機動戦士ガンダムSEED DESTINY ZIPANGU 作:後藤陸将
C.E.79 4月10日 火星 マリネリス基地
「北方を哨戒中のAWACSが基地に接近する飛翔体を感知!!、機種はダガーL、数は200!!数機のアンノウンが混ざっているとのことです!!」
「敵MS群の後方に自走砲部隊を確認!!数は400を超えます!!」
「レーダーが基地上空に接近する物体を感知!!敵巡洋艦です!!」
突然飛び込んできた警報のよってマリネリス基地の司令室は慌しくなる。だが、この慌しさは決して司令室にいる人間が突然の事態に狼狽していることによるものではない。一人ひとりが自身に課せられた職務を全うすべく迅速に実行していることを示す慌しさだ。
「
噂によると、推進力が強すぎるために制御が利かず、かといって推進力を落すことは一撃離脱がお家芸であり、それを可能とする速力を要求される艦攻には到底容認できるものではないということで開発が難航しているのだとか。
まぁ、風巻改も時代遅れというほどではない。ハリネズミのように対空火器でその身を覆っている大西洋連邦の艦艇相手ならばともかく、機動性を追及して防御力は装甲頼りの火星圏開拓共同体宇宙攻撃軍の艦艇が相手であれば十分に戦える性能があるのだから。
そして基地司令である竹林が矢継ぎ早に出した指示に従い、基地から次々と対艦ミサイルを抱えたMAや、対空ミサイルポッドを備え付けたMSが発進する。警報からおよそ10分ほどしか経っていない。迅速な対応から、この基地全体の練度の高さが窺い知れる。
「……明後日には増援が来るというのに、このタイミングで襲来するとは」
竹林がボソリと呟く。
ノクティス・ラビリンタスで発生した武力衝突を受けて、宇宙軍はマリネリス基地に一個艦隊の増援を送ることを決定し、臨時編成した艦隊をすぐに送り出した。マキシマオーバードライブを搭載した高速艦隊は明後日には到着し、マリネリス基地の守りは磐石になるはずだったのだ。
「いや……明後日には増援がくるから向こうも急いだんだろうな、増援がくればマーシャンの敗北は必至だ」
増援がくれば数での戦力比でさえ拮抗する。そうなれば火星圏開拓共同体宇宙攻撃軍に勝ち目はないということは彼らも承知しているはずだ。増援が来る前にマリネリス基地を落とし、優位に立った状態で停戦交渉に臨む腹だろうということは竹林にも予想できた。
「しかし、そう簡単にはいきますまい」
竹林の後ろから声をかけてきたのは航宙参謀の多田伊佐美中佐だ。
「我々からすれば、あと2日持ちこたえることさえできればいいのですからな。それも、この基地に立て篭もるのであれば希望はあります」
実際には、多田が言うほどに楽観視できる状況ではない、だが、ここで指揮官が弱みを見せればそれは全軍に伝染しかねない。常に余裕をもって指揮にあたることの大切さを知る多田は、敢えて自信ありげに振舞って周囲を勇気付けようとしているのである。勿論そのことは竹林も分かっている
「当然だよ。ここを落とさせないために私がいるのだから」
竹林は席を立ち、手元のコンソールを操作して回線を繋ぐ。
『……マリネリス基地司令の竹林だ。全軍に通達する。総力を挙げて火星の不届き者を叩きのめせ!!』
北方より攻め入ったMS群の数は200、その大半がダガーLJGであったが、その先頭にいたのは見慣れぬ曲線チックなMSだった。その脅威度を真っ先に察したのは整備兵あがりの中島少尉だった。
『隊長!!敵の一番槍は
ガンダムフェイスとは、ツインアイににソリッドの入った口、額にアンテナなどの特徴を持つ頭部ユニットの名称である。大西洋連邦のG兵器、プラントのフリーダム、ジャスティス、プロヴィデンス、そしてユーラシアのハイペリオン、オーブのアストレイシリーズなどがこれにあたる。
M1アストレイをこれに含めるのはどうかという議論が一部ではあるが、例外がアストレイぐらいということもあって、アストレイ以外で上記の特徴を備えた頭部ユニットをもっていればガンダムフェイスでいいじゃないと大半の国では結論を下されている。
そしてこれらの兵器はM1アストレイという例外を除いて全てがこれまでの量産MSを凌駕する一騎当千の性能を兼ね備えた高性能試作機なのである。前期GATシリーズはザフトに奪取されたとはいえ、PS装甲とビーム兵器の猛威によって地球連合軍第八艦隊の艦載機部隊を壊滅させているし、核動力炉を搭載したフリーダム、プロヴィデンス、ジャスティスは第二次ヤキンドゥーエ会戦ではエースパイロットの駆る高性能機以外では太刀打ちできないほどの脅威だった。
因みに、日本が運用したガンダムフェイスのMSは少なく、現在までに3機だけしか存在しない。
1機目がアークエンジェルの亡命時に接収した大西洋連邦の前期GATシリーズの内の一機、GAT-X105ストライクで、これは白銀少佐が種子島沖会戦で海に沈めてしまったためにそのまま廃棄処分となった。
2機目が富士山重工業が開発したXFJ-Type3雷轟で、これに搭乗した大和中尉はかつて第二次ヤキンドゥーエ会戦にて大立ち回りを演じた。ストライカーパックの実戦での有用性を検証することが主目的であったため、検証が終了すると退役して現在は安土にある宇宙軍ミュージアムに飾られている。
そして、公式にはその存在が秘匿されている3機目がZGMF-10ARフリーダムリバイだ。これは6年前に大和中尉がテロ組織から奪取したもので、既存の技術の組み合わせとはいえその開発コンセプトや兵器の組み合わせなどには一考の価値ありと判断した防衛省特殊技術研究開発本部はこれを接収して解析したらしい。その後はこの機体の存在からかつてのテロ事件の真相の漏洩に繋がる可能性があると判断した軍の上層部の命令でどこかに隠されたという。
『……特殊兵器か。よし、分かった。涼と雁屋は
響の下令と同時に8機の不知火弐型は噴射ユニットを轟々と唸らせて敵MSの群れの中に突っ込んだ。
『大隊長!!敵の動きは軽快です!!こちらのダガーLでは対応しきれません!!』
『こちら第一小隊!!敵機地からの対空砲火が予想よりも激しく、我々だけでの突破は不能です!!艦砲射撃はまだですか!?』
火星圏開拓共同体宇宙攻撃軍第一大隊を率いるアグニスは2機の敵機を同時に相手しつつ、次々に飛び込んでくる悲痛な叫びに苦々しい表情を浮かべながら呟いた。
「くそ……巡洋艦隊は何をしているのだ!!」
本来であれば、大気圏外からの艦砲射撃で敵の対空攻撃網を破壊してから攻撃する計画であったが、予定時刻から20分すぎても未だに艦砲射撃はこない。日本側の電子妨害のせいか通信状況も悪く、艦隊に催促することも不可能だ。
アグニスはモニターに映る火星の赤い空に目をやる。太陽光が水に反射するかのように小さな光りが明滅していたり、時折少し大きな光りが現れたりする様子を見るに、未だに制宙権の奪い合いに手一杯のようだ。
このままでは艦砲射撃は期待できないとアグニスは判断した。だが、かといって手をこまねいているわけにはいかない。本来であれば切り札は敵基地の防衛力が低下するまで取っておきたかったが、出し惜しみして勝機を失っては元も子もない。敵基地に陽電子砲のようなものがあれば拙いことになるが、その時は自分が陽電子砲を潰せばいい。この機体を失うことで陽電子砲が潰せるのであれば安いものだ。
「ええい!!フォーリーの無能め、もはや我慢ならん!!」
アグニスは自身を執拗に狙う二機の敵機を上手くあしらいながらビームライフルを空に掲げる。そしてハンドガードの下に取り付けられたグレネードランチャーを発射する。グレネードランチャーから発射された弾は上空で起爆し、空に一際輝く閃光を生んだ。
「さぁ、来い!!ナーエ!!俺達の土地を貪る金の亡者どもにマーシャンの力を見せ付けろ!!」
もう既にどれだけの敵をその手に持つライフルで撃ちぬき、その手に持つ刀で斬り裂いたのか、シンは数えていなかった。
「くっそぉ!!何なんだよこれ!!倒しても倒しても……」
『なんだよ、もうヘバッたのかこのシスコン!!そんな情けない兄貴じゃぁ妹にも嫌われるんじゃないのか?』
「黙れ小学生!!俺はまだやれる!!」
タリサからの軽口に少しムキになって返すあたり、実は彼は妹から距離を開けられつつあることを自覚していたのかもしれない。そして、彼らの口喧嘩はこれ以上ヒートアップする前に甲田によって止められてしまう。
『そこまでにしておけ、新人!!口喧嘩してる暇があったら周りの蝿を潰せ!!』
タリサは小学生よばわりされたことに対して何か言いたそうであったが、上官からの叱責に素直に受け止めて口を噤んだ。シンも同様だ。だが、その時シンの機体にCPからの通信が入った。緑川曹長の表情からは焦りも感じられる。
『
シンは機体の首を上方に傾け、メインカメラに降下する物体を捉えた。メインモニターに映し出されたのは白い巨塔というべき大型のカプセルだ。爆弾か、降下ポッドか――どちらにせよ、降ろしてもこちらの不利になるものに違いない。だが、あれを撃墜できることのできる兵装は無いため、シンたちは手出しできない。
空中で白い巨頭が分解すると同時に巨塔の中に隠されていたものが明らかになる。巨塔の中から現れた一つの影がMSではないことは一目瞭然だった。60mはあろう巨塔にすっぽり覆われるサイズのものが一つだけ出てきたとなれば、それが普通のMSのはずがない。
全身のブースターを噴射して降下速度を落としている青みがかった灰色で覆われた何かの姿を不知火弐型に搭載された富士山光学製のメインカメラははっきりと捉えていた。
形状は数日前に遭遇した
そして嫌でも目に付くのがその大きな頭部にのっかっている2門の巨砲だ。その大きさは金剛型戦艦の主砲である200cmエネルギー収束火線砲に匹敵するだろう。
しっかりとした四本の脚と大きな頭部のバランスから蛸や海月のように見えた
謎の巨大MAは全体のブースターを噴射し、火星の赤い土を盛大に巻き上げながらこちらに向かってくる。その姿は怪獣そのものである。
シンは迫り来る巨体を見てあるモンスターを幻視した。その歩みは地を揺らし、老山龍の頭骨からは必殺の長距離攻撃が放たれるタカアシガニに似た超大型甲殻種モンスターを。
「
後にマリネリス基地防衛戦と名づけられる一連の攻防戦は、この大型MAの投入で大きく戦局が動くこととなる。
夏休みの間にできるだけ種ジパングの方を進めたいとは思っています。