FクラスとDクラスが試験召喚戦争をしている最中のAクラスでは
「明久くん、ここは何て訳すんすか?」
「ああ、そこはですね……」
普通に自習していた
シアは英語が苦手らしく、明久に訳し方を教えてもらっている
ネリネはノートに向かっており、シャーペンをカリカリと動かしていたが止まると、視線を明久に向けて
「明久さん……ここなのですが……」
と問い掛けた
問い掛けられた明久は、ノートを見ると
「ああ、そこはですね、この公式を当てはめると解けますよ」
と教えた
その光景を見た稟達は、少し呆然とした様子で
「あの明久が……勉強を教えてる」
「うん……」
「そうですね……」
「ヤバい……ギャップが激しい」
「確かに、そうですね……」
と口々に言った
何気にかなり失礼だが、それも仕方ないかもしれない
稟達の記憶の中の明久は、かなりの勉強嫌いで、はっきり言ってバカと言えた部類だったからだ
その明久が、王女二人に勉強を教えている
これほどギャップが強いことはない
そう思いながら、稟達が固まっていると
『ピンポンパンポン♪』
突如、放送が始まった。
その放送に気づいたAクラスの生徒達は、視線を上に向けた
『船越先生、船越先生』
「船越先生って、誰?」
「数学の先生なんですが……」
「最近は、ちょっと悪い噂が絶えない先生なんだ……」
船越先生を知らなかったシアが問い掛けると、楓と桜の二人が苦笑いしながら軽く説明した
その時だった
『Aクラスの土見稟が体育館裏で待ってます。船越先生と大事な話があるそうです。繰り返します……』
という、とんでもない放送がされた
「ふっざけんなぁぁー!」
その放送を聞いた稟は、心の底からの雄叫びを上げた
船越先生の悪い噂というのは、彼女は仕事にのめり込んだ結果婚期を逃してしまい、四十五の今になっても独身で、今となっては成績を盾に生徒に交際を迫るようになってしまっているのだ
当然、今のような放送をすれば、もの凄い形相と勢いで婚姻届を持ちながら迫ってくることは想像に難くないのだ
その時
バタン!
ドアの閉じる音が、教室に響いた
「おや? 明久はどうしました?」
「あれ? そう言えば、居ないっすね……」
智代の言葉を聞いた興平が見回すが、明久は居らず、二人して首を傾げた
『……大事な話があるそう……』
と、そこまで放送が聞こえたタイミングで、何か重い物が崩れ落ちた音が放送越しに聞こえた
『何事!? ドアがいきなりご臨終に!? って、ギャアアァァァ!!』
男子の悲鳴が聞こえ、教室を沈黙が支配した
数秒後、軽く叩く音がしてから
『あーあー、ごほん……船越先生、先ほどの放送は誤報です。ここに居る男子を好きにしていいですから……それでは』
「今の声は……」
「明久くん……ですね」
「うん……」
その放送を聞いた稟達が呆然としていると
『ここかしらぁー?』
という、女性の声が聞こえた
『見ぃーつけたー』
『ヒィッ!? 船越先生!?』
どうやら、その女性が船越先生らしい
『あらあら……あなたはFクラスの須川君じゃない……』
『船越先生! 待ってください! これは、間違っ!』
『ウフフフフ……恥ずかしがらなくっていいのよ? さぁ、今すぐに
『来ないで! 来ないでぇ!!』
『ウフフフフフフフフフ……』
『嫌だァァァァァ!!』
その悲鳴を最後に、何も聞こえなくなった
あまりの事態に、クラス中の生徒達が沈黙していると、ドアが開き
「ただいま戻りました」
明久が帰還した
「あ、明久くん」
「お勤めお疲れ様です」
シアとネリネが慣れた様子で言うと、明久は軽く頷いて
「軽く、害虫駆除をしてきました。ああ、それと連絡は済んでますので大丈夫ですよ」
もはや、人間扱いされてない須川である
明久の言葉を聞いたシアは、取り出していた携帯をカバンに仕舞った
この時、Aクラスの生徒達は心の底から誓った
(彼だけは、敵に回さないようにしよう……)
と
余談だが、暴走した船越先生は紅女史と西村先生によって止められたらしい
余談その2
明久が斬った放送室のドアは、数時間後には元通りになっていたらしい
そして、下校時間の後にFクラスが勝利したのだった