絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

19 / 60
去年のクリスマスは『力こそが全て』な肩重い中(重量過多中二)の男性と街でデートしてました。思わずコアが熱くなりました。



第18話

MT部隊隊長視点

 

 

 

(…何とかなったか)

 

周囲が盛り上がっている中、エドガーは一人安堵していた。

 

実のところ、あの黒いネクスト機に襲撃されてから彼の部下たちは異様に神経を研ぎ澄ましてラインアークの防衛にあたる様になっていたのだ。当然気を抜かれるよりかはよっぽどマシと言うものだが…いかんせん〝集中しすぎ〟である。

 

今まで自分と共に居た者達ならまだしも、その中にはラインアークに来てから初めて仲間に加わった者も居る。その様な者達には精神的にかなり堪えるであろう…

 

そう判断したエドガーは、部下達の息抜きにゼンを会わせる事にしたのだ。

 

(自分達がリンクスと言う強力なバックアップを得られていると言う事実を、『実際に本人に会い』確認出来れば少しは気も楽になるだろうしな…)

 

…それにしても、初対面時は驚いたものだ。

 

ゼンの声質から、比較的若い者である事の想像はついていた。しかしその落ち着いた喋りや雰囲気…それらを加味して、年齢はまあ20代後半~30代前半辺りだろうと予測していたのだが…実際にはその予測とはかけ離れていた。

 

ゼンの姿はどう見積もっても20代前半の若者にしか見えなかったのだ。

 

(それに加え、あのゼンを中心に『固体化』したかの様な鋭い空気…あれには参ったものだ。思わずして、ゼンの一言目を聞き逃してしまった。クク…まあ、実際に話してみると直ぐににアイツだと確信は持てたが)

 

エドガーは、今や座っている周りを大人数に囲まれ質問責めにあっている男へと顔を向ける。

 

「…と言う事は、やはりノーマルではネクスト機に対して勝利を得るのは難しい。と?」

 

「先程にも言った様に火力もさる事ながら、ネクスト機にはPAと言う反則的な防御機構があるからな。それに加え、機動力はノーマルに比べ天と地程の差がある…まあ、普通に考えたのなら相当に厳しいだろう」

 

…しかし何やら興味深い話をしている。どれ、少し話に混ざるとするか。

 

「だが、それはお前さんの言う『普通に考えた』場合の話だろう?」

「ああそうだ。エドガーも言っているが、それは普通に考えた場合の話…何も、ノーマルで撃破するのが絶対的に『不可能』と言う話では無い。」

 

その言葉を聞き、予想外の言葉を聞いたという風に周囲がざわつく。

 

「そうだな…『サイレント・アバランチ』を知っているか?」

 

サイレント・アバランチ…確か

 

「BFF社所属の―――南極にある大規模コジマエネルギー施設〝スフィア〟の防衛部隊だったか」

 

エドガーはその名に聞き覚えがあった。何でも、BFFノーマル部隊の中でもかなりの精鋭達で構成された部隊であり、かつてはその戦力は「ネクストを超える」と喧伝されていた程だ。

 

(リンクス戦争時に〝アナトリアの傭兵〟つまりは現ホワイト・グリントのリンクスにより壊滅的打撃を受けた―――にも関わらず、再編成されたらしいが)

 

 

「そうだ…〝奴ら〟のやり様には目を見張る物がある。まず点在するフィールドについてだが、常に強風が吹き雪が宙を舞い、非常に視認性が悪い。またレーダー対策の為にECMを常に展開し、それが更に奴らの点在位置の把握を分かりづらくしている。」

 

「そして、その索敵性の悪さを利用しての大口径スナイパーキャノンによる狙撃…あの狙撃は中々に厄介だ。威力・衝撃力共に優れている訳だからな…闇雲に突撃しよう物なら、いくらネクスト機と言えどもただでは済まないだろう」

 

「なるほど。つまるところサイレント・アバランチは『対ネクスト』も視野に入った戦術を駆使しており…それを見るに、やり方次第ではノーマル部隊でもネクスト機に対し脅威と呼べる存在になりえる、と言う事だな?」

 

「ああ、そうだ」

 

最初に話を聞いた時は、「何をバカな事を」と一笑に付したものだが…〝ネクストを凌ぐ〟と言う点はともかく、その練度は侮れたものでは無い。と言う訳だ。

そんなゼンの言葉を聞き、内心サイレント・アバランチへの評価を上げるエドガー。

 

そしてその周りはと言うと…

 

「はー、凄いんですね。噂では聞きましたが…」

「さすがに精鋭部隊の名は伊達じゃ無い、という事ですね」

 

「条件さえ整えばネクスト機の撃破も不可能では無い…か」

「ふむ。しかし我々と彼らとでは、言ってしまっては何ですが装備に差が―――」

「いや、それこそ作戦で何とか…」

 

「過去に『そう言う記録』もあるが、それでも正確には〝中破〟止まりらしいからな」

「ネクスト『撃破』か…中々夢のある話だな」

 

それはまあ、大いに盛り上がっていた。

 

有る者も言っているが、過去にはとあるベテランノーマル乗りがネクスト機に追いすがったと言う伝説的な記録もある。が、与えた損傷具合は〝中破止まり〟で結果は実質『相討ち以下』であったと今では判明している。

 

それでも信じられない程の事ではあるのだが…やはりノーマル乗り達としてはネクスト機という「絶対的強者」に対して、誰もが認める勝利を得たいと思うものなのだろう。

リンクス直々の「ネクスト撃破は『不可能では無い』」と言う発言に、ノーマル部隊の面々は特に話題に花を咲かせていた。

 

「あ、あの…一つお聞きしたい事があるのですが…」

 

その中、どこからともなく一つの女性の声が挙がった。と、言ってもこの場に居る女性は数えるほどしか居ないので声の主は限られているが。

 

「…確か、名は〝アイラ〟だったか。何だ?」

「は、はい! 名前をお覚え―――あ、いえその…ゼンさんがサイレント・アバランチと戦闘になった場合は…ど、どうなるのかと」

 

向けられたゼンの鋭い視線に、一瞬体をビクリと反応させ質問に移るアイラ。

その質問はこの場に居る者達にはかなり興味をそそる物だったのだろう。さてどんな答えが返ってきたものか…と皆一様にゼンへと視線を向けた。

 

しかしそんな中、顔をうつむけ笑いを堪える男が一人―――

 

(…まさか、その男に〝それ〟を聞くとはな)

 

その正体はエドガーである。

 

(アイラ…目の前の男はサイレント・アバランチの戦術を解説した張本人であり、同時にリンクスでもある。「じゃあお前はどうなんだ?」と聞きたくなるのは分からないでも無いが…その男に対してその質問は愚問と言うものだ。答えは聞くまでも―――)

 

だが、そこまで考えたところで

 

「俺か? そうだな、まあ…」

 

ゼンは自身の予想とは違った答えを出してきた。

 

 

「殺られるかもしれんな」

 

 

……いや、それは無いだろう。

 

実際にゼンの戦いぶりを目の当たりにしているエドガーは心中でその言葉を即座に否定。

 

「おお、意外ですね。『敵では無い』との反応が返ってくるかと思ってましたが」

「そ、そうですね。質問した私が言うのも何ですが、自分もてっきりそいう反応が返ってくるかと……」

 

そしてそう思っているのはエドガーだけでは無かったらしい。

 

苦笑いとも何とも言えない反応の者が大多数をしめていた。まあ、それもそうであろう。何せ先ほどサイレント・アバランチの戦術について知らない事は無い、と言わんばかりに細かな説明をしていたのだ。これではゼンが敗北を喫する状況を想像する方が難しいと言うものだ。

 

「そうか? 実際に交戦してみない事には何とも言えないだろう。まあ、俺は臆病者なんでな…『勝てる』と断言は出来ん」

 

「クク…お前さんが臆病者に見える奴はそうは居ないと思うがな」

 

「まあ確かに、それは隊長の言う通りですね」

「はは…少なくとも、ここのメンツの中には居ないかと」

 

ゼンの冗談につい吹き出してしまう。そしてつくづく思うのだ、この男は―――

 

「ふふっ…何と言うか、ゼンさんって不思議な人ですね」

「…そうか?」

「ええ…私は『リンクス』と言うのはどこか他人を見下しているものだとばかり思っていました」

 

「私はゼンさんの事は何も知らないです。でもきっと…ゼンさんってリンクスの中でも凄い方なんですよね? ここ数日のラインアーク内の騒がしさを見れば私でもその位は分かります」

 

「…」

 

「なのにそんな事をまったく鼻にかけないと言うか…こうしていると凄く話しやすく感じるんです。その、実は最初見た時は近寄りがたい感じはしましたけど…」

 

そう。アイラの言う通り、出会った当初からそうなのだが…この男は自身がリンクスであるという事実を全く鼻にかけないのだ。

 

今でこそ巨大兵器の台頭によりリンクスの価値は下がってはいる。しかしそれでも上位クラスともなれば、それすら撃破する事も可能なのだ。ゼンの実力は、恐らくその上位に匹敵するであろう事も窺い知れる。

 

その様な者からすれば我々の存在など…あまり口には出したく無いが、取るに足らない存在であろう。実際、ラインアークに訪れる前に何度か共同任務を受けたリンクス達は『そういう態度』の者ばかりであった。

 

しかしゼンの態度はまったくその様な事を感じさせないのだ。時折見せる、己を「ただの一般人」かの如く思っている様子には『不思議』と言わず何と言うのか。

 

「…俺は」

 

その話を黙って聞いていたゼンが口を開く。

 

「元々、リンクスでは無かったからな」

 

「え…あ、ああ! 私達と同じく元はMTやノーマル乗りだったり」

「そう言う意味では無い」

 

その言葉を聞いたエドガーは、気が付けば口が動いていた。

 

 

「では、一体『どういう意味』だ?」

 

 

何となく―――何となくだが、理解出来てしまったのだ。

次に発せられる言葉が、恐らくは謎多きゼンの秘密の『一端』を示す事になるであろうと。

いつしか話し声は聞こえなくなっている……先程、初めてゼンと顔を合わせた時の様な鋭い空気が空間を支配していた。

 

そしてゼンが口を開いた次の瞬間

 

 

「つまりは『AMS適性』など一切無かった、と言う訳だ」

 

 

室内に大きな衝撃が走る事となる。

 

 

「おいおい……」

「う、嘘…ゼンさん、その話―――」

 

「え…そ、それって」

「ッ!?」

「あ、あり得ない……」

 

目を見開く者、口を開けたまま絶句する者、はたまた騒ぎ出す者…その反応は様々だが言いたい事は皆一様に同じであろう。

 

そう、あり得ない。

 

『AMS適性は個人の先天的な才覚に依存し、訓練などによる後天的な獲得は不可能である』

 

これは絶対のルールのはずだ。

カーネルの関わるNSS計画でさえ、僅かとは言え『AMS適性の有る』者を対象として進められているのだ。それほどまでにAMS適性と言うのは無い者が後天的に得る事は困難を極めると言う訳である。だが、ゼンは言った。「AMS適性など一切なかった」と。

 

 

つまりはその『絶対のルール』が破られた。ゼンは〝何らか〟により後天的にAMS適性を得たのだ。

 

(もしもこの話が真実なら、世界がひっくり返るな……)

 

各勢力には〝切り札〟がある。それは言わずと知れたリンクスであり、専らの主戦力がAFに成り替わった今でも変わる事は無い。

 

先にも述べたが、各企業最高クラスのネクスト機ともなれば並のAFなどを遥かに凌ぐ戦力足りえるのだ。まあ、万一それが失われた際の損失が計り知れない為『切り札』として出来る限り慎重に扱われる訳だが。

 

…しかし、我々のようなAMS適性など一切存在しない人間がリンクスに成れるのだとしたら。もしもゼンクラスの人材が大量に確保出来る様になったとしたら―――

 

(―――ハッ、笑うに笑えない事態だ。無限にある『切り札』など)

 

エドガーは背筋に冷たいモノが伝うのを感じた。そんな事が実現してみろ、今でさえ世界がこの現状だ…下手をすれば『終わる』。

 

(やはりゼンは組織の被検体だったと言う訳か…。しかも『AMS適性の付与』などと言ったまさしく、「ふざけた」としか言いようの無い計画の)

 

そこで一つ、疑問が生じた。

 

「おい待てゼン、質問だが…お前さんの様な者は他にも居たのか?」

 

そう、ゼンと言う成功例がここに居る以上その他の被検体が居てもおかしくは無いはずだ。

 

「聞いた話によれば、『あと一人』居るらしいがな。…詳しい事は分からん」

「…成る程」

 

……やはりゼンだけでは無かったか。

 

しかし被験者同士の詳しい話しも聞かされていないとは…何だ? その被験者同士でコンタクトを取られるとマズイ事でもあったのだろうか…

 

それに、NSS計画とは違い真の意味での『リンクスの量産化』を目指している組織が、その存在を外部に知られていないと言うのはどういう事だろうか? 先日の依頼主から察するに、ゼンの存在は企業側からしてもイレギュラーなはずだ。だとすれば計画を進める為の資金は一体どこから―――

 

 

(…駄目だ。分からない事が多すぎる)

 

 

『ゼンが一体何者なのか』は僅かではあるが把握出来た。しかし、その計画の成された理由。〝もう一人〟。組織の場所。資金面での問題。ゼンがそこを抜けだした訳…

 

パッと思いついただけでこれだけの謎が残されている。もはやゼンの言葉を聞いたばかりに謎が増えたと言っても過言では無い。

 

 

(もう少し質問するか…いや、しかし)

 

 

エドガーは脳内でストップをかけた。

 

これ以上は〝危険〟と判断したのだ。『無知は罪』とは言うが、この世界に置いては知りすぎる事は『大罪』となりえる。それこそ、自分達の様に「代えの利く」者達にとっては…まあ、時が来れば今回の様にゼン自身から話を切り出してくれるだろう。

 

「皆、今の話は他言無用だ」

 

今はまだ、これ位で良い。

 

「分かってますよ」

「…俺もまだやりたい事が残っていますし」

「言えてるな」

「は、はい…!」

 

それは何よりだ。ノーマル部隊の面々もそれが良く理解出来ているのか、一様に険しい顔で頷いていた。…ここに居る者達は皆、少なからずこの薄汚れた世界で生き抜いてきたのだ。言うだけ野暮だったか。

 

 

(さて、とすれば先ずは話題を転換するなりしてこの空気を何とか―――)

 

 

エドガーがこの重い空気を改善する為の策を講じようとしていたその時

 

「…マーシュさん!」

「いや、だってこれ、ゼン君宛てなんだし本人に聞かないとさぁ!」

 

食堂のドアの外から声が聞こえてきた。

 

「だからと言ってここで無くとも―――」

「皆で見た方が面白…フフフ、失礼。断りづらいと僕は思うね」

「…全くもって誤魔化しきれていませんが」

 

その、何だ……非常に騒がしい。そのあまりの騒がしさに先ほどまでの重苦しい空気はどこへやら。今や食堂中の注目はそのドアへと注がれている。声から推測するに、どうやら一人は男性でもう一人は女性らしい。

 

(「ゼン君宛て」? 「マーシュ」? いや、まさかな…しかしながら、女性の方は何やら聞き覚えのある声だ)

 

男の方の発言からして、ゼンに何らかの用事がある事は把握出来た。

エドガーは「何か知っているのか」と目線のみでゼンに合図を送る。だが当の本人にも何も知らされて無いらしく、反応はと言うと首をかしげるばかりだ。

 

その声は段々と大きくなっておりそしてついに―――

 

―――バンッ!!

 

という音と共に勢いよく食堂の扉が開かれた。そこから現れた人物は

 

 

「お食事中失礼するよ! さて、ゼン君はどこかな~!!」

「……申し訳ありません。一応、止めようと試みてはみたのですが…」

 

 

……知っている人物だった。「二人とも」

 

諦めとも何とも言えない表情で額を抑えている女性の方は、我らがラインアークの守護神であるホワイト・グリントのオペレータを務める〝フィオナ・イェルネフェルト〟。

 

もう一人の、白衣を身に纏いとても良い笑顔を顔面に張り付けている男性。直接の面識は無いものの、軍事関係者なら誰しも…いや、ともすればそうで無い者も知っているであろう人物。

 

その名は

 

 

「俺ならここだ。しかし…その荷物は一体何だ―――」

 

 

―――〝アブ・マーシュ〟。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。