区切り。
とあるお茶会視点
ゼンが目を覚ます少し前……丁度、オーメルの飛行部隊がメガリス襲撃を決行した頃だろうか。
《―――今回、呼び掛けに応じてもらったのは他でも無い》
そこでは、とある『会議』が行われていた。
その男が発した……ノイズがかった「音声」から分かる事は、その『会議』が何らかの通信機器を介して行われていると言う事。参加メンバー数は、最初に発言した男を含めて四人。
《例の「記録」についてだろう?》
まず呼び掛けに応じたのは、老齢を思わせる男性の声。
《フッ……しかし、珍しい参加者が居るな》
次に、比較的若い女性。
《…………》
最後。通信は繋いで居るものの、一切話す素振りを見せない寡黙な男。
会議メンバーは、皆が皆『妙に落ち着いた』とでも言うのか……そう。言うなれば 只者ではないと思わせるような、そんな雰囲気を纏わせていた。まあ事実として、彼らの中では一人たりとも普通の人間は存在しなかったのだが……
《では、全員が「記録」を見たと仮定して話を進めるとしよう》
……何故ならば
《単刀直入に言う。これから暫くの間、AFの破壊活動は控える》
彼らはその全員が、リンクス。
しかも企業に仇を成す―――乗機が一機としてカラードに登録されていない、完全に非公式な存在。つまりは……
《これは私の独断だ。今、『旅団』の人数を減らすのは惜しい……『その時』が近いだけにな》
『ORCA旅団』。
最近頻発していた世界各地の「AF襲撃」を企てたのは、旅団の参謀役であるこの男―――
「メルツェル」による物だ。 彼は来るべき時に備え、主に邪魔になりそうな物……AFを減らそうと企てていたのだが。
《質問だ》
質問をしたのは、メンバー内唯一の女性。
《「ジュリアス」か》
《想像はついているがな……一応聞こう。何故だ》
《例の『
――――実のところ、そのAF襲撃は『全て』がORCA旅団のメンバーによる物では無かった。内幾つかには、明らかに『ORCA旅団外部の所属不明機』がしたと思われる犯行が存在したのだ。
メルツェルはその何者かについての情報を集めていたのだが……大した情報は得られなかった。分かった事と言えば、各AFが訳の分からぬまま『超短時間』で撃破されている位の物だ。
その『何者か側』が意図的に情報を隠蔽しているのは明らかだったが……それにしても、あまりにもそれに関する情報は少なすぎたのだ。さながら幻を、そこに存在するはずの無いモノを相手どっているかの状況。
知らず知らずの内に、旅団内・旅団関係者の間ではその者にある敬称が付いていた……
それが、『蜃気楼』。
《今回ネットワーク上に出回った「記録」にはネクスト機が三機映っていた。一機はGAのワンダフルボディ。二機目は例の『怪物』、ネームレス。そして三機目は……》
《『蜃気楼』、か》
《ああ。「漆黒の不明機」―――――まず奴で間違いないだろう……そこでだジュリアス。いや、この場の皆に聞こう。「記録」を見た感想は?》
さて、メルツェルのその問いかけにこの会議メンバーは ……
《《化物だな》》
《…………》
事も無げにそう返した。いや、まあ、約一名は相変わらずの無口ではあったが。
お互いの率直な感想を知ることとなった彼らは、苦笑しつつ雑談に入る。
《ほぉ?ジュリアスのお嬢ちゃんがそう評価するとは》
《フッ。私からすれば貴方の回答の方が驚きだな、『銀翁』。そうだ……『真改』。そちらは一度ネームレスと戦闘をこなしたのだろう?是非とも感想を聞きたいところだ》
《……、
……そんな事を言っては居るものの、世間一般に言えば彼等も十分化物の部類である。
『ジュリアス・エメリー』に関して言えば、かつてはジョシュア・オブライエンの再来と呼ばれたリンクスであり、『ネオニダス』――――ORCA旅団内では 『銀翁』と呼ばれる男は、全リンクス中最高峰のAMS適性の持ち主。『真改』は言わずもがな。必殺のレーザーブレードを難なく操る実力者だ。
《そう言う事だ。仮に戦場でアレ等……特に『蜃気楼』と鉢合わせでもしたら、流石のお前達とて無事では済むまい》
《ふむ……つまりはメルツェル。お前さんは「駒を失うのはゲームが始まってから」と言いたい訳だな?》
《話が早くて助かる、銀翁》
言い方は悪いが、メルツェルは旅団員の一人一人を『目的を達成する為の駒』として見ていた。
当然、自身を含めて。そしてそれだけに、その一つ一つの『駒』が如何に重要なのかも理解している……
そう。銀翁の言う通り、駒には駒の『失いどころ』と言うものがあるのだ。
ゲームの開始前にそれらを失っては意味が無い……手持ちが多いに越した事は無いのだから。
《私としては一度合間見えてみたいものだがな……銀翁、どうだ?やり合ってみたくは無いか?》
《無茶を言う。私もこれまでに色々と見て来たが、あの二機はそれこそ別格だ……『あんな機動』をされては勝負にもならんよ》
《…………》
ジュリアスは決して戦闘狂と言う訳では無いのだが……どうやら自身の『腕』がどれ程通用するのか試してみたい気持ちもあるらしい。
彼女程のリンクスの相手は並みの戦力では務まらないだけに、これまでの境遇には少々退屈を感じていたのだろう。
……その声色からは、『別格』の強敵の出現に対し、浮かれているかのごとき印象を覚える。
《ジュリアス。先程銀翁も言ってはいたが、今『駒』を減らす訳にはいかん。無いとは思うが……妙な気だけは起こしてくれるなよ?》
《分かっているさ。だが……遥か格上が居ると言うこの事実。新鮮な気持ちにもなろう?》
《フッ……まあ、遠く無い内に『計画』が始動する。さすればこの二機も動くだろう……必ずな。思うところがあるのなら、その時に思う存分やれば良い》
確かに、『怪物』と『蜃気楼』は別格だ。それこそ天上知らずの強さを誇っている……が、ジュリアスもまた紛れもない天才。やり様によっては、その次元違いに食い付く事も不可能では無いはず…
メルツェルは既に、出回った「記録」から幾つかの『対策法』を編み出していた。
《ともかくだ。今後……そうだな、『蜃気楼』の居場所を正確に把握するまではAFの襲撃は控える。良いな?》
《今、ORCAの頭脳・団長代理はお前さんだ。誰も異存なんてなかろうよ。なあ、真改にジュリアスの嬢ちゃん?》
《ああ、了解した》
《……承知……》
良し……
《当然、これは他の団員達にも通達する……『最初の五人』であるお前達だけに伝えても意味など無いのでな。手伝ってもらうぞ》
これで一つ、重要な議題の確認を終えた。『蜃気楼』の居場所については未だに不明ではあるが……一応のところ、ある程度の予測はしてある。後はその予測地点に何らかのアプローチをかけ――――どんな『反応』が返ってくるかを見れば良い……
さて、次に進むとしよう。
通信機越しとは言えせっかくの集まりだ。まだまだ話す事は山程あるのだから―――――
ヤバい方(もう一人)の二つ名は、過去作の企業名から。
そしてようやくchapter1が終了しました。更新遅くて二年以上かかりました。
最後までとなると、あとどの位掛かるかどうかは分かりませんが、それまで気長に待っていただけると嬉しいです。