絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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第54話

ドン・カーネル視点

 

 この時、カーネルを支配していたのは得も知れぬ怒り。

 敵なのか、自分に対してなのか。一体誰に対するものなのかは定かでは無いが、カーネルの中には行き場のない怒りで溢れていた……いや、これはやるせなさを隠すためのものなのか。

 

それ故に。

 

《ふ……ざ、けるなッッ!!おい!このバカ野郎!!》

 

 彼は叫んだ。認められるはずがなかったのだ。

 

 カーネルの中でのキャロルという人物は、どこぞの怪物達と同じく絶対的な才の持ち主であり、こんなところで死ぬはずなど無い人間であった。キャロルの指示が無ければ間違いなく自分自身も『ああ』なっていたことが理解できているということもあり、「彼女に救われた」という事実が彼に重くのしかかっていたのだ。

 

 誰かに命を救われるなんて、リンクスになってからもう何回目なのか分からない。こうならない為に、自分自身の力でこれから先の戦場を生き抜くために、生を、努力する機会を与えられたはずなのに。どうしていつもこうなってしまうのか。今の彼には、その理由が――――

 

《――――クソッ!クソッたれが!どいつも、こいつもッ!》

《私としたことが。とんだミスを》

《勝手に……あァ!?》

《全く。私を馬鹿呼びするとは愚かな。帰還したら今度は睡眠のツボを押して差し上げましょう》

 

 本日何度目になるか分からないが、ドン・カーネル。驚愕。

 

《おっ……は!? 死んでないのか!?》

《直撃をもらったのは先行していたもう一機の輸送機。今は速やかに降下、ビル群の陰に入ることのみを考えて下さい》

 

 それを聞いてカーネルは自分の勘違いを理解する。なるほど、アレはメリーゲートを輸送していた方の輸送機だったのか、と。そして同時に謎の安堵感を得ているのを、彼自身は気が付いているのかいないのか……とにもかくにも、敵の正体を一刻も早く確認することが先決か。

 

《後方に下がりキャノンの射程外に離れつつ、降下して下さい》

 

 キャロルの言に従うようにカーネルは自機の高度を急速に下げていく。

 地面が迫り視界がクリアになる最中、視界の斜め下前方にはとある巨大兵器が存在するのを確認出来る。そして、何やらそのAFの周りを取り囲むようにして『ふよふよと浮いている謎の球体』。

 あれは一体何なのか。あまりにも不気味で、また奇妙過ぎる物体であり……正直、近づくことは非常に躊躇われる。この感覚、もはや本能的な嫌悪感と言っても良いだろう。

 

《高度、100……50……接地完了。ふむ。中々悪くない姿勢制御です》

 

 かくしてワンダフルボディは無事に地面に到着。

 カーネルが自機を置いたのは敵AFから多少距離をおいた位置にあるビルの物陰……周囲にはいくつものビルが存在する為、例えキャノンを放たれたとしてもそのビル群が盾になる算段である。

 

《……おい》

《はい》

《色々と聞きたいことはあるが……》

《メリーゲートなら無事です》

 

 レーダーに反応が無いため、メリーゲートの生存は絶望的だと思っていたカーネルは一まず安心する。つまり自機のレーダー範囲外、この地のどこかにメリーゲートも身を隠しているのだろう。

 しかし依然として、最悪に近い出だしであることには変わりはない。何せ、恐らくは。

 

《ただし、輸送機内のオペレータ及びパイロットは死亡》

《確定か?》

《キャノンの直撃+燃料の爆発。そしてあの高度からの墜落。間違いは無いかと》

《……そうか》

 

 撃墜される瞬間を目の当たりにしたカーネルからすれば、それは当然と思わざるを得なかったが……やはり他人の、それこそキャロルの口から出される情報には相応の重みがある。となるとつまり、あの輸送機のパイロットは自機が撃墜されかかっている最中にメリーゲートを緊急降下させたという訳だろう……大したものだ。

 

 ただ、そのオペレータに関しては不運と言う他ない。

 

《……何故、お前にはあの攻撃が予測出来たんだ?》

《トーラス社には旧アクアビット社の職員が多く取り込まれています。過去、アクアビットの作成していたAFから今回の敵AFの予測を立てていたのですが……ふむ。『ソルディオス砲』に関する正確な情報を入手するのに苦心してしまいました。特に、その『射程』に関する情報を欲していたのですが、手に入れたのは先の緊急降下直前でして》

《……どうやってその情報を入手したんだ、お前は》

《結果、あの時点での我々は『旧ソルディオス砲の射程圏内に近い』位置関係だったことが判明した為、即座に降下させたのですが……どうやら、幾分遅かった様子で》

 

 情報の入手経路の質問に関しては全くの無視である。

 しかしながら要件をまとめると……あの球体は新型ソルディオス砲であり、過去より射程が伸びていた。我々はまんまと射程圏内で降下してしまった。そういう訳である。

 

《……チッ!》

 

 思わず舌打ちをしてしまう。

 

 今回の降下作戦。敵AFのほぼ真上からの奇襲じみた調査を行うはずだった為、本来ならまだ多少の時間は残されていたはずだった……オペレータがキャロルでなければ、そのまま二機ともキャノンの餌食になっていたことは間違いないだろう。遅いどころか、普通なら考え付かない事だ。

 

 限られた情報から無理やり予測を立てるとは。悔しいが、オペレータには恵まれている。

 

《――――て。応答してもらえるかしら!》

《っ!》

《おや》

 

 大体の事情が把握出来たその時、両名の通信に割り込んできたのは聞き覚えのある女性のもの。

 メイ・グリンフィールド……どうやら本当に生存して居たらしい。緊急降下以降、トラブルが生じたのか唐突にその通信が切断されていたが、どうにか回復にまでこぎつけたのか。相も変わらずレーダー内には反応が生じていないものの、声を聞く限りでは命に別状はなさそうだ。

 

《良かった、通じた……!貴方たちは無事!?》

《ああ、何とかな。お前の方はどうだ》

《私は何とか降下させてもらったけれど、輸送機は……》

《大破。搭乗員の生存は絶望的かと思われます》

 

 はっきりと言い切るキャロル。まぁ、それはそうなのだが……こんな時にも一切の感情の揺らぎが見られないその口調には何とも恐れ入る。まがりなりにも同胞が殺られている上に、一歩間違えば自分自身もああなっていた可能性があると考えれば、本来多少なりとも何かしらの反応があってしかるべきだろうに。

 

 そんなキャロルの言葉を聞いたメイは、何かをかみ殺すような短い沈黙の後、通信に応答する。

 

《そう……そう、よね。貴方にお礼を言うわ。あの指示のお陰で、私だけでも助かったのだから》

《お気になさらず。むしろ褒め称えるべきなのは、輸送機のパイロットかと……ところで申し遅れました。私、ワンダフルボディのオペレータを担当しております、キャロルと申します》

《リンクス、メイ・グリンフィールドよ。よろしくお願いするわ……でも、困ったわね。あの子……オペレータが居なくなってしまった今、私だけではどうしても力不足に》

 

 何とも悲痛だ。輸送機内で喋っていた時の声色に比べ、随分と沈んでいる。

 

 戦場で人が死ぬのは当然のこととは言え、まさかオペレータにまでその被害が及ぶことになると考えるものは少ないだろう。メイとそのオペレータがどれほどの仲だったのかは分からないが、人並みの付き合いがあるのなら、その突然の死に精神がぐらつくのも無理はない。キャロルとそこまで仲良が良いと思ってもいないカーネルでこそ、先ほどは焦りを隠せなかったのだから。

 

《私が指示を出しましょう》

《……え?》

《ワンダフルボディに加え、メリーゲート。貴方のオペレータも担当して差し上げましょう》

《で、でも。そんなこと。一人のオペレータがネクスト二機を同時に指示するなんて聞いたことが無いわ。貴方の負担が大きすぎるし、本来担当しているネクスト機への指示が疎かになったとしたら……》

 

 戦力が逆に下がる。彼女の言いたいことはそれであろう。

 

 一機のみを担当していれば良かったにも関わらず、もう一機にも気を配らなけばならないとなると、どうしてもどちらかへの配慮が不足してしまう。それこそ、オペレータ職が板に付いていれば付いている程に、通常時との違いに戸惑う事になるであろう。考えるまでもなく、それは当然のことだ……どちらの機体にも常時的確な指示を出すなど、普通に考えてありえない。

 

 普通、なら。

 

《安心しろ。この女は一種の化け物だ。銀色……ネームレスやミラージュなんかと同じくな》

 

 ただ、カーネルの言う通り。彼女は非常に特殊な例である。故に、何も問題などない。

 

《馬鹿の次は化け物呼ばわり、と。罪状を追加します》

 

 ……カーネル自身に問題は発生しているものの、それは無視してやり過ごす。

 

《……分かったわ、貴方の指示に従う。それで、これから私はどうすれば?》

《まず貴方の降下地点からワンダフルボディとの位置関係を把握、二機共に合流して頂きます》

《で、俺達が合流した後はどうするんだ?》

《仕掛けます。やられたままでは、終われないでしょう》

 

 相変わらず抑揚は無いものの、最後のキャロルの言葉からは何やら憤怒の表情が見て取れる。

成る程。カーネルは勘違いしていたがどうやら、これでも彼女なりに些かイラついているらしい。これには相手方に同情せざるを得ない……何せキャロルを怒らせるなど、カーネルには恐ろしくてとても出来たものではないのだから。

 

《細かい策は合流中にお話します。ではメリーゲート、貴方のおおよその位置を――――》

 

 カーネルは身を引き締める。全く、どう反撃したものか。

 

 

*********************

 

キャロル視点

 

 明らかな作戦ミス。

 

 ネクスト二機の合流中、輸送機内において指示を出していたキャロルは思考に没頭していた。

 ブリーフィングではほとんど詳細が説明されてはいなかったが、今回の敵AFはトーラス社が実験元と考えられており、恐らくその兵器がコジマ兵器である可能性が高いことをGA社も予想出来ていたのだろう。

 

 コジマ粒子は非常に不安定な物質であり……射出するともなればその有効射程は極短いものとなる上、チャージする時間も必要となるはず。このことから此度の作戦は『輸送機で直接敵AFに接近、上空から投下する』と言った通常なら非常にリスクの高い策を取ったのだと思われた。

 

《……》

 

 加えるとすれば、この輸送機自体がステルス機能を有しており敵に発見されにくく……強風で砂塵が宙を舞い、視認性も悪いという好条件。その奇襲じみた作戦により敵AFが本格的に起動する前に一気に叩ける可能性も存在した……のだが。結果はこの通り、奇襲は失敗。アレは恐らくソルディオス砲亜種の類であり、小型化が進んだにもかかわらず過去の物より有効射程が伸びていた。

 

 その射程の伸びは恐らく、コジマ粒子圧縮技術の向上によるものか。最大威力は過去のモノより低いだろうが、輸送機一機落とすには十分すぎる火力を備えている。

 

《おい、そろそろ二機とも合流するぞ》

 

 ワンダフルボディからの通信を聞き流しつつ、キャロルは更に思考を進める。

 最大の疑問点は、何故その奇襲がバレていたのかと言う点に他ならない。あの空中に浮かぶ球体は恐らく、キャロル達が作戦領域に入った時点で既に起動していた……そして、射程圏内に入った瞬間にキャノン砲を射出していたのだ。

 

《周囲への警戒はくれぐれも怠らずに》

 

 指示を出しつつ、キャロルは考える。

 

 敵の索敵性能が、こちらを上回った。と考えるのが普通ではある。普通ではあるのだが……どうしても拭いきれない違和感がある。

 そう、先の通り如何に好条件が整っていようと、輸送機で直接敵AFの上空に向かう必要があるのだろうか。ある程度まで輸送機で接近、ネクストを投下した後に彼らを単体で敵AFまで接敵させる方が合理的かつ遥かに安全である。特に今回のような、未確認AFの襲撃ではなく、『調査』という名目なら尚更に。

 

《……》

 

 何かに勘づく様にキャロルは目を細めた。

 

 今回のリスクの高い作戦と併せて考えるに、誰かが自分達を、GA社の戦力を削ごうとしている様にも感じられるが……さて。とは言え。そもそもこの合理的でない作戦を許可したのがGA社というのがまた何とも……まぁ、我々とて一枚岩ではない。意外な人物が意外なところと繋がってた、何てことも珍しくないだろう。とにもかくにも、今回の任務――――

 

 ――――中々どうして、きな臭い。

 

《……ふぅ、何とか無事合流できたみたいね》

 

 かくして、キャロルが今回の任務の裏について思考を割いている最中。

 

 どうやら合流に成功したらしい。キャロルの耳にメリーゲートからの通信が入る。

 実のところ彼女は今回、キャロルの申し出によりGA社から支援機として用意されたものである。この作戦に予め疑問を抱いていたキャロルが念のため用意していた『弾除け』だったのだが。どうやら先のコジマキャノンのデコイとしての役割は果たしてくれた様子であり、キャロル的には大満足である。

 

 何とも鬼畜ではあるのだが。自陣営の安全を優先する辺りは流石と言えるのかどうなのか。

 

《ふむ。では早速ですが》

 

 合流を確認したキャロルは迅速に指示を出す。

 

《行きなさい、ワンダフルボディ。メリーゲートは2秒程おいてその後を追うように》

《……おい、本当に大丈夫なんだろうな》

《辿り着けばお分かりになるかと》

《最悪だ、クソッタレっ》

 

 キャロルがワンダフルボディに出した指示は至極単純。あの敵AFの脚部の合間までOBで突撃するだけである。まぁ、周辺に浮遊する奇妙な球体が存在するのが些かアレではあるのだが。

 

《―――行くぞッ!》

 

 ワンダフルボディのリンクス、カーネルが気合と共に自機のOBを展開。

 隠れていたビルから飛び出し、そのビル群の合間を縫う様にして例のAFへと一直線に駆けて行く……キャロルは敵との距離を測りつつ、その動きを注意深く観察する。輸送機内、リンクスの視点を介するモニターには猛スピードで近づくAFと6つの浮遊玉……ソルディオス・オービットが。

 

 そして、一定の距離に入ったその時。

 

《ソルディオス。チャージ開始》

 

 空飛ぶ球体がエネルギーを充填し始める……未だその動きは緩慢。ただの浮遊に近い状態だ。

 まぁ、その浮遊の原理が謎めいては居るのだが、今はそんなことはどうでも良い。そしてチャージされてから数秒が経ったその時。もやは内部に溜めこむことが出来なくなったエネルギーが、堰を切ったように溢れ出さんとした。

 

 直後。

 

《うッ……おッおぉッッ!!!》

 

 轟音と共に六つのソルディオス・オービットからはコジマキャノンが射出された。

 OB中であったワンダフルボディはは間一髪でその砲撃を回避するが……機体後方からは砂が焼けるような音、そしてその視界もコジマ粒子の四散で緑色に染まる。とは言えこの場合、一番の問題はそれらでは無く、ワンダフルボディのPA。

 

 機体が安定還流させていたコジマ粒子が外部からのそれにより粒子の安定性を保てなくなり、

防御の要であるPAが一瞬で弾け飛ぶ。それはつまり、コジマ粒子を使用したOB機動も当然行えなくなると言う事であり、敵AFの足の隙間に入り込む直前で、その機動力が失われると言うことになる。

 

 そして間髪入れずにAF本体から放たれる大量のミサイル。絶体絶命である……が、しかし。

 

《ハッ……ハッハッ!侮るなよ!この俺を!》

 

 このドン・カーネルと言う男。ミサイルの処理に関してはリンクスとなった当初からお手の物。それこそキャロルが何の嫌味もなく褒める程度には、フレア使いが上手いのである。かくしてワンダフルボディはそのお得意戦法でミサイルを回避。作戦通りにどうにか敵AF、ランドクラブの脚の隙間に入り込むことに成功した。

 

《ハァ……!ハァ……!》

 

 その耳にカーネルの息切れを聞き入れつつ、キャロルはもう一機にも指示を出す。

 

《ワンダフルボディは隠れるようにして待機。メリーゲート》

《今ッ、やっているッわッ!》

 

 メリーゲートに出した指示は、ワンダフルボディを狙った後、クールダウンした状態のソルディオス・オービットの処理。つまり、コジマキャノンを再充填するまでの無害な内に遠距離からの攻撃を仕掛けるという事であり……メリーゲートは今現在、背部兵装の重ミサイルを構え、ソルディオスの内一機を攻撃している最中であった。その攻撃を一旦終了すると、後は自機付近のビル群の隙間に再度身を隠す算段である。

 

 さて。メリーゲートから射出されたミサイル達はソルディオス一体を的確にとらえ、後は直撃するのを待つばかり……のはずだったのだが。ここで誰しにも予測のつかなかったことが発生。

 

 何と。この空飛ぶ球体は。

 

《ちょ……ッ、とッ!!》

 

 それまでの緩慢な動作から一転。

 まるでネクスト機の様な機動……『クイックブーストの様な何か』を発動させたのだ。結果、その超機動によってメリーゲートから放たれたミサイルは全て回避されてしまう……これには彼女だけではなく、キャロルも流石に驚いた様子で。

 

《はっはっはっ。今のは面白い。もう一度よく見たいものです》

 

 声に抑揚は無いが、何時になく面白おかしそうである。ただ、戦闘中である本人はと言うと。

 

《何これ……ふざけてるの!?》

《はっは。はっはっは。まさかこのような。あまりにも愉快です》

《おい!どうした!何があったのか俺の位置からでは見えん!!》

 

 恐れおののくメイ。大爆笑(?)するキャロル。困惑するカーネル。

 これまでの中でも最大級の強敵を目の前にしているにも関わらず、どこか混沌とした雰囲気がGA陣営を包んでいた。あまりに緊迫した雰囲気では出来る行動も出来なくなってしまうものだが、この状況はどうなのだろうか。

 

《全く、何とも……ええ、ワンダフルボディ。貴方にも見てもらった方が早いかと思われますが……ふむ。それはさておき、今回仕掛けたことによって、把握出来た事がいくつかあります。そして予測できることも》

 

 二機が一旦脅威から離れたことを確認してから、キャロルは話し始めた。

 

《まずソルディオス砲についてですが。一定高度より下には下がって来ません。仮にそうなら、脚の隙間に身を隠しているワンダフルボディが狙い撃ちされているはず》

《……まぁ、そうなるか》

《次に、チャージ時間とクールタイムの存在も確認出来ました。少なくとも連射は不可能……そして次に》

《あのクイックブーストもどきの存在、かしら?》

 

 その通り。そして、そこから予測できることは。

 

《ええ。それらから推測するにあの球体は、ネクスト機に備わっている機構が全て使用できる可能性が存在しています》

《は……あぁ?》

《冗談はよして欲しいわね……》

 

 メリーゲートのリンクスがため息をつく。

 

 そう。あれが可能だと言う事はつまり、オーバードブーストやプライマルアーマー。もしくはそれを発展させたアサルトアーマーという機能が備わっている可能性は大いにある。これまでの常識を覆す、本当に奇妙な物体……ソルディオス・オービット。

 

《とは言え、あくまでも仮定にしか過ぎません。調査を続行します》

《……怪物共とやりあったと思ったら、今度の相手も化物か。ハッ》

《全く、ついていないわ……!》

 

 今回の依頼はあくまでも調査。ならそれを主軸においた戦闘を繰り広げればよいだけの話。キャロルは次にどうするべきなのかを素早く考えると、担当する二機共に指示を出した。

 

《ソルディオス砲の電源がどうなっているのか。ワンダフルボディはその本体、ランドクラブの破壊に専念するよう。メリーゲートは何度か牽制しつつ、隙を見つけてソルディオスと擦れ違うように動いて下さい。尚、AF内部からは多数のノーマル反応が検出されている為、油断しない方がよろしいかと》

 

 まずはこんなところか。後は状況を見つつ、撤退戦に切り替えればよい……

 今回の作戦、キャロルには既に全ての流れが見えたも同然だ。些か予想だにしないことはあったものの、後は不確定要素を一つ一つ潰していけば良いだけの話なのだから。

 

《では、次に移ります》

 

 キャロルの出した合図を機に、第二回戦の 火蓋が切って落とされた―――――

 

 

――――――――

――――

――

 

……。

 

「おい」

「はい」

「お前は、馬鹿なのか?」

「お前では無く、キャロルです」

 

 もう何度目になるのかわからないこのやり取りではあるが……さて、このやり取りが行われている場所。一体どこなのかと言うと、ここはズバリGA本社における医務室である。カーネルの目の前にあるベッドには、その頭を包帯で巻かれた無表情美人が上体を起こした姿勢で待機していた。

 

 これらのことから分かる通り、先日のミッションは無事に完遂されたと言う訳である。

 

 いやまぁ、無事というよりかは本来もっと相応しい言葉があるのだが。とにかく紆余曲折あった挙句に、どうにかミッションが成功したと言ったところだろうか。結果の詳しい内容としては、ワンダフルボディとメリーゲートは本体AF、ランドクラブの『停止』に成功し、ソルディオス・オービットも6機中の2機を撃破するに至ったのだ。敵AFの大体の情報が分かった時点で、その二機のAPが20%を切っていた為、戦線離脱を余儀なくされた次第である。

 

 あのまま戦っていたら確実に死んでいただろうが、まぁ、初見の化け物相手には良くやった方なのではないだろうか。少なくとも次、あの化物を相手取ることになる誰かには、有益な情報を提供できるであろうし。

 

「頭を怪我した状態で指示を行う奴がどこに居るんだ」

「こちらに」

「俺をなめているのか?えぇ?」

「はっは」

 

 それはさておき、このカーネルに問い詰められるキャロルという珍しい状況。こうなっている原因はキャロルに存在しており……実は彼女。あのネクスト緊急投下時、輸送機の急激な方向転換が行われた際に身体のバランスを崩し、自身の頭を勢いよく輸送機内でぶつけていたのだ。なにやら頭上から血液らしきものが流れてきていたのには気が付いていたが、それに構わずオペレータ職を進行していたとのことであり……

 

 今回の一件、亡くなった者達を除いて最も肉体的な損傷を受けていたのは実はキャロルである。

 

「そんなに心配せずとも。特に問題ありませんが」

「し……っ!心配なんぞしとらんわッ!ただな!体調不良のお前が指示を出したとあっては、この俺の身にも危険が及ぶんだ!そのことを良く理解させようと……」

「『クソッタレが。どいつもこいつも』。『お前、死んでいないのか』。貴方のあの狼狽えぶりは些か笑えました」

「目の覚めるツボを押してやろうか?おい?」

 

 カーネルをからかうキャロル。

 

 キャロルが死んだと思い込んだ言え、あれほどこの男が困惑するとは思ってみもなかったのだ。それが余程面白かったのか、キャロルはあの時、自身の身体が訴えた頭痛を一時忘れてすらいた。まさか、たかだか数か月程度の付き合いで……それこそノーマル乗りの頃は仲間の死も大勢見て来たであろう中年男が、である。

 

「チッ……まぁ良い。おい、メイ・グリンフィールドからの伝言だ」

「何と?」

「『本当に助かった。身体には気を付けて』、だとよ」

「貴方とは大違いの素直な励ましです。是非とも見習うように」

 

 その言葉を聞きカーネルが再び騒ぎ出す。

 

 メイに関してはそもそもキャロルの僚機申請が無ければあんな悲劇には見舞われなかったのだが。それを告げたところでどうにもならないし、キャロル自身に何の得も生まれないため、真相は秘匿してある次第だ。第一、キャロルの考えでは戦場に赴いて死ぬと言う事はつまり、その本人が弱かったと言うことに他らないのだから。

 

 ただ……

 

「調査するとしましょう」

「あ?」

 

 今回の任務はどうにも疑問の余地が残っている。その謎に迫ることが自分達への利益、ましてや死者への弔いにもなると言うのなら、調べない理由もないだろう……とは言え、この世界において『真相を探る』という行為は、大抵の場合は不利益に繋がるのだが。

 

 特に、ラインアーク襲撃が近いと噂される状況でのこれだ。最終的には件の怪物達に何かしらの繋がりが見つかってしまう可能性もあるだろう。

 

 全く、仕方が無い。

 

「ドン・カーネル。私を護りなさい」

 

 やれやれと、キャロルはふと中年リンクスに命を下した。

 

「お前にその必要があるのか????」

「出来ないのですか?」

「小娘の子守くらい出来るわぁ!!!」

「はっはっはっ」

 

 実に御しやすい男だと、抑揚なく笑うキャロル。

 

「そのように張り切り過ぎては、足元を掬われるのも時間の問題かと」

「とりあえず、俺は喧嘩を売られていると見て良さそうだな。頭頂部を差し出せ」

 

 無表情で自分の頭を両手でガードしながら、キャロルはこれから先の動きを考えていた。

 

 場合によっては、怪物に連絡を取る必要もあるが……さてさて、どうしたものか。

 

 


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