて装甲の内部を曝く亀裂をそこにつくりだした。
実は、キラが長刀を突き刺す直前に放ったレールガンにその奇術の種があった。フリーダムのレールガンに装填されている弾薬は全て
これは命中後に粘土のように潰れた炸薬が起爆することで、爆発点の装甲版の裏側を爆発の衝撃で剥離させる代物だ。如何にフェイズシフト装甲と言えども、衝撃までは緩和できないためにこの攻撃は防げない。装甲の裏側に走る装甲にエネルギーを供給する配線を攻撃することで、着弾地点の装甲を相転移できなくし、フェイズシフト装甲を無効化するのである。
キラはこれによって物理的な攻撃に対する脅威的な防御力を持つ装甲を突破したのだ。
また、彼らの背負う78式近接戦闘長刀は
かつてグレイブヤードに存在したという伝説の名刀、ガーベラ・ストレートをも凌駕するというお墨付きをグレイブヤードから招聘した蘊・奥という老人からももらっているのだ。このように荒々しく扱っても歪みも刃零れもない。
自身の頭の上で好き勝手に暴れまわるフリーダムを鬱陶しく思ったのか、自身に取り付く蝿を追い払わんとMAの上部に取り付いたフリーダムに対空火器が殺到するが、キラは砲火が機体を掠める前に上昇して十字砲火によるキルゾーンを離脱していた。幾条もの火箭はむなしくフリーダムの眼下の空間で交差する。
そしてキラはダメ押しとばかりにレール砲とビーム砲を展開し、先程長刀で造り出した亀裂の内部に砲撃を至近距離から叩き込んだ。装甲の亀裂から爆炎が噴出し、その衝撃で破孔の周りの装甲が捲れ上がる。しかもキラは噴出する爆発の勢いに乗ってさらに上昇し、MAの上部から完全に離脱していた。
キラは離脱上昇中にも4門の砲口から行きがけの駄賃とばかりに砲撃を敢行、離脱上昇中とは思えない正確無比な砲撃で多数の対空砲火を葬って敵MAの兵装を確実にもぎ取っていく。
度重なる攻撃により、先程まで映画に出てくる怪物を彷彿とさせるほどの災悪を日本軍に振り撒いていた砦蟹が僅か数分で無残な姿に変貌していた。それは、砦は砦でも、各地に火が廻り塀も崩れかけた陥落寸前の砦を彷彿とさせる姿だった。
「悪いけど、僕も君にあまり時間と手間をかけてはいられないんだ。フリーダムの任務は圧倒的火力による多数の敵の殲滅だからね」
前回の大戦でその名を轟かせた『白の鬼神』の再臨。それは大日本帝国宇宙軍に約束された勝利を、そして火星圏開拓共同体宇宙攻撃軍にはかつてのフリーダムの逸話をも凌駕する惨劇の到来を示すものに他ならなかった。
形式番号 TSF-ZG10RJ
正式名称 フリーダムリバイJ
配備年数 C.E.79
設計 篁祐唯
機体全高 18.03m
使用武装 腕部搭載型モノフェーズ光波防御シールド「アルミューレ・リュミエールハンディ」
腰部90mmレールガン
翼部120mm2連装高エネルギー長射程ビーム砲
頭部省電力メーサーバルカン
71式ビームサーベル
試製79式複合砲
78式近接戦闘長刀改
備考:外見はほぼフリーダムだが、細部の武器のデザインが異なる。肩に国籍マークの日の丸がペイントされている。
C.E.73に発生したラクスクライン誘拐を目的とした貨客船襲撃などの一連のテロ――メンデル事件で鹵獲されたテログループの機体であるフリーダムリバイを日本の技術で再生したものが本機である。
装甲にはTA32を使用しており、防御力は改修前のトランスフェイズシフト装甲をも上回る。
武装や内部部品の多くは日本で採用されているものに軒並み換装されており、規格の共通化によって補給と整備を簡略化している。
原型機のフリーダムリバイが元ザフトの機体とは思えないほどに大西洋連邦の規格に合わせて改修されていたという驚愕の事実を知った防衛省の篁祐唯率いる次期MS開発チームが、この改修を行った技術者への嫉妬と敵対心からフリーダムリバイを螺子一本のレベルから見直して再設計しているため、フレームや一部の機構を除いたほぼ全ての部分で日本で運用されているMSの部品による補修、整備が可能となっている。
コックピット周りも完全に日本のコックピットブロックなどに換装され、各種観測機器も雷轟に用いられた連合のGタイプに似たものを改修したものに換装されている。
次期エース専用高性能機の技術実証機にすぎないため、1機しか製造されていない。軍部としてもこの機体を量産するつもりはまったくない。
武や唯依、キラなどが搭乗試験を行った結果、キラの適正がずば抜けていたこともあり彼の愛機として配備された。キラ曰く、どこかしっくり来る機体だったらしい。
更に余談となるが、フリーダムリバイになる前、つまり東アジアからちょろまかされた原型機は元々兄弟機であるジャスティスと共にC.E.71 4月1日にロールアウトした試作一号機である。