僕とSHUFFLEと召喚獣   作:京勇樹

54 / 68
これは、外せないよね


少女の感情

お化け屋敷騒動から、数日後

 

「今日は疲れたなぁ」

 

と言ったのは、一人で歩いていた稟だった

昼は樹に呼び出されて、駅前でナンパに付き合わされた(そこに、樹を探していた紅女史と遭遇し、強制終了)

その後は買い物に出ていたカレハとその妹、ツボミと遭遇

二人の妄想癖を止められるのは、亜沙だけだと認識した

 

その後、自分の私物の買い物に行ったら、Fクラス男子達がボランティア活動している場面に遭遇

襲いかかってきたが、西村が一瞬にして撃破していた(なぜか、銃剣を持った神父服姿で)

怒濤のようにそれらに遭遇し、精神的にドッと疲れた

そして稟は、家近くの公園の前に来た

その時、その公園に一人の少女を見つけた

楓と同じ同居人

プリムラだった

 

「プリムラ、何してるんだ?」

 

稟が問い掛けると、プリムラはゆっくりと振り返り

 

「……リコリスお姉ちゃんを待ってるの」

 

と言った

 

「リコリスお姉ちゃん?」

 

「……待ってても、来てくれないの」

 

稟が問い掛けると、プリムラはそう返した

何時もと変わらぬ無表情だったが、何処か寂しそうに見えた

すると稟は、プリムラに近寄り

 

「そうか……とりあえず、家に帰ろう」

 

と言って、手を差し伸べた

するとプリムラは、ゆっくりとだが稟と手を繋いだ

そして稟とプリムラは、二人で家に帰った

それから数時間後だった

 

「それでは、稟くん。お風呂に入りますね」

 

「おーう」

 

夕食を食べ終えた後、稟は居間でテレビを見ていた

ゆったりとした時間が流れ、稟は平和だな

と思った

そして、数十分後だった

 

「稟くん、大変です!」

 

と風呂上がりらしい楓が、居間に駆け込んできた

 

「どうした?」

 

「リムちゃんが居ないんです!」

 

楓の言葉を聞いて、稟は立ち上がって

 

「部屋に居なかったのか?」

 

「はい。お風呂から出たので、リムちゃんに空いたことを教えるために行ったら、居なかったんです」

 

稟の問い掛けに、楓はそう答えた

楓の言葉を聞きながら、稟はプリムラの部屋に向かった

確かに、部屋にプリムラの姿は無かった

代わりに、何時もプリムラが抱き締めているボロボロのヌイグルミが置いてあった

それを見て、稟は

 

「楓、俺は明久の部屋に行ってくる。魔王のおじさんを呼んでおいてくれ」

 

と言った

 

「わ、わかりました!」

 

稟に言われて、楓は階段を降りていった

そして稟は、向かいの明久の住んでるアパートに向かった

 

「明久!」

 

稟がドア越しに声を掛けると、ドアが開き

 

「入れ」

 

と明久が中に招き入れた

 

「プリムラの場所は?」

 

「近くの公園だ」

 

稟の問い掛けに、端的に明久は答えた

一言だが、稟には直ぐに分かった

あの公園だと

 

「分かった。ありがとう」

 

「プリムラ様を頼む」

 

明久の言葉を背中越しに聞きながら、稟は家に戻った

すると、居間にはフォーベシィが居た

 

「やあ、稟ちゃん。プリムラが居なくなったと聞いたよ」

 

「ええ、ですが。大事な話があります」

 

フォーベシィの問い掛けを軽く流し、稟はそう切り出した

するとフォーベシィは、変わらぬ微笑みを浮かべながら

 

「なんだい?」

 

と問い掛けた

それに対して、稟は

 

「リコリスって、誰ですか?」

 

と問い掛けた

 

「……リコリスは、プリムラから聞いたんだね?」

 

稟の問い掛けに、フォーベシィはそう言い、稟は頷いた

そして語られたのは、今から約10年前に始まったある計画だった

それは、死人を甦らせるという禁忌に触れる計画だった

その計画を成功させるために、神界と魔界はあらゆる手を尽くした

そして、計画の中心となったのが三人

一人目は、強化された個体

その個体の基となったのは、当時の神界魔界双方の中から、魔力が強かった存在だった

その個体が有していた魔力を、更に強化した

しかし、その個体は強化された魔力に耐えきれず消滅した

そして二人目は、複製

つまりは、クローンだった

それは、人間界では国際法に触れる行為だった

その基となったのが、ネリネだった

ネリネは子供の頃から魔力が強く、複製基にはピッタリだったらしい

そして複製する際に、遺伝子を組み換えて魔力を強化した

しかし、遺伝子組み換えの影響か寿命が長くなかったらしい

だから計画は、三人目に移行

その三人目は、創造された

創造と言うのは簡単だが、天文学的な確率と資金を使って産み出されたのが、プリムラだった

そして産み出されたプリムラには、本当の意味で親族は居なかった

そんなプリムラにとって、二人目

複製で誕生したリコリスは、姉のような存在だった

しかしそのリコリスは、ネリネの体を治すためにその存在は失われた

そのリコリスがプレゼントしたのが、普段プリムラが持っていたボロボロのヌイグルミだったのだ

 

「もちろん、プリムラにはリコリスは死んだと伝えてある……だが、プリムラは中々信じてくれないんだ」

 

「なるほど……」

 

フォーベシィの説明を聞いて、稟は納得した

プリムラは今も、リコリスが会いに来てくれると思っているのだと

そして、稟が立ち上がると

 

「稟ちゃん。私にこんなことを言う権利は無いのかもしれないが……」

 

とフォーベシィは言って、立ち上がった

そして

 

「プリムラを、頼んだよ」

 

と言って、頭を下げた

稟はそれを見て

 

「いってきます」

 

と言って、家から出た

気付けば、雨が降っていた

 

「まあ、ちょうどいいか」

 

稟はそう言うと、傘も差さずに走り出した

プリムラの居る、公園を目指して

そして、数分後

 

「プリムラ」

 

稟は、プリムラを見つけた

 

「稟……」

 

「帰ろう、楓が心配してる」

 

稟がそう言うと、プリムラは

 

「嫌……私は、リコリスお姉ちゃんを待ってるの……私の所に来てくれるって、約束してくれたから」

 

と言った

そして、稟は確信した

 

「あのな、プリムラ……リコリスは、もう居ないんだ」

 

「嘘だよ……リコリスお姉ちゃんは」

 

稟の言葉を聞いて、プリムラはそう言いながら首を振った

すると、稟が

 

「プリムラ」

 

とプリムラの肩を掴んだ

 

「死んだ人は、もう帰ってこないんだ」

 

稟はそう言った

それは、自分が経験したから分かることだった

両親が死んだ時も、明久の両親と紅葉が死んだ時に経験したこと

最初は、家に帰ったら家に居るような気がした

だが、その希望は儚く終わった

 

「確かに、リコリスさんが死んだことは悲しいな……俺にも、その気持ちは分かる……」

 

稟のその言葉を、プリムラは聞き入っていた

稟の目に、悲しみを感じたからだ

 

「なあ、プリムラ……俺達じゃあ、ダメか?」

 

「え?」

 

稟のその言葉を聞いて、プリムラは首を傾げた

すると稟は、真剣な表情で

 

「リコリスさんの代わりにはならない……けどさ、俺達が家族じゃダメか?」

 

と再び問い掛けた

 

「稟が……家族?」

 

「楓もだ……俺達じゃあ、ダメか?」

 

プリムラの言葉に、稟がそう返した

その直後、プリムラの目尻に大粒の涙が浮かび

 

「う……うあぁぁぁぁ!」

 

とプリムラが泣き始めた

プリムラは、感情が未発達などではなかったのだ

ただ、不器用だっただけ

感情の発露の仕方が、分からなかったのだ

その切っ掛けを、稟が与えたのだ

稟は、泣き出したプリムラを抱き締めた

泣き止むまで、待った

そして、数分後

 

「ありがとう、稟……」

 

とプリムラは、微笑んだ

そんなプリムラの頭を、稟は撫でながら

 

「んじゃ、帰ろうか」

 

と言った

 

「うん……ねえ、稟……お兄ちゃんって、呼んでいいかな?」

 

「おう……楓も呼んでやれ。喜ぶだろうからな」

 

プリムラの問い掛けに稟はそう返して、プリムラの手を握った

そして二人は、雨が止んで満月が垣間見える夜空の下を家まで歩いたのだった


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。