僕とSHUFFLEと召喚獣   作:京勇樹

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名付け

ユーストマから話を聞いた数時間後、明久は夜の街を走っていた

その理由が、夜の街に出たシア

裏シアを追いかけていたからだ

 

(かなり速い……魔法で身体能力を強化しているのか……)

 

今シアと明久の二人は、揃って民家の屋根の上を跳んでいた

その裏シアの身体能力は、かなり本気の明久の速力で漸く追い掛けることが出来るものだった

そこから明久は、裏シアが魔法で身体能力を大幅に底上げしていると気付いたのだ

 

(やれやれ……やはり、才能が無いというのは泣ける……これが、もう一人の殿下の力か)

 

明久は自身の非才に内心では軽く頭を抱えたが、追い掛けるのを止めなかった

そして少しすると、シアの行き先に気付いた

 

(この先は……文月学園か)

 

シアの行き先は、文月学園だった

シアは文月学園の校庭に着地

その僅か後に、明久も着地した

すると、シアが振り向いた

その表情は、何時ものシアとは違った

すると、明久は今この場にもう一人居ることに気付いた

それは、稟だった

 

「稟!? なぜ、ここに!?」

 

「いや、俺は……あの裏シアに呼ばれたんだ」

 

明久が問い掛けると、稟はそう言った

 

「何時!?」

 

「ん? 今日の昼過ぎだな」

 

稟の返答を聞いて、明久は唇を噛んだ

あの部屋に戻った後、シアの体を裏シアが使い外に出ていたらしい

 

(まさか、こちらの警備に気づかれずに出るとは……)

 

そこから分かるのは、裏シアの魔力運用レベルが相当高いということだった

裏シアは魔法を使う際に漏れ出る魔力が、ほぼ無かったのだろう

そうして、何らかの手段を用いて警備に気づかれずに外に出て稟と会って、文月学園の校庭に夜に来るように言った

ということだった

 

「ということは……俺が気づけたのは態と魔力を漏らしたのか……」

 

そう言ったタイミングで、裏シアは口を開いた

 

「シアは良いよね……稟や明久達と一緒に生活が出来るからさ」

 

と喋り始めた

その声音から分かったのは、悲しんでいるということだった

 

「私は、体も名前も無かった……ただ、裏シアと呼ばれてた……」

 

彼女はそう言いながら、クルクルと回っていた

すると、彼女は二人に体を向けて

 

「それじゃあ、まるで……私がシアのオマケみたいじゃない……シアは違うと言ってくれてるけど……誰も、私を見てくれてない!」

 

と叫んだ

その直後、彼女の周りに凄まじい数の魔力球が現れた

それを見た明久は、通信を開き

 

「瑠璃、フリージア! 部隊の展開状況は!?」

 

と問い掛けた

すると

 

『第一から第三中隊までが展開完了してます!』

 

『今から、私達も入ります!』

 

と返答がきた

しかし、明久は

 

「入るな! いいか、対魔、対爆、消音結界を学園を囲うように展開し、絶対に入るな!」

 

と指示を出して、稟の前に布陣した

そして、懐から札を数枚取り出すと、稟の足下に円状に配置

そして

 

「八式最強防御陣!!」

 

と稟を守る結果を展開させた

 

「明久!?」

 

稟が驚いた様子で明久を呼ぶが、明久は答えずに魔力刀を取り出した

今の彼女は、魔法の制御が一切出来ていないのだ

魔法の制御というのは、感情に直結する

だから魔法を使う時は、出来るだけ平常心を乱さないことが求められる

しかし今の彼女は、平常心を忘れていた

それは、今まで誰にも認められなかった反動だった

そしてその威力は、当代随一の魔力を有するネリネに迫っていた

今の明久の中での優先順位は、第一に稟の安全の確保

第二に、街に被害を出させないこと

だから明久は、近衛に学園を囲うように布陣させて、三重の障壁を張らせたのだ

そして、明久が二刀を構えた

その直後、彼女の魔法が放たれた

その魔法を見て、稟は死を覚悟した

 

(ダメだ、あれは……耐えられるものじゃない)

 

しかしその時、稟は気付いた

明久が二刀で、防御しようとしたことに

それを止めようとしたが、間に合わなかった

彼女が放った魔法が、その威力を解き放った

音と景色の両方が、消えた

稟は思わず、死んだとすら思えた

しかし、少しして気付いた

まだ、自分が生きているということに

そして稟は、おそるおそると、瞼を開けた

 

「生きてる……」

 

と稟は、自分が五体満足で生きてることを安堵した

その直後、ビシャリという音が聞こえた

それを聞いて、稟は思い出した

明久が、自分を守るために二刀を構えたことを

そして稟が見たのは、先程と同じ姿勢の明久だった

だが明久の全身は、血塗れだった

更によく見れば、左下腹部が大きく抉れていた

 

「明久ぁ!!」

 

と稟が呼んだ

すると、またビシャリと音

血が落ちる音がして

 

「騒ぐな……まだ、生きている」

 

と明久が答えた

だがそれは、本当に辛うじてだった

痛みは酷く、はっきり言って気絶した方が楽だろうとすら明久は思えた

しかし、まだ言うことがあった

 

「裏シア様……」

 

と明久が呼ぶと、顔色が青白くなった彼女が明久を見た

 

「貴女様には、名前が無いと聞いています……もし良ければ、自分がその名を贈ります……」

 

明久はそう言うと、倒れるのを必死に堪えながら

 

「キキョウ……というのは、どうでしょうか……ただリシアンサスから連想した、安直ですが……貴女様には、良く似合う名前と想います」

 

と言った

その直後、明久は両膝を突いた

そして明久は、自身から溢れた血溜まりに倒れた


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