機動戦士ガンダムSEED DESTINY ZIPANGU 作:後藤陸将
8機のMSが紅い大地を翔ける。不知火弐型の噴射ユニットに採用されている『祭』は細かな砂塵が舞う紅い空で力強く稼動していた。
『……隊長!!見えました!あれです!』
中島がメインカメラにが捉えた機影を見て叫ぶ。
『報告通りダガーLだな……数は30か。不知火弐型とダガーLの
敵との戦力差、乗機の性能差から響は勝機があると判断し、響は攻撃を命じた。
「う……うぉぉらぁ!!」
シンは乗機のフットバーを蹴りとばし、敵の先鋒に肉薄する。そして彼の駆る不知火は78式支援突撃砲を発砲、先鋒のダガーLの胸部を突撃砲の銃口から放たれた閃光が貫いた。次の瞬間、緑の閃光で射抜かれたダガーLが火球へと変貌を遂げる。更に、彼に続き僚機が発砲し、計4機を瞬時に火球へと変える。
「やっ……やった一機撃墜!!」
初めての戦果に浮かれるシンだが、多数の敵を前にして浮かれることは命取りになりかねないことをこの時の彼は失念していた。4人の中で最も突出した位置にまで出ていたこともあり、先ほど仕留め損ねた敵機からの砲火がシンに集中する。
シンはシールドを構えて自身に殺到する砲火を防ぐ。だが、不知火が装備しているシールドは量産型のラミネート装甲のシールドだ。ダガーLの装備しているM703kビームカービンで攻撃し続けても破壊することは難しいことは敵側も分かっている。
残存の敵の中で数機がビームライフルを収め、腰のサイドアーマーから両刃ナイフのようなものを取り出す。この両刃ナイフ状の武器はMk315スティレット投擲噴進対装甲貫入弾といい、投擲後に搭載のバーニアで加速して標的に突き刺さり炸裂する兵器である。
ビーム兵器には強いラミネート装甲もこの手の攻撃への耐久力は高くないため、盾が突き破られる可能性が高いと判断したシンはビームの雨に身を曝す覚悟で盾を捨てようとする。だが、それは杞憂だった。スティレットを振りかぶった敵は上方からの砲火を受けて慌てて散開したのだ。敵機を攻撃したのは肩に02、10とペイントされた機体だ。
『俺達を忘れるなよ!新入り!』
「甲田大尉!!それに佐伯大尉!!ありがとうございます!!」
シンはフォローを入れてくれた先任に感謝の言葉をかける。
『礼なら帰ってから言え。……だが、礼の前に説教だがな。この愚か者が』
佐伯はシンに小言を言うと、そのままダガーLの部隊を追撃する。シンも慌ててそれに続いた。
「ちぃ……何をやっているんだ!!」
攻撃部隊の指揮官であるヴァン・フォーリーは旗艦、アキダリア級巡洋艦2番艦アマゾニスの艦橋で苦い表情を浮かべていた。
「ダガーLと日本のType-04の
敵機は全て日本の最新鋭MS、Type-04だった。数週間前から日本の国境の警備部隊にその姿が見られるようになっていたが、火星圏開拓共同体宇宙攻撃軍上層部はこの意図を最新鋭機を前線配備したことを敢えて見せることでマーシャンを威圧しようとするものだと結論付けていた。
だが、彼らの予想は半分外れた。有事には即前線になる警備部隊に不知火を配属したのは威圧の目的も確かにあったのだが、実はこの時日本側は既に基地のほぼ全ての機体を不知火弐型に更新していたのだ。
実は、昨年の年末に大西洋連邦の首都ワシントンで行われた火星圏開拓共同体と大西洋連邦の会談については日本側も察知しており、その会談の目的が大西洋連邦による火星圏開拓共同体への軍事援助であると考えていた。
軍事侵攻が近いと考えた日本側は火星の利権を守るために常駐する戦力を更新し、過剰とも言える戦力をそろえていたのである。まぁ、日本側はウィンダムの供与、アクタイオンプロジェクトの試作機の供与まで考えていたために不知火を配備していたのだが、まさか外交で大失敗してダガーLしか供与されていないとは想定していなかった。
そして日本側の過剰とも言える警戒の結果、先制攻撃には成功したとはいえ、火星圏開拓共同体宇宙攻撃軍侵攻部隊は損害は大きな損害を被ることになった。国境に詰めていた警備隊と輸送船の警護機の計8機のType-04を撃墜するまでにダガーLが26機撃墜されているのだ。
しかも、その内の4機は最初に行われた100門近いリニア自走砲の一斉砲撃によって少なからず損傷を負っていた。つまり、実質8機以下のType-04に対して大損害を負ったのだ。現在日本側の増援の8機のType-04と残存の30機あまりのダガーLが交戦中だが、やはり旗色はよくないようだ。
「大西洋連邦も日本の最新鋭機の詳しい情報までは掴んでいなかったということではないでしょうか?」
副官のバラミク・ダッカルがフォーリーを諫める。
「そもそも、日本側の機体が昨年から調達が始まったばかりの最新鋭機であるのに対し、ダガーLはロールアウトがC.E.72の旧式機です。既に大西洋連邦もダガーLで日本に対抗することは不可能と判断し、ダガーLの調達を打ち切って最新鋭のウィンダムに装備を更新し始めているとのことですし」
「それはナチュラルの話だ!!コーディネーターは同じ機体でもナチュラル以上の戦闘力を発揮できるはずだ!!しかも我々マーシャンは必要とされる職に合わせて遺伝子調整されている!!生まれながらに兵士としての特性を持った兵を集めた軍隊なのだぞ……それがテラナーの、それもナチュラル如きにここまで無様な醜態を曝すはずがないだろうが!!クソ……あの役立たずのテラナー共め!何が改修してやるだ!!弱体化のことを地球では改修というのか!?」
実は、火星に配備されたダガーLは全て改修されている。地球圏での取り締まりが厳しくなったために火星圏に逃亡してきたジャンク屋組合の残党の手を借りることで、ダガーLは性能の向上を果たしていたのである。
地球圏から居場所を奪われた彼らは、自身の技術を示すことで火星での居場所を得たのだ。
「特にあのバンダナの小僧め……何が宇宙一のジャンク屋だ!!こんな欠陥品で我ら誇り高きマーシャンの兵士達を死なせおって!!」
フォーリーは苛立たしげに拳をシートの肘掛に叩きつける。
「隊長。ジャンク屋に憤ることは勝利してからでもできます。今はこの状況を打破することが先決です」
「分かっておる!!……ガードシェルを出すぞ!!ハンガーに連絡しろ!!」
その異変に最初に気がついたのはタリサだった。
『……なんだ?旗艦が前に来てる?』
ダガーL部隊は既に半数を撃墜している。自身とシンも初陣でありながら数機の敵機を屠っている。ただ、敵機部隊が撤退しようとする素振りも見せないのにも関わらず、敵旗艦が前に出てきていた。敵が航空優勢であれば前に出て援護をしても不思議ではないが、今は敵が劣勢だ。直掩の機体もいないのにも関わらず前に出ようとする理由がタリサには分からなかった。
だが、経験の豊富な甲田は敵機の動きから敵旗艦の狙いを察した。
『まさか……全機散開して敵旗艦の正面から離脱しろ!!こいつは恐らく陽電子砲だ!!』
甲田が叫ぶのと同時に敵旗艦の船首が展開し、巨大な砲門が船首から顔を出した。そしてその一本角を思わせる砲門が光を蓄え、光の奔流を吐き出した。散開が功を奏したため、シン達は無傷で回避ができたが、その余波で彼らの機体は大きく揺さぶられた。
だが、まだ危機を完全に回避したわけではなかった。陽電子砲を発射することで周囲の敵を一時的に後退させた敵巡洋艦は甲板を開放し、そこから次々と艦載機を発艦させる。その機体は、異形とも呼べる形状をしていた。
『何だ……あれは?』
佐伯が思わず困惑の言葉を零すほど、その機体は彼らの常識から外れたものであった。三本の足、扁平な頭部、どれも地球圏のMAでは見られない特異なものだ。マーシャンの作業用MA、マーズタンクもこの
だが、この機体はまるで昆虫や深海動物のようなアンバランスさと不気味さがある。マーシャンの母艦から発艦して火星の大地に降り立った異形の数は総勢9機。3本脚を動かして進軍する姿は異様な光景だった。
『
甲田が思わず零した言葉にタリサが反応した。
『何ですか?それ』
『旧世紀のSF小説に出てくる火星人の侵略兵器の名前だ。ちょうどあんな風に3本の脚で動いて、ビームを出すんだ』
『マーシャンのやつらなりのユーモアってやつですか?』
『だとしたら、あいつらも中々の文化人みたいだな』
タリサの冗談めいた発言に甲田は口角を上げるが、それでも目は全く笑っていなかった。そして、彼の目の前で異形の機体たちはその頭部から次々とエネルギーの束を吐き出した。
形式番号 GAT-02L2JG
正式名称 ダガーLJGカスタム
配備年数 C.E.78
設計 PMP社 ジャンク屋組合
機体全高 18.4m
使用武装 M2M5 トーデスシュレッケン12.5mm自動近接防御火器
M703K ビームカービン
M9409L ビームライフル
ES04B ビームサーベル
MK315 スティレット投擲噴進対装甲貫入弾
MK39 低反動砲
ビームシールド
備考 外見はほぼダガーLだが、脚部はシビリアンアストレイの脚と同形状に変更されている。
対日本を見据えた軍事援助として大西洋連邦から大量に供与されたダガーLだが、正直言って火星圏開拓共同体宇宙攻撃軍からすれば微妙な機体であった。大西洋連邦の機体らしく、汎用で整備も難しくない機体であったが、逆に言えばただそれだけの機体でしかなかったからである。
この機体は前回の大戦後間もないC.E.71の末にロールアウトした機体であり、基礎設計も105ダガーの延長線上のものでしかない。設計段階からの仮想敵も日本の撃震や瑞鶴、ザフトのゲイツといった機体であり、C.E.78時点では時代遅れの烙印は免れない機体なのである。
幸いにして武装は最新鋭機のウィンダムにも使用されているスティレットなどを含めて充実した機体であったし。多数を同時に統率して運用する射撃戦であれば最新鋭の機体と交戦しても問題はない。射撃戦を重視していた大西洋連邦の機体の面目躍如といったところだろう。
だが、機動力や防御力においては不満な点が多々見られることも事実だった。彼我乱れての乱戦、近接戦に持ち込まれた場合、機動力に劣るダガーLでは俊敏な日本機を撃墜することはまず不可能に近い。
そのため、火星圏開拓共同体宇宙攻撃軍は先の大戦以降地球圏から締め出されて火星圏に流れ着いたジャンク屋組合の残党らにこの機体の改修を依頼した。気質と法を無視した経営実態などの問題があったために地球圏では無法者として扱われていた彼らだが、メカニックとしての知識、経験は豊富であり、実際にダガーLの改修もスムーズに進んだ。
ダガーL自体もスタンダードな武装の使用とストライカーパックシステムの採用を前提とした汎用性、拡張性を重視した機体であり、基本設計が優れていた機体であったことも幸いした
。
ダガーLとの相違点としては、脚部の改修によるAMBAC制御能力の向上、それに伴う機動力の上昇。アンクルガードの増設と脚部スラスター数の削減による脚部防御力の向上が挙げられる。また、一部の機体にはダガーLJGカスタム用に改造を施したフォルテストラが装着されている。
性能としては、日本軍の量産試験型白鷺と同等といったところ。
形式番号 GSF-JG02
正式名称 ガードシェル
配備年数 C.E.78
設計 ジャンク屋組合
機体全高 17.73m
使用武装 MA-XM757 スレイヤーウィップ
ビームサーベル内蔵特殊攻盾
腹部580mm複列位相エネルギー砲 スキュラ
ES04B ビームサーベル
備考 外見はガードシェルだが、塗装は青を基調としたものに塗り替えられている。
火星圏開拓共同体宇宙攻撃軍が高性能MSを求めて独自開発した2機目の機体。火星圏で日本の入植以前から作業用に使用されていたGSW-M02マーズタンクと同様に3脚を持つMAであるが、こちらは装甲をパージすることでMA形態に変形が可能。
MS形態では3本目の脚は背部に移動し、三本目の手として使用することも可能。それを見据えて3本目の脚にはビームサーベルが内蔵されている。
腕部には鞭状の格闘兵装であるスレイヤーウィップを搭載する。これは前回の大戦終結のどさくさに紛れてプラントから流出したマティウス・アーセナリー社の技術者が、社内から持ち出した機動格闘戦重視の次期主力機の実験兵装データを基に開発されたものである。
腹部にはMA形態とMS形態の両方で使用可能なエネルギー砲、スキュラを搭載する。GAT-X303やGAT-X131に搭載されて確たる実績のある高威力兵装である。しかも先に挙げた二機とは違い、この機体は核動力機であるためにエネルギーの心配をせずに使用することが可能。
因みにこの武装はジャンク屋の活動が制限されていなかった前回の大戦の末期、第二次ヤキンドゥーエ会戦で回収したイージスの残骸に搭載されていたものを解析し、コピーしたものである。当然ライセンス生産などの正規の手段は用いられていない。
そして最大の目玉となるのがMA形態では頭部に位置するビームサーベル内蔵特殊攻盾である。この盾は数年前の事件で全世界指名手配となったマルキオ一派から提供されたアルミューレ・リュミエールを搭載しており、更に盾本体も同じくマルキオ一派から提供されたTPS装甲を採用している。
アルミューレ・リュミエールを利用したビームランスも展開でき、内蔵されているブースターを利用してフリスビーのように投げつけることも可能。ただ、防御力を重視した機体なので、自身の最大の強みである盾を短時間とは言え失えば戦闘能力の低下は必死である。そのため盾の投擲はあくまで緊急時に限定される。
兄弟機であるGSF-JG01が機動力と攻撃力を重視した『矛』というコンセプトで設計された機体であるのに対し、このガードシェルは防御を重視した『盾』というコンセプトで設計された機体である。
また、兄弟機がその化け物じみた機動力の代償とした劣悪なまでの操縦性のために乗り手を厳選するのに対し、こちらは乗り手を選ばない機体である。ただ、3脚のMAという他の勢力では見られない奇異なMAの操縦にはそれ相応の訓練が必要ではあるが。
各陣営の技術の無断使用といった不法行為の塊といった機体で、その兵装の詳細が露呈すれば国際問題に発展しかねないほどの爆弾を抱えている。
久しぶりにロウたちについて触れましたね。
現在中部太平洋にいますが、油がヤバイ……リンガ泊地にいたらもう少し油が手に入りやすかったのかな?史実的には。